試作品集   作:ひきがやもとまち

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原作確認してから書きたかったのですが、最近いろいろあって時間が取れず、1話分だけお試し用に先行して出してみた次第。

【シュヴァルツェスマーケン】と【紺碧の艦隊】とのコラボ作。
ただし作者は、どっちもニワカです。だから確認作業が必要だったんです。

あと作者に思想的な理由や、特定勢力への他意とかは全くありません。単に昔思いついたアイデアと今の情勢がミスマッチだっただけです。思いついたのは大分前! 
本気で悪意とかないので、そこは受け入れられる方だけお読みください本当に。


“照和”42年、トータル・イクリプスは始まりを迎えていた…

 

 1958年、“照和”33年。

 人類史上最大の悪夢と称すべき大戦を乗り越え、新たな平和社会構築へと向けて歩み出していた人類は、無人探査機によって発見された火星地表に生息する数種の生命体を知ることになる。

 この発見に研究者たちは驚喜し、彼らを援助する国家指導者たちもまた、大いなる希望を与えられることになる。

 彼らは広大なる宇宙が、死の荒野などではなく、地球生命は決して孤独ではない――それが事実であることを純粋に喜び、人々の多くは火星有人探査の夢に熱中した。

 

 だが・・・・・・1967年、照和42年。

 人々と指導者たちが抱いた惑星間での平和思想は脆くも潰えることとなる。

 後にBITAと名付けられる異星起源種からの奇襲という形で始まったファーストコンタクトは、軽武装しか持たない恒久月面基地の地質調査隊を一人残らず捕食されるという惨劇として幕を開けた。

 電撃的な奇襲によって瞬く間に月面のほぼ全土を制圧した彼らは、次に地球へと降下を開始して橋頭堡を築くに到る。

 

 開戦からしばらくして、強力な生体発振レーザー器官を有する新種を登場させたことにより、航空戦力を完璧に無効化させることに成功したBETAであったが、太平洋戦争中の蓄積と制度改革によって爆発的に科学技術を進歩させていた人類は即座に新兵器の開発に成功。実戦に投入する。

 

 『戦術歩行機』と称された航空戦力に代わる新たな対BTEA兵器を、新種確認の翌年には試作機を完成させ、戦果を上げる。以降は新たな戦場の人類側主役として戦術歩行機の名が全ての国の軍に認知されていくことになる。

 

 こうしてBTEAの侵略に対抗する剣と盾を早くも手にした人類であったが、敵の反撃も激しく《ハイヴ》と呼ばれる巣を拠点として戦力を増強し続けながら、徹底抗戦の構えを示す。

 戦局は疲弊し、一進一退の攻防を繰り広げながらも幾つかの地域を人類側も彼らに奪われたまま奪還できずにいた。

 

 中央アジアや中国は大きな打撃を受け、ユーラシア大陸中央部、新疆ウイグル自治区などBTEAが最初に降下した地域は未だ彼らの《巣》として占領下に置かれている。

 

 

 ―――だが、ほぼ全ての地球人類全体にとって災厄となった、異星生命体からの地球侵略は、一人の悪魔と彼に付き従う者たちに再起する好機を与えてしまうことになる・・・・・・。

 

 ハインリッヒ・フォン・ヒトラーと、欧州帝国と国名を改めたナチス第三帝国こそが、その悪魔たちの名称だった。

 

 1978年、パレオロゴス作戦に失敗した直後だったソ連軍は、《ミンクスハイヴ》からの大攻勢に対処することが出来ず、欧州の防衛戦は大きく後退を余儀なくされる。

 自国領の過半とポーランドを失いつつあるスターリンは、かつてドイツ第三帝国の侵攻に対抗するため一時的に本拠地機能を移していたウラル山脈要塞を拠点として強固な防御ラインを構築したものの、背後で息を吹き返した悪魔たちの軍勢と二正面作戦を維持できるだけの戦力は太平洋戦争中にモスクワを焼かれて疲弊していたソ連軍に、もはや残されていない。

 

 亜細亜圏からの援軍に多大な期待ができぬ状況下のスターリンは、やむを得ずヒトラーとの単独講和を締結させ、対BTEA防衛戦への協力と、《ハイヴ》の封じ込めに援軍、更には物資の支援を要請。

 ヒトラーは、これらを受諾した。彼にとってもBTEAは『外敵』という名の脅威でしかないことに変わりはなく、その脅威の最前線に立って“ドイツを守らせるための”壁として戦うソ連軍を支援してやるのは、将来的な敵の疲弊と兵力温存を両立できる有意義な提案だったからである。

 スターリンには、同じエゴイストの独裁者としてヒトラーの思考は手に取るように分かっていたものの、窮状にある祖国の情勢下で他の選択肢は存在し得ない。内心で歯がみしながらも彼は悪魔の手を取るしかなかった。

 

 

 そして現在、時に1982年12月20日。午前7時。

 

 ガタン、と背もたれが僅かに揺れた振動で、カティア・ヴァルトハルムは瞼を開く。

 軍用列車内の電灯はすべて消され、視界は薄闇に包まれ、口から漏れるのは白い息。

 寒気と眠気が体中にまとわりつく中で、隣で眠っている仲間が自分の肩にもたれかかって眠っていることに気付いて、少しだけ鬱陶しく感じてしまう。

 

(うう、微妙に肩がこってるのは、このせいですかぁ・・・・・・)

 

 恨めしく感じはするが、無理はないのも頭では分かっているため、起こして退かそうという気にまではなれず、周囲を見る。

 着替えや日用品を詰め込んだバックが所狭しと置かれ、両脇に並ぶ座席では《ソビエト連邦正統政府軍》の軍服を着た少年少女たちが身を寄せ合いながら、あどけない表情で眠りこけたままだった。

 彼らが配属されていた基地だったパーダーホルンから、東にある最前線まで400キロ以上の長距離移動中なのである。皆、疲れが堪っているのだ。自分だけではない。

 

(疎開列車みたい・・・・・・なんて言うと怒られちゃいますよね・・・・・・それとも、失笑されるだけなのかな?)

 

 そんな不謹慎な想像をした後、どっちもありそうだなと一瞬で答えを導き出して彼女は小さく溜息を吐く。

 以前までより、ずっと形に拘るようになった上官たちや周囲の大人たちが聞けば、彼女の発言は拳骨と罵声によってのみ報われることだろう。

 だが、監視役として少数だけが乗り込んでいる黒服のSS隊員がいるところで言った時には、彼らは嘲笑して失笑するだけで何も言わないだろうし、他の仲間たちも彼女に対しては何も言ってくることはないかもしれない。

 ただ、髑髏が付いた軍帽と鍵十字のマークを、憎しみと殺意を込めて睨み付けるだけで。

 

 自分たちの生まれ故郷を、『哀れみ』として『めぐんでやった』としか思っていないナチスの悪魔たち。

 第二次大戦後、一時的におとずれた平穏の中で皇帝ヒトラーが強行させた作戦に失敗しながらも、何の因果か国家体制と指導者自身はしぶとく生き残り続け、弱体化し続けながらも1967年まで存続し続け―――あの運命の日を迎えることになる。

 

 あの日以降、世界は再び戦乱と混沌の直中へと舞い戻らされてしまったまま、元の平和な社会に戻ることが出来ずにいる。

 世界平和と平等社会実現をリードしていた、日本のオオタカ総理は志半ばで無念の内に死を迎えたと当時の新聞には書いてあった。

 その後、日本を始めとして世界各国はBTEAの侵略によく対抗できているとは思うけど――すべての場所と国家で同じように、とは残念ながら行っていないのも事実ではある。

 

 欧州帝国――ユーロ・アフリカ帝国の復活と領土回復は、そういう状況が成せる技の中で最悪なできごとの最たるものだったと言っていい。

 アジアと日本国内にも降下したBTEAの《ハイヴ》に対抗するため、ヨーロッパにまで支援の兵を送ることが難しくなりすぎた彼ら日本軍に代わって、新たに自分の祖父母や両親たちへ手を差し伸べる役を担ったのが彼らであり、スターリンは悪魔との契約と承知で住処を奪われた国民たちに『補給拠点たりうる領土』を割譲してくれるよう求めるしか道がなかった。

 

 こうして、『ユーロ・ソビエト二重連邦』が建国される運びとなる。

 形式的には、ドイツの旧首都ベルリンを含めたドイツ領だった東側と、西側の一部をソ連からの亡命者たちに割譲。

 日本のオオタカが、かつてユダヤ人たちによる国家『東方エルサレム共和国』を建国するための土地としてカラフトを割譲した前例にならい、かつて同盟国だった民衆たちのため、自らが住まう豪奢な宮殿を築かせていた首都一帯の自国領を割譲しようという寛大なる処置に、『永遠の感謝と友誼を同胞たちは忘れることはないだろう』とスターリンは語ったという。

 

 まさに、壮大なる茶番だった。

 要は、新たな敵の登場に危険地帯と化した首都を捨てる口実として、自分たちとスターリンからの要請を利用しただけでしかない。

 かつての偉大なる同士ドノも、さぞ無念と怨みを抱きながら病床に伏したんだろうなぁ・・・・・・そう思うと、対して敬意を感じているわけでもない、学校の先生から「偉大な先達であり指導者だった」と熱弁された歴史上の人物に、カティアは不敬ながら共感を覚えそうな気になってくる。

 

 ふと、微かに差し込む窓の隙間から光が見えた。

 それを見たカティアは、ハッとして突き動かされるように立ち上がろうとし、肩により掛かっている同級生の存在を思い出して可能な限り素早く丁寧に頭をどかせると、音を立てないよう注意しながら扉を開いて表に出る。

 

「・・・・・・アカ野郎のガキ共はどうしてる? 下手な真似してるヤツはいないだろうな」

 

 その瞬間に聞こえてきたダミ声にビクッとして、廊下の向こう側を曲がった先の方に意識を集中させて傾けると、

 

「ハッ! 問題ありません。大人しいものです、死んだように眠ってますよ。

 まぁ、明日から一週間ぐらい経ったころには、半分ぐらいは本当に永眠してると考えれば気持ちは分かりますが・・・」

「フンッ、確かにな。まぁせいぜい最後の時間ぐらい、邪魔しないでお仲間同士で仲良く過ごさせてやるといい。どうせアカだ。

 この世から抹殺すべき、愚かな人種の一つでしかない連中。ならせめて気持ちよく戦わせてやることで、偉大なる建国帝陛下と我らが帝国の盾となって散ってくれた方が、アウシュヴィッツに送る手間が省けて楽でいい」

 

「はっ、確かに。・・・・・・ですが、SS大尉殿。たしか奴らには戦後に資本主義との交流を押しつけられた、西街区の出身者も混じっていたように記憶しておりますが、奴らはアカではないのでは?」

「同じだ。所詮はソ連人だ。ソ連人に、西も東も関係はない。奴らは皆、一人残らず我ら偉大なるアーリア人の世界支配を阻害した、ファシストのアカという劣等人種でしかない。忘れるな」

「ハッ! 承知しました! 以後、気をつけますっ」

 

 そんな身勝手の局地を行くような会話を交わしあった後、足音の一つは遠ざかり、もう一つの足音と声は静かになった。

 カティアは胸をなで下ろすと、秘密の移動を再び再開。

 敵前逃亡防止のため、窓のすべてに鉄板が張られている客車の入り口まで近づくと、予算不足かケチっただけなのか、入り口の窓をカーテンで覆っているだけと知っていたカティアは、そっと布地を横にズラしてカーテンの隙間から窓外を見つめる。

 

「あっ・・・・・・!」

 

 そして――見えた。窓の向こうに雪化粧で包まれた広大な平原と、その中で寂しげに立ち並んだまま放置されている無人の町が。自分たちの――故郷が。

 

 窓の隙間から見えるのは、雪以外なにもない平原、古びた駅舎、ドイツ社会労働党のポスター。

 ユーロ・ソビエト二重帝国首都・東西ベルリン東街区――通称、東ソ連。

 第二次大戦後、ヒトラーが断行させた最後の決戦に敗北して生き延びながらも、多くの譲歩と領土割譲を受け入れざるを得なくなったドイツ国内にソ連が確保した、社会主義者たちを住まわせた地区。

 来たるべき祖国の再復活に備えて力を養うことを目的とした地域の一つで、武力闘争ではなく競争の原理に基づくシェアの奪い合いという形でアメリカ式資本主義とソビエト式共産主義、さらには日本の大亜細亜式経済システムとが争いあった経済戦争の最前線。

 

 だが今では、BTEAの侵攻によって後退に後退を重ねるソ連正統政府にとっては、共産主義防衛のための最前線となってしまっている地域。

 

(ついに、ここまで来たんですね。私は・・・・・・)

 

 心の中だけでカティアは、そう呟く。

 窓越しに見上げる空からは、雪を孕んだ暗灰色の雲間から脆弱な太陽の光がわずかに零れ落ちるのが見えるのみ・・・・・・。

 

 かつて、ヒトラーによる大量虐殺の犠牲者となったユダヤ人たちは、アウシュヴィッツに送られる際、同じような列車に詰め込まれ、同じような旅を逆方向から向かわせられて強制させられたのだ・・・・・・と、子供の頃にニホンジンの小学校教師から教えてもらったのを思い出した。

 

 時は流れ、1978年の大敗と、翌年のナチス再活性化によって欧州の最前線たるの地位を押しつけられ、拒絶することが出来ない窮状に陥らされた二つに別たれたソ連とドイツ。

 

 そこは人類が、BTEAと欧州帝国というヒトラーの亡霊、二つの悪魔の脅威に未だ晒され続けている血みどろの大地。

 

 人類史上最悪の悲劇による傷跡は、今なお人々と世界を苦しめ続けたまま癒えることを許さない―――。 

 

 

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