試作品集   作:ひきがやもとまち

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「悪役令嬢レベル99」の二次作版を更新です。
少し前から書き進めてたのが、今さっき完成した次第。

色々な事情で執筆に必要な作業ができにくくなって、遅れやすく申し訳ありません。
また、そのせいで確認漏れが普段より出やすくなってます。気になった時は遠慮なくご指摘をどうぞです。


悪役令嬢レベル99~になっても魔王に勝てるだけで大魔王に歯が立ちません~第5話

 今さら語る必要のない話ではあるが。

 人気の乙女ゲーム『光の魔法と勇者様』が実在するファンタジー異世界となり、もしも悪役令嬢で裏ボスでもあるユミエラが、吸血鬼に浚われて眷属にされた元人間の少女だったという流れを辿っているのが、この世界での歴史である。

 

 この世界における悪役令嬢ユミエラは、自分の力を復讐のため役立てようと修行場を求めて人間界へと舞い戻り、催眠術で実子だと信じ込ませてパラサイトしている両親が貴族だったため、修行場を維持する必要性から学園に入学しただけという、客観的には完全に犯罪者な性格の女の子であり、本人自身に自覚は全くない。

 

 だが・・・・・・王城に呼び出され、王妃様から魔王復活の話を聞かされ、さらには『光の聖女アリシア』から「あなたが魔王なのではないか?」という疑いをかけられるという衝撃的なイベントが立て続けに起こってしまった今―――彼女は、初めて疑問を抱くようになっていた。普通は今更なんだけども。

 

 

(それにしても、アリシアは・・・・・・なぜ、こうも私を警戒するのだろう・・・?

 自惚れる気はないけれど、私は普通の女子生徒たちより穏やかな方だし、誠実でもある。疑われたり恐れられる要素はないはずなのだけど・・・・・・なのに何故? 分からないわ・・・)

 

 相手と同席していたテーブルから去ってから、教室に着くまでの間に頭の中でそんなことガチで考えて小首をかしげて考えてしまってたユミエラさん。

 余談ですが、『自分だけは他と違ってマトモ』と考えるタイプの人は大抵、一番面倒くさいタイプですが、ユミエラさんは「自分がそうだ」とは考えない性格のタイプな人。つまり典型。超典型。

 そんなユミエラさんには、そんな性格のユミエラさんだからこそ、聖女アリシアから自分が警戒された対応をされて、魔王呼ばわりまでされた理由が不思議でなりませんでした。

 

 

 ――自分はただ、いずれ魔王退治に挑むであろう勇者アリシアたちを鍛えてあげるため、毎日行きと帰りにモンスターに襲撃させて、死ぬ危険“だけ”はない激闘でレベルアップに協力しているだけの、個人的な復讐を果たすためだけに力を使う気しかない善良なる復讐鬼ヴァンパイアでしかないはずなのに・・・・・・

 

(たしかに私にとってのアリシアは、“白い霧のような塊の中に緑色の光が目玉のように輝いてるバケモノ”の姿にしか見えない存在。

 だから私が彼女を恐れ、疑うというのは仕方がないとしても・・・・・・彼女の方からは、私はごく普通の人間の娘としか見えていないはず。

 となると、私が闇属性で、彼女が光属性の持ち主であることに、なにか関係があると言うことなのかな・・・?)

 

 そんなことを考えるけど、相手から見た自分がソレである可能性はコレッポッチも思いつかないタイプの人なので、考えるだけ無駄だと思います。

 今の状態を、妥当な評価だと思えない時点で普通はどーかと思いますが、自分のことなので分かりません。それがヴァンパイア令嬢版ユミエラさん普通。

 

 教室について授業を聞き流しながらも沈思黙考し続けて、この問題を十分に考え続けた結果として、出した結論として。

 

「――まぁ、いいか。私には何の後ろめたいところもない綺麗な被害者の身なのですから、恐れる必要性は何もないわけだし。

 彼女がどう思っていようと、それで私の潔白がなにか変わるというわけでもない。放っておくか」

 

 という発想に着地したようです。

 自分のやってることに、まったく悪意も自覚も悪気もなくて、むしろレベル上げ手伝ってあげてる善意の協力者のつもりでいる人の判定基準は、普通の人レベル的には恐るべし。

 

 ご主人様にも『可能な範囲で』他人を巻き込まずに復讐するつもりでいる、人間らしい甘えを捨てきれない倫理観に忸怩たるものを感じてる相手から目をつけられた、勇者アリシアが彼女を恐れるのは妥当な評価なだけの気がする日が、ユミエラさんに訪れるのは魔王復活までの3年だけだと可能性低そう。

 

 

 まぁ、どーせ自分はモンスターに命じてアリシアたちを登校するときと帰宅時に襲わせて、死にそうになった時だけ回復するため近くで隠れ潜んでいるのみのサポート役でしかない女の子だし。

 襲いかかる実行役の魔物でもなければ、襲撃者モンスターとなんの関係もない人間の伯爵令嬢でしかない自分には、疑われて困る要素は微塵もなし。

 どんな動機で自分に疑いの目を向けてきているのかは全く見当もつかないけれど、襲っているモンスターから自分へと至ることは絶対に不可能。

 

 ならば問題なし。気にする必要性も一切なし。今のまま現状維持でオールOK。

 そういう結論に達したユミエラさんは、何事もなかったような足取りで、人間社会的にはホントに何にも問題起きてないことになってる学園の廊下を歩んでいく。

 

 

(そんな細かいことより、明日から襲撃させるモンスターの編成を、少し考え直してみた方がいい時期かもしれませんね。

 あと、魔王がいる場所へと攻め込むときのためにも、トラップ等にも対応できるよう今のうちから慣れておく必要もある頃合いかも・・・・・・。

 穴の底に竹槍を敷き詰めた落とし穴とか、明かりを灯すと燃え移って魔物の死体を強化させる暗がりの照明とか、水没した地下空間で電気トラップとか、罠を囮にした真の罠の更に本命トラップとか色々と・・・・・・ウフフフ・・・・・・)

 

 

 ご主人様に復讐するため、色々な手段やら様々な道具の利用方法やら、相手を弱体化させてから襲いかかる手段なんかを百年以上ずっと考え続けて生きてきた有意義な人生の成果を、他人の成長のために役立てられることに幸福感を感じながら、ユミエラは行く。

 

 ――勇者アリシアたちにとっては、泣きを見せられまくる茨の道を行かせるための計画を考えながら。

 そんな計画を実行されてしまう相手から警戒されるのを「なぜ?」と思えてしまってた時点で、考えるだけ無駄なのが自分なんだと気づいてあげよう。それが一番アリシアの成長的には役立ちそうだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな展開と流れがあった数日後。

 授業が終わった放課後のこと。

 

「学園長、ユミエラ・ドルクネスです。お呼び出しと聞いて伺いました」

 

 トントンと、軽くノックの音を響かせながら礼儀正しく、その部屋の主である王立学園の学園長に来訪を告げていた。

 学園長は入学式の会場で、ユミエラがレベル99と判定されたことに動揺する生徒たちを諫めながらも、内心では自分も疑いを抱いて、ユリウスからの提案により学園からの追放処分に許可を与えてしまった白髪の老魔術師っぽいお爺さんの人物である。

 

 また彼は、王立学園に納品されているレベル測定用の魔道具を、新入生の一年生如きに細工されて間違った数字を出されるようなガラクタ玉じゃないか?と疑いを抱きながらもメーカー側を告訴しようとはせず。

 素人の偽装すら見抜けない欠陥品を売りつけやがったボッタクリ業者として遺憾の意を示すことはなく、納品した分を全部回収させて新品と交換するのを業者側の自腹でやるよう求めることもなく。

 

 ただただ、細工をした新入生の実行犯と思しき女生徒一人だけが悪く、他に罪を負う者はいない、実行した者だけが裁かれるべきだ―――という誠実と言えば誠実な判決の仕方でユミエラさん一人を退学処分にして事を丸く収めようとした責任者でもあった人。

 

『どうぞ。入っておいで』

「はい、失礼いたします」

 

 そんな一面的にはイイ人だったのかもしれない学園長がいるはずの室内から許可が返ってきたので、特に怪しむ理由もないままユミエラさんは扉を開けて中へと入って相手を見て、そして―――

 

「初めまして、ユミエラさん。新しく学園長に就任した、ロナルドだよ」

「・・・・・・え?」

 

 声をかけてきた相手の顔を見上げた瞬間、ユミエラは珍しく驚いた顔をして、本心から驚かされることになる。

 知らない人の顔が、学園長席に座っていたからだ。

 

 まだ若い見た目の青年。

 多く見積もっても30歳そこそこ、若作りだったとしても40歳には到底見えない、穏やかで底の知れない笑顔を浮かべた人当たりの良い金髪の人物。

 やたらと目が細いことと、普段から笑ってる顔が動かないのではと思えるほど定着した微笑みの鉄仮面。

 

 その姿は明らかに今までの学園長とは違うもので、ユミエラの記憶にある白髪の老人学園長の姿はもっと―――もっと―――――

 

 

(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そういえば、どんな人でしたっけ?

 学園長先生の見た目って)

 

 改めて思い出そうとしたら、白髪で白ヒゲの爺さんだったことしか、見た目に関して記憶にない。あと眼鏡。

 それもそのはずの当然で、ユミエラさんが爺さん学園長と出会って会話したのは入学式の一回だけ。あとはニアミスが1,2回あるかないか程度の関係性。

 名前や詳しい人格なんて覚えてるわきゃ全くない、浅すぎる関係しか持ってない人でしたので知らないのも無理はなし。

 

 ・・・・・・ブラックホール使ってるときに、退学言い渡しに来たときのこと?

 あの時は、恨み骨髄のご主人様を殺して、忌まわしい過去とともに地中深くに埋めてなかったことにして、無かったことになる予定の過去についてフラッシュバックしてる最中だったので、ユミエラさんの記憶にはございません。

 

 近い内に、歴史上からも正式に抹消されて、黒く塗りつぶされた存在しなくなり、口に出した者には不幸が訪れる過去ですので、思い出せなくても問題はないでしょう。それが皆のためです忘れましょう。

 

「ご丁寧にどうも。初めまして、ドルクネス家令嬢のユミエラ・ドルクネスです。

 それであの、前の学園長――たしか・・・・・・メガネさんはどうされたのでしょう?」

「退職したよ。君は気にしなくても大丈夫。――あと、メガネさんではなかったけどね? 

 人間で物じゃないから、名前はあったから。そこは覚えておいてあげてね? 流石に可哀想な気がするし」

「わかりました。気にしません。これから宜しくお願いいたします」

「うん、そこは聞いてて気にしない子なんだねぇキミって本当に」

 

 ニコニコにっこり、内心で何を考えているのか解りづらい笑顔の鉄仮面ロナルドさん。

 ・・・まぁ、十中八九あっちの方もユミエラさんに同じような感想抱いてそうな初対面でのファーストインプレッションではありましたが。

 

 退職させられた学園長さんにしても、王宮内でなにか罰則人事とかあったようですけど、魔王復活の前にレベル99伯爵令嬢を退学させようとした学園長にお仕置き退職が強制されちゃったようですが、中央もどきのドルクネス伯爵令嬢レベル99を退学させようとしただけでしたが。

 

 それでもユミエラさんは気にしません。

 新たな出会いを大事に思って、去って行った人を思い出の1ページにしまいこみ、今後の付き合い方について想いを致す、前向きな考え方こそ彼女のモットー。

 

 何故ならユミエラさんは、辛すぎる過去の怨みを晴らすため復讐に生きるヴァンパイア。

 憎むべき怨敵ご主人様以外の相手はあんまし眼中になく、意識することも多くなく、復讐のため役立つかどうかだけが重要な要素という、復讐に長い人生を捧げた鬼の眷属。

 

 復讐が全てで、役立つなら何だっていいし誰でもいい訳ですからね。細かいことには拘らず、恨んでる過去以外の過去にも拘らない。

 自分が気にしてる過去だけが大事で、後はどーでもよし。大したことでも全くなし。

 

 復讐心に染まって全てを捧げた復讐鬼さんは、意外と前向きポジティブシンキングなもの。

 北でも南でも斜め上だろうとも、『前を向かって生きている』なら前向きな人になる。方向に善悪善し悪し、優秀劣等はございませんので。以上。

 

「私は陛下の命を受けて学園に来ているし、魔王復活の件についても把握しているから、この部屋では今後その話題についても安心して話してくれて構わないよ。

 そういう訳だから、現状について少しだけど説明させてもらうね」

 

 そう前置きしてから始まったロナルド新学園長から伝えられた話は2つ。

 1つは、近く行われる『野外演習』について。

 魔王討伐の際に補助的な予備兵力として投入される予定の学園生徒たちのレベルアップ目的で行われる授業で、ユミエラにはサポートに回ってもらい、危なくなったら助けに入り、魔王討伐パーティーに参加できそうな逸材がいたときには報告してほしいというもの。

 

 もう1つは、既に討伐パーティーへの参加が確定しているエドウィン王子たちの関する近況報告だった。

 どうにも最近、精神的に不安定で問題行為が多く見られるようになり、評判を落としているらしいのだ。

 

「エドウィン殿下にも困ったものでね。

 先日も、キミに関する話題が原因で、国家機密である『魔王復活の情報』を、衆目の面前で漏らしそうになってしまうという事件があったほどだ。

 今のように短慮なことをする人ではなかったのだけれど・・・・・・最近は不安定というか。普段は彼を支えてくれていた2人にしても同じ調子でストッパー役として機能しづらいと来ている」

「はぁ、なるほど。大変そうですね」

 

 とアッサリ流してケンモホロロ。深入りする気も興味事態も一切ないこと丸わかりな態度と反応の仕方でバッサリです。短く答えて紅茶をズルル~。

 実際ユミエラさんには興味の全くない問題ですからね。エドウィンたち魔王討伐パーティメンバーの精神状態がどーこーなんて、大した問題ではまったくなし。

 

 なにしろ彼女的には、エドウィン殿下たちの精神が不安定になってるらしい現状では。

 ・・・・・・特にやること変わらず、魔物けしかけ続けて強制的にレベルアップさせる方針には全く変更させる気0以下の人でしたから。

 

 嫌でもなんでも、憎まれても嫉まれても、役立ちそうな人材には最終的に必ず、自分の個人的復讐のための修行場王国を守ってもらうため魔王討伐パーティーに強制参加確定だから、ユミエラさん的には特に何にも変わりなし。

 

 復讐を誓った吸血鬼式パーティー育成は、本人たちには何も知らない事情で過酷である。

 

「まぁ、彼らは幼い頃から飛び抜けて優秀だったからねぇ。

 そんな中で突然に自分たちのプライドを打ち砕くものが現れた、それも女の子がね。

 オマケに最近では、謎のモンスター襲撃の被害に殿下たちだけが遭っているそうじゃないか。

 これだけ異常事態が続けば彼らじゃなくても、動揺するのは無理はない」

「ですよね~、分かります。

 私も誇り高い殿下のプライドに泥を塗ってしまった一人として、心から申し訳なく思ってますのでスイマセンでした」

 

 ペコリと頭を下げて、自分が傷つけてしまったプライド問題に対して“だけ”素直に頭を下げるユミエラさん。

 心の問題だけ謝って、殿下たちをモンスターに襲わせてる物理的な犯罪被害の件については、しらばっくれます。

 

 

 お城の兵士さん、犯人はこの人です。討伐してください。王子様が死ぬ(ほど危険)

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、偉い人達同士の事情とかの力によって退職させられたらしいメガネさんに代わって新しい学園長のロ、ロナ――糸目さんがめでたく就任したことを知らされたユミエラさんは、初仕事のお手伝いとして【野外演習のサポート支援役】を頼まれる運びとなりました。

 

 そして、終わって学園に帰ってきました。

 運営サポートしてればいいだけの他人事だったので早いです。

 

 自分の個人的恨みを晴らすために力を欲して、レベル上げの場を滅ぼされたら困るだけのユミエラさんにとって、選ばれし勇者でも天才でもない門番の兵士その1その2みたいな一般生徒たちは強くても弱くてもカンケーないので興味なし。

 

 どうせ強くなっても、後方の守りのためとかどーとかの理由で、魔王と戦う直前にパーティから抜けちゃいそうな人達には、ビタ一文賭けたくないし労力も使いたくない育成方針の人ですユミエラさんて。

 

 せいぜい、思い出すことがあるとしたら―――

 

(なんだか演習中にグレーっぽい髪色をした男の人が、私のことをジ~~っと見てましたけど・・・・・・噂を聞いて魔王討伐のため仲間になりたかったのでしょうか?

 素質はありそうでしたし、しばらく様子を見てから試しにモンスター襲撃させてみようかなぁ)

 

 新たな勇者アリシアの仲間候補志願者っぽい男子生徒がいたので、新たな強制レベルアップ対象に加えようか否かと考えてみた思い出のみ。

 

 

 *ユミエラは、自分のことを見つめる少年を、仲魔になりたそうに見ていると解釈した。

  基本的に、自分の基準でしか相手の気持ち考えない元ヒトです、ユミエラさんは。

 

 

 そんな感じで特に気にするような特殊イベントは何も起きることなく、平穏無事な時間を過ごしていた日常的日々の学園内で、とある放課後。

 

「あ、あの! ユミエラ・・・さん」

「・・・・・・ん?」

 

 廊下を歩いてる時に声をかけられたので、何気なく振り返って相手を見たところ。

 

 

 ―――夕日の中で、白一色だけに染まった人型をもつナニカが、緑色をした光を両目のように歪ませながら。

 夕暮れ染まる黄昏時の校舎の中で立っていました。

 

 

 いつも通り無表情のままだったけど―――正直ユミエラさんは、かなりビビったことは秘密である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・私は《光の魔法》を使える才能をもって生まれた娘アリシア。

 この魔法を人のために役立てたいと思って、この学園に入学してきてから、そろそろ数ヶ月が経とうとしている。

 

 その間には色々なことがあった。

 たとえば、寮から学園に向かってる途中で、毎日のように魔物に襲われるようになったりとか・・・帰り道でも毎日朝夕必ず一回ずつ魔物に襲われるようになっちゃったりとか・・・・・・その、そういう変な出来事がいろいろと・・・・・・(ブルリ・・・)

 

 それでも今までやってこれたのは、身分の私に優しくしてくれる人達――この国の王子であるエドウィン殿下や、大臣の息子のオズくん、将軍の血を引いてるアレクたちが支えてくれたおかげ。

 彼らがいなかったら私一人だと、途中でくじけて学園から逃げ出してたと思う。・・・魔物、怖いし・・・・・・。

 

 けど、そこまでしてもらっても・・・・・・私は普通の庶民で、貴族だけが通うことを許されている王立学園で、他の人達と完全に分かり合えるわけじゃない。

 貴族の生まれじゃない私には、貴族の慣習が分からなくて、きっと自分では普通のことを言ったつもりでも、相手にとっては失礼な言葉やヒドいことを言ってしまってるんじゃないかって、いつも不安を感じながら生活する日々を送っている。

 

 そんな無知さでやってしまった行為の一つが、先日の――その・・・“彼女”に対して口にしてしまった暴言だった。

 

「ユミエラさん! ・・・あの・・・先日は突然、魔王扱いなんてして、すみませんでしたっ」

「・・・・・・え?」

「私の軽率な発言で、ご迷惑をおかけして・・・・・・私、たまに自分でも自分の言ってることが分からないまま発言しちゃうときがあって・・・。

 魔王っていう存在が、この国でそんなに恐れられてる実在する存在だったなんて、エドくんが話してるの聞くまで知らなかったから、それで・・・・・・」

「あ。・・・あー、あ~・・・・・・はい。うん、そうでしたね確かにそうでした」

 

 必死の思いで頭を下げながら先日の非礼を謝った私からの謝罪を、ユミエラさんは記憶を辿るような声と反応で帰してきて、納得したみたいに「ポンッ」と手を打つ音がした。

 それが私がしてしまった失礼な言動を「忘れたことにしてくれる」という意思表示の表れだったのか・・・・・・それとも私みたいな平民の娘から言われた言葉なんて大して気にしていなかったという意味なのか。貴族じゃない私には、それが分からない・・・。

 

 あるいは、相手の表情の変化をみれれば、貴族の慣習を知らない私でも判断できたのかもしれないけれど・・・・・・

 そう思って少しだけ、ホントーに少しだけ顔を上げて、頭を下げてる姿勢から相手の姿を見上げてみようとしたのだけど――

 

 

「・・・・・・(チラッ)」

 

 ―――ズォォォォォ・・・・・・ぎらりッ!!

 

「ひッ!?(ガタブルブル・・・・・・ッ!!)」

 

 

 ババッ!と慌てて大急ぎで元の姿勢に戻ることしか出来ませんでした! やっぱり怖い! 怖すぎます!!

 

 私から見たユミエラさんは、黒一色だけに染まった人型をもつナニカが、赤色をした光を両目のように歪ませてる存在にしか見えないんです!

 出合った時からずっとそうでした! 他の人の反応とかを見ても、そーじゃないって分かってはいるんですけど、体と心がどうしても彼女を見ると怖がってしまって上手く話せなくて!

 

 この前「魔王」って言っちゃったことも、何となくそうだと思って口にしちゃった言葉で! おとぎ話に出てくる魔王なんてホントにいる訳ないって思ってたら、殿下から『国に伝わる公式記録だ』って教えられて慌ててッ!

 

 だから、私は彼女に謝―――

 

 

 タンタンタン! ダッ!!

 

 

「アリシアに近づくな! 彼女に危害を加えるようなら許さんぞッ!!」

「――え!? で、殿下・・・っ!?」

 

 突然名前を呼ばれて頭を上げた私の前に、廊下を走ってきたエドワルド殿下がユミエラさんから私を守るように立ちはだかってる姿勢で、私に背を向けていて――え? えっ? えぇっ!?

 

「ユミエラ・ドルクネス! お前は魔王ではないかもしれないが、この国にとって危険な存在であることに変わりない! 彼女に何をするつもりでいた!?」

「いえ、得には何も、ただ話しかけて振り返った直後でしたから。―――まぁ、強いて言うとすれば」

「なんだ!? やはり彼女になにか危害を加える邪悪な企みを――」

 

「殿下が不用意に魔王ウンヌンの国家機密を漏らしてしまったせいで、アリシアさんが私に言ってしまった言葉を気にする羽目になって、謝りに来なくちゃいけなくなったという被害を与えていましたね。

 殿下の不用意な発言の結果によって、アリシアさんが私に謝罪するという被害を」

 

「うぐぅっ!? わ、私が・・・? 私がアリシアに迷惑と被害を与えてしまっていた・・・のか・・・!?」

「え? えっ!? 違っ! 違いますよ殿下! 私ぜんぜん迷惑なんて思ってませんから! むしろ助けてもらってばかりで本当に感謝してて! その・・・・・・ちょっとだけ、イヤなこともありましたけど・・・・・・でも大丈夫でしたから! 殿下のせいじゃありません! 大丈夫です!!」

「うぐぉぉぉぉぉっ!? やはり私のせいでアリシアに被害を! 迷惑をぉぉぉぉっ!?」

「えぇぇぇぇッ!? 違います違います! そんなこと言ってませんから殿下落ち着いてください! お願いだから私の話を聞いてーっ!?」

 

 ああっ!? 殿下が私の言葉を聞いた途端に、さっきよりスゴイ衝撃を受けたみたいな姿勢でうずくまって―――一体なぜ!? どうしてなの!?

 私ちゃんと「大丈夫だから」って言ったのに! 「気にしてない」って伝えたはずなのに! それなのにどうして!

 

 やっぱり私が貴族の慣習をしらないから、殿下に対しても気付かないうちに失礼なことを言ってしまう結果をまねく原因になって・・・・・・ッ!!

 

 

 注:一般的な男の子とのコミュニケーション経験とスキル不足が原因です。

 

 

「・・・なにか揉めておられるようですし、殿下も他人にご自身の抱える苦悩を見られたくはないでしょうから、私は先に失礼します。

 アリシアさん、今後も大変でしょうけど頑張ってくださいね。では」

 

 そう言ってユミエラさんが気を利かせて去って行ってくれた日から数日が過ぎて、また先日と同じように野外演習の日が訪れたんですけど・・・・・・やっぱり殿下は今日のことを気にしてたんだと思う。

 

 私に向かってこようとするモンスターを殿下と、そしてオズくん達がみんな倒してくれて、私はみんなに助けてもらうばかりで役立つことが出来なかった・・・。

 普段からのお礼をするためにも、私にもできる事はしてあげたいと考えてるのに・・・・・・そうやって今回もまた、野外演習は終わりを迎えることになる。

 

 

 

 そんな野外演習が終わった後のこと。

 

 

 

「・・・・・・アリシアさんは前回に続いて今回の演習でも、一匹の魔物も倒せなかったのですか。本人にやる気がなかったのですか?」

「この報告書に書いてある文章だけじゃなんとも。立場や身分から、忖度や意訳して美化した表現で報告してくる教師もいるだろうしね。

 ただ今回は本人にやる気があっても、どうにもならなかったんじゃないかな? 殿下たちが片っ端から魔物を倒し尽くしてしまったそうだから。

 彼女だけじゃなく他の生徒たちも、ほとんど倒せてないぐらいだったし」

「ふむ・・・・・・」

「まぁ、彼らも気になる女の子に、格好いいところを見せたかったんだろう。ただ今のままが続くようなら対策が必要になるかもしれない。その時には君に協力してもらうこともあるだろう」

「分かりました。その時は任せてください糸目さん」

「うん、その時はお願いするね。

 ――あと、糸目さんじゃないからね。ロナルドだから。

 ひょっとしてキミ、自分の興味あること以外は意識できないタイプの人なのかな?」

 

 

 そんな会話を交わし合い、なにかを納得した心地で新・学園長の部屋を出た黒髪の少女は一つ頷く。

 

 

「・・・つまり現時点での状態は、アリシアだけが他の3人より経験値が不足していて、他のメンバーは精神異常系のバッドステータス攻撃に弱いタイプということか・・・よし。

 しばらくの間アリシアにだけ、一日一回襲わせてる魔物を1回につき2匹で襲わせよう。

 男子3人には、《魅了》系の特殊能力や魔法を使えるサキュバスとかを襲いまくらせて、耐性つけてあげれば弱点が克服できて悦んでもらえるに違いない。ドンドン襲わせましょう」

 

 

 本人たちが知らないところで無断で無許可のまま、勇者たちの試練が過酷なものへとパワーアップさせることを決定させてしまっていた。

 個人的な恨みを晴らすため、他人を巻き込むのは仕方がないと割り切ってしまった、復讐の鬼ヴァンパイアの育成方針は相変わらず過酷です。

 

 

「・・・・・・いえ、より早く耐性をつけたくなれるよう、襲わせる魔物はインキュバス(男のサキュバス)とかの方がいいか。

 正気に戻った後で、同じ目に遭わないため自主的に耐性つける努力しそうだし。

 どうせ《チャーム》の魔法で魅了するなら、男でも女でも効果は同じことですし」

 

 

 復讐の鬼ヴァンパイアの育成方針は、ホントーに過酷なようである(主に♂にとって)

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

オマケ『ユミエラ、野外演習に行く』

 

 

 野外演習というのは所謂、大人数でおこなうレベル上げです。

 ただし、大人数で一体の巨大なボスモンスター狩りをしにいく、レアアイテム狙いの強化方法ではなく、大人数で少数のザコモンスターを倒して安全に経験値稼いでく育成方法。

 

 魔物が多く出没する辺境に近い田舎出身の貴族子弟たちと、治安が良くて安全が確保されてる首都周辺の中央貴族子弟たちごとで大雑把に別れて、大人数で少数のザコモンスター狩りをやって安全に経験値ためてレベルアップを目指すのが、この学園での方針です。

 

 そんな授業に、弱いからレベル上げのため町中でもモンスターけしかけて、学校に行く途中の通学路を毎日戦場にさせちゃってる黒幕令嬢をガチで参加させたら血の雨が降りかねません。

 それらの裏事情をロナルド学園長は知ってたわけではなかったけれど、結果論としては本気でファインプレイな生徒たちの安全守った見事な初仕事になったと誇って良いのでしょう。

 

 ユミエラさん的にも、頼まれたら引き受けはするものの、頼まれたこと以上をする気はまったくなく、する理由もなく。

 どうせ鍛えても、魔王討伐にいく決戦前には力不足でパーティーから離脱しそうな仲間のレベルアップは、面倒くさいから嫌だと感じるタイプの彼女は【自分の役に立たないモノや人】がどーなろうと知ったこっちゃない元人でしたので、必要外ではビジネスライク。

 

 

 なので普通に野外演習の運営を手伝いに行きました。

 と言っても、一人だけ高レベルすぎる自分が今さら初心者向けのザコモンスター退治に参加しては邪魔になるだけですので、いざという時のため《闇属性》にも存在している回復魔法を使って回復役のヒーラーを担おうと、誰か怪我人が出るのをウズウズしながら待つことしか出来なかったユミエラさんなわけですが。

 

 

 *ユミエラは、同級生たちに不幸が訪れるまで様子を見ている。

 

 

「ぐわっ!? ゆ、油断した・・・・・・足をやられて・・・っ」

「はいはーい、治療しますからねー。ポーションか、闇属性の回復魔法のどちらかで治療するか選んでくださーい」

「う・・・ユ、ユミエラ・ドルクネス・・・・・・って言うか、闇属性にも回復魔法なんてあったのかよ・・・」

「はい、あります。

 ですので、見た目が良くて喉越しも爽やかだけど、傷の治りが遅くて障害が残る危険性も0ではないポーションでの治療と、少しエグくて微妙に気色悪い見た目だけど効果は抜群で、どんな傷でも数秒で完治できる闇の回復魔法。

 どちらが良いか、よく考えて選んでくださいね? 人生を左右するかもしれない重大な選択になるかもしれませんので、慎重に慎重ーに」

「事がデカい! 俺たちは世界の命運をかけた戦いに赴く物語の勇者じゃねえんだけど!?

 ・・・じゃ、じゃあとりあえず・・・ポーションでいいよ、もう。なんか怖いし・・・」

「ふむ。魔法で治せる傷にポーションを使って消費するのは無駄な浪費だと思いますが、まぁ本人がポーションの無駄遣いの方が魔法より良いと言ってるわけですし、本人の希望を尊重してあげるのが打倒でしょう。無駄な浪費ですが」

「・・・・・・いちいち一言も二言も多い奴だな、コイツはネチネチと本当に・・・っ」

 

 闇属性故のせいなのか何なのか、負傷した相手生徒の神経に塩擦り付けるような言葉を無表情で語った後。

 ユミエラさんは、ポーションの瓶が並べられた箱の中から一本を取りだして、相手の口元へ持って行ってあげてから、

 

 

「――そして、チョップ! あぽぅっ!」

「ゴクゴはぶぅッ!? ・・・・・・ガクリ」

 

 ズビシッ!とユミエラさんの手刀が、男子生徒の首筋に炸裂した!

 男子生徒Aは、気を失ってしまった。

 

「なっ!? ちょ、ちょっと! ユミエラさん!? あなた何を――っ」

「しっ。先生、お静かに。回復魔法を使うだけです。見た目が悪いのは気にしないでください」

 

 と言うノリで、闇属性の回復魔法を使用。

 掲げた掌の先から、漆黒の闇が這い寄るように近づいていき、気絶した男子生徒の傷口をまさぐるように触っていくと、やがて傷口が徐々に見えなくなって完全に消えてなくなってから、

 

「そして、改めて気合いっ。元気出てますかッ!?」

「あべしッ!? ――はっ! お、俺は今まで何を・・・・・・っ?」

 

 バチィィッン!!

 

「――おおっ!? 傷がいつの間にか治っているなんて!」

「ポーションの効果です。なかなか性能の良いものに当たったようで良かったですね」

「お、おお、そうなのか? よく分からんが助かった。その、ありがとうな・・・? ユミエラ・・・」

「いえいえ、お大事に~」

 

 

『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 

 

 

 イベントの流れを見ていた周囲の者たちはドン引きしている。

 ユミエラの人気と評判が、一部の負傷した生徒からだけ上がった!

 ユミエラの倫理・道徳分野の成績が2単位下がった。

 

 見た目の悪さを誤魔化して使用するために編み出した、ユミエラ流・イ●キ式闇属性の回復魔法の使用方法】は世間的評価が過酷であった。

 

 

 

 そして、

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(じ~~~~~~~~ッ)」

 

 

 男子生徒パトリックは、仲魔になりたそうな目でユミエラの方を見つめている。――ようにユミエラには見えている。

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