試作品集   作:ひきがやもとまち

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『アーク・ザ・ラッド』二次創作です。アークのポジションにセレニアを配置した作品です。転生者とかの設定はありません。
尚、世界観に合わせてセレニアの性格が少しキツめになっておりますのでお気をつけて。


アーク・ザ・ラスト 神々に黄昏を・・・

 かつて、この地には古の人類が繁栄していた。

 しかし、人間の王は神を敬わず、おごり高ぶり君臨し、

 天界の神をも支配しようとして逆鱗に触れ人類は滅亡へと向かう。

 

 だが、その時。

 神から人類の滅亡を知らされた七人の勇者が、

 人類の遺産を詰めた聖櫃、ARKを神の示した地、スメリアに運んだ。

 

 再び人類が滅亡の危機に瀕した時、唯一の救いになる大いなる遺産を残し。

 古の人類は滅亡した。

 

 やがて、長いときが流れ再び人類はこの地に繁栄した。

 そしてまた、同じ過ちをも繰り返す。

 自らをこの世界の支配者と思い込み、

 この世界に生まれ、文明を築き栄えるのを当たり前のこととし、

 世界を自らの欲望のまま破壊し始めてしまっている。

 

 人類は再び滅亡の危機に瀕しているのかも知れない。

 大いなる救済の遺産、ARKが必要なのは今なのかも知れない。

 

 だが、忘れる事なかれ。

 これらは所詮、遠い過去に描かれた、まだ見ぬ未来の予言に過ぎない。

 現在を知る由もない者たちが、自分たちの生きる今を基準に思い描いた未来予想図でしかない。

 

 今を変えられるのは今を生きる者たちのみ。

 未来を変えられるのもまた未来に生きる者たちのみ。

 遠い過去から見た未来に生きる現代の伝説の勇者の意思を受け継ぐ者たちもまた、その例外ではない。

 来たるべき運命に、ただ従い流されるままで在り続けるとは決して限らない。

 

 そして、

 スメリアに住む一人の少女がシオンの山へ登る頃。

 同じスメリアの地に住まう別の少女もまた山へと準備を始めていた。

 

 ――大いなる伝説の終わりをもたらすための冒険が幕を開けようとしていた・・・・・・。

 

 

 

「ふむ。お父さんの形見の鎧と剣が、この中にあるのは分かっているのですが・・・」

 

 トウヴィルの村にある一軒家の奥にある部屋で、一人の少女が大きくて頑丈な箱を前に腕を組み、思い悩んでいた。

 

「鍵がかかってるんですよねぇー、これってどう見ても。

 まぁ、南京錠だけ壊すのは難しくないのですが、できれば穏便に開けて持っていきたいものですし・・・どうしましょうかね? ・・・ん?」

 

 不意に、部屋の入り口から姿を現して近づいてくる人の気配を感じて、肩をすくめながら振り向く少女。

 少しだけ年齢を感じさせる小皺は増えたが、それでも年老いたとは感じさせない強くて優しい女性だったはずの自分の母親がそこには立っていた。

 

「てっきり、見て見ぬフリをし続けるものかと思ってましたが・・・元気が残っていたようで何よりです、お母さん」

「・・・・・・」

「やはり突然の不調の原因は、あの日も今夜みたいにスゴい吹雪だったことにあるのでしょうかね?

 私が、今夜、山へ行ってお父さんが、お母さんと私たち母娘を置いて消えた理由を探しに行くと予想されていたせいで」

 

 娘の、父親に似ない知に偏りすぎた性格による洞察力から逃れる術は、元気を失った今の母親にはない。彼女は弱々しい声でただ一言。

 

「あなたのお父さんはね、死んだのよ・・・」

 

 と、つぶやくのが精一杯だった。

 

「・・・・・・」

 

 それに対して娘は答えず、ただ無言と視線で母親に先を促すのみ。

 

「山にはきっと、恐ろしいモンスターがいて、あの人はきっと殺されてしまったんだわ・・・。もう私たちに残されたのは私とあなたしかいない・・・。

 セレニア、あなたまで失ってしまったら私はどうなるの・・・?」

「・・・なにを勘違いされているのか、よく分かりませんけどね・・・」

 

 話を聞き終え、軽くため息をつきながら肩をすくめ、母親の勘違いを説くため娘のセレニアは静かな声に多少の労りを込めて語りかける。

 

「私は別に、お父さんが今も生きているか死んでいるのか確かめたいわけじゃありません。ただ気になっていたことに答えが出そうな日が来たから行ってみるだけです。別に仇討ちとか、そういうのには興味ありませんよ」

「セレニア・・・・・・」

「お母さん、私の性格は知っているでしょう? 自分自身の目で確かめないと信用できないんですよ。いつまで経っても気にし続けてしまう厄介な性分を持ち合わせてしまってる面倒くさい娘なんです。

 できれば今回を最後でいいですので、我が儘を許していただきたいものです」

「・・・・・・」

 

 母は無言で溜息をつくと箱に近づき、服の中から大事そうに取り出した鍵を回して箱を開け、中身を愛娘に見えるようにすると駆け足で部屋から出て行ってしまった。

 

 居間まで場所を移した母親は、夫の思い出とともに彼の残した予言を思い出さざるをえない。

 

「あの人が旅に出て10年。あの人の考えていたのとは違う風にセレニアは育ってくれたけど、それでもやっぱりあの人の言葉通りになってしまった・・・」

 

 あの日、10年前にシオンの山が凄まじい吹雪に襲われた日の夜に、幼いセレニアと自分を残して『世界を救う旅』に出て行ったまま、未だに帰ってきてくれない心の底から愛し続けている愛しい夫。その彼が最後に言い残していった言葉があった。

 

 

『10年後の今日、封印が解かれ、再び山が荒れる。その時セレニアは山へと向かう。

 ポルタ・・・その日まで我が娘を、セレニアを頼んだぞ!』

 

 

「あなた・・・私は約束を守りました・・・だからあなたも早く私との約束を守ってください・・・。私はあいにくあなたと違って女の身の上、ただ待つだけの日々に耐え続けられるようには出来ていないんですよ・・・?」

 

 

 

 ――大事に思っている母親が過去の郷愁に身と心を委ねている頃、セレニアは父親が残した鎧“だけ”を身につけ終えたところだった。

 

「言いつけ通り修行は続けてみましたが・・・やはり私にはこちらの方が性に合っているようですのでね。申し訳ありませんが、あなたはこの箱の中で留守番です。よい子で帰りを待っていてくださいませ」

 

 そう言ってセレニアは、剣を箱の中へ戻して蓋を閉めると、腰に吊したホルスターをひとつ叩いて家の玄関へと向かって歩き出す。

 母に軽く挨拶をして扉をくぐると、特に未練もなく、帰ってくること前提の足取りで精霊の山シオン山へと向かって駆け足で走り出してゆく。

 

 その行く先にそびえるシオン山は、10年ぶりの吹雪による影響なのか妙に薄暗く、気味が悪いほどの重苦しい雰囲気に満ちているように見えていた・・・・・・。

 

 

 

「・・・また聞いたことのない獣の声・・・炎が消えたせいで、いったい山の中で何が起きているの・・・?」

 

 精霊の山の麓、社へと続く入り口にある階段の前で少女、山を守護する使命を負った巫女一族の娘ククルは焦りとともに独り言をつぶやいていた。

 

「・・・いいえ、ダメよ私。怖がっちゃダメ。

 私のせいなんだから、自分でなんとかしなきゃ・・・」

 

 強い語調で断言して首を振り、つい数時間前にやらかしてしまった自分の愚行を思い出して後悔しながら、それでも勇気を出して大きく一歩を踏み出そうとしたその時。

 背後から山へと近づいてくる足音が聞こえてハッとなって振り返る。

 

「誰? ・・・・・・何しにここへ?」

「お互い様のような気もしますが・・・まぁ別にいいでしょう。

 私はセレニアと言います。あなたのお名前を伺っても?」

 

 やや慇懃無礼なきらいはあったが、それでも最小限度の礼節は守ってきている軽装鎧をまとった少女に、ククルはほんの僅かではあるが警戒心を緩めて自分の名を名乗り返す。

 

「私はシオン山の封印を守る一族の娘ククル」

 

 考えてみれば人に名を尋ねるときには、まず自分から名乗らなばならないと両親からは厳しく躾けられていたのだった。家への反発から忘れてしまっていたのだが、古いしきたりでも忘れてはいけないものもあるのだと思いだして少しだけ恥ずかしい。

 

「でも、その運命に縛られたくなくて、この山の封印の炎を消してしまったの。そうしたら急に山が荒れ出して・・・私、もう一度炎を灯そうと思って・・・」

「ふぅーん?」

 

 要領を得ない感じの返事をしつつ少しだけ考え、セレニアはククルにある提案をした。

 

「では、私がその松明を代わりに付けてきてあげましょうか? どうせ登る予定ですので、付けるだけでいいなら誰が行っても結果は変わりないのでしょうし」

 

 この提案にククルは「とんでもない!」とばかりに、激しく首を左右に振って謝絶した。

 

「だめ! 今恐ろしい声が山から聞こえたわ。炎を消したことで何かが目を覚ましたのよ。

 私がやった事であなたが危険な目にあうなんて・・・・・・」

「そうですか。では、どうぞご自由に。私は勝手に山へと入って適当に目的を果たしてきますので、あなたも自分の目的を頑張って果たしてきてくださいませ。健闘を祈らせて頂きますよ。では」

 

 そう言って、さっさと行ってしまおうとするセレニアのマイペースぶりにすっかり調子を狂わされて、ククルは自分でも知らぬ間に松明を渡してしまっていた。

 

 ――それが自分とセレニアと世界の運命を動かす最初の烽火になるなどとは、夢にも思わぬままに・・・・・・。

 

 

 

 

 

「・・・おやおや、これはこれは妙な生き物と遭遇してしまいましたねぇ・・・。これもまた精霊の山に住むと言われている、精霊様のお導きという奴なのでしょうか?」

 

 呆れとともにセレニアが論評した相手は、空から自分を見下ろしていて、コウモリのような形をした紫色の翼と、巨大な筋肉の塊のような肉体とを持ち合わせた醜悪な異形の姿をした生き物だった。

 

 そいつがセレニアに訊いてくる。

 

「お前が封印を解いた勇者か?」

「ユウシャさん・・・ですか? 知らない名前ですねぇ。ご近所さんにもそんな名前の人は聞いた事がありません。人捜しをしたいなら、もう少し具体的に言っていただかないと誰の事やらサッパリですよ」

「・・・チッ。口の減らないガキだ。こんなヤツが俺を封印し、3000年間の呪いに苦しめさせたヤツとも思えんが・・・一先ずは死んでおけ」

「!!」

 

 ズシャウッ!!

 

「・・・・・・ふん。思ったよりかはよく動く・・・仕留め損ねたか・・・まぁいい。どのみち、あんなヤツが俺を封印した勇者の子孫であるはずがないのだからな。

 ――どこだ!? どこにいる!? 俺を呼び覚ましたヤツは!!」

 

 深手は負わせたものの、逃げられてしまった相手セレニアの事など意に介すこともなく、3000年前に封印されていた悪魔アークデーモンは勇者の血を引く子孫の少女、巫女一族の娘ククルを探して飛び去っていく。

 

 ・・・そして、誰もいなくなった山の山頂付近でセレニアは、重傷を負った身体を横たえ荒い息をついていた。

 

「はー・・・、はー・・・。ずいぶんと情けなくも無様な失態をしたものですねぇー・・・。

 負けて殺されるのは戦の習いと言えど、まさか反撃ひとつ、銃弾一発撃ち返す事も出来ないまま死ななければならなくなるとはねぇ・・・・・・」

 

 無念はないが、残念ではある。悔しくはないが、恥ずかしくはある。

 奇妙にバランスさを欠いた思考の中でセレニアは、己の死を当然の結末として受け入れようとしていたのだが、その時。

 

 彼女自身以上に奇妙な性質を持った声が、心に直接語りかけてくるのを感じ取る事が出来たのだった。

 

 

『いやー、君いいね―。すばらすぃー! そういう考え方は、ボク超大好物なんだよねぇ♪』

「・・・・・・? あなた・・・は・・・?」

『ボク? ボクは精霊。――って言っても、他の精霊達からは誰一人としてお仲間だとは思ってもらってないんだけどねぇ~☆ ボクって生まれながらの嫌われ者だからさぁ-、肩身狭いのよ。いつでもどこでもどんなところでも。

 もちろん! この「聖櫃」を封印する炎を奉った山の精霊なんかからも超嫌われまくってる存在デス!

 だからボクが最初に君に対してアプローチしちゃった事が彼らに知られると、後でめちゃくちゃ面倒くさい事になるんだろうなーって思ってる。だからこそボクは無視する、君に話しかけて仲良くするよ! なぜならボクはそう言うのを尊ぶ心が生んだ精霊なんだから!』

「・・・・・・???」

『あはは~、ごめんねー? 今の君じゃ意味分かんないよねぇ-。

 でもまぁ、とりあえず今は山頂に向かいなよ。山頂にある社に炎を灯すと、君を殺そうとしたモンスターはひとまず消える。仕切り直しだ。どうせ今の君じゃ勝てないから、勝てるようになったら、また再びやってきてブッ殺してやるといいさ。問答無用で殺しに来る敵は殺し返してやるのが常識だ。遠慮はいらない、ブッ殺せ―!』

 

『その為に必要な力はボクが貸してあげる。遠慮も容赦も必要ない。

 なぜならボクは、君のような人間に力を与えることで生み出された精霊なんだから。君はただボクを使って、君の願いを叶えるための道具として使い潰してくれればそれでいいんだ。多分それがボクにとっても君にとっても最良で最悪で最低な望みの叶え方を約束してくれるものになるだろうからね』

 

『さぁ、そろそろ立ち上がっていくといい勇者君よ。

 君は運命に選ばれた子だ。定められた運命の星の下に生まれ落ちてしまった子だ。滅亡に向かって突き進んでいく人類の運命を止めるために用意された運命の子だ。「聖櫃」の力を手に入れる事を定められて生まれてきてしまった自由のない女の子なんだ。

 だけど―――そんなもん気にすんなぁっ! 適当にこなせぇい!』

 

『人類の滅びも、精霊との約束も、人の都合も国家の意思も、全部がぜんぶ無視して自分の考えを押し貫け! 気にくわない奴らの造った壁があるならブチ砕いて先へと進め! エゴを貫き通して人の欲を叫べ!』

 

『人は自由だ。人は混沌だ。最初から決められてた運命なんて、死ぬのと生きること以外には持ち合わせていない身勝手な生き物だ。それ以外すべてのルールは後付けによる誰かの都合によるものでしかない』

 

『世界を壊せ、運命を否定しろ、狂おしいほど愛おしい人間どもよ。お前達が私を産みだした。

 お前達の憎しみと嫌悪と憎悪と羨望と憧れと嫉妬と殺意と悲喜交交の混沌こそがボクの生みの親であり、これからボクが生み出し続けるであろう排泄物から生まれる糞どもだ。だからこそボクはお前達を愛し、平等に殺し合わせ続ける道を尊しとする』

 

『ボクは悪じゃない。悪をボクは決して良いものだとは思うことはない。

 だけどボクはきっと、未来永劫『悪』と呼ばれ続ける存在で在り続けるのだろう。悪を呼ぶものとして人類最悪の災厄として忌み嫌われ続けるのだろう。そんなボクだからこそ、君のことはホントーに大好きなんだ! 本当だよ?』

 

『ああ、時間が来ちゃったみたいだね。山の精霊に見つかっちゃった。とっととズラからせてもらうけど、その前にボクの名前を教えとく』

 

 

『ボクは【銃】の精霊だ。君たち人間が生み出して、神と精霊の時代を終わらせるために使われる道具、新たなる世界を創世していくのに使われる道具。

 そして恐らく人類自身が自らを滅ぼすときにも使われるだろう、世界最低にして最高の発明品さ。世界中の人たちがボクにいろんな感情を持ってくれたから生まれることが出来たペーペーなんだ。

 と言うわけで-・・・、夜露四苦! 待ったねーん♪ バッハハ~イ♪ ばいばいきーん♪』

 

 

 

オリジナル『精霊』の設定

【銃】の精霊:

 世界が文明により急激に変化していく過程で世界中に広まっていった人類製の道具に対して、世界中の人々が様々な感情を抱いてしまったことから生じた人工的な精霊。

 本来ならば生まれるはずのない存在であり、世界を燃やし尽くす銃火しかもたらさない精霊のため、他の精霊からは『邪霊』として認識されており、『悪なる者』として忌み嫌われている。

 ただ本人が言うには、彼(彼女?)自身に善悪はなく、自分を使う者が何のためにどう使うかで善悪が決まる存在とのこと。

 世界が始まったころより居る者ではなく、また人によって強制されて信仰された概念でもない。

 世界中の人類がごく自然に様々な感情を強く抱いて、いろんな思いをぶつけられている存在。

 それらが一種の信仰心になってしまったことから生まれてしまった、善でも悪でもない半精霊。

 基本的に邪悪ではないが、自由意思を尊重するあまり結果的に混沌へと導いてしまう『結果論としての邪悪』

 現時点でセレニアに力を与えた理由は、『銃は革命を成す者にこそ持たれるべき物だから』

 銃による革命――即ち『古い支配体制への反逆』を意味していることを、この時点でのセレニアはまだ知らされていない…。


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