【悪役令嬢レベル99】二次作の2話目です。
原作設定と展開なら、こういうのを書いてみたい作者の願望シーン回。
バルシャイン王国王立学園の入学式で行われた『レベル測定の儀』は、混乱に包まれていた。
なにしろ新入生の一人が『レベル99』という前代未聞の数字を表示されたのだから、これで戸惑うなと言う方が難しい。
『れ、レベル99・・・?』
『ま、マジかよ・・・? どうなってんだ・・・』
『・・・99とか、聞いたことないんだけど』
『なんかズルしてるんじゃない? インチキよ。
中央モドキの田舎貴族は、これだから――』
なにしろ例年通りであれば高くてもレベルは4~5が新入生としては一般的で、一度も魔物を倒したことがないレベル1だったとしても入学したばかりでは恥ずかしいことでは全くない。―――そんな分野で計測された初めての数字がコレだったのだ。
流石に他の新入生だけでなく、教員たちまで困惑と疑念で冷静に対応できなくなっていても、彼らを笑える者は少なかったであろう驚愕の事態が勃発した瞬間だった。
――尤も、混乱と衝撃に見舞われていたのは測定した者たちだけでなく、測定された側にとっても逆の意味で驚愕の数字表示だった訳なのだが・・・・・・それを察して対応しろと言われて出来る人間は多分もっと少数派になるのは避けられないのだろう。ほぼ100パーセント確実に。
「静粛に。皆さん、静粛に。おそらく魔導具の誤作動しただけだろう。君、すぐ予備の魔導具を用意してきなさい。
ドルクネス嬢にはすまないが、今しばらく待っていて欲し―――ドルクネス嬢?」
「・・・ま、まさかそんな・・・・・・ここまでのレベルになってたなんて、そんな事が・・・。あ、あり得ないわ、何かの間違いよきっとそう・・・・・・・っ。
だ、だってこれじゃあ私は、もう成長できない事になってしまって、ご、ご主人様を倒す事は永遠にふか、不可・・・・・・うふ。ウフフ・・・・・・これは夢。悪い夢よ。夢なら早く覚めて学校に行かなきゃ・・・今日はニュウガクシキなんだから、アハ、あははははハハハハハハ・・・・・・」
明らかに測定用の魔導具よりも測定される側の人間、もしくは元人間のヴァンパイア眷属の方が誤作動おこしてるようにしか見えない惨状。
それでも彼女の姿が目の前の位置から見えない生徒たちは、『レベル99』という数字の方だけで盛り上がり始め、その数字を出した女生徒が『黒髪』で『中央もどきドルクネスの家系』という補足部分によって負の方向へ盛り上がりを増していく悪循環へと陥っていく。
やがてローブ姿の女性教員が予備の魔導具を持ってくる頃には、場内のざわめきもユミエラの精神状態も一応の落ち着きを取り戻すことに成功し、再び水晶球型の魔導具に右手をかざし、再び『レベル99』という同じ数字が表示されたことで、再び混乱とざわめきと悪口雑言の陰口とが再熱する負の悪循環。
「静粛に! 諸君、静粛にしたまえッ!!」
見かねた男性教員が割って入って、大声で生徒たちの混乱を押さえつけると、次いでユミエラに対しても、非難とまでは言わずとも棘がある視線で注意を促すよう語りかける。
「ドルクネス嬢もだ。入学直後で他の生徒たちにレベルを知られて恥ずかしいと感じる気持ちは分かるが、新入生なのだからレベル1でも全く恥ずかしがる事ではない。
だからこんな目立つための偽装はやめて、正直に自分のレベルを告白したまえ」
「・・・・・・いえ、そう言われましても・・・そもそも、どんな風に偽装すれば数字を誤魔化せるようになるんですか? コレって・・・。そのやり方がそもそも分からないのですが・・・」
「む・・・、ぐ・・・・・・」
そしてなんとも、答えにくい回答を返されて唸るしかない男性教諭。
下手な偽装をしてもバレるからするなと言ったら、偽装の仕方が分からないから教えてくださいと答えられてしまった出題者。
わりと反応に困る立場ですね。聞いた側の先生が迷惑ですので、他の良い子な一般学生さんたちは言わないであげるよう気をつけましょう。
「そ、そんなことを今この場で教えられるはずがないだろう! 模倣犯が出てしまったらどうする気なんだ! 君は私たち教師をバカにしているのかね!?」
「いえ・・・純粋な疑問です。そもそも丸い玉に手を置いただけで数字が出るアイテムに、偽装ってできるものなんでしょうか・・・?
私には、壊して砕いてなかった事にするぐらいしか、方法が思いつかないんですけど・・・」
「む、ぐ・・・・・・ぐぬぬぅ・・・・・・」
そして怒鳴って怒って誤魔化そうとしたら、真面目に返されて余計に反応に困る羽目になるの図。
どーにも、この女生徒は新入生にしては扱いづらい。普通の子供だったら、年上の大人からこんな風に怒られたら謝ってきてくれて、コチラも引き際を得やすくなるのが定番なのだが・・・・・・。
そんな風に男性教諭が心の中で、リアルな大人の教師と子供の生徒とのコミュニケーション術『円滑に人間関係を進める編』について思いを馳せている事など気づきもせず。
ユミエラ・ドルクネスは、まだ衝撃の真実を知ったショックから立ち直れ切れていない頭と身体で、なんとか『マトモな対応』だけでも返そうと努力して、何とか出来ていそうな現実にホッと息を吐いていた。
・・・・・・なにしろユミエラは、ご主人様に浚われて吸血鬼にされた日から、ずっと復讐と打倒のみを心に誓って苦しい地下牢生活を50年以上も耐え忍んできた剛の者な女の子。
人間界に舞い戻ってきたのも、偏にご主人様への報復のため、思い知らせる力を手に入れるため、敢えて奴の目が届きにくい場所まで遠ざかった故でのこと。
要するに・・・・・・戦闘向けのステータス特化で修行してきたため、偽装とかのサブ技術はまったく鍛えてないので出来る自信0以下な女の子になっちまっていたのである。
しかも不器用で、手加減も苦手だし。
力を込めて殴り壊すのは得意なんだけど、壊さないよう加減して殴るなんて・・・・・・ご主人様への復讐に役立たないスキルを上げてる余裕なんてなかったし・・・。
まして、魔導具などという精密機器に、壊すことなく細工して干渉するなんて無理だ。絶対に不可能な荒技と言っていいほどの難易度である。
魔導具の水晶球を片手で持ちあげて握り潰すだけなら出来る自信あるけど、片手で触れただけで数字が出る不思議な玉に干渉するなんて想像の限界を超えている。
脳筋には無理だ。強攻策の復讐者には無理なのだ。だから自分には出来ない。
――以上、ユミエラ・ドルクネスによるレベル測定偽装疑惑が、無実であることを証明する証拠説明でしたとさ。
「き、君ねぇ・・・いい加減に~~!!」
「まぁまぁ先生、生徒の皆さんも落ち着いてください」
引くに引けなくなった男性教員が、ゴリ押しで前に出ようとし始めていたのを察したらしい白髪の学園長が穏やかな口調と態度で仲裁役を買って出て、それで此度の騒ぎはお開きになることがようやく可能になったのだった。
「彼女の言葉の真偽は、授業が始まれば明らかになるだろう。ユミエラ嬢も、それでいいね?」
「はい・・・騒ぎを起こしてしまったようで、申し訳ありません」
「いや、分かってくれたならそれでいいのだよ。さ、挨拶を済ませて席に戻りなさい」
「はい。失礼いたします」
こうして、入学直後からレベル99の新入生ユミエラ・ドルクネスにとっての入学式は終わりを告げる。
周囲の反応や視線などから見て、学園長からも、それ以外の生徒からもレベル詐称疑惑は確実なものとして認識されてしまったようでもあるが・・・・・・まぁ仕方がない。
今更どーしようもない問題なのだし、なるようになるで流す他ないだろう。そう割り切っていた。
割り切っていたのだが・・・・・・そうも言っていられない自体が、この入学式の最中に起きようとは、ユミエラの高レベルをもってしても予想できない運命的な出来事だった。
それは自分のレベル測定の順番が終わってから、しばらく後のことだ。
一人の女生徒が名を呼ばれ、壇上に上がって魔導具に手をかざして、今のレベルが表示された、まさにその瞬間のでのことである。
「アリシア・エンライト、レベル1―――これから頑張りなさい。期待していますよ」
「は、はい。先生、頑張ります」
「な!?・・・んです、って・・・・・・?」
あまりにも驚愕すべき事態が、彼女の目の前で発生した瞬間だった。
まさか、あのアリシアが・・・予言された『光の聖女』が、レベル1だなんて・・・・・・!
モヤモヤとした白い光が、ヒトガタのような形に集まって、緑色の光が両眼のように「ギョロリ!」と睨み付けてくる恐ろしい姿をした化け物のようなニンゲンが、たったのレベル1だなんて・・・・・・・そんな!?
(ま、マズい・・・・・・コレは非常にマズいことになりそうだわ・・・何とかしなければならないかもしれない程に・・・・・・っ)
他人たちには見えない頭の中で、ユミエラは恐怖に怯えながら必死に計算を働かせ始めていた。
光の聖女アリシアは、ご主人様に右目の予言で『やがて復活する魔王を倒す勇者』として定められているはずの存在。それは彼女の存在こそが来たるべき魔王討伐において主戦力となることを意味している。
にも関わらず、そんな少女が今の時点でレベル1・・・!
魔王がいつ復活するか正確なところまでは自分には分からないのに、頼るべき相手がレベル1!!
(・・・魔王と言うぐらいだから、敵はご主人様に勝るとも劣らない強敵である危険性が高いのに、魔王を倒す勇者がレベル1・・・レベル1ッ!! ・・・これは何とかすべき問題ね。
今すぐどーこーという話ではないと思うけれど、もし状況が動かなかったときには、その時は・・・っ!!)
密かに心の中で覚悟を決めるユミエラ・ドルクネス。
後に『闇の聖女』と謳われることになる少女の伝説は、この瞬間から始まっていたことを彼女自身すら気付いていないまま・・・・・・。
――王立学園に入学した新入生、『アリシア・エンライト』には悩みが二つあった。
一つは、入学式で出会った一人の女の子、ユミエラ・ドルクネス伯爵令嬢。
悪い人ではない・・・と思う。
けれど自分の目には彼女が・・・彼女の姿がどーしても、闇を一身に集めてヒトガタの形を取っているみたいなバケモノに見えてしまって仕方なく、どうしても警戒心と恐怖を感じずに接することが多分できるようにはなれそうにない・・・そんな相手。
そして今一つの悩みは、自分自身だった。
貴族たちが通う王立学園に入学を許された、ただ一人の平民――その立場と身分の違いは、越えようがない壁みたいに自分と周囲の人達とを隔ててしまっている・・・・・・そう感じさせられてしまう。
だから正直、学園に入学しても友達は一人もできないかもしれない、孤立するかもしれない。
滅多にいないという光魔法の使い手として入学が許された、置物として三年間を過ごすだけになってしまうのも仕方がないのかもしれない・・・・・・そう思っていた。
けれど―――2つめの悩みだけは、どうやら杞憂に終わってくれたみたい。
「へぇ~? 光魔法ってのは病気やケガも治せるのか。じゃあこれから世話になるかもしれないな」
「君が助けたお婆さんが、学園にお礼に来られたそうだよ。事情を言ってくれれば、あのときも門を開けてあげたのに」
「どうかな、この学園ではやっていけそうかい? 何かあったら、すぐに私たちに相談してくれ。必ず力になるよ」
将軍がお父さんのアレスに、大臣の息子のオズ君。
そして、この国の王子である―――エドウィン殿下。
王都にきた最初の日に出会った三人の男の子たちが、私のことを覚えていてくれて、身分が理由で孤立しているんじゃないかと気遣って、授業初日の一日目から迎えに来てくれたのだ。
自分とは住む世界が違う、スゴい人達の息子さんばかりで恐縮しっぱなしだったけど・・・・・・一人きりで学校までの道のりと、寮までの帰り道を何回送らなくちゃいけないのかなって考えていた自分にとっては、涙が出るくらい嬉しい優しさだった。
もちろん新入生たちが共同生活している寮から学校までの距離なんて大して遠くもないけれど、それでも道すがら彼らと楽しくお喋りしながら歩いて通学できる毎日は、決して孤独じゃなければ一人でもない。
誰かと一緒に歩いて行ける、そんな日々の始まりを教えてくれてるみたいで・・・・・・なんだかスゴく、暖かいな・・・・・・
「ありがとう、みんな。
しょうじき私は平民の出だし、少し不安だったんだけど・・・・・・みんなと一緒なら、この学校で過ごした良い思い出が作れそう―――」
『ゴブリンライダーが現れて、アリシアたちに襲いかかってきた!』
「って、なんか突然モンスターが現れたーっ!?」
「うおっ!? なんでだ!? どっから現れやがった! アリシア危ない! コッチへ、って俺の方にもきたー!?」
「何故だ!? 警備は万全だったはず! それなのに何故!? えぇーいクソ! 四大魔法の応用を食らえ―!」
「アリシアー! 今助けに行く、クゥッ! こいつ、思ったより手強い! アリシア! アリシアー!!」
「って、えぇぇぇっ!? わ、私一人でこれと戦うの!? 誰か! 誰か来て! モンスターが学園の中に! 誰かァッ!! 助けてくださ~~~~ッい!?」
バキン!ガキィン! ズバシュゥン!!
鳴り響く剣劇! 迸る魔法の光!!
一瞬前まで平和だった学園までの道のりは、突然のモンスター軍団の襲撃によって戦場と化す!!
そんな中、突然の奇襲で孤立させられたアリシアを援護しようと躍起になる三人に仲間たちだったが、敵の守りを突破できず必死に防戦する光の勇者アリシア!!
頑張れ勇者! 負けるな勇者!! 困難を乗り越え、仲間のため自分より強い敵に立ち向かっていける勇気こそが勇者にとって最大の武器!!
決して逃げることなく戦うのだ! 戦うのだ! 戦って倒して経験値を貯めてレベルを上げて強くなれ! 勇者アリシア・エンライト!!
君の戦いは、これからなのだからッ!!!
「その意気です、頑張ってくださいアリシア。目的地までの移動途中で不意に襲いかかってくる魔物の群れを倒し、自然な流れでレベルを上げるのです・・・ッ!
強くなってください、誰よりも・・・世界の平和を守るため、魔王よりも強くっ。大魔王よりも強くッ。そして・・・・・・いずれは、ご主人様さえ倒せるほどにまで!!
その為にも私は、陰からの協力を惜しまない―――ッ!!」
そんな勇者パーティーの苦戦を、陰からそっと見守っている悪役っぽい令嬢というか黒幕令嬢の黒髪少女。
ヴァンパイア式教育法は過酷であった。
頑張れ勇者アリシア。
本当の敵は、けっこう身近の日常パートにいるみたいだぞオイ。
つづく