とは言え当時から時間が経ってたので色々と付け足しちゃって、前半・後半の二部構成になっちゃいましたので、最初から読みたい方は1話前に戻ってからお読みくださいませ。
主人公は【試作品集】でも多分、何度か使ったことあるオリキャラの一族バージョン。
例によって原作ファンの方には微妙な内容になってますので、読むときにはお気を付けを。
ローゼンバゥム伯爵家は、アールスハイド王国貴族の中でも、そこそこの歴史と家格を持った由緒正しい普通の上級貴族一門として知られており、数台前に民衆優遇・能力主義・官僚支配へと体制移行させた王に合わせて新たな時流に乗った一族でもある。
「王が新しき体制へと移行する中、家臣もまた新しき分野に挑戦せず、如何にして貴族を名乗れようか!?
我が家も家臣一族として、ナニカ新しい事をしなければならぬ義務があるのだよ! ナニカを!!」
と言って、一度もやったことない分野に手を出して成功し、『中興の祖』とも『一族の呪いの始まり』とも呼ばれる当時の当主は、どっか頭おかしい。
こうして、元は武闘派貴族として高名な軍人や将軍を多く輩出してきたローゼンバゥム家が、魔法貴族として新たな歴史を刻むようになった始まりとなる。
たまたま適正があった《身体強化魔法》を極める道を選んだ彼らは、新しく得た魔法の力を自らの肉体に上乗せさせて、幾つもの業績と騒動とを共に残すことになる。
時に、魔法と想いを込めたキックで大岩を粉砕させて洪水を引き起こし、瓦礫の山と化していた廃村を押し流した跡地に新たな町を建設し。
時に、魔力ブーストした拳で大地を叩いて隆起させ、火山噴火で流れ出したマグマの流れを変えて村を救った・・・・・・そんな伝説的偉業があったとかなかったとか。
そんな業績を残したとされる先祖を持った貴族家系である。
・・・・・・やった当人たちはよくても、血と家を継いだだけの子孫にとっては迷惑でしかないに決まっている。
この先祖以降の一族達が、無難に平凡に、ごく普通の目立たない貴族として生きる道を選ぶようになったのは必然的な流れだったと言う他ない。
だが一方で、この先祖が業績と名を残してからの一族には、ときおり先祖に憧れる類友が誕生し始めて、同じ道を歩むようになり、大半は非業の死を遂げたが一部は成功するようになった。
一族全体への評価は、もっと微妙になって、もっと迷惑な立場と化す。
そんなのと同類扱いされる凡人家族としては堪ったものではない。
もっとも無難に生きる道を選んだため、とくに害はないけど役立ってる訳でもなく、普通に庶民から税金取って生きてる普通の貴族になっただけでしかなかったが。
また彼らの中で幾人かの一族は、『霊媒の力』を持つことでも知られ、遠い星空の彼方に浮かぶ別の惑星でおきた出来事を知ることができると噂されていた。
その力について、『異なる世界に生きて死んだ者の記憶を継承できるのでは?』とする説が語られた。
また一方で、『別の星から変な魔力波動を受信して変な人になっただけでは?』という意見も少なくはなかったが、真相は今なお闇の中だ。本人達自身しか確認しようない分野だから。
そして現在。
今はまだ名を与えられていない星にある、アールスハイド王国という国で生まれて暮らしてきた現地世界人リッテンハイドは、王都の中で友人と共に暮らしながら一人の少年と出会い、別れたばかりの直後に女友達と茶してる最中にある。
「なーんて言うか、格好付けてる奴だったね。実際に格好いい奴だったけどさ」
「うん・・・・・・」
「うむ」
昼下がりの王都の一角にある飲食店野外のテーブルに座って女三人寄って姦しく『異性の話題』で盛り上がる女子らしい会話内容を女子らしく語り合い、十代女子の青春らしい青春を謳歌しながら。
現ローゼンバゥム伯爵家の令嬢にして、兄弟姉妹の末っ子でもあるリッテンハイドは、薄い胸の前で傲然と腕を組みながら偉そうな態度で偉そうに、幼い時分からの女友達『マリア・フォン・メッシーナ』の感想に素直な相槌を返していた。
「強いし、魔法使えるみたいだし、押しつけがましくないし、絵に描いたみたいな『格好いい男の子』を体現しまくってるみたいな感じで」
「うん・・・そう、だね・・・・・・」
「嫌味で言ってる訳じゃないんだけどさ~。あそこまで物語の英雄主人公みたいな登場され方と助けられ片されちゃったりすると女としては、ちょっと気になっちゃうのも仕方ないわよね~」
「うん・・・そう、だね・・・・・・」
「ちょっと? ねぇシシリー、聞いてる?―――チューしていい?」
「うん・・・そう、だね・・・・・・」
「だそうよ。ハイド、GO」
「うむ、任されよ! 婦女子にとって初めての接吻とは『蜂蜜を舐めた程度と同じような些事』と昔の人達も言っておるぐらいだからな!!」
「うん―――って、えキャアアアアアッ!? やめて!やめてハイちゃん!?お願いだからストップ!
女の子にとってファーストキスは、星よりも重い価値があるものなんだから辞めてキャアアアアアアッ!!??」
いきなり幼馴染みでもある女友達の唇を強姦しかかって押し倒す寸前までいってしまい、周囲からの注目集めまくって、客と野次馬達の一部から前のめりになって股間に両手を伸ばすものを生じさせた後(主に男性客と野次馬♂)閑話休題。
先ほど帰っていったばかりの少年、シンに出会って暴漢達から助けられた三人の少女達は場所を移してカフェテラスでお茶をお礼を共にしていたばかりだった。
被害者側とはいえ、騒動が起きた場所に長居して面倒事に巻き込まれたくないというのは万国全異世界共通の共通認識だったし、お礼をしたい身としては衛兵に事情説明で時間取られるのは面倒でもある。
――もっとも、彼女たちが立ち去ったのは、騒ぎが起きた場所と言うより『小さな隕石落下現場』という状態で衛兵たちと近所の住人からは思われちまってたんだけれども。
空から光る小さな星が降ってきて地面に落下してく光景を見た人達が何人かいたし、何も残ってなかったけど小さいから燃え尽きたのかも知れないし。
何はともあれ、悪名高いチンピラ達だけが負傷者として収容されただけで、犠牲者は出なくて何よりである。
詰め所に連れて行かれた男の仲間たちは、
『衛兵のオッサン! 空から女の子が落ちてきたんだ! 本当だって!マジだって!嘘吐いてねぇって信じろって!!』
『分かった分かった、お前らの気持ちはよく分かったから信じてやるから。・・・・・・で? 今度はどこから仕入れたヤクやってんだ? 言ってみな、怒らねぇから』
『信じてねEEEEEEEEッッ!?』
とか治安当局の人達と、仲良く丼ライスをご馳走になりながら歓迎してもらっている最中らしいし。
その内、冷たい塀の中で何泊かしてから、短い単身赴任のお勤めを終えてから宿泊料を払って帰ってくることだろう。
「はぁ・・・、はぁ・・・。ヒ、酷い目に遭いそうになっちゃった・・・・・・もうマリア!」
「アハハ♪ ごめんごめん、そんなんなってるシシリーって始めて見たからさぁ~。いやー、笑った笑った。
それで~? なに~? まさか、襲われてるとこ助けられて一目惚れとか、よくある平凡な恋愛小説のヒロインみたいなこと言わないんでよ~?」
「そ、そんなんじゃない・・・と思うんだけど、でも、あの・・・すごく緊張しちゃうと言うか、心臓がドキドキするって言うか、身体が熱くなるって言うか・・・・・・」
「・・・・・・え? ちょっと、それ・・・・・・マジで・・・」
あまりにも余りな、幼馴染みのお約束っぷりな幼馴染みによる恋の始まりプロローグに、思わずドン引きさせられてしまうマリア・メッシーナ。
昔から、子爵家の令嬢なのに箱入りで深窓のお姫様みたいな所あった女友達だとは思っていたが・・・・・・まさかここまで物語のヒロインじみた恋愛感情の持ち主だったとは想像していなかった。
って言うか完全に、自分がメインヒロインのお姫様役で相手役が王子様の物語状態になっている配役なのだが。
それだとコッチの役所は、主人公と相手役の少年の仲を取り持つ苦労性な友人Aという配役になってしまうタイプの物語スタート確定してしまうのだが。
子爵令嬢がプリンセスポジションに付いてる時点でどっかおかしい気もするけど、現実の女の子ってそんなものかも知れないな・・・・・・とマリア的には思ったりもしつつあり。
「・・・・・・恋、だな。それは恋という感情に他ならないのだ、我が友シシリー君よ・・・」
一方で、もう一人残ってた女友達の幼馴染みは重々しい口調と表現でシシリーの感情を大真面目に語ってきてる姿を見せられる。
コイツはコイツで強いし、魔法も使えるし、押しつけは多いけど助けてくれることも多くて、言ってることは格好いいこと多い奴ではあるんだけれども。
「そ、そう・・・かな? やっぱり今の私の気持ちって、ハイちゃんも、そう思う・・・?」
「うむ・・・間違いあるまい。それは恋であり、愛・・・・・・。
――相手のことを考えるだけで、全身にふるえが走るほど緊張し、言語機能が言語を忘れ、全く統制が効かなくなり、もしフラれてしまったらと思っただけで心肺機能に異常を来すようになる・・・・・・それこそが乙女にとっての恋心。
つまり、今の君が抱いてる感情である!!」
「違うよ!? って言うか、それは多分恋心じゃないと思うんだけどハイちゃん!? 私そこまで酷くないし、言ってる内容おかしかったし!」
―――たいていの場合に、オマケとして後から碌でもない感想が付いてくる奴だからなぁ~とか思っていたから何も言わずに見ているだけだった案の定だったハイド流女の恋心解釈。
まぁ、コイツに恋とか愛とか語らせるのは無理だとして。
とりあえず、ハイドが言ってる通りの状態にまで悪化してないんだったら正常って事で、いーとしますか。
と、長年の付き合いでスッカリ慣らされてしまってたマリアは、そう判断と決定を心の中だけで下していた。
なんの問題もないかまでは分からないとしても、頭おかしい変な人達の一員にはなってない判定を、頭おかしい幼馴染みから得られる範囲なら、まだまだ大丈夫ってことで。
(まあもっとも、入学式の会場で運命の再会とかしちゃった時には、どーなるかまでは分からないんだけどねぇ~)
恋愛小説や舞台劇で、よくあるパターンだ。
憧れの『賢者マーリン様』と『導師メリダ様』が若い頃に出会って恋に落ちるまでを描いた名作シリーズでも定番になってて、リメイクも続々発売し続けている鉄板の展開と言っていい。
そんな展開に憧れを抱きながら育ってきた自分たち世代の女の子であるシシリーが、少年時代に賢者様たちも通ってたという高等魔法学院で先程の少年と再会してしまった日にはどーなるか・・・・・・
「だからね!? 違うんだからねハイちゃん!! ・・・・・・た、多分・・・」
「多分ッ!?」
――既にそーなってない場合に限られそうなところは本気でどーかと思いながら。
そして時は過ぎて、年が明け。
件の高等魔法学院、入学試験の日が訪れる。
「へぇー、これ全部が受験生なのかぁ。この王都の大きさで、この人数って考えれば相当狭き門ってことなんだろうなぁー」
高等魔法学院の校舎前に立って、前世知識にあるところの私立高校ぐらいの規模をもった建物を見上げながら、シン・ウォルフォードはお上りさんよろしく、そんな声を上げていた。
「――でもまっ、ここに合格すれば、あのシリリーって子にまた会えるかも知れないし。いっちょやる気出して挑むとしますかね」
記憶に強く残った青色の髪の女の子が、同じ学校に入学を志願しているという話を思い出し、男の子としても頑張る理由になって意欲が沸いてくる。
王都に来た最初の日に出会った女の子達。
その中でもシンは一人の娘のことが気になって、家に帰ってからも忘れられぬまま今日まで悶々として過ごしてきてしまっていた。
だからこそ、今日ガンバッテ成果を上げて入学を許可され、晴れて同級生として一緒の学校に通える身分を手に入れて、自分の想いをスッキリさせたかった。
決して、出会ってから今日まで堪りまくった、彼女いない歴=実年齢の青春リビドーを運動で発散してスッキリした気分になりたい魔法使いの男の子だからではない。
彼が有する、異世界チキュウにあるニッポンという国で過ごした記憶の中には、『男は三十過ぎまで童貞だと魔法使いになれる』という都市伝説があった気がするけど、今の自分が魔法の才能でチヤホヤされて魔法学院に入学しようとしてるのとソレは関係ない。
三十路男の童貞だと魔法使いは伝説で、嘘八百。だから自分には関係ナ~イ。
「よし! その為にもまず合格しないとな! 試験は全力でやるぞ!」
「・・・・・・オイ、貴様。バカみたいに突っ立ってて邪魔だ、どけ」
「えぇーと、試験会場の位置はっと・・・・・・お、あったあった」
「・・・・・・・・・オイ、無視してるんじゃない。聞こえないのか、この無礼者のバカが――ッ!!」
そんな時に起きた出来事だった。
彼の背後から荒々しい声と共に、左肩へと手が伸ばされて掴みかかってこられたのは。
その瞬間に、シンの瞳は補足、そして鋭くすがまる。
先程から、うるさい声で自分にどーのこーの言ってきている声が響いてきて、コイツは一体何なのかと思いながらも、初対面の相手をバカ呼ばわりとか無礼すぎたので無視してやっていたのだが。
向こうが力ずくで来るというなら、多少の実力行使は仕方がない。
肩を掴んできた腕を逆に掴み返し、相手の後ろ手になるよう捻り上げるように身体を動かそうとし―――
「――フンッ!!」
「なにッ!?」
シンが強制しようとした身体の流れに逆らわず、まるで水流のように自然な流れをなぞることで自分の押さえつけを無効化させてくる、背後から馬鹿にしてきた謎の誰か!! そして!!
「体術! 《円の動き》!!」
「な、なんだとッ!? この動きは・・・・・・馬鹿なッ!!」
腕の戒めから逃れられた瞬間、僅かに距離を置いて対峙する両者!
金色の髪、貴公子的な容貌に浮かべた凶相、僅かに赤身をもった緑色の瞳をもった少年。
その少年は、凶悪な表情に「フッ」と嗤ったような歪んだ笑みを浮かべると、
「《猛虎硬爬山》ッ!!」
「ぐぅ・・・っ!!」
「な、なにッ!?」
至近距離から手の平開いて腹に当ててくる体術、所謂『発勁』を使ってきた相手からの攻撃をギリギリで魔法ガードしてダメージを最小限に抑えたところ、何故だか知らねどチキュウ技の数々を見せつけてきてた相手の方から驚いた声を上げられて、変な生き物でも見るような目つきで見下される理不尽な立場へ叩き落とされる羽目にまでなり。
「ば、バカな・・・・・・俺の技を食らって、吹き飛ばされもしないなんて・・・貴様! いったい何者だぁーッ!? 只者ではないだろう! 名を名乗れぇ!!!」
「いや、お前の方こそ何者なんだよ一体さぁーッ!?」
シン、余りにも理不尽すぎる状況に怒り爆発して、流石に怒鳴り返すしかない状態に。
入学試験の会場前で、いきなり因縁付けてきて肩掴まれたチンピラの腕をねじったら、いきなり中国拳法で回避されて、中国拳法の奥義で反撃されるというスゴい状況。
こんな事になるなんて誰も思いませんし、こんな目に遭うこと想定してチンピラの腕をねじり上げる少年なんている訳がない。いたら病院行けとしか言いようもない。
そんな目にいきなり遭わされる立場を押しつけられたのだから、シンが激高するのも仕方がなかった。彼は悪くない。
まぁ、相手の声を無視してたのは悪かったかも知れないが、その後からは相手の方が悪かったのでシンは悪くない。
悪事が起きた後には、最初の小悪事やる子悪党は悪くなくなる、相対性の比較対象に支配された人の社会は異世界だって変わらぬ真実。
「フンッ! 貴様ごとき無礼者に名乗ってやるほど、僕の名前は安くないんだ! 礼儀を弁えろ、このバカッ!!」
「なんだとこの! いきなり人の肩を掴んできた奴が偉そうに!
だいたい初対面の相手にバカバカ言い出してくる奴の方が、よっぽど馬鹿じゃないか!
お前は親から礼儀すら教えてもらってないのかよ!? もしそうなら、そっちの方がよっぽど馬鹿さ!!」
「はッ! バカにバカと言って何が悪い!? 道のど真ん中でバカみたいに突っ立っていて邪魔なんだよ! それぐらいに気付けバカ! その程度も自覚できないバカは引っ込んでいろ、このバカッ!!!」
「この・・・・・・! 言わせておけば―――ッ!!」
いい加減に頭にきて、言葉だけで言って分かろうとしない相手に、少しだけなら痛い目に遭わせないといけないかもしれない―――そんな想いに駆られて拳を握りしめ、前に出ようとするシン。
最初の一撃では確かに驚かされたが、逆にソレで相手の実力はだいたい分かって、確かに強いが自分が本気を出すほどじゃないと理解した相手に、手加減した上での礼儀を教えてやる一撃を軽く叩き込んでやって、一発だけで場を納めて終わらせる―――そのつもりでいたのだが。
「いい加減にしろ! バカ騒ぎはそこまでだッ!!」
鈴とした声が横から割って入ってきて、対峙する二人の少年達は発言者の方を振り向く。
すると、金髪の貴公子じみた容貌の少年だけがハッとなった表情になり、もう一人の方は「誰だろ?」という不思議そうな顔をするだけ。
「『高等魔法学院において、権力を振りかざすは厳罰に処する』――それが校則ではなく王家の定めた法ではあるが・・・・・・だからと言って、純粋な腕力を使って暴力であれば振りかざしていいという決まりはなかったはずだが?」
「あ、あなたは、まさか・・・・・・アウグスト殿下・・・!」
「・・・どちら様?」
颯爽と現れて仲裁に入ってきた、金髪爽やかイケメン美少年への反応が両極端過ぎる二人の仲裁はいられた側の少年達。
「その法の範囲内に留まるよう自重したのは認めるところだが、ここは入試会場であって武闘大会の試合会場ではない。皆の心を乱すような、激しい白兵戦は控えるよう心がけよ」
「ハハぁッ! 殿下、申し訳ございませんでした! この男の行動で皆に迷惑がかかったこと、誠に申し訳ございません!!」
「って俺かよ!? 悪いの俺だけってことになるのかよ!?」
ヒデぇ!? この一方的すぎる扱いの差! これが貴族というものだろうか? ディスおじさんは立派に王様してる人だったのに! クリス姉ちゃんとジーク兄ちゃんも一応は貴族ってことになっるらしいのに!
「・・・はぁ。まあ王家の法には抵触しない範囲に留めてあったし、校則違反にまで発展する寸前に止めることもできた。
今回は、力技に訴え出たということでは双方とも同様だったということで大目に見てやる。行け、次からは自制するように」
「はいっ! かしこまりました・・・・・・フッ」
「――ムカッ」
急にしおらしくなった凶相の貴公子が、金髪の美少年に言われて頭を下げてから去って行く途中に。
心の底から恨みがましい癖して、見下しまくったイヤな視線と冷笑を向けてきてから立ち去っていったイヤな奴が残した瘴気に、しばらくの間イヤ~な雰囲気がその場に滞留していると感じさせられていたシンであったが、
「大変だったな、大丈夫か?」
「・・・ん? ああ、全然大丈夫だよ。別に気にするほど大した奴でもなかったし。
というか魔法学院で、あんな嫌味な行動を取る上に体術まで使ってくる奴がいるとは思ってなかったから驚きはしたけど」
「ふ・・・まぁそうだな。自己紹介すらしないうちから、あのバトルは流石の俺も驚いたよ」
くっくっくと、思い出したように楽しそうな笑い声を上げる金髪の美少年。
行動だけなら先ほどの貴公子っぽい見た目の奴と似ていなくもなかったが、さっきの時と違ってイヤな印象をまるで受けない笑い方だった。
産まれついでの気品がある、とでも言うのだろうか? 笑い方もスゴく自然体で違和感がないから、普通に笑ってるだけのように感じてしまって悪印象を感じさせられる理由がないタイプなのだ。
「それにしても、いくら高等魔法学院が貴族の専横を許してないとは言え、実際に相対すると萎縮してしまう者の方が多いんだがな。
・・・まさか説教をかました挙げ句、バカバカ言い合い合戦まで発展させる者がいるとは正直、想像したことがなかったよ・・・」
「ま、まぁ俺も少し大人気なかったかもしれないけど・・・・・・そ、それに俺って、権威とかあんまり関係ない立場だし」
改めて第三者から言われて、直近の過去を客観視点で振り返ると、ちょっとだけ恥ずかしいやり取りだった気がしなくもない反応を返してしまっていた自身の対応に多少は思うところがあったのかシンは頬を赤らめ目をそらす。
――ちなみに、権威というのは『力あってのもの』であって、『権威あっての力』というのは現実的にありえません。
王家よりも、貴族の方が力が強い国だと、貴族たちは王家の権威など歯牙にもかけずに平然と利用してくるだけ。異世界チキュウの日本国センゴク時代とか大日本テンノーとか。
そしてシンは、国軍にも勝てる武力と、国王から特別扱いされてくる救国英雄の孫という身分をもった、『国内最強の権威シン・ウォルフォード』という存在。
普通は王家以外は誰も逆らえません。誰もがひれ伏して跪くのが当然の存在。
本来なら、無礼働いた相手貴族の少年がヤバい立場になるほど超高い身分なのは自分であり、貴族の権力が作用しない学院内ルールに助けられたのは実は相手の方だったのだが・・・・・・知らぬが仏という異世界コトワザな状況だろう。双方共にとって。
「フム。やはり聞いていた通り、かなりの世間知らずみたいだな。父が気にしたのも道理と言うところか」
「?? 聞いていた通りって・・・何を? って言うか誰に?」
「ああ、すまない。自己紹介が遅れたな。私の名はアウグスト=フォン=アールスハイド。近しい者はオーグと呼ぶ。君のことは父から聞いていたのさ」
「アールスハイドって・・・・・・って事は、ディスおじさんの息子?」
相手の本名を聞かされて、脳内ライブラリを検索し、自分の知っている人物と同じ名字の持ち主を思い出したので、何気ない普通の口調で言ってみた―――それだけだったのだが。
シ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン・・・・・・・・・。
・・・・・・何故だか急に周囲が静まりかえって沈黙に包まれてしまったナゾ現象。
より正確には、シン一人的には謎の現象で、周囲の人達全ての人達的には極普通に沈黙しただけ。
そーいう発言。
自分個人にとっては、幼い頃から親戚の叔父さんだと思ったまま付き合い続けてきて、最近になってから初めて王様だという身分を聞かされたばかりだったから、『自分にとっては叔父さんの息子の従兄弟』なのでタメ口でいいんじゃね?
他の人達にとってどーいう存在か~なんて、オレには関係ないっしょ? オレにとってどーかだけが重要だと思うんスよね~オレ的には。
ソレが個人の自由と権利で、民主主義ってもんじゃないッスか~スカ~。
・・・・・・的な解釈に基づく行動に分類される発言を平然とやってのけて、そんな自分を普通と信じて揺るがない。
そんな自覚なきオレ様絶対主義の少年シン・ウォルフォードによる王様視点での発言によって、周囲にいた大勢の本物庶民たちは真っ青になるレベルの衝撃を受けさせられてフリーズしていたのだが。
「あははは! そうかそうか従兄弟か! 父上から君のことを色々聞いたときには不思議な感覚に陥ったのを思い出したよ。そうか、従兄弟か。そう言われても違和感がない。むしろ妙に納得させられた感じがするよ」
「何か分からないが、喜んでもらえたみたいで何よりだよ」
「ふふ、こうして会えたのだし、もう少し従兄弟殿と話したいところだが、そろそろ試験会場に行かないとまずい。お互い頑張るとしよう、次に会うのは入学式かな?」
「はは、そうなるように頑張るよ」
本人が気にしてないんだから別にいいじゃないかで、自分が呼ぶときには気にしないタイプのシン君。
自分が気にする場合の時には、相手が許してても自分が許せないと感じてる殻を理由に、突っかかってくタイプの典型ですね。さすがはオレ様。
まっ、そんな感じで《索敵魔法》使わない限りは、周囲のことをあんま気にしないし気付きにくいシン少年は、自分と貴公子が起こした騒ぎを聞きつけて集まっていた野次馬たちの外縁部に、見知った顔の三人娘たちが来ていることにも気付くことが出来てなかった。
「・・・・・・まさか、アウグスト殿下とも楽しそうに話してるなんて・・・シン君って、いったい何者なんだろう?」
「本当にねぇ。アウグスト殿下があんなに楽しそうなの始めて見たし。それに陛下のことも『ディスおじさん』って呼んでたみたいだったし。・・・・・・ホントに何者なのよ? アイツって一体・・・・・・」
とある事情により、シンを見つけたはいいものの、シシリーの方が近づくわけにはいかない状況に陥ってしまった彼らのやり取りをハラハラしながら見守っていた彼女たちだったのだが。
途中で、この国の王子であるアウグストが仲裁するため登場してきて、しかも何やら先日会ったばかりの少年シンと親しげに会話し始めて、しかも話の内容まで一部が漏れ聞こえてきてしまって混乱が拡大。
まったく・・・ワケガワカラナイ相手だよ。シン・ウォルフォードって少年は。
「まさしく、だな。まさか陛下の見た目を知りながら『おじさん』と呼び、『お爺さん』とは思わなかったらしき、正しき実年齢を的中させる観察眼の持ち主だったとは・・・。
シン・ウォルフォード君、恐ろしい子供よ・・・・・・! 見た目は少年、頭脳はお子様名探偵とは彼のことであったとは!!!」
「いや、アンタほど恐ろしいことは言ってなかったヤツだと思うんだけど。って言うか普通に不敬罪だし。
少しぐらいアンタも恐れるって感情を覚えなさいよ、いい加減に少しぐらいは」
「それはともかく! ウォルフォード君の正体を、私は見抜いたり!!」
「!! ほ、ホントなの!? ハイちゃんッ!! 教えて!!」
最後にハイドが自信満々で宣言した内容を聞かされて、出るに出れない状況にマゴマゴしてたシシリーが飛びついて、気になる男の子の素性を知ろうとして、
―――いや、なんで信じるのよコイツの予測を。絶対ハズレてるに決まってるじゃない、ハイドの予想なんだから。
とマリアからは心の中で思われて、白い目で見つめられることになるシシリー=フォン・クロードちゃん。
純粋無垢な女の子です。ちょっとだけおバカとか言っちゃいけない、純粋だから。
「うむ! 陛下のことを『おじさん』と呼ぶ点から見て、彼は間違いなく・・・・・・プライベートで血の繋がらない『おじさま』として接する間柄なのだろう。
王とは、多くの責任と政治的負担を背負わされた孤独なる存在と聞く。
そのような者にとって、心の休息を求め、自らを特別扱いすることなく癒やしを与えてくれるような相手の元へとお忍びで通い詰め、他者には言えない愚痴を聞かせる相手として信頼される、閨を共にしてもよいと思われている夜伽役の美少年・・・・・・。
それこそがウォルフォード君であったのだよ!!!」
「ええッ!? そ、そんな・・・! で、でも王家の人達ってたしかに、後継者争いとか避けるために、子供を作るときは気をつけてるって、あの恋愛小説には書いてあったし・・・・・・ッ。
そんな心優しくて純粋な男の子だけには、頑なな王様も心を許せて、立場を超えた二人の想いが重なり合ってって・・・・・・この前に読んだ恋愛小説でも、そんな展開が・・・!!
で、でもシンに限ってそんな・・・・・・そんな・・・・・・ッ!!(ポッ♡)」
物語と現実との違いが、ちょっと曖昧になってる夢見がちで乙女チックな初恋相手の美少女から、自分がシャツを引き千切って上半身丸出しになった姿で、王様の胸元へと飛び込んでいく光景を幻視されちゃってることなど考えることすらなく。
後の伝説として語られるシン・ウォルフォードの物語は、こうして始まりを迎える。
それは、今一人の善悪定かならぬ英雄のようなナニカを成す一人の少女の物語の始まりをも意味するものだった――――。
・・・・・・さて。
そんな感じで、次なる話題の中心が即座に移ってしまったために、特に注目されることなく名前すら知られないままフェードアウトしてしまった少年が1人、ここにいる。
リッツバーグ伯爵家の嫡男、『カート=フォン=リッツバーグ』
前より強くなってたことで、特に悪いことする必要がなく、偉そうに名乗る機会さえ得られないまま退場してしまった彼は、試験会場へと続いてはいるが人気のない、少しだけ遠回りをする道を―――怒りと屈辱に激しく身を震わせながら歩んでいた。
「クソッ! クソッ!! おのれ奴めぇ! この俺に逆らいやがって・・・・・・クソがッ!!」
毒突きながら、血走った瞳で一人歩き続けるカート。
強くなった今の彼には、その得られた『強さ』で分かっていたからだ。
あの“生意気な平民”が自分に手加減をしていた、という事実を。
自分とて、流石に殺す気で攻撃していたわけではなかった。だがヤツからは自分以上の余裕を感じさせられて―――激高させられた!
この自分より強いというのか!? 平民風情が!!
選ばれた民の一員である特別な自分よりも、選ばれない平凡な平民の一人でしかない奴ら如きが・・・ッ!?
「以前より遙かに強くなった俺が!
先生“たち”から教えを受けて更なる力を得たはずの俺より、平民如きが! 特別な力を手に入れるのには成功したのに・・・・・・何故だァァッ!?」
口角から泡を飛ばして喚きながら歩く姿は、とても正気の沙汰とは思えない。
彼はもともと自信家ではあったし、選民思想的な考え方に賛成する価値観の持ち主ではあったものの、場を弁えるぐらいの分別は働かせることはできたし、現実とご都合主義的な妄想との違いぐらいは理解して妥協する精神性程度は持ち合わせることが出来てはいる子供だったのだ。
だが途中から彼は変わりだした。
真実を教えてくれる、偉大な“二人”の先生に出会ったことで彼は生まれ変わったのだ。
一人は、シュトローム先生。
この世には、超越者に選ばれし特別な一部の人間たちと、選ばれなかった大勢の有象無象でしかない虫ケラのような民衆たちという、二種類の人間が存在し、その二つは明確に分かたれて共に歩むことなど不可能なのだと教えてくれた存在。
思想の伝道師とも呼ぶべき、偉大なる恩師。
その彼から教えを受けて、自らを選ばれし者の一員であると理解したカートは、早速その真実を周囲の仲間たちに教えてやったにも関わらず、そいつらの反応はまるで『お前の方が間違っている』と言わんばかりのすげなきもの。
果てはカートにとって、この世で唯一対等な存在だと感じていた婚約者の少女までもが、自分から距離を取るようになってしまうという理不尽すぎる扱い。
何故!? 世界は自分を祝福しているはずなのに! 自分は世界から祝福された特別な一員のはずなのに!!
彼は激しく憤り、こんな世界は間違っていると思った。
理不尽がまかり通る今の世界は、一度灰になるまで燃え尽くさせて、正しき秩序の元で再建されるしかないのではと考えるまで思い詰めた時期もある。
恩師であるシュトローム先生からは、『その怒りは溜め込むことで原動力として、憎しみは行動する動機として使うべきだ。感情をすぐに発散するのでは動物だ。選ばれた存在がすることではない』―――そう教えられ、尤もだと感じたからこそ自制していた当時の彼だったが・・・・・・ある時のことだ。
ふと、動く時は今なのではないか。と思うことがあった。
耐えることで培ってきたものを用いて、正しき世界へ生まれ変わらせるべく動き出す、シュトローム先生が言われた日とは、今のことではないのか?―――と。
そう思い、握った拳に小さな炎を灯らせて。
自分を虚仮にした、平民共に媚びを売る裏切り者のクラスメイトたちに粛正と浄化の炎で骨まで焼き尽くしてやろうと思った。
その瞬間のことだった。
自分の後ろから声が聞こえてきたのだ。
「――殺す前に、しなくてはならないことがある相手が多くいるのではないのですか?
選ばれし優れた存在の御曹司殿」
なんの前触れもなく、なんの気配もなく。
いきなり声の主は、自分の左後ろに立っていた。
まるで最初から、その場所に立ち続けていたかのように自然体で。
だが間違いなく、一瞬前まで誰もいなかったはずの場所に、彼はいきなり立っていたのである。
全身から脂汗が吹き出す感覚をカートは覚えている。
死が身近に迫った時のような恐怖心が、自分の心臓をつかみ取り。
ろくに動くことも出来ないまま、ゼンマイ仕掛けの人形のように、ぎこちない仕草で後ろを振り返り、顔だけで相手の顔を見上げる。
それだけがカートに出来る最大限の行動。
選ばれし存在であるはずの自分より、圧倒的に格上のナニカが、人の形をして彼の左斜め後ろを取られていた。
「自分の憎しみを、すぐにも殺せる赤の他人を殺すことで発散させれるよう、小利口な理屈で自らを誤魔化す―――そんな無駄を犯す必要はありません。
殺したい者を殺し、憎い者を嬲り、弄んで、相応しい死に様での末路を遂げさせる。
それでこそ、あなたの憎しみと恨みは晴らせると思いませんか?
それとも、頭数さえ揃えられれば満たせる程度のものなのですか? あなたの憎しみと恨みの感情は」
「あ、アンタは・・・・・・い、いったい、何者・・・」
なんとか声だけを絞り出し、それだけを問いかけるカート。
そんな彼に向かって・・・・・・ニコリ、と。
優しそうな笑顔で、天使のように慈しみと哀れみを持った優しげな笑顔で笑いかけ。
「私の名は、『地獄の傀儡師』の想いを継承する者。
アーデルハイド=クロプシュトック=フォン=ローゼンバゥム。
無念の死を遂げた死者の声を聞き、同じ無念を押しつけられようとする者達に手を差し伸べる、地獄の使いとして生まれた者です。
あなたが望むなら、あなたの望みをそのまま叶えるため、力は貸せませんが、知恵と策をお教えいたしましょう」
「所詮、我々と彼らの存在は平行線。
違う考えを持つ者たちが、あなたを認めず否定するのは当たり前のことでしかないのです。気にする必要は些かも無い。
どうせ彼らは、彼ら自身が尊ぶ倫理によって許容できる範囲に収まらぬ考えは全て否定し、決して認められることはないのですから。
“彼らから見た”“彼らと違うもの”としての道を歩む者達を、彼らは“自分たちと同じ”にならない限りは絶対に認めることなど出来はしない。
そういう風に、人の世というものは出来ている」
そう教えてくれた新たな先生の教えの元、カートは修練して力を得た。
あらゆる格闘技を、戦闘術を、人の殺し方を、騙し方を、法の抜け道を、偉大なる先生は教えてくれた。
カートが、校則と王国法の範囲内で暴虐を行うようになったのは、ソレが原因によるものだった。
法律を“破ったこと”にさえならければ、やっていいのだ。
許されざる行為と、分かりやすく示しさえしなければ、愚かな周囲は自分を裁くことなど出来はしない!!
その発想と彼の成長は、最初の教師であるシュトロームにとっては予想外の『悪なる進歩』であり、予定外の『悪人としての成長』に内心で眉をひそめさせていたのだが・・・・・・彼は気付かない。
先生の狙いと本心を、教えられていないカートには、表面上の教えだけを信じ込んだまま、自らの願望を見抜かれたマリオネット使いの手によって、更なる混沌をもたらす者としてパワーアップして帰ってきたのだ。
そうして以前よりも強く、狡猾に、ずる賢くなった彼は標的を見つけた。
殺すべきターゲットを。
自分自身と平行線上の向こう側に立つ、全く違う相容れない存在を。
彼は遂に―――本心から純粋に、『殺してやりたい』と想い願えるほど憎むべき相手と出会うことが出来たのだから・・・・・・!!
「・・・そうだ・・・アイツだ・・・・・・アイツが来たことでナニかが変わった・・・ッ。
殿下もアイツの味方をするようだし、或いは俺から女を取り上げて、思い通りにするために・・・・・・許せない!! そんなことが許されていいはずがナイ!!
――だが今はまだ殺すわけにはいかない・・・しかし近い内に絶対、殺してやるぞ! 今に見ているがいい!!
女を手に入れ、選ばれし者に相応しい世界を創るため、俺はお前を殺してやる! 絶対にだ!!
俺が手に入れた、『芸術犯罪家』としての力によってナァ!! ヒャ~ッハッハハハハ★★★」
色々とゴチャ混ぜになった状態ですが、完(試作品なので)