妹オリ主版の【モブセカ】更新です
波乱続きだった学園祭も、最終日のバイクレースが終わった夜のことです。
私、平民の娘オリヴィアは物思いにふけって眠れない時間を過ごしていました。
……それは自分だけが、リオンさんやアンジェから与えてもらっているばっかりで、何一つお返しできたことがない―――という、背負ってもらうには重すぎるほど大きな負担・・・。
私がそのことを意識するようになったのは数日ほど前にあった出来事が発端でした。
それは、アンジェの家と敵対している貴族様のお嬢様というステファニーさんとの出会い――は不幸に見舞われやすい人だなと思って、可哀想に感じましたけど、私にとって一番印象深く残り続けているのは“あの人”のこと。
クラリス先輩に付き従っていた上級生の、ダン先輩・・・。
あの人はきっと、クラリス先輩のことが好きなんだと思う。
でも、身分の差がある彼らにスゴく良くしてくれた人を、そんな風に思うのは良くないことだって罪悪感を感じてるんだって・・・・・・リオンさんとの試合を見ているときに、そう感じさせられた。
好きになった恩人のために、恋人になるのは許されなくても、なにか自分に出来ることでお返ししようって思って、クラリス先輩の命令に従ってジルクさんの代理だったリオンさんとも戦っただけなんだって。だから最後は助けてくれた・・・。
ソレを見せられたときに、思い知らされたことがある。
私には・・・自分には、ダン先輩と同じことが、リオンさんに出来るのか?・・・って。
一瞬そう思ってしまった・・・その時から自分への疑惑は大きくなるばっかりで全然消えてくれそうに・・・ない。
アンジェみたいな偉い貴族のお嬢様でもなければ、ダン先輩みたいに他の人より優れた技術や特技が使えるというわけでもない。
クラリス先輩みたいに、素質のある人のためにレース場を用意してあげるなんて夢のまた夢でしかないスゴい贅沢すぎること。
私は平凡だ。他の人違って特別なことは何も出来ない、ただの平凡な平民の娘でしかない場違いな存在。
アンジェだったらリオンさんのために色々なことで力になってあげることが出来ると思う。クラリス先輩も今回のことでリオンさんに協力してくれるって約束してくれた。
レインさんもお兄さんのリオンさんを助けるために頭の良さで――悪いことは良くないですけど、いつも貢献してくれている。
・・・・・・彼女たちの中で、何もお返しできてないのは私だけ・・・・・・。
このままだと、その内リオンさんに置いて行かれるような・・・・・・そんな不安に私は襲われるようになってしまっている・・・。
リオンさんだって、私みたいな平凡なだけの女の子よりも、アンジェみたいに可愛くて何でも出来る女の子の方がいいと思うに決まっている。
今はアンジェと私だけしか呼ばれる事がほとんどないお茶会も、これからはクラリス先輩も呼ばれるようになるかもしれない・・・・・・いいえ、もしかしたらレインさんが個人的にお呼ばれされるようになる可能性も0では――
いけませんよ、リオンさん。
実の兄妹でそんなことダメ、ダメです。ワタシだけ、置いていっちゃ―――イ・ヤ
そんなことを考えて、思考の迷路に迷い込みそうになっていた。そんな時でした。
トン、トン。と部屋の扉がノックされ、こんな時間に誰だろうと思って開けてあげると
「ちょっとい――ヒッ!? ぞ、ゾンビ!? なんで女子寮の部屋にモンスターが!」
なぜだか、とても失礼なことを言われてしまいました。明かりの消えてた廊下から明るい室内を見たせいで見間違えてしまったんだと思います。訪ねてきてたのは、カーラさんでした。
「あ、ああ貴女だったのね・・・驚かせないでよ、ビックリしたじゃない・・・まあいいわ。
バルトファルトに取りなしてもらった件だけど、実はアンタにも参加してほしいのよ。成績優秀らしいし、手伝いぐらいなら出来るでしょう?」
「その事で、実はお話ししたいことがったんです。確かにお話はしましたけど、やっぱりリオンさんを巻き込まないで欲しいんです。そのことで私の方からお訪ねしようって思ってたところで・・・・・・」
「ふ~ん? そういうこと言うんだー? でも残念、今さら手遅れね。だって今回の依頼は、私から貴女に取りなしを要請したってわけじゃないから」
「え? で、でも確かに私、カーラさんから・・・」
「フフ・・・ちょっとね。事情があるのよ。詳しいことは、これから教えてあげる。そのために今日は来たわけだし」
胸の前で腕を組むとカーラさんは微笑みを浮かべて―――その笑顔がなぜだか笑っているのに、とても怖いもののように感じられて、私は何が起きるのか分からないまま彼女が一歩引いて、開けた扉の隙間から見える暗闇に包まれた向こう側からなにか恐ろしいものが入ってくる・・・・・・そんな不安に恐れおののかされながら、一秒、二秒と時間だけが過ぎていって――――
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「あの・・・誰も入ってこないみたいなんですけど・・・?」
「え・・・? あっ、そっか! 今日の昼からそうなってたんだったわね! ちょっと待ってて直ぐ戻って連れてくるから!」
「は、はぁ・・・?」
急になにかを思い出したみたいにして廊下へと飛び出してしまったカーラさん。
一体なにがどうなっているのか分からないまま、私は言われたとおり開いた扉の前で待っていると。
キィィ――――と。
なにかが軋むような音を響かせながら、暗闇の向こう側から最初に見えてきたのは、「ギョロリ」とした片目の眼球と、顔だったはずの場所が白一色で覆われている異様な光景――
「ヒッ!? あ、アンデットですか!? なんで学園の寮にモンスターが!?」
「モンフファーじゃないって言っへるでしょうば何度も何遍も! ははし聞きなふぁいよわはひの話を丁寧にしっかりとただひく理解したうへへでねぇ!!」
「え? あの・・・その声、ひょっとして・・・・・・ステファニーさん・・・?」
驚いたことに、そのモンスターミイラ男――じゃなくてステファニーさんはステファニーさんだったようでした。
昼間も似たような姿の時にお会いしていたんですが・・・・・・その、会ったときより傷が増えていると言いますか、座高が低くなっていると言うべきでしょうか・・・・・・。
「くぅっ!? その哀れんでるみふぁいに見下した目付き、気にくふぁないふぁねぇ! そんふぁふぉふぉより付き合ってくふぇるわよねぇ? 平み――って、フギャア!?
ちょ、ちょっと危ないふぁよカーラ! ちゃんと押しなふぁいよ! わはひが倒れたりひはら実家が大変なことになっても知ふぁなひからへぇ!?」
「ひッ!? は、はい! はい、分かっておりますステファニー様! 申し訳ございませんでした! ゆっくりと安全に押しますから、どうかお許しをぉ!!」
そう言いながら、後ろ向きに怒ってくるステファニーさんに、後ろからペコペコと下の方に向かって頭を下げているカーラさん。
そうなんです。今のステファニーさんは昼間に会ったときより傷が増えて、今では車椅子に乗って移動している重病人みたいな姿に変わっちゃってて・・・・・・それで気づくのが遅れちゃったんですけど・・・・・・。
「まっふぁく! どいつもこひつも―――特にアンふぁよ! 今はアンふぁ! 無理やりにでも手伝ってもふぁふからへ! もひ手伝わなかったら、アンふぁの周りを不幸にしてやるわ!
バルフォファフトの糞野郎も、そのクソッタレな妹も、高慢ちひなアンジェリカも、みんなみんふぁ不幸にしてやふんだから! そうなっへもいーわへ!? アンタにその覚悟があふほ!?」
「え、えぇ~とぉ・・・・・・その、えっと・・・」
どうしましょう・・・すごくお答えしづらい質問をされてしまいました。
ここは正直な想いとして、『あなたが一番不幸だと思います。大丈夫ですか?』って心配しているって言ったら・・・・・・たぶん、怒られちゃいますよね・・・?
それで答えられずに言葉を探していただけだったんですけど・・・・・・ステファニーさんは、それを返事と思ってくれたらしく、
「フン、従うひかない立場だふぇは理解してるみふぁいね。明日はカーラを迎えによこふから二人とほ、しっかりやるのよ。
――アンふぁもちゃんとしないと実家が大変なことにしてふぁるから覚悟しときふぁないカーラ!」
「は、ははははいっ! 畏まりましたステファニー様! わ、わたくしめはステファニー様の忠実なるペットに過ぎませんので裏切ることは決してございません! ですので、どうかご安心を」
「ふん! 分ふぁればいいほよ、分ふぁればへぇ」
それだけ告げて、私からの返事なんて最初から求めていないと思ってたように、当たり前のような雰囲気で背中を向けて部屋を出て行こうとして
「こんなのは――いけないと思います」
「・・・アァ?」
その背中に、必死に絞り出すように言った呟きが届いたのか、ステファニーさんはカーラさんに押される車椅子に座ったまま私の方へと顔を振り向かせ、私のそんな相手の目をしっかりと見つめ返しながら。
「り、リオンさんもアンジェも、妹のレインさんだって凄く強くて、賢い人達です・・・あなたに脅されても、きっとあの三人なら――」
「ハッ―――貴族に友達なンナァァァッ!?」
「ああっ!? ステファニー様! ステファニー様がおすっ転びあそばされるなんて!? 大丈夫ですかステファニー様! そんな身体で相手の髪の毛に向かって急に身を乗り出そうとなさるから――」
「う、ううううるふぁいわよふぁんふぁはさっきからグダグダとぉ! アンタが上手ふ支えてないのが悪いんでひょー!? この!この!役立たず! グズ!ゴミ! 平民以下の馬鹿貴族令嬢ーっ!」
「ヒ、ヒィィィ!? お許しを! どうかお許しをステファニー様! 学園の寮内でございますからアバババァッ!?」
「アンふぁみたいな貴族は、腐ったミカンなのふぉ! ダニなのふぉ! ゴキブリなのふぉー! キモいのよ! ちょーキモイのふぉ! こほこほこほぉぉ!!」
「あんひぃぃぃぃッ!? あばばばばばばぁッ!?」
「え、えぇぇ~~~とぉ・・・・・・」
そうして始まりだしてしまった、ステファニーさんがカーラさんを足蹴にする光景を目前にして、私にはやっぱり反応を迷うことしか出来ませんでした・・・。
身分の差を乗り越えて止めに入るべきだとは思う・・・・・・けど、私にそれが出来る力があると思うことも出来なくて・・・・・・結局なにも出来ないままモヤモヤした想いを抱えながら―――リオンさんたちに依頼の中継ぎをしたカーラさんの家がもつ領地へと海賊退治に向かう日の朝がやってきます。
――朝だった。
そりゃもうお日様が熱っ苦しいほどの高さまで上りまくり、身分的には上になっても女尊男卑な社会では先にきて待ってなきゃいけない、港の一角で立たされ続けている俺たちバルトファルト兄妹があるわけで。
「ふむ。実にいい日和になって何よりだな兄君くんよ。まさに空賊退治日和と言っていいほどに」
「なんなんだよ、その空賊退治日和って。また訳わからん造語を造ってんじゃねぇよ」
隣に立つ今生での妹で、前世ではリアル赤の他人女子だったレインと並んで待ち人がくるまでの時間をボンヤリと過ごしながら、適当に雑談を交わしているバルトファルド家では恒例行事になっちまった日常の1シーン。
ルクシオンを手に入れた遺跡で見つけて、そのまま俺たちの専用船ってことになっちまった後で多少の改造を(ルクシオンが)施したらしい船《ファルトナー》を背にしながら、依頼人と仲介者の女の子達2人を待ちわびてる俺たち兄妹。
あの緩い乙女ゲー世界の中だからねぇー。
たとえ助けを求められた側で、相手から跪いて依頼してきた頼み事を引き受けてやってた場合でも、男は女より早く来て待ってなきゃいけない女尊男卑のホルファート王国の伝統。マジ死ねよな本当にクソゥ。
「しかし何だね。こういう天気の日に出発した、空賊退治やら盗賊退治やらのイベントというものは、高確率で好感度アップイベントが発生しやすいのが、この手の依頼の常識でもあるわけだが」
「どこの世界の常識だよ。ねぇよ、そんな頭おかしい常識。・・・・・・まぁ、確かに多い気もするけどな。こーいうイベントの時ってのは何故だか、なんとなく・・・」
「なので兄君くんは、イベント中に好感度を上げてしまわぬようよく注意して、選択肢と行動を選んで欲しい。
モブ男子キャラとして転生した者らしく、モブ村人Aとしての人生を全うするため、その後の展開に大きく関わってくるようなイベントでの選択は注意して行って欲しい」
「斬新な警告だなオイ。そんなチュートリアル説明はじめて聞かされたわ。いや、分かるけども。分かるんだけれども」
そんな風にして一緒に暇を持て余してるらしいレインから、暇潰しの駄話にしかなりようがないバカ話が一段落ついたころ。
遠くの方に、コッチへと続いてる道で近づいてくるため港の中を歩んできてる女の子達2人の姿が視界に映りこむ。
そのうち片方は、来るまで自分の分も一緒に持たせてた相手から、俺の存在に気づいた途端に自分の分の荷物だけ引っ掴み、取り繕った体でコチラヘ向かって駆け寄ってこようとする露骨な猫被りっぷりに俺としては肩をすくめるだけで、溜息すら出す気になれない浅はかさ。
「やれやら、陰険なヤツだな。気づいてないとでも思ってんのか? アレって」
「その点を気にし始めれば、不快さばかり堪って得が0そうな相手だからなぁ。猫を被ってゴマを擦ってくるだけマシな方だと、前向きに解釈をした方が精神衛生的にも良いのではないか?」
「・・・前向きか? その解釈って。何かそれを前向きって考え自体が後ろ向きな気がするんだが・・・・・・」
「事実だろう? 例の伯爵令嬢殿だった時を考えてみたまえ。わざと見せつけるだけで絶対に猫被りなどやらんと思うぞ、今回の依頼者がドーナツ令嬢自身だった場合には」
「確かにな・・・・・・そう考えたら、あんなでもアイツの方が遙かにマシか」
頭の中でレインに言われたことを反芻して、原作では悪役令嬢の一人だったカーラ・フォン・ウェインへの評価を少しだけ上方修正してやるぐらいの微調整を加えてやる。少しだけだけどな?
実際、あのクズな伯爵令嬢のステファニーと比べたら、猫被ってゴマ擦ってくるカーラの方が何百倍もマシな性格の悪さに思えてくるから不思議なものだった。
思い出してみれば、原作での悪役令嬢だったアンジェリカが『身分が違う』とか『平民如きが』とか、やたらと地位とか身分を気にしまくるセリフを言いまくってきたのは、婚約者で攻略対象でもあるユリウスが絡んでるときのイベントが多かった。
まぁ、アイツの攻略ルートで邪魔してくる悪役令嬢なんだから当然なんだが、本人自身はあるいはそこまで生まれの身分を気にしまくるってほどの性格では、原作の時点でなかったのかもしれない。
――だが、あのステファニーって奴は違う。
アイツは自分と相手に身分の差があるんだってことを、わざと露悪的に見せつけて踏みにじらないと気が済まない、真性の性悪女だった。
最初は同じ大貴族令嬢ってことで、アンジェみたいに『嫉妬してただけで実はマトモ』ってタイプかと最初は少しだけ期待してみたんだが、直ぐにコイツは駄目だって分かった。それぐらいに酷すぎる性格のヤツ。
ただクズな性格ってだけじゃない。明らかにSだろアイツ絶対に。
必要がなくても相手を痛めつけて踏みにじらないと、普通に生活することさえできないような真性のクズ。
俺でさえドン引きするレベルで、アイツと比べたらレインの方がよっぽど―――よっぽど・・・・・・よっぽど、って程までじゃないけど、大分マシだと思える性悪だってことは間違いない。
あの性悪令嬢が一緒に俺たちの船まで同行して、船旅の間あーだこーだと言ってくるルート・・・・・・嫌だな。凄まじく嫌だわ。嫌すぎる。
そういう可能性も0じゃない、『イベントの裏事情』を知ってる側としては、確かに同行する相手がカーラなのは良かったと思っとくべき問題か。
「男爵ーッ、お早うございま~す。お待たせしましたー」
「いや別に。んじゃ早速出港するか――って、あれ? なんか近づいてくる奴いない? なんか見覚えある装備の連中が、なんか・・・」
「ええ、そうなんです。実は男爵の他にも空賊退治を手伝ってくれる方々が立候補してくれました。ちょうど来てくれたようですね、この方々です」
そう言って手の平を上に向ける仕草で指し示してくれた、『真っ赤な髪で槍使いのレッド』と『紫髪のナルシスト女顔男』の二人と目と目が合う。合ってしまった。
こうして、俺が引き受けた依頼を果たすため、『グレッグ・フォウ・セバーグ』と『ブラッド・フォウ・フィールド』を仲間に加えた、全く愉快じゃないパーティーは空賊討伐のため出航していくことになったのだった。
・・・・・・もうこの時点で、無難には終わりそうにないメンツになっちまった気がするけどな・・・・・・。
「最悪だ・・・・・・なんで俺の大事な《ファトナー》にチンピラを乗せなきゃいけない羽目になるんだよぉ~」
「誰がチンピラだこの野郎!?」
「本当に失礼なことを言ってくる、嫌なヤツだな君は!!」
斯くして乗せてやるのを特別に許可してやってから、デッキに移って言ってやった苦情に指突きつけながらテメコラ口調で怒鳴ってくる赤色の短髪、制服着崩し武人貴族がなんか言ってきてるわけだけども。
いや、お前だろチンピラは。どー見たってお前しかいねぇよ、今この場にチンピラは。
相変わらず自己客観視能力0すぎる連中に、ムキになって叫び声ツッコミしてやる気すら湧いてこなくなっちまった俺なのだが・・・・・・まぁ俺は一人で冒険者やってるわけじゃないからな。
困ったとき助けになるのが―――仲間ってもんだろ?
と言うわけで、こーいう時はコイツに一任。
「『面白そうだからオレも俺も参加するぜぇ』『目立ちたいだけなら引っ込んでろザコがぁ!』」
「うぐっ!? そ、そんな昔の言葉はオレは覚えてねぇからノーカンだッ!!」
「『お前の態度に腹が立つ・・・』『一撃で仕留めてやるぅぅ・・・死ねぃッ!』」
「ふぐぅッ!? い、いや、あのときは試合とはいえヨロイを使ってのものだったし――っていうか言い方!
言い方が悪くなりすぎてるよ! ボクはそこまで悪人っぽい言い方では言ってない!!」
そしてアッサリと言い負かされて、自己弁護と自己の正当性主張しまくるのに熱中する羽目になる熱血レッドとナルシストパープルの厄介者コンビ。
まったくバカな奴らだぜ。この妹相手に、その手の失言問題ヤラカシちまったからには後々まで覚え続けられちまって、事あるごとにネチネチ口実に利用されるに決まってんだろうに。
これだから、緩い乙女ゲー世界で生まれ育ってヤラカシ発言犯してもツッコまれない王族貴族身分に生まれた苦労知らずのお坊ちゃん共は。
それでオレが今まで何回、泣かされてきたと思ってんだか、チクショウめ。
「ご、ごめんなさい男爵。私がブラッド様たちにも声をかけていたのを、お伝えし忘れてしまって・・・」
「――コホン。そういうことさ。カーラの家は、僕の元婚約者だったオフリー家令嬢の寄子でね。
元とは言え婚約者から助けを求められては放っておけないのが、僕の騎士道であり通すべき筋というものだ」
「お前から、婚約者いるのに新しい別の女に浮気して別れた相手だもんな。法外な慰謝料でも請求されて、『払えなければ身体で支払え』とか脅されて来たのか?」
「失礼すぎるにも程があるな君は!?
僕はただ、実家がファンオンス公国との国境警備を任されていて、公国との外交で活躍した功績があるオフリー家令嬢との婚約解消で負い目があるから、断れる立場じゃなかっただけだ!
別に脅しや脅迫を受けたから協力しに来たわけじゃない!!」
大声で無罪主張してくるブラッドだったが―――それって「自業自得」の一言だけで済むんじゃね?
一方的に恩ある立場の奴が、どこの馬の骨みたいな合法ロリ女のハーレム要員になるため一方的に婚約破棄してきたら、そりゃ誰だって怒るだろ普通に考えて。負い目やら罪悪感の一つや二つぐらい普通は負うわ。負わない奴が人格に問題あるだけだわ。
「・・・で? ブラッドの方は分かったが、グレッグ。お前まで付いてきてる理由は?」
「オレは、討伐しに行くのが賞金首の空賊だって聞いたんでな。退治すりゃ報酬が出てマリエの助けにもなる。それで助っ人として参加しに来てやったってわけよ」
「そりゃいいんだが・・・・・・たった槍一本だけの装備でか? 空飛ぶ空賊を相手にするつもりで?」
「し、しょうがねぇだろうが! オレのヨロイは、テメェらとの試合で壊されまくった時に没収されちまったままなんだから!」
吠えるように俺は悪くない論を主張してくるグレッグだったが―――やっぱそれも自業自得だけな気がする俺がいる。
なにしろコイツらって、
「ソレは仕方のないことだろうな。
美少年ハーレムの一員になるために婚約を破棄して、女から好かれるためだけを目的に受ける必要のない決闘に自主参加し、王子様の惚れてる相手からの好感度アップを狙った戦いで負けてヨロイを壊され、試合に負けた後に『俺は負けてない発言』を叫びながら鉄骨振り回して殴りかかってきた、負の実績ある身だからね。
仮にも人の親としては、『ヨロイを持たせ続けて大丈夫か?』ぐらいは思うのが妥当な判断というもの。
何とかとキチガイに刃物的な不安という理由によって」
「ぐっふゥゥゥゥッ!?」
容赦なく優しさもなく慈悲もなく、優しくしてやる必要も義理さえもないレインからの言葉責めによって、空賊と戦うまえからノックアウトさせられそうなほど精神的ダメージ受けさせられまくってる熱血レッド野郎の槍男グレッグ。
見た感じスゲェ痛そうな状態だったが・・・・・・ありのままを普通に言ってるだけでもあるんだよな、レインから今回のツッコミって。
って言うか、改めて声に出して羅列してみたら本当にろくでもない事ばっかしかヤラカシてねぇよな、この攻略対象の男共は。
クズじゃねぇか。普通にクズ男じゃねぇかよ。
見た感じのイメージとかで、なんとなくステファニーの方がクズっぽい感じがしてたけど、やってる行動的にはコイツらの方がよっぽどヒデェ。
しかも考えてみたらアイツって、一応は婚約者だった男から【合法ロリ女のハーレム入りするために婚約破棄されて捨てられた女】って立ち位置になってたのか・・・・・・そりゃ怒るだろ、普通に考えて。怒らない方が珍しいぐらいには。
その結果として巻き込まれた可能性ある身としては、同情する気にまでは全くなれねぇけど、俺たちを巻き込む原因を作ったかもしれない元婚約者パープル男にだけ共感する気もなければ、同情する気にはもっとなれない。
同類だ、同類。類友同士で仲良くしとけよ。そして遠くで幸せになって、俺たちを巻き込むんじゃねぇ、ケッ!ケッ!
「ぐっ・・・お、おぉぉぉぉ・・・・・・オオっ、――オレはまだ負けないッ! たとえ生身でも、ヨロイは空賊から奪って戦い続ける!!」
「いや待て!? その理屈でこの前の試合負けてなかったかキミ!? 学びなよ敗北から! これだから脳筋はッ!!」
「なんだとぉ!? それが頼りない紫に付いてきてやった仲間に向かって言うことかテメェ!」
「頼りないとないとは何だ! 僕だってどうせならクリスに付いてきてもらいたかったんだよ! 殿下たちと一緒に実家へ呼び戻されてしまったから仕方なく連れてきた補欠のくせに!」
「んだとぉ!?」
「ま、まぁまぁ落ち着いてくださいお二人とも! とにかく今はみんなで力を合わせて頑張るべき時ですから仲間同士でケンカをなさらないで! ほ、ほら! オリヴィィアさんもお願いしてあげて!ねっ!?」
「・・・え? あ、はい・・・そう、ですね・・・。みんなで力を合わせて頑張らないといけない時“のはず”ですもんね・・・。
お二人とも、ケンカは止めましょう・・・争いはなにも生みませんから・・・・・・ハァ~・・・」
そして何故だか、悪役令嬢が一番仲裁するため間に入って頑張ってる意味不明状況が悪化する、と。・・・・・・ほんとコイツラ、たった2人だけで何できると思ってきたんだろうか? 5人揃ってたら役立つって訳じゃないけどさ。
それになんかオリヴィアさんもテンション低いみたいだし、アンジェと何かあったかな?
文化祭のときは、(多分)性悪妹が起こしてた騒ぎの中で、なんか一緒に性悪を非難してたシーンぐらいしか見た記憶がないんだけど。
「さて、本題までの適度な雑談で暇潰しできたことだし、そろそろ業務開始の時間になったようだな。お迎えのようだぞ? 兄君くん」
「・・・・・・来たのか?」
「ああ。獲モ―――もとい、空賊の飛行船が背後から二隻だ」
「獲物言うな。逆だ逆、俺たちの方が退治する側なんだから一応は」
「「・・・・・・?? なんだ?」」
手慣れた調子で、いつも通りにルクシオンと一緒になって船の窓から索敵の目を向けていたレインからの『クエスト開始』を告げる合図を受けとって俺たちは席を立ち、ハンガーへと向かって歩き出す。
紫と赤の二色は放置。どうせ今の状態じゃ役立たねぇし。
せめて敵からテキトーなヨロイを奪ってきてやってから考えりゃいい。
そうして始まる俺たち兄妹と、一応は討伐依頼されてる空賊たち―――正確には、討伐相手の中では下っ端扱いの《ウィングシャーク》とかいうザコ部隊でしかない奴らとの戦いで、コイツラ倒しただけだとクエスト成功にはならないんだけども。
まっ、前哨戦みたいなもんって感じで。
「とりあえず、次の戦闘のために襲ってきてるヨロイでも幾つか奪って手に入れてやるか。
まったく、あのバカ達がきたせいで面倒ごとが増えちまった。少しは楽させろってんだ。
――行くぞ、イクシオン。レインも」
『了解。こちらは準備いつでも良しだ兄君くん』
通信機から応答を確認したうえで、俺はファルトナーの甲板上に一機だけ立たせていたアロガンツを飛び立たせて、編隊組んで接近してくる空賊共のヨロイ部隊中央めがけて加速させていく。
それだけの行動だったが、鈍重そうな見た目のアロガンツが予想外のハイスピードで接近してきて最初の一機を損傷させて墜落させられると、アッサリと混乱して編隊乱して俺を撃ち落とすためだけに必死になって迎撃してくるが、遅すぎるし下手すぎる。アロガンツには擦りもしない。
たった7機かそこらのヨロイだけでアロガンツ相手に、なにが出来るってもんでもない。
短時間で半数以上が落とされたのを見せつけられた相手側のリーダーは、さっさと抵抗を諦めたらしく味方機を置きざりにして船だけ転身させて逃げようとしている。
「な、なんだコイツぁ!? 何をやっているッ、撤退だっ! 急速旋回! 舵をきれぇ!!」
「り、りょりょりょうか――う、ウワァァっ!?」
ズシィィィィッン!!
「な!? ななな、今度はなんだこの揺れはぁーっ!?」
「ほ、本艦の甲板にヨロイが乗っています! 味方じゃありません! あの敵の機体と似たヨロイが、いつの間にか・・・ッ」
『空賊くんたちに告ぐ。君たちに表示されている選択肢は、以下の通りである。
1:「降伏して諦めてブルーになる」
2:「負けを認めず死ぬまで戦うレッドになる」
3:「死ぬ」
・・・・・・どれがいいかね?』
「「「1だよ!? この状況で1以外に選び道ねぇだろうが!
って言うか、3の選択肢はなに!?」」」
こうして空賊達との第一回戦は俺たちの圧勝で終わった。
もっとも、予想外な強さを示した俺を止めようと必死になりすぎて、《ファルトナー》から意識を完全に外しちまってた時点で、もう負けてたんだけどな。
艦底に張り付いてたレインのアローガンツが、俺に敵の注意が集まったのを見計らって艦から飛び立って、大きく大回りしながら敵の母艦の背後に回り込むのに成功してチェックメイト。
いつも通り俺たちがよくやるコンビネーションだけで勝てちまった。
敵が少数のザコ部隊だけで攻めてきて、本体は出し惜しんでくれるケチな奴らだったおかげで楽できたな。
《いっそ撃墜した方が早かったのでは? 連行するのもかなりの手間かと》
「いや~、人殺しを嬉々としてできる精神構造じゃないんだよ。って言うか、学生に求めるなそんなもん。他の奴らだってやってないのが大半なんだから」
《まぁそうなのでしょうが、マスターは他の有象無象とは些か異なる立場です。いずれはその主観と客観との認識の差異がもとで失敗することになるかもしれませんよ?》
「だとしても、だ。俺はなるべく―――モブ(普通)でいたい」
ルクシオンからの問いに答えてやりながら、俺には特にそうなった場合でも後悔はなかった。少なくとも今の俺はそう思っている。
何しろ俺はモブでしかないし、モブでいたい。
そーいう、使命だとか誰かの命だの人生背負うだのとか、選ばれた者みたいなことは―――主人公(オリヴィア)たちがやってくれれば、それでいい。
本当に――――俺はその程度のつもりで、空賊達を殺さず生かして捕まえた訳なのだが。
「では諸君、これより我々は勝利に乗じて空賊たちのアジトを襲撃する壊滅作戦を実行する」
『『『・・・・・・はい?』』』
「おそらく敵は今頃、最初の襲撃で予想外の大失敗したことを関知して、次の襲撃で万全を期すため本体出撃の準備をしているはず。
こちらから逆に攻めてくるとは考えていないだろうから、楽に勝てるはずだ。楽に勝って、楽に報酬をゲットして、さっさと王都の学園へ帰還しようではないか」
『『『え? いやまぁ、そうかもしれれないけど、えっと・・・・・・』』』
「幸い、兄君くんが生かしたまま空賊達を捕らえてくれたので、彼らから情報を得ることが可能になった。
アジトの場所は大凡の見当がついていたものの、より確実となるだろう。兄君くんの手柄だ。
はい、みな兄君くんの手柄に拍手~。ぱちぱちぱち~」
『『お、お~~・・・・・・?(パチパチパチ?)』』
「では早速、そこの空賊の下っ端その1君。
君のまえには今、2つの道が広がっている。将来に関わる選択かもしれないので、よく考えて選んで欲しい。
1つは、『敵に降伏しても仲間を売り飛ばす卑怯者にはならず、反社会的アウトローとして仲間を守って民間人は守らず、悪のアウトロー道を貫いて拷問される道』
今1つは、『悪の仲間を見捨てて密告して、普通の人達の平和な暮らしを守るため昨日までの仲間を破滅させて自分は生き延びる、正義の卑怯者になる道』
――どちらがいいかね?」
『『『いや言い方!? 言い方が悪いだろ言い方が!!』』』
「ふ、ふざけんじゃねぇガキが! 俺たちは腐っても空で生きてきた空賊よ! たとえ国に囚われ脅されたところで、死んでも仲間を売り飛ばすようなクズにはなら」
ドカバキズベシボキゴチン!!
「・・・よし、そこの熱血レッド君。
大人しく静かになった空賊君を、そこの船の端から外に吊して縛ってあげてくれまいか?
落ちたりしないよう、しっかりとだぞ? 我が輩は人殺しを嬉々として実行できる精神構造はしていない乙女なのだから、死んだら可哀想というもの。
まぁ、縛ってるロープが切れない限り決して死なないだろうが、もし事故で切れて落ちたときは確実に死ぬが・・・・・・事故だから仕方がない。
と言うわけで、次の空賊の下っ端その2君は、君に決めたので、さぁどうぞ。
まだまだいるので、一人ずつ元気にドンドンいってみよ~」
「ギャ~~~!? 助けて! 助けて! 誰か助けて!? コイツ怖い! この女怖い!
無表情に淡々としてても、なんか楽しそうで怖いよ~~~~ッ!?」
「失礼なことを言う奴だな君は。―――ふふふ、フフフフフ・・・・・・♪♪」
・・・・・・とか悪ノリしまくったレインの作戦によって、急遽このまま空賊のアジト襲撃イベントまでこなし、即日の内にクエスト依頼達成まで持っていくスピード解決へと移行していくことになった俺たちであったとさ。
改めて思う。やっぱ妹はダメだよ妹は。だってSだし。
Sの妹はダメだよ。なんか怖いし。
つづく