試作品集   作:ひきがやもとまち

230 / 246
悪役令嬢レベル99二次作の最新話です。少しずつチマチマ書き進めてたのが今さっき完成したので投稿です。
「悪役令嬢転生おじさん」の二次も、今作と似たタイプの作品を参考に考えているのですが……どうしようと。(悩)


悪役令嬢レベル99~になっても魔王に勝てるだけで大魔王に歯が立ちません~第4話

 学園最初の剣術と魔法の授業がおこなわれた、その翌日。

 ユミエラ・ドルクネス嬢は、王様からの招待を受けて王城へと招かれておりました。

 まさに伯爵令嬢らしい優雅なイベントです。王様から招かれてお城で謁見する、貴族らしいエレガントな日常風景と断言できるでしょう。

 

 ―――決してトラウマ刺激されたから、学園上空に闇魔法《ブラックホール》と心の闇を現出したからではありません。断固として無関係です、断固。

 

 

「国王陛下! ユミエラ・ドルクネス嬢が参りましたッ」

「うむ、許す。通すがよい」

 

 式部官から来場が告げられ、規則通りに王様から許可する声が響くと、玉座の間に続く門が音と共に開かれていく。

 正面奥にある玉座に座している王様とお妃様の前まで近づいて跪くため、広間の中央をユックリと歩いて行くユミエラ伯爵令嬢。

 そんな『黒髪』で『闇属性の魔法を使う』彼女の歩む姿に、周囲からは聞こえよがしな小声での陰口と囁き合いが鼓膜を叩く。

 

『ドルクネス・・・・・・中央もどきが・・・』

『――レベル99など本当なのか?』

『ブラックホールを出現させたのは本当らしい』

『・・・不気味ねぇ・・・・・・』

 

 悪意ある呟きの群れ、群れ、群れ。

 彼女から見て、右側に並んでいる揃いの制服姿の上級軍人たちは、流石に統率がとれているのか意味ありげな視線を向けてくる者こそ多いが、態度としては無言を通して節度を保っているのに対し。

 彼らと反対側に立つ、通路脇の左側に整列している高価な服やドレスをまとった貴族や婦人たちは、軍人たちより我慢することに慣れがないのか、小声で『相手だけに聞こえるよう』声量を抑え、見下しの視線に悪意の毒針をこめながら彼女の精神を切り裂くための形無きナイフを振るい続けている。

 

「ユミエラ・ドルクネス嬢だな? 面を上げよ、此度は君を罰するために招いたわけではない」

「・・・はい、陛下」

「学園でおきた一件については、私も聞き及んでいる。愚息と学園の教師たちが無礼な行いをしてしまったという話も――すまなかった」

 

 そう言って、他の臣下たちが見ている前で頭を下げて見せる一国の王。

 それは多分にパフォーマンスの要素が含まれているものではあったが、その目的は決して権威的なものではなく、「国王が許した相手」というお墨付きを相手の令嬢に与えて実質化させるのが理由によるものだった。

 階級や身分にこだわる者たちに対しては、自分の立場で行動して示すことが最も牽制になる事実を彼は理解しているタイプの賢明な専制君主であった。

 

 

 そんな国王からの誠実な対応を見せつけられ。

 ユミエラ・ドルクネスは心の中で、こう思わずにはいられなかった。

 

 

 

(この国の王様と貴族たちは―――なんて恐ろしいほど礼儀正しい人たちッ!?)

 

 

 

 ・・・・・・と。

 そんなこと思った理由は、彼女が育ってきた場所と環境が影響している。

 

 

 ――ユミエラ・ドルクネスは吸血鬼に見初められ、人の国からさらわれて眷属ヴァンパイアに改造された元人間の愛人ヴァンパイア少女である。

 吸血鬼へと変えられた眷属たちが愛人として集う、ヴァンパイアの城での生活というものは、マスターであるご主人様から与えられる寵愛の奪い合いだ。

 愛人ヴァンパイアは、ご主人様の前ではイイ子ぶって礼儀正しい部分だけしか見せようとしないが、目が届かない場所へきた途端にライバル同士のバトルが始まりまくる。

 

 誰よりも寵愛を得るため、同じ愛人同士で戦って、戦って、戦い続け!

 最後に一人だけの愛人となって、ご主人様の寵愛を独占できる愛人ナンバー1の座を奪い合い、城中の至る所で愛人バトルが繰り広げられている・・・・・・それが、眷属にした女ヴァンパイアたちが集められた吸血鬼の城での生活だった。

 

 

 それに比べて、この城の人達は本人がいる場所で素顔をさらしたまま堂々と陰口を叩いてくるだけで、小さな声で言葉の刃で切りつけようとしてくるだけ。

 

 呪い付きの毒塗りナイフも投げてこないし、柱の陰から飛び出しながら槍で壁に縫い付けようともしない。

 トラップで動きを止めたところにトドメを刺そうとしないし、本命と思った罠を避けたら囮で、避けた先に切り札が待っている性悪トラップも仕掛けてこないのだ。

 

 

 

(登城する前に浚われたから始めて見たけど・・・・・・人間界の宮廷とは、紳士淑女だけが集うサロンのような場所だったのですね!!

 素晴らしい! この楽園で修行できる生活を守るためなら、魔王の一匹や二匹や五十匹ぐらい殺戮するのに協力するのは正当防衛ッ!!)

 

 

 

注:ユミエラさんが暮らしてきた場所が頭おかし過ぎただけですが、本人は自覚してません。

  人も吸血鬼も、自分の普通が世界の普通。自分が基準、自分がフツー。

 

 

 

 

 そんな理由で王国と王家への愛着と忠誠心を強く抱かされてしまったユミエラさんは、王様たちの好意に応えようと意識して対応。

 自分のレベル詐称疑惑が冤罪であることを証明するのにも快く協力して、喜んでもらえたようだった。

 

 その後に王妃様から私室に招待されて、お茶をごちそうになって、魔王討伐パーティーへの参加も要請されたりして、そっちも快諾。

 終始なごやかで穏やかなムードのまま、一切なんの問題もなく、友好的な王様と王妃様とユミエラさんとの初顔合わせは終わったのであった。

 

 

 ・・・・・・まぁ、ちょっとだけヤル気を出し過ぎちゃったから、引かれた人や頬が引き攣ってた人も少しぐらいはいたかもしれないけど、誤差の範囲内だろう間違いなく絶対に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んで、そんな超礼儀正しい王宮に呼び出し食らってから一週間と数日が経った、ある日の事。

 

「・・・ここ、いいですか?」

「どうぞ――って、え? 貴女は・・・」

 

 王城にお呼ばれした日以来、昼食を食べてるときに「同じテーブルに同席していいか?」を訪ねられるようになったクラスメイトの一人かと思い、適当な返事で許可した相手の姿に思わず驚かされることになる。

 

 この国のトップである『国王からのお招き』と『王妃様から個人的な茶会の誘い』という二大権威イベントを体験して以来ユミエラの周りでは、急激に親しい態度で接してくる貴族が増えるようになっていた。

 

 それらは主に、『王家から気に入られた貴族令嬢仲間』という精神的利益を求める女子生徒の貴族令嬢たちと、『レベル99の闇属性の中央もどき兵器』という物理的利益を得るために戦力を求める男子生徒の貴族子弟たち。という組み分けで大別されてる場合がほとんどだったのだが・・・・・・だからこそ確認を怠ってホイホイ許可する声を返してしまうようになってた訳なのだが。

 

 ・・・・・・それら周囲の反応の中で例外的な存在になってる一人、『自分を見ると怯えて距離を置く相手』として精神的および物理的損害を被る側に立ち続けたがる、平民聖女令嬢アリシア・エンライトが、今日に限っては自分の方から話しかけてきてたのである。

 

 

 これで意外性に驚くな、というのは酷な話だった。

 ユミエラはそこまで人間をやめた覚えはない。辞めさせられた覚えだったら恨む程あるけれども。

 理由は分からないが、あれだけ怖がっていた相手が自分に話しかけてきた・・・・・・なにか重要案件での相談かもしれない。

 緊迫した思いのまま相手の第一声を静かに待ち続けて、そして

 

 

「ユミエラさん・・・・・・貴女が魔王なんでs――」

「断じて違います。不名誉な」

「っひぐ!?」

 

 

 最初に言われた言葉の内容が、あまりに不本意すぎるものだったため、考えるより先に食い気味に途中で完全否定を返してしまうことになる。

 いけない、つい条件反射で答えてしまって、相手をビビらせる対応になってしまった。自分にそんな意図はコレッポッチもなかったのに、相手が変なこと言い出すから自分も過剰な反応をする羽目に……。

 

 もちろん、アリシアは何も悪くなどない。

 悪いのは『魔王』という単語で真っ先に思いつく対象である『ご主人様』が悪すぎるから悪いのだ。全てご主人様が悪い。

 この世全ての悪はご主人様が原因と言ってよいほどの悪がご主人様にはあって、この世全てのご主人様悪というのも過大評価ではないとユミエラさんは確信している。

 

 だからアリシアは悪くない。

 自分もまた悪くなく、ご主人様だけが悪いので、アリシアが責めるべきもご主人様。自分を責めるのは筋違い。そーいう事にユミエラさんの中ではなっている。

 

「・・・・・・失礼しました。驚かしてしまって申し訳ありません、あまりに意外なことを言われたのでつい。

 流石にクラスメイトに向かって、いきなり伝説に伝わる魔王呼ばわりはちょっと」

「う゛・・・ま、まぁ言いすぎかなって、ちょっと自分でも思わなくはなかったんですが・・・」

 

 相手からのシリアスかつ、マジって言うより真面目な反応によって逆に居心地悪い立場になってしまった純真無垢っぽい一般人少女のアリシアちゃん。

 まぁ魔王と言えば、この国の伝説上では国を滅ぼす存在だし、初代国王に刃向かった最大の反逆者でもあると伝わっている。

 

 ――ひょっとして、この女は今、自分を殺す謀殺計画を実行しにきてるんだろうか・・・?

 

 容疑だけでも反逆者の疑いで、猜疑心の強い支配者とかだと処刑させられそーなレベルのレッテルなのだが、それを衆目の集まる食事時の食堂で言い出すとか・・・・・・相手をハブらせて孤立させて追い詰めて庇ってくれる味方を奪い、最終的には『嫌われ者が殺されても誰も気にしない』という状況を作りだす計画の第一歩という可能性が・・・・・・

 

 

(あくまで可能性ですけど、もしそうだった時は、いい子そうに見えて物凄い悪役令嬢だったんだなぁー、この子って。

 もっとも、表面的にスゴク優しくて真面目な人ほど、中身真っ黒なのは珍しくもないし普通のことか)

 

 

 とアッサリ納得して割り切るユミエラさん。

 ご主人様のお城でいろいろ慣れちまって、見た目は超キレーで中身ブラックで、ご主人様の敵や他人に対しては凶悪凶暴なヴァンパイア眷属の美女吸血鬼軍団に囲まれながら、愛憎渦巻きまくって、たった一つの愛を奪い合う『権力者の男1人×愛人の美女たち大量』のハーレム魔城で100年以上過ごしてきた彼女にとっては、その程度は普通のことです。

 

 本人はいいけど、本人以外の周囲を含めた吸血鬼とヴァンパイア眷属たちとの関係性は、表面的以上にすっごくドロドログチャグチャしまくってそうな関係です。無関係者の立場の人的にはチト怖い。

 

「そもそも、なぜ私がその・・・・・・マ・王とかいう、子供向けの童話に出てくるみたいな存在だと思ったのです?

 私はいい年をして子供たちが憧れる、正義のため悪を倒して世界を救う勇者物語が現実的だという前提で語りたがる変な趣味はないつもりですが?」

「・・・・・・エド君が言ってたんです。2年後に魔王が復活するって。――だから私、てっきりユミエラさんが、その・・・・・・」

「エド・・・君、ですか」

 

 声に出してから俯いて気まずそうに黙り込むアリシアと、王族から気に入られて次期後継者を愛称で呼ぶ平民出身者の発言を気にするユミエラさん。

 

 ・・・・・・野心むき出しの成り上がり志望者としか思いようがない発言な気がするのは、自分が長く過ごした環境が悪かったせいなのが原因なのだろうか?

 

 普通は上位者から「遠慮しなくていい」と言われたからを理由に、周囲が敬称つけて敬意込めて接してる相手に、格下の人間が平然と対等な付き合いしてるの見せつけられたら、嫉妬と僻みの情念パワーが爆発して、戦って戦って戦い続けて勝ち続けないと生き残ることすらできない嫉妬ファイト開催まったなし確定だと思えるのだが・・・。

 

 凄まじくコミュ力の低すぎる少女がアリシアなんだと思うことができない状況だった。

 階級意識低すぎな平民出身少女が、身分制が敷かれた国で生きてく今後が気になりますね。

 

「まぁ、百歩譲ってエドウィン殿下があなたに魔王復活にかんする話をしたのは国家機密っぽいですけど、一貴族として流すとして。

 ・・・・・・そのことと私になんの関係が? エドウィン殿下が私を「魔王」などという、他国の王族の血を引く一員が如き存在だと仰っていたのですか?」

「・・・・・・いいえ。エド君は『2年後に魔王が復活する』とだけしか話してくれていません・・・でも・・・・・・ユミエラさんは、その・・・・・・黒いから・・・」

 

 伏し目がちに躊躇いながら本人に向かって、そう告げてくるアリシア。

 彼女の目には、『黒い霧のようなものが集まって、ヒトの形を取っている中に赤い光だけが両眼のように輝いている姿』――として映っているユミエラの存在は、どーしても出会ったときから伝説にある魔王としか思うことができなかった・・・・・・その思いの一端を、今このとき本人に向かって開陳しようと努力して、それで・・・・・・

 

 

「黒・・・? まぁ確かに私の髪の色は黒いですが・・・・・・でもそれを言い出したらその・・・アリシアさんは、えっと・・・・・・白いですし・・・」

「・・・え? 白・・・? えっとぉ・・・たしかに私の髪は少し白っぽく見えなくもないって子供の時は言われたことありますけど、それが一体なにか・・・?」

 

 いきなり変なことを言われて不思議そうに相手を見返す、ユミエラの目には『白い霧のようなものが集まって、ヒトの形を取っている中に緑色の光だけが両眼のように輝いている姿』――として出会った当初から見られたことない自覚を持たないアリシアちゃんは首をかしげるしか反応しようもなし。

 

「・・・?? いえ、そう言われましても私の方も、黒いと言うだけではちょっと・・・だってアリシアさんは白い訳ですし・・・」

「・・・??? そ、そう言われても私だってその、白いって言うだけだと・・・それにユミエラさんは黒いですし・・・」

「・・・・・・???」

「・・・・・・・・・????」

 

 

 互いに互いと見つめ合って、首をかしげ合う黒一色のバケモノにしか見えてない少女と、白一色のバケモノとしか見られてない女の子。

 互いに自覚ないと、こーいう展開になりやすいですよね。

 ソレが人間関係というものだと、『オミーアイ』という名の伝統行事があった国の出身者だった過去を持つユミエラさんは知っている。ヴァルシャイン王国にはない行事ですのでアリシアさんは知りません。

 

 とは言え、さすがに本題入る前の無駄なダベりで時間をかけ過ぎていたらしくもあり。

 

 

「――コホン。まぁ一旦ソレは置いておくとして、たしかに私の髪は黒いですが『私が魔王』とする証拠としては少し弱いのではないですか?

 魔王の髪が黒色に決まっているという話は聞いたことがありませんし、そもそも髪の毛が生えてるのかも解りませんし、髪が一本もないハゲでデブで中年のブサイク男で、足と手だけいっぱい生えているのが魔王という可能性も普通にあるのでは?

 だって魔物たちの王ですし、モンスターの中には気持ち悪い見た目のヤツ多いですし、そいつらのトップな訳ですし。全部ごちゃ混ぜモンスターの可能性だって普通にありかと」

「い、いえあの・・・そーいう可能性まではちょっと・・・想像しただけで気持ち悪くなりそうなので考えたくないってゆーか、えっと―――」

 

 

 

『『『ユミエラ・ドルクネス! アリシアに何をした!? 

   僕たちが来たからには、もう大じょ―――』』』

 

 

 

 キ~ンコ~ン、カ~ンコ~ン♪

 

 

「あ、昼色の時間が終わってしまったようですね。すみませんが次の授業の準備がありますので、この話は次の機会にさせてください。ではお先に(ペコリ)」

 

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

 

 

 そう言って、時間になったのでトレイだけ持って席を立ち、食堂を出ていくため歩き出す、『話しかけられたから応じてただけ』の立場だったユミエラ・ドルクネス伯爵令嬢。

 

 今は昼休みの時間で、場所は学校内で、彼女たちは王立学校の生徒でもありますので、国民の血税で運営されてる学校の授業をサボってはいけません。それが税金で暮らしてる貴族の義務の一つというもの。

 

 出てくるの遅すぎると、そーいう危険がある場所ですので、ご利用の際には自分たちの都合だけでなく色々気をつけなきゃいけないこと忘れていた王子様&第貴族の息子二人は・・・・・・この日、昼飯があんまし食べれなかったと記録にあったりなかったり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事があった日の、午後の授業。

 今日は剣術の授業で、ウィリアムとだけ一緒でユミエラは別の場所でオズワルドとアリシアと一緒の時間帯。

 

 ヴァルシャイン王国の皇子エドウィンは授業に参加しながらも、内心での苛立ちを押さえるのに苦労していた。

 

(おのれ・・・ユミエラ・ドルクネス嬢め・・・ッ。

 いつもいつも僕達をこけにしおって・・・!)

 

 そういう想いで、心中穏やかではいられない心理状態が、学園入学以来ずっと続いている。

 いや、より正確に言えば『学園でとある伯爵令嬢に出会った日からずっと』というのが正しいだろう。

 彼はあの日、あの時からずっと彼女の影を気にせずにはいられない状態から抜け出すことができないままになっているのだ。

 

 ・・・・・・それが理不尽な面を持った、一方的な決めつけの悪意でしかない、という自覚がない訳ではないのだ。

 むしろ、その自覚がある分だけ余計に、それを理解しながらも拘る気持ちを捨てきれない自分の思いを認めたくない、自分はそんな狭量な人間ではないのだと信じたい感情などが複雑に絡み合い、彼の真理を究めて不安定なままにし続けてしまっている。

 

 本人がいない場所でなら、客観的で公平な対応と評価をすることはできる。

 だが、本人自身がいる場所や、当人やアリシアが絡んでいる話題では。どうもダメだ。感情が先に立ち、どうしても客観的視点で相手を偏見無しに見ることがどうしても出来ない。

 

(・・・私は、ここまで偏屈な人間だったのか・・・。

 自分が相手より上位に立てる相手にのみ誠実に接して、自分より強い相手と解った途端にここまで感情が抑えられなくなるほどに・・・・・・)

 

 そういう想いを捨てきれない。

 彼は幼い頃から飛び抜けて優秀だった。

 

 ライバルとしては武術では将軍の息子であるウィリアムが、魔法では宮廷魔術師の血を引くオズワルドが、それぞれいるだけで他の者達との差は絶対的だったと言っていい。

 そのことを今までは特に自慢に思ったことはなく、強者を目指すなら謙虚たれという教えも尤もだと感じて、そう振る舞い思えるよう研鑽を続けてきたという自負もある。

 

 ・・・・・・だが、ここに来て自分たちのプライドを完全に打ち砕くような存在が現れてしまった・・・・・・。

 

 

 ユミエラ・ドルクネス――。

 

 

 入学式のレベル測定で99という現実離れした数字をたたき出し、ただのインチキでは不可能な実力の一端を披露して証明してしまった異形の大天才児・・・。

 

 同じ年代で、しかも少女に、今まで驕ることなく努力し続けて才能にも恵まれていた自分たちが、圧倒的に弱く劣っている――そんな現実はどーしても彼らには受け入れがたいものがある。

 

 才能に驕らず人一倍の努力を続けてきたというのなら尚のこと、それで圧倒的に劣っていれば『自分たちは全く努力していない』『サボっていた同然程度だった』と断言されるようなもの。

 

 インチキか、生まれついての圧倒的才能の差か、種族そのものが別物だとしない限り、自分たちと相手が同じスタートラインに立っていた対等な存在だったとする以上は、『今の負けまくっている自分たち』は『相手よりも努力してこなかっただけ』・・・・・・という事になるしか他に道がなかったから・・・・・・

 

 

(そうだ! やはり奴にはアリシアの言うとおり魔王の疑いがあるッ! 決めつける訳にはいかないが、その可能性は十分に留意して対応するのが適切と言うべきだろう!

 奴と出会ってから毎日のように“モンスターに襲われるようになってしまった”のが、その証拠!

 周囲の生徒達には目もくれず、我々3人とアリシアだけを狙ってくるのは、やはり奴が噛んでいるせいと考えるのが尤も筋が通ると言わざるをえん・・・!!)

 

 

 そうして、偏見と恨み辛みとコンプレックスと自己正当化の結果として、結果的に正解へとたどり着いてしまってたエドウィン殿下でありましたとさ。

 まぁ正確には違うんだけども、魔王じゃなくて魔王を倒せるよう鍛えるためにモンスターに襲わせてるだけではあるんだけども。・・・・・・モンスターに襲われてる側にとっては似たようなものっつーか、同じだよね。普通に考えて。

 

 殺されて死ぬ心配だけはないという違いしかねぇし、死なないだけで死ぬ寸前までいっても魔法で完全回復すれば問題ないから大丈夫だから前提での治療しかする気ねぇヴァンパイアだし。

 

 やっぱりヴァンパイア式の訓練法は過酷であった。

 死んでる体で復活しまくる不死者だから過酷すぎる。

 

(・・・・・・まぁ、確かにモンスターの襲撃にあい続け、毎日のように撃退してきたおかげで以前より強くなったのは事実だが・・・・・・それによって彼女への疑惑と容疑が晴れるというものではない)

 

 実際、毎日の登下校中にモンスターから襲撃されて撃退し続けたおかげで(土日祝日は襲撃も休み)彼を含めたウィリアムやオズワルドのレベルは入学して一年に満たぬ新入生としては規格外なほどに上昇している。それは事実だ。

 

 ウィリアムに至っては、今では既にレベル20近くまで上がったと豪語するほど。

 オズワルドの方も、複数の属性を持つ強みを生かして、初歩的ながらも複合魔法を可能にしたらしい。

 

 ・・・・・・その2人と違って、一つだけ特別に優れた才能を持たなかったバランス型の優等生だったことが、エドウィンの苦悩を2人よりも深刻なものにする一因となってしまっている。

 

 友人2人には、絶対に負けたくない特別な才能が1つずつ存在している。

 だが自分には何もない。ただ全ての分野で優秀なだけで、特別と呼べるものは何も持つことが出来ていない。

 

 今までは逆に、それが彼の精神的優位性を維持する理由になっていた。

 ウィリアムは武術には優れていても魔法は劣り、オズワルドは魔法だけに特化して強力な天才少年。

 たとえウィリアムに武術で負けても、魔法による工夫で差を補いえる自身があった。オズワルドに魔法で勝てずとも、魔法発動前に剣で倒せる術を見いだすことが自分にはできると信じれるだけの自身が自分にはあったのだ。

 

 ・・・・・・だが今はそれがない。分かりやすく、示されやすい、『自分は他より弱くない』『劣っている訳ではない』と信じられる、自分だけの特別なナニカが・・・・・・エドウィンには欠けていた。

 

 そのことが今は、ヒドいコンプレックスとして彼の心を蝕んでいる・・・・・・

 

 

『一本! 勝負あり、エドウィンの勝利っ』

「うむ、エドウィンの剣は今日も冴えているな。入学した頃から優れてはいたが、今では既に別人のようだ。何があったかは知らんが大したものさ」

「・・・・・・はぁ、ありがとうございます。先生・・・」

 

 褒められたので、一応の礼儀として教師に向かって頭を下げてみせるエドウィン。

 ――何があったもなにも、毎日のようにモンスターに襲われて撃退しながら学校から寮までの道のりを行き来している身としては、この程度もできないと生きてこれなかっただけではあるのだが・・・・・・。

 

 その程度の、『自分が今いる場所では出来るのが当たり前』という範囲に留まる力ではなく、なにかもっと別の、自分だからこそ発揮できるような強力な技なり魔法なりを習得することさえ出来れば、この蟠りを捨て去って、差を受け入れて、努力し続けようという気持ちを取り戻すことができるのかもしれない・・・・・・そうまで思うこともある―――

 

 

 

 ガシッ。

 

 

「エドウィン・・・・・・お前は、“この世界のもう一つの姿”を見たいと思ったことはないか・・・?」

「え? え、あの・・・先生? いったい何のお話をして――」

 

 

「お前のような【力持つ存在】を“我ら”は探していた・・・・・・その“力”を試してみたいとは思わないか?

 お前ならば我ら“機関”と共に、世界の深淵を―――」

 

 

「ち、違います! 見込み違いです先生! 授業をしましょう授業を! 授業をーッ!?」

 

 

 

 エドウィン、望み求めていた自分だけの特別が手に入りそうな場所へと連れて行かれそうになったので、全力で拒否!

 今の場所に居続けられる選択肢を、連続で選び続ける言葉を放ちまくるッ!!

 

 特別は欲しかったけど、なんか怖かったのである。なんか話を受け入れると、世界の命運とか背負わされて戦う羽目になりそうな気がしてスッゴく怖い。怖すぎる。

 

 

 

 ―――この日以降、特別は特別でも、そこそこの特別で、自分の国の国内で治まる範囲の特別ぐらいでいーのが自分の願いなんだという事実を思い知ったエドウィンは、最近悪化していた評判を少しだけ改善して、ユミエラに突っかかっていく回数が少しだけ減ったことにウィリアム達は】首をかしげることになるのだが。

 

 その理由は、誰も知らない。エドウィン自身が語ったことも一度もない。

 だからまぁ・・・・・・“機関”とやらが何なのかってことも、この世界で生きる普通の人達は誰も知らないまま、今日も世界の深淵では別ジャンルの特別な戦いが行われ続けている―――のかもしれなかった。

 

 

つづく 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。