試作品集   作:ひきがやもとまち

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以前に書く予定でいたものを書いてみた、何段目か忘れた作品です。
言霊ISをセシリアと鈴がヒロインになってガールズラブコメ風に仕立て上げたもののプロローグ。
よろしければ暇つぶしにどぞ。

*謝罪:失礼、夜分に投稿したため投稿先を間違えました。
ですのでこちらは近いうちに消すか、続きから『IS原作の妄想作品集』に移るようになります。ご迷惑をおかけしましたー。


IS学園の言霊少女セシリア・鈴ルート

『――ニュースの時間です。先月中頃に発見された世界初の男性IS操縦者「織斑一夏君」が、IS学園入学式にあわせて本日入学することとなり、学園島では一夏君を一目見ようと大勢の観光客で賑わっています』

 

 世間では発見されたばかりにして、すべての男性たちが待ち望んでいた『男でもISを動かせるようになる可能性の原石』織斑一夏さんのことで話題騒然としているらしく、朝からテレビではずっとこの調子。

 

 ――ま。

 

「本人でない上に女の私にとっては、どーでもいいことなんですけども」

 

 そう言って、手にしたお菓子を一口パクつき、ぼんやりとテレビを眺め続ける私は異住セレニア。

 今テレビで紹介されてる織斑一夏さんのプロフィール欄の端に小さく記載されている『扶養家族』として分類されてる義妹。法律的には織斑家の家主である織斑千冬さんに庇護されてる被保護者という形になりますね。

 

 これは『白騎士事件』で世界を壊して再誕させたIS操縦者たちの内、一定の年齢と一定以上の年収を持つ国家代表クラスにだけ課せられている法的義務で、男尊女卑から女尊男卑へ世の在り方が移るに当たって生じたDV・・・ハッキリ言うなら、それまでの家父長から転落させられたことに怒り狂う男親から虐待された子供を女尊男卑正義の象徴であるIS操縦者の家庭で養うのが人の道。

 と言う建前の基で制定された、女尊男卑与党によるイメージ戦略の一環。その結果です。

 

 織斑一夏さんの姉――織斑千冬さんは現役でなくとも、元世界最強のIS操縦者。未だに人気と知名度の高さでは他の追随を許さない人ですから、まぁこの手の役割を押しつけるにはピッタシだったというわけで。

 

 

「ま、なんにせよ私は両親が出張中で息子一人支度に取り残されるギャルゲー主人公と似たような状況に追い込まれたわけで。

 これからの生活で何かハプニングが起きないかとか、ちょっとだけ楽しみではありますよね~♪」

 

 子供の時から「とある事情」により、若干過保護に育てられた自覚のある私としては「初めてのお使い」ならぬ「初めての一人暮らし」に不安一杯、それと同時に胸躍らせたりなんかもしてきちゃっているのですが♪

 

 

「・・・家主不在の自宅に子供二人じゃ危ないから目の届くところに保護しようと言うのに、一人だけ確保して後の一人は家に残したままでは意味なかろうに・・・」

「ですよね~・・・」

 

 うん、解ってました。ちょっとだけ夢見たくなっただけ何で気にしないでください、千冬義姉さん。

 

「それに、お前を一人で普通学校に行かせたりしたら、おちおち安心して授業もできん。いい加減、自分が持つ周囲への影響力について自覚して自重することを覚えろ愚妹」

「・・・反論の余地もないご指摘ですが、一応弁明させていただきますなら私にそうする意図があって相手に影響与えたことは皆無ですからね?」

「自覚も意図もないのに他人が変わって言ってるから放っておけないと言っておるのだ! この阿呆!!」

「・・・・・・ですよね~・・・」

 

 うん、これもまぁ言われるまでもなく解ってはいました。事実でしたし。

 実際、私と一夏義兄さんは周囲に影響を与えやすい人間です。知らない間に、気づかぬ内に誰かと誰かの性格が百八十度以上変わっていることはよくある話。

 

 別に犯罪に走るわけではないとは言え、昨日まで「イチカ殺す!」とか叫んでた人が今日になると急に借りてきた猫のように猫なで声出して愛情という名の餌を求めるため義兄に近寄ってきたり、数日前まで「戦争はダメ! 絶対に!」とか言ってたラブ&ピース絶対主義の方が何の前触れもなく「諸君! 私は戦争大好きだ! クリーク!!」とか叫んで右手を掲げたりし始めたら誰だって驚きますし嫌がります。影響与えた本人自身がドン引きしてるんですし、間違いありません。

 

 だからまぁ、義兄さんと同じくIS学園に強制連行される分には大した問題もないのですけれども。

 

「・・・準備期限は?」

「三十秒以内に支度しろ」

 

 ドーラ一家か! ・・・などとお約束のボケにツッコんでる余裕もなく、私は大慌てで引っ越し支度をまとめるため二回へと駆け上がり、降りてきました。準備完了です。

 

「よし、準備完了です。いつでも出られますよ」

「早いだろ!? 早すぎるだろ!? まだ十秒も経ってないぞ! お前にとって引っ越しの準備は十秒で終わる程度の簡単すぎることだったのか!?」

 

 驚愕を顔に貼り付けた千冬義姉さんが叫びます。

 

「そう言われましてもね・・・いつも緊急避難用のサバイバルケースは部屋のベッド下に用意してありますし、後の持ち物で一番大事なのは端末と予備の手帳とに保存してありますから、他の嵩張りそうなものは特にこれと言って・・・・・・」

「・・・お前は、戦争が始まったら二時間で戦いに駆けつけなければならないスイス人か何かか・・・?」

「日本も同じ中立国ですからねぇ-」

 

 他国の戦争に巻き込まれずに中立を守るためには、国民一人一人がいざという時の備えをしておきませんと。

 

「てゆーか、そもそも私の部屋って本以外はあまり置いてませんし、本もって歩くには重すぎますし割り切りが重要な分野でもあることですし・・・」

「理屈っぽいのに行動的な辺りがお前らしいと言えばらしいのだがな・・・」

 

 そんなこんなで、義兄さんの後を追いかける形で義妹による、二時間遅れのIS学園入学が決定されて実行に移されたというわけです。

 

 

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

 すらすらと教科書を読んでいくIS学園1年1組副担任、山田先生の声を聞きながら俺、織斑一夏はこんなことを思っていた。

 

 ――参った。これはマズい。ダメだ。ギブだ。

 なに言ってんだかさっぱり解らない・・・・・・。

 

 ――と。

 

「あー・・・・・・」

 

 意味もなく意味不明なつぶやきを発してしまうほど、俺は参ってきていた。

 だって、そうだろう? ある日いきなり黒服の男たちがやってきて『君を保護する』とか言ってIS学園入学所を置いていくって、どこのムスカ大佐と不愉快な仲間たちだよ。あげく、望んだわけでもないのに自分以外は全員女の子な女の園に放り込まれて保護するも何もないもんだ。

 

 まぁ、今それはいい。よくないけど、とりあえずはいい。今重要なのはそこじゃない。

 ・・・目の前でおこなわれているIS操縦者になるための授業が聞いててもさっぱり解らんこと。それが今一番大事な問題点だった。

 

 隣の席に座る女子を見ると、先生の話にうなずいては真面目にノートを取っている。

 

 ・・・もしかしなくても俺だけか? 俺だけなのか? みんな解っていると言うことなのか? IS学園に入れるような奴は、みんな事前学習してるって噂は本当だったんだな・・・。

(はぁー・・・こんなことなら素直に頭下げて、セレニアに勉強付き合ってもらうべきだったかもしれん・・・)

 

 ふと頭に思い浮かんだのは、家に一人残してきた運動より勉強の方が得意な俺の妹分。

 歳は“同じってことにしてある”らしいけど、一応は俺の方が兄と言うことになってるんだし、妹に情けないところ見せて侮られるのは微妙に癪だったから言わなかったことを今になって後悔してきている俺。・・・今更すぎて完全に後の祭りになっちまってるけどさ・・・。

 

(あー・・・、そう言えば来週の日曜日にアイツをどっかへ遊びに連れてく約束してたんだよな-、俺って。普段から表情変わりにくい奴だけど、今回のは嬉しそうにはにかんでたなー。

 ずっと見てると分かってくるアイツの微妙な表情の変化って探してみると結構パターンあるんだよなー)

 

 俺が目の前に広がる辛くて厳しい現実から目を逸らしたくて逃避先に使っていた義妹の声が幻聴のように聞こえてくる気がする。

 

 ・・・って、ダメだダメだ。そこまで行っちまったら人としてダメすぎる。逃げるにしたって最低限守らなきゃならない程度ってものがあるよな、うん。

 よし! 気合い入れ直して授業に集中集中―――

 

 

 

『ちょ・・・。ね、義姉さん? まさか本当にこの体勢で教室は行ってくつもりじゃないですよね?』

『そうだが? それが何か問題なのか?』

『い、いえ、大した問題ではないと思うんですけど、さすがにこの歳でこの体勢はちょっと・・・』

『お前がなにを言いたいのかよく分からんが、着いたぞ。御託は中に入ってからゆっくりと並べるがいい』

『――ってぇ、ちょっと待ってください! ストップストップ! 今の時点だとまだ心の準備が―――』

 

 ガラララッ。

 

 ・・・あれ? 集中した後も幻聴の続きが・・・? しかも今度のは幻覚まで伴って、って・・・・・・

 

「せ、セレニア!? お前どうしてこの学校に!?」

 

 驚き慌てて叫びとともに立ち上がった俺は、朝のHLでIS学園で働いていて1組のクラス担任を務めていた千冬姉と一緒に入ってきた小さな女の子に向け大声を出してしまう。

 

「はうっ!?」

 

 相手の方もビックリしたのか。あるいは“見られたくない相手に、見られたくないものを見られた”ことによるものなのか判然としない悲鳴を小さく上げて俯きがちに黙り込む。

 

 今は俯いてるせいで前髪が落ちてきて見えづらくなってるけど、さっき一瞬だけ見せたコイツの瞳の色は藍色。髪色の銀髪に白磁みたいな白すぎる肌もあわせて、どっからどう見ても日本人じゃない外国人な俺の義妹、異住セレニアがIS学園の制服姿で1年1組の教室に千冬姉とともにやってきたのだ。驚くなという方が無茶振りな状況だ。

 

 ――ただ、コイツが悲鳴上げたのは別に俺がいたからって訳でもないだろうけどな-・・・。知り合いだったら誰にも見られたくない恥態を今のコイツは全力で晒させられているのだから。

 

 

 年齢平均よりも遙かに低い身長と童顔。よく年齢より老けて見えると紹介される外国人の血のほうが濃いセレニアは、意外にも身体的特徴は子供っぽい印象を受けやすいなりをしている。

 子供と言うには、一カ所だけ成長しすぎてドカンと突き出ちまってる部分もあるが、それを差し引いても尚セレニアの容姿から受ける印象は幼さの方に軍配が上がる。

 

 それを加味したら、コイツの置かれている今の体勢も然程おかしなものではないかもしれない。普通なのかもしれない。外見年齢だけ見た場合には必ずしも間違ってないんじゃないかと思えてくる。

 

 だが、どんなに幼く見えても実年齢は実年齢。俺と同い年“と言うことになっている”彼女は今年で高校入学可能になる年齢16歳の女の子と言うよりも少女だ。あと四年で成人する、半ば以上大人になった年齢だ。その事実を鑑みるなら今彼女が置かれている状況は察するにあまりある。

 

 

「すまんな、山田先生。野暮用を途中で済ませてきたせいで、到着が遅れた」

「い、いえ、それはいいんですけど・・・織斑先生? あの、その子は・・・?」

「ああ、それにちなんで皆に伝えておくべき連絡事項がある。悪いが場を借りさせてもらうぞ?」

「は、はい。それは構いませんけど・・・」

 

 戸惑いながらも気遣うような目線をチラチラと千冬姉の後から着いてきてるセレニアに向けられ、逆効果により余計に顔を赤らめさせられるセレニア。

 

 やがて教壇に立った千冬姉は、威風堂々とした態度でいつもどおり自信満々な声で断言と紹介を同時にやってみせるのだった。

 

 

「みな、聞け。コイツの名前は異住セレニアと言って、うちで養ってやっている元孤児で今は里親の元で育っている、私の被保護者だ。今回の件で家が安全な場所ではなくなったのでな、こちらのIS学園に新入生として移させてもらった。

 一応言っておくと、簡易入学試験は及第点を取ってはいるし、一応と言う低レベルだがIS適性も所持している。入学してくる分には問題ない。

 許可するかどうかは我々学園執行部の決めることだから文句があるなら私のところまで聞きに来い。以上だ」

 

 それだけ言って説明を終えてしまう千冬姉。他に言うことないんかい。

 例えば――

 

 

「・・・・・・・・・(//////)」

 

 

 ――未だに頬の赤さを引かせられてない、高校入学最初に『保護者とお手々つないで入学式参加させられる』屈辱的状況を強要している理由説明とかさーっ!!

 

 

 子供の頃、俺が誘拐されて千冬姉に助け出された場に、どういう理由でなのか血塗れで倒れていた少女、異住セレニア。

 自分の名前らしい言葉だけをつぶやいて気を失い、次に目を覚ましたときには自分のことを何一つ思い出せなくなっていた正真正銘本物の記憶喪失少女。

 

 

 ・・・そのときの姿を忘れられない千冬姉から、やたら過保護に育てられて身長が途中で止まってることもあり、未だに子供扱いされ続けている義妹に割と同情的な俺。

 

 こんな感じで俺たち織斑姉弟と、里子で義妹な妹との学園生活が幕を開けたのだった・・・。


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