青春とは嘘であり、悪である。
これは世界の絶対原則である。異論反論は一切認めない。
もし仮に世間が認めたとしても、世界中で俺だけは断固として受け入れられないと断言することができる。
なぜなら、世間が言うように失敗することが青春だとしたならば。
たった人生で一度だけ、自分のせいではない失敗によって生涯を狂わされた俺が『現代日本で送れるはずの青春から除外されてる今の状況』で、どこからも救いの手がもたらされないのはおかしすぎるではないか・・・・・・。
「あんた誰?」
「いや、それ俺の台詞だし。むしろ俺の方に聞く権利あるはずだし。お前いったい、どこの誰で、ここはどこなんだよ?」
抜けるような青空をバックに俺の顔をジロジロ覗き込んできてた生意気そうな女の顔がヒクついた。俺と対して歳は変わらそうに見えなくもないけど、正直なところよくわからん。
だって外国人だしコイツ。少女趣味なピンク色した髪が頭悪そうにフワフワしていて背は小さく、胸は無いに等しい。
黒いマントに短すぎる杖もって魔女っ子モドキのコスプレ女子中生かと思っていたのだが、どうにも違っているらしい。辺り一面に似たような格好の同世代がいるし、それに何より風景に見覚えがなさ過ぎる。
富士山みたいにデカいけど、見たことも聞いたこともない山脈が間近に見えるし、周囲一帯を石壁で取り囲まれてる中世ヨーロッパのお城紹介番組でしか見たことないような建造物しか周りに建ってない。
あと、この場にいる奴全員が外人さん。金髪、赤髪、茶髪と、日本の学校でこんな色とりどりに染め上げられた髪色の学生いまくったらニュースだわ。大ニュースだわ。学級崩壊まったなし扱いされて、翌日から校門にマスコミ押し掛けて来まくってるわ。
ーーそんな世紀末救世主伝説にでも出てきそうなファンキーヘアーカラーで満たされてる場所に一瞬にして移動してましたって、あり得ないでしょ?
つまり、これは現実じゃない。それかもしくは“現実世界じゃない”。
夢か幻か、はたまた最近ちまたで話題の異世界転生か? どれだとしても物理法則で不可能なことが現実の俺に起きてる以上、これは常識ではかっちゃいけない事態だ。常識以外で対処するしかない。面倒くさいことこの上ないが・・・・・・しないと生きてけそうにないから頑張ってみよう。面倒くさいしスッゲェ嫌だけど・・・・・・。
「・・・アンタね。自分の立場わかってるの? 私は貴族で、アンタはわたしが召還した平民でしかないのよ? もっと身分をわきまえて敬う態度を示しなさいよね」
「知らんし、わからん。そもそも此処がどこかも分からん状況で身分がどうこう言われてもサッパリだ。もう少し詳しく説明を要求する。
そうしてくれたら、多少なりとも望みを叶えてやれるかもしれないけどな」
むっ、と少しうなってから少女は誰かの名を呼んでヅラっぽい中年男性が近づいてきて、そいつと話してから俺の元に戻ってくる。
「ねえ」
「なんだよ?」
「あんた、感謝しなさいよね。コルベール先生が特例で許可してくれたわ。その無礼な態度もひとまずは許してくれるって。
ーーそれから、こんなこと貴族にしてもらえるなんて平民ごときには一生かかってもないんだから・・・」
「はぁ? いや、ちょっとなに言ってんだかサッパリで・・・頭ほんとに大丈夫か?」
「ちょっ、かわいそうな女の子を見る目でわたしを見つめないでもらえる!? 今一瞬だけ走馬燈が頭をよぎって手首ごと血管切って古代貴族に倣いたくなっちゃったじゃないの!」
「あー・・・・・・」
こいつ、見た目は(バカっぽいけど)美少女なのにぼっちなんだ・・・。黒歴史持ちなんだ・・・。
あれ? おかしいな、一瞬前まで生意気そうで色気なし胸なしチビロリ頭ボンバー娘としか思ってなかったのに、なんか今だと『愉快な脳味噌色した見た目だけは可愛い子』ぐらいにまでランクアップしちまってるぞ?
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つのーーー」
「いや、名前と比べて名字長すぎるだろ。よく忘れずに覚えられたな。今少しお前のこと本気で尊敬したくなってきたわ」
「呪文の詠唱中に変なところで感心しないでもらえないかしら!? 誉められ慣れてないから本気で嬉しく感じて呪文トチりそうになっちゃったでしょう!?
ああもう! とにかくあんたはジッとしたまま黙ってなさいよね! すぐ終わる儀式なんだから!」
さいで。心の中で了解の意を示しジッとしたまま黙り込んでいると、目の前に自分の顔を寄せてきた少女は俺の唇と自分の唇とをあわせて、しばらくの間動かずにジッとし続けていた。
はい、ここが現実世界じゃないの確定。目が腐ったひねくれ男子高校生にキスしてくる女の子なんて現実にいたら金目的です。金目的の人はぼっちになりません、便利な女扱いされて男とベッタリしてられます。捨てられるまでは。ソースは俺の親父。
「ーーって、痛っ!? な、なんだこりゃ?」
なんか痛いと思って気づいたときには左手の甲に、Fateのサーヴァントに命令する用の令呪みたいなのが浮かび上がっていた。
なんとなく展開的に「CEEEL!」が口癖の連続殺人犯っぽくて不吉だなーと思ってしまう俺の中学生活は間違っていた。
「終わったようね。ーー言っとくけど、本当なら平民が貴族にそんな口の利き方しちゃダメなんだからね? 次からは気をつけるのよ?」
「・・・すまん。俺の知ってる貴族っていったら、成金イメージしかないから無理そうだわ。後で詳しく教えといてくれ」
「貴族全部が成金扱いなの!? アンタ一体どこからきたのよ本当に!?」
たぶん、言っても知らないし分からない場所だと思うぞ? 多分だけども。
「はぁ・・・まったく・・・。なんで、このヴァリエール家の三女があんたみたいなのを使い魔にしなくちゃなんないのよ、本当に・・・ブツブツ」
「よく分からんけど、三女だからじゃないのか? ふつうの親なら跡取りとしての長女か長男を、上がダメで可愛くないときには妹か弟を可愛がるのが定番だし。
つか、貴族の三女って家にとっては政略結婚の道具ってイメージしかないんだが?」
「だからなんでアンタの中の貴族イメージ、そんなに歪みまくってるのよ!? なんか恨みでもあるの!? 主義者!? 国家転覆を謀る主義者だったりでもするのかしらアンタは!?」
「失礼な奴だな。俺は平和主義者だぞ? 平和主義者すぎて他人とぶつかりたくないから空気読んで人の輪から遠ざかり、生まれつき恵まれてる連中は砕け散れと思ったことまである」
「それを主義者って呼ぶんじゃないかしら!? わたし亡国の使者でも召還しちゃったのかしら!? 本気で怖くなってきたからやめてもらえませんこと本当に!」
「・・・すまん。悪ふざけがすぎた。反省してる」
なんか反応が面白いというか、打てば響くペースが小気味よすぎて・・・などと言ったら怒られて殴られる未来確定してるから俺は言わない。だって、痛いのヤだし。怖いし。どんな相手でも殴られないに越したことないんだし。
「あったま痛・・・とにかく部屋行くわよ部屋。なんか疲れた・・・」
激しく疲労させてしまった自覚がある俺は申し訳なくなったので黙ってついてくことにした。
「ここよ。私はベットで寝るからアンタは床ね。まさか文句あるとか言わないわよね?」
「どちらかと言えば、お前の方にあるんじゃないのか? 俺と一晩同じ屋根の下、同じ部屋の中ですごすんだぞ? ほんとに大丈夫か?」
「なによ? はっ! な、まさかあんた私に身分もわきまえず破廉恥きまわりない行為に及ぼうと・・・!!」
「暗い中で俺を見た知り合いから『ゾンビそっくり』と言われたことがあるんだが?」
「・・・・・・ごめんなさい。別室用意させるから、そっちで寝てもらえる? 夜中にトイレに起きて鉢合わせしたらお粗相しない自信がもてそうにないの・・・」
失礼な奴だな、本当に。このぐらいなら慣れてるし、いいんだけども。