「む?」
「・・・・・・」
辺境にある『戦士の村』の住人、10歳児のハイド少女は目をパチクリしながら、眼前で動き始めた、先ほど棺の中で眠っていた少女を眺めやる。
見目麗しい少女だ。蒼色をした長い髪と人形めいて整った顔立ちを持つ端正な少女。
歳は自分よりも幾分か上・・・14、5歳ぐらいだろうか? 年頃の娘として発育が良い方ではないが、村の中でもとりわけ背が低いと評判の自分には顔を見るのに見上げる必要があるほどデカい。デカすぎる。大巨人だ。
「ハンマーとか持たせたら似合いそうだと思わないかね?」
「・・・何考えての言葉なのかよく分からないけど、とりあえずあなたの身長を基準に私のことを考えるのはやめてもらえない?」
拒絶する少女の言葉を聞いてハイドは安堵する。
良かった。言語はしっかり伝わっているようで何よりである。正直なところ棺から出てきて動き出したからゾンビだと思って頭を殴り潰そうとしていたところだったのである。無用な顔無し死体が出来上がらなかったのは幸いだ。これも普段から良い行いをしている自分の手柄だと、ハイドとしては鼻高々になれて嬉しい。
「・・・なんだろう、この人間。声に出してないのに、ものすっごく図々しいこと考えてるような気がする・・・」
「おう、汝エスパー少女。あーゆーはうまっち?」
適当すぎる異世界言語はこの世界の人間にも、この世界以外の人間にとっても意味不明。いつの日にかの解読が待たれる。
「それより・・・ソレ、あなたが外してくれたの・・・?」
「ソレ? どれのことかね?」
「ソレ・・・その手に持ってる封印の呪符。私の再起動を阻むために神聖アリア王国の神官たちが長い儀式の末にようやく神から授かった貴重なマジックアイテムだった物・・・」
「ああ、なんだ。この黄ばんだ包帯のことかね。なんか汚れていて不衛生っぽく見えたから、薪の燃料にでも使ってしまおうかと思っていたところなのだよ」
「・・・・・・」
「問題は、そこいらに落ちてた木の枝とどっちの方がよく燃えるかで悩んでいたのだが・・・ひょっとして君の大事な物だったのかね? だとしたら申し訳ないことをした。謝罪させてもらおう。すまなかった」
「・・・いい。おかげで私も自由に動けるようになった。感謝している。ーーこれでようやく、約束の地《エディル・ガルド》に赴ける・・・」
「エディー・マーフィー?」
「・・・・・・知らないなら、いい・・・」
またしても飛び出したハイドの適当異世界言語に頭を少しだけ痛めながら、青髪の少女は歩き出して止まるり、周囲を見回してから首を傾げる。
“自分は確かに長い時間眠り続けていたが・・・さすがに景色が変わりすぎているのではないだろうか?”。そう思ったのだ。
彼女が永い眠りについたとき、それに必要となる機材が敷き詰められた狭い部屋に寝かされていたのだが・・・さすがにこの場所はどこなのかさっぱり分からないし、見当もつかない。一体ここは本当のホントに何処なのだろうか?
見たところ遺跡跡か神殿跡か、幾何学模様が幾重にも絡み合って描かれまくっている厳かなのか滅茶苦茶なのか、よく分からない場所だ。こんな所に自分を運び込むべき理由は思い当たらないし、普通に考えるなら移送中に何らかの事故がおきて不時着したと考えるのが妥当だろう。
そう思って見上げたところ、遙か彼方の頭上から光が差し込んでいる穴が見えた。おそらくは彼処からここまで落下してきたのだろう。自分の入れられていた棺は封印装置も兼ねていたから落下程度で壊れるはずないのだから。
「・・・ねぇ、あなた。助けてもらってばかりで悪いのだけど、もう一つだけいいかしら? ・・・ここって・・・何処、なの・・・?」
「さぁ? 私も知らんし全く分からんな。何しろ私も今来たばかりの場所なのだし」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。今度のは長い。非常に長い。今までと違ってハイドの言葉に適当異世界言語は混じってなかったが、混じっていたとき以上に言ってる意味が分からない。
「・・・・・・は?」
「なにしろ適当に散歩していて落とし穴に落ち、適当に歩いていった先にあった遺跡の中でレバーを見つけて適当に引いたり押したり殴ったり壊したりしていたら魔法陣が起動して飛ばされてきた身なのでなぁ~。むしろ此処が何処なのか私も聞いてみたいぐらいなのだよ。
いやはや困った困った、ふはははははははーーっ!!」
「・・・・・・」
誰がどっから見ても困っている人の態度じゃねー・・・。と、少女が思ったかどうかまでは分からない。分からないが、それでも少女には理解できたことがある。
それは、ここが約束の地《エディル・ガルド》ではないと言うこと。
そして、《エディル・ガルド》ではない場所に自分が止まる理由は何一つ無いということの二つのみ。
「ん? どちらかへ行くのかね?」
「ええ。私には行くなくちゃいけない場所があるから・・・」
「そうか。では、気をつけてな。縁があったらまた会おう」
「ええ。・・・さようなら」
きっともう二度と会うことはないだろう・・・そう確信しながら少女は歩き出す。行くべき場所へ、務めを果たすために。
そのために作られた人形でしかない自分は、其処に行き着くこと以外は考えない・・・。
スタスタスタ・・・。
てくてくてく。
・・・スタスタスタ。
てくてくてく。
・・・・・・・・・ピタッ。
てく?
「・・・ねぇ」
「ん?」
「・・・・・・・・・なんで着いてくるの・・・?」
青髪の少女は人形特有の感情が出にくい顔の全面から、不本意さのオーラを発散させることで『着いてくんなオーラの鎧』を纏いながら言葉の槍で刺したつもりだったが、ダメージ量が足りなかったらしい。
ハイドは普通に、
「いや、よく見たら道が一本だけしかないようなのでな。どうせ一人で残っていてもやることないし暇だから、一期一会のたとえを引用して着いてくことにしようかと」
「・・・迷惑。すっごい迷惑。だからやめて」
「なるほど。だが、拒否する! なぜなら君が進む先しか道がないからだ! 君が出て行くまで待っていたのでは私が出られるまでに日が暮れてしまうではないか!
ハッキリ言わせてもらうが青髪の少女よ・・・君はあまりにもスローディー! 遅すぎるのだよ!」
「・・・・・・・・・くっ・・・」
少女は悔しそうに歯噛みする。確かに自分は自動人形ではあっても戦闘用だ。戦闘以外の面では普通の少女とさして変わらぬ身体能力しか持ち合わせないが、それでもモーターをフル回転させればこの程度のダンジョンくらい一瞬で走り抜けられるのである。
・・・ただし、燃費が悪すぎるのでフル回転した後には、一両日中眠ったままになってしまうのだが。高性能な分、燃費が悪い。機械人形の基本です。
「まぁ、無理して私につきあう必要もないから走りたくなったら走ってくれていいし、置いていってくれても別に気にせん。
遺跡から出たら別方向に進んでもいいし、途中で道が分かれていたらそこで別れるのだって十二分に有りだろう。今無理して決めなくても良いのではないかね? ぶっちゃけこの場で論議しているのが一番時間の無駄だと思うぞ」
「ぐ・・・わかった。じゃあ、それでいい・・・」
なんとなく釈然としないけど、結論自体は間違ってない気がするので青髪の少女は仕方なしに提案を受け入れることにした。ただし、途中で何話しかけてきても無視してやろうと心に決めながらだったけども。
が、しかし。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・」
・・・意外にも立場をわきまえて黙ったまま着いてくるハイド。正しい対応なのに何だかスゴく理不尽さを感じてしまうのはどうしてだろうか? 造られた人形には理解できません。教えてください、マイ・マスター。
「ーーあ」
「・・・なに?」
ついに痺れを切らしたかと、若干期待した少女が足を止め、声を出したハイドの方へと振り返る。
「いや、大したことではないのだがね。少しだけ気になることがあったので伝えておこうかと」
「・・・だから、なに?」
「そのまま一歩でも進むと危ないぞ?」
え、と少女がつぶやいた次の瞬間、目の前の床が崩れて老朽化から崩壊。人三人分ほどの大きさを持つ落とし穴が出来てしまっていた。
「・・・・・・」
「いや、無事で良かったな青髪の少女よ。私も鍛えて上がるものなのかと不振がられながらであろうとも、勘を鍛える訓練を続けた甲斐があったというものだ。
うむ、善き哉善き哉。ふははははーっ!」
機嫌良さそうに高笑いするハイド。対して助けられた青髪の少女の思いは複雑である。
「私・・・人の手で助けられたくはなかったのに・・・」
「それなら問題ないのではないかね? 今助けたのは手じゃなくて声だったし」
「ぐっ・・・」
屁理屈をと言いたいところだが、その場合は自分が『人の声じゃなくて、手で助けられたこと』を認めてしまうことになり、それはそれでなんかヤだ。
仕方ないから、其れっぽいこと言って誤魔化そうとして試みる。
「人にはそれぞれ役割があって、そのために力を与えられて生まれてくるものでしょう? だとしたらあなたのその力は、もっと相応しいところで生かすべきだと私は思うけど・・・?」
「相応しい場所・・・と言うと何処のことかね? 恥ずかしながら村から殆ど出たこと無い私は地名など殆ど知ってはいないのだが?」
「・・・・・・」
・・・知りません。だって私、千年以上もの間眠っていた自動人形だから現在世界の地名なんてさっぱり知らないし分かんないもん・・・。
「まぁ、役割があって与えられた力だというなら、相応しい場所に着けば自動的に分かるようになっているのだろう、たぶん。其れを感じないと言うことは今この場ではなく、私たちの知る既存の場所でもないと言うことだな。たぶん。
おそらくだが、其処に着くための旅で使うのであれば無駄にはなるまい、たぶん。神様だか誰だかもきっと許してくれるだろうさ、たぶん」
「・・・『たぶん』ばっかり・・・」
「なにしろ知らないことなのでな。憶測で話しているのだから『たぶん』を付けるのは当然の礼儀と言うものだろう。相手に間違った知識を吹き込んで信じさせてしまった場合にはなんとする?」
「・・・・・・そう、かもしれないけども・・・」
またもや釈然としない少女。何というかこの人間、ものすごーく調子が狂わされるから困って仕方ない。千年前の人間たちはもっと横暴で自分勝手な人たちばかりだったから話しも通じやすかったんだけどなぁー・・・。ーー何となく矛盾を感じさせられて理不尽。
「ん?」
「・・・今度はなに? また落とし穴?」
「いや、火薬の臭いだな。どうやらロックオンされてしまったようだぞ? 距離は大体・・・100メートルちょい?」
「え」
自分たちを攻撃しようとしている存在との距離を聞いて、少女は絶句する。
その距離なら弓矢だと若干難しくとも、『自分たちなら指呼の距離だ』。射程範囲内である。
「ーーーっ!!! 危ない! 逃げ・・・・・・っ!」
ーーて。と続けようとした少女の声を、飛来してきたロケット弾の爆発音が掻き消してしまう。
「・・・威力ランクCの《エクス・マキナ》による砲撃・・・!」
少女はうめくように声を上げ、ハイドがいたはずの場所を絶望の思いとともに見つめるしかできない己の無力さを心中で詫びた。
ーー試作品に過ぎなくとも対神造兵器として造られていた物のレプリカだ。その攻撃をまともに受けてしまえば、脆弱な人間の肉体なんて一溜まりも・・・・・・。
「ちなみにだが、先ほどの穴は君の重みで崩落しただけであって、別に君を落とすことを狙って誰かが掘っておいた穴ではないから、落とし穴という表現は適切ではないと思うぞ?」
「・・・わざわざ人の傷口を抉ってくれるために死なないでいてくれてありがとう・・・。せっかくだから後で殴っていい?」
「はっはっは! 私は何時でも何処でも誰の挑戦でも受ける心構えはすませてあるぞ!」
一溜まりの蟠りもない気持ちの良い笑顔で了承してもらえた。・・・よし、後で絶対ぶっ飛ばす・・・。
「あらあら、まさか今のを受けて無事だなんて思いもしませんでしたわ♪ いったいどんな手品を使われたのかしら? 大変興味が御座います。よければ売っていただけません? 情報料として100万ガネお支払い致しますことよ?」
バカ丁寧な口調で挑発しながら、小さな襲撃者は笑顔のまま話しかけてきた。
右手に巨大な大砲を持った黒髪のお嬢様風美少女である。優雅なドレス風の衣装に身を包んでいるが、それに反して漂ってくる気配には炎と硝煙の臭いしか感じられない。
「初めてお目にかかりますわ。私の名はマリア・ベル。
古代文明が生み出した遺産を保護し、人類の進歩と発展に役立てようと言う崇高な志のもと結成された雄志の団体『エンシェント・グレイブ』のメンバーです」
「エンシェント・グレイブ・・・?」
「平たくぶっちゃけちゃいますと、貴女みたいな古代の生体兵器を集めまくって世界征服する戦争起こそうぜー!ひゃっはー!・・・な、組織の一員と言うことでございますですわ♪」
「・・・っ!!」
明るく楽しそうな口調で言い切って見せたマリア・ベルの言葉に、青髪の少女は硬直して顔をこわばらせ、ハイドは不思議そうに小首を傾げる。
その反応からハイドが何も事情を知らされていないことを察したマリア・ベルは、自らの趣味を満足させるためにも無知な田舎者にたいしてトクトクと解説してやることにした。古代史の授業開始である。
「そちらの方はどうやら事情をご存じないようですし、僭越ながらわたくしが解説させていただきますわね?
ーーそもそもの始まりは遙か古代時代にまで遡ります。そのころの世界には魔法が存在しておらず、機械や科学とも呼ばれている人工の奇跡が当たり前のように世界全土を覆い尽くしておりました。
ですが、その状態を不遜と考えた傲慢にして野蛮なる神は人類に対して戦争を仕掛けましたが、予想外の反撃により双方ともに痛み分けで大戦は終結しました。これが神人戦争です。
この戦いの後、神は傷を癒すため永い休眠期に入り、数を減らしたことにより文明の維持に支障が出た当時の人類社会は次に訪れるだろう神との戦いに備えて一部の武器を残して自らも穏やかな滅びの時を迎えました。これが旧世界の終わりです。
それから長い年月が経ち、神は結局傷を癒し続けたまま眠り続け、古代人類が残した遺産も想定外に長すぎる戦いまでの待ち時間が原因で次々と維持エネルギーが枯渇してしまい壊れ初めてしまうという惨状にまで至って、ついに私たちは決意しました。
『どうせ壊れて止まっちゃうなら、使ってから壊してあげた方がいいじゃない!』・・・と」
「だからわたくしは、そこにいる青髪の少女を捜し出して移送しようとしていました。
なぜなら彼女は古代兵器の中でもとりわけ特殊で強力な存在! 人造の神! エクス・マキナの中の一体だったからです!
エクス・マキナは生きた人の体をパーツにして作り出された究極の変形兵器。状況に応じて姿を変えさせることで携帯を可能にした大規模破壊兵器のことなのです。その威力は禁呪にも匹敵すると言われている人類が生み出した文明の象徴! 是非とも壊れる前にうちで有効利用して差し上げたかった!
・・・だと言うのに、それをトチ狂った自称平和主義者どもが奇襲仕掛けてきて邪魔してくれやがったお陰で飛行船は大破炎上。品物も落としてしまいましたし、捜索するのに三日もかかってしまいましたという訳なので御座いますですのよ・・・」
ハァ、と小さくため息をついてからマリア・ベルは改めてハイドの顔を見直し、そして提案する。
「そう言う事情ですので、わたくしは疲れています。出来るなら戦闘とかメンドくせーことしてよけいに疲れを増やしたく御座いませんのよね。
と言うわけで、如何がでしょう? 彼女をわたくしにお金でお売りいただけません? 疲れている今なら面倒な残業を避けるための大盤振る舞いで5000万ガネでお引き取りしますわよ?」
「せっかくのお申し出だが、お断りさせていただこう。私にはその資格がないのでな」
ハイドの拒絶にマリア・ベルは両目を細める。
「まさか貴女も『人の命をもてあそぶ権利がどうこう』言い出す自称平和主義者の一員でしたので?」
「いや? 単に彼女の所有権を主張する資格が私には無いから、金は受け取れないと言っただけのつもりだが?」
「・・・・・・」
「彼女とは、この神殿跡地の奥で偶然出会っただけのいきずりな関係なのでな。彼女がいきたいと言うなら無理に引き留める理由もないが、だからと言って他人に金を払ってもらう類のことでもない。私は値引きもぼったくりもしない主義の人間だ」
「・・・ああ、そうなんですの。それはご立派な心構えですわよ・・・ね?」
なんかコイツ、やりずらいなー・・・と。マリア・ベルも青髪のエクス・マキナと同じ感想をハイドに対して抱きながら後ろの少女に目配せして、一緒にくるように促す。
ちゃんと“ここは自分についてこないと横にいるガキンチョに迷惑がかかるぞ?”という意味をもつ警告も見せつけてやりながら。
「・・・・・・」
こうなると青髪のエクス・マキナはどうすることもできない。
先ほどマリア・ベルが言っていたとおり、彼女自身は変形兵器に過ぎず、使い手がいない場所では自分一人で弾一発撃つことも出来ない無力な身だ。エンジンをフル回転して逃げたとしても、同じエクス・マキナの使い手から逃げきれるとは到底考えられなかった。
「・・・わかった・・・。貴女に、ついて行きます・・・」
そう答える以外に道はない。マリア・ベルは嬉しそうに手招きしているが、あの様子だと《エディル・ガルド》のことは知らないように見えるし、まだチャンスはあるはずだった。
それになによりエクス・マキナの性能を引き出すには《エディル・ガルド》に保管されている特殊弾頭が必要不可欠だ。今の自分程度なら、たとえ犯罪者に悪用された場合でもBランクに届くか否かの被害までしか及ぼすことは出来ないだろうから。
「行くのかね? では、達者でな。君が望む目的地エディー・マーフィーに辿り着けることを遠くの空の下から祈っておるよ」
ハイドの言葉が妙に心に響いてくる。・・・結局、殴ってやることも出来なかったし、短時間ながら濃い付き合いをした自覚もある。未練は残るのだ。どうしても・・・。
「ありがとう・・・元気で」
そう告げてから、ふと思い出す。
そして、言う。
「エディ・マーフィーじゃなくて《エディル・ガルド》。いい加減覚えて・・・」
「よーし、分かった了解だ。《ザナル・カンド》だな。二度と忘れん」
「・・・なんで貴女は、直すと最初よりヒドくなってくの・・・?」
釈然とした気持ちは何一つ解決されないまま、青髪のエクス・マキナはマリア・ベルの背後へと続いている廊下を進んでいく。そして、マリア・ベルの真横を通り過ぎた次の瞬間。マリア・ベルは笑って、エクス・マキナの少女は驚きに身を固めさせられてしまった。
「そう言えば、わたくし。大事な任務をもう一つ託されていましたの・・・」
「??? ・・・それは・・・?」
「それはーー目撃者を消すことですわ!!!」
バッ!!
装飾過剰なフレアスカートを翻して自らの手でめくりあげたマリア・ベルは、幼さが残る面差しとは裏腹にアダルトなデザインの下着を見せつけるとともに、ガーターベルトに刺し込んでいた手榴弾すべてを取り出してハイドに向かって投げつけた!
ーー戦闘には長すぎて邪魔になるフレアスカートは、この為だったのか!
エクス・マキナの少女は驚きのあまり動くことすら出来ないまま、棒立ちしたまま爆発に包まれていくハイドを見ていることしかできなかった。
ようやく声を出せたときには、マリア・ベルは次の攻撃に移る準備を終えていた。見た目で侮ってたけど、コイツ・・・早い!
「話が違ーーーっ」
「わたくし、嘘はついてませんわよーーっ!! 戦闘は面倒くさいからしたくありませんので、一方的に殺戮させていただいてるだけですものねーーっ!!!
敵を前に腕組んで仁王立ちしたままのおバカさんがバカなだけ~♪♪♪」
どかどかずがが!! ズドガンズドバン!! ズババババババンッ!!!
ロケット弾をハイドの小さな体めがけて次々と愉しそうに撃ち込んでいくマリア・ベル。
言ってることは正しいが(特に後半は反論の余地なし)やってることは卑怯きわまりない。それが戦場だと言ってしまえば其れまでだが、自分の存在意義に疑問を抱いている青髪のエクス・マキナにとって辛い現実を見せつけられているに等しかった。
ーーが。
「うむ! その意気やよしである!!」
過酷な現実を前にしても非現実の象徴生物ハイドは屈しない!
平然と腕組みしたまま現実をガン無視して我道を貫く!
『はぁっ!?』
「己の全力と全力をぶつけ合ってこそ漢同士の戦場の名に値する! まして飛び道具使いが剣士を相手に自らの得意とする間合いで戦うため権道を用いるを辞さない徹底ぶり・・・見事! 実に見事成り!
私は感動のあまり涙の滝が止まらないぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!」
『・・・・・・((゜д゜)ポカーン)』
本気で感涙にむせんでいるバカの醜態に、過酷な現実の方が唖然呆然とするしかない。
いや、一応撃ち続けてはいるんだけれども、効いてなさそうだからなー・・・。
「飛び道具使いとしての誇りを貫く君の勇姿に敬意を表し、私も君にあわせて全力を出そうではないか! 私の全力を・・・真なる私の姿を見るがよい!!!」
叫んで・・・投げ捨てた。ーー自分の着ていた上着とシャツを。
「さぁ、来たまえ!! 私は裸一貫にて君の全力連射を受け止めて見せようぞ!!!」
『なんでだよ!? 訳分からんわ!!』
エクス・マキナとエクス・マキナ使い、二人の美少女からのツッコミが、さらし姿で仁王立ちしているチビでバカな美少女相手に浴びせられるが通じない。ロケット弾と同じように無力である。
全く以てーーこいつには物理法則という名の常識がこれっぽっちも通用してくれねぇぇぇっ!!!
「さぁ! 撃つのだ! 撃ってくるのだ! 全身全霊で放った一撃を! 己の持つすべての力を込めて! 己の持つ可能性の光をすべて引き出して!
私に向かって全力パンチなロケット弾を放って見せぇぇぇい!!!」
もはや青髪のエクス・マキナは言葉も出せないが、社会人のマリア・ベルは真面目だった。あるいは職務にたいして誠実だった。
攻撃もやめないし、律儀にツッコミのもやめない。全力全開で撃ちまくりながらツッコミしまくる!
「あ、あ、あ・・・アァァァァァァァホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっい!!!!!」
「失敬な! 私はいつでもどこでも大本気! 真面目と書いてマジ!!」
「その返事聞いて真面目だと思ってくれるアホが、この世界に実在するわけ無いでしょーーーっ!?」
「世界の常識をぉぉぉぉぉぉ!!! 革命する覚悟をぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」
「いらぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!」
どがずがぼがが!! ずどどどどどどどどババババババババババン!!!!
・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。
ーー破壊された瓦礫と、撃ち終えて爆発四散したロケット弾の破片と、塵と硝煙と消費し尽くされた戦いに赴く者たちの戦意というエネルギー残滓が漂う空間内に、疲労しきったマリア・ベルの吐く荒い息だけが木霊する。
如何にもな戦場後風景に感慨を抱きながら、ハイドは満足そうに息をつく。
「・・・良い戦だった。良い戦人だった。君という戦士と戦えたことを誇りに思う。再戦の日まで壮健なれ、だ」
・・・んなアホなぁ~・・・。そんなことを言ってきてる気もするが、大声でツッコミ続けて喉が枯れてしまったマリア・ベルはしゃべれなくなっているので声にならないし、なれない。
そのため自分に都合良く解釈したハイドは気にすることなく、自分の名と性を伝えてライバルとの初陣を終えて帰還していく。
「私はシュトロハイド・フォン・ローゼンバッハと言う。君と戦うべき漢の名だ。覚えておいてくれたまえ」
「・・・いや、今更だけど貴女も彼女も女の子で、男の人は一人もいなくない・・・?」
本当に今さらなツッコミをエクス・マキナの少女がつぶやき、ハイドには気にしてもらえない。
「気にするでない、些細な問題である」
人間にとって性別の違いは些細な問題なのかしら・・・? 人造生命体の少女が疑問符で頭上を埋め尽くしている横を、上着を拾ったハイドが通り過ぎていく。
「大事を為そうとしている者が、小事に拘っていてどうするのかね? 我々には大きな野望・・・否、やるべき事があるのだろう?」
「!!」
・・・そうだ。人にはそれぞれ役割があり、自分にも彼女にも異なる使命と役割が・・・・・・
「とりあえず現在地を確認しなければならん。今のままでは食事もできんからな。いっぱい運動して腹が減ったのである!!」
「・・・・・・・・・」
現在の目的地ーーー自分たちが今どこにいるのか分かりそうな所。
・・・・・・《エディル・ガルド》への道のりが前途多難過ぎるのにも程がある!!!
登場人物設定
青髪のエクス・マキナ(本当の名前はソル・カノン)
とりわけ危険なエクス・マキナで、名前の意味は《太陽を撃つ銃》。
その名が示す通り、核弾頭を撃ち出すことが出来る。
あまりにも危険すぎる武器のため、本人自身には戦闘を嫌う性格が付与されている。(自分が認めたマスター以外に使わせないため)
それだけやってもまだ安全とは呼べない威力を持つ兵器のために、強力な弾頭の殆どは古代遺跡《エディル・ガルド》の最下層に厳重に保管されている。
《エディル・ガルド》を目指しているのは自分を完成させるためではなくて、完成した自分を使ってほしいと思える唯一の存在《マスター》が待っててくれると信じているから。
エクス・マキナ形態の姿は小型の拳銃で、威力の割に取り回しがよくて小回りも利く、特殊弾頭なしでも十分に強力なエクス・マキナなのだが、ハイドが剣士で射撃センスマイナスのために宝の持ち腐れにしかなれない薄幸の武器少女。
使えないし、使ってもらえないから滅多なことでは変身しない。したとしても武器としては使ってもらえない(撃っても当たらない)。
冒険の中で兵器として生み出された自分の存在意義について、今までとは別の意味で大いに悩まされまくる過酷な(?)運命を背負っている。
シュトロハイド・フォン・ローゼンバッハ
お約束ブレイカーな美少女剣士。訳わからん存在。自分でも自分のことをよく理解していないが、気にしていない。
あらゆる場の空気を無視して我道を貫く究極のKYで、像が踏んでも微動だにしない頑丈な身体と、100万頭の馬を引っ張って海を渡れるパワーを持つ。
IQは「私は英雄になる!」・・・以上。
あらゆる物事を自分基準でしか捉えようとしない自分勝手な性格の持ち主だが、基本的に良い方にしか解釈しようとせず、憎しみや嫉妬などマイナスの感情には「未熟」「惰弱」「愚かなり!」のどれか一言でバッサリ切って捨ててしまう、ある意味では大変男らしい人格の持ち主。
武器は遺跡で偶然掘り出した刀。・・・ただし、正々堂々とした戦い方を好むので相手のバトルスタイルに合わせてしまい、刃物としての出番はあまりない。普段は鞘を付けたまま殴っている。
方向音痴で味音痴。ついでに酒豪。味にこだわりはないが、とにかく酒を飲みたがる。ただし、いくら飲んでも決して酔わない特異体質の持ち主でもある。
本来ならエクス・マキナとしての宿命と運命に翻弄されながらも人として成長していくカノンの隣で苦悩をともにする未熟な少女として生まれたはずの存在が、与えられた役目を演じるだけでは「おもしろくない」と、突っ走ってしまって人格を自己改造。今に至る。
人では勝てない究極の人造兵器エクス・マキナよりも強い人間のため、世界観設定が意味を成してくれない存在。
生まれという運命に縛られた世界観の中、自分の主観だけで突っ走る少女の瞳に映る世界とは・・・!?
「運命など知らん! くだらん! 興味もない! 語感は格好良いかもしれんがな!
そんなものに付き合うほど暇ならば、私と一対一で漢と漢の勝負をしようではないか! きっと楽しい!」
ヒロイン・カノンについての補足説明:
バトル物だと様々な理由から敵にさらわれまくるヒロインですが、私の作品の場合『核兵器だから』で統一したいなという願いからこの設定を採用してます。
名前が変わろうとも制限がつこうとも、「手に入れさえすれば世界さえも夢ではない・・・っ!」そんな風に権力者たちを勘違いさせて惑わし道を間違わせる存在として核兵器としての側面を持つヒロインを出してます。核は権力者を惑わします、絶対ダメ! ・・・的な感じでね。
普段、核ネタからは縁遠い私の作品にもこういう形でだったら出してもいいかなーと。ご不快だったらごめんなさい。