本当だったら一定量書き溜めてから出したかったのですが、こういうのは慣れてないため勝手がわからず人から見てどうなのかだけでも聞いてみたくなった次第です。
慣れないことは難しいものですねぇ~(´▽`*)
「よう」
夜、声をかけられて目を覚ましたら辺り一面白一色の世界に座り込んでいた。
眼前には後光っぽい光を背負った神様っぽい若くてイケメンな兄ちゃんが片手を上げて挨拶してきている。
日本の横浜に在住している高校生の少年『生田深山』は頭をポリポリかきながら「あ~・・・」と意味の無いうめき声を上げてみる。
「・・・こういう時って、なんて言えばいいんだろうね? 『ドロボー!』とか叫んで助けを呼ぶとか?」
「呼んでもいいが、ここって見たとおりお前の部屋じゃないぞ? ついでに言えば物盗みに忍び込んだ泥棒は部屋の主にいちいち声かけて起こさないと思う」
「冗談だよ。自分でもつまらないと解りきってる、戯言さ」
首をフリフリ、立ち上がりながら頭を振って相手に目線を合わせながら周囲を観察する。
うん、見た目通り地球ではない。だって、窓っぽい枠の向こう側に地球見えてるから。
こうして見ると確かに地球は青い。でも、神様はいないんじゃなかったっけか?
「今さら言うまでも無いと思うけど、俺は神様『みたいなもん』だ。お前らの概念に照らし合わせて表現したらの話だけどな?
実際には外宇宙生命体とか色々な呼び方に当てはまる存在なんだけど、この表現が一番伝わりやすいと思うし、この見た目もそれに合わせてデザインしてみたから無駄にするのはもったいない。だからまぁ、そう言うもんだと思っといてくれ」
「なるほど」
疑問とも言えない謎について考えていると、折良く相手の方から正体を提示してくれた。
確かに神様というのは、こういうとき使うには便利でいい言葉だった。人という生き物は大抵のことを『神様』絡みで考えるだけでなんとなく納得してしまえる理屈を勝手にこじつけ出す生き物なのだから。
「今日お前さんに会いに来たのは他でもない。一度死んで転生して欲しいんだ。もちろんイヤだったら断ってくれて構わないし、無理強いもしない。
他にやりようがなくなったらするかもだけど、少なくとも今はそこまで切羽詰まってないから断られた場合には次の候補者の元に行くつもりだけど・・・どうだ?」
「いきなり『どうだ?』と言われてもねぇ・・・とりあえず事情説明を」
「ほいきた」
あっさりと承諾して目の前の『神様“みたいなもん”』は説明してくれた。最初からしなかったのは、ごくごく偶に最初の一言目で飛びついてくる変わり種もいるらしいと神様みたいなもん仲間の間では話題になってるからだとかで試してみたとのこと。
・・・明日をも知れぬ浮浪者でも勧誘したのか、あるいは一向宗門徒か。どちらにせよ現代日本の一般的な学生の比較対象に持ってこられても困るしかないよな。
「実は俺たちが冗談半分で作った惑星に欠陥が見つかって、結構遠い未来に“死”が確定しちまっててな。
誰か適正のありそうな奴の魂をワクチンとして星に打ち込んで病を取り除いてやるべきだとの結論に達した。
で、お前がそのワクチン候補の16番目」
「俺、なんの取り柄もない凡人だけどワクチンとして役に立つの?」
「あくまで適性があるかないかの問題であって、高尚な魂を求めてるわけじゃないからな。
ついでに言えば他にも候補は結構いる。地球人類だけでも総人口六十億人、一億人に一人の割合でも六十人いる計算になるし、魂の話だから人間である必要性もない。霊長類なんて言うのも地球人が勝手に作った概念だから魂には関係してないし」
「なるほど」
「ただ、文明を持った生物同士の方が交渉しやすいし、騙すのも無理強いするのも好みじゃない。できれば納得の上で星を救うワクチンとして気持ちよく魂を捧げて欲しいんだよ。
――あ、言い忘れてたけど生け贄って訳じゃないから特別なことする必要性はないぞ? 痛くも痒くもなくていい。
ただ、別の星の住人に生まれ変わって生きていって、死んだ後に魂が星の土へと還って病を癒やすためのワクチンとして徐々に効果を発揮してくれさえすればそれでいい。生きてる間に予定が早まったから早死にとかも無し。そこまで大事に考える気ないから信じてくれて構わない」
他にも、人生を途中下車してもらう都合上、向こうの世界で生きて生きやすいよう様々な特典も追加で付与してもらえるとのこと。至れり尽くせりだが、疑問も残る。
なぜ、そこまでして死が確定した星を助けたいのか? そこまで便宜を図った自分が星を死なせる要因になるとは考えないのか?
「こっちの都合で生み出したモンに欠陥があったせいで、上に乗ってる住人達を予定外の死に方させなきゃならんのだぞ? 後味悪いじゃないか。
お前が滅ぼす可能性についても、星を壊すほどの物は与えてやれんから杞憂だな。本末転倒になるかもしれん計画はさすがにゴーサインが出るとは思えないし」
非常にシンプル克つ、ごく真っ当な答えを返されてしまった。
「あるいは星の上の生物たちがお前の身勝手で滅ぼされたり、お前が原因で魔王とかが人類滅ぼして世界を支配したりとかの可能性も出はするが、星の上に生まれて生きてる生き物同士の都合で滅んだり滅ぼされたりは食物連鎖だろ? そこまでは面倒見切れんよ。
それに一応、生物が誕生する時のバランス調整して最悪の選択を世界中で選びまくられない限り片方の種族だけが一方的に勝って支配した末に世界滅亡なんて結末にはならないようにしてある。
そこまでやっても滅びちまったって言うのなら、それはソイツら自身の総意だ。諦めてもらうより他あるまい? それぐらいにバカげた選択を選びまくらないと至らなくしてあるのが世界終末ENDな訳だし」
「ごもっとも」
気楽な調子で肩をすくめて賛同する深山。彼はもとからそう言う考え方をする人間だったので、他の人なら眉をひそめそうな話にも抵抗を覚えることはなかった。
「転生先の星は、お前らの知ってる知識の中だと『中世ヨーロッパ風ファンタジー異世界』っていうのが一番近いな。
もっとも、この国の言葉と俺たちの言語は一致しない部分もあるのか俺にはよく分からない概念が多分に混じっているから保証するには至らないけど。・・・なんで魔法使いっぽい奴のとなりでサムライっぽい奴が勝ち鬨あげてるんだ? 俺たちの星でも似たような文化の国があったけど、全然位置が違ってたはずなんだけどなぁ確か・・・」
「そこは気にしないでくれると嬉しいかな、現代日本に住む日本人としては」
日本の恥を晒しまくることになりそうな会話はノーサンキューだ。速く次へ行かせてもらいたい。
「次へって言ってもな。正直今すぐ決めてもらおうとか焦ってなかったから、今日は提案だけして一週間後ぐらいにまた来るから考えといてって言おうと思ってたんだけど。もしかして考える時間いらなかったか?」
「そうだね。他の人はどうか知らないけど、俺の場合は必要ないみたいだ」
他人事みたいな言い方になってしまったけど、それは紛れもなく彼の本心だった。この星で生きる今の人生に、特にこれと言って未練も執着もない。
夢や目標がないわけではないし、その逆に自殺を考えるほど重い悩みを抱えているわけでもなかったけど、他人事みたいな感覚で日々を生きてたのも事実だ。死にたいとは思わないが、サポート付きで生まれ変わらせてくれるのなら乗ってみたいと思うのに理屈や時間は必要なかった。
「まぁ、こっちとしちゃ引き受けてくれるんだったら理由は何でもいいんだけど。んじゃ、さっそく今のお前の情報を他人の中から消してしまうぞ? 戻すことは出来るけど消すよりかは遙かに手間だから出来ることならやりたくない。消したら二度と戻れない気持ちで決断してもらいたいんだが、いいか?」
「いいよ」
軽く返事をして、自分という存在が今まで生きてきた記憶について周囲の全てから消してもらう。
これは事故死したとかの悲しみを残すよりかは人々に与える影響を少なくする工夫であり、彼が生まれてきて今までの間に起きた彼抜きでは考えられないことも個々人の記憶を弄ればどうとでも継ぎ接ぎできるからだとのこと。
人間は変える事が出来る未来の運命よりも、変える事の出来ない過去の方を自分好みにしたがる習性があるから楽なんだそうだ。なんとも夢のない話だったが、ファンタジーが現実になるとはこんな物なんだろうきっと。
「その星の住人として大地に還るため長生きしてもらわにゃならんから能力はいじくるつもりだけど、見た目とか性別も変えるかい?」
「ハーフエルフの女の子で、魔法剣士って出来る?」
「出来るよ? どうせ一度死なせて向こうの星の住人として作り替えるわけだから、元のままでも変えるのも掛かる作業の手間は大差ない」
重要なのはあくまでもワクチン、つまりは魂。入れ物である肉体に求められるのは中身に影響を与えない事、もしくは与えるとしても良い影響に限定される事。
だから外見や性別や種族には何の意味も無いのだそうだ。
「しかし、ずいぶんと半端な組み合わせを選んだね。エルフと人間、戦士と魔法使いの中間種族に中間職業で、どちらの特徴も半端ずつしか受け継ぐ事が出来ないと来ている。
おまけに、今は男の君が女の子になりたいときたもんだ。なに? そう言う趣味でもあったのかい?」
「そういう訳じゃないけどね。ただ、最後と決まっているなら昔から興味がったくみあわせを試したかったってだけで」
「最後?」
不思議そうに首をかしげる神様みたいなもんに肩をすくめて見せながら、深山はどこかテキトーさを感じさせる仕草と口調で飄々と答えを返す。
「『魂をワクチンに変えられて使われる』んだろう? だとしたら仮に輪廻転生とかがあったとしても、俺の魂が次の誰か別の奴になって地上に生まれ変われる日は未来永劫訪れなくなるわけだ。次がないなら恥ずかしいだのなんだの言ってるよりも、やってみたいこと全部やってから死んだ方が得だと思ってったわけ」
「なるほどね。そう言う考え方も有りと言えば有りか。まぁ、確かに知り合いに見られるわけじゃないし、見られても記憶が消されちゃってるから意味ないんだけれども」
そう言うこと、と再び肩をすくめてみせる深山。
納得はしつつも神様みたいなもんには多少の疑問点があった。
というのも彼は深山と違って、助けるつもりで助けようとしている星について多少の下調べをしてあったから、彼の要望が若干の問題点をはらんでいる事を知っていたのだ。
「でも、ハーフエルフかぁ・・・う~ん・・・」
「あれ? 無理そうだった? それともエルフ自体がいないタイプのファンタジー世界だった?」
「いや、いるよ? そう言う点では問題ないんだけど、種族間の間で色々あった過去持ちの世界でね。人間は人間、エルフはエルフで別れて暮らしてる国がほとんどなんだ。ごく一部では共存している土地も無いこた無いんだけど多くはない。
特に問題なのがハーフエルフで、両種族の合いの子なせいであちらこちらで迫害されてる。強く生まれつくから迫害そのものは恐るるに足らずなんだけど、星の一員になるため色んな場所を移動してもらうには相性が良くないんだよなぁ~。う~ん・・・・・・」
どうやら種族問題がかなり深刻な世界観らしい。要望を変えた方がいいかな? と思わなくもなかったが、全一生に一度切りの人生で好きな体と種族で生きられる権利を捨てるのも勿体ない気がする。
互いに同じ悩みで悩んでいると、先に解決策を思いついたのは世界を弄くれる神様みたいなもんの方だった。
「――そうだ! こう言うのはどうだろう? この星には『冒険者』って呼ばれてる人たちがいる。名前の響きはいいが、要するに根無し草の何でも屋を総称した呼び方だ。一つ所に留まらずにあちこち旅するけど行商はしてない人たち全般を指してそう呼んでいる」
どうやら冒険者が良い意味で使われてる世界観ではないらしい。
「ただ、全員が全員そうという訳じゃなくて、中には国からも認められて王様直々に依頼を受けられる称号持ちみたいなのもいる。
その中の一つに『人間国家に協力的な異種族の優秀な戦士のための紋章』とかを作らせておくのはどうだろう? 訪れた先で困りごとがあったら助けなきゃ生けない義務は発生しちゃうけど、その分種族関係無しに協力は得られやすい。快く協力してくれるかは別問題だけどね」
「出来るの? 紋章って事は国の制度ごと変えなきゃいけないわけでしょ?」
「何百年も前にそう言う奴がいたってことにして、君が数十年ぶりに現れた二人目ってことにしちまえばいいんだよ。最初の一人目の功績に報いるために制度を作ったはいいものの二人目がずっと出なかったから形骸化していた。それが君が現れた事で復活させて敵対しないようにしているとかね」
「なるほど」
そう言うことになった。もとより周りから白眼視される事には慣れている。嫌われようが嫉まれようが、宿に泊まれて店が使えりゃ文句はない。
「じゃあ、種族と性別はそれで決まりと。能力の方は適当に魔法戦士として上限ギリギリぐらいまで高めで設定しとくとして、何か一つぐらい君特有の能力とかって持ってくかい?
君の言い草じゃないけど、どうせ最後なんだし反則な得点も一つくらい持ってったところで罰は当たらないと思うぜ?」
「星を救いに行くんだしな?」
そうそう、と気楽に笑い合う二人。だからと言って、そうそう直ぐにも特殊な能力のアイデアが出るなら苦労はしないし、それが出来るならもう少しマシな目標もって日々を生きていけたように思う。
「う~ん、今は出てこないから後でそっちで適当に決めてよ。ダーツでも投げて当たったもんでも送ってくれたらそれでいい。種族変化とかの体に影響でない能力だったらなんでもいいからさ」
「いいのかい? 君にとって最後の人生なんだぜ?」
「いいさ。どうせ向こうの世界がどういうものなのか今の時点ではハッキリとは分かっていないんだ。備えるのにも限度ってものがある。
それに、上手くいくかどうかを最後に決めるのは運以外にないだろう?」
そりゃそうだと納得して、神様みたいなもんは後日暇が出来た時にダーツで当たった能力を向こうに行った深山に送る事を約束して眠りにつくよう促した。
「目覚めた時、君はもう君じゃなくなっている。僕と会う事は二度とないだろうし、声を聞く事もないだろうから忘れてしまって構わない。
君自身の体験した記憶についても、二度と戻ってこれない場所のことで君が悩んで自殺されても困るから、適当に印象を薄くなるよう調整して残しておく。性別も変わって名前も変わるから、それに合わせるように調整し直す分やり易いかも知れないね」
「それじゃあ、バイバイ。達者で長生きしてくれなー」
・・・それが生田深山が行く田水山として体験した最後の記憶の、最後に聞かされた言葉。
翌朝、目が覚めた時。彼はここではないどこかの星にあるどこかの世界で、ハーフエルフの少女として生まれ変わり、北にある大きめの町『ソルバニア』を目指して旅立つ事になるのだったが、それはまた別人になった“彼女”のお話。
だから、彼の物語を語るこのお話はここまでで終わり。永久に終わり。
二度と再開されない一人の少年の人生と言う物語はこれにて終了。ちゃんちゃんちゃん。
つづく