試作品集   作:ひきがやもとまち

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ハリー・ポッター二次作の2話目。
体調が理由になって、書きたいけど書きづらい日が続いており、目が痛くない読むだけで書ける作品を優先した結果コレになりました。


ハリー・ポッターと明方朝露 2章

 

 ハリーは大きく目を開いたまま、何がどうなってるのか分からなくなった。

 ハグリッドという大男がやってきて、自分は魔法使いの学校に入るのだと言って、死んでしまった父や母も同じ魔法使いだったと教えてくれて、そして―――自分と一緒に暮らしてきた女の子のアンが、知らない女の子になって立っている。

 

 聞きたい質問はいっぱいあって、知りたいことは山のようにあったのに、けれど途中で迷子にならずに声に出して聞きたいと思い続けた言葉は一つだけ。

 

「ねぇ、アンは――アンはどこに行ったの?」

「・・・・・・ん?」

 

 声をかけられて、さっきまでアンが立っていた場所に立っている眼鏡をかけた女の子が、話しかけてきたハリーの方を初めて視線を向けてくる。 

 表情が少ないせいで、ちょっとだけ怖い目つきで見つめられて、ハリーは少し後ろに下がってしまう。

 

 足下から上の方までジロジロと、でも不思議とイヤな気持ちは感じにくい視線で、女の子はハリーの身体を珍獣でも観察するみたいな目つきで見つめてくる。

 その途中で、ペチュニア叔母さんが大嫌いな額にある、大きなイナズマ型の傷跡に目がとまった瞬間に、はじめて瞳が大きく開かれたのを見たハリーは身体をちょっとビクッとなる。

 

 けれど女の子は、ペチュニア叔母さんと違って傷跡そのものがイヤだと思ったわけではなかったみたいで、「ああ、なるほど」と小声でつぶやいてから一つ頷いただけで、悪い視線も言葉もハリーにぶつけてこようとはせず。

 

「キミが、あの時に赤ん坊だった男の子なんだ。大きくなってたから、分からなかった」

 

 それだけ言って、自分だけ納得したみたいに何度かうなずいて、それで終わり。

 どうやら、自分の傷跡に見覚えがあったから思いだしていただけだったらしい。ハリーが聞いた質問への答えもない。

 

「ねぇ、アンは。アンはどこに行ったの? きみは誰?」

「・・・・・・ア、ん・・・?」

 

 今度の質問には、女の子はちょっと不思議そうな反応を返してきた。

 知ってるみたいな言い方と、知らない名前を聞かれた時みたいな言い方が混ざったような発音でつぶやいて、上の方を見上げる。

 そして、ちょっと考えるような時間をおいて、思い出したみたいに「ああ」と一言だけ言って。

 

「・・・そう言えば、そんな名前にしてたんだっけ。起きたばっかりで忘れてた。あー、なんか頭ボンヤリする・・・」

「ねぇ、どこ。アンはいったいどこにいるの?」

 

 ハリーは食いさがる。

 そんな相手に女の子は、特にイヤそうな態度ではないけれど、別に好きそうでもない、アンとは全く似てない雰囲気で、でも不思議と似ている気もする表情で見つめてきて、

 

「ゴメン。わからない」

 

 一言だけ正直に答えてくれた。わからないと。

 

「私は、きみが親戚の家に預けられるときに、あなたを守るよう頼まれて、その依頼に向いてる人間を作ったの。

 その魔法の材料として、私は私を使って、キミの護衛を作るための魔法を使った。そういう魔法を私は使える。ダンブル爺さんが私に頼みやすいのは、そういう理由」

 

 淡々と、平然と、ごく普通のしゃべり方と表情で女の子は語ってくれて、ハリーにはよく分からない。

 ただなんとなく分かるのは、「アン」のことを、この子は多分、知らないという事だけ。

 

「だから私は、その子を知らない。会ったことがないから、どんな子だったのかも分からない。

 その子でいる間は、私は寝てるだけで、今さっき起きたばっかりだからね。細かいところはダンブル爺さん―――そこにいるハグリーが持ってきた手紙に書いてある学校のドンにでも聞くといい。

 もっとも、教えてはくれても、どこまで本当か分からない話になるかもしれないけど」

  

 それだけ言って、小さく欠伸を漏らした少女の姿と言葉に、ハリーの後ろで呆然としていたハグリッドは思わず頭を抱えたくなってしまった。

 

 ・・・十年たっても、何一つ変わっていない相変わらずな相手の言葉と考え方と行動に、頭が痛い思いをさせられずにはいられなくなったからだった。

 昔から、人の気持ちを気遣ってくれるけど、気持ちはまるで分かっていない魔女なのが彼女だった。

 それに魔法の仕組みについても彼は知らなかった。幼いハリーの気持ちを思うと、心優しい大男の気持ちはひどく沈んだものになってしまったが・・・・・・幸いなことに今だけは、気にしなくてよくなる理由が近くにあってくれた。それが話しかけてくる。

 

 

「ハリーはいかせんぞ! その子を引き取ったとき、お前らのようなヤツには関わらんと、そう決めたんだ!!」

 

 バーノン叔父さんの怒鳴り声が小屋中に響いて、ハリーは驚いた目で叔父さんを見る。

 今の今まで完全に、ダーズリー一家の存在を忘れていた自分を、その声でようやく思い出すことができたのだった。

 

 叔父さんは、海の上のボロ小屋にくる途中で買ってたらしいライフル銃を両手に構えて、ハグリッドたちの話に割って入ってくると、「家宅侵入罪」とか「魔法使いなんて頭がおかしい」とか色々な悪口を叫き散らして、途中からはペチュニア叔母さんも一緒になって悪口オンパレードが小屋中を満たす。

 

 その中にはハリーにとって聞き逃せない言葉、『交通事故で死んだ』と聞かされていた両親が、『自業自得で吹っ飛んでいた』という部分が含まれていて衝撃的だったけど―――ただ今だけは、別のことが気になったせいでハリーは大声で怒って確認したい気持ちになることができなかった。

 

 ペチュニア叔母さんもバートン叔父さんも、ハグリッドが勝手に小屋へ入ってきてから言われた話に激しく怒って怒鳴ってきていたけれど―――「アンのこと」は何も言わずに、眼鏡の女の子を見ようともしない。

 

 まるで彼らには見えていない、透明人間かなにかなのが彼女の正体みたいに思えるほどだった。

 思わず、ハリー達にだけ見えている妖精か幽霊なんじゃないだろうか?と疑ってしまったほど・・・・・・ダーズリー家の人達は、今日まで一緒に暮らしてきたアンという女の子のことを、完全に忘れてしまって思い出せないようだった。それがハリーには一番衝撃的だったのだ。

 

「とにかく、この子は行かせんからなッ! 魔法学校だのなんだの、訳の分からん場所に通わせるため金など出すなどバカバカしい。それに・・・・・・」

「えい」

 

 やがてバーノン叔父さんの方も怒りが強くなり、ハグリッドも段々イライラしてきて、ペチュニア叔母さんも腕組みしながら話に参加して二対一になり、ダドリーは泥棒みたいにコソコソしながらハグリッドが持ってきたハリーの誕生日ケーキを盗み食いするのに夢中になって・・・・・・ややこしい状況へと変わってしまって、落ち着いて話しどころじゃなくなった頃。

 

 ボンヤリとした表情で壁際に立って見物していた女の子が、面倒くさそうな声で一言つぶやき、うっとうしそうな仕草で片手を振る。

 

 そうした瞬間。・・・・・・バーノン叔父さんの手元にあったライフル銃が消えてなくなって。

 代わりに、眼鏡の女の子の両手にライフル銃が握られていた。

 

 ガチャコン、と。

 女の子が両手を使って、ライフルに弾を込め直す音が小屋中に響きわたって、ダーズリー家の人々の顔色を青くさせ。

 

「こういう場合、マグルの映画だとなんて言うのが正解だったんだっけ? ・・・・・・えっと・・・。

 “両手を挙げて這いつくばって俺のケツにキスしてアイアイサーと言え”だっけ?

 “黙るか死か、それが問題だ・・・”だったっけ? どっちが好みだった?」

 

「「「・・・・・・・・・・・・」」」

 

 

 ダーズリー家からの返事はありませんでした。

 そして、それが彼らの答えでもあったみたいです。

 

 

 

 

 

「それじゃ行こうか。ホグワーツに入学するための準備しにダイアゴン行くんでしょ? 私の方は今更だけど、キミが来たなら護衛はもう必要なさそうだし、もう行くわ」

 

 トンッと、小屋にくるときに乗ってきた小さな小舟から飛び降りながら、来たときと逆の道を戻ってきた浜辺に降り立ちながら、眼鏡の女の子はそう言ってヒラヒラと片手だけをハリーたちに振って別れを告げる。

 

 まったく未練を感じてる様子もないし、ハリーたちに別れを告げる言葉に悪意もなければ善意もない。

 不思議な力で、彼女が軽く蹴飛ばしただけの小舟は独りでに動き始めて、どこからともなく紅茶とお菓子も出してくれてハリーにくれた。

 それは今も彼の手元に残っており、ハグリッドがくれた物より遙かに柔らかくて美味しいそれを大事そうに抱えながら、それでもハリーには彼女に対して何となく、引き留める言葉を言いにくい気持ちを感じるのを辞めるのができなくて黙っていて・・・・・・代わりに一つだけ聞かせてもらったことがある。

 

「じゃあねハグリッド。あとよろしくって事で、バイバイっと」

「・・・・・・あの、君」

「ん・・・・・・?」

 

 背中を見せて、去って行こうとしてた彼女に対して、ハリーは小さな声で話しかけ、そして聞く。

 

「・・・・・・君は誰? 名前は? ――アンじゃないんでしょう・・・?」

「ああ・・・。そういえば言ってなかったよね。失礼」

 

 言われて初めて思い出した、そんな態度の女の子はポケットに両手を入れたまま頭を下げ、

 

「私の名前は、“明方朝露”。

 一応コレでも魔女ってことにはなっている。以後よろしく」

 

 それだけ言うと―――彼女は消えた。煙のように消えてなくなる。

 驚いたハリーが周囲を見ても、岩と海と小さな林が遠くに見えるだけの海岸に彼女の姿はどこにもなくて、最初から誰もいなかったみたいに静かな砂浜が広がるだけ。

 

「フン。相変わらず、頼りにはなるが愛想はないし、人付き合いもする気がないヤツじゃ。『例のあの人』があれだけ嫌いながら、敵対するのは嫌がった気分も分からんではないわな」

「ハグリッド、彼女のことを知ってるの?」

 

 ボソリと聞こえた大男の言葉に、ハリーは驚いて質問をする。

 てっきり二人は知ってるだけで、関係がないのかと思って今まで聞いてこなかったからだった。

 

 自分と同じぐらいの年頃の女の子と、髭がモジャモジャで強面の大男なハグリッド。二人が互いのことを知ってるとは、今日から魔法使いになったばかりのハリーには想像できないのが普通だったからですが、魔法界の人間からすれば当然のことでもありました。

 

「アヤツのことを知っておったかじゃと? ああ、知っとるとも。ワシだけじゃあない、魔法界の人間だったら誰でも、あのコマッシャクレタ娘っ子のことは知っとるだろうし、娘や息子に気をつけるよう教えとることだろうさ。

 ・・・・・・もっとも、『例のあの人』と違って、良いところも悪いところも教えられとるだろうがな」

「彼女は、そんなに有名なの? 僕とあんまり歳は変わらないのに・・・」

「お前さんとアイツが同い年ぐらい、だって? とんでもない! あの娘はワシらがホグワーツに通っとった頃からの知り合いじゃよ。もしかしたら俺より年上かもしれん。本当のことは誰も知らんから、分かりようもないがね」

 

 その答えにハリーは唖然とさせられて言葉を失ってしまった。

 あの女の子が、ハグリッドと同じ学校の頃から知っていて、しかも歳まで同じか年上だなんて信じられないことだった。何かの間違いか、凄くよく似た親子を見間違えたとしか思えない。

 

「・・・魔法を使えるようになれば、皆そうなれるの? その・・・ハグリッドも実は見た目より、もっと年上だったりとか・・・」

「いや、アヤツは特別じゃ。理由までは成績のよくなかった俺にはちーっとも分からんかったが、なんかしら理由はあるらしいとは言っとったことがある。

 まぁ、色々言っちまったが別にイヤな奴ってわけじゃあない。色々あって思うところがあるってだけの奴じゃからな。

 お前さんの両親も、アイツとは親しくしとったよ」

「父さん達が!?」

 

 驚いてハリーは立ち上がり、ハグリッドに続きを聞かせてくれるよう目でお願いすると、温かい視線で見返されながら、ただ少しだけ申し訳ない顔にもなって、半分半分の表情で教えれることを教えてくれる。

 

「・・・そうじゃな。折角だし、向こうへ付くまでに少しワシの知ってることを教えておこう。

 ワシらの世界のこと、お前さんの両親のこと、父さん達が親しくしていたアイツのこと。

 そして―――アイツにとっても父さん達にとっても、お前さんにとっても重要な、『例のあの人』のことを知っておかねば、これから困るじゃろうからな・・・・・・」

 

 

 こうしてハグリッドは、魔法学校に入学するため必要な道具を買いそろえられる【ダイアゴン横町】という場所に着くまでの間に色々教えてもらい、色々な話を聞いて、色々なことを知ることになり、ダイアゴン横町で初めて出会った人々からも色々な話を聞かされ続け―――すごく『小っぽけな自分』を最後に知ることになる。

 

 初めて訪れたダイアゴン横町で、初めて出会った人々から、次々にハリーは握手を求められて褒められて感謝され、揉みくちゃにされながら店に行って色々な物を買って買い終わり。

 

 入学式の日までは、ダーズリー家で待つ必要があるからと、電車の切符を買ってもらってハンバーガーを食べながら待っている時にポツリと、彼は「ここ」に来てから思っていた言葉をようやく口にすることができたのだった。

 

「・・・・・・みんなが僕のことを、特別だって思ってる。

 ここに来たばかりで、何も知らない僕を特別な存在だって・・・」

 

 ぽつりと小さな声で漏らした言葉は、不安な気持ちでいっぱいだった。

 つい昨日まで、皆から馬鹿にされ、ダドリーたちには虐められ、ダドリーを怖がった同い年の子供達からは距離をとられてきた今までの自分。

 

 味方になってくれたのは、一人の女の子だけだった自分。

 褒めてくれたのは一人だけ、尊敬してくれたのも一人だけ。

 

 彼女だけが――アンだけしか味方がいなかったはずの自分自身に、今では周囲の皆から褒めてもらえて感謝され・・・・・・その中には一人だけの味方だった女の子だけがいない。そんな違和感。

 

「酒場の『漏れ鍋』の人たちも、クィレル先生も、オリバンダーさんも・・・・・・でも僕、魔法のことは何も知らない。

 それなのに、どうして僕に偉大なことができるなんて期待できる? 有名だって言うけれど、何が僕を有名にしたのかさえ覚えてないんだよ。

 ヴォル――あ、ごめん・・・・・・僕の両親が死んだ夜のことだって、僕は何が起こったのかさえ覚えていないのに・・・・・・」

「ハリー・・・・・・」

 

 その気弱そうな、偉大なことをした英雄の言葉とはとても思えない泣き言のような話を聞かされながら、ハグリッドは髭と眉毛の奥の瞳にやさしい笑みを浮かべずにいられない気持ちにさせられながら、ふと思う。

 

 ――ああ、そうか。そういうことだったのか、と。

 

「ハリー、心配するな。すぐに様子が分かってくる。みんながホグワーツで一から始めるんだ。大変なのは分かる、何せお前さんは選ばれた子供だ。大変なことだ。

 だがな、ホグワーツは楽しい。俺も楽しかったし、退学になって番人になった今でさえ、実は楽しい気持ちは変わらなかったりするんだよ」

 

 10年前の、あの夜にダンブルドアが、なぜあんな大スモモみたいな一家にハリーを預ける道を選んだのか・・・・・・一度は納得して引き下がり、迎えに行く役目としてダズリー家の面々に出会ってしまったことで再び疑問に思ってしまっていた謎が、ハリーの言葉でようやく解けた気分になったからだった。

 

 ダンブルドアが恐れていたのは、いま言っていた不安を、ハリーが「思わなくなった時」のことだったのかと気付いたからだ。

 

 誰だって最初は1から始めて、魔法のことは親から教わったことしか何も知らない。だから学校で、ホグワーツに入学して、みんなと一緒に学びながら成長していけるのだ。

 始めは出来ないのが怖いのは当たり前で、自分と同じように怖くて知らない友達と一緒に、1から学んで一緒に成長していけるのは非常に楽しい。

 

 ・・・・・・でも、自分だけが『できて当然』として皆から言われて通う学校で学ぶことは楽しいのだろうか?

 それが『出来てしまえる子供』だったら、『出来ないのが当たり前の子供達』と一緒に学んでいく学校は、辛いだけの孤独な場所になったりはしないだろうか?

 

 それはハリーを、選ばれた特別な男の子を『例のあの人』に育て上げる一番の方法のように、ハグリッドには思えてならなかった。

 だからダンブルドア先生は、ハリーを皆から褒められて、『今の言葉を思うことが出来るまで』それらの人たちから距離をとって暮らす道を選んだのだろう。

 

 

 ・・・・・・もっとも、そんなダンブルドアでさえ、ダーズリー家の禄でなしっぷりは想像の埒外だったから、自分を直接迎えにいく役目を与えることになったのだろうけれど。

 

 本来なら、手紙で全部済むはずだったのだから。赤ん坊だったハリーと一緒に置いた手紙を、バーノンが十年後に渡してくれていれば。ホグワーツからのフクロウ便をダーズリー家が燃やしまくって海まで夜逃げすることさえしなければ―――ハグリッドの出てくる幕は特になかったはずなのだから。

 

 つくづく世の中という物や、さまざまな人の心というヤツは、どんなに優れた人間でも読めないものなのだなと、ハグリッドは今、心の底から思い知らされ、ダンブルドアを尊敬する思いを改めて胸に誓っていた。

 

 だから気付かなかった。

 ハリーもまた、ハグリッドとは違う人のことを心の中で思っていたことを。

 

 実は選ばれた特別な男の子だったのが、自分だったと知らされたのと同じ日に。

 平凡でヒドい扱いを受けていた自分を支えてくれた女の子を、永遠に失ったと教えられた相手のことを―――。

 

 

 

 

 

 

 その日から時間は、すごい早さで過ぎていくことになる。

 本当は、物凄い遅い時間のはずだった。

 一日がこんなに長く感じたことは一度もなく、早く入学式の日が来るよう神様に祈りながら、一秒一秒の時間が過ぎるのを待ち続けるのは辛い日々だったはずだった。

 

 だが今、待ちに待った入学式の日がやってきて、渡された切符に書いてあった【キングス・クロス駅】で真っ赤な特別車両に乗り込んで、始めて得た同性で同世代の男の子の友達と仲良くなりながら短い列車の旅を楽しんだ後。

 

 深い谷間にそびえ立つ、豪奢な中世のお城みたいな学校【魔法魔術学園ホグワーツ】へと到着して、大広間で入学式と新入生歓迎会に案内されたとき。

 

 それまでに至る長い時間は、一つ一つの出来事ごとに全て忘れ去ってリセットされて、『こんなに不思議なものを今まで見たことは一度もない』と、一日の内にいったい何回思い直すことになったろう?

 

 そんな今までの人生の中で、もっとも不思議で奇妙なことが次々と起こり続けた、ホグワーツ魔法魔術学校の新一年生としての生活が新たにスタートした始まりの一日。

 

 その日最後の、不思議で奇妙な存在で―――けれど他の誰より普通のことで驚かされることになったのは、新入生歓迎会が終わろうとする頃の出来事だった。

 

「エヘン――全員よく食べ、よく飲んだじゃろうから、また二言、三言、新学期を迎えるにあたり、いくつかお知らせがある。

 まず一年生に注意しておくが、構内にある森に入ってはいけません。また今学期は二週目にクィディッチの予選があります。寮のチームに参加したい人は、マダム・フーチに連絡して下さい。

 また最後に、とても痛い死に方をしたくない人は、今年いっぱい四階の右側の廊下には入ってはいけません」

 

 ホグワーツの校長先生であるダンブルドアから、広間中に聞こえる声で告げられてハリーは笑ってしまったけれど、大半の生徒は笑わなかった注意事項が告げられて、後は先生達から不人気な校歌斉唱をして解散して寝るだけとなった時。

 

 「ああ、そうだ」とダンブルドアが、さも今ようやく思い出したという態度で重大発言が、新入生たちに告知されることになったのは。

 

 

「些細なことだったので忘れていましたが――我らがホグワーツでは他の魔法学校と違って『闇の魔術』は生徒達に教えていません。

 魔法は使い方次第で、良くも悪くもなれるものですが、それは『闇の魔術の防衛術』という形で教えていけばよいと私は考えているからです。

 ですが、他の学校での教えや方針を知ることは大事なことですし、違いを学ぶことは正しい使い方を考えるのにも役に立つとは私も常々思っていました」

 

「そこでです。―――今年は『闇の魔術の防衛術』の副教師として、クィレル先生を補佐していただくため、他校の卒業生の方を特別講師に招かせていただきました。

 生徒達とは歳の近い先生で、話も弾むと思われます。皆さん、今年一年仲良くともに学んで楽しく過ごしましょう」

 

 

「どーも。明方朝露です。遙か東方にある魔術学校からきました。

 『闇の魔術の防衛術』の授業を補佐しますので、以後よろしく~・・・・・・」

 

 

 

つづく




いろいろ考えた結果、今作主人公の立ち位置は『教師の補佐』というポジションに落ち着きました。
リアルで言えば、【夏休み限定の臨時講師】みたいなのをイメージしてください。

他国の領土内にある魔法学校に雇われる際に、教員免許とかいるのかは知らん。
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