少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
戦略ゲームは、苦手です。
暴走中です。
迷走続いてます。
日本海軍の総出撃は、実は最初の一歩からつまずくことになる。
「なんだと?」
議会の承認もある。命令書もある。
『高天原』も準備を終えて出撃している。
しかし、だ。いくら緊急事態とはいえ、いきなり『総力戦だ、行くぞ』と出来るほど、他の鎮守府との連携は作られてはいない。
各地の鎮守府との練度上げや合同演習はやってきた。実戦での連携も何度も繰り返してきた。
だが、同時に出撃ということは一度もなかった。
その上で、まさかこのタイミングでというアメリカへの攻撃。
作戦自体は実施可能にしておくように、と連絡は流れてはいたが、実際に動けるほどの備蓄は各鎮守府にはまだ揃っていなかった。
『よし行くぞ』で動けるのは、日常的に備蓄を増大させている場所。
あるいは提督と提督代行の奇行、『やれないわけないですよね』と冷笑を浮かべる上司がいる場所。
『高天原』のみ。
各地からの出撃時期の見直し要請に、高野は頭を抱えた。
時間がないのは、誰もが解っているが動けない。
相手の攻撃が、次はいつ、どの位置に向けられるかは解らない不安があるのに。
『高天原』から弾道軌道で向かった偵察機は、大気圏ギリギリのラインで撃墜されたらしい。
幸いというか、パイロットの妖精は宇宙服着用で脱出。そのまま秋津洲に保護された。
では、秋津洲による直接の偵察はというと。
こちらも一定範囲に接近できないと回答が来ている。
対空射撃、それも衛星軌道上まで伸びる数が撃てる装備。
時間がないか。
『なので、秋津洲、いいから突っ込みなさい』
通信相手の言葉に、高野は一瞬だけ呆けた。
『ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』
『ディストーション・フィールドとクライン・フィールドを重ねて展開させて、相手の攻撃を続けさせなさい』
『鬼! 悪魔!!』
『相手にエネルギーを消費させ続けること。それが一番です』
『提督の馬鹿ぁぁぁぁ!!!』
『うるさい、どのみち超合金Zとフェイズ・シフトの二重装甲の上に、多次元結晶まで使っているんです。グランゾンの縮退砲か、バスターランチャーのゼロ距離射撃を想定した装甲に、遠距離で穴をあけられる攻撃がありますか?』
『あ、あれ、と』
『もし危ないと感じたら、例の装備―後から単独で上げた『あいつら』を起動させなさい』
なにやら危ない話が流れているが、高野は聞き流すことにした。
『まあ、テラさんなら遠距離でも穴じゃなくすべて消しますけど』
『あるじゃないですかぁぁぁ!!!』
もっと危ない話が出てきたので、高野は意識を切り替える。
秋津洲によって最も警戒する攻撃が防げ、しかも時間が稼げるのならば。
「こちらの歩調はできるだけ早く整える。そちらだけでも、先行するか?」
『はい。出来るだけ数を減らしておきます』
「頼む」
通信を閉じて、高野は深々とイスに腰掛ける。
海軍の艦艇の準備は、ほぼ完了している。
弾薬も備蓄庫にあるものは、すべて持ち出した。
本当に、この出撃で使い切る。後に残ったのは軍人と、動かない艦艇か。
あるいは、全滅か。
「どちらにしろ、やるべきことは変わらない」
小さく呟き、高野は席を立つ。
椅子に座っていては、勝てる戦も勝てない。最後の最後まで、不備がないか確認してこそ、勝てる。
戦争の勝敗は、それまでにどれだけ準備できたか、だ。
時間稼ぎは、秋津洲が行っている。
常に攻撃されている恐怖は、相当なものになるだろう。
しかし、動力炉も、フィールド・システムも、すべてがナノマシンによる自己修復が可能。
ありあまるエネルギーによりナノマシンは過剰なほど増殖中。
増えすぎたナノマシンが瞬時に損傷部分に張り付き、常に完全な状態へと戻していく。
自己保存システムと名付けられたそれは、秋津洲を完全に支え続ける。
明石がここまで『サイレント騎士団』の技術を扱えるとは、当初は考えていなかったが、嬉しい誤算だ。
誤算なのだが、嬉しい反面で怖いこともある。
「秋津洲には使っていいと言いましたが、使って本当にいいものかどうか」
作れるなら作ってみようと製造したものは、途轍もなく凶悪になってしまったのだが。
しかし、だ。秋津洲をおとりに使っている以上、広域の探査は不能になってきている。
相手の攻撃により磁場と重力場が乱れている。
センサー類は多次元系以外は使用不能に近い。
遠距離の探査で影は見えるが、正確な数の把握は難しいだろう。
相手がもしこの事態に気づいていたなら。
「攻撃してくるでしょうね。さて、と。こちらの戦力は有限、対応しなければならない海域は広大。普通の指揮官なら投げ出しているでしょうね」
クスリとルリは笑う。
状況は悪い方へ転がるもの。想定したことが裏切られるなど日常茶飯事。
千差万別の戦場において、いかに情報を集め敵の出方を知り、その先を潰していくかは、指揮官と参謀の腕の見せ所。
「というわけで、大淀。やりますよ」
「説明してください、まずは最初に」
溜息をついてくる彼女に、ルリは首をかしげた。
「敵が攻撃してくる。こちらの広域探査は使えない。ということは?」
「事前情報を基にした敵艦隊への強襲ですか?」
「いいですね。護りに入るよりは私の好みです。相手側の配置も秋津洲が事前に確認しています」
まあ、動いてはいるでしょうが、とルリは口の中で言葉を転がす。
敵側の最終目標地点が、恐らく日本だろう。これまでも深海棲艦は日本本土を目指してきた。
不気味なほど一点を。
理由は後で調べればいいか。
敵の目標が解っているなら、網は張りやすい。
問題は艦娘の配置をどうするか。
「優先目標撃破に艦娘の大多数を配置するべきでしょうね」
「確かに優先目標撃破が第一ですが、北方と南方からの敵艦隊に対しては誰を当てますか?」
「そうですね」
誰、というか。
艦隊編成をどうするか、だが。
二方面に対して三艦隊ずつ。理想でいえば吹雪と暁、瑞鳳と大和は優先目標にぶつけたい。
電と清霜も、だ。装備品の観点から、扶桑達元第一特務艦隊は、出来れば北方に配置したい。
耐寒装備と耐熱装備といえば、どちらかというと耐寒の方が少ない。
冷却とか楽ですね、と考えて北方での装備が優先されることが多いため、今回は暑さや熱対策を優先していたのだが。
いざとなれば秋津洲による衛星軌道上から砲撃すればいい、なんて考えていたのは怠慢だったらしい。
「色々と考えたのですが、大淀。北方艦隊の編成は扶桑達を中心にして、三艦隊の総旗艦は扶桑に任せます」
「はい。彼女なら大丈夫でしょうね」
「で、南方なのですが・・・・」
考えに考え抜いた結果、出された名前に大淀は難色を示す。
「提督、彼女にですか? 確かに実力的には問題ありません。装備の面でも『電星―メイヴ』と、『ホークアイ』を使えます。しかし、彼女は一度も旗艦をしたことがありません」
「確かにしたことはないですが、それなりに出来ると思いますよ」
はっきりと言い切ると、大淀は少しだけ迷った仕草をした後に、深く息を吐きだす。
「補佐には、赤城ですか? それとも金剛?」
「いいえ。南方攻略の空母は彼女のみです。後は重巡と駆逐艦での電撃戦で行きます」
「危険すぎませんか?」
「大丈夫ですよ」
自信に満ちて言い切ると、大淀は『本当ですか』と疑いの目を向けたという。
三方面における作戦など、昔の日本からすれば『戦力の消費』でしかないと一笑される。
戦力分散は戦術の中では、愚の骨頂。集中戦力こそ、敵を食い破る方法として明記されている戦術本もある。
しかし、今回のルリの作戦は三方向への出撃。
そのため、本部―『高天原』にて総括する大淀とルリ。
最優先目標攻撃部隊を率いる総旗艦吹雪、補佐に暁と大和。
北方攻略艦隊は総旗艦が扶桑、補佐は全員の議論の結果、長門が受け持つことになった。
一方、南方攻略艦隊の総旗艦は、というと。
会議室へ向けて、全身に怒りを纏わせて歩き続ける。
彼女の後ろには補佐としての妙高がついているが、こちらは普通。怒りもしなければ呆れてもいない。
ただ、『やっとか』という思いはあった。
元々、出来る子だった。
最初の頃は失敗ばかりではあったが、努力家で勤勉。普段はおちゃらけているが、その観察眼は長門をして『私の代わりでもいいのでは?』といわせるほど。
考えない、姉に合わせる、姉の言ったことを護る。
一見では馬鹿の考えなしに見えるが、合わせるということがどれだけ大変かを多くの艦娘が知っている。
誰と組んでも、誰を相手にしても、周りの仲間に合わせて変幻自在に戦い方を変えられる柔軟性。
空母の艦娘でありながら、暁並に他の艦種の戦闘や装備の知識を持ち合わせた博識さ。
これでいていざという時の決断力もある。
だというのに、今まで旗艦をしたことがない。
優秀すぎる姉に隠れて、その実力が『高天原』内部でも広まっていないためか、それとも本人が姉たちから離れたくなくて隠しているからか。
とにかく、妙高としてはこの人選は納得できるものなのだが。
バンっと勢いよく会議室のドアを開いて、彼女は怒鳴りこんだ。
「提督! なんで私を加賀姉たちと分けたの?!」
翔鶴型航空母艦二番艦『瑞鶴』。南方海域攻略総旗艦は、全身で怒りを纏ったままルリの前に突き進んだ。
「代行です」
室内にはすでに総旗艦とその補佐がいたが、彼女には見えていないようだ。
「私と加賀姉達を分けたのはなんで?! 南方海域の空母が私一人ってどういうこと?! 戦艦の攻撃力が必要になったら、どうするの!?」
「理由にはいくつかありますが、まず第一に南方の海図が問題です。島々が点在しており、ジャングル内部に基地が構築されている可能性が高い。ならば航空攻撃による発見及び爆撃が最も効率がいい」
「対地砲撃による基地破壊は? 航空攻撃が効率がいいなら空母の数を増やして対応しないと」
「第二に、航空機の耐寒装備が不足しています。これはすべて北方攻略艦隊に装備させます。それで南方は最大搭載数を誇る空母一隻で十分、後は駆逐艦と重巡による電撃戦で仕留める」
「矛盾してる。電撃戦は海上にて行われるもので、陸地内部への攻撃には適していない」
「敵基地の破壊は、瑞鶴、貴方のみで行います。残りは敵艦隊の撃破及び港湾施設の破壊です」
「だから、矛盾してるって! いくら装備に対地魚雷や重力弾頭を使った主砲をもってしても、重巡三に駆逐艦十四じゃ破壊できないじゃない」
次々に議論が飛び出す様を、大淀は驚きの顔で見ていた。
けれど、驚いているのは彼女だけで他は呆れている。
「可能ですよ。貴方の『第零種』、八隻中二隻に搭載しているものは何ですか?」
「それは・・・」
瑞鶴が言葉に詰まる。
彼女の第零種装備の中でも、二隻に搭載されているのは扶桑型の第一主砲と同じもの。
プラネタルサイト砲弾使用のグラビティ・カノン。それに浸食弾頭を搭載したVLS。
「全員が第零種装備。後は何が必要ですか、瑞鶴?」
「加賀姉」
「はぁ、貴方はそろそろ姉離れしたらどうですか?」
「無理」
呆れているルリに対して、彼女はあくまで譲らない。
八丈島鎮守府に着任した時から、彼女は真っ直ぐに加賀の背中だけを追い掛けてきた。
彼女に追いつきたくて、彼女の隣に並びたくて、あらゆるものに手を出したのが瑞鶴だ。
今の彼女を構成しているもので、加賀以外にとつけられると何も残らないくらいに、彼女は姉に依存している。
けれど、依存はしているが、精神的な支柱にしていない。
加賀と一緒のほうが実力以上の力を発揮できるが、一緒にいなくとも実力は発揮できる。
「決定事項です。提督命令と伝えてもいいですよ」
「ッ!」
グッと瑞鶴は、唇をかみしめた。
こうなったルリが命令を撤回しないのは、長い付き合いなので解る。
「他に誰か不満はありますか? では、戦術会議を始めます」
静かにルリは語りだす。
それを聞きながら、妙高はそっと瑞鶴に目線を向けた。
悔しそうで怒りが収まらない。
けれど、話は聞いているようなので、後で何か言ってあげるべきか。
「以上です。では、各自準備を」
会議が終わり、真っ先に動いたのは瑞鶴だった。
予想通りか。
扉を勢いよく開けて飛び出す彼女を追いかけた妙高は、室外へ出ると同時に自分の心配が杞憂だと気づく。
廊下の中程のところ、瑞鶴の背中が見えた。
彼女の前には、加賀が立っている。
「加賀姉」
すがるように告げる彼女に、加賀はただ真っ直ぐに見詰めている。
「貴方ならできるわ」
言われたのは、たった一言。
けれど、瑞鶴にとっては万の言葉よりも重い物。
慕っていた姉が、何時も傍にいてくれた存在が、『任せた』と意味を込めた言葉に、泣き言など言えない。
そっとすれ違う加賀は、その後に何も言わない。
けれど、振り返って背中を見送った瑞鶴は、ただ一言だけを返す。
「うん、解った」
彼女の顔に悲しみも怒りもない。
あるのはただ、自信のみ。
最初に会ったとき、とても小さな幼子に見えた。
護ってあげたいと思い。助けてあげたいと感じたから、他の鎮守府のようにしないために多くの言葉をかけた。
訓練も一緒に行い、失敗や間違いには見本を示して教えた。
何度も挫けて泣きだした時は、泣きやむまで傍にいた。
知識を教える時は自分なりに解釈をつけて。
実技を扱う時は、まずは自分がやってみせてから、細かく伝えてやらせてみた。
出来た時は、大げさなくらいに褒めてあげた。
出来なかった時は、一緒に出来るまで訓練した。
妹がいない、生まれてこなかった自分にとって、妹同然の艦娘。
加賀型五姉妹の四女、瑞鶴。
総旗艦に選ばれたと話を聞いた時、きっと反発して怒鳴るのはすぐに予想がついた。
どう慰めようか、どう励まそうか。
色々と考えていたが、実際に彼女を見てしまうと、言葉は一つだけしか浮かばなかった。
彼女が目指す姉である自分が、彼女と一緒にいた自分が、彼女に対して伝えることはたった一つ。
『貴方は私の誇りだから、任せました。貴方ならできるわ』、と。
返ってきた言葉は、たった一言。
でも、込められた意味なら解る。
誰よりも長くあの子を見てきた自分だからこそ、一言に込められた意味が解る。
『加賀姉がそう言うなら、やれるよ。うん、解った』。
「少しだけ寂しいわね、蒼龍、翔鶴」
廊下の角のところで待っていた二女と三女に声をかける。
「一人立ちの時はそうですよ、加賀姉さん」
「瑞鶴も立派になって。ありがとうございます、加賀姉様」
「あの子の実力よ。私は道を示しただけ。さあ、私達も準備をしましょう。サラトガが弓を持ち出す前に」
「あの子が巣立てば、もう安心なんですけどね」
「どうして弓を持っていこうとするのかしら?」
そんなのはこっちが聞きたい、と加賀は思った。
失敗ばかりの日々だった。
成功したことなんて、一つもない。
けれど、誇れるものはある。
今も、それだけは護っているから。