【GATE自衛隊】の帝国と繋がった先が【幼女戦記】の帝国だったらのIFストーリー。
あくまで思い付きを書いてたのが完成しただけですので、色々と抜けてるのはご勘弁を。
戦火の絶えない世界で、その国は『帝国』と呼ばれていた。
十以上の部族や地域を攻め滅ぼし、二十を超える諸王国を属国とする。
強大な軍事力と莫大な財力によって支えられたファルマート大陸に覇を唱える強大なる覇権国家―――それこそが『帝国』
そして・・・・・・この世界にある、その国も『帝国』と呼ばれていたりする。
帝国、「それは勝利である」――と豪語するに足る絶大な国力と軍事力、多数の魔道師と俊英の参謀将校を擁する彼らは、しかして四方の列強すべてが仮想敵国であった。
この状況から脱するため北の隣国である協商連合から『当事者以外は誰にも理解できない理由』でおこなわれた無謀すぎる進駐(と言うより一方的な集団自殺)を撃滅した後、軍中枢部の強硬派はさらなる進撃によって手負いの協商連合を崩壊させ、自国を囲む四方の一角だけでも安全を得ようという誘惑に抗しきることはできなかった。
国防方針であった内線戦略を放棄してでも戦力を北方へと戦力を集中させるため大規模な移動を開始させた帝国軍は、北方以外の地域で戦力を希薄化させる愚を犯し、帝国のさらなる強大化を望まぬ西の隣国フランソワ共和国に兵力の減少に乗じるための動員をはじめさせる切っ掛けを与えてしまうことになるのだが・・・・・・その危機に帝国軍首脳陣の多くは気付くことができていなかったのだ。
そのような時期であり、全軍の主力と注目が北方だけに集中していた状況だった故だったのかもしれない。
「・・・・・・??」
帝都ベルンのクリューゲル通り三番地の一角に、ある日突然に誰も気付かぬうちに姿を現していた石造りの巨大な古びた建造物を最初に発見した子供の話を真に受けた者は誰一人として実在しなかった。
人々は北で始まろうとしている戦争への開戦と、長らく押さえられてきた周辺諸国からの圧迫緩和に沸き立っており、実質的な脅威となりえない古くさいデザインの石造建築ごときに気をとられる物好きは少なかったのだ。
共和国が自慢顔で自慢したがる『凱旋門』と比べれば小ぶりな、だが十分に大きい古代遺跡かなにかの門のようにも見える前時代的な代物を、多くはプロパガンダ写真撮影のため用意した小道具かなにかだろうと噂し、警察や憲兵隊に通報しようとした者は少数だった。
一応は通報を受けた治安維持の担当者たちも「空想科学小説の読み過ぎ」としか思いようのない内容に苦笑するだけで、本気で取り合おうとする者は皆無だった。
だが、その『門』と思しき石造建築物が町中に姿を現してから2日が経過し、門が現れた地域住人の何人かが姿を消し、「子供が出かけたまま翌日にも帰ってこない」という通報が寄せられるようになったことから、治安担当者らによる本格的な調査が行われようとしていた―――丁度その日のことだったそうである。
門の中から現れた異形の怪物達。
異世界からの軍勢が、突如として無抵抗の住人達へと襲いかかり、町を地獄へと変えるため凄惨な殺戮劇が始まってしまったのは――。
「ここの責任者はいるか!? 状況を確認したい、現状について把握できている限りの情報を提供してもらおう!」
「! なんだ!? ここは部外者は立ち入り禁止――こ、子供!?」
詰め所の中に飛び込んで、一つだけ設置されていた無線機にしがみつくように声を放っている軍曹に向かって青筋を立てている衛兵司令に状況報告を求めながら。
ターニャ・デグレチャフ魔導少尉は内心で、我が身の不幸を心の底から嘆きつづけていた。
・・・・・・思い起こされるのは、リストラされた無能の逆恨みによって理不尽にも命を奪われた、平和な日本で過ごせる最期の日の記憶・・・。
その直後に、神を自称する存在Xとやらいう信仰心をはき違えた悪意の塊のような魔王の呪いによって戦乱渦巻く異世界へと転生させられ、MADの凶器じみた兵器実験でモルモットにされて死ぬような目に遭い、挙げ句MADの発明品に存在Xからの呪いに満ちた加護を付与されるという、理不尽な不幸ばかりに見舞われ続けて今日まで生きてきた我が人生。
おまけに、転生した先で今の身体となった肉体は、見てくれだけなら愛らしい幼女ときている。
何の嫌がらせか、存在Xの趣味ではないかと、HENTAIジジイの幼女趣味に付き合わされた己の不遇ぶりは極まるものだった事実は論を待たない。
それでも尚、ようやくMADによるMADな実験に付き合わされる不幸からだけは解放されることができ、次なる任地へ移動するため南西方向にあるクルスコス陸軍航空隊試験工廠から一度帝都に戻ってきていた、その直後に今回の騒動に巻き込まれる羽目になったのだ。
これで災いの現況たる存在Xの悪意ある愚考を疑わぬことが、果たして可能な人間は実在するだろうか?
「帝都に侵入したという敵戦力の規模は、どの程度か!?
協商連合のコマンドにでも突入を許したのか、それとも共和国のうらなり共が空挺降下でも仕掛けてきたか――それだけでも知りたい。分かる者は、ここにいるか!?」
「き、君はいったい――・・・っ!? し、失礼しました少尉殿ッ!!」
見た目は10歳前後の幼女にしか見えない小さな身体に、帝国軍士官用の軍服をまとっている奇妙な風袋の子供から、子供とは思えないほど理路整然と鋭い語調で問い詰められた衛兵詰め所の責任者と思しき人物は当初、外見と中身のギャップから相手の正体が分からず戸惑った声を上げているだけだったが、途中で急に表情と態度を改めると目の前の幼女に向かって敬礼を示す。
それは相手の素性を不審に感じて、頭の上から足下までを見下ろして確認する途中で、肩口につけられている階級章が目に入ってきた故の変化―――ではない。
その更に下に掲げられている、銀色に輝く高名な勲章が視線に映ったからこそ、彼は態度を一変させて上官に対する敬意だけがこもった対応で、目前に立つ幼女への遇し方を改めたのだ。
【銀翼突撃章】
それが幼女の胸元で燦然と輝いている勲章の名であり、帝国軍人に与えられる栄誉の中でも最大にして最高の、そして最高難度を謳われている比類無き英雄を証明する何よりの証拠となるもの。
その受賞者達のほとんどが、受賞者自身の“使っていた愛用ライフル”である事実を思えば、それだけでこの勲章を「生きて掲げることが出来ている相手」が如何なる存在か疑問の余地は欠片もない。
――もっとも、勲章を下げている当の本人にとってみれば、名誉ある称号は今この状況において些か重荷となっていたのだが。
(まったく! よりにもよって私が敵を再認識するために通っていた聖グレゴリウス教会の近くに、あのような物が立っていたとは!
しかも久方ぶりに寄りにきた日を狙って騒ぎを起こすとは! 人への憎しみに満ちた存在Xに災いあれ!!)
そのような理由と経緯によって此度の事件発生直後に、中心部近くで居合わせること担った彼女であるが、名誉ある称号をもらった後の身として、民間人を見捨てて自分だけ帰還することはできなかった。
そんなことをすれば、キャリアが吹き飛ぶ。居合わせてしまった以上、無視して帰るわけにはいかない。
やりたくはないが、やって“見せる必要”ぐらいはあるのが、自己保身のためだけに軍人としての栄達を望んでいるターニャ・デグレチャフという将校の思考法であったから。
「それで? 敵の所属と侵入経路は確認できたのか?
ノルデンを越境してきた協商連合の無謀な愛国者共か?
西のライン戦線を密かに突破してきた共和国のブリキ人形どもか?
それだけでも分かれば、後続部隊の来援を阻むことも出来るはずだ」
「それが、どうにも判然としません。手元にあった兵だけでも偵察に行かせたのですが、要領を得ない報告ばかりが届けられ、判断に迷っていた次第でして・・・」
「いずこの国の兵が侵入してきたか、それすら分からんという訳でもあるまい? いくら首都へ潜入させた特攻兵とはいえ、敵味方の識別のため軍服に特徴の一つか二つぐらいは付与してあるはずだが」
「はぁ、そのはずだと小官も考えたのですが、どうにも・・・・・・。
何しろ兵達の中には、『ドラグルが町を襲っている』などと言う者までいる始末です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は? “ドラゴン”?・・・」
「いえ、ドラクルです。少尉殿」
思いがけない報告内容を聞かされて、思わず前世で生まれ育った国での呼び名で呟くターニャと、律儀に言い直して訂正してくれる衛兵司令。
分かってるわそんなもん、とツッコミ返しを思わず言ってしまいそうになったところで理性を取り戻し、無意味すぎる言葉のイントネーションの違いについては後日に考えるべき事柄と無視しておくとして。
・・・・・・襲ってきている敵が、ドラゴン・・・? いやいや待て待て待て。
たしかに自分は、現世で死した後に異世界転生などという、前世で過ごした国ではポピュラーになっていたジャンルの定番をなぞったような立場にあるのは事実であり。
また現実に、この異世界には魔法が実在しており、伝聞しか残っていない宝珠と王笏を用いて起こす奇跡を、科学技術によって再現させた『魔導師』と呼ばれる奇跡の使い手達も存在している。
かくいう自分自身も、今では立派に帝国軍に属する魔導師だ。厳密な兵科としては『航空魔導師』と呼称されている。
そんな科学技術によって現代に蘇り量産された、現在の奇跡を行使する者達。それが自分。
・・・・・・とはいえ、流石にドラゴンまで実在するという話は、生まれ変わってこの方聞いたことがない。
空を飛翔して敵兵と術式を撃ち合うのが職務であり日常でもある自分たち魔導師だが、訓練のための緩衝地域や雪中行軍のための雪山にそびえ立つ頂でさえ、『ドラゴンと遭遇して抗戦した』・・・・・・そんな逸話をもつネームド魔導師は、帝国の歴史上でもなかったはずなのだが・・・・・・。
「・・・まぁいい。いや、よくはないが今は拙速を尊ぶを由とする。
自分で見た方が早いようでもあることだし、兵を幾人か貸してもらおう。人選を進めてもらいたい」
「!? 少尉殿ご自身で向かわれるのですか!? 危険です! 侵入してきた敵の正確な規模すら分からないというのに!」
「だからこそ、自ら確認するため行くというのだ。悪いが早く済ませてくれ、敵が誰かは知らんが猶予期間を多く残してくれているとは思えんからな」
如何にも仕方なし、といった体で両手を左右に広げてみせるジェスチャーを示しながら、目前に立つ自分の腰程までの背丈しかない少尉殿は、帝都に突如襲いかかってきた礼儀知らずの蛮族共の素性を調べようとしておられるようだった。
思わず、胸に熱いものがこみ上げてきて、「彼女のような幼子に前線へと赴かせて恥じることなく生きられるのか?否ッ!」と内心で声には出さず、固い決意を固めさせられる要因となっていたほどに胸を満たす感動。
――だが一方で、目の前の小さな少尉殿には、自らが前線へ赴いてでも所属不明な敵の正体と所在を確認しておくべき必要性が存在していた。
(国のトップが玉座を置く首都へと敵侵入を許し、建国以来はじめて帝都を強襲されて被害を被らされるのを阻止し得なかった大失態。――その結果は火を見るより明らかだ。
沸騰する国内世論に突き上げられての無謀な出撃、報復のため攻撃計画の早期繰り上げ、敵情報の精査さえ完璧ではない状況下で出戦を強制された一大決戦・・・・・・。
『ドゥーリットル攻撃隊』に初めての帝都空襲だけでなく、無事な帰還までも許してしまった日帝の末路などくり返されては堪ったものではない!
この際、危険を承知で犯人共は必ず帰投する前に逮捕拘束して、怒り狂う帝都住人達の前に放り投げてやらねば収まりがつかん。やりたくはないが、仕方がない!!)
そういった前世の知識として、2度行われた世界大戦にまつわる危機意識によるものが理由であった。
そもそも前線から遙か遠い後方の帝都にまで敵兵が侵入できた、というだけでも市民達にとっては現実としてあり得ない衝撃的すぎる出来事ではあるのだ。
それが本当に起きてしまったとなれば、敵の侵入を阻止すべき責務を負った軍部が叩かれるのは当然のことだし、市民達からの強すぎる突き上げと沸騰した世論を沈静化させることが戦略的判断よりも優先されること自体は、世界の戦史上でもよくあること。
大戦では勝利国となった彼の合衆国でさえ、飛行機をハイジャックしての首都への特攻を受けた際には完全に理性を放棄して、ベトナムでの悪夢をイラクで繰り返す愚行を断行させた理由となっていたもの。
また、今でこそ想定がいすぎる突然の奇襲と主力の不在で戸惑ってはいるが、放っておけば帝都防衛のため配置されている各基地の部隊が到着して、少数のコマンド部隊を制圧してくれるはず。
とはいえ、敵国の攻撃から帝都を守るための防衛部隊というものは、敵に帝都を襲われてから出撃して追い払ったのでは遅すぎるため、帝都を守るための部隊は少々の距離が離れた場所に配備されている。
彼らが到着するまでには今少し時間がかかるはずであり、南から攻め入って北にある空軍基地を目指して飛行したことで防衛側の意表を突かれたせいで逃亡を許してしまったエピソードがある。
せめて敵の脱出ルートだけでも把握し、じきに到着する帝都防衛部隊に伝えて追撃してもらわねばならない。
(まったく!
帝国や偉大なる皇帝陛下とやらのために死んでやる気などサラサラないが、私が安楽な後方生活を送って、軍部内でのキャリア人生を歩むためには帝国には存続してもらわねべならん。
サラリーマンの辛いところだな)
自己犠牲やら、襲われている市民達を守る義務やらといった軍人らしい思考とは、全くの無縁な保身的な動機によって、ターニャ・デグレチャフ魔導少尉はわずかな憲兵隊員のみを率いて現場の中心部近くへ向かって走り始める。
いざとなったら、航空魔導師である自分は飛んで逃げればよく、現場の危機的状況を誰かが政府に伝えるため情報を持ち帰らねばならない必要性――だのといった理屈で、時間稼ぎを彼らに押しつけるという算段をしたうえで。
どこまで行っても、ターニャ・デグレチャフ少尉という士官は、そういう性格と価値観をもった、帝国軍の軍人らしからぬ、だが帝国の士官として非常に相応しいと他者からは評価されてもいる。
そんな人物が彼女だった。――――――だったのだが。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
到着した現場を目撃した瞬間。
自ら随伴することを望んで付いてきたラーケン衛兵司令とともに。
2人並んで仲良く、まったく同じ表情と反応と対応によって、ポカ~~ンとしながら帝都に侵入してきた謎の襲撃者たちに襲われている帝国臣民たちの悲劇という光景に、唖然としながら見ていることしか出来なくなってしまっている。
何故なら彼らが到着した戦場、そこには地獄が誕生していたからだ。
きゃぁぁぁぁぁッ!?
―――ガォォォォォッン!!
う、うわぁぁぁッ!?
―――ウボォォォォォッ!!
筋骨隆々の青色の肌をもつ巨人が、巨大なハンマーを振り回し、町人をなぎ払う。
豚の顔をもつ小男が、地を這うような姿勢で街路を進んみながら人々を切り裂いていく。
見上げた先では、青い鱗と翼をもった巨大なトカゲに似た生き物が飛び交い。
人並みを蹴散らしながら進んでくるのは、何千何万かと思える人馬の群れ、群れ、群れ。
鋼鉄の鎧を纏って、槍と剣で武装した完全武装の騎士たちが街路を突き進み、逃げ惑う人々を通り過ぎざまに切り裂きながら、更に先へ、その先へ。
鮮血の道を人血によって赤く舗装させながら、真っ直ぐ帝都中央部へ続く道を直進していく。
まさに、この世の地獄が再現されていたとしか言いようのない光景。
――『ジョン・ミルトン作』の名著として知られる【天国と地獄】に地獄の風景として記されているような光景そのものが今、現実の帝都における通りの一つで再現されてしまっていたのである。
何百年も前に、中世期の基準で執筆された小説の内容そのままに―――いや、この異世界基準では現代日本よりかは近い時代の感覚で書かれた地獄の光景と同じようなものと言っていいのかもしれないが・・・・・・どちらにしろ時代錯誤であることには変わりは全くない内容のもの。
「・・・・・・衛兵司令。念のため確認として問うだけの疑問なのだが・・・・・・ここ数日中に帝都へと大規模な道化師とサーカス団が来演しにくるという予定はあったかね?」
「いえ・・・・・・少尉殿。小官の知る限りでは、あのように妙ちきりんなサーカス団が訪れる予定はなかったと記憶しておりますが・・・」
答えながらラーケン衛兵司令は、自分の記憶に確信が持てないらしく首をしきりにかしげてもいる。
然もありなん、有り体に言って、中世ヨーロッパの軍隊そのものが攻めてきているのだ。
こんな光景・・・・・・政府上層部による自作自演での大規模なサーカス団興行なのでは?と疑う方が、まだ理解しやすいほど意図を理解しかねる意味不明な状況なのだから。
多少ファンタジーが入っているとはいえ、騎兵の時代の軍隊などと言う時代錯誤も甚だしい装備しかもたない原始人がごとき蛮人どもが、演算宝珠より遙かに劣る神秘の真似事の猿マネ程度でよろったところで、焼け石に水ぐらいの違いしかない装備で近代武装の軍隊相手に攻めてくる。
これを現実で本当にあり得る光景と認識して、適切に対応できる方がおかしかった。
大方上層部や防衛司令部も、届けられた情報を誤認と解釈して、現実にあり得る帝都への奇襲に対処する方針で考えてしまい、動きが遅れてしまった原因となってでもいるのだろう。
―――グォォォォッ!!!
今、ターニャたちの姿を補足したらしき巨大な上半身に単衣だけを身につけた、前世の知識でいえば「鬼」とか、嗜む程度のサブカル知識で「オーガ」とでも表現するのが妥当そうな見た目をもった巨体が、手に持っているハンマーを掲げながら彼女らの元へ突撃してくる。
その動きは鈍重そうな見た目よりも遙かに機敏で、筋肉もあり腕力もあるようだった。
おそらくは大木をそのまま削って造ったものであろう、頑丈そうな特大ハンマーを軽々と振り上げ、肩と腕の筋肉を盛り上がらせながら殺気のこもった怒号を叫ぶ。
凄まじい勢いと力を込めて振り下ろされてくる、巨大な樹の塊。
振り下ろされる側の矮躯を遙かに上回るサイズを誇る巨大なハンマーの一撃に晒され、今からでは回避もできず、ろくな防御手段もとりようがないタイミングでの一振り。
幼い幼女の命を一方的に奪い取り、その小さな身体をミンチにするのは簡単な作業―――少なくとも見た目だけなら、そう見える重々しい一撃・・・だったのだが。
バチィィィィィッン!!!
――――グアァァァァァァァッ!?
殴った側が弾き飛ばされ、痛みの悲鳴を上げてのたうち回る光景が展開されることになる。
どうやら、腕が折れたらしい。片腕を押さえて鬼がのたうち回っている姿というのはシュールだった。
それは当たり前の結末。
いくら堅くてデカいとはいえ、たかが木を削っただけの代物が、魔導師の《障壁術式》を破れる威力を持っているはずがない。
機銃の掃射にも耐えうる強度をもった障壁だ。
せめて正面の目立つ囮が注意を引きつけ、いずこかの死角から襲わせる前提での奇襲攻撃であったなら、全方位に展開するため密度が薄くなる《防殻術式》になるから何とかワンチャン――ぐらいはあったかもしれなかったが、たまたま目に付いた敵に自分一人だけが襲いかかってくる敵への対処なら十分だろう。
だが、この敵は常識を常識として受け入れられる知能と理性を有していない単細胞生物らしい。
グルアァァァァァァァッッ!!!
ガァァッ!! ガァッ! ガァァァァァッ!!!
ガンッ! ガンッ!! ガァァッン!!!
折れた腕とハンマーを投げ捨て、なんとか自力だけでコチラに攻撃を当てようと残された拳を振るって、何度も何度も叩きつけてくるのだが。
たかが気合いと殺気と根性を付与しただけの腕力で、届かぬ戦力差の相手に攻撃を当てられることが可能になるなら、日帝様の竹槍防空訓練にも意味はあったということになるのだろう。
だが現実にはそうでなく、気合いと竹槍で航空技術の差は覆せない。
無駄に拳を振るって、届かぬ相手に叩きつけては自らケガを増やしていくだけである。倒錯した自虐趣味のマゾヒストかもしれない。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
――ガチャリ。
効くかどうかは不明瞭だったが、とりあえずは銃口を向けてみる。
なにかしらの防御策を講じているかもしれないし、周囲から接近してきている味方の接敵を気付かせないための陽動目的という可能性も――可能性としては0ではない。
まさか魔導師相手に、何のひねりも工夫もなく、ただ速さと威力だけを根拠として正面から襲いかかり、反撃される前に一撃離脱で倒せばいいなどという、レーダーや索敵技術が普及する前の日帝軍による零戦運用がごとき無謀なドクトリンはまさか採用している訳もない。
・・・・・・と思うのだが。
――ダンッ。
ズバァァッン!!!
「・・・ラーケン衛兵司令」
「・・・・・・ハッ、少尉殿」
「・・・・・・・・・貴官は今の光景を、どう見るかね?」
「・・・・・・・・・・・・ハッ。吹っ飛びました」
「・・・・・・・・・・・・・・・もはや、言葉もないとは、この事だな・・・」
やれやれと首を振って、あまりにも脆弱すぎる上に前時代的にも程がある謎の侵略者たちの襲撃――と呼んでいいのかさえ怪しくなってきてしまったが―――に対して思わず脱力感を抱かずにはいられない。
本来なら成すべき義務を果たすため、さっさと数世紀以上大昔から来たような団体様を掃討して帝都に一刻も早く安寧を取り戻すためにも、敵が弱く脆弱で戦争が楽に勝てることは良いことではある。・・・あるのだが・・・・・・物事には限度というものもあるのが人間社会では如何ともしがたい事実でもあるにはある。
あまりにもあまりな相手が敵という状況下では、流石に楽な敵を相手に手柄稼ぎを喜ぶ気持ちよりも、少々の面倒くささの方が勝ってしまう心地に駆られざるを得なくなってくるのである。
特に、掃滅すべき相手が見る限りでは万単位で控えている状況とあっては尚更に。
爆裂術式や砲兵隊で吹っ飛ばしてもよい、と言うのであれば無論のこと気分良くさっさと済ませてしまっているところではある。
が、今は市街戦である。
帝都の内部にまで潜り込まれてしまった謎の襲撃者たちを排除するためとはいえ、皇帝陛下の臣民まで巻き込んでの制圧作戦など行えるはずもない。キャリアが吹っ飛ぶだけでなく、悪くしなくても絞首刑ものだ。
誰か他のヤツがやるというのであれば、喜んで命令に従う軍人の義務を遂行してやるところだが、自分自身がやる命じる役を担うのは断固としてNOだった。
―――キシャアアッ!!
丁度タイミングよく、空中から襲撃者たちの航空戦力――と言っていいのかは不明だが――ドラゴンたちがコチラに対処するためにか群れを成して降下してきている。
その割には、擲弾を投下してくることもねければ、レンガや投石の一つも落としてくる気配もなく、背に乗っている人間の騎士っぽいヤツがもってる長槍をブンブン突き出してきているだけで脅威には全くなっていない航空戦力ではあったが、それでもまぁ頭上を敵たちに押さえられているという状況は地上で戦う歩兵たちにとっては虚心でいるのは難しい。
「どうやら空からもオファーがきたようだな。衛兵司令、悪いが地上の連中の掃討は任せてもいいかね? 私は上のヤツらを独り占めさせてもらうとしよう」
「はっ!? しょ、少尉お一人で、あの敵全てをでありますか!? さすがに危険過ぎます! いかに敵の装備が脆弱とはいえ、後数十秒もすれば味方の航空魔導師も駆けつけてくるはず、それまで待たれては――」
「そう言うな。私は空軍でもエースの称号を得たいと思っているのだよ。とはいえ、アレでは流石にスコアとしてはカウントしてもらえんだろうからな。数をこなさねばならんのさ、サラリーマンの辛いところだな」
「少尉殿ッ! デグレチャフ少尉ッ!!」
叫んだ時には、既に小さな上官殿は空の上で最初のエンゲージと最初のアンノウン撃墜を記録された直後となった後だった。
幼いながらも手強い勇者によって懐に入り込まれたドラクルの群れが、多勢に無勢で少尉を取り囲もうと躍起になっているが、素早い動きに翻弄されるばかりでろくな対応が出来ていない。
―――空を自在に飛翔し、伝聞しか残っていない宝珠と王笏を用いた奇跡を使いこなして、ドラクルの群れへと果敢に立ち向かっていく幼き勇者。
それは、正体不明の侵略者たちによって襲撃された、我らが帝都の住民たちを守るための戦い。野蛮で醜悪なモンスターの魔手から人々を救うため、ドラクルさえ恐れず立ち向かっていく。
・・・おそらくは、民間人を守り戦う帝国軍人としての義務感と、そして偏に愛国心故に。
「なんと、立派な御方であることか・・・・・・デグレチャフ少尉殿は」
空を行く幼き勇者の英雄叙事詩がごとき雄姿に、思わず敬礼を送りたい衝動に駆られながら、今はそれどころではないと衛兵司令は決意を胸にする。
あれだけの数を少尉殿は一人で相手取っておられるのだ。地上を這いずる虫けらの群れごとき、自分たちが討ち漏らしたのでは少尉の武勲に傷がつくというもの。
何より、“あの”デグレチャフ少尉殿から「任せる」と託された役割なのだ。
今の彼にとって、それは何よりも尊く、帝国を輝かしい未来へと導く英雄となられる人から信頼されたことへの誇りで胸に熱いものをこみ上げさせてくる。
―――だが無論のこと、空を行く小さな少尉には、そんな大層な想いで託したつもりなど微塵もあるわけがなく。
「××××ッ!! ☆☆☆ッ!?」
「△△□ッ! □□★★★××ッ!!」
「やれやれ、言葉すら通じん蛮族の群れ共か・・・・・・これでは全てを一人で全滅させてさえ、ろくな手柄にはなれそうもないが、他の者との共同撃墜になると更にスコアが低下しそうだからなー・・・・・・」
空を悠々と飛び交いながら、それなりに数がいるとはいえ地上を這いずっている連中の総合計よりは遙かに少ない、だが空を飛べる魔導師でなければ対処が難しい敵だけを相手取るのみでいい気楽な立場を満喫しながら。
それでもターニャ・デグレチャフ少尉には、多少の気怠さと落胆を感じる想いがわずかに、だが確かにある。
――キシャアアアッ!!!
「・・・・・・・・・」
正面から真っ正直に突っかかってきたのをスゥイングして躱した後、相手の背後に回ってから発砲し、そのままの位置に滞空しながら槍と炎の息で滅ぼさんと近づいてきた端から打ち落としていくとアッサリと次々墜ちていく敵の航空戦力――のような者達。
―――キシャアアアアアッ!!
ズダンズダンズダンッ!!
―――キシェェェェェェッ!?
ヒュウウウウッ・・・・・・ドサッ。ドサッ。ドサッ・・・・・・。
来れば撃ち、来る度に撃ち落とされては、落下していった先で山のように積まれていくドラゴンと乗っている人の山。
流石に無謀さを悟ったのか、敵も距離を取って不用意に近づくのを警戒するようにはなったものの、さりとて別の攻撃手段がある訳でもないらしい。
―――キシャアアアッ!! ズダンッ! キシェェェェェッ!? ・・・・・・ドサリッ。
結局は最初にやっていたパターンを繰り返すしか、彼らにも出来ることは他にないらしかった。
「まったく・・・・・・我々が攻められていたのではなかったのか・・・?
ほんとうに困った連中だな、コイツらは本当に・・・・・・」
やっていることに何の意味があるのか、本気で珍しく疑問視を感じ始めてきながらターニニャ・デグレチャフは攻撃そのものを止めることは最後までなかった。
こうして、帝都を襲った突然の悲劇と騒動は一両日中には鎮圧され、その中で幾人もの帝国臣民を救ったとして、一人の幼き帝国軍魔導士官が新聞の見出しを数日の間飾り続けることになっていた、ちょうど同じ頃。
「断固として反対です! そのような限定投入ではメリット以上に、絶好の好機を失うリスクがあまりに多すぎます!!」
帝国軍参謀本部の一角にある作戦会議室において、一つの議題について大激論が交わされていた。
それは帝都が強襲を受ける前に、同じ場所で交わされ合っていた会議を焼き回ししたかのような光景だった。
もっとも、厳密に言うならば完全な焼き回しではなく、攻守のところを真逆に変わっての焼き回しではあったが。
「すでに現地には部隊を展開させた後なのですよ!? そもそも周辺諸国に動員の兆しすらないのは事実っ。
このような状況下において、我々が大規模攻勢を所与の条件に束縛されずに行える絶好の好機があるとすれば、今だけなのです!!
マルケーゼ侍従武官、どうか再度の協商連合に対する大攻勢を!!」
先日の会議では、同じような内容で持論に反対票を投じられていた旧ルードヴィッヒ参謀長派の軍官僚が熱弁を振るい、実行される寸前まで準備を進めながら直前で勃発した突然の騒動によって延期されてしまった出征の再実行を強硬に主張する。
だが先日とは異なり、一度は決定されたはずの協商連合を併呑するための本格動員、帝国の四方を常に列強によって包囲されている地政学的な環境から脱出することが可能になる甘美な未来図は、しかし他の列席者にとって心揺り動かされ賛同する魅力を持ち合わせるものでは既になくなっていた。
騒動の勃発により、大急ぎで帝都のある中央部へと主力を引き返させるための移送作業を進めたところ、その過程で西方のフランソワ共和国が北方ノルデン地方に戦力の大部分を集中させていた帝国軍の隙に乗じてライン戦線を突破するため、密かに動員を開始していたのを発見された後だったからである。
冷静になって考えてみれば当然のことで、帝国としては周辺諸国に包囲された状況から脱して優位な状況を確立したいが、帝国の仮想敵国である周辺諸国としては帝国が強くなるのは好ましくない。
協商連合が無謀な進駐のツケを払わされるだけで動員して、火中の栗を拾うため手を突っ込む火遊びならしたくもないが、協商連合と帝国が正面から激突するというなら、戦力集中で隙の生じた脇腹や背中を突き崩したい。
――そんな政治の力学に基づく、健全でマトモな誘惑に駆られるのは至極当然の反応だったと評するしかない。
その程度のこと、冷静な思考さえ取り戻せたなら誰でも思いつくことですらある。
その冷静さを失っていた出兵派の旧首脳陣が多く失脚した直後だったという事情もある。
彼ら協商連合への大規模動員を主張する一派が、声の大きさに反して勢力と影響が巨大になれないでいるのも当然の反応の一部だったと言えるかもしれない。
だが一方で、前回の会議で反対票を投じていた二人だけの准将の提案が、今回の会議では最大多数派による賛成を得ているかと言えば、必ずしもそうではなかった。
彼らの意見があまりにも斬新で、かつ帝国の歴史上には前例のないものだったからである。
「・・・改善すべき余地が多々あるとはいえ、少将の言にも一理ない訳ではない。両准将は、どう思うか?」
前回と同様に座長として同席しているマルケーゼは、もともと大規模動員に反対とは言わぬまでも疑問を感じていた立場だった人物で、帝国の柔らかくなった脇腹をつこうとして共和国軍が牙を研いでいた事実を知った今となっては強硬主戦論そのものには全く意義を感じなくなってはいたが、新たに提出された提案を検討するための異なる視点として用いるなら価値があった。
『帝都の一角に突如として出現した扉を通って、その先に広がる道の大地を帝国の領土として植民地とする』
という大胆不敵としか評しようのない作戦計画を、彼らは参謀本部と帝国政府に向けて意見具申をおこなってきていた。
それも、周辺列強に気取られるより先に後方基地化を成功させねばならない観点から、目立ちづらい兵力だけを用いて限定動員に留めるという前提で、だ。
有能で分析力に長けてはいても、前例尊重主義者であるマルケーゼとしては過激としか思えない。
だが意見具申を行った二人の准将たちには、それを行うべき理由と理論が確実に存在していた故での行動でもある。
「・・・ゼートゥーア准将。この作戦計画には先日、戦務から配布された“例の論文”が無関係のものではない、と見てよいのだな?」
「無論だ、ルーデンドルフ准将。この作戦において本来は忌むべき限定的な兵力派兵という逐次投入の愚を敢えて犯すという内容は、それを踏まえてのものだからだ」
問われた側である二人の准将たちは、至極冷静な態度と反応で息の合ったチームプレイを言葉の連携でやってのける。
それは先日もよおされた、『とある英雄の表彰式』にゼートゥーアが臨席した際、ほんの気まぐれで『英雄の意見』を聞いてみたことから始まっていた一つの理論。
『世界大戦論』
と、それを一読した参謀たちが呼ぶようになっていた一将校に書き上げるよう命じられただけの論文。
その論によるところでは、『四方を列強に囲まれながら軍事力では一つ頭抜きん出ている帝国の周辺諸国のいずれかを飲み込んで覇権国家となることを全ての国々は望まないだろう』ということを前提としている。
それを阻むことを目的として、周辺国が次々と手を結ぶようになり、勝ち続ければ勝ち続けるほど敵対する国の数は増えていく。
最終的には、世界中の主要国すべてを一国だけで相手取らねばならなくなる危険性すらあり得るほどの。
そして、この論の注釈として先日の騒ぎの後、簡易的ながら行われた『扉の向こう側』にかんする情報を加味した上での追加事項として。
『仮に扉の向こう側に広大な大地があり、その地を帝国が領有することが出来たとすれば、帝国は四方を仮想敵国に囲まれている現状のまま、広大な「後方」を手に入れることが可能になるかもしれない。
だが、そうであるが故に周辺諸国にはそれを許容することは決して出来ない。自分たちによる包囲が崩されぬまま、広大な食料庫と人口を手に入れた帝国という覇権国家が誕生してしまえば、彼らの努力は無意味となるしかない―――』
「此度の一件は単期日で解決し、被害が少なかったこともあり周辺国にはほとんど知られていない。四方を列強に囲まれ、逼塞した状況にある帝国の立地が優位に働いたのは皮肉と言うしかないが・・・・・・いずれにしろ彼らは我が軍が、後方地帯を得られるようになったという事実を現時点では気付いていない。それを利用したい」
「・・・・・・知れば攻めてくるということか? だが明文があるまい。ロンデニゥム条約もある。そこまで無茶のできる状況とも思えんが・・・」
「ルーデンドルフ准将、考えてみて欲しい」
かすかに首をかしげながら煙草をくゆらせた同期に対して、神経質そうな学者然とした容貌をもつゼートゥーアは、静かな声で諭すような口調のまま言葉を紡ぐ。
「我が軍が完全包囲下においていた敵国内の首都内部に、ある日突然、自国の国土よりも広大か同等の広さを持った穀倉地帯が、後ろに向かって突然に広がった。
領土を一片も取られたわけでもなく、四方の包囲は健在のまま、敵は安全な後方で大量の麦や芋の栽培しはじめ、魚もあれば野菜も収穫高を増やせる流れを創り出してしまっていく。
・・・・・・さて、この状況を貴官は座視して放置することが出来るかね?」
―――ナイン、と。
ルーデンドルフは声より先に心の中で、明快な答えを即答していた。
否と。あり得ない選択肢だと。
そんな状況を放置することを許してしまえば、自分たちの戦略は根底から崩壊してしまう。条約違反を承知の上で、相手国が手に入れた安全で広大な後方を奪取するか破壊するしか、取り得る道はなくなってしまうしかない道はない。
「そういうことだ、准将。この作戦は秘密裏に、事が成るまでは周辺国に察知されることなく進めるしか他に手がない。
大規模動員などもってのほかだ。敵などいるはずもない中央地域に主力を終結させるなど、何か大きな異変が勃発し、我が帝国が対応のため動き出していることを内外に知らしめる結果となるのは明白だ。
たとえ逐次投入の愚を犯すリスクを負ってでも、少数の兵力・・・・・・そうですな。
戦闘団とでも呼称できる範囲までの兵力のみを各地域から引き抜いて再編させ、彼らに扉の向こう側に帝国の傀儡国家を建国させに行く必要性が絶対的に存在する」
「ふ~む・・・・・・」
会議室に集っていた一同は、彼ら二人の会話を聞かされ頭を抱えて考え込まざるを得なかった。
理屈は分かる。分かるのだが・・・・・・どうにも話が突飛すぎている。
扉の向こう側に広がる別の世界など、子供向けの童話の世界だ。
まして、そんな世界を少数の兵のみで侵攻し、その地に傀儡国家を建国させるなど、ピザーロによる南方大陸征服を現代において再現するかような、時代錯誤で希有壮大過ぎる話。
果たして、そんなことが自分たちに可能なのか?
そもそも、そのようなことが現実に起こりうるのか?
・・・だが現実に『扉』はそこにある・・・。
「仮に・・・です。もし扉の向こう側にある大地を、その・・・我らが帝国の版図に加えるとして。
その地の名称は如何なるものになりましょう? 侵攻をおこなう上で呼び名がないのは、些か不便を来すかと・・・」
現実離れした内容での話し合いに疲労が蓄積してきたのか、中の一人が殊更に現実的な話題を振って精神のリフレッシュと現実への回帰を皆に促す。
それによって一息つけた列席者たちは、視線を再び豪胆な見た目のルーデンドルフ准将へと集中させて答えを待つ。
軍を動かすに当たっては、作戦局の彼こそが最重要となり得る立場にあるのだが・・・・・・
「名前だけ飾って見せても仕方ありますまい。
帝国領『特別地域』
ひとまずは、そう呼称し、細かいことは現地での情報を集めながら追々決めていけばよろしいかと」
堂々とした態度でそう回答する偉丈夫な友人の言葉を聞き流しながら、ゼートゥーアは苦い表情を浮かべて首を左右に振っていた。
それは相手の語った戦略や作戦方針に意義があった故の行動ではない。
(・・・相変わらず、こいつのネーミングにはセンスというものがまるでないな)
そう思い、同期の数多くはない欠点を友人として心の中で嘆いていた。
只それだけの反応だったのだ。
こうして、帝国軍による『扉の先に広がる世界』に対して傀儡国家樹立を目的とする侵攻計画は決定されることになる。
これは、二つの異なる『帝国』と『帝国』が一つに繋がってしまった世界の始まりを記した記録である。