試作品集   作:ひきがやもとまち

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少し前のアンチ批判騒動でお蔵入りさせたアイデアを昨日の晩に思い出したので夜の内に書いてみた作品です。らんまが女から戻れなくなった設定の『らんま1/2』二次創作です。
女になったままの乱馬を書きたかったため小難しい設定を付け足しましたが、今思うと普通に『完全な女になる呪いにかかった』でよかったですよね。ホントに私って奴は…。


らんま2/2

 日本にある東京都練馬区に、その日は雨が降っていた。

 最近ではよく降るようになってはいたものの、大抵はにわか雨であり少し降ってはすぐ止んでしまう程度の雨しか降らなかったため誰も気にしなくなっていたのだが、今日の雨は久方ぶりに長く降り続いていた。

 

 ――まるで数ヶ月前に降った、あの雨の日の昼のように・・・・・・。

 

「そういえばあの日も昼間っから、こんな雨が降っていたっけかなぁ~」

 

 誰かがつぶやき、世間話をしていた誰かが手を打ち賛同する。

 

「ああ、あのパンダが出てきた雨の日のことね」

「そうそう。あのパンダと雨の日の話だよ」

 

 二人はそう言って笑い合いながら、数ヶ月前の出来事について話し始める。

 それは、数ヶ月ほど前のことである。練馬区の路上にパンダが出没し『何かを探すように練り歩いていた』という珍ニュースが全国区で話題になったのだ。

 

 その後、捜し物が見つからなかったのかパンダはいずこかへ去って行き、以降は目撃情報も途絶えたことから世間では『どこかの動物園が逃げ出したパンダを捕縛して檻に戻したのだろう』と噂され、それ以来少しの間話題となって忘れ去られていた珍ニュース。

 それが『雨の日のパンダ事件』の内訳である。

 

「あの時はビックリしたなぁ―、あっはっは」

「本当にねー。日本で安全に生活していけるのか心配になったくらいだわ、おほほほ」

 

 楽しそうに笑い合う彼ら彼女ら。町の人々にとってパンダは既に過去の存在に成り果てていたのだが、中の一人が雨の中でまた新しい珍ニュースを発見する。

 

「あれ? あの子、どうしたんだ? こんな雨の中傘も差さずに・・・」

「・・・あら本当。綺麗なお下げ髪もチャイナ服もあんなに濡れて、かわいそうに・・・」

 

 そんな風にささやき交わす人々の視線の先には、一人の少女がフラフラしながら歩いていた。女子高生ぐらいの女の子だ。チャイナ服を着ているけど、たぶん中国人じゃなくて日本人だろう、なんとなくの判断だけども。

 

 結構胸が大きくてセクシーな体型をしており、身体にフィットしたチャイナ服がプロポーションの良さをより引き立てている。気の強そうな赤い髪色のお下げ髪も雨に濡れて逆に色っぽい。

 

 やがて彼女はフラフラしながら呟きを発し、

 

「・・・・・・・・・・・・・・・腹、減っ・・・・・・た・・・・・・・・・ガクッ」

 

 ――そして倒れた。ぶっ倒れた。顔面から地面に激突していく絵に描いたように理想的なぶっ倒れ方だった。

 

「・・・・・・・・・」

 

 少女はそのまま身じろぎ一つしなくなり、明らかに気絶したのが明白だったから誰かが救急車を呼ぼうとしていたところで、

 

「きゃっ!? パンダ!? またパンダがこの町に現れたわ!!」

「本当だ! パンダがまた現れて、今度は気絶した女の子を誘拐していくぞ!」

 

 再び雨の中からノッソリと姿を現してきたパンダに持ち上げられ、肩に担がれた体勢のまま何処かへと連れ去ろうとし始める。

 勇気ある町人がパンダの非道を非難したところ、『日本だとかわいいと思われているが本当は凶悪な野獣であるパンダ』は牙を剥いて住民を威嚇し、良識ある日本国民の皆様方は見て見ぬフリをしながら陰口だけを叩き合いながらパンダの腕力の前には沈黙せざるをえず、哀れな少女は誰からの助力も得られぬままパンダに浚われてしまったのであった。

 

 ――これが動物愛護が叫ばれる現代日本の実体である。

 この一事だけを見ても動物たちが可愛いだけの弱者ではないことは明白であり、動物の弱さを盲信する一部の矮小なる者たちの言葉にのみ耳を傾ける愚かさが理解できるだろう。

 日本人は弱い者を守りすぎたのだと知るべきなのだ! 暴力は正義ではない、だが力の伴わない正義もまた人を救うことなど出来はしない・・・現実を認めて今こそ立ち上がれ日本人! 我が党は諸君らの力を欲している! 立てよ日本人! 勝利の栄光を未来の日本に!

 

                          ~ズーム新聞 朝刊より抜粋~

 

 

 

 

 ――そして、練馬区内で少女がパンダに浚われていった日の昼下がり頃。

 

「・・・らんま君が来るのはいよいよ今日だ・・・」

 

 同区内の別の町にある(人気のない)格闘技道場『無差別格闘流天道道場』の邸内にて、一人の中年男が男泣きに泣いていた。

 

「この日が来るのをどんなに待ったことか! ううぅぅ・・・うわぁぁぁぁぁああっ!!

 お~~~い! お~~~~い! カスミー! ナビキー! アカネー!! ちょっと居間に降りてきなさーい!」

 

 そう言って男は愛する娘たちを自分の前に呼び出して、重々しい口調でこう宣言したのであった。

 

 

「許嫁?」

「うむ、お父さんの親友の息子でな。早乙女乱馬君と言うんだ。

 お前たち三人の誰かが乱馬くんと結婚をして道場を継いでくれれば、我が天道家も安泰というわけだ」

「でも、お父さん・・・」

 

 

『それ、数ヶ月前にも同じこと言われて誰も来なかったんだけど(ですけど・・・)?』

 

 

「早乙女の奴が数ヶ月前に息子を連れて来るって言ってきてたんだもん! この件に関してだけは、お父さん全然悪くないよ!?」

 

 涙ながらに無実の罪であることを娘たちに訴えかける天道家現当主(つまりは家長)天道早雲。

 実際、彼の言う言葉に嘘はなく、若いころ『互いに産まれた子供が男と女だったら結婚させよう』と誓い合って別れた旧友が「らんまをつれていく」と、ミミズがのたうってるように下手な字のひらがなで書かかれたパンダの絵葉書が天道家のポストに投函されていたのは数ヶ月前のこと。

 結局その日は何の連絡もないままドタキャンされ、その後も音沙汰ないまま数ヶ月間が過ぎ、いい加減この絵はがきに書かれた可愛らしいパンダの笑顔に憎らしさを覚え始めていた今日の午前中にようやっと続報が届けられて「きょういく」と書かれていたから娘たちを改めて呼び寄せただけである。

 

 なので彼の言うとおり、この件に関してだけは彼の責任ではない。悪いのは全部大事なことを何一つ伝えないまま当日になってから言いに来る悪癖を持った彼の親友早乙女玄馬がだいたい全部悪い。

 

「てゆーか、本当に実在してる人間なの? その乱馬君って男の子。お父さんの願望が生み出した頭の中だけに住んでる架空の登場人物じゃなくて?」

「娘から父への言葉とは思えない、ヒドい言われよう!? お父さんそこまで後継者問題で病んでないつもりだよ!?」

「お父さん・・・そんなにお辛かったら言ってくだされば私が・・・」

「誰かと結婚して跡継ぎを生んでくれてたのかね!? カスミ!!」

「いえ、良い老人ホームを探しておいてあげたのに・・・と言おうとしたんですけど・・・」

「優しいけど、聞きようによってはもっとヒドい言葉になってるよそれ!?」

「・・・そもそも、よく考えたらお父さんに親友がいたこと自体怪しかったわけだし、もしかしてお父さんの親友って、お父さんだけに見えてた幻覚だったんじゃ・・・」

「一番下の娘の言葉が一番ヒドい!? お父さん本当に泣いちゃうよ!? 涙の海で溺死して後継者問題お前たちに押しつけて先に逝っちゃいそうなんだけどそれでもいいのかい!?」

 

 流石にそれは嫌すぎたので、全員黙り込む娘たち三人。

 

「まったく・・・お前たちのそういう所は誰に似たのやら・・・む? 誰か来たようだな。――もしや乱馬君が来たのでは!? 早乙女君! 待ちかねたぞー!」

 

 叫んで自分の家の玄関へと駆けだしていく中年オッサンの背中を目で追いながら『ああ、これが跡継ぎ問題に悩む日本のオジサンたちの背中なのか・・・』と変な風に達観していた彼女たちのもとに実の父が、変な生き物を連れて舞い戻ってきたのは丁度この時だ。

 

 ――女の子を担いだパンダが、ノッソリと天道家の廊下の先から姿を現したのである・・・。

 

『・・・・・・・・・パンダ・・・?』

 

 異口同音に早雲の娘たち三人娘は口に出していった。

 パンダ。パンダである。誰がどう見たって人間に見えることはないであろうパンダが、女子高生くらいの年齢をしたお下げ髪の少女を荷物みたいに担いだ姿勢で天道家の廊下に仁王立ちしている。

 

 それが今朝の昼間に練馬区にある別の町で目撃された『美少女誘拐パンダ』であることを、ニュースを見てない彼女たちはまだ知らない・・・・・・。

 

「・・・これがお父さんのお友達・・・? パンダをお友達にするのは人間としてどうかと思うんですけど・・・」

「・・・!!!(ブンブンブンブン!!!)」

「お父さんの友達じゃなかったら、なんでうちにパンダ来るのよ!? いくら友達がいないからって、お父さんがパンダなんて友達にしちゃうからこんな事になってるんじゃないの!?」

「だから違うって言ってるでしょー!?」

 

 完全に娘たちからの信頼を損失してしまった親友の犠牲者早雲の言葉も首振りも彼女たちには届いてもらえず、ひたすらに無益な弁明と首振りを繰り返すしかない意味のない行為をエンドレスで続けさせられそうになっていたとき。

 

 パンダは無言で(当たり前だけども)担いでいた女の子を彼らの前に降ろして立たせ、彼女はやや危うげな歩調ながらも大地(と言うか床)を踏みしめシッカリと立ち上がり、天道家の面々に向かって一度頭を下げてみせた。

 

「早乙女乱馬です」

 

 礼儀正しく挨拶し、早雲は親友の息子と同じ名を持つ『美少女と見まがうばかりの美しい美少年』に狂喜乱舞する。

 

「おお、そうか! キミが乱馬君か! やぁ、よく来てくれた――っ!」

 

 そう言って肩を抱き、自分の胸の中へ実の息子を可愛がるように抱きしめて抱き込もうとしていたところ。

 

 彼、もとい彼女はか細い声で“言葉の続き”を口に出す。

 

「すいません・・・・・・なんでもいいんで、なにか食べ物わけてもらえませんでしょうか・・・? 飲まず食わずで海渡って日本まで泳いできたからもうげんか・・・い・・・・・・ガクッ」

 

 そして、またブッ倒れた。

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 天道家の面々に微妙な気配が流れ、その後の説明責任を求める無言の声が、何も知らない天道早雲に向けられたのは言うまでもない・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

「え~・・・、あらためて紹介をしよう。こちらがお父さんの親友の――」

「早乙女玄馬です。そして、こちらが息子の――」

「乱馬です。――もっとも」

 

 ご飯を食べて落ち着いてから紹介された、お下げ髪の美少女が手ぬぐい巻いた柔道着姿のオッサンの隣で頭を下げて挨拶したが、彼というか彼女にだけは続きが付属した。

 

「今は女になって戻れなくなってるので、息子じゃなくて娘と呼んだ方が正しいかもしれませんけどね」

 

 軽く苦笑しながら言ってのけた少女に視線が集中し、事情を説明するため柔道着姿のオッサンが眼鏡を光らせている。

 

 

 今、彼らが話をしている場所は天道家の居間での一幕。

 実は人間だったパンダのおっさんは元の姿に戻り正座をし、娘たちに説明を聞いてもらえるくらいにまで信頼を回復するに半日を必要とした早雲の隣で息子(娘?)ともども静かに座して沙汰を待っていた。

 

 彼らは今までの時間を無為に過ごしていたわけではなくて、娘たちに話だけでも聞いてもらえるよう説得することと、勝手に余所さまの家の台所をあさって食料を盗み出し簡単な料理を作ってやってたパンダと、とにかく食わなきゃ死にそうになってたから燃料補給を優先してた元息子の現娘がそれぞれに出来ることを最優先でやってたのである。

 

 そのおかげで、今この時という会談の場が持てているのだから決して無駄ではない。無駄ではなかったのだ。そう信じたい。そう信じなければ余りにも空しい時間の使い方をしちゃってたから・・・。

 

「それって、どういうことなのよ?」

「あなたは本当に、元は男の子の女の子なの?」

「・・・・・・・・・」

 

 娘二人も懐疑的な視線と態度を崩そうとしない。

 男嫌いな末娘のあかねに至っては、相手が男なのか女なのか判然としないせいで、どういう態度を取ればいいのか決めかねている程だ。

 

「う~む、つまり何から話せばよいのやら・・・とにかくこれを見てくださ―――」

「つおりゃぁぁぁぁぁっ!!」

「どおわぁぁぁぁっ!?」

 

 立ち上がって息子だか娘だかに手を伸ばそうとしていた玄馬を、逆に娘から襟首に手を伸ばして掴み上げると、天道家の庭にある池に投げ飛ばして放り込んでしまった!

 

 バッシャ―――ッン!!と、品のない轟音が響き渡り、水柱が上がる。

 

 ・・・やがて池に沈んだ玄馬が浮上してきて、水面に顔を出してきたとき。

 ――その姿は人ではなく、パンダになってしまってたのだった・・・・・・。

 

 

「・・・あらま」

「パンダに・・・なった・・・」

 

 長女のかすみも、次女のなびきもビックリの変身ぶりである。

 

「お父さんの友達って、変わってるのね」

「うむ・・・まだワシも詳しい話は聞いておらんのだが・・・。早乙女君があんな体質になったのは中国での恐ろしい荒行が原因らしいのだ」

「荒行?」

「うむ。そして、乱馬君の場合はさらに恐ろしい荒行を中国以外でもおこなっていたのが原因らしい・・・そういう事でいいんだったね? 乱馬君?」

「――はい。その通りです」

 

 神妙な態度でうなずき、天道家の家長を立ててみせる実の父親を投げ飛ばして謝罪の一言もない元息子。

 

「あれは先月の初め頃の・・・いえ、先々月? もしかしたら数ヶ月ぐらいの誤差はあるかもしれませんが大体それぐらいの頃のことでした――」

「それ、誤差じゃないわよ。完全に季節変わっちゃってるわよ確実に」

 

 彼(彼女)は真面目くさった態度なわりに言ってる内容が妙にテキトーなのが気になる話を語り出し、自分たち親子の身に起こった恐ろしい悲劇についての詳細を天道家一同に教えてくれた。

 

「武者修行を続ける我々親子は新たな修行場を求めて中国へ泳いで渡る密入国をして、中国チンパンジー・ダヤンハーン山脈、聖剣山とかなんとか言う山の奥深くにあると言われた伝説の修行場『呪泉郷』へと赴いたのです」

「・・・なんか全体としてはともかく途中で説明がテキトーになるわね、この子って・・・」

 

 なびきが冷静にツッコミ入れてくるのを聞こえないフリして無視したまま、乱馬君ならぬ乱馬ちゃんの話は続いていく。

 

「呪泉郷は百以上の泉が湧いており、その泉一つ一つに悲しい伝説を持っているのですが、実は泉に落ちた者は悲劇的伝承にちなんだ呪いを受けて身体が本来の自分とは別のものに変身するようになってしまうと言う呪われた修行場だったのです。

 ――それを修行のためなら命も捨てる覚悟がどうだと言いながら、碌に中国語も勉強しないまま安易に『中国の修行場使えば強くなれるかもー』とかバカな発想に取り憑かれたバカ親父が見つけ出して連れて行かれ、バカ親父は二〇〇〇年前にパンダが溺れた悲劇的伝説を持つ『熊猫溺泉』という名を持つ泉に落ち、水をかぶるとパンダになる自業自得の身体になってしまったのです」

 

「かく言う私もバカの息子だったせいで被害を免れず、一五〇〇年前に若い娘が溺れたという超悲劇的な伝説を持つ『娘溺泉』に落ちてしまって水をかぶると女になる身体になってしまったのです・・・。

 それが私たち親子に降りかかった恐ろしい呪い的悲劇の顛末です・・・・・・」

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

 乱馬の話を聞き終えて、余りのアホらしい展開に声もない天道家の娘たち三人。

 

「伝説の修行場『呪泉郷』・・・その真の恐ろしさは謎とされていたが・・・」

 

 それに比べると昔取った杵柄によるものなのか、アホの旧友天道早雲は適応が早かった。普通にシリアスな空気に合わせてくれている。素でやってるだけの同じアホなのかもしれないけれども。

 

「では、乱馬君の今の状態も呪泉郷による呪いの効力ということなのかね?」

「いいえ?」

「・・・・・・え?」

 

 当然そうなのだろうと思って尋ねた早雲からの質問に対して乱馬は、アッサリとした口調で否と答える。

 

 そしてまた、話の続きを再開するのだった―――。

 

「私は確かに『呪泉郷』で女になってしまう呪いにかかってしまいました・・・ですが! だからといってそのまま引き下がれましょうか!?

 私は誇りある『無差別格闘早乙女流』の二代目継承者! たかだか1000年、二〇〇〇年前の呪いごときに屈して泣いて逃げ出すなど許されません! 私はどんな勝負であろうと戦うからには勝ちを目指す人間です! それがたとえ泉であっても呪いであったとしても変わりありません! 私はこの呪いを解き! 呪いに勝って! 早乙女流最強伝説を引き継ぎたかった! いえ、引き継がなければならなかったのです!」

「おお! 凄いぞ乱馬君! それでこそ天道道場の後継者として迎え入れる婿として相応しい漢だ! やはりキミしかワシの後を継ぐに相応しいものは他にいない!」

「・・・まぁ、そのためには更に修行する必要があるなと感じて、日本に帰ろうと言い出した親父の元をコッソリ逃げ出した結果、天道道場に迷惑をかけたことは悪いと思ってますけどね。――具体的には数ヶ月前に親父を気絶させて縛り付けて日本行きの船に放り込んだこととか」

「今までのワシのセリフ全部台無し!?」

 

 実の息子乱馬による恐ろしい父親国外追放の犯罪行為を聞かされ、驚愕させられる早雲。こんなのを義理の息子にしちゃって本当に私は大丈夫なんだろうか・・・?と、不安に襲われて仕方がない。

 

「こうして私は呪いに打ち勝つための修行を開始しました。修行して、修行して、修行し続けて、最後に呪いに勝利した者こそが最強格闘家無差別格闘早乙女流マスターになれるのだと信じて、ただひたすらに修行し続ける毎日を送り続けたのです」

「ほ、ほう・・・」

「まぁ、結局は肉体的修行だけじゃダメだったわけですが」

「ダメじゃん!!」

 

 散々に迷惑だけかけられまくった挙げ句、期待まで裏切られた早雲の叫びは嘆きに満ちている。

 

「しかし! 私は諦めませんでした! 修行がダメだったのではない、修行のやり方が悪かったのだと思い直し、別の方法でのアプローチを始めたのです!

 その方法が呪泉郷に似た効力を持つ、1000年ぐらい前に男が溺れた悲劇的伝説を持つ『男溺泉』とかそんなのがないものかと探し回りながら武者修行の旅を続けることでした・・・」

「なんで、そこまで修行にこだわってんのよ・・・普通に呪いの泉探しだけをしなさいよ普通に・・・」

 

 なびきから再び冷静ツッコミが入るのも気にせず、気づいた様子すら見せないまま乱馬は熱を込めて話しを続けていく。

 

「私は中国全土を修行して回りながら呪泉郷っぽいものを探し歩き、広大な中国大陸全土を見て回りました・・・結局なかったんですけども」

「やっぱりダメなんじゃん!」

「慌てないでください。別に中国国内に限定する必要はないでしょう? たかだか1000年や2000年程度の歴史を持った土地なんて世界中にいくらでもあるわけですし。土地の上に乗ってる人間たちの国ならアッサリ滅んだりしますけども」

「今、アンタ色々なところに喧嘩売ったわよ確実に」

 

 ジト目でツッコんでくるなびき。それでも無視。

 

「ていうか、そんな都合のいいモン、そんな簡単にあるわけが・・・」

「いえ、あったのです」

「あったんかい」

 

「私は『呪泉郷』っぽい泉があると聞けば世界中のどこへでも武者修行しに行きました。

 何百年か前に男が溺れた系の悲劇的伝説を持つ泉があると聞けば東へ行き、西へ赴き、あるときは北へ、時には南へ。

 ひたすらに男溺泉っぽい伝説を持つ泉に飛び込みまくってみたのですが・・・・・・」

「ですが?」

「・・・なぜだか私が飛び込む『男溺泉』っぽい伝説を持つと言われる泉は、一つ残らず途中から伝説の内容が変化してたり、通訳者が適当な解釈してたり、権力者の都合で書き換えられてたり、売名行為でショボい伝説を過剰宣伝してたり、男と女が入れ替わってたりと、本来は男が関係してない伝説を持つ泉ばっかりだったんですよ・・・」

「微妙な歴史の闇を語らんでいい」

「・・・最近の小学生には聞かせたくない内容のお話ねぇ・・・」

 

 内容が内容だったので、家庭的なかすみも話に参加してきたが、これも無視。意外と薄情なところを持つ乱馬ちゃんである。

 

「呪いの上に呪いを重ね続けた結果、私は内面まで変化し始めていきました・・・・・・。

 最初はお湯をかければ一発で男に戻っていた身体は、二回かけないと戻らなくなっていき、二回が三回になり、三回が四回になり、四回は五回にとねずみ算式に増えていく。

 呪われた泉の中には性格に影響するものも含まれていたのか、なんか妙なしゃべり方になっていき、一人称は「私」に変わり、性格が微妙に女っぽくなっていき、頭の中で変な声が聞こえるのが日常と化してしまっていく内に同化し始め、やたらとテキトーな部分まで出てくる始末・・・」

「もうそれ、止めなさいよ。末期じゃないの・・・」

「薬物依存症みたいになっちゃってますものね・・・」

「ですが私は諦めなかったのです!」

「諦めなさいって言ってんでしょうが!?」

 

 なびきにしては珍しい心底からの忠告にも耳を貸さない修行バカは、その後も色々やりまくった末に、こうしてこうなったことを伝え終え、ようやくのこと腰を落ち着けた。

 

「――で、結局最終的には何度お湯をかぶっても男に戻れなくなって、女のままでいるしかなくなり、性格まで適当になったせいか穏やかさを身につけられて『呪いじゃどうしようもないし受け入れよう』と言う結論に達して、親父を追いかけこうして日本の天道道場へやってきたという訳なのです」

「完っ全に本末転倒になっちゃってるんですけどー!? 今の話ぜんぶ最初っからやらなかった方がマシだった結論に達しちゃってるんですけどー!? どうしてそこまで修行を盲信したの!

 どうする気なのよアンタ!? 自分で自分の退路を完全に封鎖しちゃってるわよ確実に!!!」

 

 なびき、今日一日で最高最大渾身のツッコミ。流石にこれはフォローできません。

 

「なるほど・・・修行おバカさんじゃなくて、ただのおバカさんだったというオチですね」

「お姉ちゃん、今その事実は笑えないわ・・・。事実だからなおさらに・・・」

 

 かすみが意外と毒舌な部分を発揮して、あかねは頭痛をこらえるのに全力を出し、

 

「・・・早乙女君・・・キミって奴は・・・キミって奴は・・・キミって奴はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「・・・すまん、天道君。だがワシにはもはやどうすることも出来ん。だってアイツ、ワシより数ヶ月分多くの厳しい修行を積んできてるから強くなってて勝てないし。今のワシではどうすることも出来ませ~ん」

 

 今のところ一方的な被害者である天道早雲が慟哭し、自業自得の現状を他人行儀にテキトーな態度で流そうとするダメ親父玄馬はごまかそうとする。

 

 

 こうして女を治す修行のために、数ヶ月分遅れでスタートした女になって戻れなくなったから女として生きてくことにした乱馬と、天道家の一同との日常はようやく始まる。


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