ある所に魔法界という、魔法が実在するファンタジー世界がありました。
ある日、その世界の牢屋から悪の魔法使いが逃げだし、地球へと逃亡してしまいました。
責任とって辞任を迫られて困った魔法界の女王様は、腹心のヒューベーに悪の魔法使い捕縛の密命を出しました。
ですが、魔法界の者が地球で魔法を使ってしまうと自分が命令を出したことがバレてしまうのを恐れてもいました。
そこで女王様は、地球の人間に魔法の力を与えて『自衛』の名目で悪の魔法使いを倒させ漁夫の利を掠め取れるようにと、ヒューベーに魔法のステッキを託しました。
給料減らすと脅されてイヤイヤ地球にやってきたヒューベーは、『見た目がソレっぽいから』と言う理由だけで会ったばかりの現地人少女セレニアに魔法のステッキを与えて魔法少女にしてしまいました。
頼まれたら理屈をこねるけど断ることはあまり無いセレニアは、グダグダ言った後で了承してしまいました。
と、言うわけで不本意ながらも正義の味方になった魔法少女セレニアと、女王様に責任取らせる方が先だと主張する悪の魔法少女セレニアが分裂して誕生したのでした。
「ーーえっ!? ちょっと待って! ボク最後の奴、知らないし聞いてないよ!?」
「まぁ、自分の思惑通りに進んでいると嘲ってる人に限って足下で起きてる火事には気づかないものですからねぇ」
キーン、コーン、カーン、コーン・・・・・・。
学校がある方角から、朝の授業開始を告げる予鈴が鳴り響いてきます。
「うおーっ!? やばいやばいやばい! 遅刻遅刻ぅぅぅぅっ!! 遅刻するーっ!」
猛烈な速度と勢いで丘の上にある学校の『私立丘の上高等学校』の校門へと続く坂道を、全力疾走しながら駆け上がっていく一人の女の子がおりました。
茶色の長い髪をポニーテールにした、セーラー服姿の貧乳美少女です。食パンを口にくわえ、足下にはローファーではなくローラースケートを履いてる辺りに昭和を感じさせてくれる今時珍しい絶滅危惧種に指定されている熱血感なスポーツ少女でした。
その彼女が誰もいなくなった校門へ飛び込んで行くところを窓から見下ろし、ため息をつく一人の少女がおりました。
はたして、脱ぐのにも履くのにも下駄箱に入れる工夫にまで時間のかかるローラースケートから上履きへと履き替えて教室に到着するまで後何分かかることでしょう・・・?
そんな事を考えながら朝のHRをきちんと聞いている彼女の名前は異住セレニア。
独日クォーターでオッパイのでかい(でも背はちっちゃい)ロリ巨乳な無表情系美少女でした。
なんかさっきのスポーツ少女よりも、お約束要素が多い気がしますよね。だからこそスポーツ少女ではなく、セレニアの方が魔法少女に選ばれた訳なのですが。
そんなこんなで自分の幼馴染みが到着するのを今か今かとボンヤリしながら待っていると教室の扉が開き、スポーツ少女が飛び込んできて右手で額の汗をぬぐい「ふーっ」とか言いながらお約束セリフを口にします。
「よーし、間に合ったーっ! ギリギリセーーーッフ!!」
「アウトに決まってんだろうが! フェアプレイ心がけろよラフプレイヤーーっ!!」
「ぎゃふぅぅぅぅぅっっ!!??」
そして、強面の先生による顔面ストレートにより敢え無くリング外(教室の外)へと退場させられてしまいました。
先生も後を追って教室の外へ出て、問題児生徒とサシで向き合います。
「ひ、ヒドいじゃないですか先生! 生徒に暴力振るうなんて今時の教師には許されない違法行為だってこと知らないんですか!? 訴えますよ! そして勝ちますよ! 正義は必ず悪に勝つものなんですからね!!」
「ほう、そうか。なるほどそうか。だったらお前がこの前窓ガラス壊した器物破損も悪と言うことで訴えて裁かれちまってもいいんだよな?」
「う。あ、あれはその~・・・男子が私に掃除当番押しつけてサボろうという悪を犯そうとしたから仕方なく・・・」
「そうか。確かにそうだったな間違いなく。
それで怒ったお前に殴られて前歯折られて保健室送りになった奴が一人、殴り飛ばされて壁に当たって辺り所が悪かったから骨にヒビ入れられた奴が一人、巻き込まれて怪我して転んで保健室いくことになった女生徒が三人もでる大惨事になったんだったよな確か。あのときは苦労させられたから、よーく覚えているわ」
「う・・・ぐ・・・。あ、あれは正義のために高めたパワーが使いこなせていなかったから起きた事故であって、コントロールできるようになった今なら問題なく使いこなせてたんですよ・・・」
「んなこと言い出したら正義のヒーローはみんな、パワーアップする度に大惨事引き起こす傍迷惑野郎になっちまうじゃねぇか。ショボい悪事しかしない悪の怪人被害のほうがよっぽど良心的で地球に優しい良い奴らになっちまうじゃねぇかよ」
強面ですが、先生は勧善懲悪ものが好きな良い人でした。校則を守る子には決して暴力を振るおうとはしませんし、言えば分かる子に手を上げるなど以ての外。言う前から決めつける教師なんて無能の極みだと公言してはばからない、社会からは批判されてる側の人です。だからこそ公立校に入られなくなって私立の学校に転職した元地方公務員な御仁です。
モットーは「子供の人生左右できちまう教師が保身優先してどうすんだよ、アホか」
「先生! 先生は私の大好きな正義のヒーローをバカにしてるのかよ!? いくら教師だからって言って良いことと悪いことがあるんだぞ!!」
「俺がバカにしたのはお前であって、会ったこともない正義のなんちゃらのことは知らん。正義とかヒーローとか、自分以外の赤の他人に責任押しつけて問題を有耶無耶にしようとしてんじゃねぇ」
普段であるなら、言っても聞かない生徒だろうとグーパンチまではしない先生なのですが、彼女だけは例外です。一切の遠慮も配慮もする気が起きない最低最悪のクズ野郎少女だからです。
「くそぅっ! 大人はいつもこうだ! 私たち子供の言い分には耳も貸さずに「子供が言ったことだから」って理由だけで屁理屈扱いして決めつけようとする! そんな大人になっちまった奴らは、腐ったミカンになるのと同じじゃねぇか!」
「だったらまずは金持ちな親の寄付金で誤魔化されてるテメェの犯罪行為にケジメ付けてこいやクソボケぇっ!!!
私立だから校長なんてお飾りな上に金で大抵は隠蔽できちまうけど、限界だってあるんだぞ!? 元代議士先生の祖父に可愛がられていたってなぁ・・・与党が落ち目になってきてる今の時代じゃ長続きしない勝手気ままなワガママなんだといい加減自覚して出直してこいやこんクソガキャャャッッ!!!」
ゲシィィィッッ!!
「ひぎぃっ!?」
ケツ蹴っ飛ばされて校門から放り出されたスポーツ少女は、痛みと屈辱のあまり涙を流し悲鳴を上げる。
そして、(胸と違ってデカい)お尻をさすりながら恨みがましい視線で先生の顔を見上げながら捨て台詞を言ってやろうと口を開き。
「ちくしょう! 覚えてやがーー」
「ケツでも冷やして反省しろ! ケツだけ大人の迷惑ガキ!!」
バタン!!
言い終わる前に扉を閉められてしまい、振り上げた拳の下ろし所が見つからずにオロオロし始めてしまいました。
・・・一連の情景を眺め見下ろしながらセレニアは再びため息をつきます。
大した仲が良かった時代はないけど、小学校時代から同じ学校に通っているご近所様の幼馴染みの少女がさらした醜態に、子供の頃から全く変わらない迷惑な人だなと思いながら・・・。
ですが。
「ーーあの人って、悪の魔法使いに目を付けられやすそうな性格してるから、放ってもおけないんですよねー。一応は正義の魔法少女役を引き受けてしまった者として」
「ちぇっ。なんだよ、あの先生・・・悪い奴らを懲らしめるために戦ったんだから、少しぐらい大目に見てくれてもいいだろうに・・・」
セレニアが懸念したとおりと言うか案の定というべきなのか、果また単なるお約束展開に過ぎぬのか。ブツクサ言いながら路地裏を歩いていたスポーツ少女の前に一人の黒尽くめな大男が立ち塞がります。
「・・・なに? アンタあたしと闘ろうって言うの? 言っとくけどあたしは空手黒帯だから試合会場以外でつかわないなんて軟弱なことは言わない。やるからには何時でもどこでも全力全開バトルしかする気はないんだ。
ちょうどムシャクシャしてるってのもあるし、手加減できなくて怪我させやっても知らないよ?」
「・・・・・・(スッと構えをとる男)」
「・・・オーライ。そう言うのは嫌いじゃない。望むところさ。でも、覚悟しときなよ?
あたしに本気を出させちゃったら、どうなっても知らないよぉぉぉぉっ!!!!」
ーー五分後。
「ーーちくしょう! 負けたなんて認めないからな! 絶対、絶対認めてやらないからな! あたしは強いんだ! 最強なんだ! 警察が介入してこないんだったら先生なんて問題なく一発KOしちまえるぐらい強い女なんだ! お前なんかに負けて堪るか!
あたしは強い! あたしは強い! あたしは強い!
あたしはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
強いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!!」
《すばらしい願望だな、少女よ。その願い、我が叶えて見せようぞ》
「・・・へ?」
《我は悪の魔法使いアスモデ。あらゆる自由と欲望と願望と願いを肯定せし者。神を気取って他者を見下す魔法界の偽善者どもにより封印された存在・・・強く願い、求めた者の願いを叶えてやるが我が使命。力を貸そうぞーーー》
「な、なんだ? 体の奥から力がわき上がってき・・・・・・う、おおおおおおっっ!?」
《喜ぶがいい、少女よ。汝の願いは、今ようやく成就された》
「私は正義を愛し! 平和を慈しみながらも悪と戦う正義の使者!
その名も炎の魔法少女戦士《ジャスティス・アスカ》!!
この町の平和は私が守る! 私が決める!
私の拳が悪を倒して正義を貫き平和を守るんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
・・・こうして悪の魔法使いの手により独善的な正義の戦士が作り出されていた頃、どこか遠い空の下で《台頭した敵勢力》の存在を察知していました。
「・・・他力本願な保身主義者の誕生を感知しました。本命ではないようですが、見過ごすのも癪ですからね。殲滅に向かうといたしましょう」
黒い軍服にミニスカートというミリタリー・ファンシーなコスチュームを身にまとった銀髪ロリ巨乳な魔法少女は甲板上で舵を切り、飛行船の進路を日本の地方都市へと変更しながら肩に乗せたマスコット魔法生物に話しかけられます。
「いいのかい、セレニアちゃん? その場所には君のオリジナルがいるみたいだよ。オリジナルを倒したら贋作でしかない君も消滅して消えて無くなるというのに、使命によって縛られた存在というのは律儀なことだねぇ。くふふ~♪」
かわいらしい声と表情で悪意たっぷりに毒を吐いてくる相方をチラリと見下ろし、もう一人のセレニアちゃんは無言のままです。
「それとも君なりに魔法界からの依頼を受けたオリジナルに言いたいことでもあるのかな? それとも恋しいのかな? 元に戻りたいのかな? あるいはオリジナルと入れ替わって自分こそが本物に・・・・・・ふげごほっ!?」
「無駄なおしゃべりをしてないで、ちゃんと働きなさい。役立たずで穀潰しの魔法生物さん。甲板の掃除でも外壁の掃除でもやれることは沢山あるでしょう?」
「げほっ、ごほっ・・・だ、だってこの飛行船は君が魔法で作り出した君の記憶にある印象深かった架空の存在でしかないんだから、掃除なんかしなくても汚れは落とせーー」
「それはそれ、これはこれです。働いてる人の隣で悪口雑言並べ立てるしか脳のない生き物は、人だろうと動物だろうと神様だろうと私は好きになれません。働きなさい。これは艦長命令です」
「で、でもでも! ボクはこれでも女王様を排斥して政権を奪い取りたい王女様から密命を受けて派遣されてきた密使で! 貴族で! 魔法界の重要人物で!」
ガチャコン。
「貴族の誇りを守って撃たれて死にますか? それとも貴族としての無駄な誇りを捨てて、平民のごとく生きるために働きますか?」
「・・・・・・・・・生きるためにも働きたいと思います」
場所は戻って、日本の地方都市にある高等学校。
鞄の中に隠れ潜んで(コッソリと)付いてきていた魔法界のアニマル生物が顔を出して、ジャスティス・アスカの誕生と襲来による危機の到来を飼い主に伝えていました。
「セレニアちゃん! 大変だ! 悪の魔法使いがついに自分の腹心に使えそうな魔法少女を手に入れちゃったみたいなんだよ! 急がないと地球が大変なことになっちゃう!
さぁ、今すぐ変身して悪の勢力と戦おう!」
「・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~・・・・・・・・・」
「ーーーなんで今の流れで、そんなにも長い溜め息吐いてるのさセレニアちゃん・・・」
「別に・・・」
どうせ悪に選ばれたのは幼馴染みのあの子なんだろうなーとか思いながら、セレニアちゃんが考えてたのは別のことでした。
ーー授業が始まってから二十分以上が経過している今から、怪しまれずに教室出て行くためには、どんな言い訳が存在している・・・?
(三年前に亡くなったお婆ちゃんは、この前殺したばかりですしバイトは校則で禁止されてます。母が急に倒れたと電話してもらおうにも、その役を担ってくれそうな知り合いに心当たりがありません。
・・・この無駄飯ぐらいさんは何も出来ないから論外としても、そろそろ味方の一人ぐらい出てきて欲しい頃合いなんですけどねー)
三者三様、それぞれの思いを胸に三人の魔法少女たちは決戦の地である日本の地方都市へ集結しようとしています!
果たして勝利はどの魔法少女が手にするのでしょうか!? それは戦ってみないと神様ですらご存知ない未来のエンディングだけが知っています!!
善セレニア「なるほど。つまり『万能なる神など実在しない』と言う、伝統的な神様否定理論というわけですか」
悪セレニア「むしろ、『実在する神は未来にしかいない』とする霧間誠一さん的思想なのでは?」
・・・両方から世界アンチするの、やめてもらえません?
次回予告!(多分やらないでしょうけどね!)
アスカ「燃えろ正義の鉄拳! 《バーニング・ファニックス・パンチ》!!」
善・悪セレニア「「魔法生物バリアーです」」
魔法生物二匹「「ギャーーーッ!? なんてことすんじゃいチビジャリども!?」」
善・悪セレニア「「私ってどちらもモヤシっ子ですから耐久力低いんですよね。ですので代理として戦ってあげる代わりに盾として使われるぐらいは我慢して頂きます」」
魔法生物二匹「「アンタらどっちとも鬼だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」」
善セレニア「・・・・・・」
悪セレニア「・・・・・・」
善セレニア「・・・いや、困りましたね。私たちって出会った場合に戦うべき存在なのでしょうか・・・?」
悪セレニア「・・・微妙なところです。貴女の目的は悪の魔法使いを倒すことであり、私の目的は魔法界の女王に責任をとらせることにありますからね・・・目標が別なのに何で戦わなきゃいけないのか説得力のある理由説明がちょっと・・・」
善セレニア「『それがお約束だから』だと、最近ちょっと理由として弱くなってきてますからね・・・」
善・悪セレニア「「ううぅむ・・・・・・」」
魔法生物二匹「「アンタら実はめちゃくちゃ仲良いだろコンチクショーーーっ!!」」