試作品集   作:ひきがやもとまち

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恋姫・言霊書いてる最中なのですが予定より遅れているため投稿予定になかった趣味作出してお茶を濁しておきますね(季節柄、お布団がラスボスにも勝る強敵に・・・)

原作にしたのはないのですが、影響受けてるのはモンスター文庫の「異世界の役所でアルバイトはじめました」です。RPG世界でギャグ作書くため勉強しなおそうと読み直してました。

私がチート書くなら(たぶん)こういう作品の方が相性いいんじゃないかなーと(^^♪


異世界で勇者はじめました。

 日本にある地方都市の一角で膝を付き、疲れ切った身体を絶望に打ち震わせながら。

 地球とは異なる異世界の魔女、フレアベルは嘆きの声を上げていた。

 

 

 ――ひょっとしなくても、バカなんじゃないの? あたしって・・・・・・。

 

 

 と。

 

 

「な・ん・で! 現代日本の若者に『異世界で勇者しませんか?』って聞いて、引き受けてくれるバカがいると思い込んじゃってたのよアタシはーーーっ!!!!」

 

 絶叫。

 天に向かってと言うか、雲一つない青空に向かって魔女のコスプレしたオバサ・・・こほん。ちょっとだけ歳がいってるお姉さんが「異世界」だの「勇者」だのという厨二ワードを交えた雄叫びを、血の涙でも流しそうな某野球マンガ風の顔で叫んでいる姿は迫力がありました。そりゃもう凄まじいほどに。

 近くを歩いていたカップルが逃げ出して、お茶の間から「最近の若いもんはまったく・・・」と人事のように見ていたお婆さんが目を逸らし、巡回途中のお巡りさんが回れ右して普段と違う経路を見回りに向かいます。

 

 魔女フレアベルの勇猛さは異世界だけでなく地球でも効果覿面なようでした。おかげで地球人の若者を勧誘しに来たのに人っ子一人いないエアポケット状態を形成することさえ魔法なしで出来てしまいました。すごいです。ある意味では。

 

「でも! 私は負けないわ・・・絶対に勇者を見つけだして私たちの国『アナケウス』を救ってみせる! その為に私は時空を越えてここまで赴たのだから!!」

 

 自分で掘った墓穴に落ちまくりながらも、フレアベルは諦めません。諦めるわけには行かないからです。

 

 

 彼女の住まう異世界の国『アナケウス』は追いつめられていました。そりゃもう、絶望的なまでに。

 大陸中央の比較的近くに位置するお国柄、気候は穏やかで災害が少なくて平和で長閑な心にユトリのある国アナケウス。・・・長所だけを並べてしまえば、この三つぐらいで全てでしょうね。短所を並べるならいっぱい候補がある国ですのに。

 

 まず、大陸中央近くにあるため海がありません。湖はあるけど小さいのがポツポツとなので、貿易とかマジ無理です。

 山もありますけど、霊峰とか曰く付きのある霊山とかじゃないんで観光資源としては役に立ちません。森はふつうに手頃なサイズが各所に点在しているから珍しくもありませんが多くもないですし、森林資源を売りにしている国なら他にいくらでもある中世風異世界です。半端な自然に経済的価値などない。

 

 武器防具屋で取り扱ってる商品の中で最高級品は「皮の鎧」150ゴールド。

 隣の国では1500ゴールドもする「鋼の剣」が手に入るようになったと風の噂で聞いたのに、アナケウスでは未だに「銅の剣」100ゴールドが兵士たちの標準装備だと言うのだから驚きを通り越して欠伸が出ます。周囲を列強に囲まれている安全地帯故に強力な武具などなくても生きていける好立地条件が仇になりました。

 

 先におこなわれていた魔王軍との決戦においても、前線から遙か遠く大陸中央近くの「初心者向け」平和国家が、優れた騎士や冒険者を輩出する土壌など熟成できません。不可能です。英雄を必要とする戦乱のない国からは、英雄は生まれません。必要ない物に価値は認められないからです。

 

 

 ――それらの結果、魔族軍に王都が奇襲されて攻め込まれることもなく、周辺諸国から入り込んでくる凶暴化した野生の獣型モンスターだけが出没して、低レベル冒険者や騎士たち兵士たちが治安維持のため時々刈っていくだけが戦闘のすべてになってる国アナケウス。

 

 剣と魔法のファンタジー風異世界では切磋琢磨が基本です。今が一番、今のままでいいと決めてしまった国に未来はありません。緩やかに衰退していって死を迎える。それでお終いなのですよ・・・。

 

 

「だって言うのに、あの人畜共・・・お国が滅びに瀕しているって忠告してやった私に対して『滅びるとしても百年ぐらいでしょ? それまで私ら生きてないしどうでもいい~♪』ですって・・・? ざっけんなコラ! 忠君愛国どこへ置き忘れてきた!?

 国が滅びそうになったら挙国一致で戦って守るのが筋だろうがよ! 人類の誇りをお前らどこにやったんだぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

 真っ昼間から路上道端で靖国万歳を叫び出す魔女コスプレしたオバサ・・・もとい、お姉さん。誰が見ても不審人物ですが、不審者過ぎて誰も通報しようとしません。関わり合いたくないからです。みな、見て見ぬフリで回れ右して去って行きます。

 

 そして、彼女の周りから誰もいなくなったのでした・・・・・・

 

 

「――だけど、私は諦めないわ・・・必ず勇者を探し出して連れて帰るのよ・・・そして私の国を救って貰うの!

 だって異世界から召喚された勇者って滅びに瀕した国を救ってくれるものなんでしょ!? だったら大丈夫! 問題ないわ! おそらくは!!」

 

 握り拳を作って天を見上げ、決意を新たにする魔女さん。

 右肩下がりのGDPや、労働インセンティブの低下は異世界召喚勇者が倒せる問題では無いと思うのですが・・・手頃な岩に伝説の聖剣突き立てて観光名所にでもします?

 

 

 ・・・それにしても魔女さんは若いのに、どうしてそこまでして国を守りたいのでしょうか? 何か故郷に大切な思い出でもあるのでしょうか?

 例えば大事な人が眠る終焉の地だとかの理由が・・・・・・

 

 

「え? だって私魔女だもの。魔法で寿命伸ばせるし若さも維持できるから百年後の滅びの時なんかピッチピチのイケイケギャルの世代よ? 若い身空で公務員からフリーターに転落なんて絶対に嫌じゃない? だからこそ、こうして必死になって職場と給料と権力維持しようと頑張ってんのよ。

 こう見えて宮廷魔術師って、宮廷内での地位高いんだからね? それなり以上には」

 

 

 ・・・さいですか。

 でも残念なことに今の独り言で完全に見捨てられて、周囲一帯から人っ子一人猫一匹いなくなってしまったようなのですが、大丈夫ですか?

 

「ああーーーっ!? しまったーーーーっ!! この私としたことがーーーーーっ!!!」

 

 魔女さん絶叫リターンズ。なんとなく水滸伝の呉学人を思い出したのは私だけでしょうか?

 

「ふ、ふふふ・・・終わったわ、完全に完璧に鉄壁に・・・ここから挽回する手段は何一つ残されていない・・・」

 

 いや、多分途中からなくなっちゃってたと思いますけども・・・主に自分自身で台無しにして捨てまくってたのが原因で。

 

「・・・・・・こうなったら最後の手段・・・異世界チキュウ語で言うところの拳銃を使うとき・・・。

 有無を言わさず私たちの世界に拉致誘拐監禁召喚して、「自分の世界に帰して欲しければ我が国を救って見せろ」と、世界質を取っての脅迫を・・・・・・」

 

 暗い笑みを浮かべてブツブツつぶやき出してる魔女さんですが、それって普通によくある異世界召喚勇者の在り方なのでは? まぁ、言われた通り拉致誘拐監禁の重犯罪であることに間違いは無いのですけれども。

 

 なんと言うか、夢と希望の王道ファンタジーな魔女の格好そのものなのに、夢も希望もないリアリティに満ちあふれた魔女さんみたいですね、この御方。

 

 

 

「や、やっぱり誘拐するなら子供相手が安心安全よね? 小学生男子とかだと単純バカでスケベなのが多そうだから、お色気装備が多いファンタジー世界でいいように扱き使えるかもしれないし・・・・・・」

「あのー・・・大丈夫ですか? なんだかお顔の色が優れないようですが・・・」

「うわひゃおあっ!?」

 

 横合いから静かな気遣いの声をかけられて、未成年者略取誘拐計画の概要を独り言として自白しまくっていたフレアベルは驚き慌てて奇声を発し、無様な狼狽え様を晒しまくってしまいました。

 

 見ると、一人の地球人少女が傍らに立って自分のことを見下ろしてきています。別に見下している訳ではありません。四つん這いになって地面と向き合いながらブツブツつぶやく体勢だったから、子供の背丈でも見下ろさないと彼女の顔を見ることが出来なくなってただけです。

「あと、周囲に散らばっていたチラシって貴女の持ち物だったりしますかね? 一応拾っておきましたけど・・・」

「あ、ああ、ありがと・・・う?」

 

 普通に礼を言って受け取ってしまいましたが、よく考えなくても不可思議な状況です。

 魔女コスプレして奇声発しまくってる成人女性の外人美女を街中で見かけたら、即座に通報することなく見なかったことにして一秒でも早く現場から離れて無関係を装うのが正しい現代日本人的対応というものです。

 

 この少女は本当に現代日本で生まれ育った日本人女性なのでしょうか・・・・・・? って、違いますね確実に。

 だって、目が青いですし髪も銀色に光り輝いてます。オマケに肌が象牙色みたいに綺麗で白くて、面立ちも無感情で無表情ではありますが意外と彫りが深くて大人っぽい作りをしてますし。・・・まぁ、背はちっちゃいから相対的に幼く見えちゃってますが。小さい身体で一部分だけドカンと突き出てデカすぎててフレアベルには額に青筋うかべるほど癪でしたが。

 

 なにはともあれ、外国人美少女です。誰がどっからどう見ても外国人です。もしくは外国人と日本人のハーフかクォーター以外には選択肢がありません。

 一応ですが、それ以外にも地球人に化けた宇宙人とかフレアベルと同じ異世界人とかの可能性もありますが天文学的な確率でしか出会えなそうなので除外しておきましょう。

 

「あ、あいはぶこんとろーる? はろー、はろー、いえすいえすいえーす?」

「いや、私さっきから日本語しゃべってますから、普通に話してくれて大丈夫ですよ?

 日独クォーターで遺伝子的には祖父方の影響が強く出てしまい、こんな見た目をしてますけど日本生まれの日本育ちで外国とか行ったことありませんし日本語以外はほとんどしゃべれませんから普通に話してくれた方が私も楽ですし」

 

 不意打ちで外人と会ったら「Yes」か「ハロー」しか英語が思い出せなくなる典型的なダメすぎる日本人的対応の異世界人魔女フレアベル。この人、短時間しか滞在してない日本に馴染みすぎてますね・・・。日本、恐ろしい国デス・・・。

 

「??? よく分かりませんが・・・このチラシに書いてある事って本当なのでしょうか?」

「え? まさか本気で信じちゃったの!? 異世界で勇者とかキチガイみたいな宣伝文句を!?」

「・・・ご自分で言い切れる当たりは信用できそうで何よりですね。私が確認したかったのは異世界云々ではなくて報酬額と勤務時間についてなのですが?」

「ふへ?」

 

 間抜け面して聞き返すフレアベル。相手は真顔。・・・って言うか、無表情で何考えてんのか全くわからん・・・。

 

「えっと・・・もしかしなくても、お金・・・欲しかったりするのかしら?」

「ええ。今年は良作ゲームが多く出ますので、今のうちに軍資金のためアルバイトでもと」

 

 ・・・この子もフレアベルと似たタイプみたいですね。フレアベルが呼んだ類友。

 

「まだ募集が終わってないようでしたら応募させていただきたいのですが・・・まだ可能でしょうかね?」

「え、ええ、もちろん。私的には満員御礼大歓迎ウェルカムバースデイなんだけど・・・本当にいいの?」

「?? 何がでしょうか?」

「・・・いや、普通に考えてファンタジー異世界が実在しているなんて本気で信じないのが常識でしょう?

 異世界から来た異世界人の私が言う言葉じゃないのはわかってるんだけど、魔物とか魔法とか天使とか悪魔が実在している世界なんて今の地球だとフィクションでしかあり得ない出来事だと思われちゃってるんだし・・・」

 

 おずおずとフレアベルが最終確認を取ってきて、銀髪のクォーター少女は「ふむ・・・」と腕を組んでうなずいて見せてから空を見上げて小首をかしげ、不思議そうな雰囲気をまとわせながらの返事。

 

 

「ファンタジーとは少しだけ違っているかもしれませんけど・・・・・・モンスターの類似品とかなら地球にも普通におられますが?」

「は? いや、ないない現実世界にモンスターなんているわけないし、あり得ないってば!

 もー、子供が大人をからかったりしようとしちゃダメなのよ~。本当にも~」

 

 パタパタと片手を振りながらせせら笑うフレアベル。・・・割と本気で異世界から来たコイツが言う言葉じゃねぇですな・・・。

 

 そんな彼女に対して銀髪の少女は慣れた態度で肩をすくめて、「まぁ信じられないのが当然なのでしょうけど・・・」と慣れた口調でいいながら自分たちの背後を指さします。

 

「ですが、本当にちゃんといるんですよ? たとえば、あそこの陰とかに」

 

 少女が指さす先。塀と塀とに挟まれた狭い空間。

 曲線が存在しない、角だけで構成された小さな小さな街の死角。

 

 その場所に存在していた、九〇度以下の直角がある場所から「にゅるり」と“ナニカ”が顔を出してフレアベルの顔をジッと見つめていた。

 

 

 それは不可解な生物だった。

 

 地面を駆ける四本の足を備えてはいるものの、通常の四足獣とは似ても似つかない異形の姿をしていて、地球の子供たちが忌み嫌う治療器具に付いてる注射針と同じような細くて長い舌を持ち、身体全体が粘液のようにベトベトしたモノで覆われている。

 

 

「・・・・・・」

 

 こんな怪物、今まで見たことも聞いたこともないし、会ったこともない。

 もし会っていたら間違いなく今の自分は生かされていないと確信できるほどの圧倒的力の差を感じさせてきて恐怖のあまり動くことも逃げることも声を出すことさえも出来ずに凝視し続けていたフレアベルをジーーーーーっと見つめ続けていたナニカは、やがて九〇度の角度に空いた穴の中へと引っ込んでいき、出てきたときと同様に存在そのものを地球世界からいきなり消失させてしまったのだった。

 

 

 ――言い表す単語を持たない知らない知りたくない摩訶不思議不気味生物との初会合を終えたフレアベルは、全身を冷や汗と脂汗でビッショリ濡らし恐怖で身体全体が金縛りに遭っている状況で、傍らに立つ少女は「おー・・・スゴい。流石ですねぇ」と感嘆符を上げながらパチパチとまばらな拍手をし、こんな聞き捨てならない台詞を吐いてきやがりました。

 

 

「さすがです、異世界人の魔女さん。ティンダロスの猟犬と見つめ合っておきながら、命を狙われることなく帰って行ってくれるだなんて。もしかしたら気に入ってくれたのかもしれませんね、流石は異世界人さんです」

「んな、『この世界の人間には決して懐かない伝説の魔獣に懐かれたのは異世界から来た異世界人だからでしょう』みたいな言われ方されたって嬉しくも何ともないわよぉぉぉぉっ!!」

 

 異世界魔女の絶叫パートⅢ。今度は涙と鼻水混じりです。マジで死ぬかと思ったし、殺されることを確信していたため恥も外聞も無く泣きわめきます。――最初から無かっただろとかのツッコミは無しの方向で。

 

「なんなのよアレは!? なんなんだよアレは!? 一体全体この世界の片隅にはナニガ住み着いてやがるのよコンチクショウめぇぇぇぇっ!!!!」

「ファンタジーだったでしょう?」

「ホラーだよ! アレは夢と魔法のファンタジーじゃなくて、ただのホラーだよ! この世ともあの世とも関係ない、どっか別次元から来てるとしか思えないホラー生物でしかなかったよ!

 あんな気味悪い生き物、ファンタジー異世界にだっているかボケ! アンデッドの方が百万倍もマシだったわ!」

「アンデッド・・・ああ、ゾンビとかスケルトンのことですね。同じモノではありませんが、似たようなところでグールと言う名の死体を食べる食屍鬼がおりましてね。世界中の国々の大都市地下に巣を張ってまして、一部企業が定期的に私設警備隊を投入して地下の覇権を争っていることで有名なんですよ」

「どんな世界だ現代地球!? ファンタジー異世界よりも怖すぎるんですけども!?」

 

 ・・・・・・果たして、こんな奴を自分の世界に連れ帰ってしまって大丈夫なのだろうか? 色々と規格外なところが目立つし、戦力的には十分すぎて過剰になっちゃいそうな気もするけど、平和ボケしたアナケウス人たちには丁度いい劇薬になってくれるかもしれないし・・・。

 

(・・・ええい! 毒を食らえば皿までよ! そして、死なば諸共よ! 私一人だけが不幸になるぐらいなら世界全てを賭け皿に載せて大博打に出たほうが、まだしも私にメリットがあるじゃない!

 全ての人間が幸せな世界が実現されても、私一人だけ不幸だったら私にとっては価値がない! いっそ燃え尽きてしまえ! リア充共のクソッタレワールド!)

 

 壮大な無理心中計画を基準にして魔女さんは自分の世界に、最凶劇物を連れてくことを誰にも相談することなく勝手に決めてしまいました。

 自分の国ひとつを救ってくれるなら、世界全てを巻き込んでしまう危険性をはらんでいても構わない異世界勇者の召喚魔法。

 

 

 かつて人と魔族が争い合っていた、今では平和なファンタジー異世界の大地に、危険極まる混沌の申し子が今降り立つ!!




釈明:
もともと投稿する気もなく書いていた趣味作ですから、あまり深く考えて書いてません。ツッコミは控えめにお願いいたします。

なお、タイトルはモデルにした作品とは関係がなく「冷やし中華はじめました」のノリで決めさせてもらいました。

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