試作品集   作:ひきがやもとまち

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「銀河戦国群雄伝ライ」で、比紀弾正が家臣の一人「ノブナガ」に弑逆されてたらのIF話だと思います。(多分はもういいですね。次からやめます)


銀河戦国魔王伝ノブナガ

 元魔三年ーー神聖銀河帝国皇帝光輝帝の崩御により十三代二百七十年に及ぶ帝政は終わりを告げた・・・・・・

 

 帝国の衰退により始まった群雄たちが割拠する混乱の時代にあり、最初に時代を導く旗手となったのは帝国で左将軍の地位にあった比紀騨正。

 彼は力を失った帝国に成り代わり、またたくまに北天を制圧。

 各地の群雄を次々と配下に組み入れながら勢力を拡大し、全銀河統一まで後わずかに迫っていた。

 

 だが、しかし・・・・・・

 

 

 

「申し上げます! 信永(ノブナガ)様が率いる代零軍が突如として進路を転換。武王都に向け進軍を開始したとの報告がありまして御座りまする!」

「なんだと!? まさか、あの信永様が・・・あり得ぬ事だ。なにかの間違いではないのか?」

「既に狼刃将軍は敗退。骸羅将軍は第零軍団への参陣を表明。この武王都へ至りつつあり、鳳鳴将軍、玄偉将軍の両名は『臣下として主が座する玉座へ刃を向けるを潔しとせず』・・・と」

「なんと・・・それは事実上の鞍替えぞ!? 仮にも四将軍の地位にありながら、我が身かわいさで日和見られるか!」

「お館様! かくなる上は御身の御手で信永様を・・・いいえ、天下の大罪人『逆賊』織田信永を討ち果たし、世に正義の所在を知らしめましょうぞ!」

 

 家臣たちの中で最も目をかけていた武将にして、五丈四将軍に次ぐ地位にあった織田久秀の長女にして亡き父の後継者でもある特務隊を率いる武将、織田信永。

 

 『工兵部隊』とも呼ばれ、蔑まれることの多い第零軍団は直接戦闘力こそ高くはないが、身分や家柄にこだわらない成果主義、能力主義を旨とする異色の武力集団として知られており、よく言っても猪武者が多い騨正配下の武将たちの中では異質であり希少でもある異彩ぶりに騨正は、若手家臣団の中でも頭二つは抜きんでていると高く評価していた次代の帝国を担うに足る逸材の謀反を耳にしたとき。

 

 比紀騨正は常にないほど穏やかな声でこう呟いてから討伐のための軍を上げ、敗死したと伝えられている。

 

 

「是非もなし」

 

 

 ーーと。

 

 

 

 ・・・それから三年。重臣の謀反により一時は混乱していた帝国軍は織田信永の類まれなる統率力と実行力、内政能力によって混乱を脱し嘗てを凌ぐ栄華と大兵力を持って残敵掃討のため国内各地に残る反対勢力を分断し孤立させてからの徹底的な包囲殲滅戦により着実に、北天平定を成し遂げつつあった。

 

 

 

 旧帝国領 佐倉。主城『延高城』にて。

 

「紫紋よ、我が愛する娘よ」

「はい、父上・・・」

「お前の母は光輝帝の皇女。お前には皇室の血が流れておる。騨正の後釜も無碍にはすまい。城を出てはくれぬか?」

「そんな! あたしは阿曽主禅の娘・・・最後までお供いたします・・・。

 何とぞお側において下さい!」

「お前はまだ若い。わしの寿命はここで尽きたが、お前には未来がある。死んではならぬのじゃ・・・」

「父上・・・それはあたしが帝室の血を引く、主筋の娘だからで御座りましょうか? 仕えた主家の血を絶やしては亡き主に冥府で顔向け出来ぬからと・・・」

「それもある。確かに、ここで皇室の血を絶やすは帝室に忠誠を尽くす者の恥。永劫に消し去られることのない汚名を着るは間違いないであろう。それは否定せぬ。

 しかしーー」

 

 そこで主禅は言葉を切り、玉座に座す自分に泣きながら縋りついてくる愛しい我が子に向けるのとは全く別の感情を宿した視線で敵からの使者としてやってきている冷たい目をした若い男を激しく睨みつけながら、断腸の思いを胸に決意の言葉を口にする。

 

「・・・わしにはどうしても織田騨正を許すことが出来ぬのだ・・・。選んだ道も、志さえ違えども、それでもわしにとって比紀騨正は帝国軍を共に支え続けてきた同胞であり、戦友でもあり、そして何より好敵手(親友・とも)であった。

 いずれ戦場にて雌雄を決しようと誓い合った約定を、無礼にも横から掠め取っていった慮外者を放置しておくことなど断じて出来ぬ。奴はわしとともに地獄へ落ちるべきなのじゃ。いや、なんとしても落とさねばならぬ。たとえ我が身が砕け散ろうと絶対にな・・・!」

「ち、父上さま・・・・・・」

 

 義理の娘は、常の優しげに微笑んでいた父親と同一人物だとは思えないほど憎しみで満ち満ちた暗い殺意の炎を浮かべた眼を見て、心胆から震え上がっていた。

 これが、殺意。憎悪。嫌悪。怒り憎しみ苛立ち様々な負の感情を凝縮したかのような瞳を湛えている義父たる老将。

 

 佐倉城主、阿曽主禅は父として優しいだけの凡夫などでは決してない。

 戦国の世に生きて散っていこうとする、一人の武将なのだと言う事実を今になってようやく思い知らされながら紫紋姫が父の視線を追った先にいる人物。織田騨正軍からの使者に対して視線を向け直したときに頭上を父の声がかすめるように飛び放たれていった。

 

「使者殿、娘をよしなに」

「はっ。かしこまりました」

「それから信永殿に伝言を頼まれてはくれまいか?

 『明日の我が身が、お主にとっての遠くない未来じゃ』とな」

「はっ。かしこまりました。阿曽主禅殿のご遺言、しかと主に届けられるよう心に留め置きます」

 

 更に激しさを増した憎悪に燃える父の瞳から逃れるように城を出た紫紋姫は、使者に連れられ旧五丈国の首都『武王都』へと急ぐことになる。

 

 

 図らずも彼女の到着と、佐倉を制圧して主城を落とした遠征軍の一員が大将首にたいする報償の増額を求めて王の間へと直訴しにきて暴れるのが同日の出来事となり、歴史に大きな意味を持たせることになる。

 

 天下を治める器を持った未来の王たりえたかもしれない青年と、王となるべくして王となった生まれながらの魔王。二人の王器の持ち主たちが、今出会う!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新五丈国首都『武王都』。

 

 信永によって地位を簒奪された故比紀騨正の根拠地だった都市であり、彼の治世では市内各所に防空施設をはじめとする各種軍事施設が建ち並んでいたのであるが、今では信永自身の陣頭指揮のもと商業政策が推し進められ、要塞都市から経済都市への変貌を果たし終えている。

 

 これは信永自身の思想によるものであり、

 

「王都にまで敵が迫ってきている時点で国の敗亡は必至である。諦めよ」

 

 とする苛烈な宣誓によって世を驚かせたことも含めて、彼女の『大うつけ』は地位身分が変わった程度では何も変わらぬと、世間では揶揄されていた。

 

 

 その『大うつけ』の住まう居城、亞尽血城にて。

 国中の重臣たちが一堂に会して、阿曽氏討伐完了を祝う宴が催されていた。

 

 

『お館様、此度の勝利おめでとうございます!!』

 

 大広間に集った百人を越える侍衆が一斉に頭を垂れて臣下の礼を取る。

 その姿を特にこれと言った感慨もなく眺めやりながら、信永は灰色の双眸に空虚さを湛え、誰一人として主に向かって顔も見せず額のみを前面に押し出す無礼きわまる礼儀作法をなんと表現すべきだろうかと考えながら、口に出したのは別のことに対してだった。

 

「殿。この度の大勝利、まことに目出度くご同慶の至りに存じます」

「ほう、その方は此度の戦の勝利を目出度いと申すのだな? 玄偉将軍」

「はい、無論で御座います。これで北天はすべて制圧を完了し、こうるさい江古田残党も一掃できました。先代様よりの悲願でありました南進への足がかりも整った・・・と自惚れてもよい成果かと存じまするが、何ぞ気掛かりな情報でも御座りましたでしょうか?」

「ない。それ故に厄介であるとも言えるがな」

「と言うと?」

「こちらが南進する際の障害物はすべて排除した。・・・とするならば、それは向こうも同じだったとしても不思議はあるまい?

 南天は北進の準備を整え終えたと私は見ているが、卿は如何に思うか? 比紀騨正の知恵袋よ」

「そ、それは・・・」

 

 ザワッ・・・。

 広間に集った家臣たちがザワツく。

 

 然も有りなん、玄偉と言えば比紀騨正政権時代から謀臣として名高い知将である。鳳鳴と並んで軍政を担ってきた帝国軍の大黒柱の片割れが知恵比べで負けた。

 

 それも“二十歳に満たない小娘に”だ。

 今まで信じてきた常識が音を立てて崩れ落ちていく幻聴を耳にしながら家臣たちは一様に不安そうな顔で互いのことを見つめ合い、四将軍は同僚の失態を喜ぶ者、笑う者、苦笑する者三原色に分けられた。

 

 

 

 ーーそのどれしもが、信永にとっては退屈きわまる当たり前の反応であった。

 “彼女”は南蛮国人の血が混じっていると噂されている所以となった金紗の髪に、南蛮国から取り寄せた髪飾りを付け、同じく南蛮国渡来の衣服ドレスを身にまとう傾いた格好で宴に出ており、その姿格好と相まって一種独特の雰囲気を醸し出していた。

 

 玄偉が再びなにか発言しようとしたとき、回廊に続く出入り口が開いてうら若き乙女が涙ながらに飛び込んでくる。

 

「父上ーーーーーっ!!!」

 

 ・・・父上? 何のことだと訝しむ者から疑問の声が挙がったことで玄偉の失態を心中で嘲笑っていた鳳鳴は己の役割をようやく思いだし、「し、失礼しました」と前置きしてから背後に座る部下に風呂敷包みを座布団に乗せて差し出させ、

 

「殿、阿曽種禅の首、おあらため下さい」

「必要ない。欲しいというなら、そこな姫にでもくれてやるがよい」

「・・・は?」

 

 今度は鳳鳴が唖然とする番であった。

 仮面を付けて素顔を隠し、本心すらもなかなか他人には明かそうとしない国内家臣団のトップにして、信永に次ぐ新五丈国ナンバー2の地位にある男は自分よりも遙かに年下の少女が放った何気ない一言だけで言うべき言葉を見失わされてしまったのだった。

 

「そ、それはどういう・・・」

「どうもこうもない。そのままの意味だ」

 

 にべもなく切って捨ててから、今少し説明が必要かと思い直し、足を組み替え片膝を立てながらの返答が続けられた。

 

「私が軍を発した理由は阿曽氏の居城を攻略し、佐倉を滅ぼすことで軍事勢力としての旧帝国残党を無力化することにあった。その大目標が達成された今、阿曽の首が本物であろうと偽りであろうと意味はない。

 国を失い、兵を損ない、軍を失った流浪の貴人如きになにが出来ると、そなたらは忌避しておるのだ?」

「・・・一門の残党を糾合する旗頭足り得ます。古来より民草というものは正当なる支配者の血を受け継ぐ王の復活を待ち望み、政には興味を示さぬ愚か者たちばかりだからです」

「一理ある。だが、それ故に意味がない。

 その論で考え合わせるのであれば、正当なる血筋を求めるのは、政を知らぬ民草の方であって、実際に民草の上に立ち支配する側の者ではない。

 民草の求めているものを虚実を問わず与え、惑わし、騙し利用し利益を共有する。政の一形態として正当なる王の復活があるならば、民衆が求めている『正当な血筋を継ぎし者』なら誰でもよいと言うことにならないか?」

「そ、その様な不敬な輩などいるはずがございませぬ。恐れ多いことでございまする」

「何故だ? 本物だと信じ込むのは政を知らぬ無知な民草の方なのであろう? 愚劣きわまる愚か者どもを利用して亡き主の無念を晴らそうとする忠誠心は、卿等の眼にそれほど不敬に映るものなのか?」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「やれやれ・・・・・・固定概念に囚われた奴隷というのは哀れなものだな・・・」

 

 後半を誰にも聞こえないよう小声で呟き捨てた信永の耳に、新たな闖入者の怒声が轟いてくるのが聞こえてきた。

 

「バカ者! ここへ入ってはならん!」

「どけえーーーーっ!!」

 

 ドカン!と、先程と違って大音量の破砕音を伴いながら入室してきたのは、若き足軽だ。鎧甲冑を身につけたままの姿を見るところ、大方此度の阿曽攻めに参加していた雑兵の一人かと推測しながら、退屈しのぎの座興になればと思い敢えて無礼を咎めることなく入室を黙認する。

 

「殿!! 第8海兵団突撃中隊竜我雷、殿にお願いがあって参りました。どうかお聞きとどけを!」

「無礼者! ここを何と心得るか! 下がれ!」

「貴様のような一兵卒が来るところではないわ!」

 

 秩序を重んじる鳳鳴の叱責が飛ぶが、この警告は信永の解釈とは意を異にする。

 

「構わぬ鳳鳴、言わせてやれ」

「で、ですが殿・・・」

「ここは勝利を祝う宴の間だが、武功を挙げた家臣等を労い報償を授ける論功行賞の場でもある。戦に参加した将兵に願いがあるとするならば、功績次第で報いてやるのが主君と言うものだ。違うか? 鳳鳴」

「は、はぁ・・・」

 

 昔ながらの概念に乗っ取り秩序を正そうとした鳳鳴を責める気はないが、そもそも全軍の一割にすら満たない百人かそこらの上級士官だけで論功行賞も何もあるまいに。

 そう考えている信永にとって竜我雷は興味を引かれる行動を示していた。

 

 ーーだが、問題となるのは酒も人も中身だからな・・・さて何を言い出してくるのやら。

 

「で? 私に聞きとどけて欲しい願いとは何だ?」

「はっ! 我が中隊への恩賞の件・・・なにとぞ、ご再考願います!」

 

 ザワッ! 再びざわめき出す家臣団だが、今度は毛色がやや異なっていた。

 恩賞の直訴は御法度であり、犯せば最悪死罪は免れないことは周知の事実であったから・・・。

 

「不服だと申すのか?」

「いかにも! 命の代償が銀5枚では納得できません!」

「・・・恩賞の直訴が御法度なのは知っておろうな?」

 

 玄偉が常識人らしく、努めて冷静に言葉だけで問いただすが竜我雷は興奮している。聞き入れられる心の余裕はない。

 

「んなことわかってら! けどそれじゃ死んでった俺の仲間がむくわれねぇんだよ!!

 俺の中隊は敵の真ん中にろくな援護も無しに突撃して全滅したんだぜ! それから小一時間もあとだ! 艦砲射撃があったのはよ!

 攻撃命令を下したのはあんた達だぜ! せめて残された家族が充分生活できるように・・・」

「あい分かった。いくら欲しい?」

「保証してやってく・・・れ・・・・・・え・・・?」

 

 思いもかけぬ言葉をかけられ、茫然自失し言葉を失う雷。

 それを表情一つ変えぬまま、まるで壊れて興味を失った玩具でも眺めやるかのように冷たい視線で刺し貫きながら、氷の声と瞳で魔王は問う。竜我雷に、人の命の値は幾らかと。

 

「どうした? 貴様が求めてきたのだ。『命の代償が銀5枚では足りぬ』と。

 ならば汝が妥当と考える、其奴らの命の値段を早く言え。求めるだけ出してやろう。それが貴様の決めた其奴らの命に釣り合う金の値だと言うのであればの話だがな」

 

 あっ! と、広間に理解の色が一気に広がっていく。

 信永は竜我雷自身に死んだ戦友達の命を金で購うことを強要しているのだ。自分自身で戦死者達の命を金で買えと。

 

 悪鬼外道の成せる業だったが、そこは竜我雷も並の男とは程遠い漢である。肝の据わり具合が人とは一枚も二枚も違いすぎている。

 彼は不敵な笑顔を浮かべてニヤリと笑うと、

 

 

「だったらーーこの国すべてだ。あんたの座ってる玉座も含めて、俺の死んだ仲間達に払ってやってくれ。それで今回のことは良い分だ」

 

 

「よかろう。それが貴様の定めた人の命の金額ならば望み通り払ってやろうではないか」

 

 

 

 ・・・・・・今度こそ竜我雷は言うべき言葉の全てを失わされてしまった。

 強いて言うなら「正気かこいつは!?」であろうが、生憎と信永は至って正気の沙汰で言っていた。

 

 ただし、彼女の言葉には続きがあった。

 

 カツーン、と、小刀が一本座っている雷の前に投げ出され、冷たい瞳の暴君少女は彼に、こう申しつけたのだった。

 

「その代わり、竜我雷。お前今この場で腹を切れ。そうすれば今お前が言っていた額は望み通り戦死者達の遺族に払ってやる。約束だ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・竜我雷は、生まれて初めて女に言われた言葉で恐怖していた。

 ダメだ、それだけは絶対に譲れねぇ、と。

 

「・・・俺が死んじまった後で、アンタが俺との約束を守るとは思えねぇ。ハッタリも程々にしとけってもんだぜ、お嬢ちゃん」

「貴様もな、竜我雷。さっきから手が震えているぞ?

 たかが自分の命一つで死んでいった仲間達の家族全てが助かる破格の賭けだ、理屈をごねて賭けずに逃げる玉無し野郎ではないと信じた故の約定だったのだがな・・・。

 どうやら私は男を見る目が無かったらしい。とんだ臆病坊やに行き当たってしまったようだからな」

「・・・・・・・・・」

「威勢だけはいいが、それしかない。勢いと運だけで出世する、考え無しの猪武者。言うことはデカいが、出来ることと言えば棒きれを振り回す程度の田舎侍。

 国のことも他人のことも自分のことさえ知らぬままに、戦で手柄さえ立てれば其れで良いのだと考えたがる苦労知らず。戦バカに見せているだけで、戦の不条理さをろくに知らない戦知らずーー」

「・・・・・・てめぇ・・・!!!」

「ハッキリ言ってやろうか、竜我雷。貴様如き似たようなモノを持っている雑兵など腐るほどいる。その中でお前だけは特別だと言うのであれば示して見せろ。

 実績無き者の言葉には一銭の価値すら存在していない。分かるか? 今の貴様の価値はその程度に過ぎんと言うことだ」

「てめぇ・・・てめぇ、てめぇてめぇてめぇぇぇっっ!!!」

 

 

 

 チャリーン、チャリーーーン・・・・・・・・・。

 

 

 

 信永の指が弾かれて、竜我雷の前に一枚の一銭問貨幣が落ちてくる。

 

 

「恵んでやる。這い蹲って感謝しろ」

「て・・・この糞アマぁぁぁぁっ!!!! 調子づくのもいい加減にーーぐふっ!?」

 

 立ち上がり、主の胸ぐらに掴みかかろうとした竜我雷を突然の激痛が襲い、体をくの字に折って気絶しかかる。

 

 

 

 そしてーー

 

 

「それがいやならーー自力でのし上がることだな」

 

 

 

 脳天から凄まじい衝撃が走って意識を刈り取られ、そのまま比紀騨正の娘であった信永の愛娼『麗羅』の部屋へと担ぎ込まれていく竜我雷の後ろ姿を眺めやりながら信永は、左右に立つ軍の重鎮武闘派トップの二人に対して問いかけてみる。

 

 

「どう思う? あの男」

「逸材です」

 

 骸羅が口を開こうとしていたが、機先を制して狼刃が先に雷を評して言った。風雲児だと。

 

「今のような乱世は、時としてああいう風雲児を生み出すものです。その風雲児が名前のごとく竜となり、雲を呼び天に駆け上がるかは奴次第かと・・・」

「奇遇だな。私も似たようなことを考えていたところだ、狼刃将軍。

 あれは竜となれたかもしれない風雲児“だった”と」

 

 過去形を主が用いたことに二人は気づいた。

 

 不快さを微量ながら混じらせた瞳で自分のことを睨みつけてくる狼刃将軍に信永は、くつくつと意地悪く笑って見せながら、こう答える。

 

「あれは勇者だ。ただし石器時代のな。比紀騨正の時代に幕下に加わっていたら活躍できていたのかもしれないが、私の麾下では使い捨ての特攻兵としてしか使い道はないな。

 夢を見たりないからと、いつまでも寝床から出て来たがらずに駄々を込める子供というのは、いつの世でも哀れで無様な生き物だな・・・ふふ、ははは、ふはははは!」


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