試作品集   作:ひきがやもとまち

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なんか目が覚めたから折角なので昨日出し忘れてたサスロ・ザビ主役のガンダム二次作を出しときますね。私としては珍しすぎる事にTSでも転生でもない、ただ「あの時彼が死んでいなかったら」のIF作品です。

誤字修正や返信は、また朝にでもという事で。


サスロ・ザビの思想

 ドォォォン・・・

 ドォォォォン・・・・・・

 

 無数の弔砲が轟き、鳴り響いている・・・・・・。

 

 宇宙世紀0068。

 この日、ムンゾ自治共和国の首都コロニー「サイド3」において、後の歴史に大きな禍根を残すことになる二つの大事件があった。

 

 一つ、建国の父にしてニュータイプ論の提唱者でもあったダイクンが演説を前に心臓発作で急死する『ジオン・ダイクン暗殺事件』

 

 

 

 そしてもう一つは、ザビ家の次男にして国民運動部長サスロ・ザビの『暗殺“未遂”事件』がそれである。

 

 

 

 

 この事件について後世の歴史家たちは、口を揃えてこう語る。

 

「あの時サスロ・ザビ暗殺が成功していたならば、宇宙の歴史はもっと別の方向に流れていたはずだ」とーー。

 

 

 

 

 

 

 

「デギン・ザビ、バンザァァイ!!」

 

「ラル家のヤツラを叩き殺せえ!!」

 

「ダイクンバンザイ! デギンバンザイ!

 ザ・ビッ! ザ・ビッ! ザ・ビッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ふん。文字通りの無政府状態だな。仮にも独立を手にして主権国家を名乗りたい国の首都がこの有様では、他のサイドからはさぞ物笑いの種に使われているんだろうよ。

 なぁ? そうは思わんか貴様も? ん?」

「・・・・・・」

 

 俺が話を振って、相手は無言を返事として返す。

 それ自体は予想できたことであり、予定していたことでもあったので何ら問題はない。背後で睨みつけるように監視していた側近どもが「無礼な!」と色めき立つのを目で制し、俺は片手を振って取り巻きたちを退室させるとソイツに向かって席を勧める。

 

「呼び出しておいて客を座らせようともしないのでは、ザビ家の沽券に関わるんでな。よければ座って楽にしてくれ。なんなら冷たい飲み物でも用意させるか?」

「・・・・・・」

 

 先ほどと同じく沈黙で返してくるゲスト。

 が、先ほどの沈黙とは明らかに空気と意味合いが異なっているのを俺は敏感に感じ取っていた。相手の中で俺に対する警戒感がわずかに揺らいでいるのだ。

 それは単なる吊り橋効果にすぎない、非常事態において意外な人物から意外な対応をされた人間が陥りやすい心理状態だが、今の俺にとってそれは素直にありがたいモノだったから不快感を抱く道理はない。

 

 それを感謝の言葉として相手に伝える。「ありがとう」を言葉にして伝えることは大切なことだ。

 人は自分で聞いた言葉と、第三者からの又聞きを元に自分以外の人間を捉えようとする。自分の理解できる枠組みに押し込むことで相手を理解したと思いこみたがるのだ。

 

 だからこそ、可能な限り第三者の意見と異なる自分を見せてはいけない。相手の中の自分を曖昧にするのはマズいのだ。それは心の隙間となって、悪意ある第三者に介入する余地を与えてしまう。

 民衆からの好評価と、実の父親から聞かされた悪評。このアンバラスで曖昧な人物像に明確な形を与えてやる必要がある。

 

 俺に恨みを持つ誰かによってソイツの中に俺が形作られてしまう前に、俺が俺自身の手で俺を形作らなくてはならない。俺を誤解される前に、俺を誤解“させなければ”いけないのだ。

 

「安心しろ、取って喰うつもりで呼び出した訳じゃない。・・・と言っても、この状況で俺の言葉を信じるなんてお前には不可能だろうがな」

「・・・・・・」

「それでも今この場においてだけは俺の言葉を信用してくれて良い。いくらザビ家の一員とはいえ、病院で暗殺騒ぎはヤバすぎるってことくらい弁えてるよ。

 亡きジオン・ダイクンの遺言によって政権を引き継いだザビ家の次兄として命令する。そこに座れ、ランバ・ラル大尉」

「・・・・・・はっ。では私には、美味い水を一杯いただきたい」

「謙虚だな。せっかくの機会だぞ? 62年物のシャトー・サンフリュールを寄越せとでも吹っ掛ければよかったろうに」

「癖、ですね。私のような戦馬鹿が政治に巻き込まれないようにするためには、あなた方とは違う生き方をせざるを得ませんでしたから」

「賢明だな。お前がそう言う奴だから俺はお前を一度は殺そうと思ったし、今では唯一頼りに出来る男だと確信させてくれる」

 

 やや不満そうではあるものの、概ね従順な態度で俺の命令に従った政敵ジンバ・ラルの息子ランバ・ラルの姿を前にした俺は心の中で、密かにだが安堵していた。

 

 ーーでなければ正直マズいのだ、この情勢では。

 

 ダイクン暗殺成功直後に起きたダイクン一家の私邸脱出に際して妹のキシリアが見せた甘さに激高した俺ではあるが、変化していく状況の中で誰を一番信用すべきか判断して頭を下げる程度の現実感覚は備えているつもりだ。それは相手が誰であろうと例外じゃない。

 

 そうだ。たとえ頼る相手が、将来自分たちを食い殺しかねない復讐鬼を育てることになろうとも、適任だと思うのならば委ねるべきなのだ。

 

「まどろっこしくて迂遠な言い方こそ本来は政治家の領分なんだが・・・正直今は時間が惜しい。率直に用件だけ伝えさせてもらうが構わないな?」

「・・・良くない目をしておられる。その目を見る限りにおいて、ウソをついてはおられぬようだ」

「ほう、スゴいじゃないか。ゲリラ屋ってのは、そんな事まで分かるもんなのか?」

「ええまあ。これでも目を見て人を評価する才能には自信があるものでしてね。今まで一応ながらも外したことがない。前線の兵士は経験則をこそ信じたがるものです」

「ありがとうよ。政治家なんて人でなしの職業を自分にとっての天職だと確信している俺みたいな奴にとっては、最高の褒め言葉だったぜ」

「・・・・・・」

「すまん、自分から言い出しておいて話が逸れたな。どうにも政治家生活が長すぎると冗長で意味のない長話が癖になる。いささか考えものだな」

 

 俺はなんとか動かせる左手だけでグラスを傾けながら、窓外において展開されている異常事態という名の盛大なカリカチュアを見据えながら、ようやく本題にはいる。

 

「現在の状況は説明するまでもない。ギレンの兄貴が乗せられて暴走し始めた。キシリアも自覚するより先には火中の栗だ。拾おうとして火に巻かれるのは、さしずめ貴様の父親ジンバ・ラルと取り巻きたちと言ったところか」

「・・・・・・」

「驚かんのだな・・・などと言う三流子供向けアニメの三文台詞を言うつもりはない。お前が聞きたがっている俺からの言葉は一つだけだろう? それを聞いたところでお前の進む道に変化があるとは思えんが、それでも主の一族と関係しているのなら知っておきたい。ーーお前らダイクン派は比較的穏健なわりに、変なところだけ復古主義的で過激な軍人思想だよな。なんでだ?」

「・・・・・・」

 

 おお・・・これは驚いた。あのランバ・ラルが詰まらない質問で答えに窮している。

 あの時死んでいたら確実に拝めなかっただろう光景を前に、俺はおかしな感慨を抱きつつも相手の願望に応えてやることにした。

 

 元より、そのために呼んだのだ。教えてやらねば計画が先に進められない。多少の危険は覚悟の上だ。

 

「良いだろう、教えてやる。ダイクンを暗殺したのは俺たちザビ家で、その目的はムンゾ共和国をザビ家独裁による専制国家へと移行させてジオン公国を名乗り独立を宣言。

 地球連邦政府に宣戦を布告し、来るべき大戦においてジオンを勝利させるためだ。

 そのためにはザビ家の邪魔になるダイクンを暗殺せざるを得なくなった。これが今回起きた一連の事件の真相だよ」

「・・・そ、それは・・・」

「別に驚くには値しないだろう? この現状を見れば誰でも冷静でありさえすれば気づくだろう程度の裏事情だ。その冷静さをメディアを使って国民から奪い取った俺の言えた事ではないだろうがな」

 

 くっくっくと、露悪的に笑って見せながら俺は、今度は嘘偽りない本心からの真摯さでもって俺個人としての目論見を一部ながら開陳していく。

 

「白状するが、俺は兄貴たちと違ってムンゾがジオンに商標を張り替えた程度で勝てると思うほど、連邦を甘い相手とは思っちゃいないんだよ。

 だからこそダイクンの死で混乱を来すであろうムンゾ市民に余計な真似をさせることなく、連邦からの介入を最小限に抑えるために色々と画策して実行してきたんだ。

 だがーー」

 

 俺は静かに、だが強くかぶりを振って、

 

「状況が変わった。変えられてしまった。もうこのプランは使えない。使い物にならない。悔しいし惜しくもあるが、先を考えて方針を180度変更したい。そのためにお前の協力が必要不可欠だと思ったから来てもらった。忙しいところを邪魔して悪かったな。

 猫に引っかかれた傷は、よく洗って消毒してから治療しておけよ? 不衛生な戦場では、ちょっとした掠り傷で人が死ぬそうだからな」

「お気遣いいただき、光栄に思います」

「気にするな。むしろ、恨め。俺はこれからお前に、傷より遙かに重くて大きな荷物を押し付ける気満々なのだからな」

「・・・・・・」

「お前の親父の邸宅に今、二人の子供と一人の未亡人が匿われているだろう?」

「・・・・・・っ!!!」

 

 突如として殺気だって立ち上がろうとしたムンゾ防衛隊の若手将校に片手を上げて落ち着かせて暴発の危機をひとまず棚上げした後に、本題の中では最も重要度の高い本命の願いを口に出す。

 

「お前にはダイクンの遺児たちを父親ともども地球へ逃がすのに協力してもらいたい。足はこちらで用意する。お前らはガキどもの安全だけ確保して船まで送り届けてくれたらそれでいいんだよ」

「なっ・・・!?」

「なぜザビ家の人間がその様なことをーーか? 簡単な話だ。ムンゾには置いておけないし、かと言って暗殺と謀略だけで国は建たん。そこら辺が理解できてないお調子者で苦労知らずな妹に、これ以上勝手されては堪らんのだ。今のアイツは宇宙中で自分より優秀な人間などいないと思い込んでいるからな。危険きわまりない。

 あのまま行けば間違いなく部下に殺される未来しか待ってはいまい。それをさせないためにも、これ以上アイツを助長させる要素など与えてなるものかよ」

 

 自分でも甘いことを言ってるなと自覚してはいるが、しかしこれは遠くない将来ジオンが公国制を敷き続ける限りにおいて確実に到来するであろう現実的な大問題なのだ。疎かになど出来ようはずがない。

 

「ジオン公国はザビ家の一党独裁を制度化した作りになる予定だが・・・兄貴はおそらく、それだけでは満足しないだろう。ほぼ確実に勝利の余勢を駆って地球圏全体の支配に乗り出す腹づもりだ。

 それはジオンの国力が支えられる兵站線の限界を事実上無視した机上の空論世界戦略だが、兄貴が頂点に立つ独裁国家ができあがってしまえば可能不可能を議論する余地すらなく実行に移されてしまう。専制的な独裁者による独裁政治とは、そう言うものだからだ」

 

「だが、それでも兄貴が健在な間はなんとかジオンもやってはいけるだろう。あちらこちらでガタがきて、無理や負担を色んな所に分担させながら、誤魔化しつつもやってのけてしまう。兄貴にはそう言う化け物じみた政治力と、理屈では説明できない魅力がある。

 俗に言うカリスマ性と言う奴だ。あの人は、不確定多数の人々を熱狂させるのが非常に上手い。現実から目を逸らさせて敵に向けさせる能力は異常なくらいだ」

 

「しかしそれでも兄貴は人間だ。化け物じゃない。化け物ではない人間だから、当然のように寿命があって歳もとる。

 加齢による能力低下は人には決して避けることの出来ない、人生の命題とすべき大問題なんだよ」

 

「したがって、兄貴に倣い世界を取っても永続支配は出来ない。事実上、一党ではなく一族の独占によって成り立つ支配体制において跡継ぎ問題は最も重要で重大な国家の抱える致命的な課題だ。

 一族の直系が俺を含む五人だけでは、誰か一人を亡くしただけで未来のジオンは大きく揺らぐことになる。敵がいるから、自分たち個人個人よりも強いから、弱い俺たちは一致団結しなければ勝てないんだと思い込ませるために今回の計略は練っていた物だからな。これを今から微調整して使える物に直したいんだよ」

 

 所詮は30分の一以下の国力しか持たない新興国家が行う戦争だ、蟷螂の斧による一撃にすぎない。連邦という巨人を蹲る事は可能だろうが、倒すまでには決して至らない。

 

 なればこそ、だからこそ。ダイクンの遺児二人を殺す殺さないで意見分裂したあげく、その計画が失敗に終わった後での責任追及問題において一門同士の罪の擦り付け合いなど数的に考えて絶対にしてはいけない行為なのだ。

 最悪の場合、連邦という人類が生み出した絶対的な神にも等しい怪物を相手に戦っている最中に地位を巡って、家族内で殺し合いが始まってしまうかもしれん。そうなったジオンは必ず負ける。

 

 自分で動こうにも、あちらこちらでキシリアの部下たちがうろついている。警備兵の名を借りた俺の監視役だ。どうやら先日の一件は部下たちに殆ど知らされてはいないらしい。

 

 

 

 

 

「キャスバルとアルティシアは地球へ逃がす。それからは名を変え姓を変え、別人として生きてもらう事になるが、長じて父の仇を討つために士官候補生としてジオン公国へと舞い戻ってきたとしても俺は一向に構わん。

 使えりゃ使うし、使いこなせなければ飲みこまれて消化される未来が待ってるだけだからな。棺桶に押し込められた後のことまでは責任負えんよ」

 

 

「自分たちより強く強大な敵と戦う前に分裂するのは国家にとって自殺行為だ。自分から死ににに行くようなもんだ。

 だが逆に敗け始めた場合には、それまでとは違う人材と能力があってくれた方がありがたい」

 

 

「敵との交渉において仲介役がいるといないとでは結果が大きく異なる。仲介役が敵勢力の幹部だったとしたら国を預かる者にとって、こんなに嬉しいことはない程度にはな。

 俺がお前に期待して任せたいのは、ジオンが負けてザビ家が滅んでしまった場合の生き残り策の前準備だ。ザビ家とダイクン、双方が倒れてしまえばスペースノイドの自治権要求、それ自体が消え去ってしまう。歴史に飲み込まれ、社会に消化されていってしまう」

 

「それではダメだ。ジオンはザビ家が滅んだ後も続いてもらわんと困る。その為にも保険が絶対にほしい。

 ザビ家が滅びた後にダイクンが復活して政権を簒奪し、ジオンを継続しておけるように準備を整えておきたいのだ。

 その為にもダイクンの遺児は逃がす。たとえ、兄貴や妹、軍や連邦との衝突があったとしてもだ。これは決定であり命令である。謹んで受領するように。復唱!」

「はっ! 復唱いたします!

 小官ことムンゾ防衛隊所属のランバ・ラル大尉。これより拝命しました特別任務を開始いたします!」

 

 

 

 

 

 

「あ、大尉殿。如何でしたか? 毒でも飲まされたりはしなかったでしょうねーー」

「お二方の脱出作戦をやるぞぉーーーっ!

 一個小隊じゃ足りんから、三個小隊ほどついて来ォいっ!!」

「「「・・・はい?」」」


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