試作品集   作:ひきがやもとまち

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自称・魔王様リトライ!RX-78 第5章

 異世界での冒険が始まって最初の町へ向かう途中で、『盗賊たち』と『聖女ルナ・エレガント』に襲われて倒して旅を続けるギャグエルフのナベ次郎と異世界幼女アク。

 そして二人は最初の町『交易都市ヤホー』に到着しました。

 この町に到着したからには、最初にやらなきゃいけないことがあります。それは――

 

 

「Yaッhooゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

「うわっ!? ど、どうされたんですか魔王様! 急に叫んだりして・・・」

「いえ、なんとなく。叫ばなきゃいけない様な気がしただけでしてね、魂の叫び声的に」

「は、はぁ・・・・・・」

 

 

 現実世界から異世界に転生してきたゲーマーとして、日本の恥を叫ぶこと。

 この名前の場所に到達した時には叫ばなきゃいけない、ネット通販世代のローカルルール。よい子は真似しないよう気をつけましょうね、マジで恥ずい。

 

「まっ、これで儀式は終わったわけですので、宿屋に行くとでもしましょうかね。

 はじめて来た町に着いたときには、まず宿屋に泊まらねばならないと昔から決まっているもの。と言うわけで出発です」

「はい、魔王様。確かにお部屋がいっぱいになる前に、お部屋を取っておくのは良いことですよね!」

「まさしく、その通りです。あるいは宿屋に行く前に、教会に行ってお祈りをした方が良い場合もあるのですが・・・・・・天使を崇めてる国の町なら別にいいタイプですので、大丈夫でしょう多分」

 

 そんな理屈によるDS版理論によって、まずは宿屋に向かって天使を祀った教会には行かず、リッカには会いたいけどサンディにはノーセンキューな好みを基準に行動決める馬鹿エロ好きエルフ。

 で、こっからはバカ視点でのヤホーの町探索行。

 

 

「なかなか賑やかな町で楽しそうですねぇ~。失礼ながらアクさんの住んでた村とはイメージ違いすぎて、ホントに同じ地方なのかとビックリですよ」

「う゛・・・・・・そ、それは・・・すいませんでした、魔王様・・・」

「おお、見てくださいアクさん。大きなトカゲに乗って移動してる商人さんがいますよ。

 他にも大きな鳥とか、大きなドラゴンとか、大きな動く島とかに乗って移動してる人なんかもいたりするんでしょうかねぇ~」

「あ、あれはサンドリザードって言って、大人しい生き物なんですよ。

 ・・・・・・でも、大きな鳥さんとかドラゴンに乗る人の話は聞いたことありませんけど・・・・・・それに島って、動くものだったんですか・・・?」

 

 いくつもの大道が重なっている地点があって、ターバン巻いてる人とか肌を露出してる踊り子っぽい美人さんなんかの姿が見て取れる、砂漠みたいな荒野の先にあった町の風景を前にして、思わず『おう私のトモダーチ』な商人さんがいた町の記憶を思い出し、ついつい過去シリーズの移動手段を語ってしまって、アクさんを困らせてしまいました。

 

 いけないいけない、まずは落ち着いて宿屋までエスコートしてあげるのが年上男子の義務というもの。肉体はどうあれ心は青年、身体はエルフ幼女、それが今の私。

 なのでまずは宿屋にGO。

 

 

 

 

 

 

 

 そして到着、『高級宿屋ググレ』

 

「Googleゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

「・・・えっと・・・・・・それも儀式の呪文かなにか、なんですよね・・・?」

 

 だんだんと慣れてきたらしいアクさんを連れて宿屋の中に。

 こういう時には、お約束として高そうなお金を取り出してから、

 

「一番いい部屋を頼む」

「は、はい。当宿屋で一番よい部屋の代金は、ちょうど金貨1枚ですので確かに。では、さっそく――」

「え? ええぇぇぇッ!? そのお金は、ひょっとして――だ、ダメですよ魔王様!!」

「ま、魔王っ!?」

 

 当初は子供二人連れで入ってきた客から金貨を出されて、戸惑いながらも部屋まで案内しようとしてくれたっぽい店主さんでしたが、アクさんから聞き捨てならない存在の名前を叫ばれて思わず仰天といった様子で立ち止まって私の方を凝視。

 

 しかし・・・フフフ。

 この様なときにこそ魔王様らしい態度マニュアル、略して『魔ニュアル』と名付けた私流異世界転生後のコミュニケーション方法があるというもの。

 既に事態を想定して対策は考え済み。参考になる事例も知っている、まったく無問題ですともよ。

 

「いえいえ、私の名はマ・オゥと言いましてね。魔王ではなく、マ・オゥ。

 マが名前で、オゥが名字。知ってるでしょう? 公国軍の偉いさんの名前とかで。

 ですので早く、あの子を部屋に送り届けてあげてくれたまえ。彼女はよい子なのだよ」

「は、はぁ・・・言われてみれば北方諸国には公国があると聞きますし、その国の上流階級の方とは知らず失礼しました。では、こちらでどうぞお嬢様方」

「うむ、構わんよ。それも良いものだ」

「え、えぇぇ~・・・・・・」

 

 ゴリ押しで納得させて誤魔化して、問題発言じゃなかったことにして部屋まで無事に案内させるのに成功した私たち。

 マさんを始めとして、ジオンの偉いさんは割と万能。

 

 そして部屋まで案内されて、またアクさんが「す、凄い!貴族のお屋敷みたいです!」と子供らしい感想というか、田舎者っぽい感想と言うべきなのかなセリフを言ってるのを聞きながら、私は無事に今日の宿を確保できたと一先ず安堵。

 来るまで大して考えてませんでしたが、賑わってる交易都市とかだと宿屋がいっぱいで泊まれないイベントなんかもありえたんだったなと思いだし、絶対安全そうなところを狙って一番いい部屋を頼んでみて良かった良かった。

 

「さて、一段落したところで次はどーしましょう? 食事には行くかルームサービス頼むかするとして、アクさんの服も他所行き用のを買っといた方が悪目立ちしなさそうですから、服屋から先に行きますかね。

 幸い、お金にはしばらく困らない程度にはある訳ですし・・・・・・って、ん?」

 

 今後の方針について考え巡らせ始めた私のエルフイヤーに、なんか遠くから「ドカドカ」と音が聞こえてきて、コッチの部屋に向かってきているように感じられて、ドアの前ぐらいで音が止み。

 

 ドカンッ!!

 部屋のドアが蹴破られて、乱入者の登場です。盗賊が現れたリターンズ。

 

 

「見つけたわよ、この魔王! アンタでしょう!?

 私のお金を盗っていったのは! 間違いなく絶対に確実にッ!!」

 

 

 ――と思ったのですが、入ってきたのはムサ苦しいオッサン盗賊団のモグラさん達ではなく、ピンク色のホワイトピンクっぽい色の法衣みたいな服を着てる美少女さん。

 いくら私がチート転生者で、身体は合法ロリ幼女、心は現代日本人ゲーマーとはいえ、曲がりなりにも一応は思春期男子だった過去を持つラブコメとギャルゲー愛好家。

 

 美少女から扉をこじ開け、自分の部屋に飛び込んできて、愛と冒険のはじまり切っ掛けイベントなんて大好物ですので、ドンとカモンで――って、ん?

 

 ・・・・・・この人、なんかどっかで見たような記憶があるような無いような・・・? たしかこう、今日の昼間の内のどっかで擦れ違ったような記憶が・・・・・・

 

「あれは私が貯めてきたお小遣いだったのよ! それをアンタは私たちが気絶してたからって勝手に・・・・・・!! 返して! 私のお金を返して、そして死ね!!」

「あー、なるほど。やはり貴女はあの時に返り討ちにした―――えっと、たしか・・・・・・ル、ルナマリア・エマ・シーンさんでしたね。モグラさんが言ってたので覚えてます」

「ルナ・エレガントよ!? 私の名前は三聖女が一人ルナ・エレガントッ!! アンタ馬鹿なの!? 死ぬの!? 誰よその名前は! 人に変な名前つけんなバカ!!」

「そう、それです。ルナ・エレ“ファント”さん」

「エレガァァァァァァッント!!!」

 

 そんな本名らしい凄く元気でノリの良い美少女さんが、この国の聖女で部屋に乱入してきたルナ・エレガントさんなんだそうな。

 いや、最初に会ったときはアッサリ倒しちゃったので全く記憶に残ってなかったもんですからね? 名前に至ってはモグラさんが言ってたの聞いただけで、事実だという証拠も特になかった『犯罪者からの証言』だったもんですから、大して本気にして無くて。

 

 ・・・まさか本当に合ってたとはねぇー・・・。

 敵の名前をスラング使わず、悪口あだ名ネーミングもつけず、肩書き付きの正式名称で正確に呼んでくる反社会的活動に従事してる人なんてホントに実在してたとは・・・・・・いくら異世界とはいえビックリするしかない、ジャップと呼ばれた民族の子孫を前世にもつ私。ヤンキー。

 

「あ、あの聖女様、ごめんなさい! でもその、魔王様は決して悪い人ではないんです!」

「あんたバカァ!? 良い魔王なんているわけないじゃないの!」

「まぁまぁ。

 扉を蹴破って、一方的な山賊たちの殺戮を望み、自分が負ければ納得いかず復讐したがり、勝てば敗者たちを殺しまくった死体の山を前に高笑いする予定だった、大量殺人鬼未遂の聖女さん。

 落ち着いてください、ドウドウ。平和が一番です、ハウスハウス」

「なんかアタシが悪すぎる奴みたいになってるんだけど!? 魔王のくせに聖女に向かってなんて暴言いうのよ! この馬鹿っ! 変態! 泥棒! 死んじゃえーッ!」

 

 残念ながらアクさんからの説得も効を成さず、治安維持のための殺戮は正義と信じて疑わずに実行しまくる横暴な治安機関という、一時期は映画とかで悪の魔王組織あつかいされてるのが多かったタイプの人からの心からなる弾劾の叫び声。具体的にはイラク戦争後あたりの頃に。

 

「ハッハッハ、まぁ落ち着いて話を聞いてください聖女様さん。どうです? これからご一緒に食事でも。ご遠慮なく、どーせ私の奢りですし」

「バカバカッ! むしろ私の奢りでしょうが!?」

「まぁ、そう言わずに落ち着いて。だいたい私のことを魔王、魔王と言いがかりを仰りますけど―――何なら今すぐリターンマッチしましょうか?

 今度はどちらかが死ぬまで全力で(バキボキッ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 こうして、平和的な話し合いによって分かってくれて、誤解を解いてくださった心優しい聖女様と楽しいディナーの時間を過ごしてヤホーの町の一日目を終わることになった私たち。

 出てきた料理はとても美味しく、聖女様さんは泣くほどに喜んで感謝してくれたほど。

 いや、やはり人には優しくするもの、良いことはするものですよね。HAHAHA。

 

「魔王様は、いつもは優しい時とイジワルな時がありますけど、時々スゴく悪い人になることもありますよね・・・・・・今みたいに」

 

 とかアクさんから呟かれてたような気がしなくもなかった、そんな聖女様とはじめて出会って同じ一つ屋根の下で過ごした最初の夜。

 その過程で、幾つかの情報を彼女から教えてもらうことが出来たのです。女子会の夜は長く、寝るまでに色々としゃべるのが基本なので、聖女様も自主的にイロイロ語ってくれたのですよ。

 たまに強情さを発揮することはあっても、私が想いと力を込めて拳を握ってお願いすれば真っ青になって正直に応えてくれる、素直な性格の聖女様さんが私は好きです♪(やっぱり魔王様はイジワルで悪い人な時もあります)

 

 んで、その流れで聞いた話によると。

 まず聖女様さんのルナさんは、私に敗れて気絶してた状態でサイフを奪われてたことに気づいて、慌てて私たちの後を追ってきたんだそうでして。

 お供の騎士達はというと、帰しちゃったんだそうでしてね。・・・無断で部隊を動かしたから、負けて終わった以上は怒られないため言い訳しておくようにと言い含めた上で。

 

 果たして命令と約束が厳守されたかはいざ知らず、とにもかくにも魔王討伐に来てアッサリ負けて、財布も取られて逃げ帰ってきましたではメンツ丸潰れすぎたルナさんは、なんとか名誉回復しようと私たちの後を追ってヤホーの町まで乗ってきてた馬車で追っかけさせては来たものの―――ボロ負けした相手に再び挑むだけの勝算なしバトルではどーにも出来ず、途方に暮れてたところでお腹が空いて今に至る、と。・・・ダメじゃん。

 

 ――コホン。ま、まぁそれはそれとして。

 彼女から教えてもらった、この異世界に関する情報の中に幾つか面白いものもありましてね。

 その一つがコレ。この国で尊ばれてるとかいう、『“チ”天使の教え』とやら。

 

 

『努力して、自らを高め、困難に打ち勝つ。

 努力する者には天使が微笑み、大きな力と加護を与える』

 

 

 とまぁ、大雑把に言えばこんな感じの内容。

 言ってる内容そのものは割と普通で、地球の宗教でも似たようなこと言ってるのが大半なんでしょうが・・・・・・こーいうのは、『どう解釈するか?』の問題なのが一般的なわけで。

 たとえば、この教えを私流に解釈した場合には、

 

 

「ふむ、なるほど。つまり――“勝った者が正しく、負けた方が間違っている! 勝利こそ正義で、敗北こそ悪であり、勝った者が負けた者から奪ってよいのが天使の摂理成~り~!”というのが天使さんの教え。

 なのでルナさんに勝った私は、あなたの金を奪って良いのですよ! 天使さまがそう仰っているのですからんね! 違いますか!?」

「違うわよ!? 智天使様はそんなこと仰ってないわよ! 悪はダメなのよ悪は! 悪は正義に負けなきゃダメ! 悪が正義に勝ったからってお金を奪うのは罪! それが世界の摂理で天使様の教えなの! だから違うッ!!」

「え~? だぁって、“努力して自らを高めた人なら困難に打ち勝っている”はずなんですよね~? 努力した人には天使さまが微笑んで大きな力と加護を与えてくれるって、ルナさん今言ってたじゃないですか~。

 なら私に負けたルナさんは、努力してこなかったから天使が認めてくれなくて、困難に負けちゃったから大きなお金を与えてもらえなかったって事になるんじゃな~いの~かな~?」

「う、ぐ!? そ、それは・・・それはぁぁ・・・・・・!!!

 けど違う! 違うったら違うのよ! だってアンタは魔王で悪なんだから! 悪は例外! 魔王も例外! 智天使様と敵対して敗れた悪の魔王は死んじゃえバカ! 死んでお金返しなさいよバカ~~ッ!!!」

「はーっはっは!! 怠け者な弱者の言い訳は聞こえませんね~♪ この愚民どもが!

 弱肉強食こそ、この世の摂理だと天使も認めているのだと思い知るが良いッ!!」

「ま、魔王様・・・・・・どうどう、です」

 

 という風に、第六天魔王さま的解釈な感じで。

 実際この教えだけだと、こーいう解釈も可能になっちまうのが厄介なんスけどね、この方法論って。

 そのくせ自分が勝ってる時には正しいと信じて問題なくても、負けて奪われる側に回ったときはどーなるかって言うと――まっ、こんな天使に愛された聖女様の感じで。

 

「魔王様、聖女様はとても偉い方なんです。そんな聖女様からお財布を勝手に盗っちゃうのは、やっぱり良くないと思いますし、返してあげましょう・・・ね?」

「ふむ、そうですね。十分にからか――もとい、オモチャにな・・・もとい。

 楽しく遊べましたからね、ご褒美として返してあげるとしましょうか。

 ――ほれ、弱っちくて貧乏な聖女にめぐんであげますよ。這いつくばって感謝するといいでしょう!!

 “偉大なる革新的指導者にして世界の支配者ナベ次郎様が、直々にサイフを返してくださった。私は三国一の幸せ者だ”・・・と、あがめ奉るが良いのですよ! この卑しい乞食の取るに足らないザコ聖女が! フォッフォッフォッ!!!」

「キ~~~~~ッッ!!! なんですってなんですって!? この邪悪なる魔王! 悪の権化! アンタだけは絶対に私が倒すべき相手だと心に決めたわ! それが私の使命だったんだわ! この魔王! 魔王魔王、人類の敵魔王――――ッッ!!!」

「ですから~ッ! もーッッ!!」

 

 てな感じでバカ騒ぎしながら、女子会の夜は過ぎていきましたとさ。

 女三人寄れば姦しい。一人中身男ですけれども(最近ちょっと自信ないですが)

 

 んで、次の日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・チュン、チュン・・・。

 窓の向こう側から、朝がきたのを知らせてくれる鳥の鳴き声が聞こえる。

 暖かい陽の光が、柔らかいベッドの感触と相まって、優しく眠りの国から現実世界へと覚醒を促してくれていた。

 

 起きなきゃいけない――ボンヤリと、そんな言葉が頭に浮かんでは薄れていく・・・。

 しなくちゃいけないことは分かっているけれど、今だけは忘れていたい気持ちが想いを打ち消し、少しずつ少しずつ現実が心を浸食していくのを実感させられる・・・。

 ムダな抵抗だと思う。

 でも、あと少しだけ・・・ほんの少しだけ今という刻に留まっていたい・・・・・・そう誰もが願わずにはいられない、万民平等の至福の一時。理想郷の時間。

 その場所で・・・時間の中でたゆたいながら・・・・・・私は・・・ワタシ、は・・・・・・

 

 

『ルナッ! 出てこいッ!! このクソがぁぁッ!!!』

 

「ふぇぇッ!? そ、その声はお姉様って、ばふぁッ!?」

 

 

 大っきな声に驚かされまくって「ビクンッ!」と条件反射させられてベッドから飛び起きようとして落下しちゃう羽目になっちゃったわ!! い、痛ひ・・・。

 い、いえ、それよりも今は、この声の主の方が重要事項だから優先しないと、うぅぅ・・・・・・もの凄く聞き覚えのある声としゃべり方と、その上この国の聖女である私のことを、こんな呼び方する人って言うと、もしかしなくてもひょっとして・・・・・・。

 

 で、でも万が一っていう可能性も0じゃないんだし、念のために私は恐る恐る窓の隙間から宿屋前の広場を見下ろして・・・・・・

 

『このクソが! 余計な手間賭けさせやがって、俺に黙って火遊びとは偉くなったもんだなぁ? あぁんルナ?

 丁度いい、ついでに魔王ってのも、いるなら出てこいや! この聖女キラー・クイーンがブッ殺してやるからよぉ!!』

 

 ――やっぱり姉様だったぁ~ッ!?

 ま、間違いないわ・・・あのゴテゴテした余計な飾りがいっぱい付いてる変な馬車の上に立って、偉そうな仕草をしながら大声出すのがカッコいいんだと思い込んでいる独特なセンスの持ち主なんて、聖光国ひろしと言えども姉様以外にいるはずないんだもの! 

 

 で、でも姉様が、なんでこの街に・・・!?

 この聖光国を統べる聖女三姉妹の次女で、血は繋がってなくても私のお姉様にあたる、『キラー・クイーン』姉様が、一体なんでこんな辺境の田舎街なんかに!

 

「い、いえ・・・落ち着きなさい、選ばれた聖女ルナ・エレガント・・・。まだ慌てるような時間じゃないわ・・・。

 まだ、姉様達にはナイショで抜け駆けして、悪魔王グレゴールを倒して独り占めした手柄で姉様達を追い抜いて私こそが聖女姉妹のトップに立つ!!――という私の深慮遠謀を姉様は知らないはず・・・・・・なら説得の余地は残っているはず! 許して可能性は0じゃないわ! うん、絶対によ!!」

 

 私は心の中で確信しながら立ち上がり、部屋を出て行くための準備をし始める。

 ・・・それにしても、なんでこんなアッサリと姉様達にナイショで神都を抜け出して、グレゴールが倒された東部地方にお忍びできてたことがバレちゃったのかしら・・・っ! 

 お供として無理やり連れてきた騎士達にも、『誤魔化しておくように!』ってキチンと命令したからこそ先に帰したのに! 役立たずな連中ね、まったく!

 私を見習いなさいよ! この私は聖女のルナ・エレガント様なのよぉ!?

 

「う・・・ん・・・あれ・・・? 聖女さま起きてらしたんですか・・・朝からどこかお出かけ・・・ふぁ(ムクリ)」

「い、いえ何でもないのよアク。あなたはまだ寝てなさい、危ないから。絶~対にここは安全だから、安心して寝てるのよ。外に出ないようにね? 危ないから」

「・・・ふぁ、い・・・。おやすみなさいませ、聖女さ・・・ま・・・・・・(パタリ)」

 

 ふぅ・・・着替えの音がアクが目を覚ましちゃって焦ったわ。

 この子を姉様と、お供の聖堂騎士団たちと会わせたら危ないかもしれないものね。姉様が子供をイジメルなんてあり得ないと私も思っているけれど・・・・・・あんまり手加減とか得意そうなイメージは全くない人なのも事実だから、念のために・・・。

 

 アクは魔王なんかと一緒にいるとは思えないくらい、優しくて良い子で、真面目で誠実で、私に尊敬の念を抱いてる良い子なんだから、危険なことに巻き込んだりしたら可哀想だもの。魔王だったら別に良いけど。

 

「って言うか、こんな時に魔王はどこ行ってるのよね、アイツはぁ・・・!! 肝心なときに勝手にいなくなってるんだから!

 空気読めない上に団体行動ができないヤツって、ホント迷惑極まりないわよね! やっぱりアイツは死ぬべきなのよ魔王として! 魔王だから!!」

 

 そして私は起きたらベッドがもぬけの殻でいなくなってた魔王のことを、自分のこと棚に上げて一頻り罵ってから部屋を出る。

 まずは宿屋から外に出て、姉様と直接会って事情をご説明する必要があったから―――裏口からソ~っと抜け出して、背後からさり気なく近づいていって事情の説明を・・・・・・。

 正面からはちょっと勇気いる人たちだから、仕方がない―――パタン。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ったく、あのクソが。一人だけで何が出来るわけもねぇだろうに・・・・・・おい、フジ。

 この街にルナが来てるって話は、確かなんだろうな?」

 

 10頭もの馬に引かせた馬車の上に乗せた玉座の上にふんぞり返り、ワイングラスを片手で弄びながら、一人の美女が凶眼と言っていい目つきで目前の建物を睨みつけ、吐き捨てるように呟き捨てる。

 

 ストレートの金髪を腰まで靡かせ、戦闘で鍛えた細く引き締まった身体を青い衣装で包みこみ、長い足を高々と組む美貌の主。

 口と目つきこそ悪くて荒っぽいものの、修道服を改造したらしき服には深い切れ込みが入れられ、スパッツからはみ出たフトモモは、若く白く艶めかしい色香を感じさせずにはいられない。

 

 そんなエロコス衣装で、フトモモと生足を見せつけながら悪と戦い、修道服の帽子に当たる部分は後ろへ跳ね飛ばして、美少女の顔も髪も隠そうとしないで見せびらかす。

 

 それこそが彼女、聖光国三聖女が一人ルナ・エレガントの血縁なき姉、もしくは『お義姉ちゃん』から、心の中でヒドい評価を受けていた聖女姉妹の次女。

 

 その名も《キラー・クイーン》

 

 巨大な椅子型の馬車である『移動式玉座』に座したまま、正義の断罪者軍団を率いて各地の悪党共や腐敗した権力者たちを退治して回っている美少女戦士の名前である。

 

「へい! 来る途中で遭遇した聖堂騎士の一隊から報告がありましたし、街の外にルナ様の馬車が止まっているのも確認済みです。まず間違いありますまい」

 

 そんなクイーンから問われた確認事項に応える形で、巨漢のヒゲ面モヒカンマッチョが報告と一緒に状況も詳しく説明してくれる。

 背中に斧を背負った、このマッチョ男の名は『マウント・フジ』

 クイーン率いる聖堂騎士団精鋭部隊の、副官を務めている漢。

 

 そんな美人戦士の周囲を、108人のモヒカン頭やスキンヘッドの髪型して上半身裸にハーネス巻いた男達が、馬に乗って「ヒャッハー☆」叫びまくりながら、聖女を守る親衛隊として付き従う。

 

 彼らを知らない異世界人達から見れば、世紀末世界で聖領墓を守る軍団かと思ったかもしれない。

 もしくは、奥州の暑っ苦しい自称KOOLなチンピラ大名の手下共のどっちかだろう。

 

 だが彼らは、この異世界においては正義の治安維持軍団たちだ。国民達から愛情と尊敬を一身に集めている、分かりやすい勧善懲悪の正義を貫き、悪は力づくでブッ倒すのがジャスティスのヒーロー軍団。

 

 アメリカとかで人気でそうですよね、こーいう人達って。日本でも好きな人少なくないかもしれません。

 『そんなの只の暴力で独善だ~』とか理屈言うのが流行る時代になった後も、こーいう昔ながらの勧善懲悪ヒーロー系は人気あり続けるもの。それは異世界でも同じ事。

 

「そうか。・・・チっ、あの阿呆め。魔王なんざいるわけねぇだろうに、ド阿呆が」

「しかし、さすがは姉御の妹君ですな。たった一人で魔王を討伐しようなどと雄々しいことじゃありませんか」

「このダボ、あのクソは目立ちたいだけなんだよ。・・・・・・ったく、それで死んじまったら意味ねぇだろうに、ド阿呆が」

 

 ボソリと小さな声で呟かれた“続き”が、フジだけの耳に届いて彼は口元を微かに緩める。

 なんだかんだ言いつつ、情が篤い一面をもっているのがキラー・クイーンの特徴であり、部下達から好かれる理由の一つにもなっている。

 

 もともと彼女たちは、現代日本だと色々いわれそうなタイプではあるものの、いわゆる『主観的正義の断罪者』という訳ではなく、法で裁けぬ悪を闇から闇へ始末する影の処刑人でもない。

 

 なにしろ彼女自身が国のトップ姉妹の一人であり、権力者であり支配者であり、支配者一族が国内めぐって、法を犯してる輩に死刑を命じて執行させてるだけなのだから合法的裁きであり、主観的正義の裁きじゃ決してないのだ。

 

 法律決めていい権限もってる権力者が、『コイツは死刑に処すべき悪党だ』と判決下した罪人を手ずから無礼討ちして処刑してるだけなら合法。

 それが『法の裁き』というものですからね。ハイル・ジャスティス。

 

「それより魔王ってのは、まだ出てこねぇのか? あぁ!? それとも魔王ってのはヘタレか? そんなに俺が怖ぇのか!!」

「――ヒグッ!? ね、姉様・・・・・・な、なななんで、この街にいらっしゃしゃ、って・・・?」

「・・・・・・あぁん?」

 

 思っていたのと逆の方向から、思っていた通りの相手の声が聞こえてきたので振り向くと、思ってたバカの姿がバカみたいにビクビクしながら、通りの角からコソコソ出てきて自分に走り寄ってくるのが見えた。

 それを見て、一気に眼光の鋭さを三倍ほど上昇する。通常の三倍だった、青いけど。

 

「ルナ、か・・・・・・このド阿呆がッ!! いるはずもねぇ魔王を討伐するため俺に黙って火遊びとは、テメェもずいぶんと偉くなったもんだなぁ? あぁッ!?」

「ヒィッ!? ち、違・・・ッ! そうじゃなくてッ! ちゃんといるもん魔王! あいつ、私のお金に夢中なんだから! ホントなんだから!!」

「・・・・・・は? 金・・・? 何言ってんだ? おまえ・・・」

 

 最初の反論叫び声を聞かされて、一気にクールダウンした声音で疑問を呟き。――頭のおかしい変な生き物でも見る目つきで思いっきり見下した瞳で見返されてしまう自分の妹ルナ・エレガント。

 

 まぁ、仮にも魔王が人間界の貨幣に・・・・・・それも聖女姉妹の末っ子が毎月もらっているお小遣いに夢中だ。――という話を聞かされた人的には当然の反応とも言えるのだが。

 しかし、ルナ的には納得できない反応なのも事実ではある。少なくとも本人の中では不本意な対応だった。

 だって事実なんだし、ウソじゃないし、本当のことを言っているだけだと、真実なんだと本人的には信じてもいる。本人の中では心の底から本当に。

 

 自分の中では本当だと信じ切ってる情報って、他人の目から見ると大抵そんなもの。劇的に描けば別物に見えることあるけれども。

 

「・・・まぁ、いい。とりあえず魔王ってのは本当にいるって言うんだろ?

 だったらとっとと出てこいや魔王! 出てこねぇと俺が倒したときに死体のメンタマほじくり返して、焼き串しにして地獄の業火で二度焼き殺してやるぞこのクソ野郎めがッ!!」

 

 椅子の上に立ち上がって気分を切り替え、キラー・クイーンは宿に向かって拳を突きつけ、中指を立ててファック・ユー!!

 周りのモヒカンたちも、リーダー聖女の雄叫びに合わせて歓声を上げながら混紡を振り回して「イヤッホー☆」「ヒーハー☆」と威嚇風に大騒ぎ。

 

 一般的には、どう見たって聖女様ご一行には見えない行動。

 今にも、『お前に足りないのは欲望だぁ!』とか罵り声を叫び出しそうなノリと勢いの集団達。

 

 だが、そんな彼らの狂態を周囲にいる街の住人たちは頼もしそうに見るばかりで、誰も問題視しようとか通報しようなんてのは一人もいない。

 

 ・・・・・・治安悪いっスからね・・・この異世界の聖光国。

 

 馬鹿エルフに頭潰されて死んだ狂牛が暴れ回ってても手が出せず、モグラおやじ山賊団みたいなのの犯罪者は悪魔王退治より後回し。

 こんな状態の国で、こーいう人達が人気でない方が珍しいでしょうよ・・・。100パーセント政府側の自業自得だと、この世界にエルフを送った誰かは思う。

 

 むしろ自分たちの平和な暮らしを守るため、役人や衛兵たちが手出しできない悪党たちにも情け容赦ない断罪与えて、真面目に暮らしてるだけな普通の人には手を出さないクイーン率いる聖堂騎士団は、一般人たちには在りがたいだけの存在と言っていい。

 

 クイーンなんかは特に、雨の日に捨てられた子犬に自分の傘を与えて駆け去ってく昭和の不良タイプな女の子なので、やっぱ民衆たちには人気でやすいんでしょうきっと。

 見た目いいし、強面だけど美人ではあるし。

 実はいい人な不良キャラ主人公が人気出るには、そこそこ見た目の良さも必要である。

 

 

 ・・・・・・だが、今回ばかりはそれが徒になったかもしれない。

 クイーンたちを見物するため、彼女たちを囲むように集まっていた民衆たちの更に外周部にあたる空間。

 そこに識別のための黒ローブを纏った男たちが一人、また一人と数を増し、クイーンたちが屯している通りの出入り口に立ち塞がるよう陣形を組んでいたことに気付いたのは、彼らのフォーメーションが完成し―――先制攻撃をかけられる寸前になってからだった。

 

 

「・・・《偽りの天使に死を》・・・・・・」

 

 片手の平を上向きに掲げながら、一人の男が譫言のように呟く声が聞こえた気がした。

 呪文が終わると同時に、彼の頭上には頭一つ分に等しいサイズの火の玉が浮かび上がり、その数は急速に拡大する。

 

「――《ファイアバード》!!」

 

 

「・・・聖女に嘆きあれ・・・・・・」

 

 

 そしてタイミングを計ったように、彼らと対極の位置で通路の左右を塞ぐため布陣していた片割れも、同じように片手を掲げて呟きを漏らす。

 

「――《アイスハンマー》!!』

 

 呪文詠唱の終了と同時に現れるのは、鋭く尖った氷の塊。

 その二つが左右から同時に聖堂騎士団に向かって放たれて、その内のかなりの数が聖女キラー・クイーンを抹殺するため遠距離魔法による波状攻撃が行われる。

 

 

 その光景を自分の目で見て確認しながら、この地のリーダー的存在でもある痩身の男は、痩せて痩けた頬に「ニヤリ」と笑った勝利の笑みを浮かび上がらせ―――攻撃開始の命令を下す。

 

 ヤホーの街を舞台として、攻防戦という戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

「《願いの祠》における魔王グレオールの召喚には失敗したが、聖女二人の命を奪えるのであれば帳尻は合おう。

 聖女に嘆きあれ! 偽りの天使に死を!! 貧民の手に政治と権利を!!!

 この聖光国は我ら、サタニストが粛正する!! ジーク・平等ッ!!!!」

 

 

 

 

つづく

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