試作品集   作:ひきがやもとまち

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自称・魔王様リトライ!RX-78 第3章

 ――前回までのあらすじです。

 配信サービスが終了する最後に日にMMORPGをプレイしてたら、使っていたPCの体とステータスを与えられて見知らぬ異世界に転移して森の中で目覚めるお約束展開に巻き込まれた私、ネタアバターの肉弾戦ちびっ子エルフのナベ次郎。

 

 ですが、大人たちの身勝手な欲望の捌け口として『穢されている美幼女のアクさん』と出会い、正義の心に目覚めた私は真なる悪の大人たちを倒して彼女を救うためアクさんの住む村へと進路を変更したのです!

 決してヤマシイ気持ちではありません! 正義のためです! 人助けです!!

 男達に虐げられる美少女を助けた正義の味方は、好感度上がりやすいのは結果論で偶然だから合・法!! つまり――正義であって欲望ではない!!(断言)

 

 

 

「あっ、魔王様。あの柵の向こうがボクの村です」

「ほう、あれがアクさんの住んでる村でしたか」

 

 その場所に到着した私は、感心しながら接近しつつあった彼女の指さす先にある小さな村を眺めました。

 藁を重ねただけの安っぽい柵で周囲をぐるりと取り囲み、入り口には二本の拗くれた木がアーチ門の猿まねみたいにテキトーな縄で結ばれただけで立てられていて、中に入ればドアのない布で間仕切りしてあるだけの藁葺き家屋が一定数建ってるだけ。

 レンガ造りの家どころか、粘土さえ使ってるか疑わしいレベルの村。

 

 

「――って、“コレ”本当に村だったんですか!?

 誰も住んでられなくなって、忘れられて見捨てられた廃村とかではなく!? 正直、人が住んでる場所には見えないぐらいボロすぎると思ってたんですけどぉ!?」

「魔王様!? シーッ! シーッです!!

 村の人たちに聞かれちゃったら怒られちゃいますよ!? 世の中には言っていいことと、言ってもどうにもならない事実があるんですから!!」

『ぐっ、はっ!?』

 

 ――あ、なんか驚きの余り衝動的に言ってしまった私の本音に、アクさんが慌てまくって思わず本音を言ってしまったのが聞こえたらしい村の人たちっぽい人数名が吐血してる姿が一瞬見えた気がしましたけど・・・まぁ別にいっか。

 

 どーせ年端もいかない子供に重労働押しつけた挙げ句、生け贄にまで出す人たちです。

 事情があろうとなかろうと、私は気にくわないタイプの人たちなので、どーでもいいです。特攻エルフのナベ次郎は、敵か味方かで特攻する対象を選ぶ以外に、判断基準を持っておりません故に。

 

「あ、魔王様。ボクの家はこっちです」

「アイアイ・マム」

 

 ナビに従って舵を切り、自分よりも多少背が低いくらいの女の子をオンブしたまま村の中をちびっ子エルフの姿で(一応は速度を落として)早歩きし始めていた直後のこと。

 

 “ソイツら”は、家の一軒一軒から這い出すようにでてきたのでした――――

 

 

『・・・ヘッヘッヘ、ヘッ・・・・・・』

 

 子供を見下す瞳で見下ろしてきながら、妙に卑屈そうな暗い光を同時に宿したイヤラシい目つきと顔つきをした男たち数人が、その手に石を持ってお手玉みたいにポンポンさせながら登場してきたのです。

 

「おい、ゴミ人間。なんでここにいるんだぁ~?」

「まさか逃げ出してきたんじゃないだろうなぁ~?」

「しかも何だぁ~? 今度は亜人のエルフまで一緒に連れてきやがってよぉ~」

 

 分かり易く表現するならば、『格下のイジメられっ子を虐めて憂さ晴らししている』『年上のイジメっ子にイジメられてる上級生のザコ小学生』と言ったところでしょうかねぇ・・・。

 

 自分と同格の相手たちの中では見下される程度のザコだから、格下の年下相手に強さを誇って小っぽけな自尊心だけでも守ろうとしている、形ばかりのプライドが逆に苛つかされるタイプの連中ですよ。

 

『ゴミ人間! ゴミ人間! ゴミ人間! ゴミ人間がぁぁぁっ!!!』

「痛いっ!? や、やめてください・・・ッ」

 

 挙げ句の果てに、この人数で子供二人を取り囲んでおいてやる行動は、遠巻きに石投げつけてくるだけという負け犬弱者の常套手段ですか・・・。

 まぁ、魔女狩りの時代とかには見せしめ目的でそういう処刑方法もあったとは聞いたことありますけど、この人たちのコレはどう見たって―――ただの【馬鹿ガキのバカ行為】です。いい歳した大人のやることじゃあありません。

 

 まったく・・・ここまでの醜態見せつけられたら逆に冷静にならざるを得なくなってしまって・・・・・・皆殺しにするの我慢するため全力出さなくちゃいけなくなって大変じゃないですか本当にもう。しょうがない人たちですねー本当に。

 

 とりあえず心を落ち着かせるため一服吸って、リラックス、リラ~ックスです。

 

「スパァ~~~~。・・・・・・ふぅ~~・・・・・・」

 

 あー、吸った吸った。スッキリしましたわ。

 とりあえず吸い終えたタバコを指先で弾いてピン、と。

 いや単に捨てる場所がなかったのでね? タバコの吸い殻入れぐらい用意しておいてくれると助かったのですけど、ないものは仕方がありません。

 

 それでも所詮は小さなタバコに付いた火です。たとえ藁葺き屋根の上に落ちたとしても、すぐに消化すれば一瞬で消し止められる程度にボヤ騒ぎにしかならないでしょうから、それで十分。

 その程度の騒ぎを見物できれば私の気は収まって、彼らの暴挙も事情があるからと許すことができるはず―――

 

 

『ゴミ人間めが! そぉぉぉらよッ!!!』

 

 ポトリ。

 

「【炎焼拳】レベル6です」

 

 

 ゴォォォォォォォォッ!!!!!!

 

 突き出した右手から最大火力の炎を放って、タバコが落ちた先にあった家を丸々焼き尽くし。

 音と炎の焼ける匂いに驚き慌てて飛び出してきたらしい村に住んでる他の人たちも集まってきて、口々になにか言い立ててくるのを他人事のように聞き流しながら、アクさんからは呆然としたような瞳で見上げられながら、私はまた一本シガーレットケースからタバコを取り出し口に咥えて一本吸いながら、彼らからの疑問の声にようやく答えてあげる気になれた訳でありましたとさ。

 

「な、なんだお前は!? まさかグレオールの手下なのか!?」

「ああ、失礼。自己紹介がまだでしたね。私の名前は・・・・・・」

 

 そしてまた一本タバコを吸い終えて吸い殻弾いてから家燃やして。

 

 

 

「魔王様です。魔王様なので魔王らしく、人間界の人間たちを蹂躙しながら町や村を焼いて根絶やしにするためやって参りました。

 抵抗するだけ無駄なので大人しく死んでくださいとか言ってみましたけど、嘘ですから。できるだけ頑張って無駄なあがきの抵抗をしてみてくださいね?

 コレでも一応は魔王様なので、抵抗する弱敵を虫けらみたいに踏み潰しながら進んでいかないと魔王らしい活躍ができません。

 そう思われるでしょう? 貴方たちも。ねぇ? 被害者の人間の村第一号に住んでたせいで魔王の生け贄にされた皆様方♪」

 

 

 うん、やっぱ許せなかったんで思いっきし脅しまくって憂さ晴らししてから許してあげることにしますね☆

 魔王と呼ばれたからには一度はやってみたかった『ブタは死ねぇ!!』の狂った最強戦士な王様に、今日の私はなるのを目指す!!!

 

 そして!!!―――その後のことは思い出したく有りません。

 黒歴史です。黒歴史だから、無かったことにされて黒く塗り潰されて抹消された、過去なのです。語源はソッチの過去地球史ターンエー。

 

 

 

 まぁ、大雑把にだけ説明し説きますと、大体こんな感じのことがあった訳でございまして――――――――

 

 

 

【――アクを崇めい・・・・・・】

【百鬼眷属の王たる魔王を喚び出すため、生け贄として用いるとも知らずアクを差し出す大うつけ共よ・・・悉く滅びるがよい。

 汝らが我が眷属と成りし下僕たるアクに行ってきた狼藉と非礼の数々、断じて許しがたしィ・・・。生き残りたくば己の罪を悔い、懺悔し、跪いて許しを請うがよかろう・・・そして首を刎ねられよ!!】

 

『ひぃぃぃっ!? 結局どっちにしても死ぬーっ!? 殺されるー!? どうか命ばかりはお助けください魔王様ァァァァァッ!!!』

 

【ならばアクを崇めい・・・そして自らの命に値する身の代を差し出すがよかろう・・・】

 

『え・・・? み、貢ぎ物・・・でございますか・・・? で、ですがこの村は見ての通り貧しく、大した価値のある物などどこを探しても見つかるわけが―――』

 

【安物しかないというなら是非もなァし・・・自らの命の対価はガラクタと等価値であると断ずる、その勇気に免じて予が直々に平坂へと送り、その頭蓋を杯として月見の宴に用いてくれるまでよッ!!!!】

 

『ヒィィィィッ!? 今すぐ探してきます! 今すぐ探してきますので少しの間だけご猶予をーッ!? オイお前! 村長の家を襲え! そして奪え! 奪い尽くして魔王様とアク様への貢ぎ物として捧げて俺たちの身の安全を保証していただくのだーッ!!』

『合点承知! 村長のクソジジイが邪魔しやがったらぶっ殺してでも分捕ってくるぜ!』

『そうしろ! あのジジイ、“厄介者のアクさえ差し出せば我ら全員助かる”とか大ボラ吹きやがって! 全然逆じぇねぁか! あんな奴は地獄に落ちて俺たちの代わりに苦しみ続けやがれってんだよ!!』

 

【喝采せよ・・・喝采せよ! 我が至高なる力と、それを持つ我と契約せし者アクに喝采せよ!! 黒き豊穣の女神への贈り物は子供たちという返礼を持って帰る! かわいらしい子供を以てなぁ・・・・・・見るがよい!! [イヤシグ・ニグラス]!!!】

 

『ひ、ヒィィィッ!? 村の周囲の景色が一変して・・・しかも村の中央に、像が!?』

 

【フワァッハハハハハハ!!! 我が前に人は無くゥ!! 我が後にも人は無しィッ!!!

 我と、我らに従わざる者、すべて滅する!!! 喝采せよ! 喝采せよ! 喝采するのであぁぁぁッる!!!】

 

『う、うわぁぁぁぁッ!? 魔王様バンザイ! アク様バンザイ! バンザイ! バンザイ!! バンザァァァッイ!?』

 

【アイアイ・サーと言わんかぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!】

 

『は、はぃぃぃッ!? あ、あいあいさぁぁぁぁッ!!!!』

 

 

 

 ―――とまぁ、こんな感じ↑だったわけでして。

 いや~、我ながら・・・ものすっげぇ暴走ぶりと迷走ぶりとごった煮ぶりでしたよね。本当に。

 これで黒歴史にならなかったら私は本当に人ではない魔王なんじゃないかって思えるくらいには、人として恥ずかしすぎる恥知らずっぷりを発揮してしまいましたわ。

 知人に見られてたら、ネタで済ませられる範囲をオーバーキル確実な超高レベルでね。

 

 

「で、でも魔王様。ボクは嬉しかったですよ? 今までボクのためにあそこまで怒ってくれた人は魔王様が初めてでしたし・・・。

 それにそのー・・・、村の人たちには悪いかもしれませんけど、少しだけっていうかボクも結構スッキリしちゃいましたから!」 

「・・・ありがとうございます。そう言ってもらえると私もちょっとだけ救われますよ・・・」

 

 自分のキャラ性からくるノリと勢いでおこなってしまった、厨二病なのか何なのかよくわからない支離滅裂でメチャクチャな行動によって誰か一人でも物理的に救えたとするならば黒歴史にも価値は生まれるものです。

 

 ターンエーガンダムだって、元を正せば笑える内容から始まってたような気がしますし、なんとか折り合いをつけるとしましょう。

 フルチンを金魚で隠していた少年主人公になるよりゃ、少しはマシな気がしますしね。

 

「・・・ここで蹲っててもなにも始まらないし、どこにも行けないのは確かですから、そろそろ何処かへ向かうとしますかね・・・。

 丁度お金も少しだけ入ったことですし、どこか通貨が使える町までテキトーに」

「はい! ――あ、そう言えば村に置いてきた“アレ”は、どうされるんですか?

 そのまま置いてきちゃいましたけど、魔王様の持ち物ならもったいなかったんじゃあ・・・」

「・・・ああ・・・アレねぇ・・・・・・」

 

 私は村人たちを脅して手に入れた戦利品のお金――もとい、正当な権利として支払ってもらった慰謝料とか養育費とか、その他諸々のお金を(異世界通貨なので妥当な金額かどうか判断できませんけれども)片手で弄びながら、アインズ・ウール・ゴッコに興じて楽しすぎてノリ過ぎちゃったせいで、なんとなく取り出して村に置いてきてしまったアイテムについて思い出しながら少しだけ沈思黙考。

 

 ・・・偶然にもアイテム欄開けたときに、一つのアイテムが二つ分のスペース消費してたから邪魔だなーと思って、捨てるコマンド押す代わりに置いてきただけの代物なのですが・・・。

 アレってそもそも、なんて名前のアイテムでしたっけかね?

 異世界きたばかりで回復系アイテム以外はいらないなーと思い、確認もせずに雰囲気に乗っかって捨てちゃっただけのアイテムなのですが・・・。

 

 えーと、えーとぉ・・・たしか一瞬だけ見たときに見覚えのある名前が書いてあったような気がしたので多分それで、アレの名前はえ~とぉぉ・・・・・・そう! 思い・・・出しました!!

 

 

 

アイテム名『本物ソックリ「おしゃべりデブカッパー」』

効果:置物ロボット型アイテム。NPC道具屋に売れば高く売れる。それ以外の使い道なし。

 

 

 ・・・・・・なんで、こんなもの後生大事に持ったままにしてたの? ナベ次郎使ってたときの私って・・・。

 ネトゲーマーは変なところで物持ちよくて、無意味なアイテム集めたがるコレクター精神もってるからたまに困りますよね本当に。

 

「――ま、まぁ、お金をもらうだけで何も残していかないのでは流石に気が引けますからね。

 物がない暮らしの中から支払わせたアクさんへの迷惑料の代わりに、私の方から妥当な品物を送っておいてあげただけのことですよ。

 あなたが気にするほどの事じゃありませんから、手に入れたお金で何かおいしいものでも食べに行きましょう?

 それはあなたが今までやってきた仕事への正当な報酬ですから、好きに使ってしまってかまわない物なのですからね」

「魔王様・・・・・・ッ!! そこまでボクのことを考えてくれて・・・感激です! 本当に!!」

「ハ、ハ、ハ、ハ・・・・・・HAHAHAHA・・・・・・」

 

 ・・・ヤベー・・・。本当のことがドンドン言えなくなってく勘違いされ系主人公の状況超ヤベぇー・・・。逃げられなくなるよぉ―・・・。

 そしてアクさんから送られるピュアな子供の悪意なき感謝の眼差しが、腐った大人の心に終わることなき地獄の苦しみを与え続けてくるよぉー・・・・・・。

 

「と、とにかく出発です! ひとまずは都会を目指して――神都とやらに!!」

 

 とりあえずデカいこと言っときゃ騙せるピュアな子供心をごまかすために、私は彼女を背負って全速力でその場を走り出し、指し示された方角にあるとされる神都へ向けて直走りだしたのでした。

 

 

 ・・・断じて犯行現場から少しでも遠ざかりたい犯罪者の心理に駆られたからではありませんので、お間違いなきようにね!? 断じて!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そして、その頃。

 村焼き討ちの主犯と化した魔王様と、暗い過去を持つ明るい悪の旅が始まったのと、時をほぼ同じくして―――聖王国 僻地にある領主館にて。

 

 この辺りの寒村をいくつか支配している領主ビリッツォ・ラングは、今朝方に届けられた久しぶりの朗報に喜色を浮かべていた。

 そして昼頃に入ってきた続報を聞いた時、ビリッツォは完全に運命の女神が自分に微笑んでいることを感じて幸福の絶頂に至る未来を迎えることになるのだが。

 

 その直後、続報の補足情報として聞かされた報告によって彼の幸せな未来像に影が差し始め、それ以降に届けられる情報のすべてが彼の機嫌を悪い方へ悪い方へと下降修正するものばかりが届けられるようになり。

 時刻が夜になる頃には彼の形相は一変しており、家族を震え上がらせ、しばらく後の未来で家庭崩壊を起こす要因になっていくのだが―――

 

 そんな未来の自分に訪れる不幸など、久しぶりの朗報に喜色を浮かべていた今朝方の彼や、女神の微笑みが自分に向けられていると感じ取った直後の昼頃の彼は知る由もない・・・・・・。

 

 そんな彼に訪れる未来の不幸は最初、完全なる朗報から始まっていた。

 何と、“蘇った悪魔王が死んだ”というのだ。

 

 ただでさえ税収などロクに望めない地だというのに、あんな化け物に荒らされたのではどうしようもない。

 と言って、大した実りもない辺境のド田舎を守ってやるため軍隊を派遣するバカな王など、どこの国にもいない以上、悪魔王復活について神都にどれだけ早馬を飛ばそうとも梨の礫になるのは当然のこと。辺境の小領主でしかない彼には本気でどうすることもできない難題だったのだ。

 

 それが、死んだ。

 どこかの物好きなヤツが、自分の代わりに厄介者を片付けてくれたのだ。これを祝福せずして彼の人生に華はない。

 さらには昼頃に続けて入ってきた「魔王降臨」の一報を聞いて、彼は完全に運命の女神が自分に微笑んでくれたことを確信する。

 

 “魔王”など、実在しているはずがないからだった。

 

「出来るだけ大袈裟に騒いで神都を巻き込み、このクソッタレな僻地から抜け出すことに利用すべきだ。

 何らかの騒ぎさえ起きれば、それを可能となる好機が見いだせるかもしれんからな」

 

 彼は報告を聞いたとき、そう考えたのである。

 ビリッツォ本人は魔王などという存在を少しも信じておらず、無知で貧乏な愚民どもが騒いでいるだけだと決めつけているが、彼の仕える名目上の主が聖王国の聖女であるという事実まで否定する気は彼にもない。

 

 聖王国を統べる聖女が、復活した魔王討伐に赴くのは当然の義務でしかなく、彼はただ偉大なる聖女様に魔王復活の方をお伝えすればいいだけなのだ。

 ――ただし出来るだけ説得力と悲惨さを加味するため、大袈裟な話に誇張させて――

 

「復活した魔王とやらに襲われた村まで兵を向かわせろ。

 場合によっては村人ごと村を焼き滅ぼしてしまってかまわん」

 

 ビリッツォは部下の兵士長を呼び出すと、そう命じて配下につけられた部隊を派遣した。

 名目上は復活した魔王の魔手から村人たちを助け出すためであったが、彼の本音は言葉通り『助けに行かせた村の殲滅』そのものだったのは言うまでもない。

 

「たかが、農家一軒を焼き払って全焼させただけの魔王など、信憑性に欠けること甚だしいわ。

 どうせなら一つの村をまるごと焼き払ってくれていたら楽だったものを・・・気の利かぬ魔王めが。所詮、偽物などこんな物か」

 

 彼は最初の報告にあった「復活した魔王のもたらした村の被害」を思い出し、鼻で笑って失笑したものである。

 この魔王の災禍と呼ぶには小さすぎる被害こそが、魔王という存在が眉唾物であることを示す何よりの証拠だと断じることができたからであった。

 

 ――その笑顔が困惑に歪められたのは、その時から小半時ほど過ぎた時分。

 派遣した部隊を率いさせた兵士長が蒼白な顔色になって戻ってきて、彼にあげた報告を聞いたときからの話となる。

 

「村の周囲がすべて、破壊し尽くされていただと・・・?」

「は、はい・・・村が受けた被害そのものは農家一軒が全焼しただけに過ぎなかったのですが、その村の周囲に広がっていた荒れ地は全て跡形もなく破壊し尽くされており、グレオールの呪いに覆われていたはずの土地は寸土といえども残されることなく全て焼き払われておりましてその・・・・・・」

「何故だ!? 報告では村が受けた被害は、一軒の農家が全焼しただけだったはず! そこまでの被害を受けながら何故ワシのもとまで報告されておらぬのだ!?」

「・・・おそらく、報告した者が命じられたとおり『村が受けた被害“だけ”』を報告したからではないかと思われますが・・・」

 

 ビリッツォは兵士長の報告に激怒した。魔王の暴虐に対してではなく、報告者の無能ぶりに対してである。

 なんたるお役所仕事! 言われたことだけやって給料をもらおうなどとは許しがたい無能な臣下ではないか!

 即刻明日にでもクビにして屋敷を追い出し、全財産を没収して自分の懐に収めてしまおうと画策しながら、ビリッツォはまだ魔王のもたらした被害を正しく認識してはいなかった。

 最初に彼を喜ばせた報告者と違い、兵士長からの報告には“続き”があったのだ。

 

「お怒りはご尤もですが、親方様。怒っておられる場合では御座いませぬ! このままでは民衆たちの間で反乱が起きてしまいかねぬ事態が生じてしまったのです!」

「・・・一体なんの話だそれは? ――まさか! 魔王はすでに村から退去して何処かへと飛び去ってしまったという話さえ間違いだったのか!?」

 

 ビリッツォは恐怖のあまり兵士長を強い口調で問いただしたが、幸運なことに彼の予測は外れていた。

 ・・・真相は彼にとって予測が当たっていた方が、まだマシだったかもしれないものだったけれども・・・。

 

「魔王本人はいなくなっていたのですが、ヤツは自らの支配下となった村に番人を置いていったのです! 恐るべき力を持ち、悍ましい姿をした番人を!!」

 

 兵士長からの報告内容はこうだった。

 ――当初、村の周囲の惨状を目にした彼と部下たちはそろって青ざめたが、子供の使いでない以上は何かしらの成果を得られない限り報告にも戻れないからと、勇気を出して村に忍び寄り、一人でも生存者がいればその者を保護することで状況を聞き、最悪の場合にはその者に全ての責任を押しつけられないものかと本気で頭を悩ませながら『魔王に滅ぼされたはずの村跡』へ、ゆっくりゆっくりと近づいていったそうである・・・・・・。

 

「そこで私は恐ろしいものを目にしたのです・・・。身の毛もよだつほどに恐ろしく、この世のものとは思えないほど悍ましい光景を・・・・・・」

 

 なんかこの人、夏の世の怪談特集みたいになってきてないか?

 ・・・とは思いつつも回想シーンそのものは続ける。

 

 村に到着した彼らにとって意外なことに、村人たちは全滅していなかった。

 それどころか誰一人殺されることなく全員が生存しており、村の周囲の惨状が見えていないわけがないにも関わらず恍惚とした表情を浮かべ、兵士たちからの問いにも同じ答えを返すのみであったという。『ああ、偉大なる我らがアク様と魔王様・・・』――と。

 

「なんだと! “悪魔王様”だと!? おのれ村人どもめ!

 グレオールの力を恐れるあまり女神様を裏切り、ヤツの配下となってサタニストにまで落ちぶれるとは何たる恥知らずか! 聖王国への忠誠と誇りはどこへ消え失せたのだ! 恩知らずの裏切り者どもが!!」

 

 彼は報告を聞いて激怒した。勘違いだけれども、聞き違いだけれども。それでも激怒したこと事態には間違いはない。

 

 近年、この智天使への信仰心によって纏まってきた聖王国内で、サタニストと呼ばれる悪魔信奉者たちが急増し、国内各所で民を巻き込む恐ろしいテロ行為を行っていることは辺境のド田舎に領地を持つビリッツォでさえ知っている常識となっている。

 

 そして、彼らサタニスト共の多くは貧しさから智天使様を裏切り、自分たち智天使様とともに悪魔王と戦った偉大な先祖を持つ貴族たちから奪い取った金で安穏と暮らしたいと願ってやまない、学も金も持たぬ卑しい貧民どもで構成されていると聞き及んでいた。

 

 貧しさという自分たちが抱えている問題を自分たちの努力で解決しようとせず、ビリッツォたち貴族に責任を押しつけて、挙げ句の果てには自分たちを救ってくれないからと智天使様への信仰を捨て、貴族制度の廃止を訴える悪魔信奉者に願えることで富の略奪を正当化しようなどと主張している俗物共を絵に描いたような集団である。

 

 まったく、他力本願にも程がある! 自分が抱えている問題くらい、自分たちで解決する努力をすればいいものを・・・。

 すべて他人にやってもらって、そのおこぼれだけ頂戴しようなどと言うのだから呆れてものも言えなくなるとはこのことだ。

 

 ビリッツォは自分がやっている所業を思い出すことなく、遙か遠くの異世界まで自己の責任問題を棚上げにして、本気でサタニスト共の怠惰な無責任ぶりを嫌悪していた。

 人間という生き物は、誰でも他人のことだけには正しく冷静に客観的に批評できるものである。

 

 だからこそ彼は、魔王に襲われたという村も、貧しさを理由に悪魔信奉者に身売りして悪魔王を超える真の魔王を召喚したのだろうと次の予想を立てたのだが、彼の予想はまたしても外れることになる。

 

「いえ、親方様。サタニスト共ではありません。たしかに村人たちは悪魔信仰に目覚めたようではありましたが、サタニストになったのとは少し違うようでもありました」

「・・・・・・?? どういうことなのだ? それは・・・」

 

 ビリッツォは混乱した。

 彼にとって天使とは正反対の悪魔や魔王を崇めることはサタニストになることを意味しており、それ以外の可能性は発想さえ思いつくことができない思考法の持ち主だったからである。

 

 今の自分が知っていることが全てだと信じる類いの人間なのである。

 視野が狭く、それに伴い自分の認識できる範囲までしか世界の広さを認識することができない。

 そこから先へ広がっている世界のことは、彼にはまるで理解が及ばない異世界の事情としか考えることができていない。

 

 そんな彼にとり、まさにその村の現状は異界としか言い様がない惨状を呈していたことが兵士長の報告にとって彼は知るところとなる。

 

 

「村人たちは自分たちが暮らしていく村の周囲の惨状などには目も向けず、村の中央に置かれた禍々しい怪物の像を取り囲んで、ただ一心に祈りを込めて呪文を唱えながら踊り続けていたのです。

 それはまさに邪教の儀式そのもの・・・・・・到底、正気の人間が成せる業とは思えない光景で御座いました・・・・・・」

 

 青ざめた表情のまま彼は語る。

 だが、ビリッツォにとって問題なのはむしろ、その後に続いた『実害』についての報告だった。

 なんと村人たちから祈りを捧げられていた怪物の像が、独りでに動き出したというのである!!

 

「・・・アレはまさに地獄のような光景でした・・・。

 あるいは噂に聞く「奈落」とは、あの化け物のような存在が跋扈している世界のことなのかもしれないと思うほどに・・・・・・」

 

 恐怖のあまり引きつった顔で兵士長は語る。その怪物の像が示した、恐ろしい魔王の力の一端を、震える口調と恐怖感に彩られた口ぶりで克明に―――

 

 

 まず怪物は、周囲の穴だらけになっていた荒れ地を耕し始めたという。

 それは村人たちにとっては有り難いことであり、彼ら自身もいずれはやろうと思っていたことではあったが、その速度とやり方が尋常なものとは掛け離れすぎたものだった。

 

 怪物の像はすさまじい早さで大地を進み、遮る物はがあれば全て頭部に付いたオリハルコン並の強度を持つように見える円形の盾を前に出して突撃しながら破壊して進み。

 魚のヒレのような形をした、人の腕とはまるで異なる両腕を振り回しながら大地の中を、まるで海の中を及ぶかのごとき進み方で疾駆し。

 鳥の嘴のようにも見える先のとがった唇を開くと、希少なはずの水を絶えることなく周囲の耕し終えた大地に放出し続け。

 

 貧しい土地では非常に高価な水に目がくらんだ兵の一部が抜け駆けをして、像を独り占めしようと近づこうとしたが、まるで『兵士の姿が見えていないように無視されて』ただ土を耕す作業に巻き込まれただけで遙か遠くに見える山の向こうまで吹っ飛ばされてしまった・・・・・・。

 

 

「・・・おそらく我々など相手にする価値なしと判断したのでしょう。

 そして、その怪物が我々に与えた認識は間違いなく正しい・・・。

  聖王国に仕える兵として情けない限りではありますが、我々にはあの怪物を取り押さえることはおろか、ただ黙って見ている以外のことをする勇気など欠片も沸いてこなかったのですから・・・」

 

 

 そして兵士長が疲れ切った口調で語る話の最後によるならば、作業を終えた怪物は元いた場所まで一瞬にしてジャンプだけで戻ってくると、おもむろに村人たちに向かって歌を歌い出したと言うではないか!

 

 

 それは明らかに怪物そのものについて語っている歌ではなく、自分ではない別の何者かを讃えている異形の賛美歌。

 どこからともなく響いてきた音楽は、まるで修道院でシスターたちが子供たちに聞かせるためピアノを弾いているかのように綺麗な旋律。

 

 だが、音に併せて響いてくる歌の歌詞は、常人が聞いているだけで発狂しそうになるほど頭がおかしいとしか思えない、魔王を讃える賛美歌としか思えない異形の内容―――

 

 

【ああ、魔王様~♪ 魔王様~♪ 

 輝く瞳は、そよぐ髪♪ 山より高く、海より深い♪

 どんなに晴れた、寂しい昼も♪ あなたを思えば怖くない♪

 どんなに明るく、悲しい場所でも♪ あなたがいるから、へっちゃら、ぷー♪】

 

 

 その歌が終わるとともに村人たちが唱和する。

 自分たちに祝福を授けてくれた偉大なる魔王様と、その魔王様をこの世界へ召喚してくださった偉大なる救世主の少女の名を讃えるためのコーラスを―――

 

 

『ああ、魔王様ったら魔王様♪ 我らが救いの魔王様~♪

 どんなに辛く、苦しい場所でも、あなたさえいればヒラサカ天国、ぷー♪』

 

 

 

「・・・な、なんなのだ・・・? それは一体、どういうことなのだ・・・? ワシにはさっぱり判らん! 理解できん!

 そんな意味不明なことなど現実においてあり得るはずがないではないか!! 貴様! ワシを馬鹿にしておるなら許さんぞ!!」

「事実です! 誰が何と言おうと、智天使様に誓って私は自分の目で見て、耳で聞いた事実だけを親方様にお伝えいたしました!!!

 聖王家に仕える者として、嘘偽りは一言も申しておりません!!」

 

 強い口調で断言し返されてしまって、ビネッツォは何を言えばいいのか判らず唖然としたまま黙り込むことしか出来なかった。

 それでも兵士長は続ける。続けざるをを得ないのだ。

 このまま放置すれば間違いなく反乱が起き、民たちはこの地へ押し寄せてくる可能性すらあり得るのだから―――

 

「親方様! これは重大な事態ですぞ! サタニスト共に変わる、新たなる悪魔信奉者の集団が誕生してしまったかもしれないのです!

 しかもたった一匹で騎士団にも優る強大な力を持った怪物を戦力として与えられ、尚且つ怪物は魔王に従う者には実質の伴った恩恵すら与えてしまっている・・・・・・このことが今の聖王国に不満を持つ者たちに知られてしまっては民たちの反乱は避けられません!!

 親方様! どうか我らに指示を!

 聖王国を守るため、聖王国に仕える者として我ら一丸となって親方様のご指示に従い、不詳なる身の全力を持って粉骨砕身して国と民を守り抜く聖戦に協力させていただきますれば!! どうか親方様!!! ご決断を!!!!」

 

「・・・・・・・・・イヤだ・・・イヤだ・・・・・・何でこうなったんだ・・・? なぜ貴族のワシがこんな目に遭わねばならなくなっておるのだ・・・? 誰のせいだ・・・? 誰のせいでこうなったぁぁぁッ!?」

 

 

 こうして、ビリッツォは事の次第を『最大限過小評価した内容』の報告を神都まで早馬で送り出し、話を聞いた聖女の一人を伝承に謳われた魔王討伐のため『一人で』赴かせることになるのだが・・・・・・。

 

 

 そのとき聖女が下した判断ミスは、現場の判断で勝手に報告書の内容を書き換えて、事態を過小評価させる要因となったと判断され、教会もまた彼が嘘をついて智天使様の威光を傷つけた大罪人として厳罰に処する以外にないと聖女姉妹のトップに通告することになるのであったが、心優しき聖女たちの長女が教会や貴族たちの不正と嘘に慣れすぎていたため真相が暴かれるまでには今少しの時間を必要とすることとなる。

 

 

 その間、ビリッツォ・ラングは生まれたときからの貴族として貴族らしく、苦労を知らない丸々太った栄養価の高そうな肉付きをしていた身体をストレスによって大幅に減量させられ、裁判に呼び出されたときには誰もが彼だと保証できないほど別人のように干からびた老人のようになっていたと裁判所の記録には記されている。

 

 そんな彼が残した数少ない言葉に、こんな一文があったと歴史が語る。

 

 

「魔王だ・・・魔王が全てを仕組んで、ワシを陥れたのだ・・・。そうでなければワシがこんな目に遭わねばならぬ理由がない・・・・・・」

 

 

 

――続く!!

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