艦隊これくしょん 狂乱『完結』   作:サルスベリ

31 / 52

少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
 
迷走中、暴走中、忘れること多数。

落とし物に注意?



矜持にかけて4

 

 深く息を吐く。

 

 何処までも視界を埋める中を進むのは、とても神経がいることなのだが。

 

 自分の前を進む彼女には微塵の揺るぎもない。

 

 深い闇の先まで見通しているような姿に、頼もしさではなく寒気を感じてしまうのは、自分の技量が低いためかだろうか。

 

「龍鳳、大丈夫?」

 

「え、はい。大丈夫です、大鳳さん」

 

「ならば、前を向いていましょう。後ろや左右から敵が来ることはありませんから」

 

「何故ですか?」

 

 ここは敵海域のど真ん中、何処から敵が来てもおかしくないのに。

 

 偵察機は確かに飛ばしているが、このブリザードの中で何処まで有効か。

 

「大丈夫ですよ」

 

 確信を持って告げる大鳳に、龍鳳は疑問を向けるのだが、答えは出てこないまま。

 

 北方攻略艦隊の編成は。

 

 第1艦隊、扶桑、山城、北上、大井、睦月、如月。

 

 第2艦隊、長門、陸奥、ウォースパイト、白雪、響、白露。

 

 第3艦隊、大鳳、龍鳳、グラーフ、高雄、愛宕、時雨。

 

 現在、白雪が艦隊から離脱中。

 

 理由は知らされていないが、『露払いのため』と聞かされている。

 

「総員、右側から大きめの漂流物が来ます。注意を」

 

 扶桑からの指示に艦隊の進路が変更される。

 

 まただ、この海域に入ってから漂流物が来て、艦隊の進路が変更になることが多い。

 

 何だろう、と龍鳳が目を細めると、巨大な『ル級の右側の艤装』だった。

 

「え?」

 

「ああ、うん、予想通りだね」

 

 呆れたような響の声に、龍鳳は何がと質問しかけて、出来なかった。

 

 艦隊の進路上、ぼんやりと人影が見えた。

 

 敵かと身構えると、高雄が違うと手で制する。

 

「味方です。白雪さん、お疲れ様でした」

 

「はい」

 

 影は味方だった。

 

 味方なのだが、妙な怖さが漂っているように見える。

 

 右手には逆手に持ったナイフ。艤装は機関部と推進機だけで、砲も魚雷も搭載していない。

 

「この先の敵は粗方、壊してきました。進路上、問題ないです」

 

「お疲れ様。後方に下がって少し休んでください」

 

 扶桑と何かやりとりをしているが、どういうことだろう。

 

 白雪は、確か平均点の能力しか持っていないのではなかったか。

 

 姉が吹雪だから、ひょっとしたらとんでもない能力を持っていたのか。

 

 疑問が龍鳳を埋め尽くすが、答えは得られないまま艦隊は進む。

 

「ちなみに、何分割ですか?」

 

「十六分割で統一しました」

 

 意味は解らない。

 

 理解してしまったが、解らないままの方がいい。

 

 軽く気持ち悪くなりつつ、龍鳳はそう決めて、疑問を封じ込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇は深くて辛いもので、心まで消えてしまいそうなほど底がない。

 

 けれど、闇ではなくても視界が塞がれてしまえば、それは光でも同じかもしれない。

 

「右舷、敵影なし」

 

 白露から声が上がる。

 

「左舷問題なし」

 

 時雨からも同じように報告が来る。

 

 白雪の露払いのためか、今のところは敵に遭遇していない。

 

「遭遇戦はなしか、順調といえるな」

 

 長門の言葉に、誰もが頷く。

 

 はっきり言えば、この北方艦隊の編成は『短期決戦』型だ。

 

 航続距離は問題ない。推進機の推力ももちろんだ。

 

 しかし、武装がかなり危うい。

 

 長門と陸奥、ウォースパイトが搭載しているのは五十六センチ連装砲。砲弾はその威力のために搭載数が限られている。

 

 大鳳、龍鳳、グラーフの艦載機も遠距離ではなく近距離の強襲用装備が主流であり、対空時間を削って瞬間的な推力に特化させたエンジンを搭載している。

 

 高雄と愛宕の兵装も高威力の光学兵装と、特殊艤装。

 

 駆逐艦達も時雨、響、白露が魚雷の大口径化に伴い搭載数が少ない。

 

 睦月と如月は、そもそも魚雷の種類が多いため、一種類ごとの残弾は一桁に留まる。

 

 北上と大井は同一魚雷でできるだけ纏めてはいるが、数には限りがある。

 

 唯一、白雪だけが艤装がなくなっても敵を倒せるが、それも奇襲による場合のみ。

 

 扶桑と山城に関してはフル装備であるが故に、攻撃時の威力や範囲に注意を払う必要性があるため、一撃一撃ごとに演算を必要として、妖精たちがオーバーヒートしそう。

 

 ブリザードの中なら奇襲で白雪が露払いして、敵の中心部に一撃を加えて離脱、後は大威力でのゴリ押し。

 

 冷静に思考ができると思わせて、力技ばかりの集団となっているため、ルリが戦術を与えられなかったから、ではない。

 

 ブリザードが悪化しており、気温もさらに下がっていく。

 

 艤装への影響も考えられるため、短期決戦を選択。

 

 優先目標攻撃艦隊から、削れるギリギリの高威力の攻撃を持つ艦娘を選出して。

 

 色々と考えて編成した結果、こういった編成になったのだが。

 

『・・・・・・扶桑、もし長引いたら遠慮なく撤退を』

 

『はい』

 

 送りだした時、提督はとても申し訳ない顔をしていたが。

 

「このまま、敵の本拠地に辿り着ければいいけど」

 

 陸奥の不安は、全員が思うことだ。

 

 ブリザードでこちらの姿は隠せる。

 

 一方で、こちらも敵の動きを把握しきれない。

 

 航空機は飛ばせない。

 

 レーダーもこのブリザードでは、妨害されて正確性はない。

 

 念のため、高雄、愛宕、大鳳、扶桑、長門の五隻には秋津洲にも搭載されている三次元レーダーを含めた探査機器を搭載しているが、出力に比例するタイプなため、効果範囲は狭い。

 

 視界不良、探査機も不良。

 

 となると敵を知る術は、昔ながらの方法になる。

 

 気配を読む。

 

『大丈夫でしょう。貴方達には色々と特訓させてきましたし、他の鎮守府との訓練もさせてきました。その上で、地獄も見せたつもりなので』

 

 出来なければ、再訓練です、と提督は語っていたが。

 

「地獄とは、なんだろうな」

 

 ふと思い出した長門が呟くと、反応はそれぞれだった。

 

「眷獣十二体の総攻撃」

 

「次元回廊による強制破壊」

 

「伝説の武器による雨」

 

 全員が蒼白になって答えてきた。

 

 誰もが思い出にしたくない、脳を損傷してでも忘れたい記憶なのだが、どうしても忘れることができない。

 

「考えてみると、テラさんの一撃は随分と優しいね」

 

 響のため息混じりの言葉に、誰もが大きく頷く。

 

 気がついたらベッドの上、あるいは入渠中。

 

 記憶もなくトラウマにもならない。経験にもならないが、怖い思いをしないだけ優しい一撃なのだろう。

 

「全行程の三分の二を消費、そろそろ敵泊地です」

 

 扶桑が全員を見回す。

 

 誰もが緩んでいた気持ちを引き締め、それぞれの艤装に意識を向けた。

 

「では・・・・・・・突撃」

 

 扶桑の第一主砲から、プラネタルサイト砲弾が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定通り、作戦通り。

 

 最初の一撃でブリザードはすっかり消え去り、敵泊地は青空の元に。

 

 警報が鳴る。

 

 敵の初動が素早く動きだす中を、走り抜ける影が二つ。

 

 白雪と時雨がまず飛び出す。

 

 推力最大、速力一杯。それぞれが両手に持った武装を構え、走り抜ける。

 

「砲撃しないんですか!?」

 

 走り抜けた二人の後ろには、残骸となった深海棲艦が浮かんでいたが、思わず龍鳳が叫ぶ。

 

「こっちのほうが速いので」

 

「うん、こっちのほうが速い」

 

 簡単に言ってくる二人に、艦載機を構えながら龍鳳が少し顔色を落とす。

 

「知らなかった」

 

「白雪さんは本来、暗殺者スタイルなのですが」

 

 隣で艦載機を構える大鳳に、『ええ~~』と言葉を出す龍鳳。

 

 後ろから、視覚の外から、確実に相手の息の根を止める暗殺者スタイル。

 

 だからといって、正面からぶつかって勝てないわけがないのが、白雪の強さだろう。

 

 一方の時雨は、両手の武装のブレードを使っての乱撃。

 

 一体につき三回は斬りつけているのに、速度では白雪に劣らない。

 

「手数を持って戦うのは、時雨の戦い方だったな」

 

 砲撃を開始した長門が、感慨深げに呟く。

 

 彼女もあれで最初はとても苦労したらしい。

 

 攻撃が軽い、精度が上がらない。

 

 白雪のように正確に、何度やっても同じように攻撃が当たらないため、悩んでいた時期があった。

 

 解決したのはテラの一言。

 

 『え? 精度も攻撃の軽さも関係ないじゃない。ようは沈めればいいんだよ。素早く確実に』。

 

 笑顔で答えた彼に押されて、時雨は今の戦い方を見出したらしい。

 

 速く確実に、最小限の動きで最大限の攻撃を叩きこむ。

 

 防御も回避も考えずに、ただ真っ直ぐに。敵の砲撃も魚雷も、すべてを斬り捨てる。

 

 魚雷艇を駆逐する艦。

 

 本来の駆逐艦はそういった意味らしいが、二人は『味方の進路を妨害する敵を駆逐する』駆逐艦だ。

 

 一方で、響と白露はというと。

 

「来たね」

 

「大量、大量」

 

 龍鳳、大鳳、グラーフの三隻の空母の最終近接防御艦。

 

 敵の魚雷も航空機も爆弾も砲弾も、すべてを駆逐する戦闘艦。

 

 航空機と爆弾を狙撃で破壊。

 

 迫ってくる魚雷を側面から蹴り上げて、破壊。

 

「私が一番!」

 

「はいはい、次が来たよ」

 

 気合を入れる白露に、響は合いの手を入れながらも周り中を注意する。

 

「あちらはまったくもって頼もしいな」

 

 長門が微笑みながら告げると、隣にいる陸奥が苦笑を返す。

 

「やっていることは、とても物騒だけれど」

 

「致し方ない。うち―八丈島鎮守府は元々が物騒だからな」

 

 出来た時から物騒なことが、一度もなかった日はない。

 

「総員、第四主砲を撃ちます。注意を」

 

「物騒の塊が本気を出すようだぞ」

 

 扶桑からの警告に、長門は不敵な笑みを浮かべる。

 

 バスターランチャー四門一斉射。山城の分も合わせての攻撃は、空間を歪ませて海を削る。

 

 盛大に上がる波濤の狭間に、侵食弾頭の雨あられ。

 

「さすがにこの武装はやり過ぎでは?」

 

「ぱんぱかぱ~~ん・・・・ってわけじゃないわね」

 

 高雄と愛宕の艤装の一部、『霧』と同じ仕様にされた部分から放たれた暴力は、敵泊地を大いに削る。

 

「大井っち、私達の攻撃って必要かな?」

 

「北上さん、作戦は非常に冷酷に、そして徹底的に容赦なく、が提督のモットーなのでは?」

 

「・・・・・・・・・さすがにないよ、大井っち。たぶん」

 

「ええ、たぶん、きっと・・・・ないと信じてますよ、提督」

 

 何故か、泣きそうな顔で明後日の方向に顔を向ける二人がいたが、誰もが見ないふりをする。

 

「暁さんの紅茶が飲みたいデス」

 

「しっかりしろ、ウォースパイト。おまえも『うち』は長いだろうが」

 

「だからこそです」

 

 砲撃しながらも、全身で脱力感を出す、英国艦娘。

 

「何故、日本の艦娘なのに、あんなに見事に」

 

 うっとりとするウォースパイトに、『こいつに砲撃を叩きこんだらだめだろうか』と長門は自問する。

 

 短期決戦。

 

 残弾が気になる艦隊編成。

 

 それははっきり言えば、異常な火力と過剰な戦力を持った艦隊が、少ない敵戦力を蹂躙することで。

 

 ある意味で、弱い者いじめに似ているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北方海域の解放完了。

 

 作戦完了の通信が入ったとき、ルリはモニターを睨みつけていた。

 

 日本海軍はようやく、その総戦力が動き出した。

 

 やっとか、あるいは遅いというべきか、両方か。

 

 ルリは、無言を通している中、思考を続ける。

 

 後ろに控えている大淀は、一言も話すことなく、背中を見つめる。

 

「別にかまいませんね。さてと、では北方と南方の艦隊が戻り次第、補給と整備を。万が一の時は予備戦力として投入します」

 

「はい。しかし、提督、それは過剰戦力では?」

 

 現在、『高天原』のほとんどの戦力が最優先目標へと進軍中。

 

 敵の妨害は多いものの、今のところは損傷を負った艦娘はいない。

 

 補給の問題も、速吸や瑞穂に搭載されている分の消費量は一割以下。

 

 ここに日本軍が加わるなら、もう蹂躙戦になるのでは。

 

「どうでしょう? 大淀、今までの二つの海域でのことで、気づいたことはありませんか?」

 

「気づいたこと、ですか?」

 

 言われて報告書に再度、目を通していく。

 

 電文形式で送られた内容は、撃破した深海棲艦の武装まで細かく記されており、後方にいながら前線にいるように錯覚する。

 

 敵の数は多いが、問題になるほどではない。

 

 進路上に障害はない。

 

 武装は今まで通り。

 

「今までと同じ?」

 

「はい、そうです。実は、あのアメリカへの攻撃以後、使用された形跡がないんですよ」

 

 言われて、気づいた。

 

 超重力砲も、重力子エンジンも、波動エンジンも、使用されてはいない。

 

 いや、今も秋津洲は攻撃にさらされているから、完全に未使用ではないだろうが。

 

「敵は一隻のみ、その武装を持っている?」

 

「さて、どうでしょう。けれど、持っていないと楽観して進むより、持っていると覚悟して進む方が、いざという時の対処がスムーズに進みます」

 

「提督は、何を予想しているのですか?」

 

「決まっていますよ」

 

 彼女はそこで振り返る。

 

 温和な笑みでもなければ、無表情でもない。

 

 ただ、冷たい、凍りのような笑みを浮かべて。

 

「最悪の事態です」

 

 クスリと笑う彼女に、大淀は思う。

 

 自分は今までこの人の最も近い場所で見ていたつもりで、彼女の本質をまったく理解していたかったのではないか、と。

 

 そう、背筋に落ちる冷たい何かと共に、痛感した。

 

 

 





強くなったと言われて、彼女は首を振る。

誰にも負けないと言われ、彼女は違うと否定する。

理由?

彼女たちはまだ、彼の影さえ捕まえられないから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。