試作品集   作:ひきがやもとまち

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【ボツ】の2章目を書き直してある回です。主な変更点は、

1、身分証明書について。詳細は作中にて。
2、ボリスさんとシェラとの会話シーンは描写されてないだけで行った事になっている。
3、ユーリの作為と悪意がパワーアップしている。

・・・今思いつくのはこれくらいです。


チート転生は、ひねくれ者とともに 2章 改正版【ボツ】

 ・・・シャリ。

 私は露店で買ったリンゴをかじりながら街の大通りを見て回りまっております。

 

 指揮官さんたちを護衛しがてら付いてきた都市は、この地方だと中堅くらいの規模を持つ公益中継都市『ディラント』と言うそうです。

 この国でも比較的珍しい食べ物なんかが売られていてちょっとだけ楽しいですね。思わず指揮官さんからもらった謝礼金をつぎ込みそうになって困るほどですよ。

 

 名前が物々しいのは、数十年前まで戦争していた隣国との前線基地を兼ねた城塞都市でもあった過去を持つからだそうで。そのせいか外国人が街に入る際には入市税がかかったり、形骸化した手続きにかなりの時間をとられたりと言った当時の安全管理手法が未だに伝統として受け継がれているのだそうです。

 

 もっとも、当時の時点で隣国相手に民間人同士では商売してたらしいから政治的な軋轢が原因だったんだろう。多分だけれども。なにも知らんけれども。

 

 

 ーーー結局、異世界生活一日目におきたプロローグイベントで手に入れた最初の報酬は、それら諸々の面倒な手続きの省略と入市税の免除。それから現金として金貨五枚と銀貨30枚。失ったものは一晩寝れば回復するMPのみ。

 ・・・これって多い方なの? 少ない方なの? 基準がまったくわかりません。

 

 あと、風景に不快な物が混ざっていて非常に不愉快です。

 

「・・・まぁ、『昨日の敵は今日の友』という言葉が示しているとおり、状況と立場が変われば関係も激変するのが人間という種族ですからねぇ。仕方がないっちゃ仕方がないんでしょうけれども」

 

 私がそうつぶやかざるを得ない光景が目の前に広がっていて正直疲れますね。精神的に。

 

 

「オラ! 邪魔だ! 退けよガキ! 獣とのハーフ風情が人間様の住んでる町で堂々と通りを歩いているんじゃねぇ! ブン殴られたいのか!?」

『・・・・・・(びくびく)』

 

 ーーーどうやら、この異世界は人間優位社会で亜人は排斥されてる設定の、ネトゲの世界に転移しちゃった系ファンタジー世界なようで。うん、最近よくあるよね。あるある。

 

 さて。こういう場合チート転生者はどう行動するべきなのか、考えるまでもないですよね?

 

「退けって言ってんのが聞こえねぇのかクソガーーーー」

「えい」

 

 ドゲシっ!

 

「うおわぁっ!?」

 

 無論、蹴る。蹴り飛ばします。ゴミ置き場とかが近くにあるなら、そこに向かってゴールイン出来るように加減した上で力一杯蹴り飛ばすのが正解です。

 可愛い女の子と敵対するブ男など死ねばいい。

 

「ーーーなにしやがる!?」

「蹴り飛ばしたんですよ。見ただけでなく体感したのですから、あなたの方がよく分かっているでしょうに。それとも誰かに説明してもらわないと常識的判断すらできなくなっているのですか?」

「そうじゃねぇ! どうして蹴ったんだって聞いたんだよ! それぐらい言ってもらわねぇと分からねぇのか馬鹿ガキが!」

「すみませんねぇ~。何分あなたが今おっしゃっておられた通りに、馬鹿ガキなものでして」

「こ・・・の、糞ガキがぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 『怒髪天を突く』とはこういう時によく使われる表現ですけど、長くもない髪が逆立ったぐらいで天は突けそうにありませんね。竹槍でB29落とそうとするようなもの、日本人が好みそうな言葉ですね本当に。

 

「このガキどもはテメェん家が飼ってる奴隷かなにかか!? そうじゃないなら関係ねぇ部外者は引っ込んでろ! 邪魔なんだよ目障りなんだよ鬱陶しいんだよ!!」

「そうですか。では、部外者は部外者らしくあなた方の都合などお構いなしに彼女たちの側についてあなたを敵と認識させていただくとしましょうか」

「ああっ!?」

「別に構わないでしょう? だって“自分たちの事情には関係のない部外者”なんですからね。こっちの都合を考慮する気のない相手の都合など考慮する義務など無い。違いますか?」

「ふざけてんのか!?」

「本気ですよ?」

 

 顔を赤らめて怒鳴り散らす相手の男性。・・・やはり頭に血が上っている相手に対してバカ丁寧な敬語というのは有効なしゃべり方ですねぇー。挑発の成功率が楽に上昇させられますよ。こういう時には非常に便利なコミュニケーションツールです。

 

「だったら何で、コイツ等の肩を持つんだよ! 奴隷だぞ、コイツ等は!? 虐げてどこが悪いってんだ!?」

「さぁ? あいにくと私は街に着いたばかりの余所者なので、この辺りの文化や風習には詳しくないのでサッパリ分かりませんね~。

 少なくとも私の生まれ故郷では人を奴隷呼ばわりして殴る蹴るしてる人達を見つけたら国が裁いてくれてましたのでね」

 

 地球全体ではどうか知りませんが、私の生まれ故郷は日本ですのでね。行ったことのない外国のことを知った風には語れません。私は嘘は嫌いなのです。

 だからこそ今の私は、嘘は言ってませんよ。嘘はね?

 

「ものの道理も分からねぇガキが、大人の事情に首突っ込んでくるんじゃねぇ! 親から教わらなかったのか糞ガキ!!」

「ちゅいまちぇん、ユーリ、十歳だから難しい言葉つかわれてもわからないでちゅ。

 もっと簡潔に明瞭に馬鹿なガキでも解るように、伝わりやすい言葉を考えてから言葉を発してくださいませんか?」

「こ、この糞ガキ・・・・・・っ!! 糞ガキ糞ガキ糞ガキぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!」

 

 顔は真っ赤っか、目には正気の光が失せてきている。・・・そろそろですかね。

 

「大人の怖さってものを思い知りやがれ糞ガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 ブチ切れた末に、真っ正面から走ってきて子供の顔面を殴り飛ばす。チンピラの基本攻撃ですねぇー。ナイフでも抜かないもんかと冷や冷やしていましたが、さすがに十歳児相手だと拳で十分すぎると思うのが普通の判断ですか。まぁ、どちらでもいいんですけども。

 

「食らえやオラァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 私は、迫り来る敵のパンチを避けようとはしません。思いっきり力を抜いて「バッチコーイ!」の感覚で届くのを待ってるだけです。チートのおかげで大したダメージを受けるはずがないことは最初から分かり切っていましたからね。

 

 だからこそモロに食らって・・・・・・利用させてもらうんですよ。

 

 

「うおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!!!」

 

 ばじーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!

 

 ――ズッシャァァァァ!!! ごろんごろんごろん・・・・・・ドガン! ぱらぱらぱら・・・・・・。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 私が素直に拳を食らって、ふつうの同じ年頃の子が同じパンチを食らったときと同じ反応しかできないように全身の力を抜きまくっていたために、筋肉自慢だったらしい男性の『まともな十歳児が食らったら殺人パンチになる、私にとっての猫なでパンチ』は通常通りの演出効果を発揮してエフェクトもSEも充分。いい仕事、してますね(にっこり)

 

 

 そして、動きを完全に止めて下向きながらボンヤリしている私。

 男性が「あ、あ、あ・・・」とかなんとか言ってるのが聞こえてきますがガン無視です。

 その内に、

 

 

「き、きゃあああああああああああああああああああああああああっっ!!??

 人殺しよぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!

 女の子が! 小さな女の子が酔ってるチンピラに殴り殺されたわぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

「ヒッ!? ち、ちが・・・俺はやってな・・・! こんな・・・こんなつもりじゃ・・・こんな事になるなんて思ってなかったんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!??

 う、うわあああああああああああああああああああああああああっ!!????」

 

 

『逃げたぞ! 殺人犯がそっちに逃げてったぞぉ!!』

『誰か警備隊呼んでこい!』

『だいたい、子供が殺されるような事件に発展するまで何で放置してたんだよ警備隊は!』

『役立たず! 給料泥棒! お役所仕事!!』

 

 ・・・喧々囂々。さきほどまで奴隷の子供たちが今の私と同じ姿になるかもしれなかった状況を見て見ぬ振りしてた方々とは思えません。

 

 

 昔の偉い人は言いました。

 

 

 

『自分からは何もしないくせに権利だけは主張する。救世主の登場を待つだけで、自分が救世主になろうとはしない。それが民だ』――と。

 

『民衆は弱者だから不平を言うのではない。不満をこぼしたいからこそ弱者の立場に身を置くのだ』――と。

 

 

 

 ーーー私は彼らの保身に走る自由を行使する手伝いをして上げているだけのこと。なんらの問題もありませんよね?

 

 ねぇ?

 虐待現場を目撃しながら私を捕まえるためにタイミングを計っていた刑事さん?

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ちっ。やられたな、気付かれてやがったか・・・。仕方がねぇ。

 シェラは逃げてった馬鹿を追いかけて豚箱にぶち込んでおけ。俺はあそこで倒れてる嬢ちゃんを治療院につれてくフリをしておく」

「了解。・・・ですが、フリというのは?」

「あの嬢ちゃん、見た目ではすごい傷だが実際にはかすり傷ひとつ負ってねぇ。今の状況も俺たちを炙り出されざるを得なくするための演技だろうぜ」

「そんなバカな・・・・・・所詮は十歳児の子供ですよ?」

「だから言ったろ? あのガキを助ける必要はねぇってな。最初にイジメられてた方のガキどもは可哀想なことしちまったが、より大きな事件を未然に防ぐためだ。止むを得ねぇ。・・・死ぬ可能性が少しでも出てきたら即刻出て行くつもりだったんだしな」

「はぁ・・・」

「・・・いいから行け。あの沸騰した頭じゃ逃げ場所なんざ限られてるとは言え、ぜんぜん想定してない建物に逃げ込む可能性だって0じゃねぇんだからな」

「はっ!」

 

 タッタッタッタ・・・・・・

 

 

「・・・俺は、俺の勘を信じているが・・・・・・ここまで的中するのは初めての経験だ。しかも妙な胸騒ぎが収まらねぇ。

 この街でなにか良くないことが起きようとしている前兆とでもいうのかね・・・?」

 

 

 

 ーーーー暗闇の底から声が響いてくるーーーーー

 

 

『うひゃひゃひゃひゃ♪ あなたたち良い味してらっしゃいますねぇ。実に歪で歪んだ人間らしい正義感だ。ボク好みの茶番を演じる役者にはピッタシですよ☆』

 

『・・・しかし、あの子供だけは少し気になりますねぇ・・・。杞憂であるとは解っていますけど、念には念を入れるとしましょう。ボクたち魔族に失敗は許されませんから☆』

 

『とりあえずは定番中の定番。人質でも取ってこよーっと♪』

 

 

 

 

「・・・あれ? 誰か今私のことを呼びましたか? なんだかスゴく嫌な感じの男性の声で私の名前を呼ばれたような気が・・・」

「ほぉ。スタンフォード隊員、まさか君が私に名前を呼ばれることをそこまで嫌がっているとは気付いてやれていなかったよ。大変すまないことをした。

 こんなもので謝罪になるとは思っていないのだが、詫びの印だ。受け取ってほしい」

「え!? し、小隊長、あの・・・この始末書ぜんぶを私がいただくのはちょっとその・・・た、助けてーーーーーっ!?」

 

つづく


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