試作品集   作:ひきがやもとまち

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最近、悪化してた執筆環境がようやく回復しましたのでハッスルして書いた、【聖剣学院の魔剣使い】二次作の最新話です。

なかなか百合シーンに行けないのが今度の悩み。


聖なる剣の学園と黒き魔剣の女王と・・・3話

 

 ――やはり勇者から魔王へと変わったとき、剣士を辞めて魔術師系へと完全移行しておくべきだったかもしれない・・・・・・今更ながら、そう思う。

 

「最初に目覚めた時、あなたが目の前で倒れてるのを見た時にはどーなることかと思ったけど、無事みたいで良かったわ。

 あ、お腹の方は落ち着いた? おかわりは、まだあるから遠慮なく言ってね」

「・・・・・・どうも。ありがとう――ゴザイマシタ」

 

 そんな会話を、隣り合って腰掛けている人間の少女と交わしながら、食べ物をめぐんでもらっている腹ペコ魔王という、希有な上に情けない存在がここにいた。

 今の魔王自身が、それである。

 このような事態に陥ってしまった原因が、『転生の秘術失敗』にあるのだと思えば、誰だって自分の才能の無さに絶望したい気分ぐらいにはなるだろうと、魔王的には信じたい“少女の願望”がそこにある。

 

「私は、リーセリア・レイクリスタリアっていうの。

 これでも、セブンス・アサルトガーデンの聖剣士養成学院、第18小隊に所属してる準騎士なのよ。あ、歳は15歳ね」

「・・・・・・はあ」

 

 生返事を返しつつ、めぐんでもらったカシパンとやら言う食べ物を頬張る。

 自分の知らない概念か、既存の知識に類似例のない単語が多く混じっていたらしく、翻訳魔法がいまいち役に立ってくれず、名前と年齢以外の部分はサッパリ分からず、返事のしようがない。

 さり気なく視線を逸らして、床に落ちていた砕け散ったクリスタルの破片をチラリと見やる。

 

 ――そこには、一人の少女が映し出されていた。

 

 美しい、と言って差し支えない程度には整った美貌の持ち主というところも、我が事としては気恥ずかしさを感じはするものの――もう一点の問題点と比すれば何程でもないと割り切れもする。

 

 確かに美しくはあるのだが、美しいと言うより『可愛らしい』という表現を用いる者の方が多数派になってしまうだろうと、自分でも認めざるを得ない嫌な現実が目の前にあるという状況下では、さすがに前者の気恥ずかしさを気にし続ける余裕は彼女にもない。

 

(まさか、勇者に選ばれたばかりの頃の姿まで戻ってしまうとはなぁ・・・・・・。

 あの後から急激に身長が伸び始め、剣の間合いの感覚が掴みづらくなり苦労させられたものではあったが・・・・・・それを魔王になった後の今になって繰り返す羽目になろうとは・・・・・・)

 

 実際の実年齢としては、10歳ぐらいの頃に初めて勇者となった記憶があるが、外見年齢では更に2、3歳ほど下と思われても仕方のない低身長。

 それが勇者になってから1年そこらで、年齢平均に近いデカさへと急成長したのである。正直その頃は、聖剣に呪いでも掛かっているんじゃないかと疑ったほどだ。

 

 ・・・・・・なにしろ、間合いの感覚が短時間で変わりすぎてしまい、危なっかしくて仕方がなかった。

 

 剣の刃渡りを読み間違えて、あやうく利き腕を切り落としかけてしまった事がある。

 足運びが重要な剣術試合で、長くなった座高のせいで骨折したのは1度や2度ではない。

 先程の失態と苦痛と恥辱は、それらの延長線上にある出来事だったと言えるだろう。

 

 そんな思い出したくもない過去の痛みを、いやが上にも想起せずにはいられない姿形で復活してしまったのだ。溜息の一つや二つ吐くぐらいは許容されるべきだと魔王でも思う。

 

 周囲を見渡すと、ところどころに兜やら小手やら脛当てやら、気絶する前には落ちてなかった武装類が散乱している。

 自分が黒鎧に身を固めた魔剣王だったときに着ていた防具の数々だった。

 着ていた身体が小さくなりすぎてしまって、勝手に脱げて落ちてしまっていたのである。

 先程つまずいたのも、この兜に足を引っかけたのが原因だった。

 

 おかげで今、装備が全部脱げて素っ裸である。深紅のマントだけは布製だったから身体に巻けているけれど、その下には何も付けていない。

 

 裸マントの幼女という姿になった魔王が、制服と思しき衣服を纏った十代半ばの少女と隣り合って菓子を食べている―――何なんだろう? この状況・・・・・・魔王でさえ意味がワカラナ~イ・・・。

 

「それで、君の名前は? よければお姉さんに教えてくれないかな」

「――レイニース。レイニース・マグナス」

 

 そんなコチラの特殊な事情に基づく心情に気づくこともなく(当たり前だが)自分に食べ物をめぐんでくれた美しい容姿の銀髪の少女が微笑みながら発してきた問いかけに、かつて勇者だった魔王になる道を選んだ少女は、嘘偽りを述べることなく正直に自分の本名を口にする。

 

 偽る理由も、必要すらもない事柄だからだ。

 過去の人間達の軍勢と戦った際に【黒の魔剣王】として名乗っていた名は【マグナス・マグス・レイニース】

 【レイニース・マグナス】は、人間だった頃に勇者としての名として使っていた姓名であり、名と姓が逆になった並びとなっている。

 

 自分の悪名が現在に至るまで残り続けていたとしても、その前の人間だった頃の姓名まで正確に記録している者は多くないだろうし、子供相手に結びつける者は更に少ないだろう。

 それに――。

 

(・・・・・・“彼女”がつけてくれた誇り高き名を、会ったばかりの赤の他人に教えてやるのも少し嫌な気がしなくもないことだしな・・・。この姿の間は人間だった頃の名で通すとするか)

 

 そう思い、そう考え、そう答えを口にした魔王レイニース。

 それにまぁ・・・・・・今、全裸マントの幼女だし。こんな姿で人間から食べ物めぐんでもらった存在が、彼女が誇り高き魔王として名を残すのはスゴく嫌なので。

 成長する肉体があると腹が減る。何百年も眠り続けてから目覚めた生物というのは、熊でも人間でも腹ペコだから食わねば死ぬ生き物なので仕方ない。

 

「レイニース―――レイちゃんかっ。可愛い名前ね♪」

「・・・・・・そうです、かい・・・」

 

 その結果として、思わず憮然としたくなる略し方された渾名に使われてしまう羽目になる。

 何というかこの娘・・・やりづらいなぁ・・・。感覚が違いすぎるというか、小さな女の子相手にして同性同士で話してるノリが、凄く慣れてないので対応しづらい。

 

 普通の自分と同じような姿をした年齢の少女同士は、こんな会話形式を取っているものなのだろうか・・・?

 そうだとしたら迂闊だった。詳しそうな側近が身近に一人いたのだから、聞いておいた方が良かったかもしれない。

 

「レイちゃんは、歳は幾つぐらいなのかな? お父さんやお母さん達はどうしたの?

 こんな所に子供が一人で来るはずもないし、浚われて閉じ込められてたんでしょうね。可愛そうに・・・・・・ご両親もきっと心配してるわ」

 

 しかも完全に子供扱いされてるっぽかった。と言うより幼女扱いだろうか?・・・仕方のないことでもあったが・・・。

 なにしろ今の自分は、外見だけなら子供な上に、実年齢より更に小さくて幼い訳だし。

 オマケに裸マントな幼女だし。これで大人扱いするよう要求するのは、流石の魔王でさえ理不尽だし不条理だと思えるほどに。

 

 だが、今はとりあえず誤魔化しておくとしよう。

 情報を得るには、子供だと思って油断しててくれた方が容易であり、曖昧な部分の整合性もつけやすい。

 

「――すいません、よく思い出せないんです。目が覚めた時には、ここにいて・・・・・・。

 途切れ途切れで記憶、だと思うことは思い出せるんですけど、なんだか急に景色が変わってたり、相手の人の話が飛んでたり・・・・・・それで―――」

「それってまさか、記憶喪失ってこと!? もしかして、ヴォイドにっ?」

「・・・“ぼいど”・・・?――って、何でしたっけ・・・?」

「ヴォイドを知らない!? 覚えてないの!?」

 

 聞いたことがなく、翻訳魔法の効果範囲外でもあるらしい単語を聞かされて、思わず聞き返してしまった質問に意外なほど激しい食いつきを示してくるリーセリアという名らしい少女。

 

「・・・分かりません。覚えてる・・・ような気もしますけど、よく思い出せない名前みたいで・・・・・・」

「なるほどね・・・やっぱり記憶を失ってしまって・・・よっぽど怖い目に会わされたのね。

 だけど大丈夫、もう安心していいからね! お姉さんが守って上げるからッ!!」

 

 ガバッ!と抱きついてきながら熱烈に宣言されてしまったが――正直しらんし。嘘吐いただけだし。

 まぁでも、『ぼいど』とやらいう存在を知らないのは間違いなく事実である。折角だし聞いておこう。このノリだったら自然に聞けて教えられそうだし。

 

「《ヴォイド》っていうのは、64年前に突如あらわれた人類の敵につけられた名前よ。

 目的も生態も一切不明で、異世界から現れたと言われてはいるけれど、それも仮説の域を出ていない程度のものらしいわ。

 それ故に『虚無』――《ヴォイド》と私たちは呼んでいるわ。・・・どうかしら? 今までの話で何か思い出せたこと、ある?」

「・・・なんとなく、覚えている――ような気がします・・・」

 

 嘘だが。実際には全く何一つ思い当たる知識のない、何ソレ感満載過ぎる存在の名前だったが。

 もっとも、今の説明モドキでは何が分かるというものでもなかった事情もある。

 何しろ、『名前』と『現れた年』意外は何一つ分かっていないらしいと言う、先ほど名乗られた時の自分と全く同じ状態に、人類全体もなっている状況にあることを意味する説明だったのだから。

 これで理解できたなら、先程の自分にも大部分は理解できていてもおかしくはない。だから分からん、以上。

 

「ところで、レイクリスタリア――さん。今は暦だと、何年の何月なんでしょう?

 その・・・先ほど“64年前に”って言ってたみたいだったので・・・・・・」

「え? 暦? ――ああ、なるほど。なにかを思い出す時には、確かに必要だものね」

「はい・・・。何かとっかかりになるかなって、思いまして・・・」

 

 なんか勝手に都合よく解釈してくれたっぽいので、そういう事にしておいた。

 実際には暦そのものを知るのが目的で聞いた質問ではあったのだが、別の意味も込められていなかったわけではない。

 

 ・・・・・・なにしろ今の自分は、『転生の秘術に“失敗して”』こんな姿になっている身なのだから。

 1000年後に完全な姿形で復活するはずだった魔法に失敗した結果、見た目だけ変わりすぎたけど、時間はピッタリ1000年後で狂いはなく、当初の計画的には問題ない――などという都合よすぎる魔法の失敗があるとは到底思えない以上は、時間的にも大きなズレがあると考えた方が適切な状態だった。

 

 その為には暦で調べるのが一番手っ取り早いのは確かだ。

 予定通りに魔法が発動して、小さな誤差しか起きていなければ現在は、自分が眠りについた時より1000年後の《聖神歴1447年》になっているはずだからである。

 

 ・・・・・・ただ魔王自身は、今がいつかを知る手段としての暦を、あまり重視してはいなかったりもする。

 暦など、時の最高権力者たちが自己の権威を示す上では、最も手っ取り早いものの一つでしかなかったからである。

 

 人間のような短命で脆弱な種族ではなく、悠久の時を生きる神々によって支配された自分たちの時代であっても、それは変わらない。

 負ければ、今の絶対者である神々であっても没落し、神を倒した新たな存在が新たな世界の始まりを宣言するだけだろう。

 その点で考えれば、暦など興亡した社会の数だけ存在し、改めて始まるたびに1年目から数え直すものなのだから、物差しとして絶対性を信じれる要素はどこにもない。

 

 それでも、参考ぐらいにはなる。そう思ったから聞いたのだ。

 たとえば、現在が《神王歴》とかに変わっていて《神王歴405年》になっていた場合。

 

 少なくとも、聖神歴が滅んで神王歴に改元されてから『400年』が経過しているのを現していることになる。

 権威付けの誤魔化しがあっても、せいぜいが4年前か5年後の誤差程度のはずだ。

 さすがに『建国から10年未満の新王朝』が『新王朝歴1010年』などという大ボラを吹いて信じる奴がいると思えるアホに国盗りができるとは正直思えんことだし。

 

 そういう算段をした上で、大して期待せずに聞いた質問だったのだが。

 

「今の暦は、《人類統合歴64年》だけど、なにか思い出す切っ掛けになりそう?」

 

 ――予想の斜め上を行く、スッゲー半端な数字で答えられてしまった。

 なんだ、64年って・・・新興国にも程がある歴史の浅い社会だなオイ・・・。

 しかも、『ぼいど』が現れたのが64年前で、現在の暦が《人類統合歴64年》と来ている。

 

 とすると、「ぼいど」の侵略によって新たに台頭した勢力が主導権を握ったのか、あるいは「ぼいど」によって崩壊した既存の国家群の生き残りを統合したの、どちらかの意味だと思われるが・・・・・・今は確認をしている時間はなくなったらしい。

 

「―――」

「・・・? レイくん、どうしたの? 急に立ち上がったりして・・・いったい何が――レギーナ!?」

 

 話の途中で突然立ち上がった少女の挙動に、驚かされていたリーセリアだったが、その直後に耳元につけている何かの通信用魔導具らしきものから聞こえてきた声によって、一気に緊迫感を増した表情へと変貌させる。

 

 続いて、

 

 

 ドォン! ドォォン!!

 と、遠くの方から地響きのような音と激しい揺れとが、彼女たちのいる室内まで聞こえてくる。

 リーセリアは訓練された聖剣士としての科学的知識によって、かつて魔剣王と呼ばれていた少女は自らの戦闘経験によって、その爆発が『敵への攻撃として放たれた爆発』によるものだと理解し、このような地下空間で、その様な戦闘を行わずにはいられなくなった際に、最も警戒すべき危険的な事柄として。

 

 ゴォォッン!!

 ガラガラガラッッ!!!

 

「ッ!! 危ないッ!」

 

 衝撃にあおられて、天井の脆くなっていた一部分が崩れ、崩落とまでは行かぬものの、幾つかの大きな破片が二人の少女の頭上から落下してくるのを認識した瞬間。

 リーセリアは考えるより先に身体が動いていた。自分の身体を盾にして、隣に座る幼い少女に覆い被さり、落ちてくる破片から守ろうとしたのだ。

 

 ――だって相手は小さな女の子で、自分は聖剣士なのだから!

 守って上げるのだ。守ってあげなくちゃ駄目なのだ。

 もう二度と“あんな悲しい事”を起こさせないためにも自分は絶対に、今度こそ守ってみせると、あのとき心に誓って今日まで生きてきたのだから!!

 

 そう心に誓いがあったからこその反射的行動だった。――けれど。

 

「来るッ! 飛ぶぞっ!!」

「え? レイちゃ―――キャアッ!?」

 

 

 覆い被さろうとした小さな身体から伸ばされた小さな手が、相手に比べると長身な自分の背中へと回されて、腰を抱きしめるような形で引っ張り寄せられ、小さな胸元へと抱きしめられながら短い跳躍時間を体感させられることになる。

 

「大丈夫か? 傷つけないよう加減はしたが、どうにも本調子ではないのでな」

「え、ええ・・・大丈夫だけど・・・レイちゃん。あなた一体――」

「――っ。本命が来るぞ!」

「え!?」

 

 理解不能な現象を体験させられたばかりで目をパチクリさせているリーセリアの耳に少女からの警告が届き、慌てて振り返った視線の先では、壁を突き破って巨大な塊が土煙を上げながら出現してくる!

 

 煙の向こう側からウッスラと、最初は影のように見える形で姿を現してくる黒い巨人。

 頭髪が一本も生えていない頭部、腕も足も丸太のように太い裸体を晒し、体中から奇妙な結晶体を生やしている姿をした、巨大で野蛮な蛮族の如き異形の存在。

 

「オーガ級のヴィォイド!? 古代の遺跡には現れやすいことは分かっていたけど、こんな時にッ!!」

 

 リーセリアの叫びで、この生物こそが件の「ヴォイド」であることが判明する。

 あるいは、『ヴォイド』と総称されている種族たちの一種族、と言ったところだろうか?

 『オーガ級の』という名付け方も、それなら頷ける。

 

 おそらくは、自分や魔王たちと人類が戦っていた頃の出来事として、『オーガに纏わる伝承やら歴史』が、何らかの形で現代まで残っていたのだろう。

 その伝承に残るイメージと酷似していたから『オーガ級』・・・・・・『本物のオーガ』が現存している可能性も無くはないが、本物を知っている者なら似ても似つかぬ醜悪な巨人に似つかわしい名前と思える可能性は低い以上、『オリジナルのイメージを元にした別物の名前』と考えた方が良さそうだった。

 

「っ、限定解除! レイちゃん下がって! ここは私が時間を稼ぐから・・・ッ!!」

 

 あまりの事態に反応が遅れていたリーセリアだったが、ここに来て自分のすべき事を思い出し、手に持っていた魔導具の形をわずかに変形させ、黒い巨人に向かってボウガンのように鏃の発射先を向けて引き金を引き続け、魔法矢によく似た光の弾丸を発射し続けるが―――相性が悪すぎる。

 

 似ても似つかぬ見た目とは言え、『オーガ級』の名を与えられているのは伊達ではない。

 オリジナルのオーガそのものが『ズバ抜けた生命力と強靱な肉体』が特徴だった種族の名を冠せられた存在だ。

 彼女が持つ、片手に収まるサイズの魔導具から放たれた光弾など、相手の巨体の前では豆鉄砲に等しい程度にしか見えようがない。

 

 ビシュン!ビシュン!ビシューン!!

 ―――ウゴォォォォォォッ!!!

 

「ダメ・・・この武器の威力じゃ歯が立たないッ!? あっ!」

 

 絶望しかけた、まさにその時だった。

 横合いから、リーセリアが放つ光弾を数十本分束ねたような太さと威力の光が放たれ、オーガ級と呼ばれたヴォイドが、振り下ろそうとしていた右腕を吹き飛ばすっ!

 

「ご無事ですか!? セリアお嬢様っ!」

「レギーナッ!」

 

 おそらく現れたオーガ級とやらを追ってきていたのだろう。相手が侵入してきたのと同じ穴から入ってきた金髪の少女が、リーゼリアの渾名と思しき名を呼びながら援護射撃を開始してくれる。

 

 長い金髪を左右に別けて纏めたスタイルのいい少女が持っている魔導具による攻撃は、リーゼリアのもの比ではなかった。

 リーセリアの持つ魔導具の攻撃が光弾なら、金髪の少女の攻撃は砲弾であり。

 リーセリアの武器が光の矢なら、金髪の少女の攻撃は光りの槍を束ねたカタパルト。・・・・・・次元が異なる攻撃能力を有していると言ってよい。

 

 それに比例してか、金髪の少女が持つ魔導具はリーセリアの持つものより遙かに巨大で、取り回しは悪そうにも見えたが、この威力の武器としてなら小さいくらいと言っていい。凄まじく高性能な投擲武装だった。

 

「チィッ! この火力じゃ埒があきませんねぇ!

 だったら、『聖剣・モードシフト』! 《ドラグ・ブラスト》!!」

 

 更に少女は、何かの起動ワードらしき単語を叫ぶと同時に、両手で構えていた武器は光に包まれ形を変え、ただでさえ大きかったサイズが更に巨大になり、その発射口らしき巨大な穴がオーガ級に向けられる!

 

「消し飛べぇぇぇ――――ッッ!!!」

 

 ズビュゥゥゥゥゥッン!!!

 ―――ぐぉぉぉぉぉぉォォォォッんっ!?

 

 先ほどより太く大きくなった光の束をドテっ腹に叩き込まれたオーガ級は、文字通り消し飛ばされて吹っ飛ばされていく。

 だが魔王だった少女にとって、その敵のやられっぷりは眼中にない。

 

(・・・・・・なんだ!? 今の武器は! 爆裂系統の第四階梯魔術に匹敵する威力があったが、放たれた光は魔力ではなかった・・・・・・。

 “聖剣”と口にしていたが剣には見えんし、なにか関連づいた由来をもつ武器と言うことか・・・?)

 

 レギーナというらしき少女が持つ、謎の武器。それに魔王の視線と意識は集中していた。

 オーガ級とやら言う半端な化け物モドキには興味がなかった。既に敗れていようと生きていようと意識するほどの存在価値は些かも見いだせる要素は何もない。

 

 なるほど確かに本物のオーガでも持てなかったほどの膂力であり、オリジナルを上回るほどの耐久力であったと誇って良いかもしれぬ強さはあった。

 もし仮に今の一撃を受けて生き残っていたとすれば、確実にオリジナルを超える生命力を有した真のオーガ族を称する資格がある存在なのかもしれない。

 

 だが――それだけだった。

 オリジナルのオーガより強いことは認めてもいいが、どちらにしろ『自分がその気になれば』楽に勝てる程度のザコでしかない事実に変わりはない。

 

 自分にとってザコでしかない者なら、自分がいちいち変化を意識してやる必要など微塵もあるまい。

 その変化によって、勝てていたはずが勝てなくなる者にとって変化は重要事項であろうが、どちらだろうと楽に倒せるザコでしかない者にとっては違いなどないに等しく、どちらでもよい。

 

 それなら、むしろ。

 レギーナという少女が示した『初めて見る未知なる武装』に、より多くの価値と魅力とを見出して、『分からない方』に意識と心を集中させたくなるのは当然のことだと魔王自身は思っていた。

 

 そういう性格の持ち主だったのだ。

 その性格は、かつて六英雄の仲間たちから危険視され、王たちからも危険分子と見なされる結果へいたる遠い萌芽となるものでもあったが―――本人に自覚は妙に薄い。

 

「お怪我はありませんかお嬢様! ・・・って、その子供は?」

「ここで保護した子で、レイちゃんって言うらしいわ。記憶喪失みたいなんだけど・・・・・・ところでレギーナ、さっきの奴はやったの!?」

「いやあの、お嬢様・・・・・・そのセリフはフラグって奴ですので、それを言っちゃったからには、やれてないんでしょうし―――と言うわけで離脱して下さいッ!

 ここは私が押さえ役を引き受けます! お嬢様は子供を連れて早く!!」

 

 なにやら意味不明な魔術理論のような言葉を幾つか呟いた後、急にキリッとした顔付きと雰囲気を変化させ、まだ倒れたままの敵が再び立ち上がって攻撃を再開してくる前提での対応を口にする金髪の少女レギーナ。

 なにか予言に近い異能力でも有しているのかもしれない。そんな彼女からの判断と戦況分析は尤もで、『民間人の脱出』を考慮して戦うなら、リーセリアは少女の手を引いて戦場からの脱出を第一に考えた方が良い。

 

 敵を倒して勝ったとしても、その戦いで民間人に犠牲者が出ないと決まっている訳ではないのだから。

 そう・・・・・・丁度“あの時の戦い”と同じように。

 

 

「けど!・・・・・・分かったわ。気をつけてね、レギーナ!

 行くわよ、レイちゃん! 私の手を握って離さないで付いてきてッ!!」

「―――・・・・・・」

 

 そう言って、差し伸べられた手を冷淡な瞳で見下ろす民間人の少女―――そう思われている魔剣王と呼ばれた過去を持つ勇者は考えていた。

 

 ――それが合理的な判断だ、と。

 

 レギーナが示した“聖剣”を見ても分かるように、現在の世界は自分がいた世界とあまりにも違う。変わりすぎてしまっている。

 彼女を見つけ出すにしろ、魔王軍を再建するにせよ、『変わってしまった今の世界の情報』は必要不可欠だ。

 そして情報を得るには、ただの民間人で避難民と思われていた方が便利でいい。いずれ正体はバレるものだとしても自分から晒してやる義理やメリットなど一つも無いのは明白なのだから。

 

 他者を圧倒する力など、見せてやったところで良いことなど何もない。

 『シドンの荒野』で謀殺され欠けたときと同じように。

 

 使用目的や結果に関係なく、自分たちでは抗いようが無い強大すぎる力は、ただ危険視され、感謝されるのは都合がよい時だけ―――その程度のものが『強すぎる力』であることぐらい、誰に教えられるまでもなく分かり切っていた常識でしかないのだから。

 

 だから今は、リーセリアに連れられて逃げるのが正しい選択肢だった。

 自分を子供だと思い込んで、やたら親身になってくれる怪しむことを知らないような、リーセリアのような娘は情報源として有用。

 その為にも、自分は彼女にとって『守ってあげるべき弱い子供』で居続けた方が何かと便利でもある。

 

 先ほど魔が差して、僅かながらも素を出してしまったが、今の混乱でいい感じに流されてくれたようでもあるし。

 どのみちレギーナの力を見る限り、苦戦することこそあれ、負けるほど弱い少女とも思えない。彼女に壁役を押しつけたところで、使い捨てる結果にはならないだろう―――

 

 そう考えた時だった。

 ふと、昔の知り合いから聞かされた言葉を思い出す。

 

 

 

『一時の苦痛を与えるのも止むなし、と言うことですね』

『魔物を住人ごと押し潰し、住人は生き返らせる。――合理的な手段だ』

 

 

 

「・・・・・・ああ、成る程。そういう事だったんだな、アラキエル・・・・・・」 

 

 

 ソイツらの言葉を思い出したことで。

 魔王の選ぶ道と考えは、深い愉悦の笑みと共に決定させられることになる。

 

「レイちゃん、どうしたの? さぁ早く!」

「幼女ちゃん・・・なにを?」

「・・・・・・・・・」

 

 無言のままリーセリアの横をすり抜けながら、レギーナの近くまで来て隣に立つ。

 

「――《抜剣・覚醒》せよ。汝、我が力となるを欲した剣よ、目覚めの刻だ。来るがいい」

 

 詠うように紡がれた言葉と共に、少女の開かれていた右手の下から黒い渦が現れ出でて、その底から一本の剣が誰の手も触れていない中で独りでに宙を飛んで彼女の掌に収まりつく。

 

「!? あの剣は、いったい・・・」

「!! お嬢様! そこの幼女! オーガ級ヴォイドが!!」

 

 言われてリーセリアが見やると、先ほど倒したと思っていた黒い巨人が起き上がり、こちらへ向かって再び攻撃態勢に入ろうとしていた。

 少女が起こしていると思しき怪奇現象も気にはなったが、今は直近に迫った危機への対処が優先されるべき時・・・・・・小型の魔導具と大型の魔導具の二つ共が立ち上がった巨人へと向けられ直した、その瞬間。

 

 シュパン――――。

 

 赤い閃光が、二人の間を通り抜けていった―――ように彼女たちには感じられた。

 その時には既に全て終わった後だった。

 

 いつの間にかオーガ級ヴォイドの、すぐ傍らまで移動していた少女が、《深紅の刀身》を持った禍々しい長剣を無造作に下げながら立ち尽くしている。

 

 それだけで全ては終わっていた。

 

 

「邪魔だ。退け、木偶の坊」

 

 ゲシっと、小さな足で軽く押したようにしか見えない仕草で、少女はオーガ級ヴォイドの丸太のように太すぎる足を蹴りつけて。

 

 ・・・・・・ズズズズズゥ・・・・・・

 

 大型ヴォイドの巨体は、腹の上と下とで真っ二つになって、前と後ろの別物になって倒れ伏す。

 オーガ級の身体は既に、分断された後になっていた。

 剣の達人が斬った切り口は、あまりにも鋭すぎて繋がっていた血管が切れていないのと同じ状態を維持したまま、外れるまでの僅かな間だけ機能し続ける神業が起きうるという。

 

「フン。やはり女神に祝福されて魔剣と化した聖剣には程遠いが、血で赤く染まった《暗黒剣》としては満足しておくべき出来映えと称すべきか。

 ・・・後は私の身体を適合させる必要性か・・・・・・面倒な・・・」

 

 この少女は、舌打ちしながらオーガ級ヴォイドを相手にそれをやった。

 どうやったのかなど、リーセリア程度の腕では想像することすら出来ない、神業の域に達して人の限界を超えた者だけが至ることのできる超越者のみに出来る業。

 

「す、凄い・・・・・・」

「あ、あの幼女・・・・・・いったい・・・」

 

 二人が二人とも、圧巻過ぎる少女の力を目の当たりにさせられ、言葉を失わされてしまっていたが―――それは余りに気の早すぎる茫然自失であったかもしれない。

 

 

 ―――ガァァァァッ!!!

 ――――ガガァァァァァァァァッッ!!!

 

 

「なっ!? こいつらまだ・・・・・・!」

「こ、こんなに沢山っ!?」

 

 戦闘はまだ終わってなどいなかったからだ。敵は一匹敗れただけで全滅していなかったのである。

 倒されたばかりのオーガ級ヴィドと同種の個体が三体も新たに参戦してきて、どうやら後ろからも続きが来ているらしい。

 さすがのレギーナも、閉鎖空間の中で出せる威力で、この数を相手にするのは流石にキツいものがある。

 冷や汗が彼女の頬を一滴、滑り落ちる。

 

「・・・・・・行くがいい。ここは私が引き受けてやる。どうにも感覚が違いすぎて本気が出せないが、この程度なら問題はない」

「れ、レイちゃん? なに言って・・・危ないから逃げてッ!!」

「安心しろ。食料をめぐんでもらった礼はする。私はこれでも相手の種族や身分に関わらず、引き受けたことは果たすのがモットーでな。

 お前たちは私が“守ってやる”」

『―――っ!!』

 

 その一言は、二人の少女にとって強烈な効果を持つ言葉だった。

 言った魔王の側に自覚はなく、その意図もなかったが、それでも幼女が放った一言は確実に、少女たち二人の心に響き渡って、その心を深く深く揺り動かすに至る。

 

「・・・へぇ。言ってくれますねぇ、お子様の分際でよくもまぁ・・・」

 

 レギーナは、幼女の言葉を受けて身体を動かし、前に出る。

 彼女の心は間違いなく、少女の言葉に深く突き刺さり揺り動かされていたのが、その理由だった。

 

「お嬢様をお守りするのが、メイドである私の役目ですよ?

 横からしゃしゃり出てきた新入りちゃんに譲ってあげる気なんか少しもありませんねぇ!!」

 

 凄まじく“悪い方へ”自分たちの心を揺り動かしてくれやがった、生意気すぎるお子様に目にもの見せてやらなきゃ気が済まない方向へ!!の影響ではあったけれども、それでも『相手の言葉で心が影響を受けさせられた』と言う事実に変わりはないのだから!

 

「レギーナ、私も!!」

「お嬢様は早く撤退して援軍の要請を! この数が溢れ出したら流石に厄介です! それが出来るのはお嬢様だけです! 早く急いで!!」

「くっ!? そんな・・・ッ!!」

 

 だが、想いは共有していようとも力は“まだ”共有できていないリーセリアに、この窮地は難易度が高すぎる。

 力に覚醒さえすれば、必ずや自分以上の敵さえ倒してみせる方だと信じているが、今はまだ力が足りていない。

 目覚めさえすれば確実に可能になる人だと信じているからこそ、今はまだこんな所で死なせるわけには絶対いかない! それがレギーナの想いだった。

 

 その想いが分かってしまうからこそ、リーセリアは葛藤するし、力に目覚めていない自分こそが最も彼女たちの勝利と生還を妨げることを理解できてしまう頭の良さが、更に彼女を苦しめる。

 

「・・・・・・分かったわ。絶対に助けを呼んでくるから、二人ともそれまで無茶しないでッ。絶対に生きてアサルト・ガーデンに帰ってきて! 約束よ!!」

「お任せ下さい! 帰ったらお嬢様のお好きなパイを焼いて差し上げますから、お楽しみに!!」

 

 軽い口調で言い合って、背を向けて走り去る主人に背を向けたまま、敵に対して正面から向き合い続けるメイドの視線。

 その視線が、傍らに立って剣を構えている小さな幼女の方へとチラリと向けられ、

 

「・・・・・・最初から変な子だとは思っていましたが・・・一体どういう狙いの行動なんです?

 まさか出会ったばかりで初対面のお嬢様を守るため、命を賭けて殿を買って出てくれた正義の王子様が実在してました~なんてオチじゃないんでしょう?」

 

 皮肉気に、シニカルに、あるいは王家や王族の絵物語に思うところでも持っているかのような視線と口調で、こちらの真意を問うてくる金髪の少女に好戦的な笑みを返しながら。

 

 ―――この少女とは気が合いそうだ、と感じつつ。魔王は答える。

 

 

「なに、気にすることはないし、恩だの義理やらを感じる必要もない。

 ただ私が昔、糞味噌にムカつくクソ爺と、見た目と才能だけしか取り柄のないゲス美人から言われた言葉を思い出したのでな。

 否定したくなった。それだけだ。私の個人的問題だけが動機だから、お前たちが気にする必要は皆無だよ」

 

 

 本人以外には意味不明な返答を返され、困惑気味に表情を歪めたレギーナの鼓膜に、ヴォイドたちの雄叫びが轟き戦闘が始まる。

 誰も予想していなかったし準備もしていなかった、古代遺跡の探索中に起きてしまった多数のヴォイドたちとの不意遭遇戦。その結末として―――

 

 

 

 

 

「う、嘘・・・・・・どうして、こんな、事に・・・・・・」

 

 

 レギーナの見ている前に、受け入れられない現実が横たわっている。

 遺跡の入り口へと続いている通路の片隅で、青い衣を纏って、赤い液体に包まれている、銀色の少女が横たわっていた。

 

 横たわったまま・・・・・・動こうとしない。

 

「嘘・・・ウソですよね・・・? 絶対に助けを呼んでくるって言ってましたよね・・・? 二人で誓いを守ろうって約束しましたもんね・・・?」

 

「――――――――――――」

 

 幾ら話しかけても返事はない。

 声を聞かせて欲しいのに、少しも口を動かしてくれない。

 

 ただ、腸を切り裂かれて、脇腹から血を流した姿で倒れたまま動かないだけ。

 ただ、死んでいるだけだ。ただの死体だ。

 

 幾ら話しかけたところで、ただの死体は、決して返事をしてくれることはない。

 死んだ人間はなにも喋らない。笑わない。泣かない。もう二度と・・・・・・ナニカできることは永遠に無い。

 

 それが―――『死ぬ』ということ。『殺される』ということ。

 

「・・・・・・たす・・・けて・・・」

 

 か細い声で、レギーナは縋った。

 涙に濡れて、グチャグチャになった顔で必死になって――傍らに立つ少女に縋り付く。

 

「・・・お嬢様を、助けてあげて・・・・・・ください・・・っ。貴女なら出来るんでしょう!?

 助けてあげることが出来るんですよね!? だったらお願いします!! お嬢様を助けてくれるなら、私は何を差し出してもかまいませんから・・・・・・ッ!!」

 

「――やれやれ・・・・・・」

 

 心底からウンザリさせられた声と口調で、縋られた幼女は独白するしかない。

 ほんの気まぐれと、魔が差しただけの参戦。

 

 ――たったそれだけの事の代償にしては、あまりにも重いものを背負わされてしまう結果になってしまった現在を前にして、『クソ大バカ賢者』の言葉に一抹の正当性を認めざるを得なくなってしまったことが心底イヤすぎてウンザリさせれずにはいられなかったから。

 

 

「先に言っておくが、死の領域の魔術に手を染めたことで、聖なる側の神々からは蛇蝎の如く嫌われるようになった私には、初歩の治癒呪文すら使えん。

 まして死者を生き返らせる《蘇生》など、見た目だけ聖なるクソ女クラスの高位聖職者でもない限りは不可能。私には永遠に届かん領域だろうよ。

 ――私に出来ることは、彼女にとって不幸にしかなれんかもしれん。

 それをされたのが、お前に頼まれた結果だったと知れば、彼女はお前を憎むようになるかもしれない。

 そもそも成功するかどうかも賭けになる。失敗すれば、消えるだけで済むのが最良。・・・・・・そんな手段しか、私には使うことは出来ない。

 それでも、やって欲しいのか? 地獄かもしれん道へ道へ逝かせることを望むのか?」

 

 

 その問いかけに、最後通牒に、相手が答えてきた言葉を聞いて。

 魔王もまた、小さいながらも覚悟へ続く一歩目の道を歩み始める道を選ぶ。

 

 そして―――

 

 

「喜べるかどうかは、お前たちが至る結果次第。

 だが今、その望みだけは叶えよう・・・・・・」

 

 

つづく

 

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