試作品集   作:ひきがやもとまち

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「俺はひねくれている」三話目です。シリーズ化してきちゃいましたね(笑)
今話はガハマさん登場回! クッキー作りまでは行きません! 寸前で止まります!(苦笑)


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。第3話

「比企谷。部活の時間だ」

「・・・・・・・・・はぁー・・・・・・・・・」

 

 ホームルームを終えて教室からでた俺は、扉の前で腕組みしながら笑顔で待ちかまえていた平塚先生を見た瞬間に逃亡する意欲が根こそぎ奪われ尽くされてしまった。

 

「言っておくが、逃げようとしたらわかっているな? あまり私の拳を煩わせないでくれ」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ~~・・・・・・・・・」

 

 ドナドナでも流れてきそうなムードの中で、俺は昨日と同じく奉仕部の部室に向かって歩かされていく。

 雪ノ下といい、平塚先生といい。美人なほど攻撃的な人格の持ち主が多いのかね? この進学校は? ・・・どういう進学校だよ、格闘技系の部活動がそんなに活発だったっけ? 総武校って・・・。

 

 

 ーーーそうして部室のある特別棟まで来るとさすがに逃げる心配はしなくなったのか、先生はようやく職員室に帰っていってくれた。・・・暇なのかな? 県下一の進学校教師って仕事は・・・。

 

 再びため息をついてから部室にはいると、雪ノ下が昨日と同じ場所で本を読んでいた。・・・変えるってのは、どこいったんだ?

 

「こんにちは。もう来ないかと思ったわ。

 もしかして、マゾヒスト? それともストーカー?」

「いや? きたくはなかったし、来ないつもりだったんだけど教室前で平塚先生に待ち伏せされてて、拳で脅されたから来ざるを得なかっただけなんだが?」

「・・・・・・・・・」

 

 微妙な沈黙。昨日ほど重くはないけど軽くはない。ーーなんでこの人たちって互いの言葉と相克しあっちゃうような言動を交互に繰り返すの・・・マジで時折つらくなりそうかも・・・。

 

「つか、なんで俺がお前に好意を抱いてること前提で話が進んでんの? ・・・まさかとは思うけど、言葉責めしたら惚れられた経験でもあるのかよ・・・って、嘘ですごめんなさい、冗談だったんです。そこまで怒ると思ってなくてーーうん、本当にすまん」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ブリザードどころじゃない冷気の視線攻撃に俺は白旗を全力で振って降参。勝てない戦いは挑まないのが学生の基本です。

 

 えーと、なにかしら話題を転換するための話題を・・・・・・

 

「お前さ、友達いんの?」

「そうね、まずどこからどこまでが友達なのか定義してもらって構わないかしら?」

「あ、もういいわ。そのセリフは友達いない奴のセリフだわー。

 つか、友達をカテゴライズして判別している時点で考え方がおかしいわー」

 

 ソースは『偽物語』の阿良々木月火ちゃん。妹つながりで好きなキャラだから覚えてる。原典では「友達をカウントしている時点で考え方がおかしいよね?」だったけど、現代風に翻訳されるのはFateでは定番なんだし大目に見てもらいたい。

 

「・・・・・・・・・(ムスッ)」

「お前、人に好かれそうな癖に友達いないとか、どう言うことだよ」

「・・・あなたにはわからないわよ、きっと」

 

 心なしか頬を膨らませて、そっぽを向く雪ノ下。

 ・・・そして始まる彼女の黒歴史開陳劇場。まさか出会った次の日に過去の思い出話をーーそれも一番暗そうな黒歴史について語り出すとは想像もしてなかったわ・・・。

 

 なに? こいつもしかしなくても精神的な露出狂かなんかなの?

 ・・・マジ引くわー・・・。

 

「・・・でも、仕方ないと思うわ。人は皆、完璧ではないから。

 弱くて醜くて、すぐに嫉妬して蹴落とそうとする。不思議なことに優秀な人間ほど生き辛いのよ、この世界は。そんなのおかしいじゃない。

 だから変えるのよ、人ごと、この世界を」

 

 雪ノ下の目は明らかに本気の目で、ドライアイスみたいに冷たさのあまり火傷しそうだったが、逆にその熱さで思い出した人物の話があった。

 

「雪ノ下・・・お前もしかして、それって・・・・・・」

「ーーーなに?」

「ヒトラーのパクリなんじゃねぇの?」

 

 民衆はバカだから難しいこと言っても理解できねぇだろ、とか、優秀な人間が支配する世の中が正しいとか、言ってることがあんま変わってない気がしたのは俺だけなのか?

 

 仮に、将来政治家になれそうなハイスペック性能の持ち主がヒトラーの後継者思想を持っていたとして、そいつと友達になったりした場合にはーーーうん、無理だわ。これはない。仮定でしかないとは言え、いくら何でも前提条件を悪く設定しすぎてしまった。反省しておこう。

 

 

 トントン。

 

 

 ・・・ん? ノックの音ってことは平塚先生以外のお客さんか? 誰だよ、こんな部室名も書かれてない空き教室の中で訳わからん会話を交わしあってる男女コンビのいる部屋なんかに、入室許可を求めてまで入りたがるアホの奴は。

 

 

「どうぞ?」

 

 ガララ。

 

「し、失礼しまーす」

 

 雪ノ下から許可を得て、扉を静かに開けながら入ってきたのは、短めのスカートにボタンが三つほど開けられたブラウス、ネックレスを光らせて覗かせている胸元は結構デカい。ハートのチャームに、明るめの脱色された髪など校則違反のオンパレードな出で立ちをした派手めな少女だった。

 

「平塚先生に言われて来たんですけど・・・な!? なんでヒッキーがここにいんの!?」

 

 そして何故だか俺と目があった途端に悲鳴を上げる、と。・・・なんでだよ。失礼すぎるじゃねぇか。

 

「・・・いや、俺も平塚先生に強制連行されて昨日からここに来させられてんだけど・・・聞かされてないのか? 平塚先生から俺のこと、何にも?」

「え? う、うん。ヒッキーがここにいるなんて今はじめて知ったよ?」

「・・・・・・マジで何やってんだ、あの人は・・・」

 

 説明責任ぐらいは果たしてください、つーか昨日の今日で来た人間に何故それぞれ言っておかない? 管理者だけ知ってる情報に意味なんてないんだけどなー。

 つくづくヒトラー思想の独裁者タイプが多い部活動だと思う。あと、ヒッキーって俺のことなんだ・・・。こいつが誰か俺のほうが分かってないみたいだから聞き辛いなぁー。

 

「2年F組、由比ヶ浜結衣さんよね。とにかく座って」

「あ、あたしのこと知ってるんだ」

 

 彼女は戸惑った様子ながらも、勧められるまま椅子にちょこんと座る。・・・へー、こいつの名前って由比ヶ浜結衣って言うんだ。はじめて知ったわー。

 

「お前よく知ってるなぁ・・・。全校生徒の名前覚えてるんじゃねぇの?」

「そんなことないわ。あなたのことなんて知らなかったもの」

「そうですか・・・」

「気にすることないわ。あなたの存在から目を逸らしたくなってしまう、私の心の弱さが悪いのよ」

「お前それ慰めてーーーあれ? ちょっとまて。今なんか引っかかるような記憶が・・・」

 

 確か昨日この場所で似たような言葉を聞いたような気がするーーーって、あ。

 

 

「お前・・・昨日俺に向かって逃げることは悪いことだみたいなこと言ってなかったっけ? たしか、逃げてたんじゃ『悩みは解決しない』とか『誰も救われない』がどうとか・・・」

「・・・・・・(キッ!!)」

「ひっ!?」

 

 おーい、雪ノ下さーん? 由比ヶ浜が怯えてる怯えてる。新人さんの前ではもっと余所行きの顔出してー。

 

「な、なんか、怖そうな部活だ、ね・・・?」

「そうだな。俺もそう思うわ」

 

 うん、本心から心の底から。

 

「あ、いやなんていうかすごく自然なこと言ってるなって思っただけだからっ! ほら、そのー、ヒッキーもクラスにいるときと全然違うし。ちゃんと喋るんだなーとか思って」

「いや、喋るよそりゃ・・・人間なんだし。クラスで喋らないのは、話しかけたり、話しかけられたりするほど親しい友人が一人もいないボッチだからってだけが理由だし」

「すごく寂しい理由だ!?」

「ひねくれボッチ先生と呼んでくれ」

「そしてなぜかスゴく誇らしげで偉そうだ!? なんで!?」

 

 そりゃ、お前。ボッチであることに誇りを抱いてるからだろ、普通に考えるなら。

 

「そんなんだから、ヒッキー、クラスに友達できないんじゃないの? キョドり方、キモいし」

「いや、キョドってる仕草は誰でもキモいだろ普通なら。どんなだよ、爽やかで清々しいキョドり方って。言語表現おかしくなってんじゃねぇか、このビッチ」

「はあ? ビッチって何だしっ! あたしはまだ処ーーう、うわわ! なんでもないっ!」

「別に恥ずかしいことではないでしょう。この年でまだヴァージーーーー」

「わーわーわー! ちょっと何言っちゃってんの!? 高二でまだとか恥ずかしいよ! 雪ノ下さん、女子力足んないんじゃないの!?」

「・・・・・・・・・・・・くだらない価値観ね」

 

 おお、なんか知らんが雪ノ下の冷たさがぐっと増した。

 ・・・・・・ようするに、コイツも“まだ”ってことなのか・・・。学園を代表する美少女なのになぁー。さすがは小学生のときに上履きを五回も犬に隠された過去を持つ女。

 犬には好かれても、下心なしの男には好かれたこと無いってあれ? なんかあらためて考えてみたらものすごい可愛そうな女の子に見えて来ちゃったのは気のせいだよな?

 

「にしても、女子力云々以前にビッチとか言われたくないんだったら、その制服どうにかしろよ。服装と体型からして完全にエロ担当キャラみたいになっちまってるから」

「う。・・・あ、明日から気をつけま・・・す・・・?」

 

 うん、これ絶対明日からも気をつけないパターンだわ。俺には分かる。ソースは俺と小町。

 

「どうでもいいから、とにかく用件を言え用件を。考えてみたら、お前が入ってきてから一歩も話が前に進んでなかったからな。用件を言い終わるまでは茶々入れないでやるから早くしてくれ。俺はもう既に帰りたくて仕方がなくなってるぞ」

「あ・・・、ありがと・・・ってあれ!? 今最後になんか余計な一言付け加えてなかった!?」

 

 付け加えたな。だが俺は、お前が用件を言い終えるまでは茶々を入れないから沈黙を貫く。男に二言はない。ぼっちに二言はある。つまりは使い分けるのがひねくれ者としては正しいってことで。

 

「・・・あのさ、平塚先生から聞いたんだけど、ここって生徒のお願いを叶えてくれるんだよね?」

「少し違うかしら。あくまで奉仕部は手助けをするだけ。願いが叶うかどうかはあなた次第」

「どう違うの?」

 

 怪訝な表情で由比ヶ浜が問う。

 ・・・あー、そういえば俺も昨日にたようなことを質問して答えを得ていたような気が・・・なんて言ってたんだっけ? 確かあれはえっと・・・・・・。

 

「ーーー由比ヶ浜、俺が昨日聞かされた話によると、この部の活動内容はな?

 『持つ者が持たざる者に慈悲の心を持って、これを与える。人はそれをボランティアと言う。困っている人に救いの手を差し伸べる』・・・それがこの部の活動なんだそうだ」

「・・・難しくってよく分かんないんだけど・・・」

「んじゃ、コイツが最後に言ってた言葉の終わりだけ聞くか?

 『ようこそ、奉仕部へ。歓迎するわ。頼まれた以上、責任は果たすわ。あなたの問題を矯正してあげる。感謝なさい』ーーーだったぞ、確か昨日の俺が入部したときの活動内容説明によるとだけど」

「なちす・どいつ!? あどるふ・ひっとらー!?」

「違うわよ!」

 

 どう違うのか、誰か俺と由比ヶ浜に説明してくれー。

 入部二日目になった今でも謎のままなんだからさ・・・・・・。

 

つづく


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