新年最初の一作目として相応しいかは微妙ですが、【賢者の孫】二次の最新話です。
ただ今話は特に、原作ファンの方々には不快な内容かもしれません。そーいう感覚わからない作者の作品ですので、責任取れないと言うより取りようがない前提で読める方だけ読まれるのを推奨しておきます。
後の歴史に英雄として名を残し、当時の時点で歴史に名を残していた英雄の孫としては既に名を知られるようになってしまっていた英雄シン・ウォルフォード。
《浮遊魔法》を始めとして画期的な新技術や新魔法を世に送り出すことで、強さだけでなく社会貢献と発展にも多大な業績を残したことで知られている偉大なる彼の英雄。
だが、それらの分野での人並み外れた偉業を『公の場で』初めて示したのは、高等魔法学院に入るための入学試験、その中での『実技試験』においてであったことは余り知る者は多くない。
「それでは試験を始める。
前方に置かれている藁が巻かれた的に向かって、自分の得意な魔法を力の限り放ちなさい。
――では、一人目っ」
「は、はいっ!」
然程広くはない密閉空間の会場内、せいぜい前世知識での感覚では視聴覚室ぐらいと言ったところであろうか?
受験生である生徒たちが並んで成立するよう指示された場所から見て、正反対の位置に置かれた、藁が巻かれまくって上下の部分だけ極端にブッ太くなっている木の棒が何本か床に差し込まれて並んでいる。そんな場所。
それが、高等魔法学院の入学試験において、実際に魔法を使って披露する『実技試験』の会場だった。
(おおっ! はじめての同年代の魔法だ! 一体どんな魔法を使うんだろう?
今までは爺ちゃんやジーク兄ちゃんの使ってるとこしか見たことなかったから、スッゲー楽しみ~♪)
その会場の様子を眺めながら、受験生の一人として整列しているシン・ウォルフォードは表面的には節度を守りながらも内心、けっこうワクワクしていた。
何故なら、魔法学院に入学するための実技試験は実のところ、シンが最も楽しみにしていた試験項目の一つだったからである。
地球で交通事故死して異世界へと生まれ変わった転生者であるシンは――言い換えれば、死んでシンになった現少年で元オタク会社員は、自らが生きていた現代日本の社会に厭世感じみた『つまらさ』を感じている人間の一人だったが・・・・・・反面。
妙な部分で周りに染まりまくって、周囲に合わせるのを良いと感じて、周りがダメというのはダメだと感じなきゃいけない、同じ世界の『ひねくれボッチ先生』から【嘘であり悪の青春を謳歌する半端リア充の一人】とか評価されそうな考え方と価値基準の持ち主でもあるのが彼だった。
このため、死んだときの時代背景的に『呪文詠唱して魔法を放つ古典ファンタジー』は厨二っぽくて恥ずかしいと感じるけれど、『魔法学校で共に学ぶ同世代の魔術師少年たちとの競い合い』とかの展開はOKで、むしろ憧れを感じてる側面すら持ってたっぽい。
まぁ、そんな風に『みんなの一員』になりたがる系の、微妙に『ハヤマっぽい』とか評されそうな少年シンとしては、生まれて始めてみる同世代の使う魔法、しかも一人目は同じ男子生徒の魔法ということで期待するところ大であったりしたのだが・・・・・・しかし。
「“全てを焼き尽くす炎よ”!!」
――はいっ!? あれ? 思ってたのとなんか違う!?
「“この手に集いて敵を討て”ッ!! 《ファイヤーボール》!!!」
――しかもなんかどっかで聞いた覚えがあるんですけど! その呪文と魔法の組合せ~~ッ!?
世界の壁すら越える『ファイヤーボール魔法』の法則とでも呼べばいいのだろうか・・・? シンが前世で苦手としていた古典ファンタジー中の古典をコピペしてきたのではと思えるほどによく似た呪文とポージングで放たれた真紅の火球。
元々この世界の魔法は、本来は呪文詠唱を必要とせず、頭の中で強くイメージするだけで使えるようになるタイプの方式を取ってはいるのだが。
こういう形式は却って、想像力の乏しい者や具体的に現象が起こる仕組みを解明できてないから抽象的になりやすい者などには、使いづらくなりやすいのはシンが元いた世界と変わらない部分だった。
要するに、理屈が分かってないとダメな人には向いてないのである。
理屈屋には、理屈が解明できてない時点だと不利になりやすいのだ。
その結果、なんとなく『その現象をイメージしやすくなる呪文や仕草』をすることによって任意の魔法を行使する・・・・・・という、魔法を使うのに呪文詠唱が必須だから唱えていた古典ファンタジー魔術師たちからさえ「魔法舐めとんのか」と額に青筋立てられそうな使い方の方が一般的になっちまってるのが、この世界の魔法だったりするのだが・・・・・・
挙げ句の果てに。
ヒュ~~~ッ、・・・・・・ぽんっ!
・・・・・・威力がショボい。超ショボかった。
試験用の的で魔法障壁張ってあるとはいえ、当たっただけで跡形もなく消滅する程度の火球を放ってみせた・・・・・・国内に数多ある高等学院の中でも特別扱いされてる名門エリート魔法学院の入学志望者の一人目。
「はい、よろしい。では次」
「はいっ!!」
しかも、良いんだ・・・。アレでいいんだ、この学校の受験生・・・。
どっかの世界で、少数ながら魔法使いがいるけど大半は武術で神秘現象起こす人たちが参加している『最初はお遊びの武闘大会』だった天下一決める会場の参加者試験でも、もう少し派手なことできる人がモブとして出場してた気がするが・・・・・・まぁアッチはスーパーな世界だったからなぁ。
一人目の判定がコレだった以上、後に続く者は言わずもがな。
タンタンタンッ!
『“風よ踊れッ! 風よ舞え”ッ!!
“全てを薙ぎ払う一陣の風を起こせ”――《ウィンド・ストーム》ッ!!』
ヒュ~~ッ、ヒュ~~~ッ、ヒュウゥゥゥゥ~~~~~・・・・・・・・・
『“母なる大地よ力を貸して”・・・ッ!
“敵を打ち払う礫となれ”――《アース・ブラッド》ッ!!』
かんかんかんッ!!!
・・・・・・見事なまでに、ザコ魔法のお披露目会になってしまっている参加者たちが大真面目に次々と、という展開に。
まぁシンが自分の恵まれまくった環境と才能を自覚するの拒否したまま、周囲の1年生志望ごときに期待しすぎたって部分もあるにはあるのだが―――流石にコレは酷すぎる結果だったのも客観的に見て事実ではある。
せめてコレが、高等魔法学院『年少の部』とかなら入学試験として妥当な成果だったかもしれんのだが・・・生憎この異世界の高等学校は、そんな配慮があるほど終盤の時代になっていない。最初はお子様だって爺と決勝だい。
って言うか最後の一人、「礫となれ」って言って、ホントに「礫」を放つ奴いるんだな・・・・・・。
大抵は「礫」といってるだけで実質「散弾」が多い気がするが・・・・・・その点では希少価値だけは評価しなくもない。
とは言え、それは客観視点という名の、当事者たちと無関係な野次馬の立場で見た場合での感想。
今その場にいる参加者の一人である、シン・ウォルフォード君はどう思っていたかと言うと。
(は、恥ずかしいッ! 恥ずかしいよぉぉ~~~ッ!!
なんだよアレ!? 詠唱って・・・・・・あんなのなの~~~~ッ!?)
無言のまま部屋の隅に避難して、膝を抱えてガタガタ震えながら、現実の会場内に背を向けて、命乞いする準備ではなく、一人恥ずかしさに悶え苦しみまくっていた。
もし同じ場所に同じ世界から転生してきた者がいたならば、多分その気持ちと恥ずかしさで苦しむ思いを共有できるものがある状況だったとは思う。思うのだが・・・・・・しかし。
――周りが大真面目にやってる中で、一人だけ部屋の隅で蹲ってブツブツ言ってる今の自分も、けっこう恥ずかしいから早めに復帰した方がいいとは正直思わんでもないのも事実ではあり。
(・・・あああぁぁぁぁぁ・・・・・・なんだこの厨二病発表会はぁぁぁぁぁ・・・・・・)
とかも思っているようでもあったが・・・・・・『厨二病』か? さっきの連中って・・・。
多分モノホンの邪気眼系厨二の方々が聞いたらガチで怒られそうなレベルで失礼な感想を抱いている自覚のない、厨二あんま詳しくないけど『厨二恥ずかしい』だけは皆と一緒に共有していた今時の現代日本少年だった過去をもつシン・ウォルフォード。
「――? どうしました? 君の番ですよ」
「・・・え、あ、はい・・・」
「――?? ・・・ああ、そうですか。君が・・・」
ようやく名を呼ばれて、スリップしてた精神を現実異世界へと引き戻されてリバースしてきた彼は、大いにやる気に水を差されまくった状態だったので生返事を返すことしかできなかったのだが。
その反応になにか周囲の者たちと違うものを感じ取ったのか、あるいは誤解して過大評価しただけか、試験担当官らしき黒ローブで眼鏡でキツい表情の、学生だったら風紀委員長っぽい見た目の先生は片手に持っていた名簿を確かめ、相手の姓名を確認した後。
シン専用の審査基準と注意事項を伝えた上で、試験再開を宣言する。
「ふむ・・・君のことは陛下から聞いています。君は力を抑えて、試験に挑んで下さい。
くれぐれも、この会場を破壊しないよう注意して、あの的を破壊する程度の威力でいいですからね?」
「は、はい・・・って言うか俺のこと、ディス叔父さんからどんな風に聞かされて――」
「いいですか? 抑えて下さいよ? 壊しちゃダメですからね? 殺してもダメですからね?
慎重~に、慎重~に、指先に神経を集中するようにして、誰も殺さず、壊さず、無難に・・・無難に・・・・・・」
「いや、ホントにどんな風に説明されてるんですか俺のこと!? 完全に人間扱いしてる注意事項じゃないですよねソレ!? 俺は爆破実権のエネルギー吸収して巨大化した破壊神じゃないんですが!!」
ヒドい評価と対応だった。それでいて合ってる上に適切なところが救いがない。
完全に核兵器呼ばわりされちまってる状態に陥っているらしき、自分に対する身内からの評価基準にガックリさせられはしたけれども。
シンとて別に、学校の備品を破壊して先生に怒られたいわけではない。弁証させられたい訳ではもっとない。
とりあえず先生から、「的を破壊する程度の威力」と言われたのだから、その程度に抑えた魔法を放つだけで終わらせよう。他のレベルから見て、それだけでも受かりそうだし。
シンはそう考えて、右手に魔力を適度に集中し始める。
――担当教師は、この時点で致命的失敗を犯していることを自覚することが出来ていなかった。
普通に考えて、「的の強度」を知らない相手に「あの的を破壊できる程度の威力」と言ったところで、適切な破壊力など分かる訳がないのだが・・・・・・常識に慣れすぎると、そーいうのに疎くなりやすいのは異世界もシンの元世界も変われることなし。
「んじゃ・・・・・・コレぐらいでいっか」
『――えっ!? アイツ、詠唱なしで――』
「えい」
パァンッ。
――ズバァァァァァァァァァァァァッン!!!!!
『きゃぁぁぁぁぁぁぁッ!!??』
盛大に吹っ飛んだ、的だけが盛大に。粉々に。
教室の内装には被害が及ばぬよう手加減しまくった一撃によって的が跡形も残さず完全にぶっ壊されて、爆発させた爆風だけで教師と受験生たち数人まどもを吹っ飛ばしながら、『英雄シン・ウォルフォード公式初の大魔法記録』は、こうして樹立されることになる。
「だ、だから力を抑えてと言ったじゃないですか~~ッ!?」
「え? あ、はい。だから相当、手加減して撃ったつもり・・・・・・だったんですが・・・」
「あ、アレで!?」
思わず苦情を叫ばずにはいられなかった女教師だが、帰ってきた返答は予想を更に上回るもの。
規格外にも程がある。こんなバケモノを一般受験生たちと同じ基準で合格競い合わせる、規則遵守しすぎて依怙贔屓になってしまっている学園側の高速に改正の必要を感じさせられてしまうほどに・・・・・・
いずれにしろ、入試試験担当の一教師風情がどうこうできる相手では全くない。
彼女にできることは、最初から合格が決まっていた相手の企画外っぷりを、まだまだ正確に理解できてない上層部に改めて報告して二次災害の発生を防ぐため、試験終了後に報告書を書くこと――それだけである。
なんにせよ、入学試験という『通過儀礼の形式』はコレで終わったシンは、もうこの場に何の用もなかった。
サッサと帰ってもらって、これ以上余計な被害を巻き起こさないでくれるのが今のとこベストな選択だろう。
「そ、そうですか・・・お疲れ様、でした・・・・・・」
「あ、はい。ありがとうございました」
「それでは、え~と・・・・・・残る受験者は一人だけですね。
的が一つしか残ってませんが、一人なら充分でしょう。最後の者、どうぞ」
「はいっ!! リッテンハイド・ガイエスブルク=フォン=ローゼンバゥム、呼ばれて参上!!
その名を略してハイド! 行きますッッ!!」
「ブッホォぉぉ――ッ!?」
元気よく挙手しながら前に出てきた、見覚えがありまくりで聞き覚えもありまくる名前を自分から名乗ってくる女の子の声と姿に、シンは思わず吹き出してしまった盛大に。
吹き出すしかあるまい。今の今までずっと同じ部屋で、同じ会場内で、一緒に並んでいた入学志願者の一人に、ものスッゴく自己主張強すぎで目立ちまくりなはずの知人が並んでたことに、今になってようやく気付かされた訳だから!
・・・っつーか、コイツは先程までの一連の出来事が目の前で繰り広げられてる間、うんともすんとも言わぬまま大人しく見ているだけで過ごしてたのか・・・・・・シンが厨二劇場なのか、グルグル魔法陣の敵王子がモテるために求めた『カッコイイけどショボイ魔法』の真似したかったのか判別しづらい光景に意識を奪われすぎてたとは言え・・・・・・スゲェ影の薄さだな。自分から出た途端に目立ちまくる奴の癖に。
「は、ハイド・・・? ハイドって貴女・・・・・・もしかしてローゼンバゥム伯爵家の令嬢なの!? だってあれ、2年前にもハイドって字が名前にある生徒がたしか―――ッ」
「うむ!! 我が兄であるな教師殿!!
我らローゼンバゥム家は、その名の何処かに“ハイド”の字を与えられる者は当代において一人だけとなるのが通例であったが―――何故かは知らねど、我ら兄弟姉妹の世代には何人か誕生しておる故、そのうち弟なり妹なりも訪れるかも知れず!!
その時は、よろしくご指導ご鞭撻をお願いいたすぞ教師殿!! ハッハッハーイド!!!」
「お・・・OHぅ・・・・・・」
どうやら心理的衝撃が強すぎる現実の過酷さを前にして、絶望に心囚われたらしい女教師が眼鏡をズリ落ちさせていく。
よっぽど問題児一族の代名詞な名前だったんだろう。・・・・・・分かるけども。会って間もない、初対面から初めて再会したばかりの奴だけれども。
コイツが先生方、教師にとって頭痛の種にならない可能性は・・・・・・絶望的としか言いようがない。
「まっ、それはそれとして未来の可能性上の一つと割り切るべき事柄としてっ。
まずは今やるべき事こそ重要。未来は現代を積み重ねていった先にあるもの。今なくして未来なしと、多くの英雄豪傑ダークヒーローたちも名言を残しておる重要部分。
故に私はまず―――この入学試験、実技試験においてッ。
“自分の得意な魔法”を“力の限り放つ”ため、全力を尽くすことをお約束いたそう!!」
「えっ!? えッ!? いや、待って!待って!!
あなたの一族もウォルフォード君と同類だから! 的を壊すだけで部屋は壊さない威力に抑えないとダメな人の一員だから!!
ちょっと聞いて! お願い聞いてちょうだいローゼンバゥムさぁぁぁ~~~~ッん!!??」
「ふぉぉぉぉ・・・・・・ハァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
いつも通り、会ったの二回目だけど「いつも通り」と分かってしまうノリと勢いで、なんかハイドが魔力高め始めたので、シンも釣られて折角だし見ていこうかと思って視線を転じてみたところ、
「――!? な、なんだっ! 魔力が身体の周囲に集まって・・・!?」
見るとハイドは、自らの身体の周囲に――否、特に背後へ向けて陽炎のように魔力を放出させはじめる。
その姿はまるで、天使が被るべき天輪を、頭上ではなく背後から後光のように纏わせているかのようで・・・・・・少なくとも見た目に関しては他の受験者たちより数段上の実力を持っているようにシンには思われていた。
だが、問題は実力だ。
呪文とポージングは派手なのに威力がショボくて地味な魔法は、もう十分に見た、お腹一杯だ。
あの少女、ハイドは一体どんな魔法を・・・?
もうこの際、詠唱は諦めてもいいから、せめて魔法の内容ぐらいはマトモなのを一度ぐらい見てから帰りたい―――そんな切なるシンの想いを感じ取ったか否かは別として。
今、ハイドの高等魔法学院における最初の魔法は・・・・・・解き放たれる。
「はぁぁぁ・・・・・・フンッ! ハァッ!! でぇやぁぁぁぁぁぁ波ァァッ!!
“私のこの手が真っ赤に燃える! 入学掴めと轟き叫んで輝き叫ぶ”!!
“砕け!! 輝け!!! ばぁぁぁぁぁぁくねつッッ”!!!!
《バーニング・ゴッドビルド・ナックルフィンガー》ぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
「だからソレどっかで聞いたことあるって、さっきから言ってんじゃんずっとさぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
ちゅどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっん!!!!!
シンの魂からの叫びも届くことなく、ハイドの魔力をこめた拳による、『走って近づいて全力パンチ』は見事に的をブチ壊して砕け散らせて吹っ飛ばし。
「だぁぁかぁぁらぁぁぁぁぁ!! 抑えてって言ったのにキャァァァァァァッ!?」
『『『ウッギャァァァァァァァァァッ!?』』』
哀れ、爆風に巻き込まれた女教師&受験生たち数人も一緒にどっか吹っ飛ばされていってしまって――――そして試験会場からは誰もいなくなってしまった。
そんな惨状を作りあげた犯人だけが残っている犯行現場の中。
ハイドは、他の参加者たちと同様に「ふぅ~~・・・☆」とすがすがしい笑顔でやりきった感を見せつけながら、いつも通り言ってることなんだろうなとシンでさえ思わずにはいられない感想を一言だけ。
「・・・力を見せるべき場というのは、いつも空しい・・・。残されるのは無人の荒野と廃墟ばかり・・・おおっ! 東方の風は、今も赤く燃え続ける魂に終わること無しッ!!!」
「いや、お前が言うなよ。お前だよ、無人の廃墟と荒野造った真犯人は」
それを聞かされたシンとしても、ジト目でツッコミを入れなければならない程度にはヒドすぎる結果と惨状。
とはいえ気になることが無かった訳でもない。呪文はともかく、やっぱ転生者としか思いようがないとかの事も一旦置いておくとして。
彼としてはハイドが使っていた魔法、それが少しだけ気にはなっていたので確認のため聞いてみる。
「それにしてもスッゲー威力なんだな、お前の魔法って。今の俺と同じぐらいになるよう手加減しまくった威力だったんだろ?
でも見た感じ、俺が知ってるような爆発が起きる現象とかと似てなかった気がしたんだが・・・一体どうやって使ってたんだ? さっきの魔法って」
「フッ・・・そんなことか。簡単なことだよウォルフォード君」
問われた側のハイドは、「ふっ」と笑って「パサァッ」と髪の毛を右手の先で払うようにかき上げる仕草をして見せながら――要するに意味なく何かムカつく仕草をして見せた後。
「よいかね? ウォルフォード君。
魔法というものを使うには、呪文詠唱を唱える必要はないのだ。呪文は、起こした現象を起こさせるため自らがイメージしやすくなるよう誘導する・・・謂わば自己催眠とでも呼ぶべきもの。
それ故に呪文は千差万別、人それぞれでイメージしやすい単語も文言も異なる。
それは逆説的に、イメージさえしっかり出来ているならば、呪文は何だって良い、ということでもあるのだ」
「ああ、それは分かる。って言うより爺ちゃんから、そう習ったしな。それで?」
「うむ・・・・・・つまり、だ」
「つまり魔法を使うときに大事なものとは―――妄想だ。妄想こそが魔法を決する。
ガーッ!といって、ズバッ!と斬って、ピカーッ!と光って、チュドーン!と爆発する。
そんな超カッコよく爆発して超カッコイイ勝ち方をする未来の自分・・・・・・その流れを具体的に妄想することさえ出来れば魔法は使える――そう!!」
「我が先祖は、この魔法の理を差してこう言ったと記録されている。
“この世界の魔法は――チューニリョクでできている!!!”・・・・・・と」
「謝れッ! 俺に謝れよお前!? なんてこと言うんだよお前はッ! 俺はそんな恥ずかしい理屈で魔法使ってねぇ!! 俺は恥ずかしくねぇ! 厨二でもねぇッ!!
って言うかやっぱお前、転生者だろ絶対にーッ! 絶対にぃぃぃぃッ!!
吐けッ!! 正直に吐きやがれハイドぉぉぉぉぉッ!?」
ガックンガックン!と、同級生の少女(予定だが確定)の首元掴んで振り回しまくる男子生徒(現英雄の孫で未来の英雄)というヒドい組合せの絵面を校舎内の一部で爆誕させてしまいながら。
後に「真の英雄」と「英雄かもしれない」とも一部からは評してくる人もいることになる二人のバケモノ入学志願者たちはこうして再会し、入学者としても2トップでダントツに合格者の順位に記載されて発表されることになる。
この二人たち本人にとっては大して嬉しくもない、ただ同じクラスになって超可愛い子とと再会できたのと、面白そうな男友達とクラスメイトとして入学できたこととを、それぞれに喜ばしかったと、その程度で済んだ話ではあったのだが。
・・・・・・ところ変われば品変わり、人が変われば吉事も凶事となって、身と心を苛む不幸と成り果ててしまうことも、世の中にはままあるものだ。
それは貴族たちが暮らしている邸宅が集中している区画の一角にある、中規模の屋敷。
そこそこの邸宅、そこそこの家格。
無論のこと一般的な平民たちの多くより豪華で豊かな造りの屋敷なのは確かだが、大豪邸と呼ぶほどのものではない。
この程度の屋敷なら、富裕な庶民なら保持している者がそれなりにいる時代に、昨今ではなっている。
その屋敷一台の馬車に乗って、一人の客人が訪れてきたのは入学試験の結果が発表された、その直後のことだった。
「まぁ、シュトローム先生ッ。よくお越し下さいました」
「お久しぶりです、リッツバーグ夫人」
「本当に、お久しぶりでございますわね。カートが先生の顧問をなさっている研究室に入ったことで成績を上げ、学園から表彰されたとき以来でしたわね」
痩せぎすな体つきの、人が良さそうな初老の女性貴族に愛想よく時候の挨拶を交わしながら。
異形の姿をした客人は、相手以上に穏やかな物腰と表情を浮かべて見せてやることにする。
ここはリッツバーグ子爵家の屋敷、つまりはカート・リッツバーグ――シンが一目惚れした美少女貴族令嬢シシリーの婚約者であるカートの自宅。
その場所に、入学試験が終わって試験結果も発表された日になってから、学校が終わった後の夜になった時間帯に訊ねてきたのは、カートにとっても両親にとっても旧知の人物ではあった。
アールスハイド王国にとっては、最大の想定敵国である『ブルースフィア帝国』からの亡命者。
制度的にも方針の面でも決して相容れることが出来そうにもない仇敵と呼んで差し支えない軍事大国の貴族として生まれながら、政治体制に起因しての不幸により両目の視力を奪われたことで帝国を見限り、光を失ってなお優れた魔法の技を王国の発展のため後進育成に用いてくれている、尊敬に値する教育者。
少なくともリッツバーグ子爵と夫人は彼のことを、そう評価していた。
評価される側が、その評価と、評価してくる者達をどう評価しているかは別の問題になるが。
「それで、今夜はどうされたのでしょう? こんな夜分に何かございましたのでしょうか・・・?」
「ええ、些か気になることがありまして。――時に、ご子息の様子は如何でしょう? 元気にやっておりますか。カートは」
「―――ああ、やはり、あの子のことなんですね」
夫人は相手の言葉を聞いて深い溜息を吐くと、自慢の息子の――少なくとも中等部までは自慢に値する息子だと思っていた少年の近況を、息子が信頼していた恩師に対して切々と語りはじめていく。
本人も誰かに語りたかったのだろう。
完全に異常な状態に陥ってしまったなら、あるいは夫が家のために息子を切り捨てるような非常手段を取るようになっていたなら、彼女としては最悪の事態ではあっても選ぶべき道は限定されるしかなく、迷いは少ない。
だが、そうではなく『中途半端に悪化していて、改善するかどうか分からない』・・・・・・というのでは夫人としても困るしかない。
「・・・そうですか。確かにそれは深刻な状態かも知れませんね。思春期の少年期というものは、心が未熟で不安定になる時期。ちょっとしたことでも本人にとっては大きな傷となって残ることもある。
分かりました。近くに来たので挨拶をするだけで帰ろうかとも思ったのですが、少し私も話をしていこいうと思います。よろしいですか? リッツバーグ夫人」
「ええ、ええ勿論ですとも! コチラこそお願いいたします先生ッ。
最近の若い子たちの心というのは、もう私のような歳の女には、何がなんだか分からないことが多くって・・・・・・このままでは、あの子の将来が心配で心配で・・・・・・先生だけが頼りなんです、何とか話を聞いてあげて下さいッ」
「ハハハッ、そう卑下なさらずに。ですが彼は私を教師として慕ってくれていましたからね。実の親には言えないことでも、他人でしかない教師になら存外に言いやすいものです。では――」
お愛想を言って、愚にも付かない雑談を交わすことで極力怪しまれるような要素を廃した上で。
シュトロームと呼ばれた青年は、夜の時間帯にも関わらず両目にサングラスをかけたまま、だが所作には全く迷いのない足取りで勝手知ったる元教え子の部屋までやってくると戸を叩き。誰何の声の後、扉をくぐる。
「やぁ、カート。久しぶりだね? どうしたんだい」
「シュトローム・・・先、生・・・・・・」
「随分と情けない結果になっているそうじゃないか。
――私は言ったはずだな? “君は特別な人間だ”と」
「・・・・・・はい」
「君は“身分も実力も特別”だ。“手に入らないモノなどないのだ”――そう教えた。そうだな?」
「そうです・・・その通り、です・・・・・・だからこそッ!!!」
「俺は完璧に目的を達成するべき存在なんです!! たかが力と魔力で俺を上回っただけで俺に勝ったと誤解されては困りますからね!」
「・・・・・・・・・」
「俺は勝つんです! 完璧なる芸術的勝利によってこそ、選ばれた存在である俺のプライドは満たされる!
計画が阻止されたから、全てを巻き添えに力づくで消滅させて終わりなどと言う見苦しい終わり方では、俺のプライドは満たされません!!
先生に教えてもらった特別な存在である証として、俺は奴を完全に打ち負かし、芸術的に女を手に入れて勝利する! それこそが美しい!! ウツクシイ!!
美しい俺に相応しい勝利なんだァァァッ!!! アハ、あはッ、AHAHAHAHAHAHAァァァァッ☆☆」
「・・・・・・そうか。それが今の君の願いとプライドの形なのか、カート・・・」
感心したように呟きながら―――内心でシュトロームは不快さと計算違いの結果に舌を打ちたい気持ちを抑えつけるのに苦労する。
(チッ・・・誰かは知らんが余計な入れ知恵をして、私の施した扇動を誘導する者がいたらしいな・・・・・・。この方向性では怒りと憎しみに心囚われたところで、魔人化は無理だろう―――仕方がない)
「本当なら、きみ自身の主体的な意思によって、増幅させるだけでなってもらうつもりだったのだがね・・・・・・予定変更だ。君はもう、人間を辞めてもらっていい――」
つづく