艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです

迷走中、暴走中。

止まれない



日常の壊れる音3

 

 軍令部総長室で、高野は深々とイスに腰掛けた。

 

 目の前にいるのは、情報を秘匿した軍人と、それを黙認した上司。

 

 詰問して、厳罰にするべきだ。

 

 犯人が判明した後に行うべきことを先ほどまで考えていたのに、一言も出てこなくなった。

 

 高野は思い返す。

 

 彼らが室内に入ってきた時のこと。

 

「何故、そんなことをした?」

 

 穏やかに語る言葉に、相手はこちらを真っ直ぐに見詰めたまま、直立不動で答える。

 

「舞浜第一艦隊の実力ならば、深海棲艦に後れをとることはない、と判断したしました」

 

「誰が判断した? 貴様か? それとも命令で上司に言われたか?」

 

「いいえ、自分です」

 

「私も肯定いたします」

 

 二人そろっての発言に、高野はさらに怒りが増していくのを感じた。

 

 馬鹿か、こいつらは。

 

 先日の会議の結果を、聞いていなかったのか。

 

 今は資材の確保が優先だと伝えたはずだ。新しい鎮守府が作れるほどの資材と艦娘、提督の確保が出来なければ、無意味だと。

 

「私が命令したのか? 海域への進出を許可すると?」

 

「いいえ」

 

「ならば、独断だというのか? 馬鹿げていると考えなかったのか?」

 

「考えておりません」

 

 真面目に答える姿に、さらに怒りが湧きあがる。

 

 こいつらは、自分達がいたずらに戦力を消耗させた自覚はないのか。

 

 そもそも、こういって呼び出されて謝罪の一つもできないのか。

 

「貴様らは自分達はどれだけ愚かなことをしたのか、理解していないのか?」

 

「していません。いえ、理解はしています。私たちが愚かなのは」

 

「開き直るつもりか?」

 

 ギリギリと拳が鳴る。

 

 今すぐに怒鳴りつけてやろうか。

 

 それとも、軍事裁判にでもかけてやろうか。

 

 高野の決意が固まる寸前で、彼は口を開く。

 

「はい、私達は愚かなのです。何時までも、一鎮守府にすべてを背負わせて、それでいいと思ってしまっていました」

 

「なんだと?」

 

 予想もしない話に、高野の感情が止まる。

 

 彼は真っ直ぐに見ていた。

 

 微動だにせず、顔をあげて、両手は伸ばさずに。

 

 ギュッと握りしめたまま。

 

「総長、我々は何ですか? 我々は何者なのですか?」

 

「何を言っている?」

 

「我々は、軍人ではないのですか?」

 

 当たり前のことだろう、と高野は言い掛けて、言えなかった。

 

 彼の頬に流れるものを見てしまったから。

 

「我々は軍人です。私は国を護りたいから、大切な人を護りたいから、軍人になりました。それが今はどうですか? 軍人が何かに守られて、後方にいる。これは、何なのですか?」

 

 静かに彼は語る。

 

 けれど、その感情が穏やかではないのは、表情が物語る。

 

 口が開いていなければ、唇を噛み切っていただろう。

 

 立っていなければ、膝を折って泣き崩れていただろう。

 

「我々は、日本国の軍人です。それが、八丈島鎮守府に任せて後方で安全になど許されるのですか?」

 

「そうです。我々は軍人なのです。艦娘に任せて、安全な場所にいるだけでは軍人ではないのです」

 

 もう一人も声を上げる。

 

 彼らの言いたいことが、高野には痛いほどよく解る。

 

 悔しいのだ。

 

 ただ、悔しくて悔しくて仕方がない。

 

 冷静に考えれば、彼の言い分は間違っている。軍人だからと前線に立ち、銃を取り戦うだけが役目ではないはずだ。

 

 今の時勢であるならば、有効な攻撃手段を軍人が持ち得ないため、艦娘という部下に戦ってもらっている。

 

 ならば後方で補給を確保し、艦娘のための環境を整えるのも、立派な軍人としての職務だ。

 

 けれど、冷静にそう語ることが、今の高野にはできない。

 

 彼の言い分は、あの時の自分と同じだから。

 

 テラ達と契約した時の、自分と同じ悔しさだったから。

 

「まして、一鎮守府にすべて背負わせて、平和になったと語ることなど、できるわけがありません!」

 

「総長! 我々はそんな腑抜けではありません! 八丈島鎮守府にだけ任せてすべてが終わればいいなんてこと! 絶対に受け入れられません!」

 

「そうです! 総長! 我々は、日本国民の安全と平和を守る軍人なのです! 断じて!! 自らの安全のために他者を犠牲に強いるものではないのです!!」

 

「総長!! お願いします! どうか舞浜第一艦隊に機会を! 全員が同じ思いなのです! 馬鹿と蔑まれてもいい! 無能者といわれても構いません! ですが卑怯者にはなりたくありません!」

 

「護るべきものを護らずに後方にいるだけの卑怯者にだけは! 軍人として、いいえ人間としての矜持にかけて!!」

 

「総長!!」

 

 グッと詰め寄る二人。

 

 きっと、室内にいる誰もが同じ意見なのだろう。

 

 二人と連れてきた憲兵も、直属の自分の部下達も。

 

 誰も止めることない室内で、高野は深く息を吸い込み、瞳をつぶる。

 

 そして、彼は現在に戻る。

 

 長い時間、そういていたような気がする。

 

 実際には一分か二分くらいだっただろうか。

 

「気持は解る、一軍人として貴君らの志はとても好ましい」

 

「はい」

 

「だが、命令は命令だ。軍人とは命令に従う者、処罰は覚悟せよ」

 

 二人は敬礼し返答とした。

 

 その後、退出した二人と同時に、全員を部屋から追い出した。

 

 ルリからは追加報告はない。

 

 こちらから説明するまで、彼女は黙っているつもりだろう。

 

 いやもしかしたら、先ほどの会話を聞いているかもしれない。

 

「矜持にかけて・・・・・・・・か。私もそのつもりでいたのだがな」

 

 独り言を吐きだし、高野は通信機を持ち上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テラからの通信後、舞浜第一艦隊全員を回収。

 

 轟沈寸前ばかりだったため、瑞穂と速吸を派遣。

 

「浮遊ドックと緊急補修ユニットの製造しておいて良かったですね」

 

「ついでにデータも取れますから」

 

 ルリの気休め程度の言葉に、明石も軽口を返してみる。

 

 それを聞いていた二人は、とても微妙な顔をしていたが。

 

「はぁ、今回ばかりは私の落ち度ですね。本当にしょうもない」

 

「・・・・・・提督?」

 

「あの提督が認めた?」

 

 明石と大淀が僅かに身を引いたため、ルリは半眼で睨む。

 

「私だって悪いことは悪いと認めますよ。ただ、今回の一件が何処の輩がやったことか、知る必要はあります」

 

 もし、図に乗った奴がやったことなら、その首を落としてやる。

 

 高野が何を言っても、日本全体が敵に回ることになっても、我が主を戦わせたツケは払ってもらおう。

 

 ギリっと、ルリが奥歯をかみした。

 

「八当たりしませんよね? 大丈夫ですよね?」

 

 大淀が危険を感じて詰め寄るため、ルリは笑顔を浮かべた。

 

「ええ、もちろん」

 

 とても冷たくて怖い、『冷笑』というやつだったが。

 

「ブラックホールで許してあげますから、きっと」

 

「提督!!!」

 

「代行ですよ。冗談です。さて、着たようですね」

 

 ルリが顔を向ける先、通信機が鳴っていた。

 

 相手は高野総長。

 

 通信ラインが繋がり、彼は事の詳細を伝えてくる。

 

 内容はルリにだけ聞こえており、明石と大淀には伝わらない。

 

 ただ、彼女の表情が変化したことで、ある程度は解ったが。

 

『今回に一件の責任は私にある。この首一つで許してくれないか?』

 

「何故です? 話の流れを聞いている限りは、その二人を罰せばいいだけでは?」

 

『違うな。あれらは私の部下だ。部下の責任をとるのは、上司の役目だ。故に私の首で済ませてくれ』

 

 悲壮な決意、ではない。

 

 清々しい顔で語る高野に、ルリは少しだけ考えるように視線を外し、嘆息した。

 

「今回は私の方にも落ち度がありましたから、お互い様ということで」

 

『いいのか? またあるかもしれないぞ?』

 

「構いませんよ。こういったことは、馬鹿なら何度でもやりますので」

 

『馬鹿か・・・・・・時々、思うのだがな、君は『馬鹿』に対して蔑みも侮蔑も持っていないようだな』

 

「ええ、それはもう。馬鹿っていうのは、向上心をなくしてませんし、これからいくらでも学べますから」

 

『ほう? 君ならば馬鹿にあったら首を落としそうだが』

 

「いいえ、私があって首を落とすのは、『無知』です。無知は、何も学ばずにまわりに迷惑をかけるだけなので」

 

 では、と通信を閉じる。

 

「今回の一件は、以上です。ああ、そうそう明石。秋津洲の追加パーツを増やしてもいいですか?」

 

「まだ大丈夫ですけど、往復になりますよ?」

 

「いいえ、大丈夫です。『それ』は単独で打ち上げますから」

 

 ルリはデータを明石のブレスレットへ転送する。

 

 受け取った彼女は確認して、意識を失いかけた。

 

「は、はははは。提督は、本当に何かあったら『大陸ごと』消すつもりですか?」

 

「何を言っているのですか? 前前からそう言っているはずですよ、明石」

 

 今更でしょうが、と答えるルリに対して、二人は無言で敬礼した。

 

 この先、何事もないように、と内心で祈りつつ。

 

「後、提督代行です」

 

「はい」

 

 最後の最後まで、そこだけは忘れないルリだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強さの証明をするのに、人は何を行えばいいのだろうか。

 

「私達は間違えたのだな」

 

 入渠を終えて戻ってきた武蔵に対して、八丈島鎮守府の長門はため息交じりに答える。

 

「間違えてはいただろうが、決して無駄ではなかった。現在の自分の力量が解ったのだろう?」

 

「ああ。だが、効いたな」

 

 彼女が抑える頬は、僅かに赤く腫れていた。

 

「彼女の拳は、吹雪さん仕込みだからな」

 

「八丈島鎮守府の双璧、鬼神の導『吹雪』か。会ってみたかったが」

 

 遠くを見つめる武蔵に、誰のことだ、それはと言いそうになる。

 

 鬼教官とか呼ばれているのは、八丈島鎮守府だけかと思ったが、本当にそうらしい。

 

 他の鎮守府では鬼神か。これを当人が知ったら、また苦笑するな。

 

 長門は、想像して寒気を感じた。

 

「彼女は何か言っていたか?」

 

 あまりに怖くなって長門は話題を変える。

 

 武蔵の頬を殴った本人、八丈島鎮守府の武蔵は、何か言っていたようだったが。

 

「ああ、言われたさ。『愚か者につける薬はないが、馬鹿ものにはある。良かったな、誰も沈まなくて』だ」

 

「そうか」

 

 無骨な武蔵にしては、言葉を選んだ方か。

 

 てっきり、『仲間を傷つけて、よく恥ずかしくもなく武蔵を名乗れるな』とか言ったのかと思ったが。

 

「こうして生きている。ならば、次こそはと思ってしまってもいいのだろうか?」

 

 迷いながら問いかけてくる武蔵に、長門は真正面から見詰める。

 

「好きにしろ。練度を上げ、鍛錬を怠るな。こちらが強くなる分、相手も強くなる。以前に勝てなかった相手に勝てたくらいで、慢心しては勝てるものも勝てなくなるぞ」

 

「忠告、痛みいる。さすが、八丈島鎮守府の艦娘代表だな」

 

「・・・・・・・・いいや、私はそうではないが」

 

「八丈島鎮守府の長門といえば、艦娘のまとめ役だと聞いている」

 

 そうなのだろうか。

 

 提督やテラに話すことは多く、また他の艦娘の訓練内容の確認も行ってはいるが、基本的に教導は吹雪や暁が計画しているし、執務補佐は大淀が行っている。

 

 自分は微調整や折衝などをしているだけのつもりだったが。

 

「私もいつか、そうありたいな」

 

「そうか」

 

 長門は憧れを向ける武蔵に、何と言っていいか解らなかった。

 

 上手い文句も、吹雪や暁あたりなら何か浮かびそうだが、あいにくと自分はそこまで口達者ではない。

 

 提督やテラならば、もっと簡単に相談にのってやれるものを。

 

「語らずとも態度で示すか。よく解った、すまない」

 

「ああ」

 

 勘違いされているが、相手がそれで納得するならばいいか。 

 

 長門はそう思いつつ、後で提督に相談に行こうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少しずつ、ズレていく。

 

 今まで正確に回っていた歯車は、些細な切っ掛けで欠けてしまい。

 

 精密に揃っていたものが僅かに狂えば、後はすべてに広がってしまう。

 

 誰にも気づかれることなく、誰も知らないうちに。

 

 こうして、日本の一鎮守府が平和を支える日常は、崩壊の道をたどることになった。

 

 誰もが思い返せば、この舞浜第一艦隊の一件が、始まりだったと口をそろえて告げることになる。

 

 この一件以降、現在の平和な日常は消え去ったのだから。

 

 

 

 

 

 





平和とは、戦争のための準備期間である。

そう言った偉人がいた。

けれど、平和とは人と人との対話の証である、という言葉もある。

さて、諸君。

悲劇と喜劇の幕開けをしよう


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