オマケ部分以外は変わってませんので、読んだ方は飛ばしちゃって問題ありません。
『ユミエラ・ドルクネス』は、乙女ゲーム《光の魔法と勇者様》に登場する少女だ。
剣と魔法の世界を舞台に、王立学園へと入学した『光属性』をもつ主人公が、攻略対象である王子たちとの絆を深めていく物語のラストで、魔王を倒した後に現れる裏ボスとして立ちはだかる最強の敵キャラクター。
舞台となる王国では差別されている『黒髪』で生まれ、王子に横恋慕する国内唯一の公爵家令嬢に気に入られるため主人公にイヤがらせをするも、事が露呈した後には切り捨てられ、居場所を失った彼女は闇落ちし、遂には魔王と同じ《闇魔法》へと覚醒。
自分が破滅する要因となった主人公に、嫉妬と恨みの感情をぶつけるため最後の敵となって立ちはだかり、そして倒されることとなる・・・・・・そんな設定とされている少女。
だが一方、ユミエラが《闇魔法》が使えるようになった過程が明確に描写されているシーンはない。真実は異なっている可能性を否定はできるが、証明することは不可能である。
あるいは彼女は、生まれつき闇魔法を使うことが出来ていたが、周囲から偏見で見られることを恐れて隠し続けて生きてきたのかもしれない。
そのため、堂々と希少な光魔法を使うことができ、それによって周りから愛される主人公に激しく嫉妬し、憎む想いを重ね続けた結果として裏ボスとなったのかもしれない―――そういう仮説も成り立つことは可能。
だが・・・・・・だが、それならユミエラが闇魔法を使えるようになった真実の理由は、もっと異なるものだった可能性も否定しきれない事になるのではないか?
これは、そんな悪役令嬢ユミエラ・ドルクネスが有する可能性の一つが事実だった場合のIF世界を舞台にした物語である――
その日、辺境貴族の一家、ドルクネス伯爵家の屋敷に、王都から訪れた使者が書簡をもって参上し、当主の代理として領地運営を担っている代官が取り次いでいた。
「ユミエラお嬢様、お父君であらせられる御当主様からお手紙が届いておりますが・・・」
「そう・・・・・・」
屋敷に仕える年嵩のメイド長から恭しく、だがどこか距離のある態度で告げられた言葉に、窓から去りゆく馬車の後ろ姿を見送っていた『当主不在の屋敷の主』は、背を向けながら短く返答した。
振り返って、サラァ・・・・・・と墨を流したような長く綺麗な黒髪をなびかせる。
綺麗だが、感情と起伏の乏しい無表情。無限に闇に囚われた者を永劫に逃がさぬような黒色の瞳。
見る者によっては、この世の絶望と悪意をすべて凝縮して生まれてきた者であるかのように錯覚することもあると噂される美少女の姿を見せつけられ。
『『・・・・・・っ、・・・』』
遠巻きにしていた使用人たちが、さり気なさを装いながらも余所余所しい態度で扉から離れ、それぞれの持ち場へと足早に戻っていく。
「どうぞ、こちらで御座います」
「・・・・・・」
そんな部下のメイドたちの醜態には言及することなく流したメイド長から手紙を受け取りながら、それらの光景に対して少女が思うところは何もない。
――元々この国、バルシャイン王国は魔王を倒した勇者と聖女によって興されたと伝えられている。
その魔王が『黒髪』だったことから、『黒髪は不吉』『悪の象徴』とまで言われ、生まれながらに黒髪だったからというだけで蔑まれる歪な伝統と風習が根付いてしまっていた。
また、魔王が使っていた《闇魔法の属性》も、数が希少であることも手伝って偏見により弾圧される特徴になっている。
ユミエラは由緒正しき貴族の娘に産まれながら、この国にあって『悪がもつ特徴』として忌み嫌われている要素を二つながらに持ち合わせて生まれてきてしまっていた。
使用人たちの、主に対するものとは思えぬ態度も、それら伝統に起因している。
―――まったく、愚かなことだ。
当の白眼視の視線に晒されているユミエラ自身は、そう思う。
闇魔法の属性は希少ではあっても、発生確率はそれなりに存在して実績もあり、髪が黒いか否かなどで人格や能力が変わるというものでもないというのに・・・・・・。
―――だが、まぁいい。
ともユミエラは思ってもいる。
彼女にとって、それらは差して重要な問題ではなく、使用人たちの非礼な視線も、『不吉な黒髪の娘』に両親から送られてきた初めての手紙の内容も・・・・・・彼女にとって重要事とはなり得ない。
黒髪というだけで、闇魔法の使い手だというだけで、まるで魔王か何かのように自分を見たがる愚か者たちの視線や待遇など、自分にとっての重要事と比較すれば流してしまっていい程度に些事に過ぎぬのだから・・・・・・・・・何故ならば。
(――私の目的は、レベルを上げまくって、ご主人様をぶち殺しまくって思い知らせてやることのみ!!
人間だった私を、無理やりヴァンパイア眷属に変えてしまった、憎むべきご主人様に思い知らせてあげられる強さと力さえ手に入れられれば、それでいいんですからねェ・・・・・・フフフ。ふふふ、うふふふフフフフフフフ・・・・・・ッ)
漆黒の闇をまとったような見た目の体の内側に、もっとドス黒い色々な恨み辛みと屈辱の記憶と屈折と復讐心を煮えたぎらせまくった貴族令嬢の“身分を手に入れた元人間の娘”は心の中で暗い暗い笑みを浮かべて怪しく嗤う・・・・・・。
そうなのだ。辺境貴族ドルマルフ伯爵家の娘ユリエラは、人間ではなく吸血鬼。
より正確には、人間だった少女が吸血鬼に血を吸われ、眷属として自身も吸血鬼となった人間界とは異なる大魔界の住人。
人間ではなくなって、今では魔族と呼ばれる闇の種族の一員。
だから闇魔法を使えることに不思議はなく、黒髪も人間だった頃には不思議なものでは全くない国の出身者だった。だから気にしない。問題もない。
「お父様は私に、都へ来ることを求められているようですね・・・・・・15歳になって入学可能年齢に達した王立学園に入学せよ、と・・・?」
「さようで御座います、お嬢様。それが御当主様のご意志で御座いますれば」
「ずいぶんと急なことね・・・」
パサ・・・と封を切って読み終わった手紙をテーブル上へと放り捨てながら、彼女は考え悩むような仕草で顎に手をやり、目線を斜め上の天井へと向けさせる。
その仕草には、特に意味はない。ただ、こういう時には勿体ぶった方がいいのではないか?と推測しただけである。
既に人間ではなくなったユミエラが、人間界にあるバルシャイン王国の伯爵家令嬢という立場になっているのには理由があり、別の目的がある。
いや、目的があったと言うべきかもしれない。
―――もともとユミエラは人間だった頃、とある王国の貴族令嬢として幸せに暮らしていた。
両親もおり、弟や妹もいて、婚約者も決まっていたのだが・・・・・・ある夜に自分を見初めた吸血鬼に襲われて、家族を半殺しにされて大魔界へと誘拐され、無理やり吸血鬼に変えられた挙げ句、家に帰してほしいと泣いて頼んだら『言うことに従わぬ者は地下牢だ!』と暗くてジメッとした地下牢に50年ぐらい閉じ込められるという地獄を味わう羽目になる。
その後、忠誠を誓って愛人になることを了承したことで、ようやく自由を手にして人間界への単身赴任が許される立場にはなったものの・・・・・・憎むべき相手にそうまでして自由を手にした目的など一つしかあるわけがない。
モンスターと戦い、レベルを上げまくって、経験値と力を手にして、ご主人様を倒すのだ。
自分の長い人生は、その為にこそ存在する。
その為にも、狭苦しいが外敵のいない、ぬるま湯の地下牢生活で鈍った体を鍛え直し、屋敷を抜け出し一人きりでダンジョンに潜ってはモンスターと戦って戦って倒し続け、今ではそれなりの強さに至ったように自分では思っている。
―――だが、足りない。まだ足りない。
自分にはもっともっと力が必要で、その為にもご主人様の目が届かない人間界で過ごせる貴族令嬢としての地位を失うわけにはいかない事情が自分にはある。
だって・・・・・・
(――この前、久しぶりに帰国して模擬戦挑んだら、ボロックソに負けまくりましたからね! カンスト近くまでレベル上げた自信あったのに! レベル上限まで到達すれば魔王だって倒せるはずだと信じてたのに!!
・・・あの理不尽の権化とも呼ぶべきご主人様を打倒するためには、この程度の力では足りません・・・・・・もっと強く、もっと力を・・・・・・ご主人様を倒せるぐらいに私は強くなられねばならないッ!!!)
そう心の中で拳を握りしめ、『打倒』の二文字を強く決意する貴族令嬢ユミエラ・ドルクネス。
だが、人の心というものは、他者の目からは見えぬもの。
「ですが、御当主様のご指示で御座います」
「・・・・・・ええ、分かっているわ。了承すると、お父様には伝えてちょうだい。その必要もないのでしょうけど、一応ね」
頑とした態度でメイド長が断言し、特に反対する理由も拒む意味も持ってなかったユミエラは、恩着せがましい口調で渋々ながら受け入れたように見える演技を返すことになる。
100年以上前に人間ではなくなっているユミエラが、現代のバルシュタイン王国で伯爵令嬢になっている理由は、たんにバレにくそうな貴族夫婦を催眠術で洗脳して、子供ってことにして居候先に選んでただけの関係でしかない。
そのため今の両親とは、生まれてこの方1度も会いに来てくれたことはなかったが―――そもそも血の繋がりそのものが一滴もない関係でもあるので、まぁ特に恨む理由はないかなと。どっちかって言うと生活費もらってる恩あるし。
なので、人間界に戻ってきてから伯爵令嬢として生まれ直して、初めてもらった親からの手紙の内容が、
『王立学園に通え』
『学園では出来るだけ高位の貴族の令息と懇意になれ』
『婿入りさせて家を継がせるので嫡男でなくても構わない』
という散文的で用件だけ伝える簡明すぎるものだったとしても、ユミエラ的には全くもって問題はなかった。
むしろ、グッドな対応だ会ったことないご両親。あなた達は子供の気持ちというものを、よく理解している良い親たちだと絶賛したい。
吸血鬼になった後の実年齢はともかく、ユミエラの公式年齢は15歳の少女。
十代半ばの子供たちにとって、親ほど鬱陶しく感じさせられ、介入してきて欲しくない目障りだと思う存在は、学校の教師ぐらいしかいないものである。
多くの少年少女たちにとって、親とは生きていくために必要な存在であって、その役目さえ果たしてくれれば十分であり、過剰に介入してくる親などいない方が良いと思われやすい。
少なくともユミエラ自身は、そう信じて疑った事は一度も無い。
―――自分も人間だった頃は、表面的には敬いながら、何回父親を毒殺しようと思ったことか。母親を何度、階段から突き落とそうとしたものか。
それらと比べて、この伯爵家の両親夫婦は良識があり、好感が持てる。
下手に近づいて憎み合う動機を作り合うよりかは、1度も会わない方が憎まれる理由が生まれることもない・・・・・・賢明だった。
「・・・で? 王都には、いつ行くことになるのかしら? 何分にも急な話だから何も準備は出来ていないのだけれど―――」
「今日で御座います。王都に到着した翌日には王立学園の入学式があり、入学する生徒は必ず出席しなければならず、学園の寮は午後6時には閉まる決まりとなっておりますので、まぁ今すぐ出立すれば何とか間に合うのではと」
「・・・・・・・・・」
「何分にも、御当主様のご指示であられますれば」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
まぁ・・・・・・少しだけ話が急すぎる両親夫婦だなとだけは思わなくもなかったけれども。
それから数日。
ゴーン・・・、ゴーン・・・・・・。
厳かに鐘の音が鳴り響く町中を、一人の少女が必死に学園目指して走っている姿があった。
「はぁ、はぁ・・・ま、待って! 待ってーっ!!」
夕暮れなずむ町並みが、広大な校舎を血のような茜色に染め上げようとする中。
ギィィィ・・・・・・と。
錆び付いた鉄がきしむ音を響かせながら、少女の前で栄光へと続く道が閉ざされつつある門へと至るため、少女は懸命に走って、走って、走り続け―――そして、
―――カツンっ、と。
「待って! お願い待っ、フベッシ!?」
ズルッ!! スベェェェェェッ!!!
ギィィィ・・・・・・ガッチャン。
見事にすっ転んで顔面スライディングで鉄扉の前へと到達。
奇跡は―――起きなかった。・・・・・・かに見えたのだが。
「悪いが、門限の時間だ。王立学園の正門は、6時に閉まると定められている」
「そ、そんな・・・まだ鐘は鳴り終わってな――」
「とぅッ!!!」
シュタンッ、と。
・・・・・・鐘が鳴り終わるより僅かに早く閉ざされた門の向こう側に。一人の少女が降りたつ。
そして、ゴーン。・・・と、最後の鐘が鳴り終わる。
門番を務める少年が、フライング門限守らせ破りを犯した実行犯に変えてしまいながら―――空から降り立った少女は何事もなかったように黒髪をなびかせ、颯爽と立ち上がる。
「・・・・・・へ? あれ? 今あの、門の高さより遙か上から人が落ちてきたような・・・・・・先輩からもそんな前例聞いたことし、誰に聞けば・・・・・・お、親方とかいるの、か・・・・・・?」
「―――何のことを仰っているのでしょうか? 私は鐘が鳴り終わるより遙か以前から、ここにいましたが、それが何か?」
「え? いや、僕はさっきから見てたが誰もいな――」
「いたのですよ。そうでなければ私が今ここにいられる理由を、あなたは現実的に説明できますか? 人間にそんなことが可能であると、あなたは本当に思っているのですか? 信じているのですか? あなたは神や魔王や大魔王を信じますか?」
「う、え、いや、その・・・・・・確かに、不可能だったと思うのだけど・・・・・・」
「そうでしょう? では最初から私はここにいたのです。私が今ここにいるのが証拠です。現実に不可能なことが出来るはずはなく、出来ているからには不可能なことはやっていない。つまり普通です。世はなべて事もなし、では失礼。寮で明日の準備がありますから――」
「え、あ、はい・・・・・・どう、ぞ・・・・・・?」
怒濤のごり押し理論の連発によって、なし崩し的に流させてしまった女生徒が、堂々とした足取りで颯爽と夕日に染まる学生寮の中へと入っていく、黒が身をなびかせた後ろ姿を、呆然としながら一人の少女と一人の少年は見送って――――まぁ取りあえずの話として。
「コホン。―――何はともあれ、君の方は確実な遅刻なので今日は宿でも探して泊まりなさい。はい、学生身分の提示と氏名述べて」
「・・・へ? あ、アレ・・・・・・って、あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」
こうして、後に国の伝説として知られる聖女と、魔王には勝てるが大魔王には完敗するしかない悪の令嬢と呼ばれる少女は、互いに互いと出会ったことに気付かぬまま、最初の出会いと物語の始まりを迎えることになる―――。
余談だが、翌日の入学式において生徒全員を対象に行われる決まりとなっている儀式の一つ。
今現在の、『レベル測定』において。
「ど、ドルクネス伯爵家長女ユミエラ・ドルクネス、れ、れれレベル99・・・!?」
「なっ!? こ、こんなことが・・・誤作動だろう?」
「魔導具自体は正常です! 君が魔導具に何らかの干渉をしたのだろう!?」
「ゆ、ユミエラ嬢、あなたは自分のレベルに心当たりが―――って、ど、どうされたのですかユミエラ嬢? どうか落ち着いて、しっかりして下さい! 回復班! 回復はーん!!」
「・・・・・・う、嘘です・・・これは何かの間違いです・・・そうに決まってます・・・・・・そうでなければなりません・・・。
わ、私にはまだ強くなれる可能性が残っているはず・・・! レベルがカンストして今以上強くなれないなんて、ありえない・・・! 絶対にあり得ない!
レベル最高まで上げれば大魔王だって倒せるはず、倒せるはず、レベルさえ上げればレベルさえ上げればレベルさえレベルさえぇぇ・・・・・・ッッ!?」
入学直後のレベル99判定によって、他の生徒たちを驚愕させ、自分自身は自分の限界を知らされて絶望の闇に沈む。
そんな非対称すぎる光景が、翌日の彼女に待っていることになるのだが・・・・・・今の夜時間の彼女はまだ知らない。
朝の時間は、やはり吸血鬼に優しくない、吸血鬼への呪いに満たされた時刻なのかもしれなかった。
―――私の名前は『アリシア・エンライト』
すごい田舎の村に生まれた普通の女の子――でした。
でも最近は、少しだけ普通じゃない女の子みたいなところを持ってしまったかもしれません。
希少属性である『光の魔法』が使えるという噂を聞いた王立学園から勧誘してもらい、生まれて初めて王都にきて王立学園の寮に入った最初の日に、大臣様の息子のオズ君や、将軍の息子さんのアレス――そして第二王子のエドウィン殿下。
すごい人たちと続けて出会ってしまって驚かされてばかりの初日を体験してしまった・・・。
こんな体験を入学式の前にしちゃう女の子なんて、王国内でもそんなに多くいないよね? だからこそ少しだけ普通じゃなくなった女の子が、今の私なのかもしれないなって。
『新入生、入場っ!!』
その衝撃が抜けきってない翌日、私やオズ君、エドワルド殿下たちが3年間の学園生活を過ごすことになる王立学園の入学式が始まりました。
これから私は・・・私たちは、どんな人たちと出会い、どんな経験をして、どんな大人になっていくのか・・・・・・そう考えると楽しさと不安を同時に感じる、不思議な感覚。
そんなワクワクとドキドキが二つ一緒になって胸を高鳴らせていた私の目に、イジワルな力持ち男子生徒のアレスや、エドワルド殿下やオズ君たちが手を振ってくれている姿が見えて、ちょっとだけ嬉しくなっちゃって手を振り返すため余所見をしながら歩いてしまって―――
ドンッ!!
「きゃっ!」
「・・・・・・あ」
前の順番だった女生徒の人が立ち止まっているのに気づけなくて、頭かぶつかってしまい、ちょっとだけ痛い思いをしてしまって――――私は、そのヒトと、出会った。
「ご、ごめんなさ―――ヒッ!?」
「・・・・・・どうかしましたか? アリシア・エンライトさん」
――全身が闇に包まれたような、黒一色のヒトガタの中心で、二つの赤い光が眼球のように私を見下ろしてきている・・・・・・そんな、人とは思えない恐ろしい存在に・・・。
私の目には魔王にしか見えることが出来なかった、『ユミエラ・ドルクネスさん』という存在に―――。
―――私の名は、『ユミエラ・ドルクネス』
百年以上昔にとある王国から吸血鬼に浚われて眷属に変えられてから、地下牢に50年近く閉じ込められていた恨みを晴らすため、ご主人様を倒す力を得るため修行の場として人間界へと帰ってきたばかりという、普通の女の子。
あくまで頭おかしいのは、私にこんな非道なことをしたご主人様であって、私自身は至って普通で平凡な女の子です。ええ、絶対に。絶対にです。
とはいえ最近は、少しだけ普通とは呼べない部分が出てきたのも否定できません。
催眠術で自分たちの子供だと思い込ませていた、この国の貴族夫婦から王立学園へ入学するよう要請があり、修行場と環境を維持するため王都にやってきたのが今の私・・・・・・普通に犯罪ですね。
王国の法律では犯罪犯してる女の子を普通と呼んではいけませんので、今の私は少しだけ普通じゃない女の子です。ですが悪いのはご主人様です。私ではありません。ですから少しだけです、少しだけ。私は普通。
『新入生、入場っ!!』
そして、その学園への入学式が始まった少し後のこと。
私は、そんな些細な疑問など、どうでもよくなる出来事と出会うことになります。
「・・・・・・アレが『光の聖女』・・・。
ご主人様に予言された存在が、まさか実在していたとは・・・」
私は周囲に聞こえないよう押さえた小声で、それでも声には出したい気持ちは抑えきれぬまま、今さっき出会ったばかりの“生まれは”普通の人間の少女のことを思い出して、そう呟く。
ご主人様は、その眼帯で隠された右目に予言の力を宿した異能力者。
その予言は百発百中の的中率を誇り、過去未来現在、その全てを見通せる能力は心眼を超えて、神の眼である『神眼』とも称されるほどのもの。
・・・・・・まぁ、基本的に驕り高ぶりまくって、相手を格下のザコに決まってると見下しまくった想定でしか相手しようとしないから、まっっったく使うことない宝の持ち腐れ超レアスキルに過ぎないんだけれども。
それでも百発百中の予言は百発百中。視ることさえすれば必ず当たる。
その力を(超珍しく)使って、私が人間界に赴く際に一つの予言を与えてくれていた。
『“その者、赤き衣をまといて、人の国に学舎へ降り立つべし。
失われし王と臣下の絆より生まれた魔王が、200年の眠りから覚める刻、勇者現れ、魔王に永久の救いを齎されん”・・・・・・とある。
意味は分からぬ。だが勇者と魔王とやらには気をつけることだ。
――べ、別に貴様の身が危険だったところで、どーでもよい些事でしかないのだがな!
だがまぁ一応は我の愛人で眷属の端くれともあろう者が、人間界の愚かで過当な魔王だの人間だのいう三等民族ごときに倒されたとあっては主の恥というもの。
せいぜい弱いなりに気をつけて無駄な努力をしてくるがいい! フハハハハハッ!!!』
・・・・・・という内容の予言をくる直前に教えられていたわけだったけど・・・・・・思い出しただけでも腹立たしい。憎らしい。
ただてっきり私に嫌味を言いたかっただけで意味はないと思っていた予言が本物だった以上は、『魔王』という存在も、その復活も事実だったと言うことになる・・・。
そしてそれは私にとって、ご主人様を倒すための力を得られる修行の場を失う危険があるのと同義。それを防げるのが勇者である聖女だけと来れば、私にとっても無視できない存在が、アリシア・エンライトという少女になるしかない。
「・・・・・・しかし、光の聖女・・・か。確かに恐るべき存在だわ。私も注意して、あまり近づかないように気をつけなくては」
先ほどの光景を思い出しながら、私は心の中でそう決意する。
周囲の反応を見る限りでは、彼女の姿は他の生徒たちには普通に見えていたのだろう。あるいは私がご主人様によって闇の一族へと体を変えられているのが関係してるのかもしれない。
私には・・・私のこの目には。アリシア・エンライトの姿が・・・・・・。
――全身が光に包まれているような、白一色のヒトガタの中心で、二つの緑色の光が眼球のように私を見下ろしてきている・・・・・・そんな、人とは思えない恐ろしい存在にしか見えることが出来なかった・・・。
まさに光の権化とも言うべき、人ではない化け物のような存在。
彼女のような者と、不用意に接触するのは危険すぎる。注意して接しなければいけないのでしょうね・・・・・・。
―――と、光と闇の少女たち2人は、互いに互いのことを、そのように思い合い、相手も同じように自分を視てるとは全く考えないまま、奇妙な学園生活で最初の正式な出会いを完了させることになる。
・・・・・・闇属性もちで、闇の種族の眷属だからねぇー・・・。
自分たちへの特効属性を生まれ持ってる、自分たちの種族を殺すことに特化しまくったキリングマシーンみたいな存在が、闇側から視た光の聖女とか勇者ってものだから・・・・・・そりゃバケモンにしか見えんわな。普通に考えて常識的に。
対局の両側に立ってる立場で、相手がどう見えるかの評価を下したとき。
大抵の人も闇の一族も、相手から見た自分が、色と名前が変わってるぐらいで同じ評価を思われてるとは、あんまし考えたがらんものである。