仕方ないので執筆に回して完成したのを投稿です。
女オリ主版『この乙女ゲー世界』最新話です。
異世界に転生しちゃってから歴16年。
原作悪役令嬢アンジェリカと、オリキャラっぽい合法ロリなマリエとの諍いは、夏休みを前にして一気にバルトファルト兄妹VS攻略対象王子キャラたちとの代理人決闘へと発展していた。
見物人の誰もが疑わなかった、数でも身分でも顔の良さでも優る王子たちの勝利・・・・・・だが当初の予測と期待は大きく裏切られ、戦局は圧倒的に不利に陥ったまま改善することなく、既に3人が敗れて残り2人だけとなっていた。
勝利数を競う剣道タイプの試合だった場合には敗北確定してましたが、決闘であって試合じゃないので全滅してない王子たちは負け判定にはなりません。決闘は時として試合よりも平和ボケ。
とはいえ不利は不利であり、3連敗して残り2人になった王子たちという事実を前にしては、当事者である王子たちも見物人の生徒たちにも動揺が出始めるのは避けられない。
予想外の展開に、会場内では絶望的なムードと悲鳴じみた叫びと、リオンの騎士らしからぬ戦い方と勝ち方への批判が飛び交うようになっていた。
それらの大方は、王子が勝つに決まっていると踏んで大金賭けたせいで大損させられそうな者達からリオンへの、怨嗟と逆恨みの批判だったが・・・・・・その中に、こんな罵倒があった。
『ひ、ひでぇ・・・騎士の戦い方じゃねぇよ』
『――でもさぁ~、グレッグもあっさり負けちまった上にアレって。騎士としてど~よ?』
『確かに・・・口ほどにもない無様な戦いだったよな。ハハ』
「っ!?」
その批判がたまたま耳に入ってしまったジルクは、強い焦りを感じさせられる事になる。
クリスやブラッドではなく、グレッグに対してだけ悪口が聞こえてきたのには、理由があった。
グレッグは確かに、冒険家として活動している実力派の貴族子弟で、腕はいいし根性もあり、女子生徒からも人気も高い。
・・・・・・だが一方で、『実戦経験のない貴族』をバカにしているところもあって、能力が高い故にプライドも高く、主に男子生徒たちは嫌っている者も少なくないことをジルクは把握していたのである。
グレッグが戦ってバルトファルトを倒すことで、自分たちも賭けに勝って儲かれる立場でいる間までは良かったが、負けてしまえばギャンブル補正は得られず、むしろ普段からの悪感情が増幅する理由にしかなりようもない。
端的に言うと、
『グレッグが嫌いです。でもバルトファルトはもっと大嫌いです』
『大嫌いなバルトファルトを倒してくれたら、グレッグ万歳!』
『負けたグレッグを褒めてやる価値などない』
という図式になる。人間界の好き嫌いは割と比較基準。
ただ、そーなると不味い立場になってくるのが、ジルク以上にユリウスという事になる。それが不味い。
なんと言ってもユリウスは、この国の王子であり、勝つと信じられていた自分たちメンバーの中で最高位の存在。女子たちからの人気も最も高いポジションにある。
・・・・・・そうなれば必然的に、バルトファルトに王子が敗れることで損害を被る生徒が最も多い決闘者はユリウスということになり、『成り上がり下級貴族に敗れた王族』として悪く言ってきそうな内外の敵も少なくはない。
想定敵国である【マンフォンス公国】などは、こっぴどく罵倒して外交に利用してくるであろう未来が容易に想像できてしまう・・・・・・そうなる原因としてユリウスが糾弾されるような事態になることだけは絶対に許されない。
(こ、このままでは不味い・・・っ!
私が負けるのはいいとしても、殿下だけは敗北の不名誉から守らねば!!)
心の中でジルクが、そこまで悲壮な覚悟を固めていたのには理由がある。
彼は他の三人よりも王家に近い家柄に生まれた少年で、『王太子の乳兄弟』という立場にあり、『国への忠誠心』よりも『王家への忠誠心』が優っている地位身分の人間。
他の二人、ブラッドやクリスも『名門貴族』であり、『国を守る貴族の義務感』では負けず劣らず強いものの、王家との血の繋がりまでは持っておらず距離もある。
一方で彼らとは逆にジルクだけは、『ユリウス個人の家来』という認識が強く、国全体とか自分個人の名誉にはあまり執着しないものの、自分にとって絶対な『王家とユリウス殿下の名誉』には非常にこだわる。
要するに、追い詰められたときに過激な手段に出やすいタイプ№1なのがコイツであった。
スターダストな作戦やった、政治トップ個人への忠誠強すぎなサムライ見りゃ大体わかる、このタイプの危険性。
なので、そーいう立場の奴が自力だけだと勝てそうにない状況に陥って、それでも価値を諦めない時には、こーなります↓
(私が不名誉を被ることで殿下を守れるなら、むしろ本望!
そう! ―――たとえ、どんな手を使ったとしても・・・!!)
こうしてジルクは決断して、機体の準備を理由にユリウスたちから遠ざかり、子飼いの者を呼び寄せて試合開始前に調査させていた『使えそうな人物』への伝言を密かに届けるよう命じる。
彼は――三人負けるまで待ったのだから・・・・・・ッ!!!
――さて、そんなこんなのシリアス事情が王子側では起こっていた頃。
我らが成り上がり兄と、リアル乙女ゲー好き妹によるバルトファルト兄妹は何してたかと言うと。
「あ! いた、いましたよアンジェリカさん! リオンさーん!」
「無事だったか!? 心配したぞバルトファルトっ」
「・・・あれ? 二人とも、なんかあったのかな?」
次の試合開始時間が近づいてきたから、廊下をのんびりと寛ぎながら歩いてた俺は、まだ距離がある位置から俺の名を呼びながら焦った様子で走ってきてるオリヴィアさんとアンジェリカさん2人の姿を見つけて首をひねってた。
一応記憶を掘り返してみても、2人にそこまで慌てて探させるような不埒なことをした覚えは―――心の中でしかやったことないし。
と言って、原作主人公と悪役令嬢だけどナイスバディではある美少女2人から、「はぁ、はぁ・・・っ」と息せきって探してもらえる主人公ポジに変われた記憶は、モブに生まれ変わってから一度も皆無。
結果として―――まったく身に覚えがない理由で、なんか慌てて探されてた事になっちまう訳で。
え? え? なに?ホント何? 俺なんか本気でやっちゃったりした? 金ならあるけど試合後にしか払う当てないんだけど!?
「リオンさん! 良かった・・・大丈夫ですか?」
「まったく、心配したぞ。だが、その顔色なら大丈夫そうだな」
「心配? しかも顔色って・・・・・・何を? 何のこと?」
「以前お会いしたお姉さんから、リオンさんが保健室に行ったって聞かされたんです。それに顔色も悪いから心配だって」
「立場的に近い私たちに、見てきてくれるよう頼まれたのだ。次の試合も棄権した方がいいと言っていたぐらいだが、大丈夫そうでよかった」
「は? え? ジェナが俺を心配?
・・・・・・“あの”ジェナが・・・・・・?」
頭の中でリピートされる、幼い頃に前世の記憶が戻ってから今までの、今生における姉と過ごした弟として、姉弟の絆的なメモリアル。メモリアル。めもり・・・・・・アル・・・・・・。
その結果。
(―――ねぇな。絶対にありえない、非科学的な超常現象だわ)
という結論を出すまでに至った時間は、わずか3秒未満。一応は義理として極小の可能性も検討してみたけど、それも無ければシークタイム0すら可能だったかもしれない程に。
むしろアイツだったら、
『朝から体調悪いし、熱あるみたいだし、今日は休んで欠席しとくわ・・・』
『うるせー愚弟! いーから行け! 風邪引いたときには根性出せば治るから、とっとと行け! 私の優勝賞金がかかってんのが分かってないの!?』
とかの理由で、ベッドから蹴り飛ばしてでも試合に無理矢理出場させるのを選ぶのが似合う女だからな、あの姉は。
ってゆーより、立場さえ違ってたら絶対そーやってそうな状況が、今の俺と王子たちとマリエの関係だし。もし仮にアンジェリカさんの代わりの悪役令嬢がジェナだった場合は絶対そうなってたと俺は思う。・・・似合いすぎる役割だった。
あの姉が俺を心配するなんて、まずあり得ない。まして棄権なんて、あのイノシシみたいな奴が言い出すなんて想像もできない。
あるいは・・・・・・“あの姉でさえ”棄権を勧めたくなるような事が、起きない限りは絶対に・・・。
「リオンさん、やっぱりどこかご加減でも悪いんですか? でしたら――」
「あ~・・・いや、実はずっと我慢してたんだよね。だから」
心配そうな表情で気遣って言ってきてくれたオリヴィアさんに、思わず正直に答えちまおうとしてから、途中で茶化した口調に変更してテキトーな嘘を吐く方向に変えておく。
――まぁ一応は、あんなんでも俺の姉なのは事実なわけで、家族の一員が殺人未遂で牢屋行きってのも外聞悪いし、姉と違って家族想いな弟しては「漏れそうだったから、ふんばってました系」のガキっぽい下ネタ言い訳して恥かくだけで守ってやろうっていう仏心が沸くわけで。
そう思い、実行していた矢先になってたところだったんだけどね。俺的には本心から本当に・・・・・・
「ん? なんだ、ここにいたのか兄君くん。
報告したいことがあったので探していた、いてくれて良かった」
「あん? レインもかよ。なんだ? ジェナからの言伝だったら今、オリヴィアさんたちから聞いたから言う必要ねぇぞ」
「姉君からの言伝・・・? いや、そんなもの私は聞かされていないのだがな。
そもそも姉君が、兄君くんへの伝言を我輩に伝えさせると思うかね? 面白おかしく脚色された過去の思い出から何も学んでいないに等しい愚行だとしか思えんが」
「・・・・・・・・・いやまぁ、そうなんだけども。
自分で言うなよ。そして漏らすなよ。自分ちの家庭内事情をハッキリと、人様の家のお嬢さん方の前で堂々と。ホンット恥ってものがねぇな、お前には・・・」
女子の前では男の子が言わない方がいい下ネタ以前に、他人家庭のお子さんの前では晒さんのがエチケットのバルトファルト家黒歴史を恥じることなく平然と晒しちまう愚昧のカミングアウトに、俺としてはジト目になってツッコむ側になって下ネタ言う気も失せてしまった。
見ると、オリヴィアさんとアンジェリカさんまでドン引き気味にレインを見て後ずさっちまっている。・・・自分たちのプライベート情報がコイツ経由で渡ることの危険性を今さらに思い至って警戒心を持つようになったのかもしれない。
まぁ正直、今更だと遅いんじゃないかなーと思わなくもない訳だが、今更なことを今更教えてあげても今更だからどーしようもないわけだし、仕方ないことだったと諦めてもらおう。
ちょうど注意も逸れたみたいだし、妹の話に乗るフリして俺も試合会場へ急ぐとしよう。
姉を守ってやるため男として恥かく覚悟はある家族想いな俺だけども、他の手段で避けられそうだったら可愛い女の子の前ではカッコ良く勝って強い俺☆――って感じで好感度上げられた方がいいのも、男の子として正直な俺でもあるわけで。
「で、なんだ? 俺に伝えたい話って。次の試合まで時間内から早めにしてくれよ」
「いや、丁度その試合に関して伝えたいことがあって探していたのだ」
「あん? 次の試合って、ジルクとの一戦についてか? なんでまた改まって・・・」
「なに。そう大した話ではないのだがね・・・・・・・次のジルクとの試合についてだが・・・・・・」
そう言って、パサッ――と前髪を掻きあげてから流すような、やる奴によってはキザっぽく見える仕草を、貧乳メガネで髪型ツインテールな無表情ヤンデレ系ドS腹黒な実妹がやってみせた後。
俺たちに言ってきた言葉が、この一言。
「次の試合、兄君くんは連戦で疲れてドクターストップして次の次の試合に復帰するまで、私が代理で選手交代出場するとレフリーに報告して許可もらってきたから。
――そのことを早めに伝えたくて探していたのだが、見つからなかったので選手交代決定して、今からだとドタキャン不可」
完全に、狙ってやった計画犯罪としか思えないのは、俺だけではなかったとしか思えん状況だったとさ。
「な、なんと言うことだ・・・・・・っ!」
試合会場内に響き渡るアナウンスを聞かされながら、ジルク・フィア・マーリモアは自分が仕組んで仕掛けさせた策略が、完全に破綻してまったく何の役にも立たないまま、無かったことにされてしまった現実を思い知らされて愕然とせざるを得なくなっていた。
『え~、連戦による疲労からリオン・フォー・バルトファルトは一時休息のため選手交代が認められました。
そのため次の試合では、代理選手のレイン・シー・バルトファルトと、副将であるジルク・フィア・マーリモアとの対戦になる。リオン・バルトファルトは休息の後、最終戦での復帰となる予定。
では両者、前へッ!!』
「い、いや待ってください審判! そのジャッジはおかしい! 不公平ですっ!!」
慌てて止めに入ろうと、審判にくってかかるジルク!
せっかく殿下がバルトファルトに負ける不名誉から守るため、汚れ役を引き受ける役を担ったのに、自分との試合だけ代理選手に替わって殿下との試合ではリオンが復帰する前提だと意味ないし!
むしろ自分が仕掛けさせた不正と証拠品だけ造っただけで、逆に殿下の名誉を傷つけまくる役にしか立ってない! まったく逆! やらない方がマシだった状態になってしまうんだけれども!?――と叫びたい状況に自らなる道選んで進んでしまった後のジルクとしては、審判に決定を覆してもらいたい気持ちで胸がいっぱいなのでどーしようもなし!
「せ、選手が敗れたのならともかく、健在な状態で疲れたからというだけで代理選手と交代して、主将戦には再び復帰できるというのでは余りに有利すぎる待遇!
公平を期すため相手側にも、私たちと同じ条件でのみ選手交代を認めるべきなのが筋ではないでしょうか!?」
『・・・うむ。我々も当初はそう考えて、拒否すべきとも思ったのだが・・・・・・しかし』
「し、しかし・・・・・・?」
重々しい口調と態度で、悩ましげに答えてくる安全のため審判達が乗っているヨロイからの返答に、一縷の望みを託すジルク。
そして―――
『しかし・・・・・・君たちは5人がかりで既に3人交代しているのだろう?
一方でバルトファルトチームは、2人だけのメンバーのまま交代なしで続けてきたのだし、この程度の交代ぐらいは認めてやらん方が不公平というもの。違うかね?』
「そ、それは・・・・・・そうかも、しれませんが・・・・・・」
二の句が尽きづらい、相手方の言い分。
ルール的にはジルクの言い分の方が正論といえば正論で、人数を集められなかった方は集められなかったことが悪い自己責任。それが試合方式としては正しい形でもあるにはある。
・・・・・・ただまぁ、その結果として既に三連敗して、良いとこ無しで一方的に敗れっぱなしな王族名門貴族チームが自分たちなのも事実な訳でもあり。
流石にこれだけ醜態晒して、相手からの「疲れたから休憩のため交代要請」も認めず、「選手交代は負けるまで認めんのがルール!構えろッ!!」とか言って拒絶したら、悪者街道一直線になりそうな立場になってるのも事実な現状でもあるわけで。
それに、圧倒的に強すぎな兄より、代理の妹の方が弱そうで勝ちやすそうな相手でもあるので、一応ながら審判達としては気を遣った結果という部分もあると言えばあった。
多少は勝たんと、王族の一員とか国境警備責任者の貴族子弟として格好がつかん。メンツにも関わり、国境地域の治安悪化まであり得そう。
そういう諸々の事情で、結局は正規選手が負けたら代理に交代するわけだし、ジルクがレインを倒した後でリオンに勝てば結果的には同じでもある。
あくまでジルクが焦っているのも、リオンを倒すため姉のジェナに揺さぶりをかけて、《アロガンツ》に爆弾を仕掛けさせた策略をやった後だったからで、リオンが今すぐ出なければ爆弾が未然に発見されてバレる恐れがあるからで、必ずしもチーム戦の戦略的計算に基づいた意見って訳でもない。
――要するに、完全犯罪計画の予定狂って色々と台無しになって焦りまくっている犯罪者状態なのが今のジルクだった。
サスペンスでは割とよくある、完全犯罪計画失敗の切っ掛けイベントですね。コレ一つだけで全部破綻するところがサスペンスでは違いやすそうな部分ですけど、無いことは無い展開でもある。
そーいうのだと大抵、最初の計算違いの尻拭いを延々と繰り返した末に捕まる、初っぱなから大失敗の誤魔化し続きな空回り犯人になること多いのが定番だけど・・・・・・果たして彼の誤魔化し能力は如何に!?
「くっ・・・! ですが2人だけのチームである以上、貴女が負ければ休憩中だろうと彼が出てこざるを得ないっ。
貴女を速攻で倒し、すぐにもリオン・フォー・バルトファルドを出場させれば同じ事! いいでしょう、相手になって差し上げます!!」
という方針で決まったらしい。
そのため互いの名乗り合いも煩わしく、サッサと目的達成と証拠隠滅を急がなければならないため、何の細工も仕掛けてなかった上に手の内の分からないレインの相手に時間かけるわけにも行かないジルクは、試合開始早々に語りかけによる降伏勧告を促す手に打って出る。
『レインさん、と言いましたね。貴女のお兄様は確かに強い、敬意を表するに値します。
ですが、妹であり女性である貴女に、彼ほどの力があるはずもありません。降伏して下さい。私はたとえ敵であろうと、か弱き淑女に手を上げたくないのです。お願いします』
「ジルク様・・・・・・兄のことをお褒めいただき、光栄です。
なればこそ吾輩も、兄リオンの名を辱めぬため全力でお相手いたしましょうッ!」
『ぐっ・・・、仕方がありませんね。本意ではありませんが、せめて華々しい終わらせ方で貴女の名誉だけでも守ってあげましょう!』
そんなやり取りを交わし合ってから始まった、レインVSジルクとの一戦。
その試合内容を―――観客席の一部から白け気味な目で眺めていた、悪役っぽいパイロットスーツ姿の少年騎士がいたことをジルクは知らない。ジルクだけは気付いてない。
『マスター、先ほど報告した《アロガンツ》にセットされていた爆弾の撤去が完了しました。マスターの姉君がセットしていた光景を記録した映像はカットして、サブマスターの対戦相手が指示を下しているシーンのみで整合性が取れるよう調整作業も完璧です。つくづくクズでゲスな作業でしたが』
「一言多いなお前・・・いつものことだから別にいいけどさ」
『そうですね。言い直しましょう。
仕掛けられた爆薬の量からして、一般的なヨロイなら操縦者の命はないほどの爆弾です。たかが試合に、あんなものを仕掛けてくる対戦相手と比べればマスターたちは同格といったところでしょう。どちらの方が下という程ではありません。失礼しました』
「いや、それ余計失礼になってるだけじゃねぇーか。遠回しな嫌味を言うな、レインかお前はまったく」
少しだけ声量抑えた、ルクシオン相手に小声でブツクサ言い合いながら、俺たちは観客席の目立ちにくい一角から、急遽レインに選手交代した試合を見ようと高見の見物を決め込んでいた。
姉貴がアロガンツにやってきたことを恨む気持ちは、特になかった。
もともと俺たちが勝手に、この国の殿下にケンカ売っちまったことで周囲からハブられて肩身が狭くなってたんだろう。そこをジルクにつけ込まれたか、もしくは脅されて利用された・・・・・・そんなとこだろう。
前者だったら、口利きして関係修復の仲介役。後者だったら、もっと悲惨な状況に・・・・・・よくある手だ。前世の学校とかクラス内でも腐るほど見てきた典型パターンだから珍しくも内。今更気にしたいとさえ思えない程度には。
・・・・・・それに今回の一件では、姉貴や家族に迷惑かけちまった自覚も少しぐらいはあったしな・・・・・・。
色々とイヤになってたのは事実だが、あの時には家族のことまで考えて準備してから動いたかって言うと、そーでもなかったのが正直なとこだったし、成り行きの勢い任せでやっちまった面があることの結果で迷惑かけてるって考えたら、俺だって少しは悪いって思う気持ちぐらいはある。
そのためのフォロー用に、ジルクからの圧力対処のための証拠物品押さえるためなら、一芝居打つのに付き合うぐらいは別にいいし、姉のことで何かあると余計恨まれるだけで俺に得はなんもないのは事実でもあることだし。
・・・・・・しっかし、それにしても・・・・・・
『しかし、争いというものは同レベルの相手同士でしか行われないものという事実を改めて認識する結果になりましたね。
サブマスターの選手交代の理由は、私には理解しかねるものでしたが、対戦相手が強硬手段に訴えでた動機もドッコイドッコイと言ったところでしたから』
「まぁ、アイツらしいっちゃ、アイツらしい理由ではあったけどな。
逆に俺は、今まで信じてきた一般論を、はじめて疑い持っちまう理由になりそうな話でもあったが・・・・・・」
ルクシオンの話に答えながら俺は、レインから選手交代の一件を聞かされた時にアイツから聞かされた理由についてもセットで思い出し―――少しだけゲンナリした気分にさせられそうになっちまった。
それはアイツがあの時、いぶかしがる俺たちに向かって、こう理由を説明してくれたのを思い出していたからだった・・・・・・。
「なに、大した理由と言うほどでも無いのだが・・・・・・所謂、私怨という奴でね。ジルクの相手だけは吾輩に譲ってもらいたい。そういう事さ」
「―――なにか、あったのか・・・?」
「うむ・・・・・・」
重々しい口調で、珍しく真面目な顔と態度で告げられたレインから聞く『私怨』という物騒な言葉。
さまざまなマイナス感情が連想される単語を使われたことで、俺はコイツにも知らないところで攻略対象たちとの因縁めいたことが起きてしまって、ゲームではなく現実になった世界で乙女ゲー時代とは違うイヤな出来事があったのかもしれない・・・・・・そう、「普通の女子ゲーマー相手だったら」思ったかもしれないなと思わなくも無い状況だったわけなのだが。
「実は前世において、このゲームをプレイしていた時。ジルク押しだったのが吾輩だったのでな・・・・・・無自覚に傲慢で、ナルシストで、自信過剰で偏見持ちで、打たれ弱い・・・・・・そんな彼のキャラ性に想いを募らせる乙女心を寄せていた過去がある・・・・・・」
「・・・・・・人の趣味をどーこー言う気ねぇけど、どこが良いんだよソレ・・・。欠点しか言ってなかったようにしか聞こえなかったぞオイ・・・」
そして初っぱなからダメな話から始まる、期待を裏切らない我が愚昧。
褒めてんのか貶してんのか、普通に考えたら貶してる一択としか思えん発言内容だったけど、好きな理由として語ってきてるってことは褒め言葉だったという事なんだろう。
この世界に生まれ変わってから、緩い乙女ゲー世界には引きっぱなしだったけど、乙女ゲーマーそれ自体にもコイツと出会ってから引くようになった今の俺・・・。
「うむ・・・他にいいところがあるから救われてるというか・・・・・・イベントをこなしていくとダメだった部分が少しはマトモになっていくのが愛おしいというか、気がつくと情が移ってしまっていて・・・・・・そう。
“いい子に育っているな”・・・・と。そう感じて愛しく想い、自分の中での一押しキャラになっていく。それが乙女ゲーの押しキャラ基準」
「それは本当に乙女なのか? ダメな子供を持った母ちゃんの感情じゃなく?」
「まぁ、ダメなところが無いとつけ込めないと言うか、プレイする側もダメなところが多いというか・・・・・・手のかかる子ほど可愛いというのが、よく分かる。それこそが乙女ゲーマーの心理」
「いや、母ちゃんだろ。母ちゃんの心理だろソレ絶対に」
「あと、義理でもなんでも兄弟がいるとか、M男とか、ヤンデレとかが出てくる作品のキャラが押しなのだが・・・・・・ジルクは王太子の乳兄弟で、M気味で、殿下にヤンデレで有りかなと」
なんかもう、別の話になってきたとしか俺的には思いようがない内容に頭痛めることしか出来なくなっていたが・・・・・・結果としてのコイツがジルクとの試合を自分に譲れと言ってきた理由が分からんままなので聞き続けるしか道はなく。
「そしてまぁ・・・・・・好きだったからこそ、自分のモノにならなかった時の怒りが半端ないというか。
自分以外の女にまで優しくしてるとこ見せつけられた挙げ句、NTRされてバッドとか。
――そういう展開いらないと思わないかねッ!? お金払って、なんでこんな思いしなければならんのか!
思わせぶりに近づいてきて片思いの相談とかしやがって知らねぇよ! お前の恋愛なんかどうでもいいんだ! もうこの後の補償はお前の身命でどうにかしてくれるんだろうなとってつけたように!と怒り狂って床板に拳を叩きつけた思い出というものがだねぇッ!??!」
「落ち着け怖い!? お前以外の乙女ゲーマーさん達の意見は(たぶん)違う人もいるかもしれんし誤解されるようなことを大声で叫ぶんじゃねぇ! 俺が巻き込まれて誤解されちまうから辞めい!?」
そしてやっぱりダメすぎる理由の妹だった! コイツには、こういう思い出しかねぇのか!? 乙女ゲーってのは一体どういうジャンルのゲームなんだ本当に!
この緩い乙女ゲーをリアル妹にやらされた以外はほとんど知らなかった俺だけど、生まれ変わってコイツと兄妹になってからドンドン悪いイメージばっか増大して、印象ワケ分かんなくなってる一方なんだけど大丈夫なのか本当にコレって!?
「―――とまぁ、そういう事情で恨んでる相手なので吾輩にヤラせて欲しいのだよ兄君くん。
愛しさ裏返って憎さ百倍アンパンには毒入り饅とか、よく言うだろう? そういうノリで今だけターッチ的なノリで」
「最後だけ取って付けたように、可愛く見える表現使って言われても、怖さが倍増する効果しかねぇんだけどな。リアルでやられると本当に・・・・・・」
「お願~い、兄君くーん♥ 吾輩、どーしても彼のハート(心臓)が欲しいから取ってきたいの~♪ ゲヘヘ」
「分かった。分かったから、そういう露骨すぎる悪意と欲望丸出しの取り繕いになってない取り繕いはやめろ。怖い。逆に怖いだけだから・・・」
そういう理由説明を経て・・・・・・俺は今、ジルクとレインの試合を遠巻きに見ているだけの立場にいる。
「あー、なんつーか・・・・・・『普段やさしそうな奴が一番怖い』ってのは一般的によくある話だけどさ・・・・・・普通に考えて、『普段から怖いヤンデレ系女子は普段通り一番怖い』ってのが正解なんだろうな・・・ギャップ補正とかあっても、コッチの方がやっぱ怖ぇと俺は思ったわ・・・」
『マスターの妹であるサブマスターが特殊例なだけでは?』
「・・・・・・・・・それは否定できないけど、実妹がソレだってことになると、兄の俺が巻き込まれかねんから間違ってると言っておく」
『なるほど。やはりマスターと姉君とサブマスターは、同格の兄妹姉妹だったと言うことですね』
そんな会話をルクシオンと続けながら、俺の耳にはレイン用のヨロイである《アローガント》のコクピット内に響いている音声を共有できるヘッドセットから、二人の会話が聞こえてきてる真っ最中。
『悪く思わないでください、これも殿下のためですか――な、なにっ!? あの一撃を避けた!?
ま、待ちなさい! どうあっても殿下と戦うつもりだというなら、貴女もお兄さんも貴族として終わりますよ! それでもいいんですか!?』
「む!? ・・・・・・通信装置が故障したのか? 受信機能がおかしい、外部の音声が聞こえない・・・・・・まぁ戦闘に支障はないから後で修理すればいい些細な問題か」
『なっ!? ま、まさか聞こえていない!? いえ、本当は聞こえているのでしょう! あなたも私の声が本当は聞こえているはず! だから聞きなさい!?
も、もしも貴女やお兄さんが殿下になにかする気なら、君たちの家族にも責任を取らせますよ! それでもいいんですか!? ちょっと!
聞こえているんでしょう!? いるんですよね!? 返事をしなさってギャァァァ~~~ッ!?』
「なに!? いったい外でなにが起きているの!? 聞こえない! ああ!?
今度はモニターまでもが!? コレじゃ何も見えない! 聞こえない!
あ、ああぁぁぁ目が! 耳がぁぁぁぁ!!! あああアアアアァァァァァッ♪♪♪」
『ヒィッ!? ちょっと辞め、フギャッ!? ぶげッ!? い、イジメは反たヘブシッ!? あべしッ!? ほ、本当は聞こえているんだったら許されなアヒィィィィッ!?
こ、こんな策略は卑怯ですよォォォォォォォッ!?』
《プツン。ツ~・・・、ツ~・・・・・・、ツ~~・・・・・・・・・。
現在、お掛けになった通信相手のヨロイは通信装置にエラーが生じております。修理の後、再び連絡を試みるか、装置の交換をお勧めします》
『で、殿下ぁぁぁぁぁぁッ!? この者達は危険です! 危険すぎますっ!!
この者達と戦ってはいけま、あ、あ、アワァァァァァァァァアアアアッ!!!???』
「ふぅ・・・・・・。さようなら、吾輩の恋―――グッドラック」
とりあえず、最後は綺麗っぽく飾るセリフで終わるのが恋愛道(偏見)
つづき