試作品集   作:ひきがやもとまち

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「やはり俺は捻くれている」を原作崩壊系にして1話目だけ書き直してみました。新シリーズという訳ではないですのでお間違いなきように。

本当は『やはり俺の青春ラブコメは凄くひねくれている。』にしようかと思ってたんですけど・・・「続」が再放送中でしたので折角なので便乗してみました(あざとい)
「俗」の字を選んだのは「俗っぽい=現物主義」そんな感じに八幡の性格を変えてあるからですので、原作原理主義なファンの方々はお控えくださいませ。


やはり俺の青春ラブコメはひねくれている。俗

「高校生活を振り返って」2年F組 比企谷八幡

 青春とは嘘であり、悪である。

 青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺き、自らを取り巻く環境を肯定的に捉える。

 彼らは青春の二文字の前まらば、どんな一般的な解釈も社会通念もねじ曲げて見せる。彼らにかかれば、嘘も秘密も罪科も失敗さえも青春のスパイスでしかないのだ。全ては彼らのご都合主義でしかない。

 結論を言おう。

 青春を楽しむ愚か者どもーー砕け散れ

 

 

 ・・・・・・いや、間違いだ。くだされる評価を意識して己が本音を偽り、思っていることを綺麗なだけの美辞麗句で飾りたてて書き連ねるのは褒められたことでは決してない。故に書き直そう。2ページ目に続く。

 

 

「高校生活を振り返って 続」2年F組 比企谷八幡

 自分たちにとって都合がいいだけの青春とは虚構であり、罪悪である。

 偽りの青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺いているつもりで、自らもまた欺かれている事実からは目を逸らし、周囲の環境の全てを肯定的に捉えるために金メッキされた真実とやらに群れ集いたがる。

 彼らは青春という二文字で脚色してやれば、どんな一般的な解釈も社会通念をねじ曲げる様な思想であっても拍手喝采して迎え入れる。彼らにかかれば嘘も失敗も罪科さえも「青春のスパイス」と表現してやれば納得してしまえるのだ。全ては彼らのご都合主義でしかない故に。

 それらを踏まえた上で結論を言おう。

 誰かによって作られた青春を謳歌せし愚か者ども。ーーお前たちは偽物の青春を喜んで綺麗に磨き立て続けている、ただの普通で平凡な存在自体が・・・・・・偽物でしかない。

 

 

 

 

 ーー国語教師の平塚静先生は額に青筋を立てながら、俺の作文を大声で読み上げた。

 

 こうして聞かされてみても、自分が昨日熟考して書いた直筆の作文であるため、何らの感慨も沸きようがない。むしろ、どう言う反応を求められているのかと対応に窮してしまう。

 

『生徒に書かせて提出させた作文を他の先生たちが聞いているところで読み上げるとは何事か!』と苦情を言うべきだろうか? それとも『すいませ~ん、平に平にー』と平身低頭して罪を詫び、どこまでも下手に出て許しを乞えばよいのだろうか?

 

 ・・・どっちも違っている気しかしないから、まぁ外れなんだろうどっちも。

 

 だから俺は平々凡々で芸のない事この上ない対応ながらも、「はぁ」と曖昧な一言を声に出すしかない。英語で言うと「AH」。

 

「・・・砕け散るのは君の方だし、偽物でしかないのも君が書いた1ページ目の作文の方だろう・・・。なんだコレ? どうしてこうなった?」

「はぁ。どうしてと聞かれましてもね・・・」

 

 ようやく質問されたので対応を返答へと変更。思ったことを素直に言おう。

 

「・・・先生が『高校生活を振り返って』と言うテーマで作文を書かせ、提出するように言われたからだとお思いますが?」

 

 嘘偽りない本音で答えたら、なぜだか平塚先生にため息をかれて、悩ましげに髪をかきあげられてしまった。俺の選択した対応が間違っていたのだろうか? それとも嘘で答えた方が真面目に対応してもらえるかもしれなかった世の中の方が間違っているのだろうか? ーーいや、間違ってる物同士を並べて「どっちが本物?」も何もないか。

 

「真面目に聞け」

「はあ」

 

 意訳:「私の性格に合わせた返事をしろ」。・・・なるほど、日本語は底が深いように見えて浅いな。

 

「君の目はあれだな、腐った魚の目のようだな」

「そんなにDHA豊富そうに見えますか? 賢そうッスね。ちなみに俺の成績は国語系が学年三位で、理数系は下から二番目です。どうせ出来ないと見限ってますから」

 

 ひくっと平塚先生の口角が吊り上がり、ギロリと人でも殺したそうな目つきで睨まれてしまう。だれか助けて~、犯される~。

 

「比企谷。先ほどからの対応への処罰はひとまず置くとして、この舐めた作文は何だ? 一応言い訳ぐらいは聞いてやる」

「言い訳?」

 

 美人な先生からこういう目をして睨みつけられるとスゲー怖いのだが、今の発言は捨ておけない。きちんと誤解は解いておくべきだろう。誤解されても構わないつもりで言った言葉ではないのだから尚更だ。

 

「俺は先生に言われたとおり、今までの高校生活を振り返ってみて思った感想を嘘偽りなく素直に書いただけです。自分で命じて書かせた作文の内容が、自分の望んでいた物とかけ離れていたからと言って相手のせいにするのはフェアじゃないと思います。

 もし、自分の望まれた作文を書いて提出して欲しかったんでしたら模範解答の作文原案を見せてから書かせてください。そうしたら俺も先生に不快な思いをさせるまでもなく、望まれたとおりの作文を書いて提出してましたよ」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 相手は俺の返答を聞いてパクパクと何度か口を開閉してから「・・・コホン」と咳をひとつ付き。

 

「小僧、屁理屈を言うな」

 

 と、らしくもない一般論を口にしてきた。

 基本的に一般論が組み入れられた説教は聞くだけ時間の無駄である。

 

 相手に自分の考えを伝えるために行っている説教中に、誰にでも言える一般論を口にすることで自分の何が伝わるというのか? 何も伝わってこない。ただ「あー・・・こいつオレと真面目に話す気ないんだな~」と思ってしまって急速に面倒くさい感が増すだけなのだ。よい子のお父さん、お母さんたちは間違っても一般論で子供を諭そうとするバカな親にはなろうとしないように。

 

「真面目に聞け」

「はい、すいません。書き直します」

 

 再び同じ言葉で怒られてしまったが、今回は俺も真面目に聞く気がなくなりかけてたから間違ったことは言われていない。一応謝っとこう。

 

 が、しかし。平塚先生には満足いただけなかったご様子。頭をガシガシかきながら不満そうな表情を今なお崩そうとはしない。

 

「私はな、怒っているわけじゃないんだ」

 

 ・・・・・・あー、出た。出たよこれ。面倒くせぇパターンが。「怒らないから言ってごらん?」と同じパターンだよ。そう言って怒らなかった人を今まで見たことがない。

 

「では、どう思っているのかハッキリと仰ってください。言ってくれないと分かりません。

 言われなくても分かるほど、俺と先生の仲は親しくないですし積み重ねもありませんから」

 

 ギョッとしたように振り返って、俺の顔をあわてて見つめてくる平塚先生の眼を、俺は先生自身が言うところの『腐った魚の目』で見つめ返す。

 

 そして思う。

 何を驚いているんだろう。考えるまでもなく当たり前の理屈じゃないかーーと。

 

 

 言わなきゃわからないって言うのは傲慢だと、俺は思う。言われるまで相手が何を言ってくるのか分からないのに『言われたら分かってもらえる可能性』を餌にして、今の現実的恐怖と戦っている相手に決断を強いる言葉だからだ。

 都合のいい可能性だけを示唆して行動を迫るのは詐欺の手法だろう。コレを言う発言者たちは、可能性に信憑性を持たせるために実績を示すという常識を知らないのだろうか?

 

 言ってもらえたら分かるかもしれないが、言われても分からないかもしれない。言ったら怒るかもしれない。どれになるのか自分自身にも不明瞭な未来の可能性を信じてもらうには『積み重ね』以外の手段は人間に存在していない。

 

 

 ーー後は、金で保証するとかもあるけど生徒が先生にコレ言っちゃマズいから言わないことにしておく。冗談で言ったつもりで相手にもそれが伝わっていたとしても、利用価値を見出されたら終わりだからな。言質を取られてるぶん反論できん。

 

 

 

「俺には先生がどういうつもりで俺をここに呼びだして、今どんな気持ちでいるのか分かりませんし、分かりたいとも思いません。分かるために努力したくなるほど親しくもなければ好きでもないからです。ーーだからって、嫌いでもないですけどね。その程度です。少なくとも今は」

「・・・・・・・・・」

 

 ポカーンとした間抜け面を晒しながら呆然と俺の顔を見上げっぱなしの平塚先生。

 やがて彼女は「・・・調子狂うな・・・だから友達がいそうにないのか・・・」と失礼極まる独り言をつぶやいてくる。

 

 失礼な、友達ぐらい居ますとも! 二次元に!

 ・・・いや、本当。最近のゲームって出来いいんだよね? 思わず「これだったら現実の女の子もういらなくね?」とか思い始めて慌てて首振るぐらいには。

 

 

「・・・よし、わかった。こうしよう。レポートは書き直せ」

「はい。ーー今度は模範解答を見せてもらってですか?」

「ある訳ないに決まっているだろう!? ・・・こほん。だが、しかし。君の心ない言葉や態度が私の心を傷つけたことは確かだ。なのでーー」

「ああ、さっきの『怒ってるわけじゃない』って言うのは『傷ついてる』って意味だったんですか。ーー意訳する難易度が高すぎるでしょう、どう考えても。ヒントぐらいは出しといてくださいよ」

「なので! 君には奉仕活動を命じる。罪には罰を与えないとな」

 

 とても傷ついてるとは思えないほどに威勢よく、むしろ普段よりも元気じゃねぇかってくらい平塚先生は嬉々としてそう言った。

 

 そういえば「嬉々として」って言葉は「乳として」と語感が似てる気がするなぁ・・・とブラウスを押し上げている先生の胸元に目を向けながら思いつつ、現実的な疑問についても聞くだけ聞いておく。

 

「信賞必罰でいくなら罪には罰だけじゃなくて、功には報償を持って報いてあげないとダメなんですけど・・・出来ますか? 平塚先生に」

「どこ見ながら言ってきてるんだ!? このマセガキ!!」

「いや、目の前で揺らしまくられたら目は行きますよそりゃ。男の子ですもん。

 生理的欲求なんですから、文句があるなら俺を男に生んだ母さんか父さんに言ってきてください。親と遺伝子の都合で男に生まれただけの俺にはどうすることも出来ないんでね」

 

 肩をすくめながら言ってのけると相手は「ぐぬぬぬ・・・」と、なぜだか凄い形相で睨んでこられた。なんでだよ。

 

「ところで・・・奉仕活動って何すればいいんですか? 昨今の世相だと活動中に俺が倒れたりした場合には先生の責任追及してくる連中が、学校中にウジャウジャ沸いてきそうな気がするんですけども」

「・・・イヤな未来予想してくるな、お前。心配せんでもグラウンドで草毟りとか、使ってない美術部倉庫の整理とかじゃないから安心してついてきたまえ」


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