艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

迷走中、遅れました、困惑してますか、私もです


どうしてこうなった?



日常の壊れる音4

 

 

 舞浜第一艦隊の一件は、海軍全体を揺さぶった。

 

 今まで八丈島鎮守府が築いてきた平和、それに対して疑問を投げかけたことによって、他の鎮守府でも現状への『否』が高まってきていた。

 

 平和とは何か。

 

 軍人とは何をするべきなのか。

 

 各鎮守府の提督達は、艦娘への指示を出しながら、悩みだす。

 

 そして同時に、この異常ともいえる現在の平和を支えている、八丈島鎮守府とは何者なのかを。

 

 今まで高野総長が『問題ない』と言っていたから、全面的に信じていたから疑問さえ上がらなかったが。

 

 彼らは本当に艦娘なのか。

 

 提督が艤装を扱っていたというが、それは他にも使えるのか。

 

 艦娘が戦うのを良しとしなかった軍人たちが、その話題を放っておくことはなく、もし八丈島鎮守府の提督が使っている艤装が量産できるなら、艦娘だけに頼るのではなく、自分達も戦えるのではないだろうか。

 

 誰かが言った考えは、皮肉にもルリが広めた技術によって、海軍全体に広がっていく。

 

 結果、高野一人が、軍令部上層部が抑えつけようとも、抑えきれないほどの意見となって海軍を分裂の危機にまで追い込んだ。

 

 八丈島鎮守府が支える現状に対して賛成の者達。

 

 現在の平和に『否』という者達。

 

 艦娘だけを犠牲にするのを『良し』としない者達。

 

 高まる議論は、様々なところへ飛び火し、政治家や官僚にさえ無視できない波となって、やがて世論へも揺さぶりかけた。

 

 それは不味い。平和になってやっと落ち着いた国民を、また不安にさせるのは絶対に避けたい。

 

 とある声が上がり、政府が海軍と共に必死に打開策を模索し始めた頃、事態は坂道を転がるようにではなく、落とし穴に落ちるように悪化した。

 

「舞浜がやったなら、俺達もやってもいいよな?」

 

 佐世保の斎藤提督が、周り中に声をかけ、外洋へと艦隊を差し向けた。

 

 領海内から出ようとした艦隊に気づき、慌てて高野からの直接命令で止められたが、この一件は周りの鎮守府を奮い立たせてしまった。

 

 我こそが、と各鎮守府が艦隊の編成に入り、外洋への一番乗りを模索し始めてしまう。

 

 完全に八丈島鎮守府以外での平和を、もっといえば一鎮守府に誰もが押し付けていた後ろめたさが、完全に吹き出してしまった。

 

「各鎮守府の提督たちを集めての全体会議を行う」

 

 高野は苦渋の末、そう決断するしかなかった。

 

 ピシっと、何かに亀裂が入るような音が、高野の耳の奥から離れなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すべての鎮守府から提督を集めての全体会議の通達。

 

 異例ともいえる会議の前に、ホシノ・ルリ八丈島鎮守府提督代行は高野総長からの通信を受けていた。

 

「そうですか」

 

『すまない。私ではもう、抑えきれなかった』

 

 痩せたような高野の姿に、ルリは同意も否定もしなかった。

 

 彼がよくやってくれているから、こちら側が好き勝手に動けている。

 

 すべての矢面に立たせておいて、『当然です』といえるほどルリは冷たくはないし、また冷たくするには高野とは交流があり過ぎた。

 

「構いません。元々、一年も持つとは予想していなかったので」

 

『そうなのか? てっきり最後まで八丈島鎮守府のみで支えるのかと考えていたが?』

 

「不可能ではありませんが、そうすると日本が他力本願ですべて終わってしまう国になってしまいます。国家とは、そこにいる国民が支えてこそなので」

 

『随分と考えていたのだ。ならば、今回のことは予想範囲内というわけだな?』

 

「ええ、まあ。かなり長い時間かかりましたが、この国には気骨のある人物が多いようですね」

 

『お褒めにあずかり光栄だな。それで、だ。君たちは今後どうするつもりだ? 今まで通り鎮守府として活動してくれるのか?』

 

「いいえ」

 

 きっぱりとルリは否定する。

 

 高野は、予想していたのだろうか、深々と頭を下げた。

 

『解った。今まで本当にありがとう、今後は私たちのみで頑張ってみる』

 

「何を言っているのですか?」

 

『ん? 君たちは戻るのではないのか?』

 

 高野の疑問に対して、ルリは否定も肯定もしなかった。

 

 ただ、彼に対して提案を一つだけ。

 

『な?! いや、それは・・・・・・確かにそうかもしれないが。そんなことが本当に可能なのか?』

 

「下準備はできています。そもそも、『八丈島が人工島』なのはご存じでは?」

 

『ああ、確かに人工島に改造したとか、そんな話を最初にしていたな?』

 

「はい。ですので、私からお願いするのは一つだけです」

 

 ルリからの提案に、高野はとても苦い顔をした後、頷いた。

 

「では、これで。『血と十字架の名にかけて、お互いが不義理を行わないことを願います』」

 

『あの時と同じ言葉だな。解った、以降も私の全身全霊をもって行おう』

 

「はい、信じていますから」

 

 通信が終わる。

 

 同時に、ルリは別の回線を通して、文章を送信。

 

「テラさん、そろそろフェイズ2に移行します」

 

 小さく呟く彼女の脳裏に、『ん、了解』と答える彼の声が届く。

 

 現状は予想範囲内。少しだけ時間がかかったが、自分達で立ち上がることを選んだ軍人たちが、この先にどのような選択をするのか。

 

「少しだけ楽しみですね」

 

 文章への返答を確認。

 

 表示された内容に、ルリは満足そうに頷いた。

 

「ああ、やはりテラさん、私達は部下に恵まれるようですよ」

 

 ちょっとだけ嬉しそうに笑う彼女がいたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全提督に全体会議は、軍令部の大会議室にて行われた。

 

 新人から古参まで、あらゆる鎮守府から集められた提督たちは、声高に議論を交わす。

 

「一鎮守府にだけ任せてはおけない。我々は軍人なのだ。国家の威信を背って立つ軍人ならば、自然のことではないか?」

 

「しかし、そもそも私たちに可能なのか? 艦娘の練度でいえば、八丈島鎮守府の足元にも及ばないのだぞ?」

 

「だからといって、何時までも甘えていては軍人としてどうなのだ?」

 

「軍人、軍人というが、戦うのはあくまで艦娘だ。我々ではない」

 

「艦娘とて軍人だ。違うのか?」

 

「見識の相違だな。艦娘はあくまで、艦娘だ」

 

「貴様、艦娘を備品とでもいうのか?」

 

「そうではない。彼女達にも選択の自由があるべきだろう? 艦娘に生まれたからといって、戦う軍人のみが選択肢ではないはずだ」 

 

 冷静に穏やかに、しかし意見に込められた熱は、周り中を溶かすほど。

 

 聞いている高野は、『これぞ会議だ。意見の交わしあいだ』と、内心で涙を流さんばかりに喜んでいたが。

 

「全員の意見を聞いて、もし艦娘達が戦わないといったら、どうする?」

 

「その時は、我らが楯となればいいではないか?」

 

「建設的な意見を出してくれ。国民の安全が脅かされるのだぞ?」

 

「建設的な意見ではないか? 八丈島鎮守府の提督は、艤装を纏っている。それを応用できれば、我々も戦えるのではないか?」

 

 不意に流れた意見に、高野の全身が強張った。

 

 それは、不味い。完全に死亡通知だ。他の意見を、と高野が思考を巡らせる間に、多くの提督が視線を向けてしまう。

 

 末席に座る、八丈島提督代行を。

 

 やはりこういった会議でも、テラは出席しなったのは、幸いというか、不幸というか。

 

「どうなのだ?」

 

 再度の念押しに、彼女はチラリと周りを見回した。

 

「残念ながら、我が鎮守府の提督用の艤装は一般人が扱えるものではありません」

 

「我らは軍人だが」

 

「構造上、人間と相違ないのであれば、私から見れば『一般人』に等しいので。最低でも、ライフルの弾丸を回避してください。そうすれば、艤装も扱えます」 

 

 本当に人間か、それは。

 

 多くの提督が同じ感想を浮かべるのだが、ルリは撤回するつもりはない。

 

 そもそも、テラ専用の艤装の反応速度は光速に届くレベル。

 

 軍人とは言え、この世界の人たちが扱えるわけがない。

 

「ならば、技術提供を行えばいいのではないか?」

 

 高野はすかさず口を挟む。

 

 機会は、今しかない。

 

「不可能です。我が鎮守府と他の鎮守府では、技術力の差があり過ぎます。提供しても修復できず、では話になりません」

 

「だが、君たちだけが独占するのも問題だ」

 

「扱えないものは扱えませんので」

 

「なるほど。独占するつもりなのかな?」

 

「さあ?」

 

 高野は口調を強める。

 

 今、この瞬間だ。タイミングは、今しかない。

 

「八丈島鎮守府は、資源を日本にかなり融通してくれた。他の鎮守府もその恩恵は受けているだろう?」

 

 周りを見回す。

 

 さっと顔を背けるもの、大きく頷く者、様々なもの達がいる会議室の中で、呉、佐世保、横須賀の三人の提督、さらに舞浜の提督の顔に決意が宿っていた。

 

「しかし、だ。技術を独占するのならば、話が違ってくる」

 

「どう違ってくるのですか?」

 

「軍令部総長として命じる、これより八丈島鎮守府は他鎮守府への技術提供及び戦力の補助を行うように」

 

「馬鹿げています。そんなことができると?」

 

「ああ、出来る。もはや、一鎮守府が護る世界ではないのだから」

 

 言いきった高野と、視線を反らさずに見つめるルリ。

 

 その両者を周り中の提督たちが見つめる。

 

 この瞬間、日本の平和は本格的に崩壊の一途をたどることになった、と後に多くの軍人は語るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高野総長による、八丈島鎮守府への命令が下った会議。

 

 提督達はそれぞれの鎮守府へ戻り、『外洋への出撃』に備えて、艦娘達と意見を交わす始める。

 

 一方で、横須賀の沖田、呉の井沢、佐世保の斎藤、そして当事者といえる舞浜の矢車は別の会議室に通された。

 

 疑問を浮かべる四人の前に、高野の笑い声が聞こえてきた。

 

 何事、と扉を開けて入った先、何時もなら人形のような無表情の少女ではなく、見た目よりもかなり幼い雰囲気の、ふてくされたような顔をしたルリがいた。

 

「言い過ぎです、高野さん」

 

「悪い悪い。ついな、何時もおまえやテラにやられているから、ついな」

 

「本当に、あそこまで言うなんて・・・・・・・・大根役者」

 

「大根か。シナリオを描いたのは君だったはずだぞ、三文脚本家」

 

「私達は何時も、吹き飛ばすだけなので」

 

「物騒だな・・・・・・・・・っと、来たな、入れ」

 

 手招きをする高野につられ、狐に化かされたような顔をした四人は、席に着いた。

 

「最初に言っていくが、彼女―ホシノ・ルリ君とテラ・エーテルはこの地球の人間ではない」

 

「は・・・・・・はぁぁぁぁ?!」

 

「どうも、宇宙人だったことが判明したルリです」

 

 ペコリと頭を下げる少女に、四人は目玉が飛び出るほどに驚愕していた。

 

「事の発端はそうだな・・・・・」

 

 高野は思い出すように話しだす。

 

 最初に会った時のこと。

 

 密約について。

 

 彼らの技術力。

 

 そして、戦力。

 

「なんだよ、それなら最初から戦ってくれれば・・・・・・・って、こんな話はこっちの勝手な言い分だな」

 

 斎藤が楽だったのにといい掛けて、止めた。

 

 彼女達にすべてを投げ出すのは、あまりに無責任すぎるから。

 

 ルリはそれを見て、クスリと笑う。

 

「ええ、そうですね。この世界は皆様の世界です、ならば護るのは皆様の役目。だからこそ、時間を作りました」

 

「深海棲艦と戦うための、かね?」

 

 沖田の問いかけに、ルリは頷く。

 

「はい、誰かが現状に対して疑問を持って動くのを、待っていました。ようやくです」

 

「では、私達のしたことは?」

 

 矢車が身を乗り出すのを、ルリは笑顔で見つめる。

 

「はい、私たちが待っていたことです」

 

「私も騙されていたがな」

 

 高野がそう告げると、ルリは小さく舌を出した。

 

「言ってしまうと、そのように動きそうだったので」

 

「まったく、とんだ女狐もいたものね」

 

 井沢の呆れに対して、ルリは首を振って否定した。

 

「違います。私は猫です。猫は気まぐれなので」

 

「そういう意味じゃないわよ。というより、それが素なのね?」

 

「はい、隠す必要がなくなったので。どうも、私の素は人懐っこい一面があるので、冷たい印象が出ないんです」

 

「何の理由があってだね?」

 

 高野の質問に、ルリは小首を傾げて、告げる。

 

「頼りたくなるのではないのですか?」

 

 本当に、心の底からの疑問に、全員が内心で思う。

 

 そんなわけあるか、と。

 

「とはいえ、ようやくこの段階に来ました。続いては隠し事なしの話です」

 

 そこでルリが語ったことに、誰もが苦い顔をした。

 

 しかし、誰からも否定は出ず、会議はこれでようやく終わることになる。

 

「本当に良かったか? また茨の道だが?」

 

 最後の最後、高野は彼女を呼び止めた。

 

「茨の道? 違いますよ。こんなにいい人達の世界です、ならこれはとても楽な道ですから」

 

「君がそう言うなら、私は信じよう」

 

「ええ、信じてください・・・何しろこれは、テラさんが書いたシナリオなので」

 

 真実が付きつけられ、高野は一瞬だけ驚いて、その後に笑いだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピシリ、ピシリと亀裂が入る。

 

 かたい表面だと思っていた場所が切り裂かれ、確定していた未来はこうして砂のように流れ落ちた。

 

 全体会議後、他の鎮守府でも深海棲艦の領域への侵入が認められ、多くの鎮守府が艦娘を外洋に出していく。

 

 ある鎮守府は防戦一方になり。

 

 ある鎮守府は撤退で戦力が削られていく。

 

 しかし、何処の鎮守府でも轟沈は見られなかった。

 

『帰ろう、帰ればまた来れるから』

 

 誰からともなく言い出した合言葉は、多くの鎮守府や艦娘達の間で言われ続け、無理な進撃は誰もしなくなっていた。

 

 この世界には善意が多い。

 

 かつて八丈島鎮守府代行をしていた少女は、そう告げたという。

 

 そう、かつて、だ。

 

 全体会議から半年後の現在。 

 

 鎮守府の登録一覧に、『八丈島鎮守府』の名前はなかった。

 




 
彼らの願いは、とても心地良いもので

見ていて、とても眩しかった。


だから、ね


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