少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
暴走中につき、ブレーキはないです。
小さい子に、絶対的な能力って萌えますか?
恨みが消えることはない、と誰かが言っていた。
幾度もやり直し、何度も忘れようとしても。
心の底にくすぶり続ける恨みは、忘れようとする度に増していくだけで、決して消えることはない。
あいつが憎い。
あいつらが妬ましい。
自分の不幸は周りのせいだ。
すべて誰かが悪いから。
憎くて妬ましくて、辛くて。
すべて消えてしまえばいい。
誰もいなくていい。
全部、全て、跡形もなく消してしまえばいい。
あの人も、あの街も、あの場所も、あの国も。
この星さえも消えてしまえば、この胸の炎は消えるのだろう。
だから消してしまおう。
「あ・・・・・・・はははははははははははは!!」
叫ぶだけ叫んで。
泣くだけ泣いて。
後に残った恨みだけが、自分を突き動かす。
白い肌には熱を感じず、赤い瞳には憎しみのみが宿る。
彼女は笑う。
声をあげて、顔を歪ませて。
天を裂くように、笑い続ける。
絶望と狂気を抱えながら、足掻くように進みながら。
「壊せ、すべて消してしまえ」
彼女に従い、多くの影が進む。
憎しみを原動力に、恨みを晴らすために。
復讐といえるのかもしれない。
彼女達は海に沈んだ、無念が形となっている存在。
誰かを恨まなければやりきれなかったから、最後の瞬間には恨みを叫んで消えていった魂が、それでも消えることなく世界に残した残滓。
「進め、進めぇぇぇぇ!」
海を空をすべてを憎んで妬みながら、眼前にあるすべてを壊しながら。
かつて、あった名前も忘れて。
平和な時代に生きたことも、戦争の中にいたことも、記憶の欠片さえも忘れてしまった彼女は、僅かに残った憎悪のために動き続ける。
「貴方の苦しみを、私は少しも理解できないのかもしれない」
声がした。
同時に閃光が走る。
自分に従っていた存在が消える。
「どうしてそんなに恨んでいるのか、少しも解らないのです」
続けるように衝撃が走る。
海も空も照らす閃光の中、待機を震わせるものが走り抜けた。
「でも、一つだけ言えることがあるのです」
影が降り立つ。
巨大な船を二つ従えた少女が、海面に立っていた。
「恨んで消しても、最後には自分自身が憎らしくなって、消えてしまうのです。そんなのは悲しすぎます」
「なんだ、おまえは・・・・」
震える声に、少女は頭を下げた。
「暁型駆逐艦四番艦『電』です。これは私のエゴですから、ごめんなさい。貴方を倒します」
「駆逐艦、だと? そんな駆逐艦がいるわけがない!!」
「ごめんなさい」
小さく呟いた電に呼応するように、船が動いた。
後に残ったのは静かな海面のみ。
誰も残らない場所を見つめ、電は背を向けた。
深海棲艦は、恨みの塊。
救うことは即ち、消すこと。
敵でも救いたいと願う少女がいた。
彼女は必死に願い、決死に訓練して手にした力は、彼女の願いとは逆の力を宿していた。
全長十メートルの船体に反物質を内包した砲弾、重力兵器を搭載したミサイル、空間を削るとるための兵装。
搭載武器だけではなく艦載機も特殊仕様。
明石と夕張が作りだした後に、生み出された虚無の申し子。
アルヴィス型移動要塞、そしてマーク・ニヒトと呼ばれる艦載機。
相手を消すために、恨みも絶望も狂気も、すべて虚無へ消し去るために。
狂った魂を救うために、相手を存在ごと抹消する。
それが彼女―電の『第零種兵装』。
彼女の魂の形。
深くため息をついてしまう。
どうにかしてと、嘆願してくる瞳が一つ。
あの子なら大丈夫だけど、声をかけてと願う瞳が一つ。
平然としながらお願いと言ってくる瞳一つ。
「暁型は仲良しですね」
雷、暁、響の視線を受けながらルリは息を吐く。
予想外だったのは、彼女としても同じだ。
まさか、救いたいと願っていた少女が手にした力が、虚無の塊とは。
戦闘艦が人の命を救うなんて、馬鹿げているからか。
戦争の虚しさゆえに、虚無感といった結論になったのか。
色々と考えることは多いが、今は落ち込んでいる少女のケアが先か。
いや、表面上は普段と変わらないが、時々の仕草が凍りついたようにとまることがある。
性能テストをしていなかったから出したのだが、思ったよりも早計だったかもしれない。
予想がついていたから、今まで起動実験のみで模擬戦も使っていなかったが、これから先の海域では配慮できる機会は少ないため、出してみたが。
完全に裏目に出たか。
いや、とルリは思考を切り替える。
現状はそう悪くはない。
あの個体-確か南方棲姫といっただろうか。明らかに他の深海棲艦とは違っていた。
転生体か、あるいは憑依者か。
いずれにしても、不確定要素は消しておくに限るが。
「私が行きましょうか?」
「いえ、吹雪が行ったら色々と大変そうなので」
気を利かせてくれる彼女を退ける。
貴方の場合、第零種と後ろ腰の剣で、もっと凶悪な状況を作り出しそうなので。
内心の意見を飲み込み、ルリは少しだけ考える。
電は命を救いたい。けれど、深海棲艦を救うためには消すしかない。
矛盾か。
消すことが救いになることを、ルリは知っている。
生きていることが絶望になることも、罰になることも。
ならばいっそのこと、幸福な死を。
まだ電に、そこまでのことを達観させるのは早すぎるか。
彼女のように優しいと、『死こそが幸せである。だから、すべて死ね』とかいった考えに陥りそうだ。
「さてさて」
考えながら歩いたルリは、言葉を考えるのを止めた。
展望デッキから外を見ている電の隣には、テラが立っていたから。
「私は救いたいのです。生きていて欲しいから」
「そっか。電らしいなぁ。でも、深海棲艦はね、恨みの塊だからさ」
「消えるしかないんですか?」
ギュッと拳を握った電が、睨むようにテラを見つめる。
主である彼になんて瞳を。
ルリが少し拳を握るが、彼女の瞳で思考を止める。
彼女の怒りは、テラではなく、自分に向いているから。
「恨みは消えないし、消すことはできない。これはね、人が生まれた時から抱えている問題なんだ」
「だから、仕方がないってことですか?」
「さあ、俺も解らないし。恨みが消えないのは俺の一族がよく知っているからね。でもね、電。恨みってそんなに悪いことかな?」
「え?」
「あいつが妬ましい、あいつら羨ましい。でもこの感情って、実は『だからあいつが消えればいい』じゃなく、『よし自分がもっと頑張ろう』って方向に向けられるんじゃないかな?」
「ふえ?」
論点のすり替え、あるいは価値観の変化。
ルリは話を聞きながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
「ようするに、恨みが何処を向いているかを変えれば、そんなに悪い感情でもないんだって話だよ。相手や回りを憎むんじゃなくて、自分の状況や環境を変えるようにすり替えるんだよ」
「そんなことできるんですか?」
「精神科医とか、精神学、あるいは哲学とかじゃ普通の議題らしいよ。じゃ、電はこれからどうするべきかな?」
「私は・・・・・・話をしてみるのです。貴方が何を恨んでいるのかって、質問します」
「そうだね。そこからだ。で、ダメだったら」
テラは真っ直ぐに電を見つめる。
彼女もテラを真っ直ぐに見詰めた。
ダメだったら殺す、あるいは消すしかないのだろう。
「ダメだったら、虚無の中で少し休んでもらおうか」
「ふえ?」
ああ、そういった言い方もありますね、とルリは嘆息する。
深海棲艦が艦娘になるのは、あまり知られていないけれど事実。
輪廻転生で生まれ変わるなら、『少し休む』になるかもしれない。
「あ、あの、虚無ってそうなのですか?」
「すべての存在の始まりは『無』だからね。そこから少しずつ形を作って『有』になるわけだから、休むに似てるじゃないかな?」
「なのです!」
嬉しそうに笑う電に、テラも微笑みを向けた。
その後、元気に走って行く少女の背中を見送ったテラは、ルリへと顔を向ける。
「論理の転換かな?」
「あるいは発想の変更ですね。テラさん、ありがとうございます。私だとそうはいきませんから」
「ん~~ま、このくらいはね」
軽く背伸びしたテラは、笑顔を止めて真顔を向ける。
「嘘は得意、なんて自慢にならないさ」
「相手を思っての嘘は、優しさですよ」
物はいいようだね、とテラは苦笑したという。
ゆっくりと息を吸い込み、瞳を見据える。
ゆっくりと息を吐きながら、そっと引き金を引く。
放たれた砲弾は狙いを反らすことなく、的を破壊した。
「OK!」
撃破確認、後は突っ込むのみ。
「金剛、止まって!」
後ろからかけられた声で、彼女は自分の立場を思い出した。
敵戦艦撃破。
残りは重巡2と駆逐艦3。
昔の癖で突撃してしまいかけて、今は戦場補佐の最中だと思いだす。
「ありがと、神通」
「いいえ。私にも覚えがありますから」
つい最初の攻撃が命中すると突撃してしまうのは、元『八丈島鎮守府』所属艦娘には多いこと。
最初の一撃で敵の体勢を崩して、続いて相手を各個撃破。
最古参の二人が組み上げた戦術を、彼女達は骨の髄まで叩きこまれた。
艦種が多くなっても、攻撃手段が増えたとしても、根本的ところでの攻撃方法は変わっていない。
多種多様な戦術を採用し、臨機応変に対応したとしても、いざという時は最初に狙撃、続いての突撃・乱戦。
複数の敵味方が入り乱れた場合、同士討ちが発生しそうなのだが、今まで一度も起きたことはない。
それが金剛達の誇りであると同時に、最低条件でもある。
「撃破まで後二隻、順調ですね」
「さすがに練度が上がってきましたね。これなら大作戦までに間に合いますね」
神通の言葉に、金剛は頷く。
軍令部で考えられている戦略。
奪われた海域を取り戻すために、新しく復活した二つの『姫』を撃破する必要がある。
南方と北方。まずはこの二つを打ち取り、中部へと足を延ばす。
まずは北方。
日本本土から近い場所から奪い、鎮守府を作って領海を確保し、徐々に海域を増やしていく。
戦略の大筋は、艦娘にも知らされている。
敵への情報漏洩にならないか、と大淀達が危惧していたが、今のところは敵に変化は見られない。
各鎮守府の艦娘達の練度の向上がこのままいけば、後二ヶ月後には大海令となって作戦開始だ。
「長かったような短かったような」
金剛が戦場を見渡しながら、小さく呟く。
「長かったのでしょうね。海からの脅威に怯えている人たちにとっては、とても長い時間だったと思います」
神通が風に揺れる髪を抑えながら、そう答える。
確かに一般人からしてみれば、長い苦痛だったかもしれない。
だが、自分達―元『八丈島鎮守府』にとっては短かった。
訓練と実演、それに技術向上。
特に提督との戦闘訓練は、『死にかけた』回数のほうが多い。
「提督、厳しすぎますから」
表情から神通は、金剛の内心の苦難を当てる。
「本当ですね。テラさんはあんなにやさしいのに」
「ええ、優しいですね。一撃で撃沈してくれますから」
訓練にならないったら、もう。
気がついたらベッドの上、あるいは入渠中。
教訓も経験もできずに、轟沈させられることがあるとは。
まだまだ高見は遠いということか。
「あ、終わりましたね」
「オーライ! なら戻りますよ、皆!」
「はーい!」
戦闘終了後、金剛の元気な掛け声で教導の終わりは告げられた。
告げる。
終わりを、始まりを。
結ぶ。
必ず静かな海を取り戻す、と。
皆に、仲間に、自分の心に誓う。