試作品集   作:ひきがやもとまち

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ごめんなさい、まだありました。
セレニアがヒロインのラブコメ物みたいです。


よくある王道ラブコメのヒロインが理屈っぽかった件。

 たまたま町中を歩いていて気まぐれを起こし、普段は曲がらない曲がり角を曲がった先で倒れている女の子を見つけた。ただし、血塗れにはなっていない。見た感じ全くの無傷である。

 服も小綺麗で清潔感があり、長い銀髪もトリートメントされていて良い香りが鼻腔を刺激する。

 しかも巨乳である。間違いない。背が小さい程度の偽装じゃボクの目からは逃れられないぞ! これはギャルゲーの巨乳ヒロインを愛し続けて十五年、生まれたときから二次元の女の子を愛好してきたボクだからこそ至れてしまった嗜好の極地なのだから!

 

 女の子は愛おしく、女の子の胸はさらに愛おしい。ちっちゃいのも大きいのも女の子の胸であればオールオーケー、全部すばらしい。巨乳サイコー! ちっぱいことは良いことです!

 

 ・・・そんな風に溜まりに溜まってどうしようもなくなっていたリビドーを勢いで発散させてしまってばかりに孤立化しちゃった直後のボクは、ちょっとだけ危ない思想に取り付かれてたんだと思う。

 倒れている女の子を家に連れてかえって「君の名前は?」「・・・言えないんです」「じゃあ、どこから来たのかは?」「・・・それも言えないんです」「じゃあじゃあ、ご両親に連絡したいんだけど実家の電話番号は?」「・・・・・・」「・・・何か訳ありみたいだね。良かったら事情を話してくれないかな? 何も出来ないかもしれないけどボクに出来ることなら何でもしてあげるから」「・・・実は私は・・・」

 

 ーーこんな感じの会話の後で、家に帰れない事情持ちの女の子を我が家で養うことになり、嬉し恥ずかし同居生活とは名ばかりの年頃男女がひとつ屋根の下で暮らす同棲生活がスタートするんじゃないのかなって想像しちゃってたとしても、年頃男子なギャルゲーマーなら仕方がない。うん、仕方がないったら仕方がない。みんな法律とギャルゲーメーカーと可愛すぎる美少女ヒロインたちが悪いのです。

 

「う・・・う、ん・・・」

 

 あれ? 目が覚めちゃったのか・・・残念だったなーーいやいや何を考えちゃってるんだ、ボクは。

 ダメだよ、眠ってる間なら多少R指定を越えちゃう行為をしたところで描写されなければ相手に気づかれないなんて考えちゃ。ゲームと現実は別物なんだから割り切らなくっちゃ。

 

 とにかく今は女の子の介抱だ。それこそが今やるべき最優先事項だ。気道を確保して呼吸が止まらないようにしてあげて、後はなんか色々やってあげた後にマウス・トゥ・マウス。人工呼吸という名称を持つ医療行為を要救助者に施してあげるのが大事なのだよ明智クン。

 人工呼吸は人助けであってキスではない。つまりは合法。至極もっともすぎる素晴らしい倫理観です。

 

「それでは改めまして・・・いただきまーーー」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 思いっきり目を覚ましていて目を開けていて、目が合いまくっちゃいました。

 

 ・・・・・・・・・どうしよう。ボク今、全力で婦女暴行罪でオナーワ確定間違いなしの体勢です。

 横になってる小さい子に(おっぱいは大きいけどね!)大の男の男子高校生クンが四つん這いになって覆い被さり、唇を蛸のように突き出しながら半分目を開けたまま残り半分は瞼を閉じてる半眼状態にあるからね! どっから誰がどう見ても事案だね! タイーホされちゃいそうだよね!

 助けて! ボクは無実じゃないけど未遂だ! 誰がなんと言おうとも、それでもボクはやってはいない! やろうとしてただけだ! 直前で失敗に終わった計画に恐るべき陰謀計画なんて存在しない!

 

 

 

 

 ーーーーーって、違う! そうじゃなくて!

 

「違うんだよ君! これは誤解だ人違いだ! 話せばわかるし話さなければわからない! ボクたち古いタイプの人類が人と誤解なく分かりあえるようになるためには宇宙規模での戦争が必要不可欠であって、人が戦争をなくすための手段を手にするとしたら今の人類には手の届かない場所にあるんだとボクは確信しているんだよ!」

「はあ」

「何千年もの永きにわたって人は人と戦争を繰り返してきた。きっと数千年経った後だってボクたち人類は戦争を続けているんだと思う。やめられないんだと思う。人が死ぬのが定めとしてあるように、人類は戦争をする生き物なんだと神様に定義付けされた生き物なのだとボクは思っていたことがあったりなかったり!」

「なるほど。それで結局最後はどちらを選んで今この場におられているので?」

「そんな言い方をしちゃダメだ! 今だけを見て人を決めつけたりするのは良くないんだよ!

 人は過去を背負い、過去とともに今を生きていく生き物で、辛い過去でも目を逸らしちゃいけない。立ち向かわなくちゃダメなんだ! 逃げるのは良くないんだよ!

 でもじゃあ、逃げてしまった自分は悪なんだろうか? 否定されるべき存在なんだろうか?」

「そりゃ悪ですよ間違いなく。だって逃げるのは良くないんでしょ? 良くないんだったら悪いと言うことにあなたの中では定義されているのでは?」

「ボクはそうは思わない。こんなボクでもボクの一人だ。君の見ているボクは一人しかいないけど、他の人の中にいるボクは君の知るボクとは異なるボクだ。いろんな可能性のボク自身があり得るんだよ。

 そう! だからつまり、勇気を出して逃げ出さなかったボクの可能性が誰かの中には間違いなく存在しているのは確実な訳だからして、今君の目の前にいる君の中のボクが現実的に犯そうとしている罪から逃げ出したとしても、それは沢山ある可能性世界のボクの一人でしかないからであるわけだからして、即ちボクは無実無罪ノーギルティ!

 判るよね!? わかるはずだ。君なら・・・君ならわかってくれるはずなんだ!」

「とりあえずーー」

 

 彼女は鼻息荒くなりながらも熱弁に力いれすぎて真っ赤になって近づいてきてるボクの顔を動じることなく無感動に見つめ返しながらボソリと一言。

 

「英語で無罪はノーギルティではなくて、イノセント。ローマ字表記だとINNOCENT。

 よくノットギルティーが英語の無罪だと勘違いされてますけど、正確には推定無罪、有罪と立証されない被告人のことを指した言葉でして、有罪を立証する責任が検察側にしかない英米国においては個人の自由を守るとても重要な概念ですので間違えないようにしてくださいね?」

「・・・・・・・・・はい」

「あと、ひとまず現在の体勢を変えませんか? この体勢はそれこそ誤解しかされない罪科扱いされる要因になるのではないかなと」

「・・・・・・・・・・・・はい、そうですよね分かります。分かりました、ごめんなさいでした・・・」

 

 勢いで誤魔化そうとしたら懇切丁寧に間違いを指摘されて引き下がる変態ラノベ主人公系男子のボク。・・・なんだかとっても惨めです・・・。

 

 


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