けっこう前からアイデアだけはあったものの、色々と配慮しなきゃいけなさそうでしたのでネタとして語ったことしかないのを形にした作品です。
苦情は受け付けておりませんので、上手くお答えできる自信はありません!
書くのは問題ないですが、期待しなで下さいませ!マジで自信ないッス!(ガチ)
――これは伝説だ。
この國で最も有名な、王の伝説。その一つ。
『聖剣を持たぬ我々は、理性を以て国難を防ごう。
彼の眠りの安からんことを』
それは、かつて国を救った一人の英雄にまつわる物語。その一つ。
誰にも抜けなかった選定の剣を岩より抜いたことで王となり、夷敵の侵略から国を守るため戦い続け、生涯にわたって敗北を知らぬまま戦いを終えた、常勝の王を語った伝説の一幕。
かつて王の国だった土地は、今では王の敵だった者たちの子孫と王の民の子孫たちとが混じり合い、新たな国の民として生を謳歌し、刻は流れ、時代は変わった。
しかし時は移り、民族や肌の色は変わろうとも、人々は国土を守ろうとした王の奮闘を讃え、今も国を守ってくれていると信じ続けている。
いつか蘇る王・・・・・・彼の伝説を記した書の終わりには、こうある。
『国難が訪れた時、彼は蘇り、聖剣を以って国を救う。
いつか蘇る伝説の王――』
最後の戦いで負った傷を癒やすため、妖精郷へと赴いた王は、国家存亡の危機にふたたび現れ国を救ってくれるだろう・・・・・・。
人々は今も、王への感謝と祈りを込めて、伝説の王をそう讃え続けている―――。
だが・・・・・・。
だが、しかし。
もし本当に、戦いで負った傷を癒やすため異界へと旅立った王が、某国の危機を救うため数百年の時を超え、再び蘇って人々を守ってくれたとしたならば。
その王はもう――――人ではない。
別のナニカへと変わった後なのではないだろうか・・・・・・?
――20世紀、イギリス北部。
チェーダース村へと続く数少ない道路の一つ付近。
「・・・? 今夜は妙にサツの出入りが多いな。近くの村で猟奇殺人でも起きたかな?」
今夜何台目かのパトカーが通り過ぎていくのを見送ったジムは、楽しんでいる訳でもなさそうな普通の口調で呟いていた。
彼は別に、ネットのアングラで殺人動画を見て愉しむ趣味の持ち主ではなかったが、イギリス人らしい趣向として猟奇的な事件発生は、他国民よりも好みだったのは事実である。
この辺りには大した人口の町や村はなかったが、村落自体はそれなりの数が集まっている地方ではあり、若い金のないカップルを中心として夜の市民公園に屋台を出す、安くて上手い彼のような店にはそれなりに商売が成り立っていた。・・・・・・もっとも、今夜は流石に商売になりそうもなかったが。
「テレビ局の車も何台か来てたみてぇだし、今夜の客はアッチで独占かぁ。――もっとうちにも、みかじめ料払える余裕でもありゃあなぁ~――」
「店主、その肉焼きを5本」
「――お?」
失わなれた今夜の稼ぎに未練がましい視線を送っていた彼の耳朶を、凜とした声が叩くのが聞こえた。
見ると、十代半ばと思しき黒服の少年――いや、少女だろうか? どこかの金持ちに愛人として可愛がるため買われた両性具有者かもしれない。
それほどに中性的な美貌をもった児童だった。・・・・・・ただ少し、肌が青白すぎるような気もしたが・・・・・・。
何らかの事件があったらしい夜に、夜歩きの買い食いとは暢気なもの――他国人なら、そういうかもしれないが、ここはイギリス。霧と神秘に包まれた大英帝国がある本国である。
切り裂きジャック事件が起きた時にも、ホワイトチャペルでは娼婦たちが商売を続けて犠牲者となった。
ペストが流行した時にも、そうだった。魔女裁判の時もそうだ。
さまざまに血と惨劇に彩られた深い闇と眩い光を、両輪の車軸として歩み続けた栄光の歴史が遺伝子となり拡散し、現代を生きる彼のそういう趣向を育んだのかもしれない。
「珍しいね、アンタ。こっちには大した観光地がある訳でもないのに、ロンドンからかい?」
「・・・分かるものなのか?」
「訛りでね。混血が多いんだ、この辺りには。ウェールズの色が強すぎる」
「なるほど」
夜の闇に溶け込むように、夜の闇の一部のように。
黒い黒いダークスーツをまとった、金髪とグレーの瞳をもつ美少女のような美少年・・・・・・霧と幻想に包まれたイギリスの夜に出会うにはお誂えな見栄えの良さだったが――出来過ぎている気もするな。やらせ臭い、と店主は心の中で小さく吹き出す。
店主はさすがに年齢相応の分別を弁えており、ゴシップ誌のような三流ストーリーを現実に求めるほど青くなかった。
注文通りの品のうち、既に出来上がっていた三本だけを袋に詰めて、残りは焼き上がってから渡すつもりで、今食べる分を差し伸べる。
その際、相手の客の胸ポケットから音が鳴って、そこに収まっていた小さな箱を開いてから耳元に近づけ、二言三言、聞き慣れぬ単語を交えた会話を交わして再びしまう。
「すまない、オーダーが入った。残りは食えそうもないが、代金は置いていく」
「いいのかい? こっちにゃ有難いがね」
「ああ、客を待たせると後でうるさい。遅刻を許したがらないクライアントなものでな」
「そうかい。それじゃ、毎度。今夜はなんか危なそうだから気をつけて帰りな、アンタに神のご加護がありますように」
「・・・かみ・・・?」
ふと、そこまでネイティブだった少女のような少年の声か、少年のような少女の声が奇妙な言語を聞かされたような口調で呟き、しばらくナニカ熟考し、考えてから発したらしき内容を口に出す。
英国人らしい儀礼として。
本心はどうあれ、表面的には相手の内面を尊重する言葉として。
「――ああ、そうだな。“かみ”のご加護を」
そう言って、ガブリと買ったばかりのホットドックに齧り付く少年。あるいは少女。
見た目に反して、惚れ惚れするような食いっぷりだったが・・・・・・一つだけ。
―――妙に、“長い犬歯”の少年だな・・・・・・。
その点だけ店主は気になり、やがて忘れ去る。
彼にとって今夜の事件はそこで終わる。
だが、夜そのものに終わりは無い。
夜の終わりはまだ来ていない。
朝の訪れは、まだ遠い―――
黒服のダークスーツをまとった中性的な人物と、屋台の店主が語り合っていた場所から遙か遠く―――というほど離れてはいない距離にある首都ロンドンの一角。
「チェンダース村の教会にその牧師が赴任してきたのは、6月12日。村民の失踪事件が始まったのは、それから一ヶ月後・・・・・・奇妙な牧師だったそうです」
その場所で、一人の小柄な中年男は二人の人物に前にして、卑屈そうな声音で英国北部の小村で起きた事件の概要を説明しはじめる。
語っている場所はロンドン警視庁、誇るべき大英帝国首都の治安を守り続けてきた由緒ある建物の一角。
そして、切り裂きジャック事件の際には、暴徒化した愚民たちの弾圧機関として悪名高かった場所である。
「昼間ほとんど外に出ず、薄暗い礼拝堂にいつも一人でいる。たまに外へ出ることがあっても雨や曇りに夜間のみ。まるで太陽を嫌っているかのような神父の行動に、村の人々も声には出さないが疑問は感じていたらしい。
そんな中で事件は起きた。隣村へ使いに行った青年が次の日になっても帰ってこなかったのだ。その後も事件は続いて、10日の間に村民10名が消えた村は恐怖の只中にあった。
地元警察が捜査を進め、一昨日には村人たちと共に牧師を逮捕するため教会へ向かった・・・・・・運の悪いことに夕方の、それも夜近くにね。全員が死亡したよ」
「――フッ」
説明の途中でヘルシング卿と呼ばれた女性は、鼻で笑い飛ばす仕草をしたが、声に出しては何も批判されては来なかったので、語っていた中年男の刑事部長は気を取り直して説明を再開する。
語り出した彼は仕事柄、この手の演技には慣れていた。
こういう時には下手に逆らったり、プライドで吠え立てるより、卑屈に出て下手な態度で見下されるように仕向けて、逆に相手のプライドを満足させてやるに限る。
それで実害のある波風が、何事もなく吹き去ってくれるなら、無害な荒波などは些事と思って切り捨てるのが、名誉あるノーブルにとって真の矜持と呼ぶべきであろう。
「事態を重く見たロンドン警視庁は《D11部隊》を出動させたが・・・・・・失敗した。
現場指揮官の判断のもと、一個中隊を投入したが昨日の展開では半数の犠牲を出して撤退。しかも所持していたカメラの映像を見る限り、彼らを襲っているのは死んだはずの地元警察官としか思えない。
この事態に至り、専門家のご意見をお伺いべきだとの見解に達し、ご足労頂いたという次第であります、ミス・インテグラ。いえ、ヘルシング卿――」
「人間ではない」
『・・・・・・へ?』
途中から説明を引き継いでいた《D11部隊》の隊長――要するに投入すべき戦力を決めて部下を無駄死にさせた現場指揮官ご本人から、直々の説明を受けている途中でインテグラと呼ばれた若い女性はボソリと。
呟くように小さな声で、相手たちの間違いを指摘した。
そう、間違いだ。ミステイクだ。非常に大きな過失。根本的な前提条件の履き違い。
たった一点の過ち、そして絶対に間違ってはいけない部分だけを完全に間違えてしまった故の、愚かすぎる致命的欠陥。
「ただ餌として“奴等”に血を吸われた者は食人鬼【グール】という存在に堕する。その程度の基本的知識ぐらいレクチャーは済んでるでしょう? くだらない部分でいちいち間違えないで頂きたい」
バッサリと切って捨て、インテグラは相手の知識間違い―――あるいは知っていながら故意に目を逸らして自己の良識内のどれかに当てはめたがっただけの願望を、厳然とした事実によって押し潰す。
「それは無論、知っておる。しかし今の彼らが、人間でないとまでは言い切れないのでは・・・・・・」
「ご安心を。その作戦失敗に関して、貴方の落ち度を追求するつもりも権利も私にはありませんので。刑事部長」
「・・・・・・落ち度、かね。私の」
異論ありげな言葉を、だが先程までと差して変わらぬ口調と態度で、非難するように呟く刑事部長。
その声には明らか過ぎるほどの、保身の匂いだけしか漂っているものはなにもなかった。
プライドを示すことで見下される段へと舞台が進行したことを、如何にも官僚育ちらしき風貌の刑事部長は敏感に読み取っているようだった。
彼はそういう社会を住処としている類いのニンゲンだ。風向きを確かめ、時に媚びいり、時に見栄にこだわって見せ“かけること”で相手のプライドや自尊心を満足させることで生き延び、栄達する。
「チェダースで何が起こっているのか、少なくとも貴方なら。知識あるロンドン警視庁刑事部長である貴方なら。
どういう対処を取ることが賢明であるか――と言うより、唯一それしかない対処があることを故意にか忘れ、お仲間同士でなんとかしようとした所で、こういう展開になるのは自明であったはずなのですがね・・・・・・」
「――無論のこと、忘れていたわけではないよ。王立国境騎士団のことを。
君たち、《HELLSING機関》のことを忘れていたなど、ある訳がない。ただ――」
「落ち度について追求する気はないと、既に申しました」
相手からのくだらない弁明を遮りながらインテグラは席を立ち、夕暮れ迫る窓際へと歩み寄りながら、まだなお何か言いたそうにしている刑事部長に止めとなる錠前を、言葉としての形で閉ざしてやる。
「もっとも、相手がフリークではなく、ただの人・・・・・・・ヒューマンであったなら。
たかが一人の人間の犯罪者ごときを鎮圧するため、《D11部隊》を一個中隊も半壊させられた責任者たちの失態は、私でさえ追求が許される立場になるのかもしれませんが」
『・・・・・・』
「ご理解いただけたのでしたら、早急な手続きの受理を。コチラは、その為だけに途中で立ち寄って差し上げているのです」
「・・・・・・・・・了解したよ、サー・インテグラ・ヘルシング卿」
不満そうに――と言うよりも、不愉快さを滲ませた声音で、卑屈そうな態度と口調で猫なで声を発する刑事部長の中年男性。
面倒ではあったが、異なる管轄を担当している対等な立場の機関が扱っていた案件を引き継ぐにあたって、由緒ある英国の組織はこうした形式が無視しづらい。
また、特定の対策専門に特化した自分たちの機関にとって、彼らの協力が得られなくなるのも厄介なのも事実ではある。だからこそ、こうして儀式をこなしに来てやっているのだから。
まぁ、もっとも。
儀式は儀式であり、形式的に守ったことにしてさえやれば、それでいいモノという見方も今日では客観的な事実なのだが―――
「では、これで今回の一件に関する全ての権限は、我がヘルシング機関に一任されるものと認識する。以後はコチラの指示に従う形で動いていただきます。
これから私もチェダースに向かい、既に到着している私の機関と現地にて合流します。その為の手続きに参りましたので無駄足にならず何よりでした」
「いつのまに・・・・・・ですが、何個部隊を・・・?」
相手の職権の範囲内にあるうちに、自分の手駒を浸透させて事後承諾で合法化する。
各国政府から『ブリカス』と呼ばれた英国流マナー協定の守り方は今なお健在なようだった。
――とは言え今回、自分たちが使った手も似たようなもの。
下手なことを言って蒸し返されるのは御免だった刑事部長は、敢えて黙ったまま《D11》隊長の質問を聞き流していたが・・・・・・その質問への回答までは聞き流すことはできなかったらしい。
「一人だけだ」
『『一人ッ!?』』
思わず二人して腰を浮かし、大声で相手の暴挙を責めるように感情を露わにせざるをえない。
今更と言えば今更な反応ではあったが、常識で考えれば当然の反応でもあっただろう。警察内でも重火器で武装した精鋭部隊である《D11》が一個中隊がかりで半全滅させられるターゲットを相手に一人だけ・・・・・・とても正気とは思えない。
だからこそデモンストレーションとしては充分だったが・・・・・・悪感情を買いすぎて余計な邪魔をしてくるバカの暴走を見逃されても面倒。
ここは脅しをかけておく必要を、インテグラは感じたようだ。
「・・・・・・ああ、ですが今回は特別にサポートとして支援要員も送るよう命じておいたのを忘れてましたよ。
討ち漏らしが一匹でも外部にまで逃げ出ることがあっては、皆様方も迷惑でしょうからね。敗残兵狩りの部隊も必要かと―――無用な気遣いでしたかな?」
「い、いや、その配慮自体には感謝するが・・・・・・その支援部隊には幾つの部隊を? 問題なければお教えいただきた――」
「“彼の王はきっと鉄で出来ている――”」
「・・・・・・は?」
突然インテグラが詠うように語り出した詩の一節に、刑事部長とD11隊長は面食らう。
突拍子もなく聞こえる言葉を放ちながら、窓のブラインドを僅かに開いて夕闇迫る陽の光を浴びる美女の姿は、少なくとも画になっている。
――全身に、赤い血を浴びる黒聖母を描いた聖画のように。
「“岩より剣を抜きた王は、妖精の加護を得て敗北はなく、十二の会戦を超えてなおも不敗。されど王の心は誰にも解されることはなく、王の心はきっと鉄で出来ている”――」
「そ、その話は・・・たしか・・・・・・」
こちらの存在を忘れたように紡がれるインテグラの独白。
だが、話を聞くうちに刑事部長は一つの昔話を思い出す。
数年前、インターネットの個人サイトの一つで人気を博した詩人がいた。その人物がイギリスで名高い『とある王の物語』を詩に綴り、触発された熱狂的なファンが王の墓だという伝説がある遺跡を無断で発掘してしまったという事件があった。
結局その遺跡からは、近代に埋められたと思しき空の棺が出てきただけで他には何も見つからず、棺そのものさえ売名目的のフェイクとして、その王の詩と共に誰の記憶からも忘れ去られた昔の話。
・・・・・・だが、そういう存在の知識をもつ立場にある刑事部長は知っていた。
その遺跡――コーンウォールの地下深くから、新たに発掘された棺の中から発見されていたモノがあったという事実を。
国防のため、夷敵からの侵略から祖国を永久に守り続けてもらうため。
王が治めていた領土を、この島国そのものを守護する役目を“銛”として縫い止められた、絶対的な縛りを受けて存在し続けていたという伝説上のソンザイを・・・・・・。
「彼の王は、自らの君臨した祖国と、その地に住まう者たちを守り続けるため、夷敵の脅威より國を永遠に守るためにこそ出馬される。
――が、伝説上の王にとって我ら誇るべき英国貴族も民も、祖国を犯した征服者たちの血を引く子孫に過ぎぬのも、また事実」
「・・・・・・」
「夷敵より、祖国と祖国の地に住まう民を守るための戦いなればこそ、王は出陣くださいますが・・・・・・国防の為の戦いに邪魔するような輩がいたときには、貴族平民の別なく“所詮は同じ異国人”として、夷敵ともども吹き飛ばされて死んだとしても、仕方なかったとお諦めください。では」
「・・・・・・・・・」
苦々しげな表情を浮かべる刑事部長とD11部隊隊長に見送られ、インテグラは表情も視線も胸の内の悪感情さえ彼らに向けることなく場を去って行き、自分のいるべき場所へと向かう。
ここから先は我らの―――バケモノ退治の狩り場であった。
余所者どもに、余計な口出しなど決してさせない。そう自らに課している誇りある職場に。
既に日も暮れ、月明かりが家々に灯され、子供たちは家へと帰り、娼婦たちは仕事を求めて町へと出かける。そんな時刻。
「はぁ・・・っ! はぁ・・・ッ、ハァッ・・・・・・!!」
必死の表情と必死の思いで、一人の婦人警官が暗い森の中を走り続けていた。
まだ若い、短めの金髪を刈りそろえた、見目のいい警官だった。スタイルもいい。
汗みずくになり、太ももを晒したまま走り続ける今の姿を目撃すれば、10人中6人ぐらいの男が欲情に駆られて襲いかかりたくなる程度には色香もある。
普段であれば、そのような不埒な男は彼女に手柄をもたらす獲物にしかなれないところだが―――今は彼女こそが追われる獲物であり、逃げるのに必死な臆病極まるネズミでしかない。
「はぁ・・・っ!はぁッ・・・! ハァ・・・っ!!
わ、私、は・・・っ、こんな事するために、D11に入ったんじゃ、ない・・・・・・っ!
こんな事、するために入ったんじゃ・・・・・・っ、こんな、こと・・・・・・ッ」
譫言のように繰り返しながら、走りすぎた酸素不足で思考力が弱まってきた頭の中を、今夜になってから見せられ続けてきた忘れたい映像が、走馬灯のように繰り返し繰り返し再現フィルムのように繰り返される。
仲間たちと共に出動を命じられた連続殺人犯の確保。
そんな自分たちに銃口を向けてくる地元警察官。
警官に撃たれて傷ついていたはずの仲間が・・・・・・突如として襲いかかってきた時の光景。
死んでいたはずの仲間たちが立ち上がって、自分に向かって獣のように大口を開けながら迫り来る光景。
逃げ延びた森の中にいた、村人と思しき婦人服の女。
その女の胸元を、片手で刺し貫いて灰へと代えてしまった人ではないナニカ。
まったく意味が分からなかった。ホラー映画の撮影なら他所でやって欲しいと思う。
なぜ自分が、そんな時代遅れのホラー映画で呪われた屋敷に迷い込み、ただ悲鳴を上げて逃げ惑って殺される美女の役をやらされねばならないのか。
「あ、あんなのはハリウッドの有名女優にでも頼んでよ・・・っ、私は、まだ、処女なんだから・・・・・・ッ! スクリーンで裸さらせる度胸なんて、できて、ないし・・・・・・!」
息も絶え絶え、喉も渇いた。
水分を欲しがって、無意識のうちに唇を前へ向かって突き出すように走る姿勢になってしまってから結構な時間も経っている。
理屈で考えれば、こういう時に喋るべきではない。残り少ない水分を浪費し、無駄な体力を削り、誰かに察知されやすい危険を増やすだけ・・・・・・逃亡者の独り言など百害あっても一利あることなど奇跡でも起きない限りは滅多にはない。
だが、それでも彼女。うら若く美しき婦人警官『セラス・ビクトリア』は独り言を言い続ける。止めようとしない。―――怖いからだ。
こんな状況で、自分一人だけで、逃げるだけの逃亡者で、追われるだけの無力なヒロイン役を押しつけられた自分が、ただ黙って静かに逃げられるだけなんて怖くて怖くて仕方がない。だから無意味な独り言を言い続けている。
何か言っていれば気が紛れる気がするから言っている。
何も言わず、ただ静かに落ち着いて今の自分が置かれた立場と現状を冷静に考えて認識してしまったら・・・・・・こめかみに銃口を押しつけて引き金を引くのが一番正しい選択肢のように思える気がして仕方がない。だから喋る。
「だい、たい・・・っ、こんな、場所で・・・・・・っ、ヒロインたちはどこに逃げようって、言うの、よ・・・・・・ッ! ―――え?」
そして走り続けていった先で――開けた場所に出る。
一定以上の広さを持った土地に、建物そのものは一件だけ。その建物に付随する形で時の経過と共に増やされていく前提の石の塊が、すでに一定スペースを埋めつつある施設。
「ここが・・・ひょっとして・・・・・・」
数日前に地元警察署へと通報があったという、連続殺人犯が潜んでいるらしき場所。
この事件の最重要人物が根城にしている恐れのある建物。
その人物を補足できたなら可能であれば捕縛し、不可能ならば射殺するよう命じられた―――ターゲットの拠点。
即ち―――『教会』
そして・・・・・・彼女たちが当初、探し求めていた人物は、確かに今夜その場所にいた。
「救済を求める者に、教会はいつでも門を開きます・・・」
静かな声音で、穏やかな口調で。
牧師姿のその男は、入室してきたセラスに向かって語りかけてきた第一声が、それだった。
「あなたが・・・牧師様、ですね?」
「弱きを導く者、そうです。それが我らの役目。」
ギィィィ・・・と思い音を立てながら開かれて閉じられた扉の開閉音をBGMに、その牧師は身振り手振りを交え大仰な仕草で語りかける。
妙に芝居じみた言い回しと、態度が目立つ男だった。
にも関わらず、そこに違和感を感じなくなってる自分に、セラス自身が妙だと感じていたが気にはならなかった。矛盾しているとも感じていない。
「まだ若き乙女なのに、これほど生き生きしているのに。地獄の使者共に脅かされたのですね? 可愛そうに・・・」
「私、あなたに会いに来て―――でも、あなたは普通の人間、だし・・・」
徐々に徐々に、少しずつ少しずつ。
いろいろな気になることが気にならなくなってくる。
「あなたが言っているのは、外で出会った【グール】のことですね」
「ぐ、グー、ル・・・・・・?」
「吸血鬼とは、血を吸った者すべてを同族に変えるわけではない。その資格を持たぬ童貞でない男が、非処女がヴァンパイアに出会って血を吸われてしまった場合。
ただ、血を求めて血を彷徨い続ける、理性無き不死の怪物【グール】と化す」
「あな・・・た・・・私、殺・・・・・・す・・・脳天を、ブチ・・・・・・ヌく・・・・・・」
フラつく足取りと手つきで、かろうじて残った記憶と意識が彼女に自分のすべき事と、しなければ“ヤバいこと”を必死に訴えかけ、実行を求める。
このまま“ソレ”をしなければヤバい。
死ぬ。殺される。人として死んで、殺されて彼らの同類に変えられてしまう――。
「ご安心ください。貴女を知性無きグールになど変えはしない・・・・・・。
だって貴女は、こんなにも若く瑞々しく、美しい心と体をお持ちなのだから・・・・・・。
私もまた同族は欲しい。一人だけではなく、共に楽しめる同胞を欲している。
残念ながら、この場所は発見されてしまったようでもある。グール共を人間如きが何人で襲いかかろうと突破できるとも思えんが、ただ村を占拠して立てこもっての銃撃戦など平凡極まりない。
私はもっともっと、楽しみたい。愉しみ続けたいのですよ。その為にも共犯者は是非とも欲し―――」
ドガンッッ!!!!
「――この場所なのだな? アーカード。
我が神聖なる領土を穢す、ゴート族の末裔が隠れ潜んでいる穴蔵とやらは。
首をはねるしか価値のない、薄汚れたアングロ・サクソンの混血が根城として占拠した邪神を奉る神殿は。
2000年前に我が国を犯したローマを簒奪し、我が王国にまで混乱を拡大せしめた、簒奪と略奪を尊ぶ邪教が生み出せし、妖魔どもの首を取っていい―――私の戦場。
大逆罪の夷敵共を斬首に処すべき処刑台はッ!!!」
*時間なかったため、確認できてない部分があり、知識間違いもあると思われます。
時間できた時か続きを書く場合に、直す予定。