気づけば結構、日が経ってたんだなと少し驚き中。他のも確認した方がいいかもしれませんね…(焦)
ワーッ、ワーッと。
観客席のさらに上層にある貴賓室に立ち、会場全体を見渡せる位置から吾輩たちの視界の先で生徒たちが歓声を上げている景色が映っていた。
まるでゴミのようだとでも言えば、兄君くんからツッコんでもらえそうだなと思わなくもない状況ではあったのだが、生憎と今は兄君くん本人がこの場に不在中。
元ネタを知っている転生者仲間がいない場所で前世ネタをやっても理解されるわけもないため、敢えて黙ったまま会場内の景色を素直に大人しく見守っている私の前で入場した選手たちが配置について、レース開始の合図を今や遅しと待ちわびている。
『いよいよ決勝レース。前回の事故によってジルク選手にドクターストップがかかってしまった今、本命はやはり三年生のダン選手に絞られるのでしょう。
とはいえ、他の選手たちも好成績を上げてきた者達ばかり。彼らの健闘に期待が大きい場面でもあります』
フラグ管理と好感度調整に失敗して、ウサギさんに襲われる系のイベント発生を防ぐことが出来なかったジルクに代わり、『大会運営のアンジェリカ女史のため』選手代行となることになった兄君くんが出場するレースが、これから始まろうとしている。
原作ゲームでは、悪役令嬢なのに純粋無垢そうだった、もしくは『純粋無垢なのに恋敵ポジだから悪役になる令嬢』のクラリスに忠誠と叶わぬ恋心を捧げているっぽい上級生のダン氏をはじめとする取り巻きたちとしては、心穏やかにはいられない状況だったことだろう。
彼らとて、あるいはクラリス嬢とて、自分たちのやっている妨害行為に意味も得もないことぐらい承知してはいるのだろう・・・・・・。
それをやって成功しても、彼ら的には何の得もなく意味もなく、ジルクと合法ロリ計算例嬢が別れる理由にすらなれそうもない。
むしろ負傷したジルクの好感度を上げるため、泊まりがけの看護イベントとか、お見舞いイベント発生させてやるフラグを立ててやっただけかもしれないほどに・・・・・・彼らにとっては本気でなんの意味もなく得もなく、なんにも価値なき無駄イベントにしかなれそうもない。
そんな・・・・・・悪役令嬢クラリス女史と、取り巻き男子たちにとっての今回の試合。
だが、しかし。無駄でしかないと分かっていても、感情によって思い知らせてやらずにいられない気持ち―――わかる。
一押しだったキャラを、途中から登場してきた変な新キャラが横入りしてきてNTRしていきやがった時には、自分を裏切った男にも女にも復讐せずにはいられない無垢なる女の乙女心―――わかる。すごく解る。個人的には応援したいと思えるほどに。
とは言え。
『それでは決勝戦、スタートですッ!!
――おお~っと! リオン選手、いきなり狙われていますっ!!』
【見事に囲まれましたね、マスター】
「ちょっ!? なんだコイツら!! クラリス先輩の取り巻きでもないないのに、どんだけ俺のこと好きなんだよ!?」
『うるせー! お前のせいで借金生活だー! 許せーんッ!!』
『くたばれ! この外道! 地獄に落ちろ―ッ!!』
『リオン選手ピンチ! ピンチでーすッ!!
そうだッ! そのままやってしまえぇぇぇッッ!!』
「実況~~~ッ!? お前もか―――ッ!!」
【因果応報ですね。まぁ、この場合は同じ穴の狢なだけとも言えますが】
・・・・・・案の定と言うべきか、予想通り過ぎて単純な者達と呼ぶべきなのか。
ルクシオンくんの機能で造ってもらった、兄君くんのヘルメットと通信可能な小型マイクとイヤホンで現場のリアル情報が丸聞こえな吾輩(だけ)ではあるのだが。
クラリス女史の取り巻きがなにか仕掛けてくる必要すらないほどに、他の名もなきモブ選手A,B,Cなどによって集中攻撃される羽目になっているな、兄君くんとルクシオンくん。
眼下に広がる観客席からも、『やれー!』とか『潰せ-!』とか叫んでるヤジがあちこちから響いてくるし。
今いる場所の貴賓席でさえ『もっと当たれー!』とか『正面を打て-!』とか、より攻撃的な内容の罵倒が近くから聞こえるほど。
もはやレースの順位どうでもよくなってるとしか思いようのない罵声だった。
エアバイクレースの勝ちだけではなく、順位当てギャンブルレースさえ諦めてしまったから、せめて恨み晴らしだけでも果たすのに利用したい本心ダダ漏れ過ぎてる状態としか思えんな。
それだけ兄君くんが周囲の者達から、先日の一件で目の敵にされるようになった結果ということなのだろうが・・・・・・まっ、もっとも。
「えーい! この逆恨みヤロー! 借金は自業自得だろうがっ! そんなに地獄に落ちたきゃ、お前だけが落ちろーッッ!! とぉぉっう!!」
『なにぃっ!? グヘハァッ!?』
『おのれーっ! ヴァルトフぬっは~ッ!?』
『うぬぉぉぉぉヘブ~~~ッシ!?』
「ハッハッハーッ! 見たか! この俺の力をッ!!」
【争いは同レベルでしか起きないと実感できます。
もっとも、ワタシの力を使って勝利したくせに、それを微塵も感じさせない図々しさではマスターの方が彼らより上かもしれませんが】
「っておい! ルクシオン、お前もかーっ!?」
実力差&性能差によって、予想通りアッサリと蹴散らされるだけの、名もなきザコ男子生徒その1その2その3ぐらいの障害にしかなり得ぬ程度の戦闘員たちから絡まれただけの消化イベントでしかなかったわけだが。
戦闘員を蹴散らした後に、ルクシオン君からブルータスされてしまったエピローグだけは予想外ではあったものの、だからこそ兄君くんと一緒にいると退屈しなくていいとも言える長所でもあるわけで。
・・・・・・とはいえ、試合開始前から会話内容だけは盗み聞いていた私としては、先程のルクシオン君から語られた評価には胸に突き刺さるものを感じさせられたのは正直、事実でもあった・・・・・・。
「争いは同レベルでしか起きない・・・・・・か。身につまされる言葉だったな。
彼らの立場は乙女ゲーでいうところの、『主人公の親友が攻略キャラから延々と持ち上げられる会話イベント』を立場変えてやったようなもの・・・・・・。
――乙女ゲームで、主人公以外の乙女がガチで出張るって、どういう意図なんだコラとか思わされ、一ヶ月ぐらい怒るのは当然の仕打ちというもの。
一発や二発や三発ぐらいのケジメはつけさせられたとしても、責任賠償として流す義務だと私も彼らに同感である」
『いや知らねぇよ!? 兄が忙しいときに通信使って、女の負の情念話をしてくるんじゃねぇ!
って言うかお前、それで思い出し怒り込めた拳で床ぶち破ったばっかだろうが! 家に穴空けられた親父に謝れ! 謝って修理費ぐらいは払ってやれよ本当に!! やっぱり妹って奴はコレだから本当に!!』
そして、前世で過ごした記憶と重なる部分があった故の感想を口にしたところ、兄君くんから予想外のツッコミが聞こえてくることになり――チッ、まだ覚えていたか・・・。
今となっては結構前の夏休み中にあった出来事なのだから、いい加減に忘れてなかったことにしてくれてもよい些事だろうに、意外と兄君くんには心が狭いところがあるのだけは困りものだな本当に。
まぁ、それもこれも我が家の家の中だけで起きた内輪の問題について語られた、兄妹同士だけで聞こえる内輪の会話内容。
他の者達には聞こえてなかったらしく、
「・・・この罵倒の嵐・・・・・・想像以上にヒドいな」
「本当に・・・リオンさんが可愛そうです。賭け事は悪いことですけど、それは他の人達だって同じだったはずなのに・・・」
オリヴィア女史とアンジェリカ女史からは、比較対象によるプラス補正も相まってか、率直な同情的評価が兄君くんの行動に対して与えられている声が聞こえてくる。
私としても2人の意見と見解に異議はなく、心から賛成している内容を親しくなった女子生徒たちから聞くことができ、心が通じ合ったような気がして気分が良かった。
「まったく以て同感だな。
ジルクが負傷退場した状態で、優勝候補筆頭のダン男子と同じレースに参加する組に入れられてしまった以上、彼らには引き立て役A,B,Cになる未来しか待っておらず、まともにレースをしたら確実に比較される立場にあった。
優勝候補が減ったにも関わらず、ワースト1位2位3位を競い合わされて見下されるよりかは、『皆の嫌われ者を倒すためレースに勝てる道を捨てた俺カッコYEEE!」とアピールする自己正当化に、兄君くんへのアンチ感情を利用しようというのだから・・・・・・まったくヒドい者達だよ本当に」
「・・・・・・いや、レイン。すまないが私は、そこまで予測して言っていたわけではなかったのだが・・・どれだけ彼らのことが嫌いなんだ? お前・・・」
「そんなことのために利用しているなんて思うのは、さすがに可愛そうだと思います。メッ」
そうして私自身もブルータス状態というエンディング。
どうやら我々バルトファルト兄妹が、他の生徒たちと友達関係になるのは難しいようである。乙女における友情ENDはBADのことだとも言うからな、仕方があるまいて。
そんなことを考えさせられ、『一罰百計』とか『女の友情なんてそんなもの』とかの言葉を思い出していた、丁度そんな時だった。
「ハッ! いいヒヒよ。あんふぁの取り巻き、ほんふぉーに嫌われふぇふわね」
『『『・・・・・・・・・??』』』
なんか横から、途中途中でくぐもった声でなんか言われたような気がしたのだが・・・何かあったのだろうか?
とりあえず不審な内容の声かけに、私たち女子メンバー3人が声のした方へと向き直り、相手の姿が見えるようになった我々の視界に映っていたのは
―――ミイラ男が、そこにいた。
「ヒッ!? ま、魔物・・・っどうして学校の中に、魔物なんて・・・!?」
「貴様ッ! 一体どこから入り込んで・・・!? 警備兵! 警備の者はどうしたのだ!? 一体何をやっていた!?」
「違うふぁよ!? 魔物じゃなくてわふぁひよ! わ! ふぁ! ひッ!!」
そしてなんか、ミイラ男が包帯だらけの顔を指さしながら喚き声で話しかけてこられてしまった変な状況に。
とはいえ相手の姿は、明らかにミイラ男にしか見ることはできず、プリーツスカートを履いてブレザーっぽい上半身姿という点だけは奇妙だったが、それ以外では間違いようもなくミイラ男そのものの姿形をした魔物。
目玉だけが包帯の間だから「ギョロリ」と露出しており、それ以外の顔は口も頭も頬をぜんぶを包帯巻きまくってて輪郭すら定かではない。
強いて言えば、頭の左右からドーナツみたいな輪っかが垂れ下がってるのが特徴で、その輪っかは頭部と接続するためなのか紫色の布が2本垂れ下がるように揺れていて―――って、ん?
ひょっとして、この紫色の布・・・・・・リボンか?
とすると、この色と服装から見て、このミイラ男の中身はひょっとしたら―――
「・・・・・・? ひょっとして・・・お前、ステファニーなのか・・・? オフリー伯爵令嬢の・・・? ずいぶんとヒドい姿になっているだが、その・・・・・・大丈夫か?」
「そんなほほはいいのよ!? っていうか見た目のほほは言うんじゃないふぁよ! あんふぁらのせいでしょうが!
あんふぁらのせいで、あたひが実家から責めふぁへたのも! あんふぁらの店に行ったせいで負わふぁれた傷も! 全部あんふぁらのせいなんだからッ!!」
「いや・・・実家から責められたのは私たちには特に関係のない自爆だったと思うのだが・・・・・・。
店で負わされた傷の方には、関係ないといい切れん気もするのだがな・・・」
と同情がこもった声音で返答しながら、何故だかチラリと私の方も見つめてくるアンジェリカ女史。
一体何故だろう。なぜ私を見るのだろう? さっぱり理由が分からない謎の仕草だったので意味の分からなかった私は真っ直ぐ相手を見つめることに集中する。犯人は現場に戻ってくると言うからな、気をつけるに越したことはなし。
「ぐっ!? き、きふぁまぁぁぁぁッッ!!」
ダンッ!と。
自業自得なだけの逆恨みを指摘された怒りに我を忘れたらしく、包帯まみれで素顔がよく見えなくなってしまった状態ながらもステファニー女史は、大きく一歩アンジェリカ女史に向かって近づくため右足を踏み出して、
「って、痛いッ!? 痛いわよっ! 痛痛痛ぁぁぁっ!?
わたひの足が折れるみふぁいに痛ぃぃぃぃぃッッ!?」
突如として床に転がって、足押さえながらゴロゴロゴロ。
そりゃまぁ、松葉杖をついた状態の包帯まみれ少女が、そんな動きをしてしまったら・・・・・・普通はそうなるだろう。普通レベルの一般人戦闘力だと普通に考えて。
「あー・・・その、本当に大丈夫か? お前・・・さすがに、そんな身体の時には部屋に戻って大人しくしていた方が良いと思うのだが・・・」
「えっと・・・・・・だ、大丈夫ですか? その、怪我したときはお互い様ですし、肩ぐらいでしたら私でもお貸しできるかと・・・・・・」
「ぐぅぅぅ~~~ッ!? へ、平民ふべぇいが見下すんじゃないふぁよ! 私に同情するとか何様のつもり!? わたひたちと同格にでもなったつも」
【モンスター ホブ・ラフレシアが再び襲ってきた!!】
「うぉぉぉぉッ!? 先日噂になったモンスターが部屋の中にまたしても現れてオフリー伯爵令嬢を一飲みに~~ッ!?」
「しかも前回聞いたときよりパワーアップしてないかコイツ!? 前に撤退したときより強くなってるような気がするんだが!?」
「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁッ!? モンスターがぁぁぁッ!? またモンスターが私を襲ってきて食べられフボッホォォォォォッ!?」
「オフリー伯爵令嬢! 大丈夫ですかぁっ!? お気を確かに! 医者を早ーッく!!」
「衛生兵! 衛生兵! いや、警備兵はまだかーっ!?」
「学校内でござる! 学校内でござーっる!?」
そして今日も再び起きてしまった凶行。防げなかった悲劇の再来。
何故こうも学校内で血が流れる事態を防ぐことができないのだろうッ!? 私は身分違いを問題視されたとしても、必ずや犯人逮捕と事件究明のため全力を尽くすことを約束しよう!
被害者になった哀れなオフリー伯爵令嬢ステファニー女史の名にかけて・・・ッ!!
「レイン・・・お前が今なにを考えているのか分かる気がするだけなのだが・・・・・・お前が探している限り一生見つからないように感じるのは気のせいなのか・・・?」
「どうしてなんでしょう……ステファニーさんが可愛そう――そんな気が……?」
【ご、ゴ~~~~ッル!! ゆ、優勝はぁぁ・・・・・・っ、バルトファルト選手ーッ!!】
『うわぁぁぁっ!? 疫病神がァァァァッ!?』
『死ねーっ!? 俺の小遣い三ヶ月分がァァァッ!』
『結婚後の生活のために積み立ててきたのに~~ッ!?』
「AHAHA♪ みんな~、勝っちゃってゴメンねー? 俺、強くってさぁ~アッハッハーーって、ん? なんか後ろの方でバフンって、爆発したみたいな音が、って、う、うわっ、うおわぁぁぁぁッ!? 死ぃぃぃぃぬぅぅぅぅぅッッ!?」
「・・・やれやれ、まったく・・・・・・何してやがるんだか――フッ」
とまぁ、こんな感じのノリと展開でレースは兄君くんの勝利で幕を閉じ。
自分が優勝の一点買いでボロ儲けした兄君くんは、せいぜい無駄な努力で貢いでくれるモブ生徒たち相手に笑いが止まらなくなる試合後の帰ってきた後が待っており。
大きな貸しを作る形になったジルクに対して、本人が嫌がってたクラリス女史に謝罪しに行かせることで、絶賛没落中な王太子の従兄弟への貸しをチャラにし、自宅にレース場もってる性格よさげな貴族令嬢とのコネを手にするため使い捨て。
わらしべ的な成功と立身出世への道を、また一段一足飛びで駆け上がるのに成功できた模様であったとさ。
情けは人のためならず、とはよく言ったものだと思わされた一日であった。
そして私自身もまた・・・・・・今日が終わって寮の自室に戻り、金貨の山を前にヤニくだっているであろう兄君くんの顔を想像すると――心穏やかな気持ちになることが出来ていた。
あの笑顔と笑い声を思い出すたび、まるで生まれ故郷に帰ってきたときのように、懐かしさを感じられるのは何故なのだろう? 不思議なこともあるものだ。
つづく
今話の補足説明:【ステファニーが実家から叱責された理由】
アニメおよび原作と違って、王妃様と知らずに無礼はたらく前にモンスターに食われたオフリー伯爵令嬢が怒られた今作版での理由説明です。
途中で書き忘れたの思い出したんですが、セリフの中の一言だったため、コッチで解説。
――先祖が冒険者の貴族幹部が、モンスター襲撃で一方的にやられて、護衛連れてたのに役立たなくて、レッドグレイヴ家の取り巻き男爵妹令嬢が適切に処理して助けてもらった――という件についての叱責。
悪人面のパパから、散々っぱらに嫌味言われまくって悪評ばら蒔かれたんでしょうきっと。
その結果として、伯爵パパ激怒。
娘を怒って、怒られた娘は怒りを我慢できず平民に――それが今作版のサイドストーリー設定です。
尚、自作自演のモンスター襲撃ネタは「今作だと」これが最後となります。
好きなネタですが、他の作品と被ったのは偶然のタイミングが悪かったため多用すべきではなし。