試作品集   作:ひきがやもとまち

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前回は未完成だった10話を、完成させて再投稿してみました。
正直、次の回の一部として出すべきかとも考えたのですが、最近1話ずつが間延びし過ぎてる自覚があり、次話は完全に『偽りのクラスメイト』回で行くべきかと思いましたので、改めての再投稿という形に。

終わりごろの付け足された部分だけが新しく、上半分はそのままですので、既に読んでる方は飛ばしても問題ありません。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第10章(完全版)

 ブリタニア帝国の歴史は、飽くなき政治闘争の歴史である。

 親族同士で帝位を争い、暗殺は日常となり、尊い血筋であるはずの皇室に生まれた者が名もなき暗殺者の手にかかる・・・・・・。

 だがそれら一切はブリタニア王朝の歴史に封じ込められ、極秘のうちに宮廷内部で処理されるのが常であり、一般には決して知られることはない。

 

 その点で言えば、謀略によって母を殺され、自らと妹も命を失いかけたルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの復讐によって、クロヴィス・ラ・ブリタニアが命を奪われるのも帝国の血にまみれた伝統を守っただけと解釈するのも暴論ではなかったかもしれない。

 

 

 だが、クロヴィスは死にたくなかった。

 

「う、嬉しいよルルーシュ、ニッポン占領のときに死んだと聞いてたから・・・、はは、ハハハハ・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 目の前に立って銃口を突きつけたまま無言を返してくる、血縁上では腹違いの弟という関係にある少年に、クロヴィスは必死に卑屈な愛想笑いを浮かべながら当たり障りのない言葉を繰り返すことしか出来なくなっていた。

 

 普段は舞台上の役者のように、演劇めいた言い回しや過剰な形容句を多用している彼らしくもない、陳腐で平凡な言い回しだったが、この時には自身の発言にオリジナリティや文学的創造性などを求める気にはなれなかった。

 

 ――下手なことを言えば殺される! 殺されてしまう!? なんとか誤魔化し、警備の者が来るまで時間を稼がねばッ!

 

「い、いや良かった生きていて・・・・・・ど、どうだい? 私と本国に――」

「ほう? どうやら義兄上殿は、俺たち兄妹が本国から遠く離れた地で死にそうな目に遭った理由をお忘れのようですな」

「うっ!? そ、それは・・・」

 

 話を逸らそうとして、却って失言したことに気づいた彼は慌てて取り繕うための言葉を探すも、すぐには思いつくことが出来ず沈黙の間を置いてしまうことになる。

 普段は大根役者じみて雄弁を気取りたがる義兄の醜態を冷笑し、ルルーシュは淡々とした口調で相手が沈黙して答えられなくなった理由について語り始める。

 

「そう。俺たちの母さんが・・・皇帝の妻であるマリアンヌ皇妃が、謀略によって殺されたからだ。

 母は身分だけなら騎士候だったが、生まれの出は庶民だったからな。名門貴族から皇室へと嫁ぎ、皇帝との間に子を成した母を持つ皇女たちにとっては、さぞ目障りな存在だったことでしょう。

 ・・・・・・そういえば貴方も、実の兄とはいえ腹違いの母親を持っている間柄でしたね・・・」

「ま、待て! 待ってくれルルーシュ! 話を聞いてくれッッ!?」

 

 悲鳴のような叫び声でクロヴィスは、腹違いの『過去に見捨てた弟』に早まった行為へ出ないよう説得の言葉を賢明に探し、言葉を弄する。

 

 イレヴンと名を変えられた日本人からすれば奇妙な話と思うだろうが、彼は相手の正体を知るまで、自分が殺される可能性はないと考えていた。

 自分を殺すことによって、その相手は何一つ得られる得はなく、むしろ失うものの方が遙かに大きいことを正しく理解していたからだ。

 

 テロリストや日本独立派のゲリラであれば、皇族の一員という最高の交渉カードを安易に殺せるはずはなく。

 また殺した場合には『皇族殺しの大逆人』を帝国軍が生かしておける可能性は皆無となり、逃げ延びれる可能性は万に一つも無くなることを意味してもいる。

 

 生かしておいてこそ価値があるのが、皇族というカードであり最強のキング。ここまで侵入に成功して手に入れたカードを簡単に捨てれるバカなどいる訳がない。そう思っていた。

 

 だが、銃を向けている男が「彼だった」となれば話は変わる。

 既に『殺された死人』が命を惜しむ訳はない・・・・・・全てを奪われて復讐鬼と化した男に交渉など通じる訳がない・・・・・・第一この男に、この地で味方など一人もいるはずが無いのだから!!

 

 全てを失って復讐鬼と化した男が、自暴自棄の末に自分を殺してから衛兵たちに殺される覚悟で乗り込んできたのだと、そうクロヴィスは考えた。彼の中では理解したと信じたのである。

 そうなった時にようやく、全身を死の恐怖で支配され、怯えすくんで命乞いの言葉を並べ立てるだけの木偶と化して今に至っていたのがクロヴィスだった。

 

 その予測はあちこちで矛盾がある穴ボコだらけの推論ではあったものの、大まかな流れとしては間違っていなかった。少なくともルルーシュは今この場で彼に復讐するつもりで来ている。

 母の復讐相手として殺される側のクロヴィスにとっては、それだけで十分すぎる正しい真実だった。

 

(・・・いったい衛兵たちは何をやっているのだ!? 早く!早く来て私を助けろ役立たず共! 皇族が命の危機に陥っているのを助けずして何のための帝国兵か! 早く! 早く助けを―――・・・・・・ッ!!)

 

 全身から吹き出すイヤな汗で、豪奢な服をベットリと重く湿らせながら、意味の無い詭弁や綺麗事を並べ立てつつ、助けが来るまでの時間稼ぎを続けるしか助かる道はないと信じて、クロヴィスは懸命に説得を続行し続ける。

 それは彼が、ルルーシュに与えられた《絶対命令権の力》によって、自分自身が部下たち全体に向かって命令させられた直近の過去の記憶が欠落しているからこその行動ではあったが、一方であながち間違った方針という訳でも無かった。

 

 実際この時既にシンジュクゲットー殲滅のため出動していたブリタニア軍の間では、人質の身に危険が及ばぬよう犯人の要求を聞いての撤退作業と、包囲下にあったイレヴンたちの解放とを並行して行いながら、一方でテロリストの魔手からクロヴィス殿下救出のための作戦会議が密かに行われていたからである。

 

 だが行われている会議の内訳は、人質の熱量ほどに結果に結びつく内容になれていなかった。

 

「まずは殿下のお命と安全を確保することが最優先だ! 卑劣な誘拐犯の逮捕と処罰など、殿下さえご無事に戻られればどうとでもなる!」

「そんなことは大前提だ! どうやって殿下をお助けするかが問題なのだ!」

「だが、内部との連絡が付かず状況すら分からんのでは流石に・・・・・・バトレ―将軍との連絡はまだ付かんのか!?」

「以前、音信不通のままですっ。参謀府とも一切連絡が付きません!」 

「クソっ! こんな時に参謀たちは何をやっていたのだ!? 呑気に昼寝でもしていたというのか! 救出隊の編制はどうしたぁ!?」

「人員を選定中であります! 事が事ですので人員の選抜には慎重を期したいと・・・」

 

 現地における政治的トップと、現地軍における最上位にある者たちが纏めて行方不明となってしまった状況下の中で、残された者の中では最上位にあった者へとトップダウンの方式で指揮権が委譲されつつも、地位身分が低すぎる臨時指揮官に過ぎないせいで決定できる案件が少なく、しかも同格の地位にあった何人かで合同会議という体制を取ってしまったせいで余計に話がこじれやすくなってしまっている為体。

 

 このうえ、地位や立場に基づく利害打算や対立まで持ち込まれるようになっては、纏まるものも纏まらなくなるのは時間の問題だったろう。

 

「そもそも、ゲリラたちを野放しにするから、こんな事になるのだ! 先日も爆破テロが起きたばかりだというのに、治安維持担当者はなにをやっていた! この責任は重大ですぞ!?」

「何を言われる! ゲリラへの対応方針をお決めになったのは恐れ多くもクロヴィス殿下ご自身がお決めになった深い思慮在ってのご決断。今の発言は帝室侮辱罪に当たりますが、そう解釈してもよろしいですかな?」

「そんなことは言っていない! 私はただ、無用な危険性を被るのを避ける為にもすべき事があったのでは無いかと言っておるだけだ! 貴様の方こそ非常時に他者の足をすくって喜ぶ輩か!? 卑劣漢め!!」

「そもそもと言うなら、このような事態に陥った際に皇室を守るべき責務を負った親衛隊は何をやっていた!? 名誉挽回のため殿下を救出する役は担って頂けるのでしょうな?」

「いや、親衛隊は現在、殿下およびバトレー将軍より直々に極秘命令の任務を遂行中であり、主力部隊が出払っている状態では実力が発揮できません。ここは一先ず――」

 

 喧々囂々。そうとしか表現しようのない言い合いは、もはや戦術を超え、政略ですら無く、単なる政治闘争の場へと切り替わってしまいつつあるようだった。

 階級国家で、上位者クラスが軒並み不在故の醜態とはいえ、これでは流石に呆れ果てて会議がバカバカしくなり、退室する者がいたとしても不思議ではない無様すぎる状況。

 

「なんたる為体だ! これではイレヴン共につけいられるのも無理はないっ」

 

 そんな惨状を少し離れた位置から見やりながら、ジェレミア・ゴッドバルトは苦々しく吐き捨てるように呟いていた。

 彼も途中までは有力幹部の一人として作戦会議に参加していたのだが、悉く意見は却下されるか、ライバルへの嫌がらせ目的で賛成されるかの二者択一という不毛さに耐えきれなくなって適当な口実を作って退室してきていたのである。

 

「軍官僚の文官ならいざ知らず、現場の兵までこの有様とあっては誇り高きブリタニア軍の威光も地に落ちようというものだ。ぬるま湯に浸かるにも程があるっ」

「おっしゃる通りですな、全くもって嘆かわしい。・・・・・・しかし、ジェレミア卿。逆に言えば、このような事態にこそ我々『純血派』が立つべき好機なのではありませんか? 殿下を救出するという名分も今ならば・・・」

「ふむ・・・・・・」

 

 傍らに立つ、貴公子めいた容貌をもった若きブリタニア騎士キューエルから提案された内容に、ジェレミアはしばしの間考えに沈む。

 キューエルは、短かめの金髪と鋭くも細い瞳をした鋭利な若者で、ジェレミア率いる軍閥勢力《純血派》のナンバー3に位置している。

 本来なら、こういう場面で相談相手となるのは頭脳派の女性騎士ヴィレッタが担うべきところだが、彼女は出撃したまま未だ帰還していない。

 ゲリラ如きに敗れる弱さなど無縁な彼女だが、自らもまた不覚を取らされている。あの敵指揮官は手強い。彼女も何らかの罠にはめられ動けずにいる可能性は高い。

 

「・・・いや、我々の戦力にはナイトメアの乗り手が多く、歩兵が少ない。救出任務のような作戦には不向きだろう。下手に動いて殿下に危険を及ぼせば身の破滅だ」

「たしかに・・・それは、そうですが・・・・・・」

「それより我らに出来ることをすべきだ。今回の一件、外部犯のみに可能とは思えん。必ずや軍内部に協力者がいるはずだ。そいつを探し出すのだ、不満分子共の仲間に思い知らせてやるために!」

「なるほどっ、了解しました! では早速っ」

 

 急に勢いを取り戻したキューエルは、元気よくその場を早足で去って行く。その挙動の端々には愛国心や義務感のみならず、若々しい野心も感じられたが若手はそれでいいともジェレミアは感じてもいる。

 ・・・・・・それにつけても、上層部の怠慢は嘆かわしい!!

 

「まったく! マリアンヌ皇妃殿下さえご存命であられれば、このような失態を犯す輩をブリタニアが必要とすることなどなかったろうに!!」

 

 ジェレミアはそう思い、そう考え、そう心から信じて疑ったことは一度もない。

 彼から見て、日本侵攻作戦が行われる少し前にテロで倒れたマリアンヌ皇妃は、まさにブリタニア騎士の鏡と喚ぶべき偉大な女傑だった。

 

 庶民の出でありながら、実力だけで騎士候にまで上り詰め、類い希なる美女であるにも関わらず美貌によって皇帝陛下に取り入ろうとはせず、その美しさと強さと賢さ全てを兼ね備えた完璧さでもってシャルル陛下の心を射止めた、まさに最強の女騎士。

 あの《ナイト・オブ・ワン》ビスマルク卿さえ勝てなかったと言われている一大の英雄譚に、若きジェレミアは心奪われ、騎士の理想を体現した姿に身分違いにも羨望を抱いた・・・・・・

 

 そんな在りし日の思い出に泥を塗りつけるが如き輩を、断じて許すことなど出来なかった。

 このような事態を招いて、ブリタニアに醜態をさらさせた存在―――反政府勢力のテロリスト共を! ジェレミアは必ず捕らえて相応しい罰を与えてやる未来に決定を下す。

 

 

「監視を緩めてはならんのだ。帝室に弓引くためイレヴン共は、必ず何かしでかす。帝国と皇帝陛下にとって害となるものは、それが現実のものとなる前に排除せねばならんのだから・・・・・・」

 

 

 去って行ったキューエルの背中を見送った後、そう呟いていたジェレミアだったが、当の彼自身もまさかクロヴィス殿下が殺されることになるとまでは予想していなかったのは事実であった。

 当面は、犯人側から何らかの要求があるまで待つ――という合議制の作戦会議が下した決定に従う道を選んでしまったことを、後日ジェレミアは深く後悔し、一つの決断を断行する切っ掛けとなっていくことになる――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのような話し合いが外部で行われていることなど露知らず、クロヴィスは必死の時間稼ぎを続行していた。

 それはクロヴィスにとって、殺されないため必要不可欠な作業だったが、一方のルルーシュにとっても目的達成のため必要となる作業でもあった。

 何故ならば、

 

 

「他の皇女たちにも事情はあったでしょう。我が子を帝位につけたいという親心もあったかもしれない・・・・・・しかし、何もテロリストの仕業に見せかけて殺すなどという、あからさまな手段で俺たちの母を殺すことはなかったですな、義兄殿・・・・・・ッ」

「私じゃない! 私じゃないぞーッ!? 本当だ! 信じてくれルルーシュ!!」

「では誰が殺した? 知っていることを全て話せ。命令だ。

 今の俺の前では、誰一人として嘘を吐くことを許さない・・・・・・ッ」

 

 そう告げて、片眼を赤く光らせながらルルーシュが問いかけながら、前のめりになった無実を主張していた相手の眉間に、深く銃口を押しつけた瞬間。

 

「ひ、ヒィィィィィッ!? ほ、本当だ! 本当に私じゃない! 殺ってないし殺らせてもいないんだよ本当だ! 信じてくれ! 私は死にたくなぁっい!?」

 

 尻餅をつくようにして椅子へと更に深く座り込もうとしてジタバタもがき、それ以上は後ろへ行けぬ位置から下がるため足をバタバタ振り回して逃げようとするだけ。

 

 ―――絶対命令の力を使った命令に従わず、銃の脅しによる命惜しさを優先していた。

 やはり予想した通り、この力には使用制限が課せられているようだった。

 今までの成功例から察するに、同じ相手には2度は通じないのか、一定時間が経ってから使う必要があるのか・・・。

 

 どちらにしろ、これほど強力すぎる力に、なんの制約も制限もデメリットも無いなど有り得ない話だ。

 やはり確実に効果があった一回目を、クロヴィスに『母の死の真相』について問うため使わなかったのは正解だったらしい―――。

 

 心の中で自身の判断と、与えられた力を検証する必要性の二つに頷きを示しながら、ルルーシュはいったん銃を引いて手元へと戻し、聞く姿勢を取ってから改めてクロヴィスへと問いかける。

 

「・・・わかった。母が違うとはいえ、実の兄の言葉ではあることだしな」

「る、ルルーシュ・・・! ありがとう! 信じてくれて本当にありがとう! この礼は本国に戻ってから必ず・・・っ」

「そんな事はどうでもいい。それより、あなたが知っている母の暗殺に関する情報はすべて教えてもらう。誰が殺したか知らぬと言うなら、知っていそうな奴の情報をな。・・・・・・言っておくが隠すことはお前の為にならないと知れ。

 俺は『わかった』とは言ったが『信じる』とまで言った覚えは無いのだからな・・・?」

「ひ、ひぃぃぃっ!? わかった! 言う! 言います! 言わせてください!!」

 

 再び押しつけられた銃口に恐怖心をブリ返させられ、涙目になって無様な醜態を繰り返しながらクロヴィスの口から語えせることに成功した真相に関する情報だったが―――得られた情報は、かかった苦労と犠牲に比してお粗末すぎるほど粗末なものだけだった。

 

 

 ―――第二皇子シュナイゼルと、第二皇女コーネリアが犯人を知っている。

 

 

 という程度のものだけだった。

 他の事はなにも知らず、そもそも『彼らが知っている』という情報自体が、犯人を知らぬクロヴィス自身には確かめようがない不確かな情報にしかなれようもなく。

 

 ただ『知っていると教えられた』もしくは『知っているらしき言動を語っていた』『知っているように感じられた』・・・・・・その程度の主観に基づく評価しか、彼には語れる情報をなにも持ってはいなかったのである。

 

 

(この程度か・・・・・・予想通りではあったが、なんとも情けない幕引きではあったな・・・)

 

 ルルーシュは表面的には恐ろしげな復讐者のままの体面を維持しながら、内心では失望をあらわにクロヴィスの芸のなさを見下していた。

 

 当然と言えば当然の結果ではあったのだろう。

 ルルーシュには子供の頃、クロヴィスとチェスをやって遊んだ経験があり、その時にはいつも自分が勝利していた記憶として残っている。

 ・・・・・・当時は9歳児でしかなかった子供にチェスで敗れるような男を、皇妃暗殺の謀略メンバーに参加させ、漏れる恐れのある口を増やしたがるバカなど果たして世界にいるものだろうか・・・?

 

 もともと暗殺や謀殺と言った汚れ仕事は、事情を知る者が少なければ少ないほど、いざというとき口封じはしやすく、直接の実行を命じた者以外の関係者には『口裏を合わせる』という程度の協力だけを求めるだけの一般的だ。

 わざわざ、こんな『脅すだけで命惜しさに秘密を漏らす軟弱な貴公子』を、皇妃暗殺の協力者に迎え入れてやるべき理由とメリットは、殺した側にさえ存在していなかったろう。

 

 それに母が謀殺された事件の時、殺されたのは庶民出身の寵姫から皇妃となった母だけで、『皇帝の血を引く後継者候補』の自分たち兄妹は無事だった。

 皇帝一族の血を継がぬ母を殺したところで、帝位継承のライバルが減ると決まっている訳でもなく、皇妃を殺すことで空席となるのは皇妃の地位であって、当初から寵姫たち同士の皇帝の寵愛を巡っての暗闘だった可能性は高い事件概要ではあったのだ。

 

 また如何に皇帝の寵愛篤い皇妃とはいえ、庶民出身者で騎士候でしかなかった母との子である自分たち兄妹が、名家令嬢たちの血を引く子供たちより高すぎる継承順位を与えられるものでもない。

 現に兄である第11皇子の自分が本国にいた頃の継承順位は第17位だった。

 第3皇子であるクロヴィスが、第11皇子の母親謀殺に協力してやることで得られる得はなに一つないのだ。

 

 

 こうした自らの生い立ちと、当時の宮廷内における序列に基づく利害損得から、ルルーシュは暗殺にクロヴィスが関わっていた可能性は低いと判断していた。

 過去に出来事への恨みから、ブリタニア帝室全てへの偏見に基づく犯人説に固執していた時期もあったが、執念深く母殺しの恨みを晴らすことを目的に犯人を推理し続けてきた結果、そういう妄執めいた理由で皇族内に犯人がいるとはルルーシュは既に考えなくなっていた。

 

 むしろ彼としては、継承順位で自分より遙か上だったシュナイゼルとコーネリアの名を聞かされたのは計算外だったが・・・・・・そこまでクロヴィスに教えてやる義理のないルルーシは、口に出しては意外さを強調した。

 

「シュナイゼルとコーネリアが? あいつらが母殺しの首謀者だったと言うのか?」

「そ、そこまでは分からないが・・・・・・ただ彼らに聞けば私より詳しく、あのときの事件のことを詳しく知ることは出来るのは間違いない! これは事実なんだ! 本当だよルルーシュ!」

「・・・・・・分かった。あなたの言葉を信じましょう、義兄上」

 

 ふぅと、一息吐いて銃を下ろす姿を眼前に見てクロヴィスは脱力し、椅子に深く深く座り直す。

 

 ――よかった・・・助かった・・・。私は、こんな所で死んでいい人間ではないのだから・・・。

 ルルーシュの件は気の毒だったと思うが、そのせいで私まで死なねばならぬ理由にはならな――

 

「ああ、そういえば義兄上。一つ忘れていたことを思い出しましたよ」

「な、なんだいルルーシュ? まだ私に聞きたいことでも―――」

 

 立ち去ろうとしているかに見えたルルーシュが立ち止まり、穏やかな口調で語りかけてくる声を聞かされて油断しながら顔を上げて答えかけたクロヴィスの視線が見ている先で。

 

 ガチャリ、と。

 まるで地獄の蓋のような黒い穴が、彼の視界の全てを吸収して離さなくなる。離すことが出来なくされてしまった。

 

「な、なっ、なぜ・・・ッ!?」

「あなたの名声は既に地に落ちている。自らの発言と行動と、その行為による犠牲によって。

 辛い現実を直視するより、今のうちに殺された方があなたの為だ。

 テロ攻撃に加担した罪で武器すら持たぬ民衆虐殺を命じながら、自らは保身に走ってテロリストに命乞いをする暴君としてね・・・・・・」

「う!? そ、それは・・・・・・っ」

 

 冷静に指摘され、狼狽えたように視線を彷徨わせるクロヴィスだったが、それも僅かな間のこと。すぐに目前の命の危機へと意識が戻ってしまい、後ろめたい思いは完全に意識外へと追いやられる。

 

「やめろ!やめてくれ!頼むッ!! 私は腹違いとはいえ、実の兄だぞッ!? 弟が兄を殺すというのかッ!?」

 

 兄からの悲痛な叫びを聞かされながら、ルルーシュは特に感銘を受けた様子もなく、だが悪意や憎悪を抱かされたという印象もない口調で、ただ淡々と冷淡に事実だけを告げる語り方によって―― 

 

 

「綺麗事ですね。だが、世間一般の家族ならばの話だ。

 しかし世の中には、わずかな資源を得るため実の息子と娘を他国に売り渡し、殺そうとまでした男が父親という国もある・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、後に世を騒がせることとなる【仮面の反逆者】あるいは革命家の凶弾によって、ブリタニア皇族から最初の犠牲者が生み出されることになる。

 

 犯人側から一向に要求も声明も齎されないことに痺れを切らしたブリタニア軍が特殊潜入部隊を出動させ、内部への侵入に成功した者たちからクロヴィスが、眉間を撃ち抜かれた姿で死体となって発見されたと報告を受けるのは、それから更に2時間後のことになる。

 

 既に艦内には犯人らしき者の姿はなく、操作の際に砲塔の操作要員など数名の兵たちが、同僚を射殺してから自殺したと思しき姿で見つかったことから『主義者たち』とエリア11のゲリラたちが手を組んで行われた反帝国テロによる被害だったと、総督府は結論づけた。

 

 だが、この事件の影響は大きかった。

 総督であり皇族の一員でもあるクロヴィス直々の命令で背後から撃ち殺されてしまったブリタニア軍の兵士たちの間では、当然のように上層部に対する憎しみと不信感が根強く植え付けられることになり、箝口令を敷いても人の口を完全に塞ぎきれるというものではない。

 ましてクロヴィスが犯人からの脅しに屈して、逃亡を許可してしまったイレヴンたちに『余計なことは語るな』と命じたところで弱味を晒すだけの効果しかないのは目に見えている。

 

 遠からず、真相は世に広まることになるのは今となっては避けようがない。

 ブリタニア総督府が公表しなければ、ゲリラたちが『自分たちの戦果』として犯行声明代わりに公表される程度の違いしか得ようもない不利な状況。

 

 自分たちから恥を忍んで公表するか?

 敵の口から自分たちの醜聞として公表されてしまうか? 

 

 【血塗れの皇子】【ブラッディ・クロヴィス】と密かに敵味方から陰口を叩かれるようになるブリタニア皇族の暗殺事件の決着仕方をどの様にすべきか?

 ブリタニア軍にとって頭の痛い問題は、こうして始まりの犠牲者が生まれた日を迎えることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 そして―――

 

 

「こ~ら! ルルーシュ!」

「――っ、痛っ!?」

 

 頭上から感じさせられた小さな痛みによって、昨日の記憶まで心を飛ばしていたルルーシュの意識は、現実の日常へと強制送還されることになる。

 

「いま寝てたでしょう? 手が止まってた。今日中に計算終わらせなきゃいけないんだから、しっかりしてよ」

「・・・うたた寝をしてしまっていたのは謝罪しますが、だからと言って叩かないでください会長。昨日は疲れすぎたせいで眠いんですよ」

 

 目の前で、丸めた書類の束を片手に握って、自分のことを怖い目付きで見下ろしてきている少女の姿を眺めながら、ルルーシュは欠伸を噛み殺すように小さく肩を後ろに回して息をつく。

 

 ふと周囲を見渡せば、椅子の上に胡座をかいて座っている男子生徒と、同じ机に座って書類と睨み合っている女子生徒、そして少し離れた席に座って黙々と表計算を続けている大人しそうな女の子の姿が視界に映り込む。

 

 ここは、『アッシュフォード学園』の生徒会室。

 エリア11に建てられた、貴族子弟や裕福な市民の子女たちに本国式の高等教育を施すことを目的として創設された、ブリタニア人だけが通う学園。その中枢メンバーたちが集う場所である。

 

 ルルーシュ・ランペルージという、仮の身分と生活を与えられてきたルルーシュにとって、公としての自分がいるべき空間こそ、この学園内にある今いる、この部屋だった。

 

「そーゆーことは今は、ガ~ッツ!で横に置いといて仕事仕事ッ。

 部活の予算審査をとっとと済ませないと、どこの部活も予算がおりないんだから、今は頭よりも手を動かす、ムービングフィンガ~ッ!!」

「・・・・・・会長の十八番が、また始まりましたね。何かあるとすぐガッツの魔法で解決しようとする。効きませんよ、今時そんなコンジョー論なんて非科学的なしろものは」

 

 皮肉気な返事を返しながら、ルルーシュが見ている前に立つ少女を見る視線に非好意的な色はなく、むしろ親しみを抱いていることが明らかな口調でもあった。

 

 【ミレイ・アッシュフォード】というのが彼女の名だ。

 姓が示す通り、この学園の創設者でもあるアッシュフォード卿の娘であり、純然たるブリタニア名門貴族の令嬢にも当たる美貌の主。

 不祥事によって没落したことから、今では本国内での地位と影響力を失っているとは言え、遠い異国であるエリア11から再び本国の宮廷政治へと返り咲くことを夢見ている家柄は、本来なら最もブリタニア貴族らしい宿痾を受け継いでいてもおかしくない立ち位置にある少女でもあったのだが。

 

 どういう訳か、彼女にはそういう貴族らしい要素が『見た目だけ』しか遺伝として受け継がれなかったようで、当人の性格は至ってフランクで気さくな、お高くとまったところのない気持ちの良い人物へと成長したようだった。

 

 もっとも、その性格には一長一短があるところが大きく、良い方に転べばメリットは大きいものの、悪い目が出てしまったときには負担は身近な者たちまで巻き込んで盛大に自爆せずにはいられない。

 そういう性格は父親の性癖を受け継いでしまっている部分なのかもしれなかった。

 

 公的には死亡したことになっている皇族の『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア』と『ナナリー・ル・ブリタニア』が、別人としてとは言え貴族子弟としてアッシュフォード学園に通えているのも、彼女の父親が匿ってくれているおかげだった。むろん、無償の協力でないのは言うまでもない。

 

「ハハッ、そりゃ仕方がないさルルーシュ。俺を置き去りにした罰だって。人助けしに行ったと思ったら、そのままだったもんな~」

 

 胡座をかいた姿勢で椅子に座っている、行儀の悪い男子用の制服をまとった少年がイタズラっぽい笑顔を浮かべてルルーシュに問いかけ、ニヤリと笑いかける。

 昨日の事件に巻き込まれるまで行動を共にしていた黒髪の少年、リヴィル・カルデモンドだった。

 

 ルルーシュが事件に巻き込まれた後、しばらく待っても帰ってこない友人を置き去りにして先に帰ってしまったのは実のところ彼の側だったのだが。

 背後から来たトラックとの衝突を回避した際に、エンジントラブルが発生していた可能性を思い至らなかったせいで、途中から二人乗りのバイクを一人で押して帰る羽目になり、帰った後には生徒会長から説教されてしまった彼は、半ば八つ当たり半ば誤魔化しのため、ルルーシュにも苦労を分かち合うよう求めていた訳だった。

 

「そーそー、何やってたのよ昨日。急に電話してきてから、それきりになっちゃって心配してたのよ?」 

 

 机に座って計算をしている発育のいい体つきの少女が、リヴィルの非難に便乗するようにしてルルーシュに非難がましい視線と言葉を向けてくる。

 『シャーリー・フェネット』

 昨日は水泳部の部室でルルーシュからの電話連絡を受けていた少女だった。

 

 本人は隠しているようであり、じっさい本人には気づかれていないようでもあったが、彼女が級友でもあるルルーシュに恋心を抱いていることは、周囲の人間たちにとって周知の事実と認識されており、知らぬは本人たちだけという微笑ましい状況が形作られている。

 今も非難がましい口調で責めるように言いながら、それでいて意中の相手と隣り合う席をシッカリ確保している辺り、彼女の意外な計算高い部分が見て取れるのかもしれない。

 

「・・・・・・部活の予算がおりないなんて事になったら大変でしょうね・・・・・・馬術部とか」

「う、ぐ・・・っ」

 

 最後に残った黒髪を三つ編みのお下げにした眼鏡の少女が、小声でポツリと呟くように言った一言にミレイの顔が大きく強ばる。

 去年のトラウマを思い出させられたことで、本能的におびえと怯みを感じさせられ呻いてしまったのだ。

 

 『ニーナ・アインシュタイン』という名の、大人しい感じの女の子だった。

 とある過去経験から、陽性な気質のものが多い生徒会メンバーの中で陰気な雰囲気をまとってしまうようになった少女だが、ミレイが幼いときから仲良くしてきただけあって中身は決して無感動でも無情でもなく、また頭の出来も悪くない。

 

 基本的に自分が自由に運営できるよう、ブレーンには優秀で気の合うメンバーを集めて、脇をシッカリ固めてからお祭り騒ぎを楽しむ方針のミレイであったが、それで大失敗した例が一つも無いというわけでは無論なく、手酷い目に遭って反省させられた経験も一度や二度ではないのが生徒会長として彼女の実績と敗戦の記録だった。

 

 その中でも最大級の一つだったものが、今ニーナが述べた『馬術部突撃事件』

 あの悲劇を二度と繰り返させられないためにも、ミレイとしては今日中になんとしてでも予算審査すべてを終わらせて、後顧の憂う心配事なく今学期を綺麗に終わりたい。

 そう願ってやまないのが、現在のアッシュフォード学園生徒会長の切なる願いでもあった。

 

「皆さん、お仕事お疲れさまです。良ければ皆様にもお裾分けをと思ったのですが・・・・・・お邪魔だったでしょうか?」

 

 そんな中、生徒会室の扉が開いて一人の女の子が控えめな口調とともに入室してくる。

 高等部の施設内にある生徒会室を訪れるにしては幼い印象と背丈の少女で、事実として彼女の学年はルルーシュたちより下の中等部に所属している。

 一方で、部屋に入ってくるときの態度などには慣れが見受けられ、入室された側の反応からも身内として認識され、受け入れられている親しげな印象があるものでもあった。

 

 その両手には大きなお盆が置かれていて、その上には幾つかの菓子類が乗せられている姿を見せられたことから、頭脳労働によって糖分が不足していた少年と、甘いお菓子に目がない女性陣たちが歓声を上げる。

 

「サヨコさんがケーキを作ってくれたんです。・・・その・・・少しだけですけど、私も作るのをお手伝いさせてもらったから、お口に合わないかもしれませんが・・・・・・」

「お前が作ってくれたものなのだろう? なら、口の方を合わせるさ。ナナリー」

「まぁ、お兄様ったら・・・♪」

 

 そんな少女に向かってルルーシュが、温かみのある、聞く者によっては口説き文句として受け取られかねない言い方で謝辞を述べられ、言われた側の少女の方も嬉しそうに照れながらも、節度を保って慣れた受け答えを返してくる。一般にはおしどり夫婦のようにも見えなくはない男女のやり取り。

 

 その姿を、リヴァルとミイナは内心を表すようにニヤニヤと笑いながら、シャーリーは穏やかに微笑みの中に少しだけ羨ましそうな視線を込め、ニーナはただ純粋にニコニコと笑顔を浮かべた姿で。

 それぞれの対応で二人のやり取りを遠巻きに眺めやり、間接的に受容する。

 

 それも二人の関係を知る者にとっては当然の対応ではあったのだろう。

 何故なら彼女はルルーシュにとっては、血を分けた実の妹なのだから。

 

 ナナリー・ランペルージ。本名を、ナナリー・ヴィ・ブリタニア。

 かつてブリタニアが日本に侵攻してくるより数年前に、宮廷内での政争に巻き込まれて母を殺されたことで政治的価値を失ったことで人質として日本に送られ、事実上の追放処分となった皇女の、現在の姿が彼女だった。

 

 世界に覇を唱える超大国支配者を父親に持っていたはずの、元皇女の少女。

 今では、母の死を目撃してしまったことで心に深い傷を負い、視力と足の自由を奪われて車椅子なしでは移動すらままならない障害者の女の子・・・・・・。

 

「そんな事をされて私のお料理の腕が上達できなくなったら、お嫁のもらい手がなくなってしまうかもしれませんよ? そうなった時には、お兄様のせいですからね?」

「ハハっ、それは困るな。もしそうなった時には俺が一生、ナナリーの人生に責任を負わなければいけなくなってしまう。責任重大だな」

「フフフ、そうですよ? 女の子にとっては、とても重要なことなんですから甘やかしすぎてはダメなんですからね?」

 

 互いに笑い合いながら、架空の未来について語り合う二人の兄妹。

 やがて食欲に釣られて、仕事を予定よりも早く終わらせた若者たちが少し早めのティータイムへと移行させた生徒会室。

 ナナリーを世話するため雇われているイレヴン女性が容れてくれたコーヒーカップが触れ合う音、清潔なテーブルクロス、巴旦杏のケーキに混ぜられた微量のバニラ・エッセンスの香り・・・・・・つつましい幸福の一つの形がそこにはあった。

 

 

 もし――と、その光景を眺めながらルルーシュは思う。

 もし、今のこの光景が続くのなら、ブリタニアを壊して、今の世界をひっくり返すような革命など起こす必要などないのかもしれない。

 たとえブリタニア支配のもと、不公平や不平等がまかり通っている世の中だろうと、それを壊すためには多くの者に犠牲を強いることは避けようがなく、その中で帝国と無関係な無垢なる命を一つも巻き込まずに済ませられるほど敵は容易くもなければ、自分の力は絶対的なものには程遠い。

 

 神ならぬ人の身で、罪なき者を一人も巻き込まずに革命や改革を成し遂げることは不可能だった。それを望む者は、神を目指す以外に手段はない。

 

 心優しい妹のナナリーは、たとえ自分を守ってくれるためだろうと、兄が今日してしまったことを許すことは決してないだろう・・・・・・妹の意に沿わぬ罪を犯してまで、妹が平穏無事に暮らせる世界へ作り替える必要性が本当にあるのだろうか?

 

 ――そういう想いを抱かずにいられるほど、ルルーシュは心枯れた人間になった覚えはない。

 だが一方で、それが叶わぬ願いであることを理解できる程度には、大人の年齢にもなっていたのも事実である。

 

 事実これは彼ら自身のため、やらなければならない事業だった。

 今は良いかもしれない。

 だが、今が永遠に続くことは有り得ないのが、世界という現実でもある。

 

 

 もともとアッシュフォード家が自分たち兄妹を匿ってくれているのは、交渉カードとして本国への帰還と政界復帰を願ってのものでしかない。

 その願いが絶たれたと判断されてしまった時には、自分たち兄妹の立場は一転して、反逆の証拠になりかねない。

 治安機関の手が伸びる前に、自分の手で処分して無かったことにしようとするのは確実だ。

 ミレイは信用できる人物だが、彼女が当主となって家の権力を握りでもしない限りは、『家から与えられた生徒会長の地位』に甘んじている身で、家の決定に背く力は彼女にはない。

 

 

 偽りの家名として姓を名乗らせてもらっている、ランペルージ家にしたところで同様だ。

 今は好意的だが、世界覇権をなした後に人類初の絶対的独裁者となったシャルル大帝の意に沿わぬ恐れのある行動をとり続けられるほどの度胸や覚悟など求められるはずもない。

 

 薄氷の上で、かろうじて成り立っているのが自分たち兄妹の《今は優しい世界》だった。

 優しくて穏やかではあるが、いつ崩れてもおかしくはない。

 他人の都合次第で、いつでも壊されてしまう程度の儚い箱庭の理想郷・・・・・・それが現在だ。

 

 それに―――

 

 

 ドクンと。

 胸の奥底で熱く燃えるナニカが、鼓動を強く刻み始めている。

 魂の深奥から目覚めた渇望が、自分に前へ進みたがる欲求に抗うことが出来なくなってくる。

 

 それは7年前に、自らの内で目覚めた覇王の魂の高鳴り。

 長年の眠りから覚めた獅子は、手にした力で出来ることを成すことを、自らの役目として望んでいるのだ。

 

 穏やかな日は終わった、と。休日は終わりを迎えたのだと。

 戦いが始まる。7年前に始めると決めた戦いが、長い休戦の時を経て、再び開戦するときが訪れたのだと。

 

 ・・・・・・だが、それはナナリーや、今この場に集っている者たちに知られてはならない魂から求めて止まぬ欲求だった。

 

 

「――そうだな。ナナリー、俺もお前に愛想を尽かされるような兄にならないよう精進するとしようか。

 差し当たっては、口あわせに辛い食べ物でも取ってくるよ。冷蔵庫に何かあったかな?」

「お、それいい! ナイス・アイデアルルーシュ! たしかイレヴンたちから買った“シオカラ”とかいうお菓子をしまっておいたから取ってきてちょ~だい♪」

「はいはい。仰せのままに、我らが生徒会が誇る女王陛下」

「フフ~ン」

 

 

 道化たように応じるルルーシュと、ふんぞり返って見せて生徒会メンバーから白い目を向けられる美人の会長。それを見て微笑む穏やかな女性陣の笑顔。

 

 ・・・・・・それらによって覆い隠されながら、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが魂と共に再熱させ始めた野望の炎は、留まることを知らず熱量を上げ続ける。

 

 父である皇帝を玉座から蹴落とし、ブリタニア帝国を業火の中に滅ぼすのだ。

 ブリタニアの敷いた世界を壊し、ブリタニアより公正でブリタニアより正しく運営される社会へと生まれ変わらせ、『ブリタニア以上の世界』を創造する―――

 

 それを成し遂げることで始めて、『ブリタニア帝国が語っていた弱肉強食の論理』は【権力者に都合がいい嘘】となり『ブリタニアがやってきた事』は【無駄な犠牲でしかなかった】と事実によって証明されることになる。

 

 ブリタニア帝国の全てを完全否定し、過去の遺物としてボロをまとい、歴史の彼方へ永久追放してやるのだ。それこそがルルーシュに覚醒した魂の欲する結末。

 

 そして、ルルーシュ自身が望み求めた結果の、その最たる形なのだから―――

 

 

 

「世界は変わる。変えてみせる。

 世の真理や正しさなど、俺は求めない。それをする権利や資格も必要ない。

 ただ、自分の望むところのものを自由にできる力さえあれば、それでいい。

 これ以上、嫌いなヤツらの都合で、俺たち兄妹の人生を振り回す権利や資格を認めてやる気は些かもないのだから―――」

 

 

 

つづく

 

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