試作品集   作:ひきがやもとまち

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「俺ガイル」時間逆行TS転生モノ第二弾。・・・つくづく私って、こういうのが好きな奴ですなぁ~・・・。


やはり俺が高校入学初日に交通事故で亡くなってる転生物語は間違っている。

 俺はその日、柄でもなくワクワクしながら自転車をこいで学校へと向かっていた。

 中学のときのアレが原因で、地元の公立校のどこに合格しても入学ぼっちが事前予約されていてキャンセルもきかなそうだったから、一年かけて猛勉強して受かった県下一の私立校でおこなわれる入学式に参加するためだったからなのだろう、きっと。

 

 一時間も早く起きて、先生以外に誰もまだ来ていない高校に笑顔を浮かべて楽しそうに自転車をこぎながら向かっていた時点で、俺の浮かれ具合が許容限界を超えていたことが伺い知れると言うものだ。

 

 そんな中、7時ごろだったろうか? 高校付近に到達したときに犬の散歩をしている女の子が道路の反対側を逆方向に進んでいるところとすれ違い、あろうことか女の子が握っていたリードを手放してアホっぽい顔した犬は道路に飛び出し、居眠り運転でもしてんじゃねーのか? って聞きたくなるほどベストなバッドタイミングで犬に向かって突っ込んでくる黒塗りの金持ちが乗ってるぽい車。

 

 俺は考えるより先に身体が動いてしまい、気がつけば道路に飛び出して犬を抱えて抱きしめた状態で車にはね飛ばされーーーーーそのまま死んでしまった。ご臨終である。

 ドラマもへったくれもない。無論、交通事故から始まるお約束ラブコメ展開なんて微塵も存在していない、単なる交通事故が死因となって俺の短い人生は幕を降ろした。

 

 享年、16歳。波乱はないが、波風もなく、ただただ世間の冷たい寒風が吹き荒んでいただけの、腐った魚の目をして過ごす生涯だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 

「ーーお姉ちゃん! お姉ちゃん! 朝だよ起きて! 今日は小町の入学式だから、一時間前にいっしょに学校行ってくれるって約束したじゃん!

 起きて! 起きてったら起きて! ねぇ、起きてよぉっ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 ・・・イヤな夢を見せつけられて目覚めた朝は、いつも決まってバッドタイミングなイベントの日とかち合わされるのは今の俺が背負わされた宿命なのだろうか・・・?

 

 よりにもよって入学式の日に死んだ“前世の最期”を、愛する妹が小学生になる記念すべき日にデジャブーさせなくてもよかろうに。

 

 そんな風に俺が布団の中でテンション回復に努めていると、妹の小町(6歳)は元兄で現“姉”の心知らずとでも言うかのように、俺を夢の国から追放するため力付くで布団をはぎ取ろうと格闘している。

 

「ーーって、おいやめろ寒い。入学式のある三月って暦上ではまだ冬だから寒いんだってマジで」

「おーきーるーのー! おーきーなーきゃーダーメーなーのー!」

 

 ユッサ、ユッサ、ユッサ。子供は風の子、元気な子。

 自然のままに生まれてきたナチュラルなお子様である小町は地球の厳しい自然環境でも元気に育っているようだったが、記憶とスペックを維持したまま普通の子供たちより優秀な状態で生まれ変わらせられた存在、コーディネーターな俺は狭いコミュニティの中で引きこもって生きてきたから自然環境には非常に弱い。

 見た目は子供、頭脳はひねくれぼっちな高校生である俺は周りの子供たちほど元気じゃないのである。

 

 だからお願い小町ちゃん。もう少しだけ寝かせて? お姉ちゃん、昨日は夜遅くまでお袋たちにバレないように隠れ潜みながら深夜アニメ視てたから早起き辛いの。分かって、転生幼女の満たされにくい萌え欲望。

 

「ダーメー! おーきーるーのー!!」

 

 ダメらしい。ーーこれが若さ故の過ちと言うものなのか・・・。

 

「わかった、わかったから、今起きるから布団を引っ張るな。伸びるし破ける。布団高いから、金のないお袋たちに買い換えさせる金かけさせるな。俺が後で怒られるから絶対に」

 

 男だろうと女だろうと、兄妹姉妹は上の兄か姉のほうが妹のぶんまで責任を持つ。千葉の兄妹なら常識だ。姉妹になったってそれは変わらない。たかだか性別が変わったぐらいで妹に対する対応の仕方が変わるような奴はクズだ。生きてちゃいけない奴なんだ!

 ・・・え? 妹が弟になってた場合はどうするのかって? 見捨てるに決まってんじゃん、常識だろ? アホか。

 

 

 ーーーーあ、そうだ。確かめたかった事あったんだった。

 ちょうど思い出したことだし、試しに聞いてみよっと。

 

「ところで小町ちゃんよ。もしもだ、もしもの話だぞ? もしもお姉ちゃんが入学式の日に車にひかれて死んでしまったとする。その時お前はどういう反応をすると思う?」

 

 前世に残してきた数少ない悔い・・・それは小町のことだった。ほかの奴らはどうでもいい奴しかいなかったけど、小町だけは例外中の例外。めっちゃ気になる。

 あと残してきた後悔と言えば、ベッドの下に隠してきた丸秘本を小町に見つけられて嫌われてないかなー、とか。本棚に偽装して並べてあるエロ本を小町に見つけられて「お兄ちゃんのバカ、エッチ、変態!」とかののしられたりしてないかなーとか。

 

 後は隠してきたアレやコレを小町に・・・・・・改めて振り返ると俺の前世って、エロと小町一色だったんだな。はじめて知ったわ。

 

「え? どったの急にそんなこと言い出して・・・ポンポン痛いの?」

「いいから。とりあえず質問への答えを先に早く。あと、今日の俺は腹を下してねぇ。この前のアレで懲りた。二度と限界を超越したガブ飲みはしない」

「・・・いやまぁ、うん。確かに。いくら好きだからって抽選で当たったMAXコーヒー一ヶ月分を1日で飲み干す勢いで飲みまくってたのには小町も思わずドン引きでした・・・。小町的にスッゴくポイント低かったよお姉ちゃん・・・」

 

 物理的な距離は変わらないまま、精神的な距離が天と地ほども引き離された俺と小町。

 仕方ないじゃん。子供の小遣いで帰る金額じゃないんだから。運任せで当たった以上、自分一人で独占して飲み干したくなるだろそりゃ。

 

 

「・・・ま、いいや。ところで、えっとー。たしかお姉ちゃんが死んだとしたら小町はどうするのかだったよね?」

「ああ。理由はないんだが少し気になったからな」

「ふーん?」

 

 要領を得ない顔して小首を傾げる小町。なにこの子、スゴくかわいい。お持ち帰りしたい。誘拐現場が我が家という名のアジトだから運ぶの楽だし。

 

 そんなアホなこと考えていると小町はなにか閃いたのか「あ!」と小さく叫んで目を輝かせて。

 

「じゃあさ、じゃあさ! 小町、オコウデンっていう、お年玉袋みたいなのが欲しーい! あれって結婚式の時にももらえるんでしょう? ゴシューギブクロって言う名前で!

 小町、オコウデンとゴシューギブクロをもらったら、お父さんとお母さんにパンさんのぬいぐるみ買ってもらうんだー♪」

「なるほど」

 

 もらっておいて、更によこせと言い切る辺りさすがは俺の妹だった。

 

 ・・・そして、この性格なら前世の俺が死んだ後でもたいして悲しんでくれなかった可能性が高い。

 やはり俺の前世に青春ラブコメが訪れる日はこなさそうだった。あのとき死んでいたことで始まっていた俺の後悔は、今ようやく終わりを迎えて解決したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーあ、もう学校についちゃった・・・。ちぇー、小町の入学式の日くらいお姉ちゃんも小町の学校の生徒になればいいのに」

「おまえ、さり気に無茶言うね。それが出来たら俺って何様なんだよ。神様か?」

 

 もしくはUSA様。あの国に日本は逆らえません。強い者には巻かれたがる、現代日本社会と俺との相性は存外悪くないんじゃないかと最近思えるようになってきた。年の功より知識の継承。転生者が最強チートなのも以外と道理なようである。

 

「では、お姉ちゃん! 行ってくるでありまーす!」

 

 敬礼(みたいなナニカ)をしてからお袋たち共々と一緒に校舎の中へと姿を消した小町を見送った俺は一人だけ向かう先を帰る。

 

「ーーそんじゃま、俺も学校に行きますかね」

 

 頭をかきながらそうつぶやいた俺は、着ている服こそ小町と同じ私服だったが、胸元にだけ他の子供にはない銀色の小さなバッジを付けている。私立小学校に通っている生徒である証だ。これ以外にも二種類ある所属校を示すどれかを付けて登校するのがうちの学校のルールだからだ。

 

 

 なぜ俺が前世と違って私立の小学校なんかに通っているのかと言えば、その理由は「前世があるから」としか言いようがない。

 別に記憶があるから知識チートで高校生レベルの問題を解いて見せた訳じゃないし、もしソレやってたら私立の小学校程度で収まりがつくとも思えない。だから理由は別にある。

 

 ぶっちゃけ、加減がよく分からなかったんだ。普段の受け答えみたいに答えが曖昧なやりとりは、相手が「よい返事だ」と感じたものが正解で、当たりも外れも出題者の主観のみで決定されてしまう。

 だが逆にそれは相手に「よい返事だと思わせさえすればよい」と言うことでもあり、出題者を観察して求められてる答えを口にしてやればいいだけだから楽だったんだけど、ペーパーテストとかの明確な答えが存在している質問はどうも苦手だ。どの当たりまでが『ふつうに出来る』レベルなのかさっぱりなのだ。幼稚園生でも、さすがにテスト結果と点数と記述までは公開しないんだよなー。

 

 

 だったら私立自体受けなきゃいいじゃん、と俺も思ったんだが、どう言うわけなのか俺はどうしてもこの私立小学校に通わなきゃ行けない気がしてしまって仕方なかったんだ。だからお受験して入学した。後悔はない。反省はしているけどな、主に去年から同じクラスになってる黒髪ロングの女子生徒のせいで。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 チラリとそいつがいるだろう方角に目を向ければ案の定だ。

 教室の真ん中当たりの席に座って本を読んでいるにも関わらず、そいつの周囲には人っ子一人集まってはいない。エアポケット状態だ。

 周囲にいた連中が、こいつと関わり合って巻き込まれるのを恐れたのもあるけれど、それでも根気よく残り続けていた連中までぶった切ってしまったのは明らかにこいつの罵倒が問題だった。あれで完全にクラスから孤立させられた女生徒『雪ノ下雪乃』。それが彼女の名だった。

 

 

 まだ小学生だって言うのに目を見張るような美形だったが、その刺々しすぎる態度と声音、言い分などが元でキツい印象ばかりが際だつ。触れようとしたら威嚇してくるような気位の高いペルシャ猫を彷彿とさせないこともない。

 

 俺は去年、進級して出会ったときからコイツのことが嫌いだった。好きになれないのではなくて、はっきりと嫌い。

 そこまで人の好き嫌いはないはずだと自負していた俺なのだが、こいつの前だと少々やりづらい。重苦しくてイヤな口調で悪態をつきたくなってくる。

 

 

 と言うのも、コイツ。明らかに『人に分かって欲しいのに言い出せないでいるから、だから解れ!』と人にばかり要求している部分が強すぎる。

 

 『自分は正しいのに報われない世界は間違っている。だから変われ。私は正しいから変わらない』ーー無言の主張が大音量で轟き渡るほどあからさまな表情と態度と口調。

 

 こいつは自分をぼっちだと思っているようだが、まだ甘い。

 「ぼっちにさせられている環境を受け入れる」ことと、「ぼっちにされた自分が悔しくてイヤだから、自分からぼっちであるのだと思いこもうとしている」こととでは別物だ。全く違っている。

 

 経験値がないからなんだろう、顔にも態度にも声にも隠そうとしている意図が垣間見える。隠したい物があるから、知られたくない物があるからこそ、隠すための欺瞞が施される。小学生程度の欺瞞じゃ高校生のぼっちマイスターの目は欺けない。

 

 

 おそらくと言うか、間違いなく原因はイジメなんだろう。コイツと出会ったときがバッドタイミングでイジメの真っ最中だったからよく覚えてる。

 

 イジメられてる原因は、コイツの幼馴染みだとか言う完璧さわやかイケメンだと思って間違いないだろうけど、どうにも俺にはコイツら二人に同情する気持ちが持てずにいた。

 

 

 それはコイツが『助けて欲しいけど言えない事情がある。言えないのだから、言わなくても解って対応しなさい!』と、自分が変わらないまま他人ばかりを避難しているのが明白すぎるからだ。

 小学生だから仕方ないのかもしれないが、むしろ他の小学生より抜きんでて『小賢しい』せいで、高校生の目線から見ると却って傲岸不遜さが鼻につく。

 イジメられてる自分を守るための手段として先手必勝を尊び、差し伸べられた手があっても、期待はずれで傷つくときが怖くて振り払おうとする。

 口で勝ちさえすれば、望んでもいない不遇な立場に落とされている自分は負けてないのだと信じられると信じたがっている。それでいて本心では戯言でしかないと解る程度には賢いから、言い負かした後で言い返された幼稚な言葉に唇を噛みしめながら黙り込むことしかできなくなる。

 

 

 はっきり言ってしまうなら、『目的と行動が一致していない』。

 たぶん、自分自身でも何がしたくて、どこに向かいたいのかが解らなくなってるんだと思う。あるいはどこにも道なんかないのだと思いこんでるだけかもしれない。

 

 

「あいつ、ひょっとして馬鹿なんじゃねぇの?」

 

 俺は、そろそろ本人の前で断言してやった方がいいかもしれないと思えてきた言葉をつぶやいてしまっていた。

 

 別に、変わらないことは悪いことじゃない。変わりたいと思った奴が変わるための努力するのと同じようなもんだろ。変わらないための努力なんてさ。

 本人が望んでやるんだったら変わるのも変わらないのも一緒だし、無理矢理やらざるを得ないのなら、どっちも同じ他人の意のままに自分を変えさせられてることに変わりない。

 

 現状に適応できないから、自分をごり押しして貫き通さなければならなくなってる時点で、今のアイツは周りに影響されて変えられてしまっている。プライドだけしか守れてないのに負けてないも何もない。

 

 

 

「お節介と言われるだけで終わるんだろうけど・・・」

 

 俺は一年かけて暇つぶしに周囲の話し声を聞き集めて構成してみた問題となってる奴らの人間関係分布図。これを使えば問題の大部分は解消できるんだが・・・・・・。

 

 

「受け入れるかな? あの解決バカが解消策なんかを」

 

 自分のやり方を押し通そうとして上手く行かず、上手く行くまで同じやり方でごり押しし続けている点から見ても相当に負けず嫌いで突撃厨の猪な性格が透けて見える。

 自分のやり方が通用しなかったから生じている状況が今だってのに、同じやり方で解決することしかしようとしてない所とか特にな。

 

 

「自分が正しいと思っているなら、変えるべきなのは自分でも相手でもなくて、相手に合わせたやり方なのにな」

 

 

 正々堂々、力一杯いつでも全身全霊で。それがアイツのやり方のように見えるが、それだとアイツと戦う気がないからかいに来ているだけの連中には一生かかっても勝てる日がくることはない。戦い自体がアイツの頭の中でしか成立してないんじゃどうしようもない。

 

 やり方を貫くなら、やり方を貫きたいと自分が思った相手に。

 それ以外の有象無象に同じやり方を適用するのは自分自身の貫くやり方の安売りだ。勿体ない。

 雪ノ下、おまえのその使い方だと『それは勿体ない』・・・・・・

 

 

 

「ああ・・・なるほど。それで俺はアイツのことがここまで気になってたのか。納得した」

 

 一年がかりで至った答えに俺はようやく得心を得た。

 思っていたより簡単な答えだった。考え続けてたから遅れたけど、案外感覚派の小町あたりだったらあっさりと答えに行き着いていたかもしれん。

 

 

 俺はどうやらアイツの、あのバカ正直すぎるやり方のことが、思ってたよりずっと。

 

 

 ーーーーーーー嫌いじゃなかったという、それだけの事だったんだろう。きっと・・・。


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