試作品集   作:ひきがやもとまち

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早起きしたから書いてみた番外編。『キノの旅』と同じ要領で一話完結、独立している単独でのお話です。
色々な正義の味方系作品の主人公たちごっちゃになったような正義の秘密組織を、ユーリが正論と武力でぶっ叩く!

・・・ところで正義の“秘密”組織って矛盾しているなぁーとか感じるのは私だけでしょうか?


チート転生は、ひねくれ者とともに外伝「正偽の章」【ボツ】

 光には必ず影が従うように、平和な表社会を生きる人々の裏側では裏社会の悪がうごめく。

 影は常に光をねたみ、太陽の下で生きる人々を自分たち暗い穴蔵の奥深くで生きている者たちの同類に落としてやろうと陰謀を巡らしていた。

 

 彼らは巧妙に立ち振る舞い、法で裁かれぬギリギリの線で悪を成し、表社会の平和を守る正義の警官たちをあざ笑い、屈辱に顔を歪ませるのを見て悦しむ。

 

 平和な時代は正義よりも悪が強いーーーそんな矛盾を抱え込んだまま世を生きなければならない人々には、一つの希望があった。

 

 

 正義の名のもと法で裁けぬ悪を裁き、普通に生きてる人々の幸せを食い物にして利益を得ようとするクズ共を始末して回る世直し人。

 激増した凶悪犯罪に対処するため国家安全対策部が秘密裏に創設した影の警察機構。

 

 その名はーーーー『影の騎士団』!!

 

 

 許せぬ悪を裁くため! 世界の平和を守るため! 誰かが成さねばならない悪を背負う!

 

 ・・・これは、悲しい過去の体験から世の中の矛盾に気づき『正義のために悪となる』こと決意した4人の青年たちがーーーーーーー全滅させられるお話である・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「バカ・・・な・・・・・・どうし・・・て・・・?」

 

 俺は信じられないものを見る思いで『そいつ』を見上げた。

 目を見張るような巨人ーーーではない。小さな子供だ。

 強く握りしめたら折れてしまいそうなほど細い腰と、黒くて長い東方系の髪色をもつ異国人の女の子。

 初心者向け装備である『樫の杖』と青いマントを身にまとっている以外はなんら普通の子供と変わらない、ただの女の子。

 

 ーーそのはずだったのに・・・・・・。

 

 

「なん、で、俺たち影の騎士団《シャドウ・ブレイズ》が、こんな子供ひとり・・・に・・・」

 

 全滅。俺たちの身に起きた出来事を語るとしたら、その一言しかなかった。

 世論をあおって国を戦争状態に持って行かせるためテロを企てていた裏組織を発見し、姿と気配を完全に隠してくれる国宝級の超極秘魔法《ステルス・フィールド》を展開しながら接近し、奇襲によって壊滅させたまでは良かった。街への被害も最小限度に抑えられたはずだ。

 もとより俺たちが必要とされる理由はここにある。町中に潜んでいる悪を未然に排除するためには奇襲しかない。だが、町中で戦闘を行ったのでは無関係な一般市民にまで被害が及んでしまう。

 

 

“だから俺たち影の騎士団《シャドウ・ブレイズ》が、闇から闇へと悪を消して回り、人々の背負う必要のない悪を肩代わりしてきたのに・・・・・・!!!”

 

 

 それが今、すべてを無駄にされてしまった。

 

 《ステルス・フィールド》を使える仲間たちは全て殺されてしまった。換えの利かない人材のみで構成された実働部隊の復活はもう不可能だろう。

 

 戦争で儲けようとしている人種差別国家による邪悪な魔導技術研究の成果として生み出されてしまった哀れな《超戦士》は死んだ。

 組織の創設者が残した理想実現のためパーツとなりたがっていた《クローン人間》も死んだ。

 過激な狂信者の集団である宗教テロ組織に近親者を一人残らず殺されてしまった《隻眼の弓使い》も死んだ。

 

 ーーーーーーーーみんな、一人残らず、殺されてしまったーーーーーー。

 

 

 

「答えろ! お前はなぜ戦う!? なぜこんな所で人と殺し合と!? お前の戦う理由は・・・お前の信じる神は何処にいる!!!!」

 

 あまりにも理不尽すぎる強さと存在に、俺は心の底から絶叫していた。

 

 人々の平和を守ろうとしていた俺たちが。

 世の中の法で裁けぬ悪を裁こうとしていた俺たちが。

 戦争を悪だと否定して、平和こそが尊い正義だと奉ずる俺たちが。

 世界から戦争を無くすため、戦争を捨てられない今の世界を否定するために戦いを挑んでいた俺たちが。

 

 

 どうして世界ですらない、ただ一人の子供によって否定し尽くされなくてはならないんだ!?

 

 

 

「・・・いや、いきなり戦闘に巻き込まれて殺されそうになった私に『なぜ戦うのか?』と聞かれましてもね・・・。

 せいぜいが『殺されそうになったから殺した』ぐらいの浅い答えしか返せないのですが?」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今、コイツなんて言ったん・・・?

 

 

 ソイツは呆れ果てたと言わんばかりに片手を腰に当てて見せながら俺のことを見下ろして、深く深~く溜息を吐いてから無事だった適当なイスに座り込むとボヤくように語り出す。・・・俺たちの徒労と無意味な犠牲のむなしさを・・・・・・。

 

「いや、ですから。この店でお茶飲んでたら隣の建物からいきなり火が出て、逃げ出してきたらしい赤い服着た変な人たちが『邪魔だ!退け!』と槍突き出してきたんで普通に魔法使って殺したんですけどね?

 そしたらそこの・・・なんですか? 眼鏡かけてる黒髪ボブカットの男の娘さんが『その力・・・危険すぎる! 悪いが平和のために排除させてもらうぞ!』とか叫んで高出力の魔法ビーム砲みたいなの撃ってきたもんですから反射魔法で跳ね返しただけです。

 結果的に彼だか彼女だか知らない誰かさんは死んじゃったみたいですけど、私は彼が撃ってきたものを返してあげただけのこと。誰も殺そうだなんて思っちゃいませんでしたよ」

「だが! それなら殺さないようにも出来たはずではないのか!?」

「殺されそうになってた側の人間に、殺そうとしてきた殺人犯を生かすため努力しなければならない理由が何処にあると?」

「!!!!」

 

 冷然とした口調で戦争を無くすため『世界の敵になる覚悟』を決めていた俺たちを『ただの殺人犯』と決めつけた少女は、頭をかきながら先を続ける。

 

「次です。そこで倒れてる髪の長い人なんですがね。仲間思いなのは結構なんですが・・・さすがに出てきてからいきなり眼鏡さんの死体を見て我を失い、小火力の攻撃魔法を連射してくるのは良くないです。

 防御しなくても無効化できる程度のもんでしたから流してあげましたけど、ダメージ受けてしまう防御力しか持たない人たちだったら『死体見て叫びだして撃ちまってくる』立派なサイコさんとしか思われない所です。

 彼の犠牲を無にしないためにも、あなたは次から誤解を避けるためにも気をつけるようにしてください」

「では、パプテスマも・・・・・・」

「ええ、殺させていただきました。イカレたトリガーハッピーの狂人を放置したまま逃げたのでは無関係な一般市民の皆様方が危なすぎましたから」

「・・・・・・!!!」

 

 平然とした口調で『人を殺した』事情を説明する少女。

 それはまるで神話に出てくる悪魔かナニカのようにしか、俺には見えなくなり始めていた。

 

「最後です。そこで倒れてる眼帯の人・・・正直この人が一番よく分かりませんでしたかね。なんか色々と背負ってそうだったので思考を読む魔法を使い覗いてみたんですが・・・。

『俺はテロに巻き込まれて死んだ父さんや母さんやエイミーに一目でいいから再会したいんだ。暗い漆黒の死の世界にいけば会えると信じているからこそ、俺は母さんたちを殺した戦争を続ける世界に喧嘩を売って嫌いな殺人者になれているんだ・・・』

 ーーとか、矛盾しか感じられない戯言を叫んでたんで『ああ、この人は死に縛られてるんだな。じゃあ殺しちゃいましょう。死にたがってるみたいですから丁度いいや』と何かしようとする前に殺させていただきましたよ。今を生きている生者を殺すときに、死人を口実に使うヒトデナシには当然の報いと言うものです。

 まったく・・・巻き込まれて死んだだけの被害者たちの魂が、殺人犯が落ちるべき場所と同じ場所にいってるはずがないでしょうに阿呆らしい」

「彼の思いを・・・家族への愛情を否定するのか!?」

「生きる権利を否定された側としては当然の権利だとはお思いにならないので?」

「くっ・・・・・・!!!!」

 

 薄々感づいてはいたのだが・・・・・・コイツは俺たちとも世界とも違う! まるで《戦争という概念が形を成したかのような存在》だ! 今と言う刻に生きていてはいけない少女だ!

 みんな! コイツを倒すために俺に力を! 命を別けてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!

 

 

「わかるまい! お前のように人の思いを踏みにじり、玩具にしているような奴には一生かかっても理解できないはずだ! この俺の体を通してでる命の力の正体は!!」

「・・・・・・・・・」

「お前のような奴はクズだ! 生きていちゃいけない奴なんだ!

 ここから居なくなれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーって、ぐべはぁっ!?」

「・・・・・・やかましい。他人の魂とともにその人が持ってた能力を上乗せさせてドーピングした死者の怨念の集合体ごときが叫ばないでください。怨霊じみてて気色悪いですからね」

「はぁ、はぁ・・・、ぐへぇ・・・っ!?」

「ああ、ほらやっぱり死者の怨念に取り付かされ始めてしまってますし・・・。

 人は死んだら死体という物になって魂は別の場所へ飛んでっちゃってるんですから、残っているのは残留思念だけなんですよ? そんなもの敵を倒したい憎しみの思いだけで引き寄せて吸収しちゃったりしたら、反動で心も体も怨霊に乗っ取られちゃって世界を恨むことしかできない破壊の化身と化すのは必然的な結果でしょう?

 まったく、子供でも分かりそうな理屈をなぜいい歳して理解できてないんだか・・・」

 

 トントン。

 

「はい、一応の除霊は完了したからもう大丈夫ですよ。専門職じゃないんで、除霊と言うより対魔になっちゃいましたけどね。でもまぁ、あなたの体には悪しき怨念とかは残ってないと思いますのでたぶん大丈夫でしょ。それではね」

 

 スタスタスタ。

 

「ま、待て! 俺を・・・俺を殺していけぇ!」

 

 仲間を失い、理想を否定され、信じるべき正義は否定し尽くされた・・・俺にはもう帰るべき家すら残っていない!

 

 今の俺に残されてるのは、みんなと同じようにコイツに殺されて一緒の場所に落とされることだけなんだから!

 

 俺の思いを込めた願いに対し、ソイツは溜息を吐きながら顔だけ振り向かせて一言

 

「嫌ですよ、面倒くさい。死にたいんだったら自殺でも何でも勝手にすればいいでしょうに・・・なんだって人様の手を煩わせようとなさるのですか?

 世の中を否定して、今の世に満足している人たちに迷惑かけることしかしてこなかった社会のゴミさんたちならゴミらしく、せめて最期ぐらい誰の迷惑にもならないところで人知れずヒッソリと死んでください。

 弱いから負けた無様な敗者が死に様だけでも飾ろうとするのは、自己陶酔のエゴに浸りたいだけな気がして不愉快ですよ。

 私に殺されたいなら、殺す価値があると思えるくらい強くなろうと努力して見せてからですかね。

 今の貴方を殺したくはない。・・・・・・あまりに見苦しすぎて、殺した方が惨めな気分にさせられそうですからね。

 否定するなら、否定する対象を理解しようとする努力ぐらいはして見せろクズ野郎」

 

 

 ・・・そう言って歩み去っていったソイツと俺は、二度と再会することはなかった・・・。

 俺は仲間たちの亡骸を胸に抱き、ただただ泣いて泣いて泣き続けて・・・泣くだけで終わってしまったから・・・仲間のいなくなった俺には立ち上がる理由が残っていなかったから・・・

 

 

 これは俺が落ちぶれる前の栄光の記録。

 死ぬ前に思い出される走馬燈。

 

 俺の神は・・・俺たちの信じて夢見た未来は・・・いったい・・・どこに・・・・・・

 

 

 

「ああ・・・みんな・・・刻が視える・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

「いやまぁ、実際に目の前にいるのは私なんですけどね? もしもーし、聞こえてますかー? 酔っぱらって道ばたで寝てると危ないですよー? もしもーし。

 ・・・・・・おい、オッサン。いい加減にしないとマジで殴るぞ。

 酔っぱらって人のお尻触ったまま寝てないでとっとと起きろよ。久しぶりの観光旅行の思い出をオッサンの酒臭い手で汚そうとしてんじゃねぇ」


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