試作品集   作:ひきがやもとまち

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だいぶ前に考えた奴の原案と言うか、本当はこうしたかったと言う願望作品です。前から書きたい書きたいと思っては忘れたり書かなかったり続けてきたので、いい加減書いてスッキリしたくなったので書いちゃいました。

全体的にクッサイ内容になってますので、読まれる際にはお気をつけ下さい。


烈風(かぜ)の使い魔(オリジナル)

 ひひ―――――っん・・・・・・・・・・・・。

 

 馬のいななきが木霊する。

 命に残されていた最後の残光を短い叫びで使い果たし、永遠の眠りについた愛馬を見送り、残された若い騎士姿の少年(?)は一人つぶやく。

 

「・・・ついに、本当の独りぼっちになってしまったな・・・」

 

 そして歩き出す。

 雪原の荒野を。人どころか生物の生きてきた痕跡すら見つけられない不毛の大地を一人で歩く。目的地へ向かって歩いていく。

 歩くことしか知らない。それ以外は切り捨ててきた。国も家族も友と呼んでくれた同僚ですら捨てて此処まで来た。来て、しまった。

 

 

 前を見ずに過ぎ去ってしまった過去だけを見つめるために伏せていた顔を上げると、そこには一つの黒くて大きな鉄の扉が立っている。

 

「ふふふ・・・はははははは・・・・・・

 魔界の門だ・・・ハハ、くそったれ! やっぱり死者たちの集う魔界はあったじゃないか! あははははははは!」

 

 狂ったように嗤い、哄笑し、重い足を引きずりながら門へと至る道を歩む。

 堅く閉ざされた扉の前までたどり着けたが、そこで腰を下ろすとガタがきた。

 

 ここまで来るのに無理に無理を重ねて酷使し続けてきた身体が限界を超えて、動かなくなってしまったのだ。

 腕を上げようとしても、人差し指を痙攣したように震わせるのがやっとだった。

 

「ここから先は魔界だ・・・誰もここまで追ってはこられない。

 国家も、軍隊も、死人の群れも・・・・・・そして、戦争も・・・・・・」

 

 年若く美しい外見にそぐわない、年老いて磨耗し心が疲れ果てた老人のような声で彼(?)はつぶやき、朦朧とする意識の中で譫言のように叶うことのなかった告白の言葉を口にしようとして―――

 

「本当に疲れた・・・。これで、本当に終われるんだ・・・・・・。

 サンドリアン・・・ぼくは本当はお前のことが大好きなおん・・・な・・・・・・」

 

 

 ――生き絶えた。

 

 カリン・ド・マイヤール。

 『烈風』の二つ名で知られる若き騎士は、ハルケギニアには『無い』と言われ続けた魔界の前で永遠に歩みを止めた。

 生涯の最期の瞬間まで『嘘つき』のまま、彼女の人生は彼として幕を閉じたのだった・・・。

 

 

 

 

 

「あんた誰?」

「・・・・・・」

 

 

 抜けるような青空をバックに、ルイズ・フランソワーズは自らが呼び出したはずの『使い魔』に対して問いを発した。

 相手は答えない。ただ黙って目の前に立っているルイズのことを見つめ返すだけだ。

 

 周囲の生徒たちは、その様子を驚きと共に見守っている。

 然もあろう。進級に必要な条件として“ゼロのルイズ”が『サモン・サーヴァント』を唱えたところ、召喚に応じて出てきたのはドラゴンでも火トカゲでも、ましてや平民の人間などでは絶対になく。―――どこか異国から来た若い騎士の少年(?)。

 ・・・・・・これでは、驚くなという方に無理がある。

 

 その騎士姿の少年(?)。年の頃は十四か、五。安物のような青い厚手の上衣に、けばけばしいフリルのついた白いシャツを着ている。

 そして足には、時代遅れの膝が出た乗馬ズボンに、色あせたブーツ。

 腰に下がった杖だけはピカピカと光っていたが、その拵えも上等とは言いがたい。かなり使い込まれたものらしく、杖についた傷がくぐってきた修羅場を窺わせる。

 

 どれもこれも一昔以上前の大昔に流行っていた衣装で、こんな時代錯誤でダサい格好をしているのを見たら王都の人間でなくともバカにされるのは間違いない。

 

 ――だが、この若い貴族にそんな嘲笑を投げかける者はいなかった。長い平和で選民意識に凝り固まったトリステイン貴族の子女たちですら、息を飲んでその美貌に見惚れている。

 

 その騎士は美しかった。他に類を見ない美貌と称してもよい。

 色鮮やかな桃色がかった長いブロンドと、幼さが残りながらも美しいとしかいいようのない顔立ちが、この貴族にこの上ない気品と高貴さを与えてくれている。

 

 

 だが、しかし。・・・“目が死んでいる”。

 まるで死んだ魚のように腐って淀んだ瘴気で満たされた、暗い鳶色の吊り上がった瞳が、この貴族に対する印象を曖昧なものに変え、性別を判別をつけづらくさせていた。

 

 まるで、何百年も生きて枯れきった老人のような生気のない瞳。もしくは死と生の境目をさまよい歩く不死者のように命無き者の瞳。

 生きているのか死んでいるのかさえ曖昧にさせられるその瞳が、彼女の存在自体を朧気にしてしまい、性別どころか幻ではないのかさえ定かではない。そう思わされてしまうのだった。

 

 

 ――周囲から降り注ぐ好奇の視線にカリンは、今まで十分すぎるほど浴びてきたものとして一顧だにせず、自分の置かれた状況を理解するため周囲の情報を集めようと、場をぐるりと取り囲むように設けられている城壁へと視線をやって考え込んでいた。

 

(・・・建築様式は古式ゆかしい始祖ブリミルの時代から続く伝統的なもの・・・・・・何百年も前の手垢がついた手法を未だに変えることなく採用しているのは、始祖が授けし三本の王権の内のどれかしかあり得ない。

 雪が多いガリアでは、この手法はそのまま採用している城塞はなかった。だからガリアじゃない。だとすると残る候補は二つだけど・・・・・・)

 

 考えながら顔を上げて、今度は高い空を見上げる。

 

(・・・空が、高い。浮遊大陸に存在するアルビオンから見た空はもっと近くて鮮烈なものだ。それに空気が違う。あの場所で感じた空気はもっと清涼だった。

 この場所に漂う空気には草や花、土の匂いなどの自然の匂いに満ちている・・・。アルビオンの其れとは違ってる)

 

 だとすると―――――

 

(・・・ここは、トリステインなのか? でも、だとしたら一体なぜ? どうして?

 なぜ――“あの大戦で最初に滅んだトリステイン”が未だに存在し続けてるんだ・・・?)

 

 分からないことだらけだった。

 そうして考え込み、黙り込んでしまった自分の使い魔を、ルイズは腹立たしい思いで睨み付けていることにも気づかぬままに。

 

「ミスタ・コルベール!」

 

 ルイズが怒鳴る。授業担当の講師に試験をやり直させてほしいと頼むため、こんな不抜けた根暗そうな騎士なんかが自分の使い魔であるはずないから、あらためて呼び出すことを許してもらうために。

 

「なんだね。ミス・ヴァリエール」

 

 やがて人垣が割れて中年の男性が現れる。

 

「あの! もう一回召喚させてください! 今度はちゃんと成功させますから!」

「それはダメだ。ミス・ヴァリエール。二年に進級する際、君たちは使い魔を召喚する。それによって現れた使い魔で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。一度呼び出した使い魔は変更することはできない。好むと好まざるとにかかわらず、彼(?)を使い魔にするしかない」

「でも! いずこの国から来たかもわからない騎士様を使い魔にするなんて聞いたことがありません! 法律的にも問題あるはずです!」

「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。どこの誰だろうとも、呼び出された以上は君の使い魔にならなければならない。

 古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールの優先する。彼(?)には君の使い魔になってもらわなくてはな」

「そんな・・・・・・」

 

 がっくりと肩を落とすルイズ。

 そんな彼女にコルベールと言うらしい先生は、トドメとばかりに事実を指摘する。

 

「それに彼(?)は確かに騎士のような格好をしているが、マントを身につけていないところから見て、国に仕える騎士ではあるまい。君に仕える使い魔になってもらったところで法律の問題にはならないはずだが?」

「う゛。そ、それは・・・・・・」

 

 魔法の才能がない分を勉強で補おうとしてきた成果によって、相手の言ってることに理を感じたルイズは目線をさまよわせ、目を逸らす。

 

「さて、話はそれだけかね? では、儀式を続けなさい」

 

 話が決着したことを事実として知った先生は、厳格な口調で自分の教え子に対して命令した。

 

「えー、この暗そうな彼と?」

「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? いいから早く契約しなさい」

 

 そうだそうだ、と生徒の一部から野次が飛ぶ。

 カリンの美貌に圧倒されなかった者ではなく、むしろ逆にひがみ根性から発した感情的な反感の叫びだったが、これからやることについて思い煩っていたルイズには判別することができていなかった。

 

「はぁ・・・・・・」

 

 と溜息をつくとルイズは、カリンに声をかける。

 

「ねえ」

「・・・・・・」

「おいコラ、返事ぐらいしなさいよ無礼な奴ね。――まぁいいわ。

 あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」

「・・・・・・」

 

 それでも沈黙を解こうとしない少年に、ホトホト愛想を尽かしたルイズは諦めたように目をつむり、手に持った小さな杖をカリンの目の前で振って呪文を唱えだす。

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

 

 そう言って、彼女は自分の唇をカリンの唇に重ねてキスをする。

 『コントラント・サーヴァント』の魔法が発動して体が熱くなり、痛みを感じて、カリンの手の甲に『使い魔のルーン』が刻まれる。

 

 この瞬間、カリン・ド・マイヤールはルイズ・フランソワーズの『使い魔』として、世界と彼女たちとの間に確かな絆が結ばれた。

 それと同時にカリンの頭には使い魔として、いくつかの情報が与えられてくる。

 

 

 自分が目の前の少女、ルイズ・フランソワーズの使い魔としてこの世界に呼び出された存在であることを。

 使い魔とは自分たちの使う魔法にはないものの、同じ系譜を持つ始祖ブリミルの授けし魔法の一つであることを。

 彼女の招きに応じて魔界の門の前で息絶えた自分は、異なる世界のハルケギニアへ召喚されたのだと言うことを。

 

 何より、カリン・ド・マイヤールは、ルイズ・フランソワーズの使い魔として『第二の人生』を歩む権利を与えられたのだと事実ことをだ。

 

 

 

(・・・ああ、なるほど。つまり――――――)

 

 

 つまり自分は、やはり“死んだのだ”ということを、与えられた知識で彼女は知った。

 ここは自分の元いたハルケギニアではないのだと言うことを、与えられた知識で彼女は知った。

 元の世界で生きた自分は死んで、二度と生者として彼の地に関わる機会は永劫に失われたのだという事実を、与えられた知識で彼女は知った。

 

 彼女はこの時、この瞬間。

 使い魔となることで得られた知識により、自分が犯した罪を贖罪する権利が未来永劫に失われたのだという事実をハッキリと自覚させられたのだった――――。

 

 

「な、なによ? 何か言いたいことでもあるわけ? だったら言ってみなさいよね、黙ってばっかいないでさ。だいたい、貴族から接吻を授けられておいて御礼一つもないだなんて、田舎から出てきたばかりの盆暗みたいでお里が知れる―――」

「・・・・・・承知しました、マイ・マスター」

「―――わ・・・って、え? ちょっと、何やって・・・・・・」

 

 ルイズが制止する暇も与えられないまま、流れるように流麗な動作で彼女の前で恭しく膝をつき、主に対して忠誠を誓う騎士の礼をとってカリン・ド・マイヤールは今生の主君に騎士として剣を捧げる儀式の祝詞を口に出す。

 

「ルイズ・フランソワーズが臣、カリン・ド・マイヤール。

 獅子の紋章と杖に誓い、この身死すまで貴方様に絶対の忠誠を」

 

 最後に、呆然としたままのルイズが下げたままになっている杖の先に唇を捧げ、古式ゆかしい騎士受勲式の猿真似は終了する。

 

 見ている誰もが圧倒されて声もないまま見惚れるしかないほどの、絵物語から抜け出てきたかのように綺麗で完璧な騎士の姿。

 まるで騎士物語の1シーンでも見ているかのような光景が、現実に目の前で起きていることが信じられず、自分の頬や友人のほっぺたを抓ったりしながら今が夢か現実かを確かめる生徒たちが続出しまくっていた。

 

 

「・・・う~~~~~ん・・・。素敵すぎて私もうダメ~~~・・・・・・(バタン)」

「・・・キュルケ。そんなところで寝たら風邪引く・・・」

 

 どこかからか恋愛ボケした恋愛脳の少女がブッ倒れる音が聞こえて、そのすぐ後に冷静沈着そうな落ち着いた声での注意が聞こえ、しばらくしてから何かを引きずっていくズルズルという音が聞こえてきたが、今のカリンには誰の発した声か音かも判るはずがないので普通に無視させてもらった。

 

「――それで? 呼び出されたぼくは、一体なにをすればいいのかなマスター。詩を朗読でもすればいいのかな? それとも声色を使って舞台役者の真似事でもお望みかい? ・・・マスター?」

「・・・・・・」

 

 今度はカリンが問いかけ、ルイズからの返事がない。

 何度か呼びかけ、目の前で手を振り眼球の反応を確かめてみると。

 

 

 ――返事がない。ルイズは照れる余り、ただの生きた屍となってしまっているらしい。

 

 

「・・・・・・はぁ」

 

 溜息をひとつ吐き、役立たずな主殿をお姫様抱っこで抱え上げると。

 

「マスターの・・・ミス・ヴァリエールのお部屋はどこかご存じかな?」

 

 たまたま近くにいて、余りのことに腰が抜けて動けなくなってた女生徒の一人にそう問いかけて、ギチギチと音が鳴りそうなぎこちない動きで指だけ指し示された方向を見やる。

 

「ありがとう。感謝するよ、ミ・レイディ」

 

 感情のこもらぬ儀礼的で、ただしクールな印象の軽い謝礼の言葉と作り笑顔を送り、「『フライ』」と呪文を唱え、歴戦のグリフォン隊もかくやと言うような流れるように自然な動作で飛行の魔法を操りルイズを自室のある寮まで運んでやるため飛んでいく。

 

 そう。それはまるで姫君を連れて二人だけの愛の逃避行へと旅立つ悲恋の中の駆け落ちであるかの如く―――

 

 

『う、う~~~~~~ん・・・・・・(バタタタン)』

 

 ・・・・・・そうして生まれる数十人分の失神した女生徒たち。

 

 男だから気絶しなかった男子生徒たちには貴族としての勤めとして、倒れた婦女子諸君を部屋まで送って解放してやり、下心ひとつ持たないまま紳士的に部屋を出て行かなければならないという男性貴族の義務が・・・・・・。

 

 『別の男の美貌と格好良さに気絶させられた女子に、手を出すことなく紳士的に解放して癒やして差し上げる』貴族としての神聖で大切な義務が―――――。

 

 

『死にたい・・・・・・』

「言うな、諸君。それが世の中を生きる大半の男たちが背負う懊悩という義務なのだから」

 

 余談だが、後に語られる伝説の使い魔ガンダールヴ『烈風のカリン』がハルケギニアに降り立ったとされるこの日。

 トリステイン魔法学院講師のコルベール先生が、男子生徒の一部から「師匠」と呼ばれるようになったとか。ならなかったとか・・・・・・。


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