異世界に転生してから森の中だけで成長し、王都へと上京してきて都会デビューを果たしたばかりの異世界転生者にして現地世界人としてのド田舎者シン・ウォルフォードは、入学試験を終えて無事に高等魔法学院へと入学してから数日が過ぎていた。
『英雄マーリン・ウォルフォード』の孫が、国内最高の魔術師養成機関に主席入学をしたのである。王都の住民達にとってうれしくないはずもない。王都は大騒ぎになった。
かつて国を救った英雄であり、『導師メリダ』と一度は結婚して、子供が生まれる前に離婚した『賢者マーリン』の孫が、魔法学院に主席入学を果たしたのである。
『英雄の息子』や『英雄の娘』は連れてこないまま、英雄の孫だけ連れて王都にやってきた数日後の出来事であった。
この条件で、『英雄夫婦の離婚に愛人の影』とか『英雄に認知されなかった子供』とかのゴシップ記事では騒がない、異世界マスコミや異世界ジャーナリズムの倫理観と道徳はチートレベルと呼んでよかったかもしれない。
そんなこんなで英雄の孫シン・ウォルフォードは今日、魔法学院に入学して最初の一日目を迎えていた。
もっとも、『英雄の子』がない状態なので、『英雄の歳離れすぎた息子』と呼ぶのが正解かもしれなかったが――こういうのはイメージが大事である。
歳が離れすぎてるなら、「息子」より「孫」の方がしっくりくる。
異世界イナカ地方ネズミーランドより、首都ネズミーランドの方が、なんかリッチなものだ。
だからシン・ウォルフォードは『英雄の孫』それが正しい。
「入学おめでとう。
Sクラス担任のアルフレッド・マーカス、元魔法師団所属だ。実技も担当するので、よろしくな。
さて今日は――」
という感じのことが幾つかあった後、始まりの日を迎えていた魔法学院で過ごす入学初日の一日目。
王家支配ではあっても、血統より完全実力主義を標榜している国の方針にもとづいて、魔法学院では生徒達の実力に応じたクラス別け制度が用いられ、主席のシンは当然のようにSクラス。
スペシャルのS。スーパーのS。スペリオールのS。ドSのSは多分ない。
そんな超優等生だけが配属されるスペシャルなSクラスで過ごす生活。
その最初の一日目は、
「――明日の予定を伝えて終了する。以上、解散」
いきなりアッサリ何事もなく終わりを迎えることになる。
完全実力主義のスペシャル優等生クラスの1日目は、授業なしの時間割をくばるだけ。
これがアールスハイド王国に三校だけしかない高等専門学校の一つの授業。
んで、放課後。
「ねぇ、シン。ちょっといい?」
「え? ああ、マリアか。いいけど、なに」
「少し相談したいことっていうか、相談したい子がいて・・・・・・」
当然の流れとして、王都にきた直後に出会って暴漢に襲われてたところを助けてあげた2人の――いや一応は3人の美少女達もシンと同じSクラスに無事配属されて今に至っていた。
シシリー、マリア、ハイドの三人よると姦しくなる娘たち全員集合の放課後タイムだった。
ハイドだけは、成績とか実力よりも『実績だけ』もしくは『負の実績』でSクラスに入れた可能性もってる奴ではあったけど・・・・・・じゃあ他にどこへ入れれば矛盾しないか?と聞かれたら正解なさそうなので、まぁいいかと。
そんな人間爆弾少女を加えた女三人パーティーからシンが受けた相談事。その内容というのが、
「男に付きまとわれている、って!? シシリーがッ!?」
「そ。それでシンに何とかできないか相談しようって事になって」
「そんな!? どこのどいつだ! そんな事してる奴っていうのは!」
「カートよ。カート・リッツバーグ。入学試験のときアンタに絡んでた子爵家の息子で、この学院にいるAクラスの男子生徒」
「カート、って・・・・・・アイツかッ!」
言われて少し考えてからシンは、その名の人物のことを思い出す。
入学試験会場で因縁をつけられ、軽く手をひねってやるつもりで思わぬ反撃を被らされてしまった、高慢ちきで横柄な態度のイヤな奴の記憶を。
「シシリーは何度も断ってるんだけど、結構やり方が厄介な奴でね。
たとえば、雨の日にプレゼントを持って馬車で家までやってきて、帰ろうとしたときに馬車の車輪が壊れたりとか。
雨が降りそうな天気の土曜日に、夕方から徒歩で贈り物片手に訪ねてきて話してたら案の定、途中から雨が降ってきちゃったりとか。そんな感じのやり方をネチネチと」
「う、うわぁ・・・・・・」
確かに厄介なやり方だった。シンがされた場合でも厄介そうだと思うほど厄介な手法。物凄く追い返しづらい。
実家の地位と権力を笠に着て脅しをかけてくる、わかりやすい力押しな単純バカ貴族の方が、まだ対処は楽だったかもしれないほどに。
とある理由によって元々もっていた自信過剰な精神性にくわえて、尊大さや傲慢さ、選民思想などを植え付けられて悪感情を増幅させられている途上にあったカートは、だが途中から何者かの介入によって、高くなったプライドを満たすための狡猾さや計算などがプラスされ、もっと面倒くさい方向にパワーアップしてしまっていた結果が今の彼。
他人の心をもてあそび、自分の意のままに踊らせて、自らの立てた計画を他人を操って達成させることに、無上の悦びと自己満足を強く感じるようになってしまっていた今の彼は、そんな単純な手を使って楽させてくれる奴ではなくなっていたのだ。
「前までは、もっと単純に威張り散らすだけの奴だったから、私でも何とか対処できないこともなかったんだけど、最近になって妙に小狡くなってきちゃってさぁ~。
それで、先日のゴロつきに襲われそうになったっていう情報も、あっちの手に渡ってると思うのよ。
『同じことが無いよう家まで送ろう』とか言って、馬車で送り迎えしてくるのに利用してくるんじゃないかって。
そうなったらヤバそうだと思わない? だからシンにも相談した方がって思ったわけ」
「・・・ヤバい・・・ヤバいよ、それはヤバい・・・。絶対にヤバいパターンだそれ絶対に・・・」
マリアから事情と話を聞かされて、真っ青な顔色になりながら呻くように言うしかないシン。
彼には見えていた。――2人きりの狭い密閉空間に、尤もらしい理由付けして連れ込まれたシシリーが、周囲の目がなくなった途端に狼へと変貌した貴族の息子に襲いかかられ、手込めにされてしまう悲劇的な光景が。
元いた世界の国と年代的に、『よいではないか、よいではないか♪』『あ~れ~、お助けください、私には夫と息子がいるんですぅ~』『へっへっへ奥さん、ええ乳しとるやんけウッヘッヘ』とか。
そんな展開になる悲劇的な展開の予測を、主演女優シシリーで、顔モザイクの主演男優カートを使って脳内だけの映像として。
エロ妄想と言ってはいけない。
15歳になるまで森だけで生きてきて、野生生活送ってきた健康的な人助け主人公という存在は、大抵スケベになりやすい生き物なのだから。初心だけども。
「大丈夫だ! 何があってもシシリーは俺が守るから!
そうだ、今から皆も連れてうちに来ないか? 対策に役立ちそうなものを昨日の夜にちょうど造ったばかりなんだよ」
「え? シンの家って・・・それって賢者様と導師様の家に、私たちもお招きされるってこと!?」
「ああ。オーグたちにも声をかけてだけどな。けど、用があるなら無理にとは言――」
「行くっ!行きますッ!! 両親に事情を説明してから、すぐ行くから! ねっ!? シシリー!ハイドも!!」
「え? あ、う、うん・・・」
「よし! じゃあ一緒にいったん帰って準備しましょう! 一刻も早くダッシュ!!」
勢いに負けて引き気味に頷いたシシリーを掴んで、猛スピードで自宅へと帰宅していき、おそらくはお色直しをしてからオメカシシテ出直してくる気満々らしいマリアが去って行き、同じクラスに配属されてて出歯亀する気まではなかったアウグストたちクラスメイト男子も何人かが姿を現し、ウォルフォード邸へ遊びに行くのを了承し。
残ったのは一人だけ、特に興味ある話題無かったから大人しかったコイツのみ。
「ふむ。では私も行くとしよう。
風の噂で聞くところによれば、賢者くんと女性英雄くんも好き合っていた者同士として、かつて所帯を持ちながらも他人に戻り、やがて昔の男の方だけ孫がいる状況で、同じ屋根の下再び生活を共にしているとのこと。
・・・正直、英雄の祖父と祖母では絵面的に微妙な気もしなくはないが・・・・・・まぁ、面白そうな事をやりそうな関係なら何でもよかろう他人的に」
「人の家族を、そーいうカテゴリー訳で見るんじゃねぇ。ゴシップ記事かテメェは本当に」
意外とそーいうネタが好きそーなタイプなのか、単に血湧き肉躍って『あなたを殺して私も死ぬー!』『ええ度胸や!タマ取ったるぜいてもぉたれぇ!』とかの展開を期待できるんだったら何でもいい奴なのか。
とりあえずハイドも動向を承認。
・・・・・・正直コイツだけは連れてっても大丈夫なのか駄目なのか微妙だったが・・・・・・一人だけのこいても不安が無くなる訳じゃない。つくづく面倒くさい奴だったハイドって。
そうして到着。もしくは帰宅。
「遅かったねぇ、何してたんだい? なにか大所帯みたいだけど」
「ごめん、ちょっと事情があって、友達を連れてくることになってさ」
王都内に用意されたウォルフォード屋敷の来賓室にて、王様と一緒に賢者様たち元夫婦と、カートにとってのシンと不愉快な仲間たちが初めての顔合わせをすることになっていた。なってしまった。
「ああ、先にクラスメイトを紹介しておくね。オーグは・・・言わなくても分かるか。
彼女たち2人が、マリアとシシリー。
男子2人が、オーグの護衛役トールとユリウス」
「お初にお目にかかります、賢者マーリン殿。メリダ殿。」
「は、はははは初めましてッ! マリアですッ!!」
「・・・し、シシリーです・・・」
「と、トールです」
「ゆ、ユリウスでござる」
国家的英雄たち2人に自分たちの存在を紹介されてしまったため、自分たち自身も直接声をかけて挨拶しなければいけなくなった、エリート校の学生とはいえ下の方の貴族と一般庶民の娘たちの混成パーティーは緊張しまくりながらもなんとか挨拶をトチらず成功。
――メリダが一瞬だけ鋭い視線をシシリーに向けていた気がしたが・・・気のせいだろうと割り切って、シンは最後に残った別枠で説明しないと誤解招きそうな見た目の奴も紹介。
「あと、こっちの小さいのがハイドな。一応これでも同級生だから」
「お初にお目にかかる! 老英雄ウォルフォードお爺さんくん&メリダお婆さんくん殿!
我が名はリッテンハイド・ガイエスブルク=フォン=ローゼンバゥム! 略してハイド! 英雄である! 気軽に英雄と呼んでくれたまえハッハッハ♪」
『『『ぶっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?!?』』』
そして盛大に超失礼発言を国家的英雄の前でもいつも通り大披露!
英雄の前でも英雄バカをやって仲間たちに軒並み茶を吹かせるバカがいた!
あと、爺さん呼ばわりされた英雄と、婆さん呼ばわりされた英雄の2人がゴホゴホやっているのは、年齢気にしないわけではないお歳の英雄様たちなので察してあげようホトトギス。
「あ、あーーー・・・・・・ゴホンゴホン、うぉっほん!!
――それで、一体何があったんだい? こんな大所帯で人ん家に訪ねてきたのは、なにか理由なり目的があるんだろう。
そのガキンチョ――お嬢ちゃんたちも連れてきて、まさか私らに挨拶だけって訳じゃあるまいし」
「あ、ああ。実はメリダ婆ちゃんに頼みたい事って言うか、許可してほしいことがあって。
シシリーの制服にかかってる付与魔法を、安全のために書き換えたいんだ」
「付与魔法を?」
そういう事情もあり、敢えて無視して流して無かったことにしたい事情を持ってる年齢もあってメリダが話を進めてシンが理由と現状と、クロード子爵家子女とリッツバーク子爵家子息によるドロドロ痴情のもつれ事情と、同級生が男のヤンデレストーカー化している情報を、国家的英雄で赤の他人の保護者に公開。
もしマーリンたちが王都で暮らして長い人達で、ご近所付き合いあった場合には厄介だったかもしれないけど、引きこもり老人夫婦だったおかげで心配なし。良くも悪くもよかったね。
「・・・そうさねぇ。たしかシシリーと言ったね? 付与する前に、アンタにはひとつ確認しかなきゃいけない事があるんだ。聞いていいかい?」
「は、はい・・・なんでしょう・・・?」
「シンが行おうとしている付与は、とんでもない代物だ。本気でアンタを守ろうとしている。それを受け入れる資格がアンタには、あると思うかい?」
「そ、それ・・・は・・・・・・」
そして始まるメリダからシシリーへの―――まぁ所謂、『青春の会話イベント』
たとえば、『私は優しさにつけ込みました』とか『自分が唆してしまったから』とか『何も言わずに受け取ろうとしたなら放り出していたが』とか『自分は相手を騙していた』とか。
そんな青春群像劇らしい、若さあふれる異世界ショーワで、オールウェイズな夕日に照らされそうな会話を交わし合った後。
「青春だ・・・まさに、これこそ青春の汗と涙と、腐ったミカンの心意気というもの・・・!
このハイド、この美しき光景を後世まで必ずや語り継ぐことを、ここに誓わん・・・・・・ッ!!」
とか言いながら、涙を流して拳を握ってるバカを生み出す結果となっていたが・・・・・・おい辞めろ、恥が歴史に残る。
後になって絶対、床のたうち回って叫び回る羽目になりかねん、黒歴史という名の恥の歴史が。
「女が男を騙して、なにが悪いんさね。アンタのしたことなんて可愛いもんさ。シンを見てごらん、むしろ頼られたもんだから張り切ってるんじゃないかね?」
「うっ・・・、ああそうだよ。――でもさ、シシリー。俺は騙されたとか思ってないよ。助けたいと思ったのは俺の意思なんだ。
だからさ、俺の意思を否定すんなよ。利用してくれて大いに結構だよ」
「シン・・・・・・くん・・・っ」
「――うむ。まさしく、だな」
そして、いつの間にやらリバースしてきてたらしい。
大きく一つ頷いて、シンの言葉と意志の強さに心からの賛同と賞賛を送りながら、厳かな口調で言葉を紡ぎ、
「かつて、一人の偉大なる英雄がいた。
悪逆なる貴族の城に一人囚われた姫君を助け出し、自由を与えるため命をかけて敵の大軍勢に戦いを挑み、遂には勝利を手にしたい大なる英雄・・・・・・その彼が残した言葉がある」
その英雄もまた、幾度も人に騙され、人に裏切られながら、それでも一人の少女を救い出すためだけに深手を負いながら敵と戦い抜いた勇姿は、人々の心と記憶に深く刻まれているであろう、世界の歴史に名を記した偉大なる存在が。
「彼は、一人の女性を信じ、女性に裏切られたときに、こう言ったという。
“裏切りは女のアクセサリーのようなもの。
いちいち気にしていたら、女を愛せるわけがない”・・・・・・と」
「いや、駄目だろソイツを基準にしちゃ駄目じゃねぇか!?
パンツ一丁でベッドにダイブしながら女を襲おうとする泥棒と同じ扱いされるの俺がイヤなんだが! 全然フォローにも賛成にもなってねぇだろうがー!?」
「ぱ、パンツ!?」
「ベッドに・・・ダイブして、襲うッ!?」
「いや違うから!? 違うからね! そこだけ切り取らないで!? 俺じゃないから違うからっ!?
って言うか、やっぱお前転生者だったんだなやっぱり~~っ!!」
「ふむ。では生活なる町を守るため悪の秘密結社と戦い続け、どれほど女性に利用され裏切られ続けても優しさの道を貫き通す英雄の方が、ウォルフォードくん的には好みだったということか・・・・・・。
決して金銭や代償を要求することなく、下半身のみを報酬として求める女性の味方の超一流戦士として、自分に近い人物こそ彼であると」
『『か、かか下半身ッ!?』』
「違~~~うッ!? 俺はあんなもん求めてない! 求める勇気だってねぇよ!?
シシリーにどれだけ利用されても騙されても、自分が守りたいから守り続ける自信はあるけど、あそこまで吹っ切れた奴になれる自信まではねぇーッ!! あれは無理だよ! 絶対に無理だよ!
そして絶対やっぱりお前は転生者だ! 転生者に決まっているんだぁぁぁぁっ!!!」
痴情のもつれ話から始まって、単なる痴情の話っぽい単語が乱発される結果に終わってしまった、シン・ウォルフォードにとっての高等魔法学院入学初日イベントの日。
主な原因は、たった一人の面白けりゃなんでもOK英雄による暴言と失言と失礼発言のせいだったが・・・・・・本人がそれを自覚できる日は果たして訪れることがあるだろうか?
首締められながら振り回されつつ、楽しそうに高笑いしてるだけの今の時点では、誰一人として分からない。分かる者がいたら頭おかしいだけだったけれども。
―――尚、今日の出来事へと至るまでの布石として、一つの出来事がシンたちの与り知らぬところで行われていたことを、近い未来に彼らは苦い思いで知ることになる・・・・・・。
それは、入学試験の合格発表が行われた日の夜の出来事。
リッツバーグ子爵家の邸宅で、一人の人影が暴風となって室内で怒気をもてあまし、暴発する寸前の炸裂弾のような心と体を抱えながら怒り狂っていた。
「俺がSクラスではなくA!? 完璧なる才能を持っているはずの、この俺がッ!!」
カート・リッツバーグというのが、人型をした暴風がもつ名前だった。
彼は感情の赴くままに室内にある様々なものを壊し、感情をぶつけて周り、怒りの言葉と憎しみの呪詛とを飽きることなく何度も何度も繰り返し繰り返し声に出しては叫び続けていたのである。
「しかも! アイツが! この俺に屈辱を味合わせたアイツ如きが主席だとぉぉ・・・・・・っ?
そんなバカなことがあるか! あって堪るものかァァァッ!!!」
暴れても暴れても、感情が収まることができないカートは、ウロウロと部屋の中を歩き続けてものを壊し続けて叫び続けていく。
どうにも最近、こういう日が多くなっていることに本人自身も認識することが難しくなっている精神状態になって久しい。
あの日から・・・・・・恩師であるシュトローム先生が訪ねてきてくれた日から、感情の抑制が前より難しくなっているような気が、カートにはしているが気のせいかもしれなかった。
以前までより怒りを感じる回数が多くなり、感じた怒りが大きくなるばかりで、何をやっていても全く気が晴れてくれない。
おかげで考えがまとまらずに、女にも会いに行けない日々が続いてしまい、余計に苛立つ原因になってしまっている悪循環。
「なにか不正を働いたんだ! そうに違いないんだ! そうでなければ俺がこんな・・・・・・! 許せない! 許せない許せない!! 絶っ対に許せないッ!! 許せるものかッ!!!」
許せなかった。必ず復讐しなければ気が済まないほどに。
そのためにも、相手が犯した不正の証拠を入手し、奴の社会的地位も名誉もズタズタに引き裂いて地を舐めさせ、底辺まで落ちぶれさせてから踏みつけてやらねば、全く気が済まない。
ただ殺すだけでは飽き足らない。全く足りない。全然不足だ。
死は一瞬の苦しみでしかなく、死ぬまでの苦しみが長く長く続いてこそ復讐になる。
信じた者に裏切られ、愛する者が背を向けて去って行き、周囲を恨み、憎んで、辺り構わず呪詛を撒き散らすような、そんな落ちぶれた無様な姿を晒すまでに追い詰めてから殺さなければ、『選ばれた特別な存在である自分自身の偉大なるプライド』は決して満たされることは出来ない――――!!
そういう想いが、自らをギリギリのところで『人のライン』に留め続けている事実をカートは知らなかった。気づいていなかった。
彼はただ、憎むべき相手への復讐計画を実行するため、相手を罠に嵌めて陥れる材料としての、『不正の証拠』を得ることから始める計画を考えることで頭がいっぱいだった。
なにも本当に確実な証拠である必要はなく、ただ周囲の者達が信じやすい、相手のイメージと評価に合っていて矛盾さえしなければいい。
証拠は世論を形成させ、世論に誰かを孤立化させ、裁かせるためにこそ利用すべきもので、真実だの本物だのという馬鹿げたものを尊ぶのはバカどもにやらせておけばいい馬鹿話。
何なら証拠を作ってもいい。その程度の証拠なら偽造するのは難しくない。
そして自分は、自分こそがSクラスに―――シシリーと同じクラスの一員となって、女をも自分のモノにして、そして―――ッ!!!
正しく正統な不正無き試験の結果が公表され直す!!
新入生主席:1位。カート・リッツバーグ。
新入生次席:2位。シン・ウォルフォード。
「俺は、あの超有名で偉大なる英雄の孫シン・ウォルフォード。
英雄の孫と、庶民に等しい下っ端貴族の息子ごときがクラスメイトになれた幸福を、せいぜい喜んでくれたまえ。ハーッハッハッハ!!!(前髪ファッサ~♪)」
という、互いの実力的な正しい順位という結果として。
「糞がッ!!!!」
ドゲシッ!と。
不愉快すぎた可能性の実現だったので、カートによって便所の水に流されてなかったことにされ、欲しくなさ過ぎるゴミみたいな未来が得られなかった現在への怒りが、ちょっとだけ収まることになる。
その結果を感じ取り、どっかの学校の研究室で、夜にグラサンかけた変な格好のオッサンが頭を抱えてた事実をカートもまた知らないまま夜は更けていく。
つづく
【今作版カートの心理説明】
今作内でカートの中における「シン」と「自分」のイメージ前提↓
シン=【伊集院レイ】(ときめきメモリアル1)
自分=【不当に虐げられてる不世出の乙女ゲー主人公】
こんな構図で互いを想定して思考中。
本人の中では、常に自分が主人公で、主人公こそが悪役。
あと、古風な王道が多い原作ストーリーなので、古風のレトロゲー基準の方が合ってると作者的には思ってる次第。