艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

14 / 52
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

迷走中





望むこと・望まないこと

 その日、八丈島鎮守府は平和だったのだろう。

 

 たぶん。

 

「提督、もうすぐですね」

 

「え?」

 

「お誕生日ですよ。プレゼントの用意はしてありますか?」

 

 とある昼下がり。

 

 テラの執務室に書類を持ってきたルリの一言は、同室していた吹雪にとっては初耳な話。

 

 誰かの誕生日だったかな、とカレンダーを見つめる彼女は耳から入って言葉に、悲鳴を上げる。

 

「奥様のですよ」

 

「あ・・・・・・」

 

「えええええええ?!」

 

 二人の視線が吹雪に向くが、彼女は気にしていられない。

 

「提督! 結婚していたんですか?!」

 

「ああ、うん、そうなんだけど・・・・・・・・」

 

 言葉を濁すテラ。

 

 惚気か、それとも相手があまり好きではないのか。

 

「ダメですよ。きちんとプレゼントを贈らないと」

 

 ルリは驚いている吹雪を放置することにして、話を戻す。

 

 戻さないと、この主のことだから、そのまま忘れて大変な事になりそうだから。

 

「いや、別にいいんじゃないの?」

 

「はぁ・・・・・・そういって、色々と厄介事になりかけたのを忘れましたか? ただでさえ、今はここのことで留守にしているんですよ?」

 

「けどさ、雪菜の時は何も言ってこなかったから」

 

「後でお小言が一時間」

 

 グッと、テラが言葉に詰まる。

 

 どうやら奥様の名前は、『雪菜』というらしい。吹雪は手に入れた情報をしっかりと刻んでいるが、事実は彼女の予想を大きく上回る。

 

「今回ばかりはきちんと送ってくださいね」

 

「いや、大丈夫だって。アイリスはあれでこっちの事情をきちんと理解してくれるから」

 

「前回、忘れた時に一晩中、泣いていましたよ」

 

 二度、テラは言葉に詰まる。

 

 同じように吹雪も、固まる。

 

 女性の名前が二つ出てきたような。まさか、そんなことは。

 

「おかげで付きっきりになったと、深雪さんが言っていました」

 

「あ~~そんなことになってたんだ。けどさ、ユイは何も言ってなかったけど?」

 

「言えなかっただけですよ。ユインシエルさんの方は、国防委員会の最中で他の案件がたまっていましたし」

 

 非難する視線に、テラはちょっとだけ顔を背ける。

 

 一方、吹雪は頭が完全にパニックになっていた。

 

 女性の名前が複数出てくるなんて。もしかして、自分達の提督は極度の女好きなのでは。

 

 確かに、こんなに美女だらけの艦娘に囲まれて、誰にも手を出していないのは、健全な男性としておかしいと言われていたが。

 

「謹慎期間でもあるので、一度は戻られたらいかがですか?」

 

「え、でも戻ったらそのまま監禁されない?」

 

「・・・・・・否定できませんが」

 

 苦渋をなめるように、ルリは言う。

 

 やりかねない相手がいるらしい。誰かは吹雪にも解らないが。

 

「クトリとかやりそうだけど」

 

「まさか、流石に・・・・・・・しないと信じます」

 

「ほら、ルリちゃんでも言いきれない。あいつは時々、暴走するんだからさ」

 

「愛情の深さ故ですよ。とにかく、プレゼントは選んでおいてくださいね。ただでさえ、あの人達の優しさに甘えてアセイラムさんとメテオラさんは飛ばしたんですから」

 

 咎める言葉がもう一つ。

 

「その上で、葵さんとの約束と、ロゼさんのお願いを蹴ってありますから」

 

「殺されても文句は言えないな~~」

 

「はいはい、悲観的になってないで、通信でも入れておいてください。大丈夫ですよ。あの人達はテラさんのこと、大好きですから」

 

 呆れて溜息をつくルリに、テラは『本当だよね』と目線で訴える。

 

「殺されるとしたら、愛しすぎてでしょうから」

 

「重い」

 

「そう思うなら、『もらえるから貰う』といって増やさないでください」

 

 深々と溜息をついたルリだった。

 

 一方、吹雪は思考が停止中。

 

 出された名前は、合計で九人。重婚が優しく聞こえてくる数だ。

 

「提督、全員その・・・・・」

 

 恐る恐る問いかけると、彼は苦笑しつつ答えた。

 

「うん、俺の奥さん達」

 

「何人いるんですか?!」

 

「十三人」

 

 あっさりと答えた彼に、吹雪は言葉を失ったという。

 

「重婚ですよね?」

 

「何それ?」

 

「何の話ですか?」

 

 疑問を浮かべるテラとルリに、価値観が違うのだと知る吹雪だった。

 

 正確には、結婚制度の違いなのだが、吹雪は知ることはないし、テラ達も説明するつもりはない。

 

「司令官って何者なんですか?」

 

「俺? 俺は俺だよ。他の何者でもない」

 

 何時もと変わらない笑顔で、何時もと同じ答えを出された。

 

 前までならこれで納得できたのだが、今は納得できずにルリへと顔を向けた。

 

 彼女も頷く。

 

 ますます、謎が深まる司令官だ。

 

「まあ、激怒して戦争を強制的に終了させて、五つの星系を支配下においたのは内緒ですけど」

 

 ルリが呟いた言葉は、幸運にも吹雪には届かなかった。

 

 リアルにミラージュ騎士団と同じように星団国家郡の支配者になった、という事実も含めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八丈島鎮守府の艦娘は、基本的に個室を持っている。

 

 十畳ほどのダイニングと簡易的なキッチン、トイレとお風呂、洗面台付き。冷蔵庫、電子レンジ、テレビ、デリバリー用ハッチあり。

 

 備えつけは以上で、後は住む艦娘によって自由に変えられる。

 

 小物をかざったり、寝具にこだわりを見せたりと、住む艦娘によって個室は色々な形に飾られていく。

 

 その一方で、艦娘の趣味や技量によっては別の部屋が与えられることもある。

 

 例えば明石が持っている研究部屋、夕張の工具スペース。

 

 秋雲の漫画部屋などなど。艦娘が自室以外に部屋やスペースを借りるのは、八丈島鎮守府では珍しくない。

 

 ここも同じ。

 

 鎮守府の建物の三階。通信室などが設置されている階の半分を占領するように設置された場所には、入口に表札が掛けられていた。

 

 提督の一押しで一枚板に墨で描かれた名前は、『青葉出版社』。

 

 新聞、雑誌、ブログ配信等々。

 

 八丈島鎮守府のメディアを一手に引き受ける総合情報本部は、同時に外部への広報の役目も担っている重要な部門だ。

 

「え? 提督の奥様が十三人は知っている?」

 

 情報を持ち込んだ吹雪は、青葉の『すみません』という返答に困惑を浮かべた。

 

「はい。最初のインタビューの時に聞いています。ただ、内容が内容なだけに広めていません。その、士気にかかわるので」

 

「あ~~~~確かに」

 

「吹雪さんにご足労いただいて、本当に恐縮なのですが」

 

 青葉に深々と頭を下げられ、吹雪は顔の前で手を振る。

 

「いえ、いいんです。私だけが知っていて、周りが知らないんじゃと思っただけなので」

 

「はい、私も当初はそう思っていたこともありますが、代行が、その」

 

 言い難そうな彼女に、また何かあったと察した。

 

「『言ってもいいですけど、こんな記事で読者が面白いと感じるのですか?』と」

 

「・・・・・・・・うちの上層部って、変なところで必死になりませんか?」

 

「面白いものを作るためなら艦隊の出撃も許可するといった方ですから」

 

 本当にしょうもないことを全力でやろうとするのは、テラやルリの悪い癖だと吹雪は感じている。

 

 けれど、執務などで失敗があったり、手抜きがあることはないため、特に問題視はしていないが。

 

 できないといった方がいいか。

 

「他のネタがあれば買い取りますよ」

 

 青葉がブレスレットを持ち上げる。

 

 艦娘達が持つブレスレットに入っている電子マネーは、八丈島鎮守府内で使用できるものであると同時に、これで買えないものはないとまで言われている。

 

 もし、外部に出る時は現金への換金も可能なのだが、ほとんどが鎮守府内の売店、あるいは『街』で済んでしまうため、行った艦娘はいない。

 

「他ですか? あ、じゃあ来週からの訓練メニューとか」

 

「言い値で買います!」

 

 思わぬ食いつきように、吹雪は少しだけ腰を引いた。

 

「え? え?」

 

「直前まで機密の情報ならば、この青葉、御金を惜しみませんよ」

 

「そうなんですか?」

 

「はい、どう調べても出てこなくて・・・・・・・その、吹雪さんや暁さん、後は教導担当艦娘しか知らないみたいですので」

 

 何故だろう。別に秘密にしているつもりはないのだが。

 

 時雨や白露にも、もっと言えば教導担当になる艦娘にも口止めしたことはないのに、訓練開始の前日に通達されるまで広まることはない。

 

 もしかしたら、と吹雪はちょっとだけ嫌な予感がしてきた。

 

「私が怖くて誰も聞きに来れないとか?」

 

 さっと、青葉は視線を反らした。

 

 それだけで理解できてしまう。

 

 悲しいことに。

 

「後で暁と相談して、もっと緩やかにしておきます」

 

「はい。その方が親しみやすいですよ。それにしても、吹雪さんはどうしてこんなに怖がられているんでしょう?」

 

 素朴な青葉に疑問に、吹雪自身が『私が知りたいです』と答えた。

 

 その後、少しだけ世間話をしてから吹雪は退出した。

 

「本当にあんなにやさしいのに」

 

「・・・・・・青葉くらいよ、吹雪さんに対してあんなに親密に話しかけられるの」

 

「はい?」

 

 振り返って室内を見回すと、手伝いに来てくれた艦娘全員が体の力を抜いていた。

 

「怖くないですよ~~」

 

「だから、あんただけだって」

 

 手伝いに来ていた五十鈴に言われても、青葉の困惑は収まらなかった。

 

 最初の着任からずっと、訓練だけではなく私生活でも吹雪にお世話になっている青葉は、彼女が訓練以外ではとても優しいことを知っている。

 

 売店での安売りの時間や、『街』でのオシャレなカフェの位置、通信設備の設置やバッタ達への橋渡し。

 

 そして、『青葉出版社』の設立と提督や代行への根回しまで。

 

 本当に色々とお世話になっているから、青葉は吹雪に対して頭が上がらず、その優しさに最も触れているから怖いとか緊張とは無縁になっていた。

 

「はい、無駄話は終わり。では、次の特集号に行きますよ。バッタ達の秋の新作ファッションの発表会から、化粧品の新品まで、色々とやることは目白押しですからね」

 

「はいはい」

 

 気を取り直しての青葉の号令に、室内にいた全員が自分達の仕事に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八丈島鎮守府の外、徒歩でも三十分、専用のリニア・レールで五分の位置には『街』と呼ばれる施設が広がっている。

 

 小物屋から大型のショッピング・モールまで。

 

 バッタ達が頑張って作った施設は、八丈島鎮守府の艦娘達にとっては、楽しい場所であると同時に、最大の敵でもあった。

 

 艦娘といえど、働いているのだから賃金が出る。

 

 労働には然るべき対価を払うのは当たり前。

 

 テラとルリが最初に決めたことの中に、艦娘への賃金も含まれていた。

 

 普段の出撃時の撃破数、演習時の成績、書類の提出状況及び内容、自主訓練の中身、後は趣味などで行っているものについてのプラス・マイナス。

 

 そういったものを総合的にルリが判断し、テラの許可の元で一月分の賃金としてブレスレットに入金。

 

 このお金を持って艦娘達は、『街』へと繰り出して思い思いの買い物を行っている。

 

 今回も、そのように。

 

「はぅ」

 

 普段なら絶対に出さない声に、思わず同行していた足柄は、隣に立つ長女を見た。

 

 場所は『街』の中心街から少し外れた、酒店。

 

 複数存在するお酒関係の店の中でも、特にウィスキーの種類が豊富なここに買い物に来たのは、自分のお酒の在庫が少なくなったため。

 

 姉―妙高が同行しているのは、彼女もお酒を嗜むため。特にウィスキーは大好きで、一日の終わりにはストレートでよく飲んでいる。

 

 他の鎮守府では、そうでもないのに、と足柄は思う。

 

 彼女は八丈島鎮守府での建造やドロップではなく、移動してきた艦娘だ。

 

 前の鎮守府は、色々あって飛び出しかけた。ぬるま湯といったほうがいいのか、あまりにも艦娘を大事にし過ぎて、返って気持が悪かった。

 

 ここは、それなりに気に入っている。

 

 着任当初は個室があること、休みや給金のこと、性格がかなり違う艦娘が多いことで戸惑っていたが、今では馴染んでいる。

 

 違うといえば、この姉も他とはかなり違う。

 

「どうしたの、姉さん?」

 

「・・・・・・いいえ、何でもありません。少し気の迷いがあっただけです。では足柄、私を殴りなさい」

 

「本当に何があったの?」

 

 真顔でそう告げる妙高に、足柄は今日はエイプリル・フールだったかと日付を確認してしまう。

 

 間違いなく違う、ならばどういったことだろうか。

 

 再び視線を姉に向けたが、彼女はこちらを見ていない。

 

 妙高の視線は少し上、並んでいるウィスキーではなく、その上に向けられていた。

 

 目線をたどっていくと、ちょっとお高いウィスキーのところへ。

 

 瞬間、足柄も妙な声を出しかけた。

 

「ね、姉さん、あれって・・・」

 

「貴方にも見えていますね。ならば、私が幻覚を見ているわけではない、ということでしょう」

 

「嘘でしょう、だってあれはもう現品がないって」

 

「あった、ということなのです。足柄、気をしっかり持ちなさい」

 

「持てないわよ」

 

 全身が震えてしまう。

 

 まさか、そんなバカなと言葉ばかりが廻る。

 

 しかし現実は非常だ。彼女達の努力を嘲笑うように、『それ』は燦然と輝きを放つ。

 

 ウィスキーの瓶としては普通の形。誰もが思い浮かべる瓶のラベルには、大きく『血の十字架』が描かれており、その下には『A-22』と刻印されている。

 

 『サイレント騎士団』をテラが継承した時に作られた、希少なウィスキー。

 

 僅か三十本しか作られず、しかもあれから十年以上は経過している。

 

 現品はない、とテラも言っていたのに。

 

「それは掘り出し物ですよ」

 

 店主―人の姿をしているが、中身はサイボーグ―の言葉に、二人は再び衝撃を受けたように立ち尽くす。

 

「わずか一本だけですから」

 

「買います!」

 

 妙高の行動は速かった。

 

 訓練や実戦の時でもないような動きで手にとるのだが、それを制する者がいた。

 

「足柄、離しなさい」

 

「待って、姉さん。ちょっと落ち着いて」

 

「落ち着けません。これの価値がどれだけだと思っているのですか?」

 

「価値がどれだけか解っているから、落ち着いて・・・・・・足りるの?」

 

 睨むように疑問をぶつけられ、妙高が止まる。

 

 確かに、これだけの一品だ。安いわけがない。

 

 今までもウィスキーの価格に打ちのめされたことはある。

 

 しかし、だ。今を逃せば次はいつになるか。いいや、もう二度と会うことはない。

 

 この鎮守府には酒好きはいる。

 

 無類から、嗜む程度まで。ザルというほど飲む艦娘も。

 

 もし、ザルの相手が買って行ったら、価値も知らずにラッパ飲みしかねない。

 

 ならば多少は高くともここで買った方がいいのでは。

 

「た、例え貯金を切り崩すことになったとしても、私は行きます」

 

「姉さん、そう姉さんが決めたなら、私は何も言わないわ。でも、半分は出させて」

 

「足柄、私はいい妹を持ちました」

 

 お互いに見つめあい、手を握り合う。

 

 こうして希少なウィスキーは、妙高と足柄の手の中へと収まった。

 

 その日の夜。

 

「ああ」

 

「はぁ」

 

「むう」

 

「え、え? これ、本当にウィスキーですか?」

 

 妙高四姉妹によって試飲されたそれは、まさに『命の水』の名にふさわしい味だったという。

 

 

 

 




確かにあったものが、今では遠くに感じる。

誰かに助けて欲しいわけじゃない。

何かに祈るわけでもない。


けれどせめて、平穏であれと願いたい。

それが例え、破滅の道だろうとも。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。