昔書こうと思って構想練ってたのを思い出したので書いてみました。長編書くつもりで考えてた作品ですので、1話内だけだと大して兵器群が出せてないのはご勘弁くださいませ。
「また一つ、村が死んだか・・・・・・」
辺境位置と謳われる老剣士ユパはつぶやいた。
悲しげに響く悲痛な声音と、抑制された表情とが微妙な不協和音を奏でていたが、ソレは彼にとって必要な儀式であり、この世界で旅を続けていくためには必須となる技術の一つでもあった。
辺境にある砂漠の地。元々は小さな部族が住む百の集落が点在していたこの地には、今や人は一人も残っていない。
人だった者が物言わぬ骸となり、旅人を無言の内に無視してくれる。・・・只それだけの場所に成り果ててしまっている。
1年ほど前からはじまった砂漠化の加速と、それによって生じた食糧危機を改善するため、己と家族が生き長らえるため、百ある村々は互いを食い合い潰し合い、そして奪い合って滅亡していった。――ここは、最後に勝ち残った最大勢力を持つ部族の長が住んでいた家だ。
「・・・・・・」
見下ろすと、足下に子供が遊んでいたものであろう人形が落ちていて拾ってみたが、脆くも崩れ去って砂と化していく。
百年や二百年程度の時間で、ここまで風化が進むのは有り得ない。腐海の空気が命を持たぬ物にまで悪影響を与えてしまっていると言うことなのだろうか・・・? 学者でないユパにはわからない。
ただ一つだけ、彼にも分かることがある。
それは、“この村に人の笑い声が満ちることは二度と無い”と言うこと。
それだけは間違いようもなく確かな事実でだったから・・・・・・。
「行こう。ここも直、腐海に飲み込まれる」
外に出て、長距離移動用の足として使っているヤクの元まで戻ってきたユパは、鞍に手をかけた姿勢で動きを止める。
そのまましばらくの間、微動だにせず周囲の気配に耳を澄ませ集中し、微罪な変化も見落とさないよう注意力を最大限まで引き上げる。
“何かがおかしい”。
通常の滅びた村では有るはずの無い“あの匂い”が感じられるような気がして仕方がない。
「一体なにが・・・・・・」
ユパはそこまで言って、そこから先は言うのを止める。言えなくなっていたからだ。
驚きのあまり声を失い、混乱のあまり大声を発しそうになるのを鍛え抜かれた反射神経が無意識の内に抑制してしまったが為に、どちらでもない沈黙だけを彼は選んで実行していた。
それは『人類はこのまま滅びる定めにある者なのかどうかを確かめるため』辺境中を巡る旅をしてきたユパをして驚愕なさしめる程の見知らぬ何かで織られた機械の塊。
人の数十倍の身長を有する緑の巨人。
柔らかく湾曲するフォルムは機械と言うより人間的で、伝説に描かれた巨神兵を彷彿とさせる外観に僅かなりとも人間くささを加えて悪印象を緩和してくれている。
が、しかし。
顔の中央で不気味に光る赤い光によって、すべては反転させられる。
柔らかさは人にすり寄り毒を飲ませようとする狡猾な蛇を連想し、巨大な体躯は雄大さよりも恫喝目的による脅しの色彩を帯び始める。愚かな人々に罰を与えに来たと伝えられる伝説の巨神兵がごとき善悪定かならぬ不確かさなど微塵もない。
そこに在るのは、只の人が造り出した兵器と言う名の絶対悪。
――――ただ、其れだけだった――――。
「これは・・・一体・・・・・・」
驚くユパには目もくれず、近づいてきていた巨人は背後から仲間を手招きで呼び寄せて一列に並び、巨大な火炎放射器と思しき道具を滅びて腐海に沈もうとしている村へと向けて、引き金を引く。
「――っ!!」
咄嗟の判断でユパは、ヤクたちと共に前方に飛んで砂丘が作った天然のクレーターへと落下してゆく。
そして、受け身をとっている暇はないとばかりに地面に落ちた直後から彼は立ち上がって砂の丘を登り切り“其れを見た”。
「なん、だ・・・これは・・・? ・・・・・・この光景はいったいどうしたことなのだっ!?」
今度こそ本気で驚愕の悲鳴を上げる辺境一の剣士ユパ・ミラルダ。
それ程までに彼が見たのは、あり得べからざる非現実的な光景だった。
――腐海が、燃やされ尽くしていく。
――怒った蟲たちが、悲鳴と共に握り潰されていく。
人の造った巨神兵モドキの手によって全ては灰になり、刃向かう者は虫ケラのように情け容赦なく握り潰されていく。
かつて、ユーラシア大陸の西のはずれに発生して数百年後には世界を席巻したが故に滅んだ巨大産業文明。
力に溺れて人としての限界を忘れ、自らの住まう大地を毒で満たし尽くした彼らの傲慢さを再現するかのように、全ての敵対者を火と炎で焼き尽くしてしまえとでも言うように。
あるいは―――彼らでさえ及びも付かぬエゴを以てして超越してしまおうとしているかの様に。
「・・・? 火が消えぬだと・・・? あの炎には通常の可燃材料を使ってはおらんと言うことか」
『火の七日間』と呼ばれる旧時代を焼き尽くした巨神兵の行進。
あれ以来、人は火を使うことを恐れ、嫌悪する風潮が生まれて火炎放射器などは胞子が村の植物に付着してしまったなどの止むを得ぬ事情があるとき以外は滅多に納屋や倉庫から出されてくることはなく、使われる燃料も他の木々に燃え移りづらい調整された火力までしか出せない物を選んでいるが(いざという時のために大規模に燃え広がる物も伝統的に一応所持されてはいる)――今あの巨神兵もどきが放っている炎に、それら『自然への配慮』は一切感じることが出来なかった。
“ただ、燃えろ。燃え尽きろ。人類にとって邪魔になる物はすべてゴミの様に踏み潰されるか、燃え尽きるか、どちらかだけしか道はない。必要ないのだ。ゴミの様に無価値なクズ共には”
・・・人の持つ憎しみの炎が形となって現れたかのように消えぬ炎。
彼自身は知るよしもないが、あの炎に使われているのは周辺にある大気そのものに引火して自らの仲間を燃料にして燃え広がっていく、巨大産業文明の生まれる遙か昔に生まれて滅んだ、今はもう忘れられて名前すら残っていない工業文明が生み出していた破壊のための炎。
それを今の時代に蘇らせた者が“実験”のため、適当な滅んだ村々を廻って害虫駆除に勤しませている最中だった物。――只それだけの実験サンプルに過ぎぬ代物だったのである。
「――いかん!」
突如として言いようのない悪寒に襲われたユパは、ヤクに飛び乗り全速力で走らせながら予定を変更し、愛する家族たちが待つ生まれ故郷の『風の谷』へ急ぎ向かう。
(早くこの事を知らせなければ、世界は大変なことになってしまう!!)
そう直感したからだった。
理由はない、誰にどう伝えたいのか自分でも理解しているわけではない。
ただ、ダメなのだ。アレをあのまま放置していたら世界すべてが飲み込まれてしまうかもしれない!
あの“憎しみの光”によって今までの世界すべてが焼き尽くされてしまうかもしれない!
そんな本能から轟く恐怖の雄叫びに急かされながらユパはヤクの足を速めて、少しでも早く風の谷へと向かい、急ぐ。
そんな彼の疾走を、腐海の毒対策として付けている防毒マスクのバイザー越しに眺めている、一人の青年がいた。
眼下に広がる『疑似巨神兵・ザク』の実験結果を聞きながら、視力補正のないゴーグルの下に本物の視力補正用色つき眼鏡をかけた洒落た青年は、唇を歪ませて嗤いながらユパを見逃してやる決定を下してやった。
「ふふふ・・・辺境一の剣士ユパ・ミラルダとは、あの程度の男か。ザクを前にして尻尾を巻いて逃げ出す以外に打つべき手を持たぬとは、些か興が削がれてしまう醜態だな」
「はっ。それで、どうされますか大佐殿。追撃なさいますか? 今ならまだ、この高機動型コルベットで追っても十分に追いつける距離でありますが・・・」
「放っておけ。それよりもザクのデータ収集の徹底を急がせろ。なんとしても殿下の皇太子任命の儀に間に合わせなければいかんのだからな」
「ハッ! 承知しましたムスカ大佐!」
「クククク・・・・・・」
足早に自分の側から離れていく同年代の部下を見送ることなく窓外へと視線を戻しながらトルメキア帝国の青年将校ムスカ大佐は、だが窓の外に広がる何者も見てはいなかった。
彼が見ていたのは遙か彼方のその先で待つ、新たな主君が定位を受け取る未来の戴冠式。
いずれは皇室で唯一の女性、クシャナ殿下を妃に迎え自分が国を乗っ取ってやろうと目論んでいた身の程知らずの自分の小ささを思い知らせてくれた偉大なる御方に相応しい地位を名実共に手になさる記念日の風景。
無論のこと現時点で既に中身は掌握されておられるとは言え、形ばかりは皇太子として愚鈍かつ無能な皇帝に頭を下げなければならない覇王の心の内は如何ばかりであろうか・・・?
いや、自分ごときが彼の君の気持ちを忖度するなど許されざる不敬だ。背信行為とさえ言えるだろう。自粛しなければなるない。
(ああ、しかし・・・・・・あの姿を見たあの日から、私の心はあなた以外の方を映すことは出来なくなってしまいました。出来ますならあなたのお側で歴史が変わる最初の一歩を踏み締めたいと願ってしまう臣下の不忠をお許しくださいギレン様・・・・・・)
そう思い、心酔して陶酔する主の“偉業”を思い出し、思わず前屈みになってしまいそうになる自分の邪さを戒めながら彼は記憶の回廊を逆にめくって思い出の日の出来事を思い出す。
――それは、今から一ヶ月ほど前のこと。
トルメキア帝国の都トラスにおいて、帝位継承権を持つ三人の皇子が揃って病死し、次期皇帝候補筆頭に『正当なるトルメキア王家の血を引く唯一の王族、末娘のクシャナ』が任命されたことが大々的に報じられた前日に起きていたこと。
「トルメキア王家代々の伝統とも呼ぶべき骨肉の争いを勝ち抜いたクシャナ殿下が次の皇帝陛下の地位を勝ち取ったみたいだぞ?」と、市民たちが都中の各所で噂を始める前の日の晩に起きていた出来事。
その日、親衛隊の待つ席に連ならせてもらったばかりの下級貴族出身であるムスカの見ている前で一発の銃声がとどろき渡り、続く怒声と応じる銃声とが入り乱れた末、その場に立っていた者の中に皇帝の連れ子たる三人の皇子が含まれなくなってからのこと。
「こ、これはどう言うつもりなのだギレンよ?」
皇帝は震える声で義理の息子を問いただし、震えそうになる指に虚勢を込めて指弾する。
「どう、とは?」
対して、糾弾されている側はそっけない。
それは、ある意味では当然の対応だった。
なにしろここは玉座の間。たとえ拳銃であろうと持ち込むことが許されるのは、警備の親衛隊員以外では皇帝一人だけ。
皇族であろうと許されない特別に神聖な場所へ銃を持ち込み発砲し、武装した兵隊を乱入させて、彼らの身分では触れることさえ許されることのない貴人たちの後頭部に銃口を押しつけて床に組み伏せ、隠し武器を持ち込んではいないか乱暴な手つきでボディーチェックを行うよう命じた男に、今更父である皇帝の権威や帝室の威信などが何の効果ももたらさないことなど火を見るより明らかなのだから。
「ふ、ふ、ふざけるな! 貴様は今、自分の兄弟を、私の息子たちを殺めたのだぞ!? この上更に自らの罪を誤魔化せるとでも思っているのか!?」
「無論、思っておりますとも義父上様」
「なっ・・・!?」
戦慄に表情をゆがめる皇帝を前にして眉一つ動かすことなく部下に向かって、死んでいるかどうかを一人ずつ確認するように命じ、「息があったら楽にして差し上げろ」と、被害者たちの父と亡骸を前に堂々と言い切る。
酷薄な笑みを浮かべる彼の鉄仮面ぶりは難攻不落であり、武器を持っていて撃ったとしても、当てることなど出来はしない肥満した皇帝の言葉程度では傷一つ付けられはしないだろうと見ている誰もに納得させる余裕に満ちたものだった。
「確かに、痛ましい事件でしたな・・・」
「な、なに・・・?」
突然言いだした先帝の妾の息子で、今の妻の連れ子でもある年齢的には長男の王位継承権最下位を持つギレンの言葉に皇帝は戸惑いを隠せない。
痛ましい事件とはどういう意味なのだ? 自分自身で定位継承権を強奪しておいて今更何を・・・・・・。
だが、義理の息子が抱える混沌と邪悪さは父の予想を遙かに超えて、化け物としか思えない非道で卑劣な手段を用いらせていた。
「王家の伝統とはいえ、兄弟同士で発肉の争いあった末に“全員が相打ちでお亡くなりなられる”とは・・・いやはや、兄弟仲良くが家族円満のコツとはよくいったもの。まさしく至言でしたな義父上」
「・・・・・・・・・」
皇帝はあまりの言葉に声も出ない。
そんな帝国の最高権力者を無視して、彼は続ける。
「ですが、どれほど嘆き悲しみ惜しもうと死者が生き返ることは決してありません。死者たちと過ごした楽しい記憶を思い出の宝箱にしまい込み、我々生き残った者達は彼らの分まで生きなければならないのですよ。死んでいった彼らの犠牲を無駄にしないためにもね」
ここまで堂々と盗人猛々しい台詞を大仰に言ってのけられる人物も、そうはいまい。
惨劇の場に居合わせた目撃者の一人、クシャナ姫はそう思い内心でせせら笑った者だが、彼女が暢気な見物客でいられたのもそこまでだった。
「・・・では、具体的にどうせよというのだ貴様は?」
「まずは死んでしまった兄君たちの代わりに、次の定位継承者を指名されるのが筋と考えます。
王に後継者がいない状況を心地よく感じる民というのはおりませんからな。万民の上に立ち統べる者として、全ての王位継承者が死んでしまった大事件に心揺れる民草に平穏と安心を与えてやるのが君主の勤めというものです、偉大なる皇帝陛下。尊敬し敬愛する我が父よ」
「ほう、そうか。とてもそうは見えぬ行為だったがな。・・・それで、定位継承者に指名して欲しいのは貴様と言うことで間違っておらぬだろうな?」
「いいえ、違います。私ごとき外様の血では民共は納得致しますまい。――ここはやはり、正当なるトルメキア王家の血を引く唯一の存在、クシャナこそがその地位に相応しいと存じますが如何に?」
――嵌められた! クシャナはこの時、心底からその事実を思い知らされていた。
そして聡明な彼女は悟ることになる。
自分が生かされた意味を。殺されなかった理由を。義兄が考えた義妹を殺さずに使う方法を。
乱入してきた兵士たちは三人の無能な兄君たちは乱暴に扱いながらも、末の妹たる自分には丁重な物腰で礼儀正しく動かないで欲しい旨を伝えてきた。
宮廷クーデターの首謀者が腹違いとは言え同じ父を持つ兄だったことが理由だろうと、他の者達は思っている中でクシャナだけは「違う」と感じていた。この兄はその様なタイプでは決して無い、と。
そして結果的にクシャナの方が正しかったことが、皆の勘違いを肯定する形で証明されてしまった訳だ。
「・・・私に父殺しの汚名と暗殺者共の刃を向けさせた上で、茨の冠を被れと仰られるわけですか? 義兄上」
「おいおい、そう怖い顔で睨むなクシャナ。せっかく母上様が待ち望んでおられた次期皇帝に成れたのだからな。もっと嬉しそうに気高く微笑んで見せた方が良い。民共は王者の笑う姿を見て安心するものだ。『脳天気な王様が笑っている間は自分たちが処刑される心配は無いだろう』とな」
「・・・・・・」
隠す気さえ見せない話のすり替え。
だからと言って今この場で反論出来るわけが有るわけも無し。
相手の手には銃があり、自らが率いる兵たちにも銃がある。
そして、自分たちには何もない。食事用のナイフ一本を持ってたところで死んだ鳥の肉を切り分けるぐらいしか使い道がない。
場で一番強い者が銃を持っているとき。その銃口が向く方角に関係なく、その場にいる彼の者以外全ての人々は彼の思いを忖度して、自分の意思で勝手な解釈と理解を進めていくしかない。それ以外に生き延びられる道はないのだから。
「・・・分かりました。帝位を授かりましょう。ですが、義兄上。形ばかりと言えど私は皇帝になり、義兄上は臣下筋となる訳ですから当然あなたにも私の命令に従っていただきます。それでもよろしいですな?」
「おお、無論だとも我が愛しき妹よ。私は王族の一員として喜んでその義務を全うすることを誓約させてもらうとも。なんなら今この場で血判書でも書いて提出させようか? あれはなかなか痛いものだぞ?」
「・・・・・・」
いぶかしげな表情で黙り込むクシャナ。てっきり反論してくると思ってしまった彼女は、やはり武人肌の軍人気質。政治という戦場で専門家相手に太刀打ちすることは出来ない。
「だが、慚愧に堪えぬ事に我が国は辺境諸国と戦争中の戦時下にある。兄君たちは戦地から今日のためにわざわざ一時帰国されてきておられただけなのだからな。一時でも現場責任者がいなくなり、敵対している国々に付け入る隙を与えるべきではない。
言いにくいことだが、王家の末席で女でもあるお前が今出ていくだけで収まりが付く兵士共など兄たち子飼いの三郡にはほとんどおらんぞ? それでもお前が最高責任者として全軍の指揮を引き継ぐのかね?」
「・・・・・・」
「故に私は戦時体制の規定に従い、現時点を以て軍務司令官が国家の大権を掌握すべきであると考える。
本来であれば、王族に男子がいなくなった場合に限り適用される制度であるが、父上は今や老齢、お前は優秀であっても自分の部下以外からは人望が薄く三軍の幹部たちからは評判もよろしくない。妥協案として軍務次官である私が兄に代わって司令官に就任し、お前が正式に帝位を継ぐまで軍を維持し外敵を討ち滅ぼしておくべきだと考えるが・・・どうだ?」
お前が勝手に決めた規則ではないか! そう怒鳴り返したかったが、それも出来ない。
クシャナは生まれて初めて蟲以外の相手を前にして、自分の無力さと弱さを思い知らされた。“力が欲しい”と純粋に強く思ったほどに。
――そんな彼女を奇妙な眼で見て、視線を送る不可思議な小男がいた。
皇帝ヴ王が側に侍らせている道化師だ。
彼は普段から浮かべている道化らしい笑い顔を消して、真摯ではあるが空虚な瞳でクシャナのことをジッと見続け、心の中で計画の役割分担に変更を加える。
(軍権を失ったヴ王は、今となっては傀儡だ。むしろ今ではクシャナの方が御しやすくなったことだろう。
ギレンとか言う思い上がった若者も、一時の栄華を味あわせてやれば満足するはず。
だが、あのモビルスーツをはじめとする未知の機械兵器群だけは少々気になるな・・・。調べておく必要があるかもしれん)
そんな思考に耽りながらクシャナを見つめる彼の空虚な瞳。
彼が湛える瞳の空虚さを眺めている人物がいた。名を、ギレン。
道化師も、道化師を作った当時の科学者たちでさえ知りようもない、永劫回帰で繰り返し続けた地球の戦争の歴史の中で消えていったはずの反英雄。そのクローンの内一体。
いざという時のためのスペアとして、数千造っておいた最後の生き残り。
その彼が数千年間の雌伏を経て、現代の火星に新たな野望の光を灯そうとしている。
(フッ。やはりザクを目にして巨神兵を連想し、勝手にアレに意識の全てを持って行かれたか。予定通りバカ共には丁度いい目くらましとなってくれたようだな。これでいい・・・。
後は墓守に墓まで案内させ、奴自身の手で自分自身の死刑執行書に判を押させてやるだけのこと。オーム共が共食いで絶滅し、腐海の無くなった後の世界に生き残った人々を私が正しく導いてやるとしよう)
(腐海のシステムは理解した。汚れきった大気と大地を癒やして浄化させる力・・・確かに有用ではあるだろう。
だが、逆を言えば同じ事が出来るシステムさえ作れるのなら、アレのメリットは大きく失われ、デメリットの方が大きいガラクタに成り下がる。
得られる恩恵も、何かあったときの被害も巨大すぎる核融合炉じみたエネルギー源は、私の支配する星には必要ない。クズ共が死に絶え、生き残った人々だけが暮らしていくには十分すぎるシステムが完成した今となってはアレらはただ邪魔なだけだ。排除するとしよう。
ついでとして、我らが安心して暮らしてゆける人工の自然で造られた揺り籠を外部から揺さぶられぬよう蛮族どもは一人残らず潰しておかなければならんだろうな。
生き残りを作るから憎しみの連鎖が生じる。憎しみは親から子に受け継がれる。
後顧の憂いは、絶てるときに絶っておくべきなのだよ・・・・・・)