ただし参考にしたのがTV版の『Hellsing』ですので、そーいうのと組み合わせイヤな方はご遠慮した方がいいかもしれません。
元ネタ的に判定基準が分かりづらくて……不快なだけの内容になってた場合は、ホント申し訳ございません……あと原作者様には本気で謝罪(マジで土下座です)
尚、タイトルの綴り間違ってたときはごめんなさい。PCの不調で確認できず…
その国は、平和で安全で綺麗な国だと言われている。
その国の国民は、規範意識が高くて温厚だ、と。
その法治国家の首都には危険などなく、社会を乱す者など存在していない。
存在することを許されないからだ。存在していた、という事実が存在することすら許しがたい汚らわしい大逆の罪。
そのような存在を、この世界のこの国では、決して認めることがない。認めることは決して出来ない。
その存在を、消して、消して、消して、消しまくって。
殺して、殺して、殺して、殺しまくって、殺しまくった事実を消しまくる。
そうやって、この『キレーな国』の平和と安全は守られている。
そうやって、この国で暮らす人々は、真っ赤に染まった血塗れのキレイな手で、日々の平和で安全で、血によって守られ維持されている殺戮の幻想を与えてもらいながら日々を生きている。
・・・・・・という事に、“この世界”にある“ゲンダイニホンという名の国”では、なっているらしい。
「――要するに、ガキ向けの教訓話が事実だと信じさせてもらえりゃ、文句いう気が失せる連中ってことなのか?
・・・・・・キレーごとが現実だと信じんのが好きな奴らの国って風にも見えねぇが。つくづく妙な世界なこった」
そんな国の首都に、『平和の象徴』として電波塔に代わって新設された機械塔の上に。
今、一人の少年が立って街を見下ろしていた。
両手をポケットに突っ込んだ姿で、学生が着るようなブレザーを着崩して羽織り、だが胸元にも襟元にも所属を示す校章はなにもなく。
よく見れば、現代日本で使われている全ての学校のブレザーと、どこかしら違っている印象の作りを持つ、どこか特殊な仕立ての奇妙な制服。
そんな服をまとった姿の少年は、自分が今いる世界にある国の一つで最も高い塔の上から、この国の首都の光景を見下ろしていた。
その塔は、“数ヶ月後に落成する予定”の、この国で最も『高い数字』を与えられた建造物。数字で一番上になれるものが好きな国で、一番高い数字になれる場所。
・・・・・・通りの死角で、この国の学校機関「チューガッコウ」の生徒が独り言を呟きながら、猫を切り刻んで殺している。
気流操作で声を拾うと、教室内で「クラスの規範に合わせない行動」を理由にイジメに遭って無視されているらしい。ストレス発散で動物虐待が常態化したようだ。
・・・・・・今、緑色のスーツを纏った男がビルの屋上から飛び降りた。
規範通りの対応を求められ続けた結果なのか、目の下にはクマが刻まれ、顔色は悪く、見たところ糖尿病と胃潰瘍を煩っていたようでもある。
・・・・・・落下先の道路を通勤中だった女性社員が歩いていて、頭上から落ちてきた男に潰され、2つの死体に変化した。
周囲からは悲鳴と怒号と、他者を巻き込んだ男への罵声が飛び交っている。
そんな人々の外側を、「ケータイデンワ」とやらで撮影し、インターネットやらいう情報伝達手段に挙げている住人達が取り囲むように包囲している。
「―――今日も特に何もなし。やることもなし、か。・・・・・・ダリぃ」
見下ろしていた少年は、いつも通り見終わった光景を、いつも通り意欲を奪われ、退屈で平凡で平和な、いつも通りの町の朝の始まりを確認して、鬱陶しそうに溜息を吐く。
いつも通り、事件とされるような出来事はなにも起きず、この街では日常的によく見る事が今朝も幾つか起きている程度のものだった。
昼頃には僅かな範囲で、しばらくの間は話題になり、いつも通り大多数の者から忘れ去られて思い出すことは二度とない。
その程度の些事しか起きない、平和な日常風景そのものとしか言いようもない、『この国の首都では普通』のこと。
こうして少年に『索敵』を依頼した者達が、隠蔽のため動く必要性も意欲さえも沸くことがなさそうな、全く大したことのない、よくある平凡な“いつも通りな日常風景”が広がっているのみ―――
「・・・・・・あぁ?」
だが、そんな風景の一部に、少年の目を眇めさせる異分子が「綺麗じゃないモノ」が混じっていた。
窓ガラスが多い6階層以上の、そこそこ高い建築物。その建物に、この国の原住民族と別大陸の原住民族との混成集団が異なる所属を示す制服をまとって、数台の車両に別れて同じ目的地へ至るためのルートを通って終結しようとしている。
それ自体は別段、なんの問題もない。
よくは知らないが、索敵を依頼してきた連中が摘発のため敢えて泳がし、大本へ至らせるための『釣り』に利用したがっていると、来る前に知らされている。だから、その出来事そのものに問題はない。
――だが彼が気になったのは、現時刻の方だった。
聞かされていた話より、割と早い。だいたい3時間24分17秒前ぐらいだろう。
「・・・情報が漏れて、慌ててブツ持ち出す準備してんのか、端から陽動の囮で踊らされたイケニエ共だからか、身内に潜んでた裏切り者がギリギリで退避命令でも出したのか――。
まっ、俺に教えてやる義理も必要もなかったってだけかもしれねぇが・・・・・・どーでもいい事か」
そう割り切り、とりあえず報告だけはしておくのを「役目」と思い、彼は片手を軽く払ってから身を翻し―――跡形もなく姿を消す。
最初から誰もいなかったかのように。誰も何事も見ている事などしてなかったように。
綺麗サッパリ、何事もなく、何者が存在していた事実もなかった事にして、彼は消えてなくなっていた。
「索敵」の依頼者たちが本部をおくビルの一室でまつ報告係用のコンピューターに、報告を文章として片手で送り終えた後の状態で。
その数時間後、彼が見ていたビルの一室では銃撃戦が発生し、一つの任務失敗が依頼人たちの手によって確認され。
彼が送った報告を「報告する義務」を敢えて怠った職員が失踪し、その直属の部下だった『リコリス』が消えてなくなり、「事故死」「病死」として「無かったこと」になり。
この国の綺麗さを守る者達の手は、仲間の血で穢れることなく、「犯罪者の汚い血」をどれほど流そうと「味方殺し」の汚い行為は犯していない、『綺麗な手』の組織は綺麗さを保ったまま、この事件を終わらせることになるのだが―――それは今は、数時間後の未来の話である。
・・・・・・あるいは。
この世界は、そんな自分の内側で生きる人達に、人々が思うよりずっと―――怒っていたのかもしれない。
大きな町が動き出す前の、朝の静けさが彼女は好きだった。
平和で安全、綺麗な東京の町。平和は自分たち日本人の気質によって成り立っている。
そう思えることが一番の幸せであり、平和で安全で健全な、元気な町に生きる元気な自分を実感できる朝を迎えられた時間が、彼女は決して嫌いじゃない。
―――それがたとえ、欺瞞でしかない幻想だとしても。
それでも彼女は、それが「事実だ」と信じられる時間が嫌いではない。
『チサト、悪いが時間がなくなった。急いで現場に急行してくれ』
「え~? これでも結構急いでるんですけどー。もうちょっとでコーヒー落ちるところで、諦めて部屋出てきたぐらい急いでるのに~」
『トラブル発生の現場で、危険度が上昇だ。――このままだと、ちと厄介なことになるかもしれん・・・・・・』
もっとも、今の彼女が人気のない時間帯の住宅地を改造スクーターで疾走していたのは、別に清々しい朝の空気を満喫したいから、という凡人じみた動機によるものではなかったが。
単純に、仕事である。急な仕事のオファーが入ったから仕事場に急いでいる、それだけの平々凡々なサラリーマンかOLか、はたまた公務員か特殊公務員の日常業務の一環として、彼女はただ急いでいるだけでしかない。特別なところは何もない。
とはいえ、彼女の公的な身分が企業で働くOLでも、国家に属する役人でもない、というのも事実であったが。
『DAが情報を得ようと、犯人を生け捕りにするため援軍の到着を待つよう命じてはいるんだが・・・・・・仲間を人質に取られた隊員の一人が、そうとう頭にキちまっている。相手が売るつもりだった重火器を奪って、今にも発射しそうな勢いだなアレは。命令を待つタマじゃなさそうだ』
「うっひゃー☆ 派ッ手~♪ ・・・・・・で?
その子の隊には、“アレ”の危険性は教えてあるの?」
『・・・・・・・・・ない、そうだ。“現場に余計な混乱をもたらし士気を乱さぬため”だそうだ』
「――チッ、文民統制に拘りすぎるのも限度ってもんがあるでしょうに・・・っ!」
片手に持ったまま走り続けていた携帯から聞こえてくる、落ち着いた男の声音が苦味を増したものへと変化させて教えられた情報に、彼女は知らず唇を噛みしめて舌を打つ。
政府はまだ、半年ほど前から発生が確認されるようになった現象に、明確な対処方針を決めることが出来ていない。
マスコミ攻勢からグダグダ理屈で話そらして、自分の言いたいことだけ言いたがる厚化粧ババァの口先総理に、もともと本当の意味での危機対処能力などあるはずがなかったのだから当然の結果だったが、いざ危機的状況になってからそれだと現場は本気でイラ立たされて仕方がない。
『とにかく急いでくれ。まだ本部が押さえているが、お互いいつまで我慢できるか分からん。DAの嬢ちゃんが先に撃つか、犯人側が人質の頭を撃とうとして撃ち殺されるのが先か・・・・・・一刻を争うかもしれん』
「了――解ッ!! いま現場到着! すぐ行くッ!!」
乗ってきたスクーターから飛び降りて、勝手に走って行った先で壁にぶつかって停止するままで放置して、彼女は階段に飛び込んで二段飛ばしで現場となっている階へと全力疾走で走り出す。
6階という、ショートカットしようのない高さが今はヒドく疎ましい。
これが上下逆だったなら、危険を承知の手段で一気に短縮するのだが、流石の彼女も下から上へと昇るのを速める手段は、足で走って速度を上げるぐらいしか持ち合わせがない。
――あるいは、鞄から出して構えた道具で、こめかみを貫通させたなら、6階ぐらい一瞬にしてショートカットできるかもしれないが・・・・・・物質を持って行けない近道は、現状では無駄足になるだけ。仕方がなかった。
「まったく、もう! 何で! いつから!! こんなことになっちゃってんだか・・・・・・ッ」
間に合え!と念じながら、色素の薄い短い髪の少女は失踪する。
間に合え、間に合え、と。間に合え―――ッ!!!・・・と。
―――どうして、こんな事になってしまったのだろう・・・?
何故? いつから? こんな事になってしまったのか―――
「オラぁッ! 聞いてんのかッ!? こんなにやりやがって、クソアマ共が・・・!! 一匹残らずブッ殺してやる!!」
近くの場所から怒鳴り声が響いてくる。
拳銃を手にもち、足下に組み敷いているボロボロになった少女の後頭部に銃口を押しつけながら、額と頬に青筋を浮かべた銀髪の白人。
その横には、同じく外国人と思しき男がサブマシンガンの銃口を、白人の男が見ているのと同じ方向に向けている。
・・・・・・その二人以外には誰もいない。他には誰も生きていない。
みんな殺されてしまった。今もまだ、生きているのは二人だけ。
“今は”まだ生きている“仲間”は二人だけしか残っていない・・・・・・
「10秒だ! 10秒だけやる! そっから出てこい! でなけりゃコイツ、ぶっ殺すぞッ!?」
高価そうな金のネックレスを首に巻いた白人が、少女の頭をどやしつけながら、突然襲いかかってきて仲間たちを殺しまくった東洋人の少女たちを脅迫している声が空しく響いてエコーがかかる。
自分たち密売組織のボスが白人だった。ボス――と言っても、彼が会うのは今日が初めてだった。
ボスだけではない。部屋の至るところで死んで転がっている、血塗れの姿で二度と動かなくなった死体は全て彼の仲間で、会うのが初めてばかりの者達だった。
(お、俺は、なんで・・・こんな・・・! こんな・・・・・・ッ!! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくない! 死にたくないよぉ! 父さん!母さん!助けてよォッ!
死にたくない死にたくない死ぬのは嫌だ怖い怖い怖い怖い・・・・・・ッ)
拳銃片手に怒鳴り声を上げ続けるボスが怖くて声には出せぬまま、彼はガタガタ震える両手で銃口だけを同じ方向に向けながら、ただただ故郷で帰りを待つ家族のことだけ考え続け、家族と二度と会えなくなる近い未来への恐怖に怯え続けている。怯える心にボスの言葉など届くことはない。
彼が今いる組織に入ったのは、数ヶ月ほど前からのことだった。それなりに仕事をした回数も増え、一応は仲間の一員と認められるようになって、『輸送係』としてだけは名前を覚えてもらえるようになってきた。それだけの青年。
もともと彼は、南方の島国で農家を営む一家の息子として生きてきただけの子供だった。
犯罪組織になど興味はなく、泥と土にまみれて畑を耕して狭い世界だけで一生を終える。それだけの人生だが、それも悪いことじゃないと自分では思っていた、平凡な青年。
だが―――そんな彼の生活を、ある日壊そうという者達が訪ねてきた。
ニホン人だった。
自分たちの家がある一帯を、畑ごと買い取りたいというのが、その目的だった。
別に安値で買いたたかれた訳ではなかった。相応の金額は示されたし、話に乗ろうという人もいたが、自分たちは断った。
先祖代々、農家しかしてこなかった自分たち一家には、畑作りでしか生きていける手段がなく、一時だけ大金を得ても畑を失ったら生きていけなくなるしかない。そう思ったから断ったのだ。
だが、ニホン人達は、それを許さなかった。
後で知ったことだが、今のニホンはとても平和で安全な国になっているらしい。
犯罪が全く起きなくなり、治安の良さで世界一に何度も輝いている、そんな国。
そんな平和な国になって、人に人が殺されることがなくなっている国ならば当然、人口は増え続けて、食料は今までより大量に必要になり続けるしかない。
平和になっても、人は食べなければ生きていけない。死んでしまう。科学技術で収穫量を増やすには限界がある。
だからニホンは、畑を欲しがった。
増えて死ぬことが少なくなった日本人が住む場所は限られている。
平和な自分たちの国が作った技術で、たくさんの食べ物を作り出すための畑を、自分たちの国以外の外国に求めなければ、土地が足りない。畑が欲しい。だから買収した。
金額は正当な額だった。だが断ることは許さなかった。
何組かの農家は抵抗したが、安い農薬を売ってくれる業者を押さえられたら、自分たちには何も出来ない。
泣く泣く売るしかなかった畑の契約書にサインして金をもらったが、すぐに底を尽きた。畑作りしかしたことのない彼らの生活は、金を使うことに慣れなどない。
売った畑で安くてもいいから働かせて欲しいと頼んだが断られた。自分たちの国で最新技術を学んだ人達がくるから、古いやり方しか知らない自分たちは必要ないと。
やがて兄は、夜中にコッソリと自分の家のものだった畑に忍び込んで、食べ物を盗みに行こうと誘われた。盗みは悪いことだったが、自分たちは飢えていた。他にどうしようもないと思った。
そして兄は、撃ち殺された。
マシンガンで武装した外国人の警備員たちが、自分たちの売った畑を含めた村一帯を守っていて、自分は見つからないよう必死で逃げることしか出来なかった。
夜の闇の中、少しだけ見えた自分の畑は、しばらく見ない間にまったく違う場所に見えるくらい変わっていた姿で、もうどこからどこまでが自分の家だったのか、今の自分に見分けることは出来なくされてしまっていた。
やがて彼は、密売組織の下っ端となって働き始めることになる。
それしか給料を得られる手段が彼にはなかったのだ。他に道を選べる学力は彼の一家にはない。
とは言え、たかが下っ端。たかが輸送係の新入り。大して悪いことになんて関わるようになるのはずっと先。そう思っていたし、そうなる予定のはずでもあったのだ。
だが予定が変わった。
因縁の国ニホンで、大きな取引があり、1000丁以上の品物を運ぶらしく人手が必要になったと言われた。
その予定さえ、急に変わったらしい。急いで運ぶため人を選んでいる余裕が完全になくなって、船で待機していた自分まで狩り出され――――そして、こうなってしまった今がある。
「9・・・8・・・7・・・・・・6ッ!!」
「――リーダー! 私に構わず撃って! このままじゃ――ブッ!?」
「うるっせェなテメェは!? 黙ってろよ! 死にてェのかこのメス豚糞ガキ糞糞糞がァァッ!!!」
「がっ!? ばッ!? ぶェッ!?」
ゴスッ! ゴスッ! ゴスッ!!
興奮しているボスが、人質の少女の金切り声を間近で聞かされて、張り詰めていた神経が切れたように銃床で彼女の顔を殴りつけ始める。
その勢いも音も、人質を殺さないよう手加減しているようには全く聞こえない重いもので、完全にボスが“キレ”てしまっていることを彼と護衛の男はハッキリと自覚し、慄然とさせられる。
ここまでヤってしまった自分たちは、助からない。絶対に助からない。
もうすぐ自分たちは死ぬ。殺される。残り時間は多くない。
死んでしまえば全部終わりで、全員終わりで、後が長くても先が短くても、『終わってしまった後』になったら全部同じで違いなんか何の意味も価値もまったくなくなる。0になる。
それが『死』だと受け入れてしまえば楽になる。
それが出来ないから、怖くて怖くて仕方がない―――・・・・・・ッッ!!!!
その時だった。
ガチャン―――と。
視線をそらしていた、遮蔽物のある曇りガラス窓の向こう側から重たいものを持ち上げて、何かを引くような音が聞こえた気がして顔を向け直して、そして――――
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!!!
すさまじい音が連続するのが、最初の数瞬だけ聞こえて。
やがて・・・・・・小さくなっていく。
――あれ? なにがあ――?
俺の手――家族――赤――血―――シャン、ティ―――
一瞬にしてバラバラに弾け飛ばされて、手が胴体から離れて飛んでいき、足が外れて砕けて、歯がどっかに歯茎ごと飛び散った。脳味噌が液体混じりで変な生き物みたいに床にブチまけられて水たまりになる。
壁ごとブチ抜いて相手を殺せすための攻撃をブチ込みまくって、撃ちまくったのだから当然の結果だった。
肉体など、まともな形で残るわけがない。
バラバラのグチャグチャで、ミンチになった人間だったナニカの死体の欠片たちがそこいら中に飛び散った状態になった中を、自分たちを殺戮した少女達が人質の元まで走り寄っていく姿を、彼は当然見れていない。
彼はただ、“聞いていただけ”だ。
聞かされていたのである。
もう何も聞こえなくなったはずの自分の耳に、脳味噌に、精神に、心に。
囁くように語りかけてくるナニカの声を。
――憎いか?
と問う声を。彼は確かに聞けていた。
――自分を殺した者達が憎いか?
自分たちが平和で安全に生きられるため、誰をどれだけ殺しても構わない奴らに殺されたことが恨めしいか?
どうでもいい、と彼は思いで答えた。
どーせ自分は死ぬ。
死んだら終わりで、殺した奴が死んでも生きても、死んだ奴には全く何の関係もない。関係できない。
ならどーでもいい、と。
――確かに。もうじきお前は死ぬ。いや、もう死んでいる。
その運命は決して変わらず、今更この世界の誰に何をしたところで、この世界から永遠に消え去った後のお前には何の関係もなく意味もない。
生者が生きようと死のうと、死んだ者には何の価値なく無意味な生。無価値な死。
その通りだ、と彼は思った。
死んだら全て無になり、闇となる。
全部消えてなくなって、生きてた世界と永遠に無関係。
関係ない場所で誰がどうなろうと―――世界そのものごと、どーでもいい。
無関係で無意味。気にするだけ無駄。
――では。
―――では、お前は――――なにを望む?
・・・・・・なにを・・・・・・?
―――お前は死んだ。もう生き返れぬ。生まれ変わりもない。
死ねば全て骸になり、骸はいずれ消えるだけ。
自分の存在が否定され、自分の生存を拒否され、自分が永遠に関わり合えなくなった無関係で無意味で無価値になった世界に―――お前がナニカ願うことがあるのなら。
―――××は、その願いを叶えよう。
生き返ることは出来ず、生まれ変わることも出来ず、無関係になった世界になにをしようと起きようと。
今のお前に、なんの意味なく価値なく、知ることすら出来なくなって消えていく場所でしかない世界に―――もし願うことが、一つだけでも残っているとするならば。
―――××は、その願いを叶えよう。
死こそが、永遠の自由であり、完全なる自由をこそ我は尊び、我が自由を尊ぶ者の願いを我は尊しと念うが故に―――
「――お前ッ! エリカを殺す気か!? なんで命令を待たなかった!」
「・・・・・・・・・」
銃声がやんで、“しゃがんでない限り”は、死体ばかりしか残らなくなっていた密売組織の生き残りが人質を取って立てこもっていた室内に、少女の押さえたような怒声が響き渡る。
「・・・・・・・・・」
その怒声に、声をかけられた少女の反応は、いっそ優雅と言っていいもの。
長く美しい黒髪をなびかせながら、見せつけるように首をかしげて見せながら。
ただ一言。
「―――生きてますよね?」
「!! ・・・・・・~~~ッ!!!」
挑発的に放った、その“事実”を告げる言葉が、最初に叱責を放った少女の理性を吹き飛ばす。
ズカズカと歩み寄り、拳を握って体を半身後ろに引いて、充分にバネをきかせた重さを乗せた一撃を振りかざし。
正面から堂々と制裁を加えてやるため、迫ってこようとする先輩の仕草を見つめながら相手の少女は―――瞳を大きく見開いて、驚いたみたいに口を開ける。
そして、目の前の少女の小生意気な顔の顔面に一発かましてやるため近づいて、
「伏せてッ!!」
「ああッ!? 言い訳なんざ知るk」
「――邪魔ッ!!」
「んなッ!? テメ―――ぐほッ!?」
薙ぎ払うような勢いで片手を振って、接近中に体をひねったばかりだった相手の脇腹に横から思い切り叩きつける形になってしまったことで、射線の前から退かすことができた黒髪の少女は、躊躇いなく引き金を引いて再び弾丸の雨をまき散らす!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!
再び響き渡る、轟音と弾丸の暴雨風。
だが、少女の顔に先ほどの発砲時にあった余裕や無表情は、今や欠片も残っていない。
追い詰められて、恐怖に怯える者と同じ色の表情を、このときの彼女の顔から見て取ることは、果たして“ソレ”は出来たろうか?
「あ・・・ぐ・・・・・・て、テメ・・・なんてことしやが――――な、んなァァッ!?」
うめき声と共に、吹き飛ばされたことで“命の危機を救われた”少女が、脇腹を押さえながら立ち上がり、怒りの声を上げようとして驚愕させられる。
自分が今さっきまで立っていた場所に、あるはずがないものを見つけ、拳を叩き込むため体をひねっていたところへ銃身を叩きつけられて、ヒビが入っていた脇腹の痛みすら忘れるしかないほどの負傷原因を。彼女たちは初めて見ることになったのだ。
『グ・・・あ・・・・・・aa、ア・・・・・・。
ああaaアアアアアuVyaァァァァァァァァッッ!!!!』
獣のような咆哮が、フロア中に響き渡る。
いや、あるいは本当に獣かもしれない。
全身が毛で覆われ、目玉は赤く染まって角がある。筋肉が異常な量まで発達しすぎて、吐き気をもよおすほどの気色悪さを持つに至った紫色の肌を持った存在が、人間にカテゴライズされる生物であるわけがないのだから、獣という表現は至って正しい。
だがでは、この獣はいったい何の獣なんか?と問われれば、答えなど彼女たちは知らない。分からない。少女達は始末屋係の構成員であっても動物学者じゃない。
そんな彼女たちでも分かることがあるとすれば―――この生き物は、動物なんかじゃなく『バケモノだ』という一つだけッ!!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!!! ――ガコンッ。
少女が撃ち続けていた、銃の弾が切れる音が彼女の元にも聞こえてくる。
自分が立っていた場所に、背後から迫りつつあったことに全く気がつくことが出来なかったらしい自分の代わりにバケモノが屹立し、そんなバケモノめがけて銃弾をあらん限り撃ちまくってやっていた黒髪の少女の姿が視界に写る。
その顔に―――勝利の笑みではない。
恐怖と困惑の引きつった表情が浮かぶのを見てしまった次の瞬間には。
「な、なんで・・・・・・なんでコイツ、死んでな――――」
『aaアアアアアuVyaァァァァァァァァッッ!!!!』
「ひぃッ!? ひぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああッッ!!??」
彼女もまた悲鳴を上げて、全速力でその場を離れるため痛みを無視して体を前方へと投げ出させる。
ガァァッン!!と背後で破砕音が響き渡る。
――間一髪だった。
バケモノは、その太すぎる筋肉の腕を振るい、黒髪の少女が立っていた空間を薙ぎ払い。
その場所の横にあった、コンクリート製の柱をも裏拳でへし折る力業をやってのけ。
――ビシュッ! ガツッ! ズボッ!!
その裏拳で飛ばした柱の破片が、自分が今までいた場所へと拘束で飛んできて周囲を破壊して回る光景を移動した先で見せつけられてゾッとさせられる。
見た目よりずっと頭がいいバケモノ。
しかも、銃の乱射をドテっ腹にまともに受けて、怪我一つ負ってないらしく、血も涙も一滴だって流していない鋼鉄のような筋肉の塊が、内側から不気味に明滅している存在を前にして。
「な、なんなんだよコイツはァァァッ!? アアっ!? ああッ! アアぁッ!!??」
「!? ま、待って! 撃たないで! 今はまd―――」
「ウワァァァァァァァッ!! うわッ! う、う、うあ! あああああああああああッ!!!」
ズダン!ズダンッ!ズダンッ!! 連続して発砲音が響き渡る!
今回の指揮官役を任されていた目つきの悪い少女が持っていた銃を撃った結果だったが・・・・・・自分の獲物より遙かに大きな銃器を撃ち込まれて効かなかった相手に、銃口も弾薬も小口径の豆鉄砲としか比較できない代物など撃ったところで、なんらの意味などあるわけがない。
普段であれば、彼女はその程度言わずとも自覚して動くことができる頭脳と経験と実績を持ったベテランだった。
だが今この場では、完全に冷静さを失って感情に突き動かされるだけの、哀れな獲物にしか見えない存在へと成り下がっている。
それはバケモノが放つ気配に当てられた者特有の結果であることを、“彼”は当然の知識として知っている程度の常識だったが、彼女と彼女たちは知らなかった。
別に彼とて、彼女たちを見捨てたわけはない。
特に依頼も任務追加も通達がこなかったので、適当に見物していただけのことだ。
死のうが生きようが、死体がどちらの死体だろうが。
言われたことを“引き受けてやっているだけ”の自分には、全く何の関係もない、どっちも赤の他人たち同士の殺し合いの結果だ。
何の問題もないだろうと、普通にデータ取りだけはしていてやっている最中だったのだが。
「へぇ。あの栗みてぇな髪のヤロウは、他のザコよりゃいい動きするみてェだな」
と呟いた瞬間。
ガァァァッン!と。
音を立てて窓ガラスを打ち砕き、外の景色が広がるベランダ側の窓の外から、赤と金色の塊が部屋の中へと飛び込んでいて―――鈍色の光をソイツに向ける。
ダンッ! ダンッ!! ダンッ!!!
飛び込んできて着地すると同時に発砲し、狙う場所は躊躇うことなく頭部のみの一点バースト。
「――え!? あ、あなた一体な・・・そこは」
「腹なんか撃ってもコイツは止まらない! 今ならまだ頭だけ撃てば止められる!!!」
ダンッ! ダン!! ダンダンダンッ!!!
何度も何度もバケモノの頭部に向かってだけ撃ち続ける赤い少女。
見れば確かにバケモノは、あれほどの頑丈さを発揮していたにも関わらず、少女に撃たれ始めた途端に痙攣するかのごとくビクンッ!ビクンッ!と体を小刻みに震わせながら動きそのものが一瞬止まる。
「目標の“変異”を確認! 通常手段での対処は不可能と判断! 目標の変異で作戦内容をBに以降! 目標の変異に合わせて作戦変更!
対処モード、サーチ・アンド・デストロイ! サーチ・アンド・デストロイ!!!」
その震えが止まる前に、次の銃弾を頭部に撃ち込み続けていることを、見続けている中で察した黒髪の少女だったが・・・・・・如何せん。威力と段数が足りない―――ように見える。
バケモノは動きこそ止まったものの、肉体面がそれほど損傷を被っているとは言いがたく、そこに自分の相手と同じようなサイズの口径で加勢しても焼け石に水にしかなりようがない。
「―――あっ!?」
どうすればいいか、と考えて周囲を見渡した直後に目にとまったそれを飛びつくようにして握りしめた黒髪の少女もまた、バケモノの頭部に向かって銃口から連続発射し始める。
ズダダダダダダダダダッ!!!
自分が撃ち殺した密輸組織のボスを守っていた護衛の銃を拝借し、バケモノの顔面向かって撃ち続ける!!
『a、aaa・・・・・・uVyaァァァッ・・・・・・ァァァ、ァァ・・・・・・・』
徐々に相手から鳴き声のようにも、泣き声のようにも聞こえる音が響いてくる。
ソレを聞かされ、赤い色の援軍にきた少女は、余計に不快感をそそられて舌打ちしながら引き金を引き続けるしかない。
「・・・まったく! もう、人間をやめて元に戻れなくなったら、早く、死んでよッ! もう、アンタは人間じゃないんだから・・・! 今ならまだ頭やられたら終われるなら早く終われ! 終われ! 終われッ! 終われってば!!!」
やがて、動きが完全に止まって、震えも痙攣も、叫び声すら聞こえなくなったバケモノの巨体。
その屹立した筋肉の塊は
ザラ―――と。
少しずつ、少しずつ。
空気の中に溶け込むように、黒いシミのようになって消えていく。
分厚い筋肉の肉体も。紫色の肌も。彼女たちの銃撃で少なからず負わされた負傷も、肉片も、血しぶきの後も、すべて。
汚い汚い、真っ黒なシミのように変色していきながら―――やがて綺麗さっぱり、消えてなくなる。
後には何も残らない。そんな物がいたという事実すらも残さずにすむよう消え去って。
後には何も。証拠も。根拠も。論拠も。
当事者たちからの証言だけが全ての判断材料になるしかない、終わった後の処理のことまで用意されてるかのようなバケモノ共の消え去り方。
そんな半年ほど前から現代日本が対処せざるを得ない事態に陥っている、原因不明で謎の現象を初めて目の当たりにさせられた、一般DA隊員の『井ノ上きたの』は。
「・・・・・・まったく・・・どうして、こんな事になっちゃってるのよ・・・・・・私たちは、どうして・・・・・・」
助けに来てくれた赤と金色の少女が、誰にも聞こえない声量で小さく呟かれた、その言葉と内容を。
数日後に、名と姓を知ることになる相方、『錦木千束』から最初の言葉となることを、今の時点で二人はどちらも互いに知らない。知りようがない。
そんな彼女たちの姿を、一連の光景を。
遠くから眺めている人物に、その景色を見せるために。
彼女たちが今いる場所を、空から見られる位置に一機のマシーンが低空飛行で滞空していた。
本来ならば、空であろうと、地下であろうと、『仕事場』に近づくモノは全部察知して全て処理して、必要とあれば無かったことにするし出来るようにしているのが彼女たちの属する組織。
だが今は、エラーが起きて本部ビル内が大あらわ。
現場とも連絡回線を復旧することさえ出来てない程度の状態で、空への監視網まで万全を期せるなら苦労はない。
だからこそ。
「は~ん・・・・・・種族が人間じゃなくなりゃ殺せるが、人間状態のときは殺しが気になるタイプか。妙な趣味のヤロウだな。
モンスターを趣味で殺しまくりたがるほど、変態女にはあんま見えねぇが・・・・・・」
彼が見物する、臨時の場所としては丁度いいので便乗させてもらっていた。
いや、便“降”させてもらったという方が正しいのか? それとも便捕?
この世界のこの国の言語は、複数の状況や状態に適した言い回しや表現が多く設定されていて便利だし、言霊も強い方だが、変なところで適切な言葉が用意されてないことが多々あるのが厄介でもある。
「黒い方が撃つ前に、妙なヤロウが結界に入り込んできて見てやがったし、知り合いかなんかだったのか――報告に入れる必要もねぇゴミ情報ならどーでもいいことだが」
言いながら、動き出したソレに併せて向きを変え、移動し始めるブレザー姿で目つきの悪い少年。
犯行現場をジャミングして、通信回線を“自分以外”は遮断させた状況にした中で飛翔してきた『撮影用ドローン』の、“下に手をかけながら”少年は空を飛んで一緒に移動していく。
上空から落ちたアリは、どれほど高い位置から落下した場合でも地面に落ちて墜落死することは決して無いという比喩話が、この世界の国にはあるのだという。
ならば自分の体重を1グラム以下にまで減少させて、肉体はそのまま維持するだけで、空飛ぶ物体があれば足場なり、ウィークポイントなりには利用可能ということになる。
そうなるなら、やるだけだ。
後はできる能力かスキルか術の使用があるか無いかと、やるために払うリスクの問題だけ。
大した問題でも無い。
少なくとも、“自分にとっては”何の問題にもならない。
その内、この見慣れない『機械式の使い魔』も、海の方にでも移動して落ちてから爆発して、証拠隠滅でも謀ることだろう。
その時に降りればいい。急ぐ必要は何も無い。
「・・・・・・しっかし、あの女・・・・・・この世界にしちゃあ、中途半端に神秘が使われてるヤツだったな。
死んだ死体を電気で動かすなんざ、古代魔術レベルの研究低度なガラクタ骨董品だが、この世界じゃ珍しい。
もっとも、“死ぬ寸前”で止めて無理矢理にでも生かす拷問用の呪いを、医術に使うってのは初めて見るのは事実じゃある。・・・・・・少しは面白みが期待できるヤロウなのかどーなのか・・・」
世界には理不尽が幾らでも満ちている。
コッチの世界でも、アッチの世界でも、掃いて捨てた理不尽が町を歩けばテキトーに見つかるほど有り触れまくって平凡すぎるレベルで大量生産されている。
理不尽な死、理不尽な人生、理不尽な社会や国家や組織や個人。
『命の誕生』でさえ、本人の希望もろくに聞くことなく、生む側の都合だけで勝手に押しつけられて、死ぬ恐怖に怯えながら死ぬまで生きるしかない生活を強制された『理不尽な生命』と言うことだって可能な代物だろう。
そんな理不尽な生に、世界に、自分の人生に絶望し、世界を否定するようになる者は幾らでもいる。
だが、それらの大半は世界や自分に絶望している訳じゃない。
ただ希望を望み求めても与えてくれず、苦しみだけ与えてくるから仕方なく『死』を選んでいるだけ。
普通に生きたいと望んでも許してもらえず、『罪を犯して生きる』か『死ぬ』か、どちらか選べと強要されて、選ぶしかなかったから仕方なく進んでいっただけの者がほとんどなのが世の理不尽。ソレは全ての世界で変われるものでもない。
故に、だからこそ。
本当に『理不尽に世界に絶望した者たち』は、『絶望した世界』に何も望むモノがなく、期待もしない。
望んでも無駄な世界だから絶望し、期待しても無意味な世界だから絶望した世界に、今さら望み求めて期待するほどの価値や意味など、絶望者たちには何一つとして残ってない。
故に彼らは最後に求める。
最期の時間に望み願う者が現れている。
【自己の破滅】を。
【自分が存在する世界の破滅】を。
【自身の存在を否定した世界】を消して。
【自分が存在しなくなっても存在し続ける世界】を消して。
消して、消して、消して。
その世界で生きているのが有害だから消された、自分という存在を消すために。
無かったことにするために。
だからこそ―――この世界に、“ソレ”は招かれた・・・・・・かもしれない。
この世界の多くの人に望まれたから。
この国の多くの者たちから求められたから。
だから来てくれた―――かもしれない。
「たしか―――アイツみてぇのはコッチだと、こー言うんだったか?
一応は期待してるぞ、“フランケンシュタインに捨てられたバケモノ”」
自分を危険として、存在することを許さない存在だと【決めた世界】ごと消してしまえば。
――――【その世界で存在を否定された自分という存在】は。
完全に消えて無くなって、最初から存在してなかったことに出来るのだから