試作品集   作:ひきがやもとまち

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マシンガンラバーを先に更新してからこちらもと思っていたのですが、時間的に難しそうなので念のためこちらを先に(出勤時間まであと1時間半・・・イケるか!?)

ユーリの狂気が始まる回です。本当だったら後半はボリスさんの登場回も兼ねたかったのですが、長くするよりかは分割して早く更新する方針もやってみたくなりましたので。


チート転生は、ひねくれ者とともに 3章

「『領主府発行:証明証書。氏名ユーリ。職業:魔術師。年齢10歳。レベルは12』・・・なるほどなるほど、レベル以外は全部証言通りに書いて、子供にしては強すぎるレベル設定にすることにより却って真実から遠ざける工夫ですかぁ~。いい仕事してますねー♪」

 

 きっと、歴史が長い分だけ不法入国や亡命者なんかの時に儲ける業者さんとかがいるから手慣れてるんでしょうねー、この街のこういう特徴は。

 

「ま、余計な争い事に巻き起こさないですむ工夫ならいくらでも来いです。世の中平和が一番です♪」

 

 私は掲げ持って太陽に透かし見てた許可証をポケットにしまい、同じく服の中に入れてある財布の中身とぶつかって「チャリン」といい音をたてさせました。

 

 

 ・・・現在、私は無事にもらった許可証と報奨金を片手に町中をブラブラ散歩しているところです。所持金は金貨五枚に銀貨が二十枚ほど。「この街で一日過ごすのにこれ以上いることはまず無い」と役所の人から言われましたのでね。銅貨は銀貨で払ってお釣りでもらえばいいだけなので持ち歩かない主義の私です。

 

 あと、「これ以上高額の商品を買う場合には、即金で支払えとは絶対に言わないのでルール違反者見つけたら教えてほしい」とも言われてたりします。さっすが、チート。至れり尽くせりですね。

 

 ーーーまぁ、あの一方的な殺戮劇を伝え聞いただけだと過剰反応もしてみたくなりますよねー、やっぱり。

 本来は入市税を払うことによって一定期間の滞在を許され、それを過ぎたら延滞料金が発生。払えなかったら奴隷身分落ちという罰則によって余所者に街のルールを壊されるのを防ぐと言うのが、この異世界での秩序維持と安全管理方法。

 

 にも関わらず私には特にこれと言った縛りはもなし。一応は前回の戦闘における功績に対して恩賞として与えられたことになってますけど・・・建前ですよねぇ絶対に。

 

「つまりは、『特権与えるんで町に被害を与えないでください』と言うわけですね。わざわざ私の見ている前で有力者達に引き抜きを禁じて見せた演出も含めて、この街の市長さん(?)は結構なやり手のようで。

 ここまで至れり尽くせりだと、ドS趣味のない私としては何かあっても暴れる方が後ろめたさを感じて行動をためらってしまいそうです」

 

 私は市長さんの言ってたセリフを思い出して、知らずニヤケてしまうのを抑えられそうにありません。

 

 

『彼女を勧誘するなとまでは言わん。しかし、しかし、一国の戦力にも匹敵する彼女に手を出した時点で行政に携わる一員としては「反意あり」と見なさざるをえん。

 勧誘することそれ自体が発言者による独立宣言を意味し、この街の市民権を放棄する意思表示であると私は解釈してそう処置する旨を、ここに表明しておくものである』

 

 

 ・・・あれって要約すると『お前達が何かした時点で街は縁を切る! 市民じゃないから煮るなり焼くなり好きにされても関係ねぇ!』って意味を兼ねちゃってますからねー。そっちの方が本命なんだろうなとは分かっていますけれども。

 

「本当におもしろい方々が多い町です。来て良かったですよ そう思いませんか?

 ・・・えっと、確か・・・ビッチ・シースルーさん? それともバッチィ・ショーツさん? でしたっけか?」

 

 

「「「ダッチ・シュヴァルツ様だ! いい加減覚えろ糞チビジャリがぁぁっ!!」」」

 

「ああ、なんかそんな感じのお名前です、確か」

 

「「「こ、この糞生意気なガキぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・」」」

 

 

 くつくつと、拳を作って口元に当てて笑ってみせる私の前でニューヨークギャングみたいな格好した黒服ハゲの小男で、なんか大物ぶって後方から偉そうに笑っていた人・・・この街の裏街を締めるならず者達のボスの一角『ドン=ダッチ・シュヴァルツ』さんが薄ら笑いを深め、嬉しそうに笑いながらこちらに近づいてきますけど構やしません。

 

 ーーーどうせ生け贄は必要だと思ってたんです。

 燃やさなくてはならない藁人形に選ぶなら、善良で誠実な善人よりも、殺してしまっても心が痛まないゴミどもの方が倫理的で良識的な選択というものでしょうから・・・・・・

 

 

「言ってくれるねぇ嬢ちゃん。流石はこの俺が見込んだだけのことはある女だぜ・・・」

「ボス! 構うことはねぇ! こんな生意気な餓鬼はさっさとぶち殺しちまいましょうぜ! 昨日の戦闘で活躍した話は表と違って裏の奴らには既に知れ渡っていますから殺して晒すだけでも威嚇としちゃあ十分すぎる効果があります!」

「・・・黙ってろ、頭数ども。俺が『未来のパートナー』を勧誘しているときに邪魔しにくるんじゃねぇよ。ーー殺すぞ?」

『・・・・・・ッ!?(ゾッ!)』

「そう、それでいいんだ・・・。駒でしかないお前らと違って、コイツは桁が違う・・・同等に扱っていい玉じゃあねぇんだよ・・・」

 

「さて、嬢ちゃん。若い奴らが失礼したな。詫びってわけじゃねぇが、どっかで茶でもしばきながら俺の話を聞いてほしいんだが・・・どうだ?」

「遠慮しておきます」

『テメェッ! 俺たち幹部でも滅多に許されないボスからのお誘いを無碍にするとは何様のつもりーーーぐはぁっ!?』

「黙ってろって言ったじゃねぇか。一度もよぉ。俺が一回言った言葉を一度でも忘れた頭スカスカ野郎は、本当に頭の中身を抜かれちゃっても知らないよ~?」

『・・・ひぃっ!?』

「・・・二度もすまねぇな、嬢ちゃん。一応聞いておきてぇんだが・・・何で俺の誘いを断りやがったんだ?」

「知らない大人の人に着いていかないよう、お父さん達から言われていますので」

「・・・っ!! ぷはっ! ぶははははははははっ!!! 確かにその通りだな! こりゃ一本取られたぜ! あー、腹痛てぇっ!! ひー、はははは!!」

「・・・・・・・・・」

「はぁはぁ・・・つ、つまりよぉ。この場で俺の話を聞いてもらえるって意味でいいんだよなぁ? 嬢ちゃん」

「ええ、まぁ。この場でよければお話だけでも伺いましょう。ーーむろん、本当に誠意を示す気があるのなら、そこの死角に潜ませている弓兵さんたちを下がらせてもらいたいところですけど・・・どうせ性能テストに過ぎないのでしょう? だったらお好きにどーぞ」

『・・・・・・っ!!!(ざわっ)』

「・・・へっ。さすがだ・・・対《センス・マジック》処置をほどこした装備に身を固めさせてたんだがな・・・。ますますお前さんが欲しくなっちまったぜ、どんな危険を冒してでもなぁぁぁぁっ!!」

「・・・それが今回の無謀な挙に出た動機ですか?」

「そうさ! 俺はまだまだ上に征く! 臆病な老頭どもと違い、この街の裏街のトップに立つだけじゃ気が済まねぇ! 満足するはずがねぇのさ! 

 俺はやがて、この国を裏から牛耳る真のトップになる! この国の全てを俺のモノにしてやる! その為に役立つ奴にはなんだって暮れてやる! どんな物でも用意してやる!

 金! 女! 男! 子供! 人だろうと動物だろうと宝石だろうと剣だろうと、果ては貴族のお嬢様だろうと何でもだ! だから嬢ちゃん! 俺に付け! 絶対に損はさせねぇ!」

「・・・覚悟がおありなので? この国の全てを敵に回して戦争するお覚悟が?」

「王座を手に入れたい奴がリスクや危険を恐れてどうする? だからこそ、今お前の前に俺は立っている」

「ーーー死ぬ覚悟は・・・・・・殺されるお覚悟はおありですか?」

「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。俺が途中で誰かに殺されるとしたら、その程度の男だったとハッキ自覚して気持ちよく死ねるだろうよ」

「・・・・・・なるほど、よく分かりました。納得です」

 

 

 私は笑顔を浮かべてうなずいて、ゆっくりと杖を空に向かって掲げていきながら。

 

 

 

 

「では、その信念の強さに敬意を表して殉じさせてあげましょう。

 正義の味方に否定されて死ぬよりかは遙かに満足できる殺され方でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・弱肉強食は動物達による自然界の掟。人の世には人の掟があります。人の住む町で人に害をなす動物の掟を貫こうとすれば害獣として駆除されるのが当然の末路。

 せめて、貴男たちの信じ貫いてきた信念を貫いたまま死ねる殺し方を選んであげましたから感謝してください」

 

 よいしょっと、立て札を書き終えてから私は立ち上がり埃をはたき落とします。

 

「飼い主の手から自らの意志で脱走した野良犬風情が人間様に迷惑をかける生き方しかできない道を選ぶのであれば死になさい。

 せめて最期くらいは人の迷惑にならないように、街の裏側でヒッソリと・・・ね」

 

 私は彼ら“だった物の山”に背を向けて歩き去ろうとして思い留まりました。

 他の人たちにとってはともかくとして、私にとっては死んでからが“役に立ってくれる本番”になった方々に一言お礼ぐらいは言っておくのが人の道かなーと思ったからです。

 

 

「・・・生きてる間は害にしかなれずとも、死んでからは少なくとも私の役には立ってくれそうですし、仏様だか神様だかがこの世界にいたら生前の罪を裁くときに罰を軽減してもらえるかもしれません。ご冥福をお祈りさせていただきます。さようなら。ナーメンダブツ」

 

 適当なお経モドキ(虚覚えのを唱えるなんて本場の方に失礼ですからね)を唱えてから、ようやく去っていく私。

 

 彼らの死体の上にはこう書いておきました。

 

 

 

『私はお前たちに何もしない。

 だからお前たちも私に何もしようとしてくるな』

 

 

 

 ・・・・・・関係ないですけど、『HUNTER×HUNTER』で一番かっこいいのは幻影旅団のマチさんだと私は信じてます。

 

つづく

 

 

次回予告「ボリスさん真登場回」

「おっと、待ちな嬢ちゃん警備隊だ。その物騒なブツをこっちに渡してもらおうか。大人しくしてくれりゃあ、こっちも何もしねぇで引き下がるぜ? 職務果たしに来ただけなんだからな」

「・・・念のために言っておきますけど今殺したのは正当防衛で、私は市長さんから特権を・・・」

「知ってるよ」

「?」

「上が政治的な理由で何を決めようとも、現場には現場の守らなきゃいけねぇルールってもんがある。俺たちの住む街で余所者のルールは通させねぇ。ここは俺たちのルールが支配する街なんだ。郷に入っては郷に従いな」

「・・・なるほど。では、まず貴方から郷にいては郷に従って『頂きましょう』・・・」

「!?」

「あなたは武器を向けて脅迫してきた。『従わなければ撃つ』と言ってね。最後通牒はあなた自身の口から放たれた・・・降伏するか、交戦するかの二者択一の選択肢をね。

 お分かりですか? ここはもう・・・戦争のルールが支配する戦場に変貌させられてしまったのですよ? あなた自身がそう決めたんですから戦争責任を取りなさい」


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