艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

迷走中、暴走中、たのしくなってきた?

やりすぎ注意?




常識は置き去りにするもの

 

 八丈島鎮守府。

 

 かつて、日本の安全を守っていた、今はいない存在。

 

 半年前に海軍から除外、鎮守府は解体。所属艦娘は、提督や代行ともども謹慎処分。

 

 今では、鎮守府の残骸が八丈島に残るのみ。

 

 誰もいないそこは、今では深海棲艦の母港になっていた。

 

 提督達は現状を甘く見ていたわけではない。

 

 できると確信があった、等と言えるわけがない。

 

 だが、今の状況を予想していた者は一人もいなかった。

 

 たった一つの鎮守府。それが消えただけで、日本の領海の八割を消失することになるとは。

 

 補給路は閉ざされ、物資が枯渇し始める。

 

 資材を切り詰め、代用品を考え、色々とやりくりしても減る一方。

 

 かといって、遠征を行ったところで深海棲艦の猛攻によって大破続出。

 

 現状、どうにかして二割に減った領海を死守していると言ったところ。

 

「まさか、ここまで影響力が強いとは」

 

 軍令部において、高野は戦況に頭を痛めていた。

 

 防衛戦の後退は予想していたが、まさか八割も持っていかれるとは。

 

 今まで、どれだけ八丈島鎮守府に頼っていたか、それがよく解る。

 

「これで誰も文句は言いませんね」

 

 部下の呟きに、高野は頷く。

 

 不平不満を口にして、ようやく勝ち取った主役が役不足。

 

 これで、裏側で画策していた誰もが痛感しただろう。

 

 現在の戦力均衡を保っていたのは八丈島鎮守府であり、他の誰でもないということを。

 

「各鎮守府の状況は?」

 

「大半が内海か陸地近くでの演習に切り替えています。辛うじて、佐世保、舞浜、呉、横須賀の四鎮守府が領海防衛に出向いています」

 

「ふむ、やはりか。八丈島鎮守府に任せたくはないが、練度を上げていたわけではないか」

 

「解っていても、人間は堕落するものです。我らも気を引き締めませんと」

 

 本当にな。

 

 前のような怒鳴り合いで終わる会議など、もう二度と見たくないと高野は思うのだった。

 

「頃合いか。大高総理からもせっつかれているからな」

 

「そろそろ民間用の備蓄が底を尽きますので」

 

 半年、か。持った方なのだろう。

 

 あの会議から、密約を交わした人物が増えてから、たった半年。

 

 彼女の予想では三か月だったのが、二か月も増えたのだから、練度は上がってきたと判断するべきか。

 

「一般市民に苦行を強いてしまったかな?」

 

「目に見える危機がなければ、平和だと勘違いする者が増える。これは、通説なのでは?」

 

「確かにそうだが」

 

 テレビを通して、あるいは通信の向こう側で、何かあったとしても見ている者は危機だとは感じない。

 

 明確に確実に、自分の身の回りに迫らなければ、今が平和であると自分だけは安全であるとして、色々な欲望を湧きだしてしまう。

 

「傲慢にはなりたくないのだが」

 

「私もそうですが、彼女からの条件がこうなのですから」

 

「まったく、何が見えているのやら、だな」

 

 彼女は、シナリオを描いたのはテラだと言った。

 

 もしかしたら、彼には自分とは違うものが見えていたのだろうか。

 

 少しだけ考えた高野は、『それはないな』と確信した。

 

 あの馬鹿が、それほど深く考えているわけがない。

 

 どうせ、『みんなが一緒にがんばるために危機を再確認しよう』程度で、三か月後と言ったのだろう。

 

 間違いない。

 

「総長、ではよろしいですか?」

 

「ああ。軍令部総長高野五十六の名で、各鎮守府に連絡をしてくれ。通信符号に追加がある、と」

 

「はい。文面をどうぞ」

 

 重々しく高野は頷き、机の引き出しの奥、小さな小箱を取り出す。

 

 指紋認証と網膜認証、その上で声紋による暗号の入力。

 

「『軍人とは、抜かぬ剣なり』」

 

『認証確認しました。『ならば、この世はこともなし』』

 

 箱には小さく『パンドラ』と書いてあるが、気にしてはいけない。

 

 電子ロックを追加しただけで、これが本物のパンドラの箱の可能性もあるのだが、忘れてしまうほうがいい。

 

 あのテラが笑顔で、『大丈夫! すっごい昔からある由緒正しい封印の箱だから!』と言っていたから、絶対に気にしてはいけないものだ。

 

 箱の中には小さな紙が一つ。

 

「では、符号は『馬鹿に常識』・・・あいつら海軍の通信符号をなんだと思っているんだ?」

 

「総長、馬鹿の考えることですから」

 

「そうだな」

 

 色々と言ってやりたいことはある。

 

 怒鳴りつけたくなることは、かなり。いや、山ほどだろうか。

 

 しかし、グッと飲み込む。

 

 これから先、彼らは自分の直属の部下になるのだから。

 

「軍令部直属、『実戦教導支援隊』か」

 

 呟いた名は、半年前の最後にルリから提案されたこと。

 

 この先の展開を考えて、一鎮守府ではなく教導する者として。

 

 教えるのではく、実戦形式で他の鎮守府の艦娘に叩きこむ。

 

 あるいは窮地に陥った艦娘達への救助のための部隊。

 

『人間も艦娘も同じです。やって覚える、これに限ります。できなければ、死ぬだけなので』

 

 とてもいい笑顔で彼女は言っていたが、やり過ぎないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ頃、東京湾近海海底。

 

「解除信号確認、パンドラの箱が開きました。続いて、海軍の通信符号に『馬鹿に常識』が追加」

 

「よろしい」

 

 報告を受け、彼女は通信ラインを立ち上げる。

 

「皆、よくぞ今まで耐えました。これより我々は、『実戦教導支援隊』として動き出します」

 

 通信は艦娘達の真剣な顔が映る。

 

 その後ろにはお菓子の山とか、酒の空き瓶とか、色々と転がっていたが。

 

「そろそろ、長い休みも飽きたころでしょう? これからは思う存分に戦って薙ぎ払って、相手を殲滅しなさい」

 

 ルリが拳を握って突き出す。

 

 一番、我慢できなかったのは彼女かもしれない。

 

 いやもっと我慢できなかった馬鹿がいたが、幸いにも今はいない。

 

 決算の時期と重なって良かったのか、悪かったのか。

 

『え? アイリス?!』

 

『皇帝の承認が必要なのよ!! いいから来なさい!! ルリ! ちょっとこの馬鹿を借りるから!!』

 

『ごめんなさい、ルリ。すぐに返しますからね』

 

 女性二人に襟首つかまれて連れて行かれる姿を思い出し、良かったことにしておこうと決めた。

 

『どうぞ、ごゆっくり』

 

『甘えてあげるわよ!』

 

『まあまあ、なら私も』

 

 あの意地っ張りなアイリスが、本音もポロリとこぼすほどに何かったのか、と疑問に思うが。

 

「全員、再度の通告します。『血の十字架の名の元に我らが主の前を塞ぐすべてを沈黙させなさい』。各自、全武装使用自由」

 

『よっしゃぁぁ!!』

 

 いの一番に喜ぶのは天龍か。

 

 彼女がこの半年で最も伸びたのだから、狭い訓練場ではなく広い戦場で戦えるのを喜んでいるのかもしれない。

 

 いや、伸びたというならば全員がそうだろう。

 

 確実に技量は上がっている。練度ならば全員が突破しているのだろう。

 

 特に、電は、信じられないくらいに上がっている。

 

 吹雪と暁の二人組と対しても、防戦一方ならば二時間は耐えられる。

 

「よろしい。では、八丈島鎮守府改め『高天原』浮上」

 

 ルリの号令を受け、海底に潜んでいた巨竜が浮かび上がる。

 

 元々人工島だった八丈島を、そのまま移動用要塞基地にするアイディアはあった。

 

 拠点が固定されているのは、メリットとデメリットがあるもので、どちらかといえばテラ達からすると、デメリットだらけに感じる。

 

 ならばいっそのこと移動用拠点にしてしまうか、と考えて妖精やバッタと画策していたところ、『え、新しく作るんじゃないの?』とテラが言い出したことにより、島部分は作り直して鎮守府や街といった設備を移した。

 

 『久しぶりに仕事しました』と、バッタ達はとても喜んでいたが。

 

 海面へと影が伸びる。

 

 色々と考えた。

 

 移動用拠点として、どのような形にするか。

 

 島の形にこだわるつもりはないが、かといって他の形となると、アイディアは豊富にある。

 

 ゾイドのウルトラザウルスとか、アルヴィスとか。

 

 マクロスのアイランドとかも捨てがたい。

 

 色々と悩んでいたルリだったが、それは解決した。

 

 悩んでいた彼女を置き去りに、テラが馬鹿をやったから。

 

「『高天原』浮上しました!」

 

 海面に出たそれは、『とても奇妙な形』をしていた。

 

 いや、本体だけ見れば箱だろう。船の上に長方形を乗せた、屋形船が最も近い形をしているのだろうか。

 

 船の左右には、巨大な恐竜が寄り添って首を上げ、それらに負けないほど大きな砲身二つが天をにらむ。

 

「・・・・・・・本当に相変わらず変ですよね」

 

 大淀の呆れた様子に、ルリは激しく同意を示す。

 

 何処の世界に、全長10キロの箱型船体の左右に、大型化したウルトラザウルスをつけて、グラビティカノン二連装を装備させる要塞を考える馬鹿がいるのか。

 

 そもそも、この船体単体でも移動可能なのに。

 

 操作性が悪いとか、速度が出ないとか、そんなことを考えるくらいなら、移動要塞型の拠点など作らなければいいものを。

 

「ネタに走らないだけましでしょうね」

 

 テラが最終選考に残したアイディアに、『ソレスタルビーイング号』とか、『エルトリウム』とかあったから、まだ常識の範囲内だろう。

 

 『ウィル』級やアルカディア級の設計図を出そうとして、止められた形跡はあるが。

 

 まだ、大丈夫。

 

 ルリは無理やりにそう思い込むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い長い、本当に長い休みだった。

 

『とりあえず、最初なのでちょっと突撃してきなさい』

 

 適当だなぁと呆れながら、彼女は右手の武装を動かす。

 

 提督が試験した武装は、ちょっと細工を変えた後に正式製造。

 

 二つの砲身と近接用の刀身。さらに外側に小型の楯をつけた武器は、五式連結砲と名前を変えて、右手に収まっている。

 

 砲身を前に、回転させて刀身を伸ばして近接武装へ。

 

 動作に問題なし、装填に問題なし。

 

「うん、いいね」

 

「本当に時雨ってそういった『ゲテモノ』武器が好きよね」

 

 後ろから呆れた声がして振り返れば、同じく出撃準備している陽炎が、半眼でいた。

 

「そうかな?」

 

「私には無理ね。主砲と魚雷だけで十分だから」

 

 後はこれね、と陽炎は後ろ腰の剣を叩く。

 

「僕からしてみたら、それも十分にゲテモノなんだけど」

 

「何でよ? これは単なる普通の剣じゃない」

 

「普通の剣は、連結刃にはならないんじゃないかな?」

 

「提督の剣はなるわよ。吹雪さんのはならないけど」

 

 あの人のも、かなり凶悪な能力があるじゃないか、という言葉を時雨は飲み込む。

 

 最近、吹雪が自分の噂で落ち込んでいるのを知っているから、迂闊に言葉にしたくない。

 

 鬼神の導と、言われていたなんて。

 

「こっちの準備は完了ね。そっちはどうなの、霞、曙?」

 

 陽炎が話題を変える。

 

 彼女も自分の発言が、吹雪にどういった影響を与えるか、思いついたらしい。

 

「問題ないわよ」

 

「大丈夫じゃないの」

 

 普段どおりに答える二人。

 

 しかし、だ。その全身が震えているのは、何なのだろうか。

 

「本当に大丈夫? 初出撃ってわけじゃないでしょ?」

 

「当たり前じゃない。でも、相手は姫級もいるって言うから」

 

 霞が少しだけ顔を俯かせる。

 

 最初の強気な姿勢は何処へ行ったのやら。

 

 あの吹雪の教導から、彼女は時々の実戦前に気持ちを落とす。

 

 曙も同じだが、彼女の場合は『特定の状況下』だと平然とする。

 

 特定の状況下―吹雪が一緒だと、まるで散歩に行くように平然とする。

 

「たかが、姫級よ」

 

 不安を陽炎が一蹴する。

 

 元八丈島鎮守府所属、現『実戦教導支援隊』。

 

 同じ血の十字架を掲げる集団において、姫級の一隻や二隻は、単艦でも倒せて当たり前だ。

 

「二人は怖くないのよね。倒したことあるんだから」

 

 曙の言葉に頷く。

 

 陽炎も時雨も、倒したことはある。

 

 しかし、あの時は周りに戦艦や空母がいた状況で、今のように駆逐艦四隻だけではない。

 

 戦艦組も空母組も、今回は別方向への出撃で全員が出払っている。

 

 辛うじて吹雪と暁、瑞鳳がいるくらいか。

 

「気楽に行こう。単独行動じゃないんだから」

 

「そうそう、気負ってもいい結果は出ないわよ」

 

 時雨が優しく、陽炎が陽気に励まして、歩きだす。

 

『第三部隊、出撃用意。目標海域にて深海棲艦に囲まれている艦娘を救援、その後に戦場補佐を行いなさい』

 

「出番だね」

 

「久しぶりの実戦ね」

 

 ニヤリと笑ってしまう。

 

 元々、戦いを楽しむ性質ではなかったのに、この鎮守府に所属してから戦うことが楽しく感じる時がある。

 

 戦闘狂ではないらしい。テラや提督曰く、『それは人を助けられることへの喜びでしょう』とのことだ。

 

「ほ、本当に行くの?」

 

「助けを求めている子がいる。君は見捨てるのかな?」

 

 まだ動きだせない霞に、時雨は冷たい目を向けた。

 

 彼女の不安も恐怖も理解できる。けれど、共感はできない。

 

 もっと怖くて不安で苦しい思いをしている子が、助けを待っているのだから、立ち止まってなんていられない。

 

「来なくてもいいけど、次の時にもっと辛くなるだけだから。それだけは言っておく」

 

 陽炎は振り返らずに進んでいく。

 

「行くわよ」

 

「誰も行かないなんて言ってないじゃない」

 

 霞と曙も歩きだす。

 

「それでこそ、血の十字架を掲げるものよ」

 

 陽炎が手を挙げて、振り下ろす。

 

 じゃ、殲滅しようか。誰ともなく言い、四人は空を舞った。

 

 戦闘後、陽炎はルリへと報告書を出す時に付け足す。

 

 『出撃ハッチは、海面に接した場所にしてください。カタパルトで放り投げられるのはもう嫌です』、と。

 

 

 

 




新しい日々、新しい場所。

様々に移り変わる中、それでも変わらないものもある。

例えそれが、最初から変わっていたことでも。

今はそれが普通なのだから。

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