今回はあんまり乙女ネタが使えなかったのが残念。次話で頑張ってみます。
文化祭の当日が始まっていた。
準備の段階でマリエにたぶらかされた王子共が、俺らの出店する喫茶店の隣で執事喫茶ならぬ王族BARみたいな店出す宣言されて、ユリウスには判定法法不明な勝負まで挑まれちまった俺なのだが。
・・・しょーじき俺としては、祭りの最終日に行われるレースの賭けギャンブルで大勝ちしまくって、店の売り上げにカンケーなく全部ひっくり返す前提で計画してたから、喫茶店の方は最終日までの暇つぶしとしか思ってなかったりはする。
どのみちルクシオンに計測させるから、賭けでの大勝ちは最初から決まってるようなもんだったし。
だからユリウスたちには悪いが、勝ちたきゃ勝手に勝ってくだ~さい、ぐらいの気持ちでテキトーに相手してやる気だったのだが。
「ふむ・・・まさか我らが喫茶店の隣に攻略対象達がライバル店を出店してくるとは予想外な展開だ。
我輩としたことが、このような事態になるとは全くこれっぽっちも想像していなかったので、余りの事態に驚き慌てて碌な対策も思いつけないほどに混乱状態。具体的には《メダパニ》とか《パルプンテ》と言って良いほどに。
それほどに予想外な大ピンチに陥ってしまったので、ここは一つ我輩の考えた、緊急事態だから多少のことは仕方ない方針に、店の経営を変更する気はないだろうか?
何しろ緊急事態だからな。勝つためには仕方ない。時間ない中で思いつくことが出来る案なんて、そんなものだから仕方ない。あ~、仕方ない仕方ない」
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
という妹からの、明らかすぎる程あからさまな『予想外の緊急事態が起きた時用に立案されてた経営計画変更案』とかいう、汚職企業みたいなこと提案されちまったため、急きょ計画変更して「茶店でも勝つため方針」に切り替え直して今になっている。
「いやまぁ、別に協力してやる分にはいいけどさ。具体的にどーする気なんだ?
自分で言っといてなんだが、バカ王子達の茶店が隣にある状態での巻き返しは正直キツいと思うぞ」
「だよなぁ・・・女子達の客はほとんどがアッチ行くだろうし、そうなると女子達に嫌われたくない男子の客も、コッチには来づらくなる・・・」
「王子さま達が没落した原因がリオンとの決闘に敗れたせい、っていうのは周知の事実だからね・・・結婚を諦めてない男子達としては正直、敷居が高くなっちゃったっていうのは事実だと思う」
俺に続いてダニエルとレイモンドも控えめに、俺たちの店が置かれちまった立場の悪化を暗い顔して語ってくる。
ムカつく話だったが2人の言うとおり、王子達が隣に店を出したことで女性客を取られただけじゃなく、自動的に男性客まで奪われるのが半ば確定されちまったのが、俺たちの店が置かれた状況じゃあるのだ。
中身はともかく顔とスペックは良い王子達から接客してもらえる店ともなれば、この学校の性格悪い女子たちの大半はアイツらの店に集中することになるだろう。
そうなると自然に、先に出してた俺たちの店の方が『アイツらの邪魔してるライバル店』扱いされて、そっちに行くヤツは女子共を敵に回す羽目になりかねない。
王子達に働かせるホスト喫茶を経営する場所を、俺たちの隣に配置しただけで『客よせホイホイ』と『客よけスプレー』の両方を両立しちまってたという、敵ながら見事な心理作戦・・・・・・クソぅ、マリエめ・・・馬鹿だと思って侮りすぎたか・・・馬鹿のくせに生意気な・・・。
「兄君くん達の懸念は尤もだと私も思うし、同意見でもある。
まともじゃない営業をしたぐらいでは、当初に予定していた男子生徒たちの客入りは、ほとんど期待できないことだろう。
――なので我輩は、急きょ用意したコレを張ってみようと愚考した訳だ」
そう言ってレインは、懐から何かを取り出して店の前の看板にまで歩いて行って「パンッ」と何かを貼り付ける。
一体なにを貼り付けたのか見に行ってみると、
――カフェ【“公爵令嬢が”メイド“する”喫茶店】
・・・・・・確かに客が来そうな売り文句ではある一文だったなオイ・・・。
俺がやったらアンジェになにされるか分かんなくて怖くて絶対とれない案だけど、同じ同性同士の女でなら、ギリ肩をブルブル震わせながら俯かれるだけで済んでいて――これ後でマズくない?
フォローしといた方がいい気がしてきたんだけども、身体的社会的な安全的に・・・。
「い、いや、これだとアンジェリカさんだけが接客してるみたいで問題ないか?
オリヴィアさんだっているんだし、もう少し別の店名にした方がいいような気が・・・」
「ふむ・・・確かに。では兄君くんからの意見も採用して、コレも取り付けよう。
私としては、やり過ぎな気もしたのだが、兄君くんがそこまで言うなら致し方なし」
「おい止めろ愚昧。最初からの計画犯罪に兄を巻き込んで利用してくるんじゃねぇ。
大体さっきと同じ、張り紙を追加したぐらいで、そんな大した変化なんて出来るはずがーー」
――カフェ【公爵令嬢がメイドする“仮面”喫茶マスカれ~しょん】
・・・・・・もはや王子達の店と同レベルとしか思えん、いかがわしさ溢れまくった喫茶店になっちまったなオイ・・・。
ってゆーかコレは本当に、学祭で許可降りる類いの店なんだろうか?
前世妹といい、今生妹といい、ホントに妹ってヤツは、ろくなことを考えねぇ生き物だったんだな本当に・・・。
「店の宣伝に際して、この顔を隠すためのマスクを一緒に配布し、来店する際には配られたマスクを付けて来た者だけが入店できるという特別ルールを設ける。
これによって女子達から顔を見られて正体を知られ嫌われる、というリスクを軽減させようと思うのだ。
場合によっては多少の仮装もありにして、仮面仮装喫茶というのもなきしにろ在らずんば否や?的な感じで」
「いやあの、えっと・・・・・・そんな大量のマスクを今から用意するのは無理だし・・・」
「そ、そうだよな。作るの大変そうな凝ったデザインだし、流石にこんなもの一朝一夕で大量生産なんて無――」
「安心したまえ、レイモンド氏、ダニエル氏。既に用意してある。予備もあるので欲しければ幾らでもどーぞ」
『『・・・・・・・・・・・・・・・』』
余りのいかがわしいイメージで引き気味になってた男友達二人が、逃げるための口実に言ったセリフが徒となって、制服の懐から大量に取り出されてきた怪しげなマスクに唖然とさせられて硬直したアホ面を晒す羽目になる。
まったく甘い連中だった。この妹相手に、そんな平凡すぎる逃げの一手が通じる訳がないし、通じたことが一度もない。
一体どこからどうやって、そして何の目的と理由で、マスカレードっぽいマスクなんか大量に学校内まで持ち込んでたのか謎すぎるけど、コイツだと家にいた時の時点で大量に持ってたのを持ってきただけの可能性高すぎるので知りたくない。だから聞かない。
身内の恥を、実家の恥さらしで拡大されるより、学校側の監督不行き届きに押しつけたい兄心的な理由として。
「まぁ、この程度の偽装で完全に身バレが防げると考えるのは少数派だろうし、低学年の者には難易度が高いかもしれぬが・・・・・・割と多いと思うのだ。
――卒業を控えて、“こーいうイベントで可愛い女の子にチヤホヤされとかないと一生、床と壁を叩くマシーン”になるしかないとかの理由で訪れる上級生男子たちって」
『『『・・・・・・・・・』』』
「それにまぁ・・・・・・存外に楽なものなのだぞ?
自分を“そーいう生き物だ”と割り切って、悔しがり怨嗟の呪いを叫ぶ段階をとっくに通り過ぎた漢としての人生を送るのって」
『『『・・・・・・・・・・・・』』』
「少なくとも、吾輩的には有りな生き方だと言うことだけは押しておきたい所存である」
・・・何というか、この世界に生まれ変わった後に妹となったヤツの前世が気になる悟り方だったが・・・詳しく知ると怖そうだったので、やっぱ知りたくないので気にならないでいいッス。
少なくとも、今の俺的には、まだその人生は無しだとだけ言っておこう。心の中で。
主人公っぽい生き方と承知で、希望を持ち続けるのを辞めたくない。マジで辞めたくない、辞めたくない。(心の一句)
「では諸君、初日から急きょ指揮を執らせてもらうことになったので夜露死苦。
まず男性諸氏らには、気合いを入れて裏方スタッフ全般をお任せする。
綺麗どころ二人の中で、お嬢様の方には接客の合間に休憩しつつ、文化祭を楽しみながら見物して回って―――客寄せをお願いしたい。
公爵令嬢がメイド服姿で歩けば、サルが集まる。これ世界の常識」
「扱いの差がッ!?」
「いや分かるけども! 男として分かってしまうが扱いの差がッ!?」
「き、気にしないでくださいね? アンジェ・・・レインさんも、お店の勝負で勝とうとしてるだけで悪気がある訳じゃないと思い・・・・・・ますし・・・」
「・・・・・・いいのだリヴィア・・・。私も喫茶店で働くのを楽しみにしていたのは事実だし、客引きも立派に営業方針の一つではある・・・・・・あるのだが、しかし・・・(プルプル・・・ッ)」
―――という感じに一致団結したところで文化祭開始~。
今日が初日だし、気合い入れてくぞ野郎共ッ! エイエイオー!(現実逃避なのは自覚)
と思って気合い入れてたんだけれども。
トントン。
「アンジェリカさん、実行委員会から呼び出しです。すぐ本部に向かってください」
バタン。
『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』
・・・・・・いきなりメガネで巨乳の美人先生から冷や水かけられるスタート切る羽目になっちまったな。
流石にこの展開は愚昧でも予測できんだろうし、用意があるとも思えない。といって確か、文化祭運営の責任者ってことになってるらしいアンジェには、呼び出し無視するってのも選びようがない選択肢だろうし。どうするのかと思って振り返りながら相手たちを見てみると。
「ふむ・・・初っ端からケチが入るとは流石にヨソウガイであったな。
本来なら最終局面で使う予定だった切り札を、こんなにも早く使う羽目になるとは思わなかったが・・・・・・仕方がない。
行くのなら、コレを持って行ってくれたまえアンジェ女史。きっと役に立つであろう。よっこらしょっと」
なんか序盤の悪役ボスと旅立ちの時の王様みたいなセリフとオッサンみたいな定番言い回しを言いながら、妹が後ろから取り出してきたブツを見せられ。
―――やっぱ予想できてたんじゃねぇかなコイツ?と正直思った俺だったとさ。
もしくはコイツ自身が黒幕とか。
あり得そうで無さそうで、有りっぽくはある腹グロ妹を持つと心労でも人間関係でも苦労させられる。
やっぱ妹はダメだと思った俺であった。まる。
――私にとって、様々な面で初めて尽くしな文化祭の初日。
正直いろいろと思うところがあったのは事実だが、それでも紆余曲折あった末、我々が運営する喫茶店が開店しようとした矢先に呼び出しを受け、何事かと思い向かった先で待っていた存在は・・・・・・初日から私を最も驚かせてくれる存在だったのは運命か何かだったのかもしれない。
「お、王妃様・・・あまり無茶を言われても困ります・・・」
「ウフフ♡ ごめんね~♪ でも今日ぐらい私のワガママに付き合ってくれてもいーと思って☆」
私の左腕に腕を絡ませながら、もたれかかってくるような姿勢で寄り添いながら歩くことを望まれた美貌の女性・・・。
サラサラとした銀髪の長い髪、清楚でシンプルながらも品のいい白い衣服。
青いカチューシャ、あどけない笑顔。
学園の女子生徒と同じくらいに――と言うのは流石に言い過ぎだが、実年齢と比べれば遙かに若々しく美しい見た目を保っておられる、見目麗しい尊き女性。
「きょ、今日ぐらいと仰られましても・・・割といつもでは――」
「え~? 貴女のことで色々大変だったのよ~? 宮廷内の騒ぎを収めるには結構ね♪」
「・・・・・・大変申し訳ございませんでした・・・いつもお世話になっていますので、今日は何なりとお申し付けください・・・・・・」
・・・・・・そして私が一生、頭が上がりそうにない様々な借りがありすぎる、この国の中では唯一の存在でもある御方。
「コホン。――そ、それより本当にリオンと、その妹に会われるおつもりなのですか?」
「当然じゃない! ユリウスが廃嫡になったのは本人の責任だけど、親としては文句の一つも言ってあげたいわ!
・・・・・・こんな終わり方じゃ、息子が犯した問題行動の責任を一人だけに押しつけた形になっちゃって・・・あの子の母親として納得できるわけがないもの」
「ミレーヌ・・・様・・・・・・」
不機嫌そうなポーズをとりながらも、学園の女子生徒たちの大半とは全く異なる理由と見解によって、リオンたちとユリウス殿下との決闘を評してこられる人物・・・。
――そう、この方こそ『ミレーヌ・ラファ・ホルファート』
レパルト連合王国から嫁いでこられた、現ホルファート王国の王妃であり、ユリウス殿下の母親でもあられる御方。
私自身とは、王城に行儀見習いとして働きに出されていた頃から付き合いがあり、その頃にまぁ・・・・・・コホン。私にも色々と合った時期をよく知る人物でもあらせられる。
「それに私、学園祭で初めてなのよ~♪ アンジェのメイド服姿も久々に見たし。相変わらずカワイイ♡」
「あ、あの頃は・・・色々とその、お世話になりました・・・・・・」
この国に限らず、上級貴族に生まれた女子は一定年齢に達すると、目上との付き合い方や傅く立場としての立ち居振る舞いを学ばせるため、王宮に一使用人としての立場で仕える時期を過ごすという慣例がある。
上の立場に仕える下の者の視点でものを考え、理解しておかねば人の上に立って率いる者としての立場に立った時、円滑に組織を動かすことなど出来はしない。
理屈としては至極その通りであり、妻や夫の接し方で下の者に不平不満を買い、一族全体への恨みを抱かせてしまうようでは、上に立つ者として不適格にも程があるからな。
・・・・・・だがまぁ、理屈としては正しくとも実行するとなれば別になるのが人の世の現実というもの・・・私自身がまさにそうだった。
その頃の私を知り、その頃に犯してしまった私の過ちをフォローしてもらった借りが山のようにある女性。
私が頭の上げようがない相手なのは、殿下のこともあるが、そういう事情がある相手だからでもある。
「それにしても、ユリウスったら。確かに、甘やかしすぎて育てちゃってたかもしれない私にも責任はあることだけど、コロッと騙されて利用されるだなんて。
この国の王子としての立場に、自覚っていうものが全くないんだから、もう!」
「そ、それについては私にも責任がありますし、殿下だけを責められるのは・・・」
「うぅん、それとこれとは話が別。気にしているのは決闘の内容だけだもの。一方的に婚約を破棄された貴女が怒るのは無理のないことだから。
・・・・・・それにしても」
そして、ここに来てミレーヌ様は、私よりわずかに低い身長で顔を上げられて、私の頭上より上の方にあるモノを、興味津々という視線で見上げられた上で。
「ずいぶんと珍しくて面白いモノを持ってるのねぇ~。これが文化祭の伝統なのかしら? なんだか面白い♪」
「・・・・・・・・・喜んでいただけて恐縮ですが、あまり言わないでくださると助かる代物です。それと伝統ではありません」
――遂に指摘されてしまった物品に関する評価に話題が移り、私としては必死に意識と心をミレーヌ様に向けて集中してきた努力を無に帰されてしまった心地にさせられる・・・。
いま私の頭上に掲げられているのは、呼び出しに応じて来るまえにレインから渡されていた一品。
別に重たいわけではない品物で、持ち運ぶだけなら片手だけでも出来てしまいそうな程度のモノでもある訳だが・・・・・・何故だろうか。
凄まじく精神面での重みを追加で背負わされているような・・・・・・そんな気にさせられてしまう謎の一品・・・。
それには先頃と同じく、ヤツによる手書きの文字で、こう書かれていた――
『公爵令嬢がメイドする仮面喫茶マスカれ~しょん
私が、メ・イ・ド・よ☆』
・・・・・・という一文が記された、妙に私と似ているように見えなくもない戯画化された絵画を看板に記されたものが・・・・・・。
「ずいぶんと変わった構図の絵よねぇ。
アンジェの姿をなんていうかこう、瞳を大きくして、顔を大分小さく描いて、全体的なバランスを本物より縮尺を縮めたような、それでいて柔らかなタッチで描いた上半身だけの絵画なんて斬新だわ。
フフ、絵の中のアンジェも仮面をつけて微笑んでて、なんかカッコいい感じかも♪」
「・・・・・・気のせいです。この絵の人物は私とは縁もゆかりもない、謎の仮面メイド貴族令嬢であって私とは別人です。断じて私と関係がありません」
「えー? そう? けっこう似てるし、近いと思うんだけど・・・う~ん、でも確かに細かなところだと違ってるから別人なのかしら?
でも・・・ウフフ♪ こーいうのを皆で作って盛り上がりながら楽しみながら学園祭ってものなのねぇ。
初めて来て、ヒドい所だと感じてたけど、面白そうな部分もあるみたいだし楽しみだわ♡」
「いえ、あの・・・・・・あまり期待されない方がいいような気が・・・・・・。
これらを基準に学園祭を考えられてしまうと、多くの学園祭に迷惑がかかるのでは・・・聞いてられますか? 王妃様」
やはり持ってくるのを拒否すべきだったらしい看板をスゴく重たく感じるようになりながら・・・・・・私は王妃様を連れてリオンたちの待つ店へと向かって歩んでいく・・・(たっての希望とあっては断り切れない・・・)
開店した直後に店を開けることへの罪悪感と、リヴィア一人に接客を任せるしかないことへの後ろめたさで、せめて宣伝役だけでもと引き受けてしまったが・・・・・・やはり断るべきところでは断ることを優先する方針を採用した方がいいのかもしれない・・・地味に辛く感じてしまう自分がいる・・・・・・周囲からの視線も微妙に重たい気もするし・・・。
とはいえ、店が近づいてきたなら来たで、別のことが気になり出さざるを得ないのも、この御方の特徴と言えるのだろう。
いや、王妃様だけなら然程の問題はないと思うのだが、リオンたちとの組み合わせでは何が起きるか予測しづらいという点では非常にやっか――いや、不測の事態が起こりやすいお人柄の持ち主だからな。
おまけに何やらリオンたちバルトファルト兄妹に対して、殿下との決闘結果から逆算した妙なイメージというか先入観と言うべきなのか・・・・・・あるいは単に幻想を見ているだけのような気配が言葉の端々から伝わってきて不安なのだが・・・。
本当に大丈夫なのか? この方を、あの二人に引き合わせてしまって・・・・・・。
「フンフフンフ~ン♪ さぁ~あリオン君を困らせるわよー! 一度こういう役やってみたいと思ってたから楽しみだったの。アンジェも協力してね!」
「いえ、私は一応この店の従業員という立場ですので、そういった行為へのご協力するのは立場的に・・・・・・」
「いーからいーから♪ ただ『紅茶がぬるい!』とか文句を付けて入れ直させてみるだけだから♪ ちゃんと代金は3杯分払うから踏み倒しにはならないしね~。
あと他にも、『紅茶の中に髪の毛が入っていたわよ。どういう事なの!?』とか『非道い!あなたを殺して私も死ぬ!』とか、一度やってみたかったのよね。そーいうの♡」
「いえですから、そういう行為を黙認する等の協力は・・・・・・それに最後に変なものが混じっていませんでしたか? 今の言う予定だという文句・・・・・・」
「た~のも~♪ お邪魔させてもらうわよー」
バターン!と音を立てながら、それでいて破損させないよう力加減した開け方で扉を開きながら来店していくミレーヌ様。
・・・・・・入店条件である妙なマスクを付けられた姿で・・・・・・
完全にノリ気になってしまっているらしい王妃様に、止められる手段は全くないと諦めの境地で店の中へと戻っていく私。
もうどうにでもなれ――そんな心境になりかけていた、その時だった。
ガシャーン!!
「紅茶がぬるいわよ! さっさと入れ直して! このグズ平民がッ!!」
店内から響いてきた陶器の割れる破砕音と、野盗のように品のない罵倒をぶつける女の声・・・!
慌てて店の中の光景を見渡すと、頭から紅茶をかけられたらしいリオンの後ろ姿と、慌てふためきながらも暴挙を止める術を探しているらしきリヴィアの姿ッ。
男子生徒2人も、距離を置いて見ているだけではあるが、その表情は怒りに歪み、決して状況をまえに傍観したくてしている訳ではないと一目で分かる!
それは余程の高位貴族が、横暴な要求をしている相手の客だということを如実に示すものだ。
いくら男の地位が低いホルファート王国と言えど、男爵位を与えられているリオンに、ここまで横暴な言い分を通そうとする者など多くはない!
だからこそ決闘騒ぎの時にも、面と向かってヤツを攻撃しに来る者までは出てこなかった!
せいぜいが陰ながらの嫌がらせや嫌味皮肉、誹謗中傷あたりが関の山のものが大半の学園内において、これほど平民蔑視の思想をあからさまにしてくる者と言えば・・・・・・やはりか!
『ステファニー・フォウ・オフリー』!!
私のレッドグレイヴ家と敵対する派閥の有力者であるオフリー伯爵家の娘か!
穏便には事が済ませにくい、厄介なヤツに絡まれてしまったものだ・・・!
「・・・分かりました、すいみません。すぐに入れ直してまいります」
「ハッ! やっぱりいいわぁ~、どーせ大した茶葉でもないしー。こぉんな不味いお茶を出したんだから当然お金なんかいらないわよねぇ~? むしろアンタが払うべきじゃな~い? どーせ阿漕な商売して稼いだ金を蓄えてんでしょうからねッ!」
『そーよそーよ! ステファニー様の言うとおり! どーしても返せないって言うなら、それなりの誠意ってものを見せるのが筋でしょう!?』
『貴族に誠意を見せない平民の店は、取り壊されちゃっても仕方がなーい!』
「・・・・・・申し訳ありません。ですが、料金は払って頂きます。割れた食器の弁償もして頂きます」
「ハァッ!? アンタ決闘の賭けでどれだけ巻き上げたか分かってないの! 賭に負けて奴隷を売った子もいるのよォ!?」
『そーよそーよ! ステファニー様の言うとおり!』
『お気に入りの奴隷を、お売りあそばせたステファニー様のお気持ちが分かってなブヘッハァ!?』
「アンタも黙ってなさいよ!? この裏切り者がぁぁぁッ!!!」
ゲシゲシゲシィ!!
「え、えと・・・・・・コレ一体どういう状況、なのかしら・・・?」
「申し訳ございません王妃様。・・・・・・少々わからなくなりました・・・」
何故かはよく分からないし、あまり分かりたい気分にもなれなかったが・・・・・・・とりあえずオフリー伯爵の娘が連れてきた取り巻きの一人を蹴り始めて、悲鳴を上げさせていることだけは分かる。他は分からない。
本当に・・・何をしに来てるんだ? コイツらは一体・・・・・・。
まぁ、とりあえず。
「はぁ・・・、はぁ・・・、とにかく! アンタが悪いのよ! アンタだけが! だから悪いアンタが金を払いなさい! そうしたら特別に配慮してあげなくもないわ!
ど~お? アンタみたいな身分卑しい成り上がり男爵ごときには、涙が止まらなくなるぐらいの配慮でしょぉ? ホラ早く」
「・・・・・・・・・(キュッ、キュッ、キュッキュッ)」
「――ッ!! 無視してんじゃないわよアンタ! 何様のつもり!? 何とか言いなさいよ、このクズがァッ!!! って、うッ!? あ、あんたは・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・」
私は無言のまま二人に近づいていった後、オフリー伯爵の娘の胸倉をつかんで突き飛ばし、睨みをきかせながら、命令口調で付け加える。
大抵の貴族令嬢なら、それで丸く収めれる自信はある。だが、コイツの場合にはどうなるか――
「・・・態度の悪い客人だ。お引き取り願おうか」
「ハンッ! 誰かと思ったら、殿下に捨てられたアンジェリカじゃない! 何その格好? アンタを怖がるとでも思ったの? バッカじゃない! 誰が落ち目のアンタなんか――」
「止めてくださいッ!!」
その時、横合いから制止の声がかかる。
私のように鋭い声音での制止ではない。ステファニーのような傲岸不遜な命令口調でもない。
どちらかと言えば、悲痛な叫びのような声だった。聞く者によっては悲鳴にさえ聞こえたかもしれない。
「・・・リヴィア・・・・・・」
「リオンさんに非道いことして・・・! アンジェにまで! もう・・・帰ってください!!」
少なくとも私には・・・・・・彼女の制止は悲鳴に聞こえていた。
だが、彼女には――この女の耳と心には、おそらく
「はぁ? 図に乗るんじゃないわよ。“平民ふぜ”」
【ステファニーは突然、モンスターに襲われた!】
「うおおぉぉッ!? いきなり室内にモンスターが現れたーッ!?」
「見りゃ分かる! って言うかステファニー様が! ステファニー様が襲われて、お食べられてしまっておられるー!?」
「ふべぶぎゃおんぶれァァァァッ!? 溶ける! 食べばべじゃう!? 早く助ぶべなさホンギャァァァァッ!!!???」
「いかん! ステファニー様のお顔が、お不細工にお変わりになられる前に早くお助けするのだ! 突撃ーッ!! ウォォォォォッ!!!」
【モンスター・ラフレシアの攻撃】
「ぎゃぁぁぁぁッ!? こ、コイツ思ったより強い! どうすれば!?」
「救援を! 学園警備隊を!! 騎士団の派遣を軍に要請して討伐するんだー!」
「ホベラバラふんぎゃらばー!? 早ぐ助けなさイギャーッ!?」
バタン!!
「どうしたのだ兄君君!? 騒ぎを聞きつけて来たのだが一体何が・・・おお、コレは一体!
吾輩が少しの間だけ席を外している間に、一体何故! どうしてこんなことに・・・!?」
この時になってようやくタイミングよくレインが駆けつけてくれたようだった!
今までいないのは何故かと思っていたが、何かの用事で少しの間だけ出かけていたらしい!
店内の窮状を見て、驚き叫んで見栄えのいいポーズをとるかのように悲鳴を上げる姿は、とても劇的で場に合っているようにも見えるのだが!
・・・・・・タイミングが良すぎると感じるのは気のせいだろうな!? モンスターを操る術など我らホルファート王国の貴族が持っているはずがないからな!な!?
『Uvroooooooッ!!!!! PEッ!!』
「ふびゃあッ!?」
ペッ!とモンスターから吐き出された何かが地に落ち、捨てられた犬か猫のように不細工な鳴き声を上げさせた後!
【モンスターは逃げ出した!】
って、逃げていってしまった!?
レインが慌てて戻ってきて室内に入るため開け放っていた扉が裏目に出るなんて・・・・・・おのれモンスターめ!
モンスターらしくなく小賢しい! レインっぽい行動だと感じてしまうのは偶然に違いない!
「ああっ!? モンスターが学園内に逃げ出しちゃいました! すぐに追いかけないと生徒の皆さんが!」
「待つのだオリヴィア女史! 一人だけで追いかけては被害が増えるばかり! 学園執行部に連絡して対応してもらう方がいいだろう!」
「そ、そうですね! 分かりました! 先生方には私から連絡しに行ってきますね!」
「頼む! それより今は負傷者の治療が最優先事項っ、早く医者を! 誰か! 助けを呼んできてくださーい!!」
「ステファニー様! お気を確かに! お顔がおスゴい事になっておられまするが大丈夫ですか!?」
「・・・・・・・・・」
テキパキと効率よく、計画的であるかのように事後処理と負傷者への対応を進ませてゆくリオンの妹レイン・シー。
その姿を見ながら私は・・・・・・
「え、え~とぉ・・・・・・これって、どういう状況なのかしらね? あと私のやるべき事って一体・・・」
疑問符を浮かべられて混乱気味に王妃様に向き直り、息を吸って心を落ち着かせ、言わなければならないことは言うべき立場としてハッキリと――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・分かりません」
―――存外に私も、彼ら兄妹と同じくクズとしての道を歩み出しているのかもしれないと思いながら・・・・・・。
「ちぇ~。もう少しで奴らブッ飛ばせる大義名分が得られそうだったのに、なんで邪魔すんだよレイン」
「そうだろうと思ったのでな。邪魔させて頂いた。店内で乱闘されて壊されては営業に差し支える。
せっかく騒ぎに巻き込まれて被害も出たので、警備側の責任問題によって場所を変えてもらう口実に使えるかもしれないし、いやモンスターに襲われるのは時には悪くはない。
隣にある王子店舗も少しは襲われたようだが、なぜ襲われたのかは全く分からんがHAHAHA」
めでたしめでたし(極一部の人間にとっては)
補足:
ネタバレになってしまいますが…乙女的な部分が少なすぎた気がスゴクするので最低限ネタバレを追記。
今話の中で女オリ主がモンスターを嗾けた理由として(『魔笛』とかは使わず脅迫的な手法。だから本人きたから逃げた)
単に、オリヴィアとアンジェリカによる【身分の違いがグダグダ系の話】は、鬱陶しいだけなのでスキップして進めるタイプだったので現実にやった。…という動機。
自分と関係ない女同士の鬱々とした話なんざ、乙女の世界まで来てなんで聞かなきゃならんのか、と。乙女にそーいうのは求めてねぇ!……とか思うタイプという設定のキャラ主人公。
次話で本人語りでも言わせる予定。
こんなヤツでも良ければ、次話もお楽しみに。見切りつけるのも一つの手な奴ですが…。