ハッチャケルの意味を模索中。
今日も縁側で日向ぼっこ。縁側がないから、窓際に座ってお茶を飲む。
様々な艦娘が訓練したり、出撃したりする中、とある二人は待機続行中。
常に待機。時々、艦隊の護衛や撤退時の殿などで出撃することはあるが、八丈島鎮守府においては、滅多にあることではない。
日がな一日、お茶を飲んだり、鎮守府内を散歩したり。
戦っている姿を見たことがない。
欠陥戦艦だから、提督たちが使わないのではないか。
陰口などを言われそうなのだが、八丈島鎮守府ではそんなことはない。
もし、言ってしまったら。吹雪と暁が鬼の笑顔でお出迎え。
さらに大和と瑞鳳まで来ての、四大艦娘による地獄のチキンレースの幕開けが待っている。
そして、今日も日が沈む。
水平線に沈んでいく太陽を見つめながら、姉のほうがポツリとつぶやく。
「今日も何事もなく、出撃もなかったわね、山城」
「私達の出番はないほうがいいのです、姉様」
二人はお互いに頷き合い、お茶を楽しむ。
扶桑型戦艦。
国内初の弩級戦艦でありながら、色々とやっちゃった軍部や艦政本部のために、故障が多くてドック入りばかりしている間に、旧式となった不幸な戦艦。
艦娘となった二人も、『不幸』を背負っているような生活を送っている。
らしい。
「あら、お茶を変えたのかしら?」
「あ、解ります? 茶葉を変えてみました」
時刻はお昼が過ぎた食堂。艦娘達もほとんどが食事を終えて、それぞれに動き出した頃。
扶桑は、何時もと同じ窓際の席に座ってお茶を飲んでいた。
向かいには山城が無言でお茶をすすっている。
そんな二人と話をしているのは、間宮だ。
今のところ、八丈島鎮守府の食堂を取り仕切っている女傑は、嬉しそうに語る。
「本土のほうから取り寄せた、一品なんですよ。有名な緑茶の産地のものらしくて」
「そうなの? 確かに美味しいわね。本土も、豊かになったのね」
「はい。民間の物資は滞らなくなりましたから」
一時期は食料が配給になりかけたというのに、今では世界でただ一国だけ普通の生活が送れる場所だ。
それはもちろん、各地の鎮守府が頑張って物資を集めて、物流を行っているからだろうが。
「・・・・でも、バッタ達には負けるわね」
「比べちゃダメですよ、扶桑さん」
もう一口だけ飲んだ感想に、間宮は苦笑する。
機械の塊なのに、茶葉を一から育てるのは、彼らくらいだ。
味が気に入らない、入れ方が頭にくる、美味しくないのがムカつく。
たった一杯のために東奔西走するのも、彼らくらいしか知らない。
「そうそう、本土といえば、携帯電話の新作が出るそうですよ」
「軍部からの技術提供があった、あの?」
「はい。カメラ付きタッチパネル方式、1テラバイトのメモリーの」
「それはそれは」
高いのだろうか、と扶桑は思う。
現在の普及しているのは、折りたたみ式で液晶パネル方式。ボタンも機械方式だったのに、いきなりタッチパネルとは。
軍部も随分と奮発したものだ。
確か、軍部で使用されている通信端末も、タッチパネル式が最新型ではなかっただろうか。
「黒電話から随分と進化したこと」
辛辣に口を挟む山城は、お茶を飲んだ後に目線をテーブルの上に向ける。
木のテーブルの上、彼女の目線が向いた場所に画像が浮かび上がり、話に出ていた携帯電話が映る。
「これのことですか、間宮?」
「はい、これです。こんなに薄くなるんですね」
手の平サイズで厚さ一センチ。前の携帯電話と比べたら、三分の一以下しかない。
「あら、色も8色あるのね。本土では随分と大騒ぎでしょうね」
「予約殺到らしいですよ。いいですね~~~」
ちょっと羨ましそうに見る間宮だったが、山城の言葉で苦笑するしかなくなる。
「これよりも高性能なのですか?」
彼女は自分の左手首のブレスレットを示す。
「いや、いくらなんでも」
「それはないわよ、山城」
「でしょうね」
3人それぞれの左手首にあるブレスレットを見つめ、ありえないと否定してしまう。
ブレスレット型携帯端末。八丈島艦娘ならば全員が所持しており、これ一つで色々なことができる。
通信はもちろん、電子マネーとして使用可能、現在位置及び地図表示。翻訳は24カ国。立体映像式の通信ウィンドウを空中に表示可能。
配られて説明されたとき、誰もが『正気ですか』と問いかけるものだが、提督代行に言わせると。
『かなりマイナーダウンして、手加減して、ちょっと手を抜いて作りました。かなりバッタ達に文句言われて、ストライキ起こされました』
疲れた顔で彼女は語ったという。
「間宮さ~~ん」
「は~~い、それでは御二人ともごゆっくり」
呼ばれて立ち去る彼女の背中を見送った後、扶桑は少しだけぬるくなったお茶を飲む。
「本当に、バッタ達のほうがおいしいわね」
「それはそうです。あの子たちは妥協がありませんから」
「ええ、そうね。さて、山城、貴方はこの後どうするの?」
話を切り替える扶桑に、山城はお茶の湯呑を置いて、外を見上げた。
「お散歩でもしてきます。姉さまは?」
「私は、そうね、お昼寝でもしていましょうか」
ではまた後で。
二人してそう告げて、立ち上がる。
食堂のある本館から艦娘達の寮へと向かう途中で、扶桑は立ち止まって振り返る。
変わることのない光景。
最初に着任してから、ここの建物は改築も増設もされていない。
だというのに、次々に着任する艦娘には個室が与えられ、増産される装備品があふれることはない。
最初から、現在の艦娘達の数を想定して作られているかのように。
「あの提督代行ならば、考えてそうね」
時々、未来が見えていますかと聞きたくなるくらいに。
止めていた足を動かして進む。
最前線の鎮守府なのに、喧噪等は聞こえてこない。
深海棲艦は日々、侵攻してきているのに、この海域まで攻め込まれることは一度もない。
近海まで接近されたことはあったが、そうなったときは『大和』あたりが一蹴して終わりだ。
あるいは、自分や山城が呼ばれるだろう。
「扶桑?」
「あら、長門」
向かいから歩いてきた彼女と挨拶を交わす。
「今から戻るのか? 今日は特に何事もないようだな」
「ええ。何事もないわ。私や山城の出番はなしよ」
「そうだな。その方がこちらとしても助かる。お前たちが出撃する事態など、ない方がいい」
安堵したように告げる長門に、扶桑も同意を向ける。
「特定状況でしか使えない欠陥戦艦ですから」
「笑えない冗談だぞ、扶桑? 昔の話は持ち出すな。確かに、特定状況でしか使えないが、あれは提督の悪ふざけの結果で、おまえに問題はない」
「悪ふざけで済まされるのかしら?」
「確かにな・・・・・・・・・と、すまない。これから打ち合わせがある、失礼する」
「ええ、気をつけて、長門」
すれ違う彼女に軽く会釈して、扶桑は再び歩き出す。
「八丈島鎮守府『最大火力』は、あまり卑屈にならないでくれよ」
背中に投げられた言葉に、扶桑は振り返って頷いた。
最大火力、普通なら大和あたりが持っていそうな称号だが、この鎮守府では扶桑と山城の二人が誇る称号でも有る。
航空戦艦ではある、主砲塔も前よりは少なくなって都合4基しかない。
連装主砲4基といえば、8門しか主砲はない。
大和が九門、普通に考えれば大和のほうが火力は高いのに、だ。
本当にあの提督の奇行は、理解できない時がある。
艦娘寮の入口でブレスレットを使って鍵をあけ、自室へと上がった後に、再度のブレスレット提示及び指紋と網膜パターンのキー解除。
住みなれた部屋に入った扶桑は、真っ直ぐにベッドに入る。
「スケジュール」
言葉に反応して視界に今日の予定が表示される。
待機。
変化はなく、連絡もない。緊急通信も入っていないことから、今日も鎮守府は平和そのもの。
「第一特務艦隊は、動かなくても大丈夫そうね」
深く息を吸い込み、深く息を吐く。
良かった、今日も想定外の事件もなく、提督代行の予想通りの日々が送られているらしい。
安心した扶桑は、そのまま夢の中へと入った。
鎮守府は八丈島の大部分を占領するように作られてはいるが、それ以外の施設も並んでいる。
バッタ達が運営している街や、外部からの来客用の港、あるいは空港。
地熱発電用の施設、精製プラント。非常時用の貯蔵庫。
軍関係と民間用の輸送船用のドックなどなど。
「今日もタンカーが入ってきているのね」
山城が見下ろす先、本土と最も近い場所にある港は、多くのタンカーが停泊している。
今も物資の積み込みが行われ、本土へと運ばれていく。
護衛には八丈島鎮守府以外の艦娘が付き添い、安全に物資を本土へと輸送していくのだろう。
現在の海域は、深海棲艦の姿もないほどに確保済み。もし入りこまれていたら、大騒ぎになっていることだろうが、それもない。
潜水艦娘達が今も海中で目を光らせている。上空も警戒用の航空機が飛び続けている。
それ以外にもソナーブイや警戒用に設置魚雷も配備済み。
さらに、遥か天空よりの監視者もいる。
万全の警戒態勢のもとで行われる輸送任務に、不備なんてない。
前線なのに、前線とは程遠い安全体制を行えるのは、八丈島鎮守府のみ。
奇跡の場所などと、本土では噂になっているらしく、見学希望の要請は後を絶たないらしい。
しかし、今まで一度も一般人はもちろん、軍人でさえ入れたことがないのが八丈島鎮守府だ。
もちろん、軍令部の軍人は何人か来訪している。他の鎮守府の提督も見学に来てはいる。
しかし、それはあくまで来客用の施設内のみ。鎮守府の本館には、誰ひとりとして入れたことはない。
「私達の聖域に足を踏み入れようなんて、無粋な」
山城の視界に、フェンスを越えようとして捕まっている人間が映る。
時々、民間タンカーの乗員が、ああして入ろうとする。
一度も成功してないのに、侵入しようとするなんて、馬鹿なのではないか。
そもそ、不法侵入を行った会社にはかなり重い罰則がかけられるのだが、彼らは知らないのかもしれない。
いっそのこと、この場で断罪した方がいいのでは。
山城は右手を上げる。手刀をゆっくりと振り上げ、振り下ろす前に首を振った。
馬鹿げている。こんなことで、八丈島鎮守府の評判を落とすなんて、浅はかなことだ。
「しないのだから、見逃してもらえないかしら、秋津洲?」
「山城さんは時々、随分と物騒になるかも」
何時の間にか背後にいた彼女にため息をつきたくなる。
「気配もなく背後に立たないで、迂闊に攻撃したらどうするの?」
「大丈夫、ここにいるのはダミーだから」
「だとしても、よ。私は仲間を攻撃する趣味はないわ」
少しだけ透けた体を、山城は睨みつける。
「何事もないのね?」
「特に問題なし。今も侵入者は捕獲済みだから、大丈夫」
「信用しているわ。貴方の監視網も、『本体』の性能も」
「は~~い」
間延びした返事の途中で、彼女の姿が消える。
水上機母艦『秋津洲』。特異な艦娘が多い八丈島鎮守府においても、特筆できるほどの変わった艦娘。
彼女こそが、八丈島鎮守府の警戒網の要であり、深海棲艦が近海へと近づけない要因を作っている存在である。
「・・・・・・はぁ。大艇と『大気圏突入ポッド』って似ているね、なんて誰が考えるのかしら」
うちの提督の思考回路に、山城は頭痛がしてくる。
『静止衛星軌道上警戒用』艦娘。全長一キロの巨大な艤装を操る、巨大な軍事基地。それが秋津洲の今の艦種。
何事もない日々が過ぎていく。
出撃のない毎日。
以前なら苦痛でしかなかったことが、こんなに嬉しいなんて、思いもしなかった。
でも、いつかは戦場にでることになるのでしょう。
その時は、
スベテミナゾコニシズメテヤル