試作品集   作:ひきがやもとまち

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『コードギアス』×『銀英伝』コラボ作更新です。
今朝方にようやく完成できたので投稿しました。

他の作品も書き進める最中ですが、今作は早くから始めながら文章が理由で停滞してたため引っかかってたので、肩の荷が下りた気分です。今日中にもう一作目指したい。


コードギアス英雄伝説~もしも仮面の男が黄金の獅子帝だったなら・・・~第11章

 日本側ゲリラとの戦闘から一夜明けた翌日になっても、ブリタニア帝国エリア11駐留部隊は混乱の直中にあり続けていた。

 ゲリラ掃討の作戦中に死去したクロヴィス皇子の『死因』を、どう発表すべきか方針を決めかねていたことが、その混乱の要因だった。

 

 目撃者の数などから見ても『病死』と取り繕うのは流石に無理であることだけは分かっていたが、しかし『日本のゲリラに殺された』と公表すれば、ブリタニア正規軍がゲリラ如きを相手に主将を討ち死にさせられ敗北したと、自らの恥を晒すようなもの。

 

 日本側ゲリラの快挙は、ブリタニアの醜態を意味し、各地で反ブリタニア勢力がまたぞろ勢いを取り戻して反乱騒ぎを起こす危険性もあるレベルの案件は、とうてい現場の官僚や高級軍人たちに対処できる次元を超過していた。

 

 本国からの伺いを立てた上で方針を決するという、些か以上に消極的と言わざるを得ない意見が賛成多数というより、反対皆無で可決される。

 とりあえずは、シンジュク・ゲットーでの一件には箝口令が敷かれ、図に乗ったゲリラが同じ手で仕掛けてきたときのために、第二級非常事態体制を強いて警戒レベルを高めることだけは徹底され、完全武装した警備兵たちが厳重に警備された重々しい空気に包まれながら、エリア11総督府は朝を迎えようとしていた。

 

 

「ぬるいな、文官出のやることは。マニュアル通りの警戒レベルを引き上げただけで、有事に守り切れるとでも思っているのか?」

 

 設置された検問を潜り抜け、基地内を進んでいく高級車の中で、ジェレミア・ゴッドバルトは第二級非常事態体制という名の“平和ボケした警備体制”と、それを敷くよう命じた総督府の判断をまとめて冷笑し、鋭い視線と言葉で痛罵する。

 

 彼自身も基地に到着するまでの間、いくつもの検問と何十ものチェックを通らされていたからこそ、『“あの敵に”この程度の警備は何の役にも立たない』という感想を抱かざるを得なかったからである。

 

「・・・バトレー将軍のことですね?」

 

 そんな情感の憤りに対して、ご機嫌取りの追従半分、残りは本気での賛同を含ませながら、この警戒を敷くよう命じた人物を名指しで指名するのは、ブリタニア軍の女性騎士ヴィレッタ・ヌゥ。

 褐色の肌に色素の薄い髪色をしたエキゾチックな美人で、本人も自分の美貌を自覚して扇情的な服装を着用しているものの、ジェレミアにとって彼女は愛妾ではなく参謀であり、彼女の方でも出世のために役立つ相手としてジェレミアに忠誠を捧げている。

 

 また彼女は、ルルーシュが謎の少女から授かった力で機体を奪った、最初の被害者の一人であったが、その時のことは彼女の記憶は残っていない。

 

「犯人は、あれだけの警備を2度も突破している強敵だ。

 通常通りの敵を想定した型通りの検問など幾ら増やしたところで、余計なチェック要員の介在によって混乱が増すだけではないかッ。お役所仕事の連中にはそれが分からんのだ!」

 

 ――一理ある。ヴィレッタは情感の怒声を聞かされながら、そう思う。

 たしかに検問では、IDカードの提出と肉眼でのデータ画像と本人確認が求められるようになったことで、機械に頼りすぎていたきらいのある技術立国ブリタニアの警備体制が抱える問題点は解消できるかに見えたが、その分チェック事項の数が増えて一部に混乱が生じてしまうという弊害も発生させてしまってもいた。

 

 テロによって政治的トップが斃れた以上、代理として軍事面でのトップが一時的に権限を引き継ぐのが、一般的な占領軍の人事秩序というものである。

 現在、総督であるクロヴィス皇子を失ったブリタニア駐留軍にとって、その地位にあるのはクロヴィスの側近だったバトレー将軍だったが、彼はもともと軍人というより軍官僚という方が適切な初老の男で、有事の際に現場の指揮など執れるような人物ではまるでない。

 

 当面は彼の指揮の下、軍は混乱を来すことになるだろう。

 だが、それはヴィレッタたちにとって好機と言えなくもない。

 

 遠からずエリア11には、次の総督が着任してこられるだろう。代理の執政官などという地位は極端な話、後任者が来るまでの間に混乱を最小限に抑えて引き継がせられれば、それでいい立場なのだ。

 

 だったら――その役目を担うのは、別にバトレーである必要はないではないか――。

 ヴィレッタはそう思う。そして上官もまた自分と同じ思い、もしくは野心を共有しているものと信じていた。

 

「ブリタニア軍の古き良き秩序は、破壊されつつあります。

 金で名誉ブリタニア人の地位を買った成り上がり共に、我ら由緒ある血筋の者たちが幾度煮え湯を飲まされたことか・・・。

 ・・・・・・ジェレミア辺境伯。クロヴィス殿下亡き今こそ、我ら《純血派》が、ブリタニア軍に正しき秩序と統制を回復するとき――」

「慌てるな、ヴィレッタ。指示はタイミングを見計らって私が出す。今しばらくの辛抱だ」

 

 決断を促すように、あるいは扇動するようにヴィレッタは熱心にジェレミアに向かって説こうとした直後、その唇の前に指を一本立たせて口止めをし、焦る彼女をいさめるための言葉を静かに吐くジェレミア。

 

 上官と相席した部下の美人士官が、身体で上司を傀儡にしている――そんな風に周囲から思われぬようにという、ジェレミアなりの配慮だった。

 直情傾向の強い彼だが、仮にも一勢力の頭目となるに当たってそれなりに学ぶよう努力してはいるのだ。

 それにジェレミアは、戦略全体を俯瞰視点で見る力はないが、担当地域だけで軍を動かすだけなら、指揮官としても決して無能な人物ではない。

 そのことを思い出し、功を焦りすぎた勇み足を恥じ入って、謝罪を口にするヴィレッタ・ヌゥ。

 

「気にするな、ヴィレッタ。それに丁度よい情報が入ったばかりでもある。

 我ら《純血派》が、代理執政官としてエリア11を統治できるよう、バトレー自身の口から権限を委譲させるための口実が、向こうから――な。

 エリア11内の反帝国強硬派を激発させ、以て殲滅するためには、奴らを怒らせ暴走させる必要がある。多少の強引さも、時にはよかろう・・・・・・」

 

 不敵に微笑みながらジェレミアは、手元にある携帯タブレットに映し出された情報を見下ろし、会心の笑みを浮かべていた。

 獲物が自ら穴蔵を飛び出し、宝を持ったまま空港へ移動中という、自分たちにとっての吉報を確認しながら―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カレン・シュタットフェルトは、日本人とブリタニア人の両親を持つハーフの少女である。

 日本人でもなく、ブリタニア人でもない彼女の出自は、ブリタニア侵攻により日本という国が消滅してしまった後、自らの寄って立つアイデンティティーの根拠となるものを求めさせざる得ない要因となっていく血の呪いでもあった。

 

 父親の血を選び、ブリタニア貴族令嬢となる道を進むことも可能ではあっただろう。幸いにも彼女の容姿は父方の血を濃く受け継いでおり、家柄は名家の一員でもある。

 素性を知られることさえなければ、死ぬまで豊かな生活に不自由することはない身分になれるはずだったのが、彼女に流れる『血統』という名の特権。

 

 だが結局、カレンは日本人の少女『香月カレン』として、エリア11独立のために戦うゲリラの一員となる道を自ら選ぶこととなる。

 それは純粋な日本人である兄の戦死が影響したものでもあったが、母親への反発が合間ってのものでもあった。

 

 カレンの母親は現在、シュタットフェルト家の使用人としてカレンの身の回りの世話お役立場になっている。

 かつて自分を身籠もらせた貴族のもとで、自分の息子を殺した侵略者の一員である貴族の慈悲にすがり、昔の情婦としてのツテを頼って媚びへつらい、帝国貴族に依存して生きる寄生虫となって常日頃から自分のことを苛立たせる血縁上の母親・・・・・・。

 

 ――自分は、アイツとは違う。自分は、あんな女と同じ生き方なんて絶対にしない!!

 

 そんな激情が彼女の行動と判断に影響を及ぼしていた結果が、今の彼女を現在の立場へと導いていたのかもしれない。

 そんな彼女が、エリア11にあるブリタニア人の子弟育成校アッシュフォード学園に通う一生徒として籍を置いていたのは、カモフラージュという面もあるが、亡き兄の望みでもあったという事情が反映してのものでもあった。

 

 

「カレン、久しぶりっ。身体もういいの?」

「ソフィーちゃん心配してたよ。もう大丈夫なの?」

「・・・・・・うん、あんまり無理はできないけどね」

 

 

 話しかけてくるブリタニア人の女生徒達に向けて、弱々しい微笑みを意識して作りながら小さな声で答えを返し、カレン・シュタットフェルトとしての仮面をかぶっている香月カレンの本音は、あまり心地いいものでは残念ながらない。

 

 ――・・・はぁ・・・疲れる。病弱なんて設定にするんじゃなかったか・・・・・・

 

 内心で嘆息しながら愚痴りはしても、それを言葉や表情に出すことはしない。猫かぶりの演技をしはじめてから相応の時間が経過している彼女にとって、この程度の演技はお手の物だ。そうそうボロを出すようなヘマをやらかす気は微塵もない。

 とはいえ正直、窮屈に感じている思いも無くすことはできないのが、忌々しいところでもあった。

 

 ・・・・・・本音を言えば、昨日の一件が気になる身として、組織の方に合流したい気持ちはあるのだが。

 リーダーであり亡き兄の親友でもあった扇から『今はほとぼりを冷ますよう』指示を受けている以上は勝手もできない。相手が語る理屈もわかる。

 

(街を巡回してるブリタニア兵の警邏が厳しくなってるし、この状況で扇さんたちに会いにいくのは流石に難しいだろうしね。

 しばらくはブリタニア貴族たちのお膝元で大人しくしてた方が得策って言うのは、分かる話なんだけど・・・・・・)

 

 カレンは表の顔での級友たちと話しながら、心の中でそう考えていた。

 シンジュク・ゲットーでの戦いの結果、ブリタニア軍は生き残っていた民間人の居住者たちだけでなく、独立派のゲリラたちまで解放せざるを得なくなったことから、その捜索と再発防止のため街の警備体制を普段より引き上げた状態になっている。

 常であれば、オノボリさんの様に“動物園感覚”でゲットーを見物に訪れるブリタニア本国からの観光客もいるほど弛緩しきった部分のあるエリア11の総督府軍だったが、流石に昨日の今日では市内の警備が普段より厳しくなるのは当然の対応だった。

 

 その点で、アッシュフォード学園に通っている生徒という身分は、最高のバリアーとなっていた。

 没落したとはいえ、元は本国で名家の貴族だったアッシュフォード家が運営している名門校。

 生徒たちの学び舎として、政治権力の介入はもとより、武装した軍人が土足で入ってくることなど許されない、『貴族子女たちの為』に造られた教育機関。

 

 この学校に入学している時点で、身元の証明はなされているようなもので、それを疑うことはアッシュフォード家や、貴族たちの素性を疑うことにも繋がってしまうため、軍や警察が好んで近づくことさえしたがらない、半ば聖域と化している感すらあるのが、この学校の特徴だった。

 

 ブリタニア軍による、逃亡したゲリラ追跡と捕縛の手から逃れるには、相手の懐の内側こそが盲点になる、最高の隠れ家。

 だがカレンが、その理屈を頭では理解しながらも、早急に組織と合流したい欲求を抑えるのに苦労せざるを得ない理由が、今の彼女には存在していた。

 

 

(・・・私たちを助けてくれた、“あの声の主”・・・。

 いったい何者で、なぜ私たちを助けてくれたのか、それを知るためにも、彼を探し出す作業に私も参加すべきなんじゃないかしら・・・?

 あの知謀が味方してくれるなら、必ず日本独立のため大きな力になる。――けど逆に敵になるようなら、早めに手を打たなければ・・・・・・)

 

 

 先日の戦い終盤で自分たちを助けてくれた謎の存在。

 今のカレンの頭は、その人物のことで一杯になっており、大人しくジッとしたまま報告を待つことが苦痛に感じる心境に陥っていた。それがカレンが焦りを抱いていた理由。

 

 現在の日本が――いや、ブリタニアの脅威に晒されている世界中の国が陥らされている『何とかなってほしいが何となりようもない戦況』に変化をもたらし、歴史の流れを変えてくれる可能性。

 

 それを見出したかもしれないという衝動に突き動かされ、その可能性が希望の光か凶星かを自らの目で見極めに行きたがる己を押さえることに苦闘しながらも、そんな本心を表に出さないためクラスメイトの女子生徒たちに愛想よく対応するのに苦慮せねばならない、貴族令嬢カレン・シュタットフェルト。あるいは香月カレン。

 

 後に『仮面の革命家』と呼ばれることになる人物の側近となる彼女もまた、上司とは事情の異なる仮面を使い分けるため、人知れず苦悩する時代が存在していた。

 この頃の彼女は、後と違って進むべき道を未だ定めることができず、信じ求める希望の光を模索しながら、足掻きと周囲の目を偽る日々を送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ルルーシュ・ランペルージは自分たちが偽りの身分で通っている学園の教室へと足を踏み入れたとき、思わず愕然となっていた。

 

「カレン、久しぶりっ。身体もういいの?」

「ソフィーちゃん心配してたよ。もう大丈夫なの?」

「・・・・・・うん、あんまり無理はできないけどね」

 

 彼が見つめる視線の先には、見慣れない姿のクラスメイトが―――見慣れて“いなかったクラスメイト”が、数人の親しい女子生徒たちと楽しげにお喋りに興じ合っている光景。

 その中心に座して応対している気弱そうな少女の横顔と声音に、記憶巣を刺激されたことがその原因だった。

 

 他の者に動揺を悟らせないため、驚異的な精神力で驚愕を内へと押し込め、瞬時にして冷静さを装った態度で席へと向かって歩き出したルルーシュだったものの、内心の驚愕まで抑えきることは不可能でもあった。

 

(バカな・・・・・・なぜ彼女が、この学園にッ!?)

 

 赤い色の髪を流した、気弱そうな表情を浮かべて友人たちの気遣いに小声で応えているだけの女子生徒。 

 進級した初日以来、今日まで一度も顔を合わせたことがなかったクラスメイトの少女だったはずの相手。

 

 ――だがルルーシュの脳裏には昨日、彼女と会ったばかりの記憶が鮮明に焼き付いている。

 日本独立派のゲリラが、ブリタニア軍から奪取したと思しき装置を載せて逃亡中だったトレーラーの中から飛び出していった旧式ナイトメア《グラスゴー》のパイロット。

 あの事件に巻き込まれた中で盗み見た彼女の横顔と声質が、今の久しぶりに出席してきたクラスメイト女子のそれと酷似しすぎていたのである。

 

「ル・ル~シュくん♪ な~に見つめちゃってるのかな~? ひょっとして彼女に惚れちゃったりした~?」

「・・・・・・リヴァルか」

 

 常らしからぬ友人の対応に目敏く反応して、意味ありげな笑みを浮かべながら声をかけてくる。

 軽そうな言動と、違法の賭けチェスなどにも手を染める振る舞いとは裏腹に、リヴァルは周囲の心理的変化やムードを読むのに長けた一面があり、微妙な違いから相手の現状に対して鋭い指摘をすることが多々見られる少年だった。

 ルルーシュとしてはヒヤリとさせられることが少なくはない。

 

 とは言え自分自身も、一般的な十代半ばの男子学生らしい青春を経験してきた少年という訳でもない。

 

「ふ・・・。その口振りから察するに、お前もその男たちの一員と言うところかな?」

「おおっとっと、そう来ましたか~。さすがはルルーシュくん、あいかわらず観察眼が鋭い。やぶ蛇、やぶ蛇」

 

 自分と同じように意味ありげな視線と共に返された途端に、道化たような仕草と言葉でアッサリと引き下がりながらも、茶化すような態度は一切変えない友人特有の間の取り方。

 些細な違いから相手の心理変化を見抜くのは聡いが、自身が気づいた相手の変化に自分から深く立ち入ることを自主的に避ける。それがリヴァルの付き合い方のようだった。

 

 浅くまで気づくだけで、詮索する気は最初から持ち合わせていないのだ。

 だから自分なりに納得できる理由と説明さえ得られたなら、それ以上は領分ではないと割り切ってしまいやすい友人の性格をルルーシュはよく理解していた。

 

「――もっとも、思わず凝視してしまっていたのは事実だがな。始業式で会って以来、初めて見る名家令嬢だ。驚くなという方が無理がある」

「まっ、その通りなんだけどねェ~」

 

 相手の説明で納得したのか、最初から話題の切っ掛けとして使うつもりでしかなかったのか、リヴァルは簡単に引き下がると話題の美少女について、聞かれてもいない情報まで垂れ流すように語りはじめた。

 

 

 ――カレン・シュタットフェルト。

 性格穏やかな深窓の令嬢として有名だが、その姿を見た者は多くないという特殊な立場にある人物でもある。

 彼女自身が秘匿しているという訳ではなく、生まれつき身体が弱いことが理由で出席日数が極端に少ないことが、その理由だった。

 一年時にも希にしか登校することはなかったものの、成績は抜群に優秀という天才少女として教師たちからは半ば『例外事項』として扱われることが多い。

 

 名門シュタットフェルト家の令嬢という生まれの身分も、教師たちに彼女への対応や周囲からの待遇に関して見て見ぬフリをして流す方針を取らせていた一因になっている部分でもあったろう。

 同じ欠席が多い生徒でも、ルルーシュやリヴァルのように賭けチェスなどインモラルな問題行為に及んでいるわけでもなく、学校内での生活態度について問題がなければ、貴族出身者に対して学園側が干渉してくることは少ない。

 

 ――それらリヴァルが得々と語ってくる『噂の美少女』に関する裏の事情までもを絡めた説明を、ルルーシュは半ば以上聞いてはいなかった。

 聞こえてはいるが、自分にとって重要な要素ではないと割り切り、思考の大部分を自らの思案に没入させてしまっていたのが、その理由だった。

 

(・・・迂闊だったかもしれんな。トランシーバー越しにとはいえ、俺の声を聞かせてしまった一人が、まさか同じ学園の生徒だったとは)

 

 その点が、ルルーシュの懸念せざるを得なくなった日本側ゲリラの女戦士『香月カレン』がブリタニアの名門貴族令嬢『カレン・シュタットフェルト』と同一人物だったと気付かされたことで、ルルーシュの頭と心によぎらされた最重要な疑念。

 

 現時点でのルルーシュにとって、己個人の兵力と呼べるものは何もなく、《ギアスの力》を手に入れたとはいえ、ブリタニアと戦って打倒するには《自らの勢力》を築くことが絶対必須の条件とならざるを得ない。

 そうなると、少なくとも当面は頼るべき相手は『日本側の独立派ゲリラ』しか候補はない。その時に自分がもつ『ブリタニア人』という人種と生まれが知られていることは大きな足枷となってしまう。

 

 あるいは、ギアスによる『絶対遵守の力』を用いてゲリラたち全てを裏から操り、次々と使い捨てていくことでブリタニアが支配する世界秩序そのものを混沌の渦中へと叩き落とすという手を選ぶなら、必ずしも必須の条件ではないのかもしれないが・・・・・・それでは只のテロリストで、反逆者でもなければ簒奪者とも呼べない。単なる破壊者に成り下がる。

 

(俺はブリタニアの支配する世界を、盗みたいのではない。奪いたいのだ。

 その為には奴らを上回る力こそが必要になる。ギアスの力で得た組織ではなく、俺自身の力としての勢力を)

 

 ルルーシュは心の底から、そう確信して今日まで計画を頭の中で組み立て続ける日々を送っていたのだ。今更それを覆してまで、世界を壊すだけのテロリストに成り下がりたいとは思えない。

 

 ある日、あの瓦礫の中で目覚めた誇り高きグリフォンの矜持が、それをこそ求めるのだ。

 征服者足れと。誰の足下にも決して屈することなく、現実の限界さえ踏み越えて過去の遺物へと追いやってやるのだと。

 そう、あの時からずっと心の中で叫び続けている声が、ルルーシュには今も聞こえている。

 他の誰に聞こえずとも自分にさえ聞こえるなら、己自身にとっては命をかけるに十分すぎる誇りに満ちた、その声が。・・・・・・それを、このような些事で止められたのでは死んでも死にきれなかった。

 

 ――最悪、ギアスを使ってでも絶対服従を命じるか、自分の下した命令を忘れさせるか、いずれかを選ぶのが賢明かもしれない―――そういう手まで考える。

 

(そもそも何故、ブリタニア貴族の中でも名家として知られているシュタットフェルト家の令嬢が、日本側ゲリラとして反政府活動に身を投じているのだ? その点だけでもギアスを使って聞き出すべき、か――――)

 

 そこまで考えて、右手を無意識に目の高さまで上げてしまった、その瞬間だった。

 ―――ルルーシュは不意に、己の思考におかしさを感じさせられ、思わず苦笑を浮かべてリヴァルから妙な視線を向けられてしまうことになる。

 

 

 なんとも妙な懸念と疑念に、自らが囚われかかっていた事実に、ようやく気付くことができたのが、その理由だった。

 

 “ブリタニア名門貴族の令嬢が、何故ゲリラとして反政府活動に身を投じている”・・・・・・か。まったく、下らない疑惑を抱いてしまったものだった。

 

 そんなもの、【ブリタニア皇帝の息子】でありながら、【父親から国も地位も権力も全て奪い尽くすこと】を欲している自分自身が疑問視できる資格があるわけもない。

 

 彼女の動機がどうだろうと、少なくとも自分には、気にすべき理由は何もない。

 人それぞれの生、人ぞれぞれの死、人それぞれの正義。

 そして・・・・・・人それぞれの反逆と簒奪だ。

 今ある形を壊して新たな形を創造しようとする反乱に、定型などあるわけもなかった。

 

 

「あ~・・・よく分かんないけどさ。ルルーシュって、恋とかしようとか思わないの?」

 

 突然そう言って、リヴァルが黙りこくってから表情を緩めた友人の変化に、気を逸らすような話題を投じる。

 なにか小難しそうなことを考えているらしい友人の思考を、彼なりに気遣った故での茶化すための話題でもあったし、さり気なく自分たちに「チラリ」と視線だけを向けてきたクラス一の豊満な肢体をもつ少女の気持ちを慮ったお節介さもあっての話題転換。

 

 とはいえ突然すぎる上に、相手にとっては余り得意分野ではない話なのも承知してはいたので、ひょっとしたら不機嫌にさせてしまったかもしれないなと思い、そうなった時のためフォローも付け足しながら友人との雑談に戻ろうとするリヴァルだったが、しかし―――

 

「いやほら、ルルーシュって見た目は悪くないし、成績も運動神経だって優等生。まぁちょっとシスコン過ぎるのが玉に瑕だけど、実は女子たちの間だと結構人気ある男子の一人になってて、俺的には羨ましい限りなわけで。

 だからさぁ~、学生らしい学園生活として可愛い女の子と恋人になって、楽しい青春を謳歌してみたいとか思ったりしないのかなーって、そーいう疑問」

「――やってもいいが、どうやって相手を探す?」

「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」

 

 相手からの返答を聞かされた瞬間、思わずリヴァルは椅子からズリ落ちそうになる身体を支えるため苦慮しなければならなくなる。

 背後では、自分と同じように長身の女生徒が姿勢を崩したらしい音を響かせていたが、リヴァルには自分の方で手一杯な精神状態だったので気にしてやれる余裕は残念ながら存在しなかった。

 

 友人がまともな色恋沙汰を語れる器用さなど持ち合わせていないことは承知していた彼だったが、まさかここまでピントがずれた返事が返ってくるとは予想していなかったのが彼ら2人に共通する事情だったのだ。

 

 普通、学生同士の恋というものは、出会って好きになった相手とするものだったはずなのだが・・・・・・

 

「る、ルルーシュくん・・・・・・それは流石に、順番が逆でしょうよ・・・。恋をするって決めてから、好きになる相手を探すって・・・・・・本末転倒してない? それって」

「そんなことはない。順序などというものは、人それぞれのはずだ。その意思があって常に備えていれば、俺にふさわしい女性を見出す機会も広がるだろうからな。そう思わないか? リヴァルは」

「いやまぁ、それはそーなんでしょうけれども・・・・・・」

 

 聞き返された側のリヴァルとしては、反応に窮するしかない。

 一般論としてなら、確かに仰るとおりご尤もと心から賛同してしまって構わない論法ではあるルルーシュの恋愛持論ではあったものの。

 殊こういう類いの話題に、そのような理屈を本気で持ち出してくる美少年というのも、世に希な存在なんじゃないだろうか?と、やや現実逃避気味にリヴァルは頭の中でそう考えていた。

 

「・・・・・・んじゃ、参考までに聞くけどさ。ルルーシュ好みの女の子って、どーいう娘がタイプなのさ? 探す時の参考にするから教えといてよ」

「別に好みと言うほどの条件なんかないさ。そうだな、頭がよくて気立てがよければ充分だ」

「いや、それケッコー条件厳しいような気がするんだけど・・・・・・」

 

 ごく抽象的で、しかも割と贅沢な要望を普通の態度で言ってきた友人からの返答に、リヴァルは毒気を抜かれた体で黙り込むことになる。

 ――つまるところ、本気で恋愛する気は今のルルーシュにはないってことか。彼は相手の返答内容から、そう判断して適度な話題の終了時刻がきたことを告げる締めにした。

 

 背後では、自分と同じような結論に達したらしいロングヘアーの女の子が、やや乱暴な手つきで次の授業の準備を始める音が響いており、その様子にまったく気付いた様子を見いだせない友人の、変なところで鈍すぎる精神的欠陥に思わず溜息を吐かざるを得なくさせられる。

 

 

 

「・・・? どうしたのカレンちゃん、誰か探してるなら呼んできてあげるよ」

「え? い、いえ、ちょっと聞き覚えがある声に似てた気がしただけだから、大丈夫・・・」

 

 そして、件の伯爵令嬢もルルーシュたちが交わし合っていた一連の会話内容を、ゲリラとして受けた訓練の成果として鍛えられた聴覚で、聞くとはなしに鼓膜にだけは入るようにしていたのだが。

 

(・・・・・・さっきの話し声、トランシーバーから聞こえてきた男の人のものに似てた気がしたけど・・・・・・まさかね。幾らなんでも、そんな都合のいい偶然があるわけないか)

 

 心の中でそう割り切り、カレンもまた『女子たちの話題で盛り上がっている気楽なブリタニア貴族のバカ息子共』に向けていた意識を完全に切り替えてしまい、自分の中でも結論を出せたつもりで気持ちを切り替える決定を下してしまうことになる。

 

 それでも尚、ルルーシュの側が彼女に素性を知るためのアプローチをかけてきていたならば、彼女の側もまた『今まで禄に話した経験もない男の子からの接触』が昨日の一件を連想させられ、再び疑問が鎌首をもたげ返すこともあったかもしれないが・・・・・・それらは全て杞憂に終わることになる。

 

 彼女と相手の少年はただ『同じクラスのクラスメート』それ以上でも以下でもない付き合い方で、久しぶりの再会なった日の大部分は終わってしまい、その認識は放課後近くなってから『生徒会専用として割り当てられているクラブハウス』に呼び出しを受ける時刻まで変わることはなかった。

 

 それが後に、【仮面の革命家】と【黒の親衛隊長】として名を馳せることになる2人が、初めて互いの所属を持つようになってから出会った最初の一日目だった事実を、後世に生きる者達は知っているが、当時を生きる彼ら自身は共にそのことを知らされぬまま日々を送っている。

 

 ルルーシュ・ランペルージも、香月カレンも、自らの運命を全て予期していた訳ではないのだから―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、彼ら自身が関知するかしないかに関わらず、彼らを取り巻く周囲の環境は、現在進行形で大きく変化する切っ掛けになる出来事を、学園からそう遠くない路上で発生させていたのである。 

 

 

 ズギューン!!

 最後に残っていた《サザーランド》の頭部が破壊され、重々しい音を鳴り響かせながら前のめりに道路へと倒れ伏し、抵抗する力を完全に損失させられる。

 

 もはや車両の周囲に味方はなく、護衛に連れてきていた少数のナイトメア部隊は1機残らず黒煙を上らせながら、機体内で生き残ったパイロットたちも銃口を向けられ死んだも同然の状態へと変えられてしまっている。

 

 倒れ伏したナイトメア部隊の中心には、一台の車両が動けなくなったまま停車し続けており、敵襲の危機が去った今も、『降伏して虜囚となる危機』が『戦い終わって敗北した敗軍の将』が震える身体を豪奢な礼装に身を包ませながら脂汗をかき続けていた。

 

「こ、これは一体どういうつもりだ!? 事と次第によっては反逆罪に問われ兼ねんことを、きき、貴官らは承知しているのかぁ~!」

 

 ダミ声での命令口調で精一杯の虚勢を張り、バトレー将軍は襲撃してきたナイトメア部隊に向けて吠える。

 激しい後悔が、彼の分厚い頬肉をしたたかに引っぱたいて、打ちのめされかける膝に力を必死に入れて立ち上がろうと努力する。

 

 公に死因を公表していないため、多数の警備隊に周囲を固めさせるわけにいかず、少数の護衛だけに守らせながら亡きクロヴィス殿下のご遺体を搬送している最中だった彼らは、突如として襲いかかってきたナイトメア『サザーラント』の部隊に為す術もなく打ちのめされていき、最後に残っていた一機も今倒されてしまった。

 

 もはや自分と殿下のご遺体を守ってくれる存在はナニもなく、式典用とはいえ装甲車両の頑丈な金属の壁がかろうじて自分たちを外の反乱部隊とを隔ててくれてはいるものの、それが砂の城の壁でしかないことを悟れぬほどにはパトレーは無能の現実逃避に浸れる精神はもてていない。

 

「こ、この車両に乗っておられるお方を誰と心得るのか!? き、貴様らがやったことは帝室に対して弓引くが如き、許されざる暴挙なのだぞ! 悔い改めて矛を引くなら、今回だけは私の胸の中にしまってやってもいい! だから―――」

『フッ・・・・・・帝室に対する反逆とは、よく言えたものですなバトレー将軍閣下。殿下の横死をひた隠し、あまつさえ亡骸をいずこかへと持ち去ろうとした、殿下の墓を穢す盗賊の分際で』

「う、ぐ!? そ、その声は・・・・・・まさかジェレミア卿、ジェレミア卿なのか!?」

 

 戦闘が始まってから初めて聞かされた相手の声にバトレーは驚愕し、次いで装甲車両の天井部分をアームで掴まれると。力尽くで天井が開け放たれてジェレミアの乗るサザーラントから操縦席が飛び出して、ブリタニア騎士の長身を晒す。

 

「《エリア11》における総督府の秩序を私が犯していると思われるのなら、処罰するがよいでしょう。私は不死身ではありませんが、私の死はエリア11駐留部隊全員の死も同義でもある。

 あなたのように、部下を置き去りにして自分たちだけ逃げ出す、臆病で利己的な指揮官の下で働かねばならぬのですからなっ!」

「!? ち、違うッ! 私は逃げるのではない! 殿下をお連れして行かねばならぬ所がある! それだけなのだ! 決して二心ある行動ではないと誓って宣言することもできる!」

 

 バトレーは相手の言い分と行動内容によってドキリとさせられ、必死に抗弁と相手への説得を試みる。

 それら彼が述べた言葉に嘘偽りはなかったものの、どこかしら後ろめたさを感じさせる響きにならざるを得なかったのも事実であり、我ながら嘘くささを禁じ得ない声音になってしまったのは痛恨事だった。

 

 実際、クロヴィスの死が公にすべきか判断できないでいたのは、その死が不名誉なものだからというだけではなく、死に至る直前におこなった殿下直々の命令によって兵士たちからの人望と士気を大いに損なうものとなってしまっていたのが大きかった。

 

 また一方で、パトレー自身にはクロヴィス直属の研究機関を任されていた身として、部下たちを昨晩の内に国外へと移動を完了させ、自分たちも後を追って合流する手筈となる、その予定ではあったのだ。

 

 あるいは“彼女の力”の研究が進めば、死したクロヴィス殿下をも蘇らせることが可能になるかもしれぬと考え、密かに遺体を運び出して来たるべき日まで安置させるつもりでいた・・・・・・将軍の主観で見た場合には今やっていた行動は、そう表すべきものだったが、世界は彼の視点だけで運営されているという訳ではない。

 

 “彼女の力”も存在も、例のカプセルの中に何が入っていたかさえも知らされていないジェレミアの視点から見れば、自分はさぞかし卑怯で臆病で、己が保身のことばかり考えて上司を利用する小物にしか見えぬ事であっただろう。

 

 だが違うのだ。そうではないのだ。そのことを話しさ聞けば理解できる。きっと理解してモラルはずなのだ。だから―――

 

「まだそんなつまらぬ言い訳を! そもそも武人であれば、持場を死守して当然ではありませんか!

 それを主君の遺体だけ抱いて、敵に背を向け逃げだすとは・・・・・・見苦しい!」

「だ、だから私は・・・!」

「お分かりですか? 私たちの決意を。我ら《純血派》の帝室に捧げる無私にして無二の絶対的忠誠心を!

 あなたも技術将校とはいえ、帝国軍の軍人でありましょう。祖国の恩に対して忸怩たる点がないのですか? もうこれ以上あなたが、殿下のお側にいるのは許されない・・・!」

「う・・・、ぐ・・・・・・」

 

 ジェレミアの形式論、自らの立場の弱さ、そして何より自分たちに向けられてくる無数の銃口が、バトレーに膝を屈する道を選ぶことを強要させた。

 幾つかの要求を受け入れて、その為の法的手続きを行うことを承諾させた時、ジェレミアは自機のナイトメア・コクピットに戻ってカメラ越しに相手の話を聞いていたが・・・・・・ふと。

 

 口元が笑みの形に歪ませた姿を、この場に第三者がいれば目撃したかもしれない。

 

 

 ―――これでいい、とジェレミアは思う。

 どれだけ戦力を集めようと、自分たち《純血派》はあくまで軍内部の派閥に過ぎず、政治面での後ろ盾となる人物とのコネクションが得られてないのがネックとなる組織でもある。

 

 《エリア11》全体への命令権と駐屯部隊全軍への指揮権を手にするには、委譲という形で一時的に委任してもらうことが必須の立場だったのが自分たち。

 その為にも、『死せるクロヴィス殿下のご遺体』は『大義名分の御旗』として使いやすく政治的に高い価値が未だあり続けていた。

 

 死んだとはいえ、彼は生前エリア11総督の地位を皇帝から与えられていた皇族の一員であり、その死を掲げて、死の責任を取らせるという形でなら仇討ちであり、殿下の忠臣たちが亡きクロヴィス殿下のご遺志に従って実行している立場になり得る。

 

 死した後もクロヴィス王子には、エリア11総督として役目を全うしていただき、以て逆賊共をあぶり出して殲滅する。その為のご協力を願うためにこそ、今回の襲撃作戦は存在した。

 

 

 だが―――ジェレミアは、自分が浮かべてしまっていた笑みに気付くと、慌てて謹厳実直な表情を作り直し、真面目な顔立ちでバトレーに要求を飲ませて具体的にどう動くか、監視役はどこで見張っているかのレクチャーを受ける姿をモニター越しに凝視する。

 

 

 誰も見ている者などいないとはいえ、『誤解される事』は彼にとって本意ではなかった。

 自分は只、ブリタニア帝室における『正しく正統なる後継者なられるべき方々』への忠誠を貫き通しているだけのこと。

 偉大なるブリタニア皇帝陛下の血統を絶やさぬ為にこそ、皇室の一員であるクロヴィス殿下にご協力を願うのだ。

 

 その為に、『生け贄』を捧げさせるため権謀を用いるのも、あくまで状況がなせる技であり、必要悪でしかない。

 

 

 そんな彼にとって、『私情』を理由に行動しているなどという不名誉な噂を立てられるのは、騎士として看過できぬ誤解でしかないのだから――――

 

 

 

つづく

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