暴走中、迷走中。
引き返さない、突っ走る!
艦娘とはいえ、女の子。だから、色々な子がいる。
強くなって喜ぶ者もいれば、怖くて泣いてしまう子もいる。
それに、同じ姿をしていても、育ち方によっては考え方も違ってくる。
基本的な根っこは変わらない。何処の鎮守府でも変化はない。
しかし、それはここでは当てはまらない。
「むう」
鏡の前で一回転。決めポーズまでしてみたのだが、どうにもしっくりと来ない。
別のを、とクローゼットの中を確認してみるが、どれも似合わないように錯覚してしまう。
ズボン系は駄目だ。やはりスカートにしよう。
引き出しの中を確認。しかし、どれもパッとしない。
買い物に行くべきか。いや、明日から出撃だ。時間はあまりとれないだろう、と彼女は予想する。
『実戦教導支援隊』となってから、ここの勤務体制は大きく変更となっている。
業務形態は三つに分けられ、出撃、待機、休暇だ。
出撃は救援信号や、あるいは海域調査、海域制覇、他の鎮守府への教導などを行う。
待機は『高天原』内部に残って、万が一近海で深海棲艦に遭遇した時の撃破、あるいは装備試験や書類仕事などを行う。
休暇はそのまま休むことで、その時間をどう使おうと各自の自由。
自主訓練などには特に禁止事項はなく、各自が好きな時に行っていいことにした。
もう吹雪や暁のようなバカなことをしないだろう、とルリが信じたためだが、不安を隠せなかった。
『本当に大丈夫ですよね?』と、質問するくらいに、不安だったらしい。
「むう」
悩む。
色合いは問題ないが、デザインがちょっとかわいすぎないか。
靴や小物に合わせて買ったつもりなのだが、実際に出かける前になると合わないように錯覚する。
本当はそんなことないのに、だ。
「まだ、不知火?」
「もう少し待って」
呆れた顔で見ているのは、一緒に出かけようと約束した村雨だ。
彼女も私服姿で、ベッドに腰かけて足をバタバタさせている。
膝下まである青いスカートがめくれて、扇情的な太ももが見え隠れしているのだが、ここには同性しかいないので問題ない。
「けど、本当に不知火って休みの服装に拘るよね~」
「女の子なので」
「私だってそうだけど、そこまで拘らないよ」
「前に二時間、試着室で大騒ぎしていたのは、何方でしたか?」
グサリと村雨の胸に突き刺さる。
あの時は不知火はすでに洋服も選び終わっていたから、時間の進みがとても長く感じた。
特にお気に入りの一品を買った直後だったので、早く合わせたくて仕方がなかった時だったので。
だから、今回は村雨に待ってもらう番だ。
「でもさ~、今日は阿武隈と待ち合わせしてるんだから」
「雑貨屋さんが新しくできたって話でしたね」
もう一度、着替えて鏡の前に。
膝上のミニスカートに変えてみたが、こちらの方がいいだろう。
後はストッキングでも履いて、合わせてみよう。
「お待たせしました」
「はい、はい・・・って、不知火、本気?」
「なんでしょう?」
「ああ、うん、不知火がいいならいいんだけど」
苦笑している村雨に、不知火が小首をかしげた。
黒のミニスカートに黒のストッキング、なのに上着が水色のジャケットっていうのは、どうなのだろう。
小物のバッグがピンクの花がらの赤い布地っていうのも、彼女のセンスを疑ってしまう。
元々、不知火のセンスは微妙だったな、と村雨は内心で思うのだった。
その後、合流した阿武隈から『それはないです!』と大声でダメ出しを貰い、真っ先に洋服屋さんに直行したのだった。
「不知火に落ち度でも?」
「全身」
「全部」
「・・・・・グスン」
クールに言ったところで、決まらないものは決まらない、と。
憧れがあった。
生まれたときから、生まれる前から、ずっと胸の中に燻っていたものが、確かにあった。
手の届かないことだと知っている。
決して叶わない願いだと。
他の『私』は、今も信じて願って、叫んでいるのだろう。
いつか成れると、信じて叫んでいるのだろう。
願い信じている間は幸福だ。
憧れがあるのは、とてもいいことかもしれない。
けれど、それが叶ってしまったとき、誰もが次の目標を探すのだろうが、自分の場合はどうなのだろう。
『戦艦になりたい』、かつて彼女―清霜はそう叫んでいた。
『緊急通信が入った海域に突入。わりと近海ですね』
耳から流れる提督の声を聞き流しながら、彼女は突き進む。
「速いって!! 清霜! 速度落とせ!」
「あれ?」
振り返ると、遥か遠くに仲間が見え隠れしている。
何故だろう、何時も通りに進んでいたのに離してしまった。
「おまえは今、『テラさんの専用艤装』を試験装備中だろうが!!」
「ああ、そっか。でも、速いならいいじゃないの?」
再び進撃開始。
「清霜~~~!!」
『放っておきましょう。相手はレ級二、ヲ級二、イ級八なので、清霜単艦でも大丈夫でしょう。浜風、くれぐれも相手の鎮守府の識別コードを聞き忘れないように』
『はい、解りました。艤装や武装の使用許可は?』
『全兵装使用自由。相手側が六隻の最大編成なので、連合艦隊を組んで再び海域へ突入。中破がいた場合は速やかに撤退を』
『了解しました、提督』
『代行です。では、長波、嵐、萩風。浜風の言うことをよく聞くように。荒潮、引率をお願いします』
『お任せください』
通信が閉じられる。
後ろの五人には悪いとは思うが、速度を緩めるつもりはない。
一歩でも一秒でも早く。
今も泣いている誰かのために、突き進む。
『よぉし!! 嬢ちゃん、射程距離に入ったぞ』
「撃て!」
『砲撃開始!!』
レ級とヲ級に砲弾を叩きこむ。
相手が驚いた顔で振り返る最中に突き刺さった砲弾が、そのまま相手を吹き飛ばした。
「まだまだぁぁぁぁ!!」
『推進機出力3割。増速!』
グンっと、体が引っ張られる。まるで空を舞うように、海面を進んでいるとは思えない速度で突き進んでいき、やがて敵集団を通り過ぎた。
「あれ?」
『嬢ちゃんよ!!』
『清霜、そのまま味方艦隊へ到着を伝えて。通信機器が故障して、送信しかできないみたい』
「ラジャー」
浜風から指示を受けて、そのまま救助を要請してきた味方艦隊へ合流。
相手側へ所属を伝えていると、見知った顔が目をキラキラさせてこちらを見てきた。
「本当に戦艦に成れるんだ!!」
「え、えっと~~私は駆逐艦のままだから」
「駆逐艦で三連装の主砲を持っている子はいないはずだよ! よぉし、もっと頑張って貴方みたいな戦艦になるね!」
キラキラとした顔で伝えてくる自分と同じ顔の子、他の鎮守府の清霜に、説得は無理かと諦めたのだった。
その後、加勢した艦隊と連合艦隊を編成、再度の敵海域へ侵入。
適度に敵を削りつつ、相手側の練度を上げた後に分かれた。
『高天原』へ戻ったとき、清霜はふと思う。
「あれ、私って戦艦になっていたのかな?」
「え?!」
ドックにいた全員が一斉に振り返るので、清霜はさらに疑問を浮かべた。
「今更? 今更なのかぁぁ!!!」
長波が詰め寄り、浜風が呆れたように溜息をつく。
「え、え? 何時から?! 私は何時から戦艦になったの?」
「テラさんの艤装が使えて、その上で第零種を起動させた時からだろうが!」
「あ、ああ」
思い返せば、自分の第零種の艤装は、百センチ連装主砲五基と四十センチレールガン搭載の戦艦タイプ。
徹底的に、火力で押す。
航空機など対空火器と主砲で粉砕。
潜水艦は、主砲で海中を切り裂いて、爆雷のように圧殺。
「憧れが叶ってよかったね」
萩風のお祝いの言葉に、清霜は少しだけ考え込んだ後、とんでもないことを言いだす。
「じゃ、次はテラさんみたいになる」
「いや無理だから」
「ええ?! 私が戦艦になれたんだから、きっと成れるよ!」
決して譲らない。
絶対に叶えてみせる。
そんな気持ちを前に出す彼女に、誰もが『それでも無理だろう』と思ったのだった。
その後、他の鎮守府では清霜は成長のさせ方次第では、駆逐艦の資材で戦艦並の装備ができる、と噂になるとかならないとか。
「妖精たちが暇そうだったので、試しでやってみたのですが。止めておけばよかったでしょうか?」
「提督、今更だと思います」
「でしょうね。後、大淀・・・・・・私は代行です」
ピシリと指さすルリに、大淀は軽く説教をしたらしい。
クシュンと小さく音がした。
誰がと加賀が視線を巡らせると、遠くの方で小さく身を屈めている子が。
「サラトガ?」
「はい、姉さん。どうしました?」
素早く直立に、真っ直ぐに立つ彼女は凛としていてとても美しい。
しかし、だ。その姿勢のまま、真っ直ぐに自分のところに近づいてくるのは、とても怖いものがある。
「先ほどくしゃみをしたの?」
「ああ、ごめんなさい。姉さん、昨日は少し夜更かしをしてしまって。そう、楽しい教本が読み終わらなくて」
百面相か、それとも感情的なのか。
この子は着任当初から、笑顔で笑顔で、とても表情豊かで。
自分とは正反対なのに、どうして姉と慕ってくれるのか。
加賀型五姉妹の末妹、サラトガ。日本艦じゃない時点で、姉妹とは言えないのだが。
前にそう言ったら、号泣して座りこんで、二時間ほど動かなくなった。
貴方、弓を使わないでしょう。
何故、弓道場で弓を使っているの。
見ていて気持ちいいほど、的を外しているのに。
「貴方が勉強熱心なのは、とても誇らしいことです。しかし、体調管理も艦娘にとっては大切なことよ」
見かねたのか、それとも面白いものと感じたのか、翔鶴が慰めに入った。
その向こうでは、瑞鶴と蒼龍が静かに弓を引いている。
あちらの二人はマイペースだから放っておこう。
「申し訳ありません、翔鶴姉さん。けれど、私は弓の技量が低いので、もっと頑張りませんと」
「一か月で日本語を完璧に覚えた貴方なら、すぐに上達するわ」
「いいえ! ここで甘えていては加賀型五姉妹の末として、姉に顔向けできません!」
真顔で語る彼女に、本当にアメリカの船かと質問したくなる。
「だからこそ! 見ていてください、加賀姉さん! 今からこのサラは見事に百本の稽古を行います!」
ギュッと拳を握って宣誓する彼女に、それはやり過ぎだと加賀は思う。
「ほどほどにしておきなさい」
「いいえ! いくら姉さんの言葉でも、ここは譲れません。さあ、いざ!」
必死な覚悟で弓を行う彼女は、一歩も引かない覚悟で決意を込める。
仕方がないか、と加賀は思った。
自分の訓練は終わっているが、せめて彼女が納得いくまで待っていてあげよう。
道具を片付けたあと、加賀は訓練場の隅でサラトガが気が済むのを待つ。
「貴方達は先に戻っていなさい」
「姉が残っていて戻れる妹はいません」
「右に同じです」
「姉達がいるなら、私も」
結局、何時も通り。
昼間の訓練では五人そろって訓練して、五人そろって寮へ戻る。
変わらない風景、何時もと同じ変哲のない毎日。
尊いことだと加賀は思いながらも、一本も的に当たらない矢に、不憫を感じてしまう。
「あれだけやって一本も?」
翔鶴が驚きに目を見開くが、何時もと変わらない。
「うわぁ、これは」
蒼龍の開いた口がふさがらない。
「才能よね」
瑞鶴、それで片付けたらさすがに可愛そうでは。
「加賀姉さん! 私はどうして弓道の才能がないのでしょう?!」
「いや、貴方の艤装は弓を使わないでしょう?」
「どうしてなのですか?!」
「話を聞きなさい」
大泣きするサラトガに、加賀は呆れたように告げるのだった。
結局、その日は千本以上の矢を放ち、的に当たったのは無。
見事に才能がないサラトガだが、これは弓だからだ。
銃となると、的を六つ並べて、しかも動かしたとしても真ん中に命中させるのだから、誰もが困惑してしまう。
何故、この腕前があって、矢が当たらないのか、と。
「どうしてなのかしら?」
「私に聞きますか?」
「提督ならご存知では?」
「貴方達が私をどう思っているか、面談を行うべきですね」
何でもかんでも自分に質問すれば答えが出てくる、と最近の艦娘達は思っているらしいので。
誰かのために、何かをすることに、喜びを感じる。
あの人のために。
笑顔のために。
あるいは、信念のために?
そんな、自分を誇れるだろうか