艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

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少しでも楽しんでいただければ、幸いです。

またです。

ブラックコーヒーありますか。

まあ過ぎます。

怖いです。


幕間2 常識外れの?

 

 ジョーカー帝国において、皇帝は飾りでしかない。

 

 実際に帝国の運営を決定しているのは皇妃であり、皇帝はその政策に口を挟んだことはない。

 

 しかし、帝国の最高権力者が皇帝なのは、揺るぎない事実。

 

 書類の最後のサインは、皇帝が行わなければならないのは、当然のこと。

 

「だからっておかしいと思わない?」

 

 アイリスは書類を持ち上げて、溜息をつく。

 

「そもそもよ? 普段から政策に携わっていないのに、最終的な決定権を持っているのは、明かにおかしいでしょう?」

 

「まあ、この国はテラが言い出してできたのですから」

 

 アセイラムが宥めるのだが、アイリスは止まらない。

 

「ええ、そうね。確かにテラが言い出してできたのだから、皇帝はテラがやるべきね。けれど、あの馬鹿に勤まるなんて、誰が考えたのかしら?」

 

 室内を見回す彼女の視線に、誰もが答えずに沈黙を守る。

 

「そもそも、誰が言い出したの?」

 

 さらに念押しに、全員の目線が真っ直ぐに返ってくる。

 

 時に目は口以上に言葉を語るというが、全員からの無言の返答にアイリスは思い出す。

 

「昔の私の馬鹿」

 

 グッと拳を握って、堪える。

 

 確かに言ったのは自分だ。『言いだしたのだから責任取りなさい』と。

 

 あの時は、『これでテラも落ち着くでしょう』とか甘い考えをしていただけなのだが。

 

 落ち着くどころか、悪化してしまったが。

 

「とにかく、このききゃい?!」

 

「きゃい?」

 

 言葉の途中で妙な悲鳴が混ざり、何があったのかとアセイラムが見つめ直すと、原因が軽くピースしている。

 

「いぇーい」

 

「テラ!!!」

 

 机に突っ伏していたアイリスが体を起こし、『自分の後ろにいるテラ』に食ってかかる。

 

「何したの?!」

 

「舐めた」

 

 即答。

 

 一瞬のためらいも戸惑いもなく、即答する馬鹿が一人。

 

「何してるのよ!」

 

「いやだって、さっきから目の前をチラチラと、美味しそうな項が見えるからさ、思わず」

 

「だから何で?!」

 

「いやなんでって。そもそも、アイリスが俺の膝の上に乗っているからじゃないの」

 

「だから何よ?」

 

 半眼で見てくる妻に対して、テラは嫌な予感がして顔を反らす。

 

「乗っているから何かしら? まさか、天下の『神帝』様は、たかが女性の項程度で動揺するの?」

 

 軽く挑発。もう今までの色々なことの恨みが、そのまま載せられたような眼差しに、テラは軽く首をかしげた。

 

「もちろんです」

 

「あんたにはプライドってものがないの?」

 

「ない、いいかげんに降りないとお持ち帰りにするぞ」

 

「どうぞ。なんといっても、私は貴方の妻ですから。なんなりとお持ち帰りください」

 

 とてもいい笑顔で告げながら、アイリスは姿勢を変える。

 

 背中ではなく正面に、テラの首に両手を回して、妖艶な笑みを浮かべ。

 

「いかが、旦那様?」

 

「じゃ、お言葉に甘えて」

 

「へ?」

 

 素早く立ち上がったテラは、そのままアイリスを御姫様抱っこして歩く。

 

「セラム、二時間くらいで戻る~~」

 

「はい」

 

「ちょ?! まって! セラム止めて! 雪菜!! 笑ってないで止めなさいよ、ロゼ!! ああもう! 誰か止めてぇぇぇぇ!!!」

 

「挑発した貴方の責任ですよ、アイリス」

 

 フッと消えるように姿を消した二人を見送った後、アセイラムは静かに黙祷した。

 

 室内にいた皇妃全員が、自然と黙祷を捧げた。

 

 一年、ほぼ接触がなかったテラを挑発したのだから、きっとアイリスは明日まで動けないだろう。

 

 疲れきってか、気絶してかは知らないが。

 

「アイリスの尊い犠牲により、テラの発散は終わりましたので」

 

「ああ、うん、そうだね。なんであいつって、こう極端なんだろ」

 

 ロゼががっくりと肩を落とす。

 

 それはこちらが聞きたいと、アセイラムは思う。

 

 女好きではないが、愛した人は大好き。大切にするのに、時々は暴走するのは、きっと一族の呪故だろう。

 

 子孫を残し、すべてを伝え、最愛の人を護るために。

 

 この場合、最愛の人の定義は、個人個人によって曖昧になるらしいが、共通するものがある。

 

 もし最愛の人が護れなかった場合、その者は必ず死ぬ。

 

 例外はない、護れない者に価値などないと、速やかに首を落とす。

 

 それが彼らの一族の呪。

 

 千年の寿命を持ちながら、八十年で使い切るほどに苛烈に生きる彼らの中でも、最も強烈な自己批判の果て。

 

「では、決算も終わりましたので、後は自由ということで」

 

「セラム! 道連れは必要でしょう?」

 

「え?」

 

 いつの間にか背後に出現したアイリスによって、彼女も連れて行かれたのだった。

 

 その後、二時間後に戻ってきたテラは、執務室の机を見回して落胆したのだった。

 

「俺の仕事がぁぁ」

 

「残しておくわけないです」

 

 雪菜の一言が、止めになったとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジョーカー帝国の主星の帝都、そこには城がない。

 

 政庁らしいものはあるが、皇帝や皇妃用の居城はない。

 

 住む場所は『ヴァルハラ』の『神帝城』にあり、政庁内部には執務室といった公的な部屋のみ。

 

 皇妃それぞれが抱える騎士団は、『エデン』のそれぞれの母港に収納され、帝都には旗艦用にドックがあるだけで、他にはない。

 

 当初、これには帝国軍や政治家から色々と言われたが。

 

「そんな余分なものに資金を使うくらいなら、もっと他に使うべきところがあるでしょうが。家とか部屋なんて眠れればいいの。施設よ、公共機関、教育機関、医療機関、福祉施設。ほら、いくらでもあるじゃない」

 

 言ってくる人は皆、アイリスの正論で戻っていったが。

 

 ちなみに、帝国軍本部や、帝国警察機構本部、帝国情報局本部といったものは、主星の各地に分散されており、総会議時のみ、帝都に集まる。

 

 民間人及び民間企業の、一切の立入禁止領域として。

 

 反乱した場合、周辺一帯ごと、消滅させられるように。

 

「というより、あの馬鹿のための城なんて一つで十分でしょうが」

 

「本音を出すのは、身内だけの時にしてください」

 

 ポロリと言ってしまうアイリスに、ユイがため息交じりに忠告したのは、いい思い出らしい。

 

 夢が終わる、その瞬間に浮かんだ思い出に、彼女は小さく微笑む。

 

「お、起きた」

 

「え? あれ?」

 

 ユイは、目の前にいるテラの顔を見てから、自分の格好を見て、さらにテラを見た後に体を隠すようにシーツに潜る。

 

「お、おはようございます」

 

「はいはい、おはよう。先に行くよ~~」

 

「はい、着替えてすぐに行きます」

 

「なんで敬語?」

 

 疑問一つだけ置き、テラはすぐに部屋から出て行ってしまう。

 

 はうっと息を吐き、グッと背伸び。

 

 昨夜はテラが泊まったのだったと思い出し、だから昔の夢を見たのかと結論を出す。

 

 今日は一日、御休み。

 

 アセイラムとアイリスの二人が動けないのは、確認済み。

 

 確認した深雪曰く、『容赦のないのは、昔からですね』、とのこと。

 

 具体的な内容も聞きたいかといわれ、ユイは首を振った。

 

 容赦ない時のテラは、本当に容赦ないらしい。

 

 自分はまだ体験したことはないが、アセイラムとアイリスはそろって同じ言葉で表す。

 

「愛情という名で隠れた猛獣」

 

 呟いた途端に寒気がして、首を振って振り払う。

 

 今は忘れてしまおう。

 

 急いで着替えて追いかけないと、テラがふらふらと何処かへ行ってしまうから。

 

 手早く着替えて室内を出ると、珍しくテラは廊下で待っていた。

 

「え、あの・・・・・・テラ?」

 

「ん~~」

 

 彼は無言で歩いて来て、ポトリとユイの肩に顔を埋めた。

 

「どうしました?」

 

「ユイの体に俺の残り香つけた」

 

「・・・・・・・テラは時々、私たちを撃沈しにかかりますよね」

 

 一瞬で恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。

 

 彼は時々、こんなことをする。

 

 素で言っているらしいのは、幼馴染二人からの証言で知ってはいるが、時には裏があるのではと疑ってしまう。

 

「うん、俺だけ撃沈されたままじゃ『しゃく』だから」

 

「撃沈しましたっけ?」

 

「惚れてますから・・・・・愛しているよ、ユインシエル」

 

「ああ、なるほど。私もですよ、テラ」

 

 彼は『知っているよ、ありがと』と言いながら、体を離した。

 

 僅かに残る温もりが、とても残念であり、離れてくれてドキドキが収まるからと安心した。

 

「朝飯にしようか」

 

「そうですね。今日は、何が出てきますか?」

 

「あ~~今日の調理番は誰だって? あれ、調理番ってまだやっているの?」

 

「やってますよ。今日はそうですね、葵でしたよ」

 

「なら大丈夫。葵は料理上手だから」

 

 軽やかに笑う彼に、穏やかに微笑みを向ける。

 

 彼のいない日々は楽しいことも、何処か物足りなくて。

 

 彼のいる日々は、とても心から安らいでいく。

 

 初めて会ったあの日から、ずっとそう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガシャンと音がした時、テラは全身が震えた。

 

「え、え?」

 

 朝ご飯は奏が存分に腕を振るった料理で、久し振りの奥様の手料理で嬉しくて楽しくて。

 

 朝食が終わった後に、軽く散歩して歩いていたら、前からクトリが嬉しそうに手を振ってきて。

 

 両手に手錠をかけられた、と。

 

「・・・・・・ちょっと待って、何してんのクトリ?」

 

「え? 逃げないように逃がさないように手錠した」

 

 当たり前のこと聞かないでよ、と顔に書いてありそうな彼女に、テラは前にルリと話したことを思い出す。

 

 やはり、クトリの愛情は重い。

 

 大切なものが、大切な家族が、すべて消えて行ってしまったから、大切なものを失う痛みを一番、知っているのだから。

 

「俺、まだ戻らないと」

 

「何で? 戻る必要があるの? テラはここにいればいいんだよ。別の世界なんて関係ないじゃない」

 

「約束がある」

 

「関係ない、私には無関係。テラはここにいて」

 

 真っ直ぐに見詰めてくる彼女の瞳は、何処までも澄んでいた。

 

 これで濁っていたら、『ヤンデレ』とかになるのだろうが、彼女は純粋にそう思っていた。

 

「ごめん、約束を破りたくないから」

 

「私たちより重いもの?」

 

「それはない。クトリ、怒るよ」

 

「はぁ・・・・・・・私だって怒りたいんだけどな」

 

 溜息一つ、その後に彼女は手錠を外した。

 

「ありが・・・・」

 

 言葉の途中で、口を塞がれた。

 

「貴方を殺してしまえば私だけのものに出来るのに」

 

 温もりが離れた時に、置かれた言葉はとても印象深いもので。

 

「けど、貴方を殺してしまったら、私の世界が終わってしまうから」

 

「だから、貴方を殺す前に私を殺して・・・・・・って、なんでテラが最近のドラマのセリフを知っているの?」

 

「え? 前にクトリが面白いって言っていたから、見ておいた」

 

「そっかそっか・・・・・・・私の本心、そこだからね」

 

 念を押すようにクトリは指さす。

 

「俺はクトリを殺したくないなぁ」

 

「私だってそうだよ。テラを殺したら、自殺する間もなく八つ裂きにされるから」

 

 誰にとは言わない。

 

 クトリは近接戦闘能力が高いが、それでも雪菜には劣る。

 

 魔法も使えるが、メテオラや深雪に勝てるほどじゃない。

 

 騎士団を持ち出したとしても、きっとユインシエルが抑え込む。

 

 何より、彼女の刃ではテラ・エーテルは殺せない。

 

 彼女の『フェアリー騎士団』では、『サイレント騎士団』の前衛も突破できない。

 

 だから、想いだけを彼の中に残す。

 

 これだけは、誰にも防げないし、防がせるつもりはないから。

 

「必ず戻ってくるんでしょ?」

 

「もちろん」

 

「浮気は許す」

 

「え、そこは許さないって言うところじゃないの?」

 

「もう一人や二人は増えそうな予感がするって、言っていたなぁ」

 

 大げさに天を仰いだクトリに、テラは何も言い返せなかった。

 

 その後、彼女と少しだけ散歩した後に、テラは戻る。

 

「多妻の時点で、浮気とか関係ないか」

 

 最後の最後に、とても凄い言葉を言われたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逃げこむ場所があることは、とても嬉しいことなのかもしれない。

 

「で、私のところ? まったく、私は貴方の妻になったけど、駆け込み寺にはなってないんだけどなぁ」

 

 葵は少しだけ頬を膨らませる振りをして、チラリとテラを見つめる。

 

 体に変化なし、欠損は見られず。ただ、妙な能力が付随している、か。

 

「ごめん、恩にきます」

 

「本当にそう思っているの?」

 

 怒ったふりを続けながら、さらに細かく『見る』。

 

「葵さ、実は言ってないことがある」

 

「ん、何?」

 

「実は葵が能力を使うと、『目が虹色』になる」

 

「嘘?!」

 

 まさかと鏡を見つめるが、瞳の色に変化はない。

 

 そもそも、だ。能力を使用して瞳の色が変化するなら、最初の頃に指摘されて訓練されるはずなのに。

 

「テラ、騙したの? 追い出しましょうか?」

 

「ごめん、悪かった。申し訳ない」

 

「まったくもう。でも、何で私のところ? 逃げるなら、クルルのところとか、後はエミリアのところでもいいんじゃないの?」

 

 『ヴァルハラ』最奥にある場所に何時もいる、エミリア・アークドライブ・エーテルは、防御系や妨害系の技能を得意としているため、彼女の傍にいると他の騎士団や奥様の追跡を逃げることができる。

 

 今回の場合、彼女が協力することはないだろうが。

 

「ん、行ってきたら、大泣きされた。で、慰めたけど、居づらくて」

 

「それで私のところね。私だって言いたいことあるんだけど?」

 

「でも、葵は言わないじゃない?」

 

 まあ、確かに。

 

 相手を気遣いとか、テラが疲れているとかではなく、テラが馬鹿で言ったところで無意味だと悟ったから。

 

 後は、そんなバカなところが好きだから、忠告しないのかもしれないが。

 

「それで、何時までいられそう?」

 

「すぐに戻るよ。あっちにはルリちゃんもいるから」

 

「解った。でも、なるべく早く戻ってね」

 

 さびしいから、という言葉を飲み込む。

 

 彼には彼の事情があって、決して遊び半分で留守にしているわけじゃないから。だから、自分のこんな気持ちは重荷でしかない。

 

 心の底に押し込めて、上から蓋をして。

 

「戻るよ。俺が寂しいから」

 

 でも、彼はそんなもの関係ないように、蓋を取り除く。

 

 言いたいことも、言われたいことも、解ったように。

 

「なら私から言うことはなし」

 

「ん、そっか・・・・・・じゃ俺から」

 

 何を、と質問する途中で、葵は口を閉じた。

 

「よっし、元気が出た」

 

「ああ、そう、うん、別にいいけど」

 

 唇を抑えて、葵はそう告げるだけで精いっぱいだった。

 

 まったく本当にこの人は、不意撃ちが得意なのだから。

 

 いや、誰かの悪癖がうつったのかもしれないが。

 

「じゃあね、葵。また後で」

 

「はいはい」

 

 手を振って退室するテラに対して、奏は俯いたまま手を振った。

 

 顔が赤面してあげられなかったわけではない。

 

 絶対に。

 




日々、色々なことがある。

一日だって同じ日はない。

だからこそ、毎日が愛おしい。

でも、こんな日は考えてしまう。

もし、平和な時代に生まれたら、自分はどんな人生を歩んだのだろうか、と。

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